STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
「……ン」
緩やかな陽射しが躰を撫でる瀟洒なベッドの上、
美女は一糸まとわぬ姿で目を覚ました。
僅かに身につけているのは豊かな双丘で鈍い光沢を放つロザリオのみ。
昨夜の深酒の影響か、 乱雑に脱ぎ散らかした衣服が周囲に散らばっており、
若干頭も重い。
「お目覚めかい? 我が微睡みの淑女、マージョリー・ドー」
視線を向けた先、 ウォールナットのテーブルの上に置かれた
彼女の被契約者である狂猛な王が軽佻な声で呼び掛けた。
いつもの朝の、 いつもの光景。
シルクのシーツを胸元に手繰り寄せ、
美女は誰に言うでもなく独り言のように呟く。
「昨日、 本当に久しぶりに、 ルルゥの夢をみたわ。
もう100年以上、 アノ
言いながら、 物懐かしげに胸元のロザリオを弄る。
「そりゃあ当然だろ。
オメェさんが本格的にフレイムヘイズとして名を馳せたこの100年間。
寝る間も喰う間も惜しんでブッ潰し咬み千切る、 正気じゃ生きちゃいらんねぇ、
そんな殺し合いを毎夜繰り広げて来たんだからよ。
後ろを振り返る余裕なんぞありゃしねぇ。
そうじゃなかったら生き残れねぇ
共に凄惨なる修羅の
珍しく正鵠な物言いをする。
「 “アノ時” は気づかなかったけれど、
ノリアキと同じ 『
出来れば一度、 視ておきたかったわ。
きっと、 アノ娘の
それは、 綺麗だったでしょうね……」
夢の所為か幾分感傷的になっている己のフレイムヘイズを
マルコシアスがいつもの調子で促す。
「ほれ、 今日は特別に朝っぱらから “清めの炎”
カキョウインとの待ち合わせまで後30分もねーぜ」
そう問われた美女は一度その深い菫色の瞳を閉じた後、
やがて意を決したようにもう一度開く。
「ノリアキを、 コレ以上巻き込むのは止めましょう。 マルコシアス」
「アァ!?」
真っ直ぐな視線で告げられた想わぬ要望に、 紅世の王は頓狂な声をあげる。
「おいおいおいおい、 まさか見限るってぇのか?
確かに女みてーにヒョロい奴だが、 結構役に立ってたじゃねーか。
状況に応じた判断力も機転も、 今までの案内人とはダンチだし
オマケに妙な
「
(本当に)珍しく、 マージョリー以外の者を称賛する王の声を彼女が遮る。
継いで、 憂いを込めた瞳で告げる。
「これ以上、 一緒にいたら、 きっと……」
そこで言葉に詰まり、 美女は微かに紅潮した頬を折り曲げた膝へ
シーツ越しにくっつける。 寝てる間に解けた髪がサラサラと胸元へ流れた。
「おいおいおいおい、 まさかあのヤローに岡惚れしちまったってんじゃあねーだろーな!?
逢ったのは昨日だし、 第一オレ達ァアイツの好きな喰いモンすら知らねーんだぞ!?」
「……」
そう問われた美女は何も答えず、
代わりに涙ぐんだような表情で悪い? とグリモアに訴える。
画板を幾つも折り重ねたような大形な 『本』 が開き、
そこから深い群青色の炎が溜息のように吹き出した。
「……やれやれ、 マジかよ? フレイムヘイズきっての 『殺し屋』 が、
あんな女みてーな人間の男に骨抜きにされちまうとかよ。
全く以て笑い話にもなりゃしねー」
そう言うとグリモアの内部から鉤爪を持つ前脚が一本出現し、
面倒そうに 『本』 の革表紙を掻く。
「でもまぁ、 それならソレで別にいーんじゃねーのか?
オメーが気に入ったンならそのまま連れてっちまえばよ。
どこぞの 『色惚け』 じゃあねーがフレイムヘイズや徒が
“ミステス” 囲うなんてこたぁ珍しかねぇし、
案外あのヤローは遣えると想うぜ。
オレもオメーも結構熱くなるタチだから、
緩衝材として一人位あーゆーヤツがいてもよ」
「……」
どうした事か今日は茶化さず真剣にそう自分に忠告するマルコシアスに、
マージョリーは同じ仕草のまま無言で応じる。
ソレはもう、 考えた。
もし本当に、
事実昨夜酒に戯れている時には、 もう八割方そうしようとも想っていた。
でも。
でも……
「怖い、 のよ……失うのが。 大切な誰かが、 眼の前から消えてしまうのが。
その相手が、 優しければ優しいほど。 私を、 想ってくれればくれるほど――」
「……」
今度はマルコシアスの方が、 彼女の独白を聞きながら無言で応じる番。
「もう、 あんな “痛み” には、 堪えられそうにない。
あんなに、 辛いなら、 あんなに、 苦しいなら、 ソレなら……」
脳裡で甦る、 栗色の髪の少女。
満面の笑顔で、 自分を呼ぶ優しい声。
「最初から、 誰もいない方が良い……!」
呻くようにそう言った後、 美女は剥き出しの素肌を抱え込み
俯いたまま肩を震わせる。
その様子をマルコシアスは黙って見つめ、
マージョリーの想像を絶する心の疵の深さを改めて実感した。
彼女と契約して以来、 それからの血で血を荒らす殺戮の日々の中で
少しはその疵も風化したと想っていたが、
どうやらソレは大いなる誤解というヤツだったらしい。
寧ろ、 更に悪化していると見るべきか。
昨日の、 アノ男との出逢いにより。
「……」
厳かな仕草で、 嘗て人の
俯くマージョリーを見据えていたマルコシアスは、 やがておもむろに口を開く。
「おいおい、 随分ツレねー話だな?
我が愛憐のデンドロビューム、マージョリー・ドー。
オメーさんにゃあ、 オレがいるだろ?」
「……ッ!」
伏していた顔を、 咄嗟にあげるマージョリー。
いつもの煩い銅鑼声ではない、 優しく包み込むような、 美しい男の声。
底すら無い絶望の淵に瀕していた自分に降り注いだ、 アノ時と同じ声。
そんな自分の心情など意に介さず、 マルコシアスは続ける。
「フン、 まぁ結局いつも通りに戻ったってだけか。
無敵のオレサマ達には、 仲間もミステスも何もいらねーってかぁッ!?
ヒャーーーーーーーッハッハッハッハッハァァァァァァ!!!!!」
今度はいつも通りの銅鑼声で、 悲しさも寂しさも吹き飛ばすように、
異界の魔獣は高らかに笑う。
「……」
ソレに連られるように、 美女の口唇にも柔らかな微笑が浮かんだ。
緩やかな陽光がその美貌を照らす中、 やがてマージョリーも静かに口を開く。
「この先、 何が在るかは解らない。
でも、 最後まで、 一緒よね? マルコシアス」
「今更訊くんじゃあねーよ! 何が在ってもオメーの傍から離れねぇ!
一生付きまとって一番傍で騒ぎまくってやっから覚悟しときやがれッ!」
革表紙をバタバタ鳴らしながら狂声をあげ続けるその優しい狼を見つめながら、
(ありがとう……私の…… “蹂躙の爪牙” ……)
本当に静謐な声で、 マージョリーは一度だけそう呟いた。
微かに潤んだ瞳を美しく彩色された指先で拭い、
美女はベッドの周りに散らばったタイトスーツの上着に手を伸ばす。
その胸ポケットからヒラリと落ちる、 一枚の写真。
ソレを眼に止めた刹那、 美女の全身がザワめいた。
(……)
凍ったような瞳の色で彼女はソレを拾い上げ、
熱、 い。
心臓の鼓動が、 破裂する程に高鳴っていくのを感じた。
(そうか……“おまえの”……所為か……)
正常な思考はソコで跡形もなく砕け散り、
ただ一つの狂おしく兇暴な感情だけが彼女の存在を充たしていく。
(私からアノ娘を奪ったのも……私がフレイムヘイズになったのも……
そして……私からアイツを奪うのも……ッ!)
脳裡にフラッシュ・バックする、 幾つもの光景。
ソレと同時に爆発する、 魂の叫号。
“全部全部!! 『
裸身の美女を中心に、 部屋全域を覆い尽くす程に迸る群青の火走り。
瀟洒な空間をジリジリと灼く蒼い
復讐の
「おいおいおいおい! いきなりどうした!?
ンな
まさかッ! また 『映って』 やがんのか!?」
“遠隔念写能力” スタンド、 『
念写された対象が
無論その存在が消えれば対象は写真の中から消失するが、
(本来有り得ないコトではあるが)もし再び現れれば、
当然スタンドは同じ 「象」 を結ぶ。
ソノ 『本体』 の、 正確な 「位置」 さえも同様に。
現在のマージョリー、 マルコシアス両名に、
このスタンド能力を正鵠に把握する術は無い。
しかし、 復讐の
過程など何の意味も成さずその 「結果」 のみが存在すれば充分。
美女の裡で、 そして全身で、 コレ迄に無い程の勢いで逆巻く、 狂気の焔。
破滅への
【2】
従業員と財団関係者以外は立入禁止のホテル屋上。
フェンスで仕切られていない中央部にヘリポートがあり、
その周囲は管制塔や気象観測機器、 巨大な衛星アンテナ等が天を挿す形で屹立している。
上空を吹きつける強烈な風が、 承太郎の学ランとシャナの長い髪を靡かせた。
忙しない朝食の後、 ラミーを伴ってこの場所に赴いた二人は
その予期せぬ来訪者の言葉を待つ。
突風に帽子を飛ばされないように手で備えながら、
鈍色のステッキを携えたその老紳士はやがて厳かに口を開いた。
「一日振りだな? 空条 承太郎。 昨日は色々と世話になった」
その彼の言葉に気まずそうなカンジで眼を細めた無頼の貴公子はブッきらぼうに返す。
「よせよ。 結局逃がしちまったんだ。
そのコトだけでもアンタに伝えるべきだったが、
色々あっていけなかった。 すまねぇ……」
そう言って学帽の鍔で目元を覆う。
その隣で何故かシャナが、 頬を紅潮させて不機嫌そうに押し黙っていた。
「改めて初めまして。 “天壌の劫火” のフレイムヘイズ、 “炎髪灼眼の討ち手”
それとも、 シャナ、 と呼ぶべきかな?」
「正確には、 『空条 シャナ』 」
その指先を緩やかに逆水平へと構え、 ラミーを差しながら少女は訂正を促す。
「フッ、 なるほど。 それは失礼した」
ラミーは承太郎を見て微かに笑い、 そして視線を移す。
シャナの胸元にあるペンダント “コキュートス” その裡に。
「本当に、 久方振りだ。 アラストール。
どうにも、 多大な迷惑をかけたようだ。
幾ら陳謝しても仕切れない」
「構わぬ。 我等は我等の使命に従っただけの事。
ソレに偶発的にだが、 此方の益になる事も在った」
「ほう?」
ラミーが再び視線を向けた先、 承太郎が訝しげに煙草を銜えていた。
「それより、 一体どうしたんだ? こんな朝っぱらからいきなりよ。
まぁアンタの方から来てくれた事で、 こっちの目的はヤり易くなったが」
そう問う青年に、 ラミーは厳かな微笑を浮かべながら返す。
「イヤ、 実はお別れを言いに来たのだ。
トーチもある程度集まったし、
何よりアノ戦闘狂共がこの地に現れた以上、
留まるのは得策と言えぬのでな」
少々意外そうな表情で、 承太郎は携帯灰皿に吸い殻を押し込みながらラミーに向き直る。
「大丈夫、 なのか? その、 一人でよ」
口調は無愛想だが、 しかし誰よりも自分の身を案じてくれている青年に
老紳士は穏やかな表情で応じる。
「フッ、 まぁそう心配するな。 私は確かに戦闘は不得手だが、
巧く逃げ切ってみせるさ。 これまでと同じように」
そう言ってラミーは一歩前に出る。
「君は本当に、 良い青年だな。 この地に渡り来て、
君のような人間と逢えたコトを嬉しく想う」
「!」
目の前に差し出された、 白い手袋で覆われたラミーの右手。
承太郎は何となく視線を背けたまま、 無表情でソレに応じる。
人間と紅世の徒との間に流れる、 奇妙に
「……」
その二人の様子を見つめていたシャナは、
ラミーの言葉をまるで自分の事をように嬉しく想えた。
「後は、 私達に任せておいて。 二度とアナタをつけ回そうなんて想わない位に、
徹底的に懲らしめておくから」
手を離した二人の間へ割って入るように、 少女は明るい声でそう告げる。
「そうして貰えると
さて、 心残りは尽きないがそろそろ失礼させて戴こう」
そう言うとラミーはヘリポートの離着場に向けて歩を進め、
その中心でこちらに向き直る。
「では縁在らば、 因果の交叉路でまた逢おう。
空条 承太郎。 そして空条 シャナ」
「「ッッ!!」」
承太郎とシャナが同時に息を呑む刹那、 もう既にラミーはその姿を火の粉に換えていた。
強風に吹き曝され一斉に舞い散ったその炎は、 深い緑色をしていた。
【3】
「さて、 振り出しに戻る、 ね」
「むう、 何という|疾(はや)さ。 既にもうこの街の海岸沿いにまで移動している。
空間転移系の自在法、 か?」
「……」
ラミーが消えた後、 シャナとアラストールが各々の心情を口にする。
だがそれよりも前から、 承太郎は胸に抱いたある違和感を既に演算し始めていた。
「本当。 スゴイ疾さね。 わっ、 もうまた別の場所に移動してるし。
『能力』 か “自在法” かまでは解らないけれど、
こんなに疾く動けるならそう簡単に捕まるわけない、 か。
なら尚のコト私達は戦闘狂のみに専念……」
そこでシャナは、 俯いたまま長考に耽っている承太郎に気がついた。
「どうしたの? おまえ? さっきから黙ってるけど」
「どうも釈然と、 しねぇな……」
やがて顔をあげた承太郎は少女を見据えるようにしてそう呟く。
同時にシャナ、 アラストールの両者はミエナイ引力に惹かれるが如く
承太郎に視線が釘付けになるのを余儀なくされる。
如何なる時も冷静で、 怜悧な知性に裏打ちされる
彼の研ぎ澄まされた 【洞察力】
ソレを発揮する際の独特な気配が、 彼の全身から寂然と感じられたからだ。
ソレがどれほど頼りになるモノかは、
今までの戦闘を通して二人は知り尽くしている。
「どうか、 した?」
シャナは胸の鼓動が高鳴るのを覚られないように、 出来る限り平淡な口調で訊く。
「……さっきのラミー、 本当に “モノホン” だったのか?」
「どういう、 意味?」
フレイムヘイズではない承太郎に、
『紅世の徒の気配』 を察知する能力は無い。
それは本人が一番解っている筈なのに、
確かめようがない事象を彼がわざわざ口にした事へシャナは小首を傾げた。
しかし承太郎はソレとは別の 「領域」 から紡ぎだした解答を、
確信を込めて言い放つ。
「前に花京院から、 単体では存在しない
“
「!」
唐突に話題が変わったが、 ソレがラミーの 「本性」 を解き明かす
重要な事実だと認識した少女は言葉を返す。
「でも 『
絶対の原則なんでしょ? ソレと矛盾してない?
複数の
「あぁ、 だから
そうだな、 スタープラチナを細かく
そのちっこい一体一体で構成されてるスタンドって言えば、 少し解るか?」
「う、 う~ん。 まぁ、 なんとなくは……」
シャナは心なし小さな顎を引いて、 上擦ったように応じる。
その脳裡で小さくなった無数のスタープラチナを想像して、 少し可愛いかもと想った。
「つまり、 さっきのラミーもソレと一緒で、
『本物ではあるが実体はその一部に過ぎない』 ンじゃあねぇか? って言いてぇのさ」
「むぅ……?」
無頼の貴公子が発したその提言に、 アラストールが反応した。
その彼の疑念を補填するように承太郎は言葉を続ける。
「オレよ、 一応警戒はしてたんだぜ。
いつその “女” が襲撃を仕掛けて来ても、 対応できる位には気を張ってた。
でも考えてみりゃあ妙な話だ。
いくら知り合いだからって、“常時追われてるこの状況で”
わざわざそんなリスクを犯してまでアラストールに会いに来ようとするか?
闇金で首が回らなくなったマヌケじゃあるまいし、
そこで承太郎は制服の内側から煙草のパッケージを取りだして火を点け、
回転した脳細胞を宥めつつも前にいる二人に思考する時間を与える。
「うむ。 確かにラミーを庇護する立場に在る我等を “保険” として、
蹂躙らが張っていたとしても不思議はないな。
自らは動かずとも、 宝具や自在法を用いれば造作もなき事。
何よりラミー自身がそのような
古き朋友との
客観性を欠いていた己を厳粛に諫め
アラストールは承太郎の意見を首肯する。
「 “にも関わらずラミーのヤツは来た” そして 『追っ手の女は来なかった』
そっから導き出せる結論は、 二つ」
紫煙を深く吹き先端の灰を落とした後、
銜え煙草のまま無頼の貴公子は厳かに二本の指を眼前で構えた。
「ラミーは、 別に自分を追ってるヤツが此処に来ても困らなかった。
或いは、 絶対に気配を察知されない自信が在った。
いずれにしても、 そこにいるのは 『自分の存在の切れっ端』 で、
最悪殺されても
「!!」
「う、 む……」
相も変わらない、 少ない材料から決定的な解答を導き出す
空条 承太郎の神懸かり的な洞察力に、
深遠なる紅世の王とフレイムヘイズが驚嘆の意を示す。
同時に。
「確かにッ!」
「それならば」
想わず口を開いてしまった両者が、 一度決まり悪そうに互いを見つめ
最終的に王の顔を立てシャナの方が引く。
「それならば、 瞬間的な移動よりも余程説明はつくな。
ラミー自身が蹂躙らを幻惑しながらも、 “
という事実にも繋がっていく。 何より彼奴の真名は “
膨大な量のトーチを余さず拾い集めるには、
確かに
「 “木の葉を隠すなら森の中” の、 ちょうど 『逆』 ね。
幾らトーチに寄生しててその存在の気配が薄いとしても、
でも数十体、 場合によっては数百体に分裂すれば、
捕まる可能性は限りなく低くなるわ。
何しろ 『全部本物』 なんだしね」
「紅世の徒ってのは、 自在法で
なら人混みに紛れて相手の包囲網から離れ、 その後で元に戻れば良いっていう寸法さ。
相手を攪乱しながら逃走経路を確保し、 尚かつ 『仕事』 もきっちり行う。
一石三鳥のヤり方ってワケだ。 見事なモンだな。
自分の特性と 『能力』 の遣い
そう言うと承太郎は、 根本まで灰になった吸い殻を携帯灰皿に押し込む。
「で、 具体的にこれからどうするの?」
最早己の嬉々とした表情を隠す事もなく、
少女は陽光に反照するライトグリーンの瞳を見つめながら承太郎に問う。
問われた彼も、 幾分余裕の生まれた表情で彼女に返す。
「そうだな。 取りあえずこの閉塞状態からは抜け出せそうだ。
まずこのまま街へ出て、 ラミーの “分身” を探す。
オレとオメーで手分けすりゃあ、 「一体」 くらいはすぐに見つけられるだろう。
時間と手間からして、 全部違う顔とは考え
後はそっからラミーの 『本体』 に連絡を取るか張り込むかして、
“統合” するその瞬間を待てば良い。
「
巧くすりゃあ背後から一発喰らわしてその間にラミーを逃がす事も出来る。
後はオメーの好きにしな。
その
「……」
高潔な微笑と共にそう告げられた少女は、
旋風に舞い踊る彼の気配に気怠い
スゴイ。
やっぱりこいつは、 本当にスゴイ。
ラミーがアラストールに会いに来ただけで、
そこから自分の想いも拠らない解答と策を
こうも簡単に引き出してしまうなんて。
コイツと一緒なら、 本当に本当に、
出来ない事なんて何も無いんじゃないかって想えてくる。
「承」
敬意と思慕を同時に含んだ声で、 シャナが彼に近づこうとした刹那。
(!!)
それを阻むように莫大なる存在の波動が、 少女の脳幹を直撃した。
「な……! な、 に……!? この……凄まじい力の胎動……!
まるで……この世のありとあらゆる憎悪が……一点に集まっていくみたい……ッ!」
「むう! これは紛う事なき “弔詞の詠み手” の波動! しかし一体何故!?」
一度感じたら忘れようがない、 この世の何よりもドス黒い憎悪に
王とフレイムヘイズが戦慄する中、
「どういう事だ!? その女が今! こっちに向かって来てんのか!?」
その存在を感知できない承太郎が二人に叫ぶ。
「ち、 違う。 どこかで、 ジッとしたまま、 動かない。 なのに……ッ!」
結果としては此方の有利に事が運んでいるにも関わらず、
とてもそう想うコト等出来はしない、
「バカかその女!? 相手の 『居場所』 も解らねぇのに、
テメーの気配全開にしたら逃げられちまうじゃあねぇか!」
「……『居場所』 は、
承太郎の真っ当な正論を、
シャナは永い経験で培われたフレイムヘイズ特有の見解で否定する。
「何だと? でも一体どうやって?」
「それは、 解らない……でも、 コレ、 フレイムヘイズが紅世の徒を討滅する時に出す気配。
何をしても、 どうやっても、 『絶対に相手を滅ぼす事が出来る時にしか』 出せない気配。
まるで、 トドメを
「情報戦は、 向こうの方が上だったって事か……!」
その詳細は不明だが、 シャナがそう言う以上否定する気はない承太郎は、
即座に思考を切り換えまだ視ぬ強大な敵が存在する香港の街路を見下ろした。
何の脈絡もなく、 急激に差し迫った状況。
此方の思惑など寸分も斟酌してはくれない、 混沌の坩堝。
ソレが、 真の戦闘。
「やれやれ、 四の五の考えてる暇はねぇな。
ラミーのヤツが危ねぇ! シャナッ!」
鋭く彼女の名前を呼ぶと同時に承太郎のスタンド、
スタープラチナが背後から音より疾く瞬現する。
「りょうか、 え!?」
応えると共に己も炎髪灼眼に変貌しようとしたシャナの躰が、
いきなりスタープラチナの鍛え絞られた剛腕に抱え上げられる。
「キャッ! ちょ、 ちょっとヤダ! 何するの!?」
所謂横抱きの形でワケも解らずスタンドの腕の中で
ジタバタ暴れるシャナを承太郎が律する。
「二人でチンタラやってたら間に合うもんも間にあわねー、
スピードならオメーよりスタープラチナの方が速い!」
「うるさいうるさいうるさい! 私の方が速い!」
こんな時でも心底負けず嫌いな少女の言動を介さず承太郎は告げる。
「やかましい! “道案内” は任せたぜ! しっかり掴まってろッ!」
その声と同時に、 シャナは昨夜と同じように彼の分身であるスタンドの胸元を
決して離さないようにしっかと掴む。
「いくぜッ!」
勇壮な叫びと共に、 スタープラチナの右足へ流動するように
集束していく白金のスタンドパワー。
ソレが屋上のコンクリートを鋭く踏み砕くと同時に、 激しく爆散した。
「オッッッッッッッッッラアアアアアアアアアアアアアアアア
ァァァァァァァァァァァ――――――――――!!!!!!!!」
強烈な上昇空圧で引き裂かれそうな程に捲れ上がる学生服。
天空へと轟くスタンドの喚声を背景に、
承太郎とシャナは太陽へと翔ける一つの流星と成った。
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