STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

72 / 85
『DARK BLUE MOONⅩⅨ ~Il Modo Di Credere~ 』

 

 

【1】

 

 

 屋上を覆うガラスの大天蓋が砕け 降り注ぐ硝塵のシャワーの中、

マキシコートのような学生服を着た長身の男が両手をポケットに突っ込んだまま、

その傍で寂びた黒衣を身に纏った紅髪の少女が手にした大刀を斜に構えたまま、

キラメキに包まれながら軽やかに内部空間へと舞い降りる。

 そしてラミーの姿を隠すように二人で前に立つと不敵な表情でマージョリーを見据え、

宣戦布告のように逆水平へと構えた指先を共に彼女へと向けた。

 

「やれやれ、 どうやら間に合ったみてぇだな。 大丈夫か? ラミー」

 

 呆気に取られるマージョリーを後目に、

無頼を絵に描いたような男が傍で蹲るラミーに

歩み寄りそっと手を差し出す。

 

「間一髪だったわね。 カード投げなかったら危なかったかも。

まさかいきなり 『本体そのもの』 に襲撃かけるとかこっちも想わないもの。

本当、 やれやれよね」

 

(……ッ!)

 

 己の存在を無視して話を進める両者に苛立ちながらも、

マージョリーは一抹の違和感と共にその思考を動かした。

 

(“さっきのは” ……やはりあのチビジャリの仕業……?

昨日の戦い振りからは妙にそぐわないカンジがするけど、

現状を鑑みてそう判断するしか――)

 

 未だ狂気の炎は裡で激しく逆巻いてはいるが、

永年の経験により己を律しマージョリーは冷静にそう分析する。

 

「おいおいおいおい、 まさかここで昨日のガキンチョ、

御丁寧に “ミステス” 付きかよ。

相変わらずテメーのヤる事ァ理解出来ねーなぁ。

悪ィ意味でよぉ。 えぇ? 天壌の」

 

 折角の獲物をズタズタに咬み千切る瞬間を

邪魔された苛立ちを隠そうともせず

険悪な声でマルコシアスが告げる。

 その狂猛なる紅世の王の前に、 一人の長身の男が敢然と立ちはだかった。

 

「テメーらが、 イカれた戦闘狂のフレイムヘイズ “弔詞の詠み手” とかいう女と、

その契約者 “蹂躙の爪牙” とかいう犬ッコロか?

昨日は、 ツレが随分と世話ンなったみてーだな?」

 

 ラミーの無事を確認し颯爽と振り向いた無頼の貴公子は、

地獄の修羅場を幾度も潜った歴戦の不良のみが持つ

特有の眼光で両者を睨め付ける。

 

「アァ!? 犬ッコロだとぉ!? ブッ殺されてぇのか只の人間風情がッ!

宝具があるからって調子ン乗ってんじゃあねーぞ!!」

 

 グリモアから狼の形容(カタチ)を執って騒ぐマルコシアスを、

マージョリーが諫めた。

 

「つまんない挑発に乗ってるんじゃないわよ。

フレイムヘイズが傍にいるから虚勢を張ってるだけ。

よく視なさい。 存在の力なんて殆ど感じないでしょう。

何が入ってるか解らないけど、 戦闘用じゃないコトだけは確かよ」

 

「チッ、 覚えとけよ!」

 

 マージョリーの言葉に、 今は私憤よりも優先するべき事を覚ったマルコシアスは

眼前で勇壮に佇む長身の男へそう吐き捨てた。

 

「また、 君達に助けられたな」

 

 背後でアラストールの施した応急処置により、

立てる程度には回復したラミーが若干焦燥の混じった声で両者に告げる。

 

「言っただろ? (ナシ)つけるって」

 

「もう、 大丈夫。 アナタに絶対手は出させない。

それより、 遅れてごめんなさい」

 

「……」

 

 振り向いて力強い微笑と共に告げられた二人の言葉に、

ラミーは千の味方をつけたよりも篤い信頼感を覚えた。

 やがてその内の一人、 炎髪灼眼の少女が身の丈に匹敵する大刀を片手で携えたまま

悠然とした歩調で、 眼前の圧倒的存在感を放つフレイムヘイズへと歩み寄る。

 

「一日振り、 ね。 “蹂躙の爪牙” マルコシアス “弔詞の詠み手” マージョリー・ドー」

 

「……」

 

 殺戮の雰囲気で充たされた空間の中、

あくまで澄んだ声で告げられた少女の言葉に

美女は一抹の衝撃を覚えた。

 

「……アンタ、 ()?」

 

 自分でそう言って、 マージョリーは想わず唖然となる。

 問う事など愚問、 紛れもない、 昨日自分が完膚無きまでに

叩きのめしたフレイムヘイズだ。 

 確かに、 その才能の片鱗と裡に眠る凄まじい迄の潜在能力の高さは認めた。

 今こうして目の前に立っているコトから、

何とかして己の放った焔儀を耐え抜いた機転と強運、

その回復力の高さは驚嘆に値するモノだろう。

 だが、 そんな些末な次元の問題じゃない。

 はっきり言って、 ()()()()

 気配も、 眼光も、 裡に秘めた闘気も、 そして何よりもその 【存在感】 が。

 まるで100年も地獄の修羅場を潜ってきたかのような、

“凄味” と 『気高さ』 を否応なく感じさせる。

 

(私、 以上に……? バカな……ッ!)

 

「おいどーしたマージョリー! (ほう)けてんじゃあねーぞッ!」

 

 己の脇で叫ぶマルコシアスの声を聞いて、 美女はハッと我に返った。

 

「……」

 

 眼前の少女は、 変わらぬ澄んだ真紅の双眸で己を見据えている。

 昨日の敗北の記憶など一巡を通り越して

『無かったコト』 に変わったかのように。

 その少女の発する気配に呑まれないように、

そして在り得ない、 考えすぎだと己を諫めてマージョリーは口を開く。

 

「何をしに来たかなんて問うのは、 どうやら無粋のようね?」

 

 炎の消え去った腕を腰の位置で組みながら冷然と告げられた美女の言葉に対し、

 

「えぇ。 無益な争いはこちらも避けたいわ。

だから、 このままアナタが立ち去ってくれるのが一番良い」

 

僅かな虚勢も劣等感も抱かず、 あくまで尊重のフレイムヘイズへの

敬意を失さぬままシャナはそう返す。

 

「勿論、 その場合は “もう二度とラミーに近づかない” って約束してもらうけど」

 

「……」

 

 やはり、 違う。 本当に、 同一人物か?

 だったら、 昨日戦ったあのフレイムヘイズは一体何だったのだ?

 疑念を抱きながらも表情には出さずマージョリーは続ける。

 

「イヤだ、 と言ったら?」

 

 その瞬間、 少女の全身を覆っていた緩やかな気配が、 いきなり鋼鉄の如く尖った。

 そして重く静かな声調で、 時間すらも吹き飛ばす爆弾のように “警告” される、

一つの言葉。

 

「後で、 死ぬほど後悔するコトになると想うわ……

“私達” 二人を、 敵に回したコトを……」

 

 ソレと同時に、 処刑宣告のように自分へと差し向けられる逆水平の指先。

 

「……ッ!」

 

 格下相手にこうまで言われる事に対し、 胸中で燃え上がる憎しみとは別に

フレイムヘイズとしての誇りもまた熱を持った。

 

「失望させてくれるわ。

どうやら、 フレイムヘイズとしての自覚がまだまだ足りないようね?

殺すべき “徒” を庇うなんてそんな甘いヤり方じゃ、 アンタそのうち死ぬわよ」

 

 その歴戦のフレイムヘイズが告げる峻厳な言葉にも、

シャナは微塵も動じず森厳に返す。

 

「……そうかも、 しれないわね。

でも、 一つだけ偉そうな事を云わせてもらえば、

私は、 『正しい』 と想ったからやってるの。

だから、 その結果自分がどうなろうと後悔はない。

血に(まみ)れ報われず、 誰にも認識されない封絶の中でも、

私は大切な人と、 『信じられる道』 を歩いていたい」

 

【挿絵表示】

 

 

 昨日の報復も、 凄惨な復讐者への嫌悪も抱く事なく、少女は静かにそう告げる。

 その真紅の双眸へ確かに宿った、 煌めく黄金の光と共に。

 ソレが何故か無性に、 マージョリーの心をメリメリとささくれ立たせた。

 

「何も知らない小娘が!! 知った風な事をベラベラとッッ!!」

 

「……」

 

 激高するマージョリーとは裏腹にシャナは無言で前を見据えるのみ。

 もう次の瞬間には無数の蒼い獣爪が

あらゆる方向から襲い掛かってきそうな暴威だったが、

少女は全く動じず瞳すらも逸らさなかった。

 その裡に宿る己と対極に在る光が、

美女の怒りの臨界点を振り切り却って気勢を醒まさせる。

 炎は高温になるほど、 その色彩を稀薄にしていくという危うさを以て。

 

「フッ……まぁ、 いいわ……

そんなに痛い目みたいなら、 また同じようにしてあげる……

絶対の力の差というのをその身に刻んで、 自分の甘さを想い知るコトね……」

 

 再びその口唇に狂気の微笑を浮かべた美女は、

ガラスの大地にヒールの音を響かせ一歩前に出る。

 

「最も……「原型」 留めてたらの話だけど……」

 

「アァ~! アァ~!! ヤっちまったなぁ~?

お嬢ちゃんよぉ~! もうどうなってもオレァ知らんぜッ!

我が麗しの酒 盃(ゴブレット)をここまでキレさせて!

生きてるヤローなんぞ今まで一人もいねーからなァッッ!!

ギャーーーーーーーハッハッハッハッハアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

 その陶磁器のような素肌をビリビリと劈く魔獣の叫声。

 当然ソレを戦闘開始の合図として即座に挑み掛かってくると想われた少女は意外、

くるりと己に背を向けその視線の先、 ラミーのいる方向へと戻っていく。

 そして。

 

「ごめんなさい。 忘れてるコトがあった。 だから、 チョイ待って」

 

 途中首だけで振り返り、 まるで小用でも片付けにいくような口調でそう告げる。

 

【挿絵表示】

 

 

「……」

 

 完全に気の勢を殺がれたマージョリーであったがすぐに、

 

(バカ、 が……ッ!)

 

口元を兇悪に歪め、 右手に集束させた炎気と共に

シャナの無防備な背へと飛び掛かろうとした。

 だが。

 

(!!)

 

 突如、 その少女の小さな背中に異様なプレッシャーを感じた。

 無作為に飛び掛かれば刹那に斬裂されるような、

或いは幾千の拳撃で滅砕されるかのような、 歴然とした脅威。

 得体の知れないナニカが少女自身の能力(チカラ)とは別に、

彼女を護っているのを確かに感じた。

 

「……あの小娘ぇ、 自力じゃ敵わねぇからってんで

何か妙な “宝具” でも持ち出してきやがったか?

姑息な真似しやがるぜ……!」

 

 腰元でマルコシアスも同様の気配を感じたのか、 歯噛みするように苛立ちを漏らす。

 

(……)

 

 その所感に同意したマージョリーは己の自在法が最も有利に働く場所を

刹那に見回して(あた)りをつけ、 不自然さを極力消した佇まいでソコへ移動する。 

 

「……」

 

 その姿を認めた無頼の貴公子が、 学帽の影に隠れた鋭い視線を静かに切った。

 

「承太郎」

 

 やがて目の前に立っていたシャナが、 小さな手を自分に向けて差し出している。

 

「コレ、 預かってて」

 

 その小さな手の中から託されたモノ。

 深遠なる紅世の王、 天壌の劫火アラストールの意志を現世に表出する

異次元世界の神器、 “コキュートス”

 

「……」

 

「……」

 

 渡された二人の男は、 事実意外そうな表情でシャナを見る。

 

「今回は、 今回だけは、 誰の力も借りず、

自分自身の力だけでヤってみたいの。

だから、 持ってて。 ()()()()()()()()()()()()

 

 圧倒的な能力(チカラ)を持つ相手を前にしても尚強い笑みを浮かべる彼女を前に、

承太郎は同じような微笑で、 アラストールはどこかで見た既視感と共に無言で応じる。

 そし、 て。

 

「じゃ、 行ってくる」

 

 これから始まる熾烈なる死闘に微塵の恐怖も気負いもない晴れやかな表情で

そう言ったシャナに、

 

「……暴れてこい」

 

承太郎も微塵の危惧すら抱かない心情でそう告げる。

 

「うん!」

 

 破滅の戦風の中で尚栄える、 無垢な笑顔と共に

一人のフレイムヘイズは最愛の者に背を向けた。

 振り向いたその先、 待ちかねたと云わんばかりに

憎しみの凝塊と化したマージョリーが、

収斂された群青の炎気を全身から滾らせている。

 瞬時に黄金の光で充たされた双眸を戦闘モードへと研ぎ澄まし、

シャナは手にした大太刀の切っ先を、 空を斬る音と共にその存在へと刺し向けた。

 無数の強烈な精神の波濤が、 激しく渦巻く 『運命の潮流』

 その終焉の幕が、 今壮烈に切って落とされた。

 

←To Be Continued……

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。