STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『FOREVER LIVE &……』

 

 

【1】

 

 

 自分の返答は聞かず言うだけ言った青年と少女が去った後

(何やらケンカしていたようだが別にどうでもいい)

しばし放心していたマージョリーはやがて、

鉛を含んだような躰を引き起こし香港の街路を歩いた。

 ラミーが自分に気を使ってか、 まだ封絶が解けていなかったので

眼に付いたブティックで服を物色し外套代わりの学ランはそこに置いてきた。

 肩にかけたグリモアが異様に重く感じ、 運ぶ足も我ながら頼りない。

 どこをどう歩いたのかも解らぬまま、

やがて封絶を抜けていたのか異国の喧噪の中に自分はいた。

 

「……」

 

 アレからどれだけ時が経っていたのか、

周囲は夕陽に包まれ彼方の水面も黄金色に輝いている。

 吹き抜ける海風が、 解けた髪を静かに揺らした。

 

「に、 してもよ。 まさかあのクソヤローの正体が “螺旋の風琴” だったとはよ。

アノ “頂の座” と双璧を成す紅世至宝の 『自在師』 とか云われてたが、

ここ数百年ばかり噂聞かねーからとっくの昔にくたばったのかと想ってたぜ」

 

 今の心中が解っているのか、 わざと軽快な口調でマルコシアスが言う。

 

「何にしてもそうだと解ってりゃあコッチも油断はしねー。

“次” はもっと念入りに歓待してヤるとしようぜ。

なァ? 我が反逆の麗女、 マージョリー・ドー」

 

「そう、 ね……」

 

 でも、 口から出たのは自分でも驚くほど弱々しい言葉。

 今までなら、 強敵相手に戦略上撤退を余儀なくされた時も

その心中は狂暴な復讐心で燃え盛った。

 逃げる事は負けじゃない、 死ぬ事こそが本当の敗北なのだと頑なに信じてきた。

 だから今回も、 ソレと同じコト。

 傷を癒し、 力を戻し、 “アイツ等” に自分を殺し損ねた事を

死ぬほど後悔させてやればいい。

 

(……)

 

 でも、 どうしてだろう?

 ()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

「マルコ……」

 

「アン?」

 

 雑踏の中で立ち止まり、 消え去るような声で自分の被契約者に言った。

 

「私、 戦いだけじゃなく、 何かもっと大きなモノに負けちゃった気がする。

一体何の為に今まで戦ってきたのか、 それさえも解らなくなっちゃった」

 

 言うべきか黙するべきか、 躊躇うよりも早く言葉は出ていた。

 自省というよりは自暴、 自暴というよりは逃避に近い。

 自分でも、 何でそんな泣き言めいた事を口にしているのか解らなかった。

 今まで敵と相対した時、 当たり前のように在った “憎しみ”

 ソレが無くなったコトにより、 その心の空隙には恐ろしいほどの虚無が拡がっていた。

 

「……」

 

 美女の独白を聞いたマルコシアスはしばらく黙っていたがやがて、

 

「疲れてンだよ。オメーは」

 

短くそう言った。 

 

「ズタボロん時何言おうがやろうが、 ロクなコトにゃあならねー。

食って飲んで寝て、 そっから先の事ァ眼が醒めてから考えろ。

何が在ろうが、 時間は元に戻んねーだからよ」

 

 ぶっきらぼうにそう言い帰館をマージョリーを促す。

 言われるままに彼女もそれに従った。

 異国の雑踏を力無い歩調で進む儚げな印象の美女。

 普段の傲然とした覇気は見る影もなく、

今はただ戦いに傷ついた一人の女がそこに在るのみ。

 普通の人間でも、 今の彼女を籠絡するのは容易と想わせるほどに。

 適当に見繕ったシャツとジーンズ、 履き慣れないカジュアルシューズの

靴音が断続的に耳元で響いた。 

 

(逢いたい、 な……)

 

 歩きながらワケもなく、 そう想った。

 ソレが余りにも身勝手で自己中心的な願望だと充分承知していながら。

 自分で勝手に捨てたくせに、 その結果 “彼” がどんなに傷つくか解っていたくせに。

 そんな事を考える自分の浅ましさに、 もう溜息も出なかった。

 やがて眼に入る、 一脚のベンチ。

 

(そう言えば、 ここで逢ったんだっけ……)

 

 直接眼を合わせたわけではなく、 自在法の生み出す想像の世界の中でだが、

確かに此処で自分は彼と邂逅した。

 今想えば、 普通の出逢いというには余りにも奇妙な、 最初の接触。

 その後反対するマルコシアスを無理矢理黙らせ、

舗道を隔てたガードレールの方へ。

 

「……」

 

 ソコ、 に――。

 

「……」

 

 肩からグリモアが落ち、 アスファルトの上に大きな音を立てて転がった。

 背後で誰かの叫声がしたが、 聞こえない。

 激しく高鳴る胸の鼓動と震える口唇。

 全身を劈く恍然した痺れの中抗いようのない引力に惹かれるように、

自分の躰は勝手に動いた。

 いるはずがない。

 そんな事、 在るはずがない。

「約束」 の時から、 もう何時間?

 周囲も既に黄昏で染まっているのに、 こんな、 自分なんかの為に。

 ずっと……?

 やがて、 最初の時をトレースするように、 前へ立つ自分。

 斜陽にその身を照らされながら、 微睡みに耽る中性的な風貌の少年。

 気配を覚ったのか、 そっと開く琥珀色の瞳。

 そし、 て。

 

「こんにちは。 ミス・マージョリー。

今日は、 何から始めますか?」

 

【挿絵表示】

 

 

 まるで何もなかったかのように、 彼はいつもの表情で、

優しく自分に微笑みかけてくれた。

 

「……」

 

【挿絵表示】

 

 

 躰から、 スベテの力が抜けていく。

 心が、 光り輝くナニカで充たされていく。

 もう、 無理だった。 限界だった。

 でも、 それでもいいと想った。

 たった一人だけでも――

 ずっと自分を待ってくれている人がいたから。

 自分の全てを受け止めてくれる人がいるから。

 消えないから。

 温かいから。

 哀しみも弱さも何もかも、 この人にならさらけ出す事が出来るから。

 

「どうしたんですか? 何かあったんですか? ミス・マージョリー」

 

 細い躰に両腕を廻し、 胸元で嗚咽を漏らす自分の傍で声が聞こえる。

 もっと言って、 名前を呼んで、 力いっぱい抱き締めて。

 他にはもう、 何も要らないから。

 

 

 

 

 

 スベテを失った、 一人のフレイムヘイズ。

 しかしソレは、 終わりではなく始まり。

 

 

 

 

 

 

“敢えて 『全て』 を差し出した者が、 最後には真の 『全て』 を得る”

 

 

 

 

 

 

 

 それが確かなる 『真実』 で在るという事を、

彼女を優しく抱きとめる存在が顕していた。

 ザワめく群衆の中、 周囲の注目を一身に受ける二人を、

一人の少女が優しく見つめている。

 風に揺れる、 柔らかな栗色の髪と澄んだアイスグリ-ンの瞳、

その傍らに立つ、 七色の光で彩られた神聖の守護者。

 

 

 

 

 

 

 

『よかったね……マー姉サマ……もう……大丈夫だね……』

 

 

 

 

 

 

 

 誰にも聴こえない声で少女はそう呟き、 満面の笑顔をいっぱいに浮かべた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

『後書き』

 

明日はお休みします。

『第二部』ももう終わりですね。

またぞろ、休みのペースが多くなるかも知れませんが、

『復刻』出来る処まではやり遂げる所存です。

以降はまだ解りません。

コレは『書籍化』出来ないので。

 

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