STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
――――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!』
大気を震撼させる、蒼き魔狼の鳴轟が響き続ける。
その咆吼は兇悪な憎悪の怒号であると同時に、
コレ以上ない哀咽に充ちた悲愴の嘆きを称えていた。
その周囲で捲き起こる破壊の暴風雨。
叫びと巨大な全身から発せられる圧威で生まれた乱気流に、
夥しい残骸が噴き挙がり混沌の渦を形成した。
「やれやれ、 あんなモン一体ェどーやってブッ倒すんだ?」
破滅の戦風に長い学ランの裾を靡かせながら
銜え煙草でそう漏らす無頼の貴公子に、
「出来る出来ないじゃない。ヤるのよ! 私とおまえで!!」
その隣に位置した紅髪の美少女が、
眼前の災殃に怯むコトなく凛々しい声で返す。
(うむ…… “
“
しかし不完全とは云え王の顕現を可能とするとは……
だが死ぬ気、 か? 蹂躙……)
己の予想もつかない自在法を思慮とは縁遠い者が生み出していた事実と、
その先に待ち受ける結果を洞察したアラストールは
使命と私情の狭間で心を揺らす。
その古き畏友の心情を無言の裡から感じ取ったラミーが
静かに歩み寄った。
「ふむ。 やはり戦う気か。 流石に “
誰も責められぬと想うが」
言いながら手に持ったステッキで、 遠方にて吼え狂う群青の魔狼を差す。
「老婆心ながら一つ言わせてもらおう。
“狙う” なら、
老紳士が細い杖で示した先。
ソレは巨大な前脚の脇部分、 獣の心臓がある位置を正鵠に射抜いていた。
「場所が場所だけに希望と言うには程遠いが、
しかしソコに王の動力源足る 『
今は内部に取り込まれ休眠の状態に陥っている “弔詞の詠み手” がな」
「なるほど。 “
幾らデカくても犬ッコロは犬ッコロ。
そこらへんの機能は同じにしとかねぇと、
動くに動けねぇってワケだな」
「う、 うむ。 確かにその通りだが……」
自分の指摘した事実を一瞬で理解する分析能力、
何より顕現した紅世の王を “犬” 呼ばわりする承太郎の心胆に
ラミーは半ば呆れながら返した。
「ごめん……」
その脇で、 唐突にシャナが口を開く。
「あ?」
こちらは意味が解らない物言いに、 承太郎は剣呑な視線で応じた。
「 “アズュール” 前に話した事があるでしょ?
“狩人” が持ってた火除けの宝具。
もしアレがここにあれば、 戦局も幾分かは楽になったんだろうけど、
私が粉々にしちゃったから」
言われるまで忘れていた事象を、 少女は本当にすまなそうな表情で
真紅の瞳越しに訴える。
その悔恨に対し、 無頼の貴公子は確乎足る口調で告げた。
「いらねーよ。 ンなモン」
「え?」
面責はないが落胆は覚悟していた少女は、 予想外の返答に瞳の奥を丸くする。
「おまえがいるだろ」
継いで当たり前の如く告げられた言葉に、 鼓動が一度澄んだ音を立てるのが解った。
同時に最大の激戦を前にしての、 不安や緊張が嘘のように消し飛んだ。
真の姿を現した狂獰な王に対する畏怖や気負いも霧散し、 その咆吼すら遠くなった。
「こんな所で、 立ち止まっていられねぇ。
アノ男 『DIO』 のヤローは、
あーゆー化け物を他に何人も従えてンだからよ。
だから、 見せつけてやろうぜ。
オレ達は、 何があろうが絶対に屈しないってトコをよ」
そう言って勇壮なその風貌と共に、
自分の一番大好きな微笑を向けてくる。
言いたい事はたくさんあったが、
それでも自分は笑っているかもしれない顔を前に向けた。
正直、 これ以上嬉しい言葉を貰うのが、 何故か少し怖かった。
「さ、 て、 と」
そんな自分の心中を知ってか知らずか、 その隣に
そして、 決意に充ち充ちた声で、 静かに開戦を宣言する。
「いこうぜ……相棒……」
「了解ッ!」
互いの存在を確認する言葉を残し、 二つの影が罅割れた大地に降り立った。
そのまま着地の勢いを殺さぬまま、 視界の遙か先で鎮座する蒼き魔狼に
真正面から向かっていく。
矮小ながらも両者の発する異質な気配を敏感に感じ取ったのか、
魔狼はその刻印のような瞳を二人に向け威圧するように三度吼えた。
『GUUUUUUUUUUUUUUUUOOOOOOOO
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO
―――――――――――――――!!!!!!!!!!!』
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ
ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――――
―――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」」
大気を揺るがす暴威を弾き返すように、
『スタンド使い』 と “フレイムヘイズ” も同時に叫ぶ。
その咆吼が鳴り止んだ刹那、
蒼き魔狼は剥き出し牙を歪んだ両眼と共に軋らせながら開き
ソコから頽廃の大禍流を吐き出した。
「「!!」」
コレはその威力、 射程距離、 持続性共に比較にならない。
天から
街の一角が群青の禍流に呑み込まれ、
ソコに存在していたスベテが炎に包まれ燃え上がった。
「やれやれ、
オイ、 今の喰らった奴等、 後でちゃんと治せんだろうな?」
「大丈夫、 『喰われ』 さえしなければ、
例え粉微塵に擦り潰されても 「修復」 は可能よ。
だから今は余計な事を考えないで」
魔狼の叫吼が噴出する刹那、 既にその軌道を読んでいた承太郎とシャナは
周囲に並ぶ高層ビルを陰にしながら中空へと飛び去り、
吹き荒ぶ熱風の中で短く言葉を交わした。
「にしても、 もう2, 3発同じモン撃たれたら逃げ場がなくなっちまうな。
封絶もガタがきててヤバイ。 一旦二手に
ビル裏手の壁面にスタンドの指をメリ込ませ、
魔狼の挙動に比例して頭上から剥がれ落ちてくる
幾つもの紋章を手の平で受け止めながら承太郎が言った。
「いいけど、 でも時間稼ぎは通用しそうにないわ。
何か良い策でもあるの?」
「ある」
纏った黒衣の能力で傍らに貼り付くシャナに、
承太郎は確信を込めてそう宣言した。
「このまま離れて、 あの犬ッコロとの中間距離にまでお互い近づく。
そうしたら 「合図」 を送るから
おまえはアノ “翼” の能力を使ってオレを拾ってくれ。
後は言う通りにしてくれりゃあ」
「!!」
姿を見せない二人に焦れたのか、
魔狼が牙の隙間から火吹きを漏らす呻りと共に
その全身を
「オレの 『
「ちょっと! それどういう意味!?」
驚愕と想望。
相反する感情を同時に抱いて困惑するシャナを後目に、
承太郎も背後の異変を感じ取っていたのか
掌握した壁面を陥没するほど強くスタンドで蹴り付け、
蒼い陽炎の舞い踊る静止した雑踏の中に消えていく。
「もうッ!」
視界の先で轟然と立ちはだかる顕現の脅威よりも
彼の不明瞭な言動に苛立ったシャナは、
それでも魔狼の意識を分散させる為に逆方向へと滑空を始める。
これからするべき事の概要は把握できたが、
断片的な説明だったので完全な理解には至っていない。
それでも警戒を怠る事なく、 微塵の疑念も抱く事なく示された場所を目指す。
だって。
アイツは今まで一回も、 自分に 「嘘」 をついた事はないから。
期待を裏切られた事も、 一度だってないから。
だから。
だから……ッ!
揺るぎない決意と信頼をその胸の裡で固める少女の風貌を、
突如群青の光が染めた。
(!!)
蠢く魔狼の全身から、 刃のような毛革の先から、 火の粉が燐光のように立ち昇り、
それらがスベテ獣の牙を想わせる硬質な炎弾と変貌し周囲を取り巻いていた。
(アノ……姿で……自在法……編んでる……)
如何に熟練の自在師だとしても、 例え伝説的なフレイムヘイズだったとしても、
強力な炎弾をあれほど莫大な量で、 一度に生み出すのは絶対に不可能。
それこそ正に、 顕現した王の
蹂躙の畏怖。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!』
大気を穿ち己の血も噴き搾るような叫喚と共に
魔狼の周囲を覆い尽くしていた莫大な量の炎弾がスベテ、
狂った衛星のような軌道で封絶全域に降り注いだ。
標的を認識せず無差別にバラ撒かれたソノ蒼き災厄は、
着弾した先から爆発を起こし残骸を宙に捲き上げ、
ソレすらも後から襲い来る炎弾に砕かれ蹂躙の限りを尽くす。
石作りの大地は抉られ、 並び立つ高層ビル群は全壊し、
木々は灰燼となり、 人という人は跡形もなく砕かれた。
区画を縦断する高架橋が崩れ落ち、 緑の園地は焦土と化し、
遠間に位置する波打ち際すら原初の地球のように干上がった。
凡そ、 視界に留まるスベテの存在の中に、
原形を留めているモノは何もなくなった。
人類未曾有の戦禍に見舞われたが如く、 その至る所で蒼い噴煙が立ち昇り
巨大な火災旋風が無数に捲き起こる、 廃都と化した香港の街並み。
動くモノは何もなく、 声を発するモノもまたいない。
その頽廃が支配する空間の中心で、 蒼き魔狼の狂吼だけが響き続けた。
裡に宿した永劫の嘆きが、 天地万物を張り裂くかのように。
「……うっ……ぐ……ぅ……」
頭上から天雷のように轟く狂吼を白い素肌に浴びながら、
少女は堆く積み上がった瓦礫の隙間からその小さな躰を這い擦り出した。
衝撃と焦熱で纏った黒衣はボロボロになり、
内側のセーラー服は引き破れ、 額からも血が滴っている。
先刻、 窮地に於ける咄嗟の機転により
回避は不可能だと判断したシャナは
破局の狂弾幕が一斉総射される刹那、
近隣の最も頑強な造りのビル内にドアをブチ破って突入した。
そして纏った黒衣を繭のように形成して己の躰を隈無く包み込み、
魔狼の極絶焔儀を何とかやり過ごした。
相手に、 一切の回避圏を与えない
恐らく、 新たに生まれた
満身創痍の躰に、 限りなく透明に近い澄んだ力が沁み渡っていった。
直撃こそ免れたが炎上するビルの崩落に巻き込まれ、
瓦礫を伝って浸透してきた焦熱のダメージは決して小さくない。
正直、 視界も足下の感覚も、 左半身が失調したかのように頼りなく覚束ない。
それでも少女は破滅の大地を蹴って、 目的の場所へと向かった。
大破壊の余韻に浸っているのか、 魔狼も今は小康状態。
『絶望の先、 絶体絶命の窮地の後にこそ』 勝機は到来する。
ソレが、 アイツが自分に教えてくれた、 何よりも大切な事。
湧き上がる万感の想いを噛み締めながら、
溢れる切なさに必死で堪えながら、
少女は罅割れたアスファルトの上を駆け続けた。
先刻彼と交わした 「約束」 を、 ただひたむきに信じて。
大丈夫、 だよね?
いるよね?
来てくれるよね?
待ってるから!
何があっても絶対待ってるからッ!
その少女の切望に応えるように、 摩り切れたスカートの中から無機質な電子音が鳴る。
意識よりも速く、 ポケットの中から取り出した
他の誰よりも待ち望んだ、 その者の名前。
同時に待ち侘びた期待の喚声が、 封絶全域に轟いた。
『オッッッッッッッッッッラアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ
―――――――――――――――!!!!!!!!!!!!』
予想していたよりも遙か近距離で、
倒壊した瓦礫の墓標から白金の光に包まれた二つの影が
強烈な破壊音と同時に飛び上がった。
自分と同じ、 否、 それ以上にズタボロの学生服姿で。
それでもその勇壮な風貌は、 いつもと何も変わっていない。
散開するコンクリートの飛沫の中で舞い踊る、 黄金の鎖。
自分と同じように、 建物の中へ身を隠していたのだろうか?
否、 おそらく 『迎え撃ったのだ』
降り注ぐ蹂躙の弾幕を、 自らの放つ流星の弾幕で。
そして白金と群青の凄まじい軋轢に周囲のビルが耐えきれず、
その倒壊に巻き込まれた。
「――――ッッ!!」
声にならない歓喜でそれを見上げる自分の先で、
神虐の魔狼すらも驚愕したようにその存在を凝視した。
即座に背で烈しく燃え盛る、 紅蓮の双翼。
最早先に聳える魔狼の事すらも眼に入らず、
想い焦がれた存在の許に少女は全速で空を
もう少し、 あと少し。
急速に狭まる僅かな時間すらも、 今のシャナにとってはもどかしい。
そして己の信頼に応え傍へと向かってくるフレイムヘイズを
威風颯爽足る表情で見据えた無頼の貴公子は、
「さぁて、 と。
ここの所シャナやアラストールのヤツばっか目立ってやがるからな。
ここら辺でこの物語の 『真の主人公』 は一体誰なのか?
一度キッチリ確認しとく必要があるようだぜ」
学帽の鍔を抓みながら不敵な微笑をその口唇に刻んだ。
←To Be Continued……