STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『DARK BLUE MOONⅩⅩⅤ ~D・A・H・L・I・A~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 残骸の飛沫がバラバラと周囲に降り注ぐ中

まるでその部分だけ無重力空間で在るように、

マルコシアスはマージョリーの躰を己が全霊を以て支え続けていた。

 

(クソッタレが……ッ! オレの最愛の酒 盃(コブレット)をここまでズタボロにしてくれやがって……! 

覚えてやがれ……ッ! きっと今以上に他の徒ブッ殺しまくって、

テメーら全員原形留めねぇ程に咬み千切ってやる……!)

 

 得意ではない治癒系自在法を美女に施しながら、

狂猛なる紅世の王は眼上で佇む3つの存在に “復讐” を誓う。

 だが今はソレよりも優先するべきコトに己の全神経を集中し、

彼女の存在を支えながら心中で呟いた。

 

(大丈夫だ……生きてれば……()()()()()()()()……

おまえはまた……立ち上がれる……きっと……今まで以上に強さを増して……

ずっと……そうやってきただろう……? だから……今はもう眠れ……

これ以上……誰にも……指一本触れさせねぇから……)

 

 紡がれる言葉と共に美女の全身を労るように包み込む、 緩やかな群青の火の粉。

 その影響か、 或いは全く別の事象からなのか、 マージョリーの躰が微かに動いた。

 

(……ッ!)

 

 息を呑むマルコシアスの傍らで、 己の半身は震える腕を、

鮮血と焼塵に塗れたその手を、 砕けた大天蓋に向けて弱々しく掲げる。

()()()()()()()()()――。

 もうどれだけ手を伸ばしても決して届かない存在に、

それでも尚懸命に手を伸ばそうとするかのように。 

 その時の光景が、 マルコシアスの裡で鮮明に甦る。

 

(まだ、 戦えンのか……?) 

 

 心中の問いにマージョリーは応えるコトはなく、 それでも手を伸ばし続ける。

 開いた彼女の胸元から、 鈍い光沢を放つロザリオが音も無く零れた。

 

(そうか……戦いてぇのか……)

 

 静かな独白と共に王の裡で宿る、 殉教の()

 撃つ手は、 たった一つだけ遺されていた。

 紅世からこの現世に渡り来て以来、 暴虐無尽に荒れ狂い

他の存在を蹂躙してきた己の 『切り札』

 何れは決着を付けたいと想っていた “アイツ” との戦いの為に

永い年月を懸け、 ようやく完成させた

焔の “最終変幻系自在法”

 もし “コレ” を発動させれば、 存在の力を遣い果たして自分は消滅するかもしれない。

 しかし逡巡の時はごく短く、 すぐにソレで構わないという想いが胸を充たす。

 コイツがそう望むのなら。

 喩えどんな結果が待ち受けていようと怯みはしない。

 ずっと、 最後まで共に在ると、 『約束』 したから。

 

(一緒に……いこうぜ……我が永久の蒼珠、 マージョリー・ドー……

おまえは最後までおまえらしく在れば……ソレで良い……)

 

 その言葉を最後に、 異界の神器 “グリモア” から群青の炎が獣の形容を伴って

マージョリーの裡に潜り込んでいく。

 本来フレイムヘイズの力とは独立して存在する 「王の意志」 が、

再び己の力の裡に、 定められた 『器』 の中に。

 その 『器』 を彩る、 マージョリーの心象。

 ソレは、 この世の何よりも美しく、 温かく、 優しく、

そして哀しい、 追憶の幻想(ユメ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 幸福な、 夢をみていた。

 多く望む事など、 何もない。

 ただ、 掛け替えのない者と一緒に、

穏やかに暮らしそして終わっていけるのなら。

 ソレ以外に、 一体何を望むコトがあるだろう?

 自分が望むのは、 ソレだけだった。

 たったソレだけで、 良かった……

 

 

 

 

 

 

 最初から、 大事なものなど何もないと想っていた。 

 でも違った、 本当に大切なものは、すぐ傍に在った。

 スベテを奪われ生きていると想っていた。

 でもそうじゃなかった、 絶望に囚われてスベテを捨てていたのは自分自身だった。  

 何もかもが色褪せ、 赤錆て視えた自分の世界。 

 そこに “希望” という灯火を与え、 照らしてくれた碧眼の少女。

 だから彼女を 「救う」 為に、 限られた時間の中で周到に準備を進めた。

 決して誉められたヤリ方では、 無かったと想う。

 他の誰が赦そうと、 『神』 は決して自分の行いを赦さないであろうと。

 でも、 そんなコトはどうでも良かった。

 アノ娘を救う為ならば、 この世の暗黒に堕とさない為ならば、

どんな悪行も 『神』 すらも殺すコトさえ厭わなかった。

 そして、 同じ娼館仲間達の協力を得、

館で非合法に密売されていたモノの中から

幾つかの 『爆弾』 を盗み出し、 綿密にソレを配置した。

 錆びた銅製のカンテラを手に、 “奴等” が寝静まった後、

倉庫に足を踏み入れた自分。

 仲間の協力により濃い酒の中に入れた 『薬』 により、

アノ屑共はこれから何が起こるのかも知らないまま

まるで冬のナマズのように寝入っていた。

 次に眼が醒める場所は、 間違いなく地獄の入り口。

 残酷な冷笑を口元に浮かべながら、 多種雑多に積み重ねられた物品の中から

藁の敷布で巧妙に隠された奥の木箱へと続く導火線を取りだした。

 この最初の起爆が、 始まりの合図。

 後は仲間達が割り当てられた順番でそれぞれ同様に爆弾を起爆させ、

巻き起こる騒乱の最中、 武器と金を奪いルルゥを連れて逃げ出す。

 腐れた人間の欲望の掃き溜めで出来ていたこの忌まわしい娼館を、

ソレを造った塵屑諸共跡形もなく灰にして。

 湧き起こる背徳の恍惚感に、 下腹部を中心に全身が粟立った。

 

「ルルゥ……もうすぐよ……」

 

 表層を覆う筒形のガラスを取り外し、 中程まで溶けた蝋燭を外気に晒した。

 

「もうすぐ……終わるわ……」

 

 火の放つ仄かな明かりに照らされながら、 口元に笑みが浮かぶのが解った。

 

「そうしたら……静かな場所で……穏やかに暮らしましょう……

ずっと……ずっと……」

 

 失敗の不安も恐怖も消え、 不思議と安らかな気持ちだけが心を充たした。

 

「ねぇ……? ルルゥ……」

 

 暗闇の中でも確かに存在する灯火に、 彼女の面影を折り重ねながら、

ソレを導火線の先端へと近づけた。

 

 

 

 

 

『ククク……』

 

 

 

 

 そのとき、 自分の背後、 遙か頭上から嘲笑うような声が聞こえた。

 極限の驚駭に全身が凍り付いた瞬間、

奥の木箱から銀色の 『炎らしきモノ』 が羽虫のように次々と飛び散り、

閃光が己の全身を染め上げた。

 耳を劈くような大爆裂音。

 した筈だった。

 だが爆風に吹き飛ばされ木製の欄干を突き破った自分はそのまま一階の床張りに

無造作に叩きつけられ、 数分意識を消失していた。

 やがて、 混濁した意識と眩む視界に映ったモノ。

 紅蓮。

 一面の紅蓮。

 阿鼻叫喚の焦熱地獄。

 目の前に存在する全てのものが炎に包まれ、 猛烈な焦熱が鼻をつき、

肺を焼くほどの大気が周囲で渦巻いていた。

 燃え盛るドアが次々と開きそこからも炎が噴き出し、

中から男とも女ともつかぬ火達磨が人間のモノとは想えぬ叫声を発し

のたうつように這い擦り回っていた。

 火の廻りが、 速過ぎる。

 最初に浮かんだ思考はソレ。

 しかしすぐに誤りだと気づいた。

 仮に配置した爆弾が何かの間違いで一斉に起爆したとしても、

これほどの大惨事を引き起こすコトはなかった筈。

 万が一にもルルゥに危害が加わってはならないと、

常にそのコトを第一義として念入りに仕組んだ計画だったから。

 

(ルル、 ゥ……?)

 

 信じがたい光景を前に、 一番優先しなければならない存在を喪心していたコトに気づき、

己の愚かさを呪いながらその場所へ駆けた。

 炎に包まれて焼け落ちる階段を駆け上がり、

溶けたガラスと焼けた残骸の散乱する床を素足で踏み拉き、

灼熱が肌と髪を焦がすのも構わず自分の部屋を目指した。

 アノ()は、 『このコトを』 何も知らない。

 今日も、 仕事で遅くなると言った自分の言葉を信じて、

いつものように椅子に座って待っている筈。

 部屋を綺麗に掃除して、 欠けた食器をキラキラ光る位に磨いて、

一緒に眠るベッドのシーツをシワ一つなく整えて。

 先に食べてて良いって、 眠ってて良いって、 何度も何度も言っているのに、

それでも椅子の上で小首を傾げ、 まどろみと懸命に戦いながら待っている筈だ。

 自分に 『おかえりなさい』 と、 満面の笑顔でそう言う為だけに。

 

「ルルゥッッ!!」

 

 殆ど裂けるほど声音で叫び、 手を焼き焦がす真鍮のドアノブを開いた刹那。

 その炎傷と裂傷だらけの自分の瞳に映った……モノ……

 何もかもが、 嘘だと想った。

 そうであって欲しかった。

 この世に蔓延る、 ありとあらゆる残酷な事象。

 自分はソレに、 どれだけ蹂躙されても構わない。

 でも、 この娘は。

 この娘だけは。

 

 

 

 

『そうなって欲しくなかった!!』

 

 

 

 

 至る所に炎が類焼した室内。

 二人で食事をしたテーブルが、 共に眠ったベッドが、 戯れ合った化粧台が、

火花を散らしながら燃えていた。

 その部屋の中心で、 濛々と込める黒煙に身を晒されながら、 ルルゥが倒れていた。

 その華奢な躰に、 爆風で飛んできた木の破片が、 無惨に突き刺さって……

 

「ルルゥッッ!!」

 

 瞳から透明な雫を飛び散らせながら叫び、

脇腹から血の滲む彼女の躰を可能な限りそっと抱き起こした。

 自分の声が聞こえたのか、 少女はそっとその澄んだアイスグリーンの瞳を開き、

呼び掛けに応じた。

 

「マー……姉……サマ……? あぅっ……! 痛……い……痛い……よ……」

 

 意識と同時に痛覚も覚醒したのか、 彼女は消え去りそうに小さな声でそう漏らした。

 

「喋らないで! 大丈夫だから!! 絶対絶対大丈夫だからッッ!!」

 

 一体何が、 大丈夫だったのか……

 彼女の為? 自分の為?

 しかしそれ以外の結末など認められなかった、 堪えられなかった。

 

「……ごめんね……マー姉サマ……ルルゥ……いつも……

迷惑……かけて……ばかり……だね……

痛かった……でしょ……? ここ……まで……

ごめんね……本当に……ごめんね……」

 

 瀕死の状態で在っても自分を気遣う少女に涙が溢れ、 想わず声を荒げた。

 

「何バカな事言ってるの!! アンタは私の “妹” でしょう!!

この世界でたった一人の 『家族』 でしょう!!

見捨てるなんて、 死んだって出来るわけないじゃない!!」

 

「かぞ……く……?」

 

 告げられた言葉にルルゥは一度放心したように問い返し、

 

「……そう……なんだ……エヘヘ……うれ……しいな……」

 

焼塵に塗れた頬で、 いつもように無垢な笑顔を自分に向けてくれた。

 満身創痍のズタボロの躰に、 力が湧いた。

 この娘の笑顔は、 いつでも、 どんな絶望でも吹き飛ばしてくれた。

 だから、 護りたかった。

 護り……たかった……

 

 

 

 

 

『ク……!ククク……ッ!ククククククククククク……!!』

 

 

 

 

 再び、可笑しくて可笑しくて堪らないという、

淀んだ悪意に充ち充ちた笑い声が頭上から響いた。

 同時に爆発。

 反射的にルルゥを抱え込んだが一体どれほどの意味があったか。

 ただ網膜の奥に、 銀色の閃光が映ったコトだけは覚えていた。

 

 

 

 

 暗転――。

 一体、 どれくらい気絶していたのか、

風のさざめきと濃い草の匂いで眼が醒めた。

 眼前に見える赤い頽廃。

 燃えていく、 そして焼け落ちていく。

 腐った欲望の館、 それでも自分の生涯スベテで在ったものが。

 しかしそんな感傷に浸る暇などなかった。

 辺りを見渡しアノ娘を探した。

 爆風で吹き飛ばされたにしては、 余りにも不自然な距離。

 それに自分の躰も不思議なほど傷んではいない。

 まるで空間を削り飛ばして、 ソコに向かって閉じた場所へと

強制的に瞬間移動でもさせられたかのように。

 でもそんな疑問は次の瞬間跡形もなく霧散した。

 

(ルルゥッッ!!)

 

 恐怖と歓喜が同時に、 狂おしいほどに胸を締め付けた。

 自分から約10数メートルほどの距離。

 草むらの上で眠るように彼女が横たわっていた。

 即座に立ち上がり駆け寄ろうとする、

が膝の辺りに凄まじい激痛が走り前のめりに這い蹲った。

 視線を送った己の足が、 あり得ない角度に折れ曲がっていた。

 地面との激突で折れたにしては不可解な、

まるで別の誰かが 『この部分にだけ』 途轍もない力を込め、

捻り折ったかのように。

 しかしそんな当惑など意に介さず彼女の許へ向かった。

 足は動かなくても手は動く。

 草原を這い擦り回る蛇のように、 汗と泥に塗れながらアノ娘へと近づいた。

 ゆっくりと狭まる距離が、 発狂するほどにもどかしい。

 荒れた大地に散乱した石と砂利で、 娼館着が裂け皮膚が破れて血を噴いた。

 何も出来ない、 こうする以外何も無い、 絶望的な無力感に視界が滲んだ。

 渇きにも似た慟哭が胸を張り裂いた。

 

( “神様” ……お願い……)

 

 腕を紅く染める血と共に草むらを掻き分けながら、 自分は、

今まで一度も祈った事のない、 存在すら否定していた者に、

生まれて初めて心の底から祈った。

 

(私は……どうなっても良い……だから……この娘は……()()()()()()……!)

 

 月明かりに照らされ白く染まる、 血の気の失せた顔が眼に入った。

 

(お願い……神様……お願いよ……ッ!)

 

 透明な熱い雫が、 幾筋も頬を伝った。

 

(ルルゥを……連れて行かないで……殺さないで……お願い……お願いだから……!)

 

 幸せに、 ならなきゃいけないの。

 いつも、 笑っていて欲しいの。

 血と泥に塗れた震える手が、 ようやく少女の肩に触れた。

 そのまま強く、 傷ついた躰を抱き寄せる。

 もう決して離さないように。

 絶対誰にも渡さないように。

 

「ルルゥ……」

 

 力無く自分にもたれかかる彼女に、 全身に感じる温もりに、

どうしようもない愛しさを感じた。

 

「ルル……ゥ……」

 

 こんなにも優しく温かな存在が、 自分の腕の中にあるなんて信じられなかった。

 このまま時が、 止まってしまえば良い。

 明日なんて、 永遠に来なければ良い。

 そうすれば、 ずっと、 一緒にいられる。

 このまま二人で、 ずっと、 ずっと……

 紅く染まった娼館着に彼女の顔に、 途切れる事なく涙が落ちた。

 

「マー……姉……サマ……」

 

 閉じていた瞳を薄く開き、 気流に霧散するような声で彼女が自分を見上げた。

 

「いる……の……? ど……こ……? 視え……ない……」

 

 損傷と同時に止血の役割も果たしていた木の破片が外れ血を流し過ぎたのか、

虚ろな瞳で彼女は手を宙に彷徨わせた。

 

「大……丈夫……ここに……いる……」

 

 柔らかな手をそっと握り、 出来るだけ穏やかな声で告げた。

 

「どこにも……行かないわ……ルルゥ……」

 

 でも涙は、 止まらなかった。 止められなかった。

 

「……」

 

 自分の手を弱く握り返し、 彼女は安らかな微笑みを浮かべた。

 全てを覚り、 全てを受け入れた、 そんな儚く美しい表情で。

 

「マー……姉サマ……ルルゥ……ね……“幸せ”……だった……よ……」

 

 もう映らない瞳で自分を見つめながら、 少女は優しい声でそう囁いた。

 

「辛い……事……哀しい……事……いっぱい……あった……けど……

でも……最後に……マー……姉サマ……に……逢えた……から……」

 

 息が詰まって声が出なかった。

 ただ、 何度も何度も首を振った。

 そうじゃない。 そうじゃないって。

 

「本当に……毎日が……楽しかった……嬉しかった……

今までの……嫌なこと……

全部……無く……なっちゃう……位……」

 

 たくさん貰ったのは、 自分の方。

 本当に幸福だったのは、 私の方。

 まだ、 何もしてあげてない。

 まだ貰ったもの、 少しも返せてない。

 

「あり……がとう……マー……姉サマ……大……好き……だよ……」

 

【挿絵表示】

 

 

 言わないで。

 そんな事、 言わないで。

 だって、 だって……

 

「コレ……を……」

 

 震える小さな手が胸元で鈍く光るロザリオを外し、 そっと自分の首に掛けた。

“誰か” に与えられた、 『使命』 をそれでようやく果たしたかのように、

安堵した表情を彼女は浮かべた。

 

「神様が……護って……くれる……

もう……ルルゥ……には……必要……ない……から……

だから……ルルゥの……分……まで……生きて……

そし……て……」

 

 

 

 

 

 

 

『幸せに……なって……ね……』

 

 

 

 

 

 

 

 月光に彩られた、 翳りのない笑顔。

 嫌だと言いたかった。

 一人にしないでと泣き叫びたかった。

 嬉しくて、 哀しくて、 苦しくて、 愛おしくて。 

 そしてただ、 温かくて。

 温かく、 て……

 

「か……ぜ……」

 

 やがて、 そっと耳元に届いた、 最愛の者の声。

 草原を翔る夜風が、 自分と彼女の髪を静かに揺ら、 した。

 

「……キレイな……風……だね……気持ち……いいね……

マー……姉……サマ…………」

 

 その言葉を最後に、 力無く解かれ地面に落ちた手。

 安らかな笑みを浮かべたまま閉じる瞳は、 本当にただ眠っているように。

 でも、 その瞬間、 確かに。

 自分の心の中で、 その更に深淵で。

 致命的なナニカが、 粉々に砕け散った音がした。

 

【挿絵表示】

 

 

「…………ぁ…………あ…………ああ…………ぁ…………」

 

 自分のものではない、 別の誰かのような呻き声。

 

「あ…………あぁ~…………ぁ…………ぁ…………あ…………」

 

 継いで、 咎人のような嘆きも、 どこかで。

 そし、 て。

 

 

 

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

ァァァァァァァァァァァァ―――――――――――

――――――――――――――!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 絶叫と共に双眸が裂け、 紅い血涙が迸った。

 人のモノとは想えぬ哀咽が、 周囲に響き渡った。

 太陽さえも凍り付かせるような、 闇蒼(あんそう)(つき)

 その無情な光の許で。

 吼え続ける愚かな獣の傍らで。

 風が、()いていた。

 永遠の 『さよなら』 を道連れに。

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

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