STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
蒼き魔狼の巨眼が、 その威圧感のみでバラバラに引き裂くように睨め付ける。
上空で承太郎の手を掴んだシャナは、 そのままスタンドごと彼を引き連れ
紅い光跡を描きながら災殃の中心部へと向かった。
「全力で飛ばせッ! 真っ向から勝負を懸ける!!」
「了解ッ!」
紅蓮の双翼から炎が噴き出し、 空を翔るスピードは更に加速されていく。
ズームアップするように魔狼の貌が視界に迫り、
改めて認識したそのあまりの巨大さに唖然となった。
近づく程に凄まじい熱気が肌を灼き、 狂獰な存在感に全身が粟立つ。
(本当に……こんなの……に……?)
これから自分が 『するべきコト』 は言われなくても解っている、
というより一つしかない。
でも自分が挑むならまだしも、 それと同じコトを承太郎にはさせたくない。
すぐにでも転進し策を違えたいという欲求が堪えがたく湧き上がってくる。
「まだなの!? 承太郎ッ!」
神経を焼く、 文字通りの焦燥と共に少女は青年を急かした。
距離的にはもう充分、 このまま 「投擲」 すれば
魔狼の動作よりも速く承太郎をその鼻先に辿り着かせる事が出来る。
だが。
「まだだ! まだ
窒息寸前で更に水底へと潜るように、 承太郎は逼迫した声を荒げる。
その言葉の間にも狭まる、 死の射程距離。
高速で己に近づいてくる、 取るに足らない矮小な虫螻を
周囲の残骸諸共粉微塵にする為、
魔狼の前脚が天空を抉るように迫り上がった。
その大気を鳴轟する爪牙が揮り堕とされ、 空間を断裂する刹那。
「今だ!! ヤれッッ!!」
有り得ない状況の在り得ないタイミングで、 承太郎の声が響き渡った。
本来なら絶対出来ない、 出来るわけがない行動。
しかしその声に自らが彼のスタンドとなったかのように、
意識が空白となり躰の方が勝手に動いた。
最愛の者を自ら火口の淵に投げ込むような暴挙の認識はなく、
ただ “やってしまった” という虚無にも似た気持ちに喪心となる。
しかし乾坤一擲の想いで射出された承太郎の躯は、
双翼の加速も相俟って星光の如きスピードを宿し
魔狼の爪を紙一重で掻い潜る。
そし、 て。
“TANDEM……!”
一瞬を遙かに凝縮した時の狭間で、
無頼の貴公子の裡から集束された白金のスタンドパワーが流出し
ソレが高密度の鋼鉄を弾き合わせるような感覚と共に
スタープラチナ内部へと刻まれていく。
その特殊機動プログラムの終着点、
今ある流法の中で最大の威力を誇るモノが
ダメ押しのように叩き込まれ
煌々とした光を右手に宿したスタンドの拳が
すかさず眼前を覆い尽くす魔狼の横っ面に放たれた。
『……ッッ!?』
突如の眼の前に、 まるで平行世界から抜け出してきたかのような
残像を伴って現れたその小さき者の一撃は、
自分と同質の巨大な威容となってマルコシアスの瞳に映った。
ヴァガアアァァッッッッッ!!!!!!
『――――――――――ッッッッッッッッ!!!!????』
泰山を穿つ鳴動と共に魔狼の巨大な顔面が捻じ切れる程に弾け飛び、
その口から多量の蒼い炎が吐き出される。
凄まじい衝撃の巨大な反動にスタンドの鉄鋲が罅割れ
拳がギシギシと軋んだ。
承太郎が撃ったのは強靱無双なる戦慄の轟撃、
流星の 『
しかしシャナの双翼の力を借りても尚、
顕現した紅世の王を怯ませるには不十分。
そこで承太郎は魔狼の極大な力を
リスクを冒してまでマルコシアスの攻撃を待った。
その結果として巨大な砲身が射出口への精密狙撃で暴発するように、
魔狼の爪撃にスタンドの拳撃を合わせ
“カウンター” を入れるコトを可能としたのだ。
力無き者でもその勇気と技術次第で絶対的立場を覆し得る、
正に極小が極大を喰う人間の “
「不完全とはいえ、 顕現した紅世の王を……!」
「
その神域に位置する光景を前に、 シャナとアラストールが同時に驚愕を叫ぶ。
しかし、 両者が真に瞠目するのはその後。
憤怒の形相へと変貌した巨大な両眼を睨み返し、
「スタンド、パワーを……ッ!」
周囲全体に轟く承太郎の喚声。
「全開だああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――
―――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」
同時に両腕を雄々しく開いたスタンドの全身から雷吼の如き光が迸り、
眼前の魔狼を含めた空間を天啓のように白く染めた。
「
「むう……ッ!」
驚天動地の出来事に、 シャナとアラストールが息を呑んだのはまた同時。
だがその
スタープラチナ内部に叩き込まれた戦闘プログラムが即座に起動する。
「ォォォォォォォォォォォォラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ
ァァァァ―――――――――――――!!!!!!!!!!!!」
猛り狂う承太郎とスタープラチナの咆吼と共に、
夥しいスタンドの拳がマルコシアスの貌全域に降り注ぐ。
拉げた頬桁を蠢かしその顎を開いて
承太郎に喰らいつこうとしたマルコシアスの口は、
その遍く流星群のような乱撃に無理矢理閉じさせられた。
巻き起こる旋風と迸るスタンドパワーにより、
炎の熱を吹き飛ばし重力すらも振り切って炸裂し続ける白金のラッシュ。
本来、 顕現した紅世の王、 マルコシアスにとってはコレすらも
棘が刺すような微細なモノでしかない。
だが数千発、 否、 『数十万発』 まとめてクれてヤれば、
巨大な拳で何度も殴られているに等しき大衝撃。
深いダメージを受けている様子はないが
それでも蒼き魔狼は永続的に着弾し続ける白金の光に爪牙を阻まれ、
その巨体を大地に縫い止められる。
勇壮なる承太郎の風貌と狂猛なるマルコシアスの外貌が、
全く同等の存在として天空に対峙した。
「アノ…… “蹂躙の爪牙” と……真正面から殴り合ってる……」
「全く……何という男だ……アノ者は……」
中間で、 その二人の壮絶な果たし合いを見据える
フレイムヘイズと紅世の王が、
呆気に取られたようにそれぞれの感慨を漏らした。
そして迸る白金の光が両者を照らすその間にも、
スタンドのスピードは更に加速度を増していく。
(もっと……もっとだ……! スタープラチナ……ッ!
“アレ” を使うには、 まだスピードが足りねぇ……!
限界を超えてその
コイツにも……! DIOのヤローにも……ッ!)
『オラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアアアアアア
ァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!!』
宿主の心情が伝播したのか、屈強な守護者は喚声を荒げ
この一点にスベテを振り絞るかのように弾幕を射出し続ける。
魔狼は忌々しそうに火吹きを散らして唸るが
己にはないそして初めて受ける “スピード” という圧力に抗しきれず、
再び縛鎖にその身を封じられたかの如く微動だに出来ない。
そして、 やがて徐々にではあるが、
白金の流星群が放つ光に魔狼が後方へと押され始め
承太郎とスタープラチナもソレに連動して前へとズレた。
「行けッッ!! そのまま!! もっと強く!! もっと速くッッ!!」
己の想像を超えて繰り広げられる光景に
最早心中を抑えられなくなったのか、 声の限りにシャナが叫ぶ。
(む……うぅ……
生身の人間に過ぎぬ貴様が……)
同調するように胸元のアラストールもその胸襟を露わにする。
(ならば……みせてみよ……! 紅世真正の魔神足る、
この “天壌の劫火” の眼の前で……!)
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!』
二人の声に応えるかのように、 スタンドの喚声が更に高まる。
そして凄まじいエネルギーの激突に空間自体が変質し始め、
魔狼を形成する蒼き炎の色彩が薄らぎ始めた。
スタープラチナの放つ凄絶なラッシュの衝撃波に
周囲の空気が弾き飛ばされ、
限りなく 『真空』 に近い状態となったのだ。
(!!)
ソレを最大の好機と見定めた承太郎は乱撃を射出し続けるスタンドに代わり、
これから発動させる 『
そう。
スベテは、 この “一撃” の為に。
先刻の巨大なカウンターも、 いま総射している狂乱の弾幕も、
スベテはこれから
ソレは――
嘗てこの世界生物全ての頂点に立っていた太古の最強種、
幼き頃、 曾祖母より繰り返し聞かされた、 風の “
左腕を、 関節ごと右廻転!
右腕を、 肘の関節ごと左廻転!
その関節駆動領域の限界を越えて捻り込んだ腕を振り解きながら
刳り出される双掌撃の廻転圧力に拠って生じる更なる真空空間に、
両掌へと集束させた莫大な量のスタンドパワーを同時に叩き込む神技!!
(DIOのヤローに喰らわせてやる予定だった “
特別にテメーにクレてやるぜッ! 犬ッコロッッ!!)
スタープラチナと交差させて刳り出される承太郎の両掌が、
その裡で輝く星雲の如きスタンドパワーが、
眼前で形成される多重真空空間を透して魔狼の顔面に撃ち込まれる。
その様相、 この世界という
【
ソレは極限をも超えた精神の爆発に拠り、
限りなく偶発的に目醒める云わば一つの 『奇蹟』
嘗てある者は、 己の想いを託す為死の顔を石面に刻み付け、
またある者は誰も触れるコトすら叶わない絶対的存在に挑むコトを可能とし、
そしてまたある者は、 肉体が絶命したのにも関わらず
ソレでもその死を乗り越え最後まで生き続けた。
通常の理を、 遙かに逸脱した光景。
しかし人類史上、 ソレによりスタンドの 「破壊力」 が増したり
「射程距離」 が伸びるといった現象が確かに存在する、
スタンドとは、 その名が示す通り傍に立つ者。
苦難に立ち向かう者。
そして!
神の 『試練』 に
「ヤっちゃえええええぇぇぇぇぇぇぇ―――――――――!!!!!!
承太郎オオオオオオオオォォォォォォ――――――――――!!!!!!!!」
背後から響く喊声と共に、
天地開闢の如き
流星の “
【
超流法者名-空条 承太郎
破壊力-S スピード-S 射程距離-C
持続力-E 精密動作性-S 成長性-測定不能
グァオンンンンンンンンッッッッッッッッッ!!!!!!!!
時空が殺ぎ取れるような異質な残響と共に、
魔狼の左顔面が頭部諸共跡形もなく消滅した。
更にソコから頚部を伝って大きな亀裂が生じ、
その最終地点である破滅の爪牙を前脚ごと吹き飛ばす。
『GUUUUUUUUUGYYYYYYYYYYYY
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
AAAAAAAA――――――――――――――――
―――ッッッッッッッッッ!!!!!!!???????』
破滅の大地を踏み拉いていた左脚が無くなったコトにより
巨躯を支えていた危うい均衡がガタガタに崩れ、
全身に掛かる重力の魔が地中から這い擦り出した手のように
蒼き獣を底の底の方へと引き寄せる。
真空と真空とがブツかり合って創成された
ソコへ更に究極の速度で撃ち込まれた幽波紋。
次元の壁を撃ち砕き、 その彼方まで突き抜ける程の超パワー。
ソレが生み出す恐るべき 『
行使する空条 承太郎さえも知り得ない。
だがその時の
昏き闇の中、 静かに微笑を称える背徳の少年を。
逃れられない破滅の円還の中、 終局に向かい駆ける哀しき魔人を。
生と死の境界で永劫に彷徨う、 赦されざる亡霊を。
忘却の世界の果て、 優しく降り注ぐ雨の下、
一人の少年を抱き寄せる聖麗な女性を。
そして。
その深遠に
「……」
神威に匹敵する光景を前に、 一人の勇壮な 『スタンド使い』 が
焼塵に塗れた制服の裾を戦風に靡かせる。
『運命』を切り開き、 世界を正しき方向へと導く、
『時の使者』 で在るかのように。
(スゴ……イ……)
全身を駆け抜ける愉悦にも似た顫動と共に、 シャナは空間に佇む青年をみつめた。
心の裡は一点の曇りもなく澄み渡り、 悲しくもないのに双眸へ涙が溢れた。
(スゴイ……スゴイ……本当に、 スゴイ……ッ!)
瞬間、 極限まで昂った少女の深奥で、 紅蓮の炎を司る存在の 『源泉』 が弾ける。
今までような怒りでも激情でもなく、 只一つの純粋な 「歓喜」 によって。
灼熱の双眸が無限の超高密度、 “真・灼眼” へと変貌する。
同時に背の双翼が更に烈しく燃え盛り、 身の丈を優に越える “大翼” と化した。
その大翼が生み出す空前の機動力が瞬時に少女の姿をそこから消し去り、
崩れ落ちる魔狼の背後へと紅蓮の羽根吹雪と共に現わす。
もう一人には、 戻らない、 戻れない。
だから二人で、 どこまでも往く。
その誓いとして、 証として。
(私は……ッッ!!)
逆手抜刀の構えで背後に据えた少女の刀身に、
闘気、 炎気、 剣気、 無数の気の集合体が凝縮し
真紅の放電を空間に撒き散らす。
護られるだけはない、 護るだけでもない、
もっと大いなる意味を世界に解き放つ
“
神が女を、 男の頭から造らなかったのは、 男が支配されないため。
男の足から造らなかったのは、 男の奴隷にならないため。
男のアバラから造ったのは、 男の脇に居てもらうため。
つまり。
互いを支え合い、 共に 『未来』 を切り開くため!
無明の双眸を携えた少女の背で、 鳳凰の天翔の如く大翼が炎を噴き出し
超音速のスピードを宿した紅蓮の討刃がその喉元カッ斬るように
亀裂が走った魔狼の頚部へとダイレクトに刳り出される。
「オッッッッッッラアアアアアアアアアアアアァァァァァァ
ァァァァ―――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!」
【
発動条件-真・灼眼+紅蓮の双翼
遣い手-空条 シャナ
破壊力-AAA スピード-AAA 射程距離-AAA
持続力-AAA 精密動作性-AAA 成長性-測定不能
『―――――――――――――――――――――
ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!??????』
半壊した巨大な頭部が、 声無き絶叫を上げて天空に
文字通り零距離で撃たれた超絶技が捲き起こす凄まじい旋風と真空破により、
崩れ堕ちる首無し胴体を覆う蒼炎の表面が吹き飛ばされ
内部の 『
透明な真球の裡で胎児のように躰を丸め、
神器 “グリモア” を胸元に抱く
“弔詞の詠み手” マージョリー・ドーの姿が。
魔狼の首を刎ねたまま速度を弛めず
前方でこちらを瞠る承太郎の手を取ったシャナは、
再度光芒を牽いて上空へと翔け昇り一拍の間も於かず
その 『原核』 に向け急速に降下する。
そし、て。
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ
ォォォォォォォォォォォォォォォ―――――――――――
ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」」
どちらが申し合わせたわけでもなく共に喚声を上げ、
硬質な外殻にスタンドの拳とフレイムヘイズの刺突が同時に繰り出された。
瞬時に大きな亀裂と微細な罅で覆い尽くされた真球は、
そのまま官能的とも云える音響にて夥しい晶片となって弾け飛び
ソコから開放された美女の裸身が天空へと舞い上がる。
「……」
悠然とした微笑を浮かべ荒れ果てたアスファルトに着地した無頼の貴公子が、
纏った学生服の襟元を掴み背後へと高らかに放った。
中空でその学ランを受け取ったスタープラチナが
右腕に抱えた無防備な美女の躰をソレで包む。
後に残った魔狼の巨躯は瞬時に元の炎へと返還され、
一挙に膨張し雪崩れ打つように放散した。
壊れかけた封絶全域に鏤む蒼い炎塵にその躰を彩られながら、
紅蓮の大翼を携えた少女が青年の傍へと舞い降りる。
「……」
「……」
最早互いに、 言葉は意味をなさない。
ただ、 やるべき事を全力でやり遂げた充足感のみが
二人の心を充たしていた。
激戦の終極を告げる、 寂滅の大気。
解れた封絶の隙間から外部の光がプリズムのように降り注ぎ
周囲は幻想的な雰囲気を称える。
その世界の中心で。
「やれやれだぜ」
「やれやれだわ」
『スタンド使い』 の青年と “フレイムヘイズ” の少女の声が、
静かに折り重なった。
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