STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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エピローグ Ⅰ ~Eyes of Heaven~

 

 

【1】

 

 

 神聖なウォーターブルーの光が生み出すスタンドの幻象。

 白金の光に包まれた青年が、 蒼炎の巨獣を討ち倒す処を鮮明に映し出していた。

 荘厳なネオ・クラシックチェアーでその能力(チカラ)を操る男は、

妖艶な微笑を浮かべ真紅の液体で充たされたヴェネチアン・グラスを口元に運ぶ。

 その脇で白い帽子と外套を纏った少女が、 透徹の美貌を微かに張り詰めさせていた。

 

( “男子三日会わざれば刮目して見よ” とは云うが、 コレは、 しかし)

 

 少女の対角線上に位置した艶めかしい白い肌の男も、

強靭な意志を宿すアッシュグレイの瞳で眼前の光景に見入っている。

 唯一、 そのスタンドの一番傍にいた褐色の麗女だけが

いつもと変わらない不敵な笑みを漏らした。

 その能力、 知性、 精神共に最上位に位置する

『スタンド使い』 と “紅世の王” 三者三様の沈黙の中、

その頂点に君臨する全能者が左腕に絡みついた(かずら) を緩やかに振る。

 一分の間も於かず眼前の巨大なスクリーンが立ち消え

無数の調度品で飾られた瀟洒な室内が開けた。

 

「……! 失礼致しました」

 

 映像が途切れると同時、 我に返った氷の美少女がチェストに於かれた

クリスタルの水差しを手に取る。

 男は別段気にした様子もなく、 蠱惑的な芳香を放つ真紅の液体を

グラスで受けながら魂を蕩かす微笑を少女に向ける。

 もし(くだん) のダークスーツの男がここにいたのなら、

嫉妬に狂いまたぞろ眼も当てられぬような惨状になったに違いないが

幸運 (残念) なコトに今その男はここにいない。

 

「どうした? “ヘカテー” 微かに心音が高鳴っているぞ」

 

「!」

 

 再びグラスを口元に運びながら、 眼を合わさず告げられた男の言葉に

少女の可憐が朱に染まる。

 表情には決して出さなかった筈だが

感情の流れによって生じる身体の微弱な変化から

心の裡まで見透かされたコトに、 少女は戸惑いを禁じ得ない。

 しかし告げられた事実に不服がある筈もなく、 返って彼女の意は固まった。

 

「統世王様、 畏れながら申し上げます」

 

 クリスタルの水差しをチェストに置き、 紅世最強の 『自在師』

その真名 “(いただき)(くら)” ヘカテーはDIOの面前に歩み寄った。

 

「どうか、 次の出陣はこの私に任されますよう、 切にお願い申し上げます。

必ずや御身の御期待に沿えるよう尽力致します」

 

【挿絵表示】

 

 

 そう言ってヘカテーはDIOの前に傅き、 最大級の礼を執る。

 DIOは黙ってそれを見つめ再度口中を真紅の液体で湿らせた。

 

「わざわざおまえが出る迄もないとは想うが」

 

「御心遣いに深謝を。 ですが、“アノ二人”

特に 『星の白金』 の成長速度は迅過ぎます。

不完全とは云え、 顕現した紅世の王まで討ち果たすほどの能力(チカラ)をこの短期間の内に。

このまま放任すれば、 やがて御身にとって深刻なる災厄と成る事は必定でしょう。

ここは早急にその芽を刈り取り、 後顧の憂いを絶ちたく存じます」

 

 言葉の終わりと同時に顔をあげたヘカテーの瞳に宿る、 深層なる大命の炎。

 絶対零度の色彩の裡に秘められた、 無限の極熱。

 

「フッ」

 

 その彼女の決意を戯弄するような微笑が、 死角の位置から届いた。

 

「何が、 可笑しいのですか?」

 

 普段感情の起伏を殆ど見せない少女が、

珍しく心中を露わにしてその言葉の主、 エンヤに問う。

 静かな、 しかし凜冽な視線を向けられた麗女は

纏ったショールを梳き流しながら綽綽と告げる。

 

()()()()()()()()怖れを抱くとは、

紅世の 『大御巫(おおみかんなぎ)』 とやらも、 随分と狭量よの?

ましてやそのような塵芥に等しき者がDIO様の脅威になる等と、

死を以て恥じねばならぬ進言じゃ。 ククク……」

 

【挿絵表示】

 

 

 この挑発的な物言いには、 透徹の少女も氷の双眸を鋭くする。

 

「視ていなかったのですか? アノ者は」

 

「ソレが “侮辱” だと言っておる」

 

 頭上から見据えるように、 エンヤは言葉を遮り背に掛かる漆黒の髪をかき上げた。

 

「あんな脆弱な獣如き、 我がスタンド 『正 義(ジャスティス)』 ならば」

 

 空間を撫ぜるたおやかな感覚と共に、 ヴェールを彩る銀の装飾が澄んだ音を奏でた。

 

「十秒で、 跡形もなく消滅出来る」

 

「――ッ!」

 

 確信と共に告げられた言葉が漆黒の双眸を透して少女の躰を震わせる。

 虚勢や増長ではない、 その妖艶な躰から発せられる冥界の大気のような

存在の力(スタンド・パワー)』 に拠って。

 その力に共鳴するように少女の躰からも、

天界の聖気を想わせる水蓮の炎気が静かに立ち昇る。

 不和の相関なれど味方同士で争うのは本末転倒もいい所だが

専心せずに向かい合うには相手が強大過ぎ、

本懐を撤回するにはその対象が絶大過ぎた。

 

「……」

 

「……」

 

 言葉には出さねど一触即発の雰囲気で向かい合う、

現世の麗女と紅世の美少女。

 数メートル離れた位置で両者を見据えるヴァニラ・アイスは、

何が在っても対応出来るよう既に戦闘神経を極限まで研ぎ澄ませている。

 その直接の原因であるDIOは興味が在るのか無いのか、

変わらぬ表情でグラスを傾ける。

 豪奢な調度品で彩られた瀟洒な室内にて、

歴代屈指の 『スタンド使い』 と “紅世の王” との決闘が火蓋を切ろうとした刹那。

 バダンッ!

 場違いな音が室内に響き、 次いでバタタという軽やかな音が耳に入った。

 DIOを除く全員が瞳の動きのみで両開きの扉に視線を送った先。

 艶やかな撫子色のドレスを身に纏った少女と

その上に覆い被さった臙脂色のスーツを着た少年が、

ペルシャ絨毯の上でジタバタと藻掻いていた。 

 

「お、 お兄様! 押してはなりませんと申したでしょうッ!」

 

【挿絵表示】

 

 

「だ、 だって、 DIOサマの声よく聞こえないんだもん!」

 

【挿絵表示】

 

 

 メダリオンの意匠の上でドレスを揺らしながら起きあがった金髪の少女が、

合わせ鏡のような風貌の少年を(たしな)める。

 少年の方もその青い瞳に涙の粒を浮かべながら反論を試みる。

 一見微笑ましい光景だが、 覗いているのを(DIOを除く)

誰にも覚られなかった事実から

この二人もまた尋常成らざる遣い手で在るコトが視て取れる。

 そこに。 

 

「貴様等……」

 

 両腕、 脚部を剥き出しにしたラバーウェアの男が

己の不覚も相俟って空間を剥るような途轍もない威圧感と共に

同じ髪と瞳を携えた紅世の双児、 ソラトとティリエルに迫る。

 

「ひっ……!」

 

「……ッ!」

 

 スーツの少年が細い悲鳴を上げて妹に縋り付くと同時に、

ドレスの少女は慄然としつつも兄を抱き寄せ気丈に男を睨み返した。

“亜空の瘴気” ヴァニラ・アイス

 基本寡黙で慎み深い男だが、 一度キレると何をしでかすか

解らない危うさも同時に併せ持つ。

 ましてやソレが絶対的な忠誠を誓う主への非礼ならば尚更のコトだった。

 しかし。

 

「……何をしとるんじゃ? 貴様等」

 

 険難な怒りを燃やす美丈夫の前に、

いつのまにか来ていたエンヤが片手を挙げ気炎を制する。

 ただそれだけの仕草で傑出した最強のスタンド使いは私憤を諫め

遠間に位置するヘカテーも双眸を瞠った。

 

「あ、 あの、 お茶のお時間なのですが、

エンヤ姉サマが戻ってらっしゃらないので心配になってしまい」

 

「ボ、 ボクも手伝ったんだよ。 でも、 早くしないと冷めちゃうから」

 

 無垢な表情でそう語る紅世の双子に

麗女は片膝を曲げ両手を腰の位置で組みながら端然と告げる。

 

「今日は軍議が長引くと申したであろう。

貴様等だけで勝手に始めれば良かろうが」

 

「でも……」

 

「うん……」

 

 その返答に、 顔を見合わせながら声を先細らせる兄と妹に

 

「えぇい、 解った、 しようのない奴等め。 そこで待っておれ。

どのみちもう終わりかけておった所じゃ」

 

麗女は似合わない仕草で緩やかなウェーブのかかった髪をヴェールごと掻き毟り

据えられた本革のソファーへ二人を促した。

 ソラトとティリエルは花が咲くような笑顔を同時に浮かべ、

傍に佇むヴァニラ・アイスの前を通り過ぎる。 

 遠間に立つヘカテーも、 彼女の意外な一面に呼気を呑んだ。

 そこに。

 

「フ、 フフフフフフフ、 ハハハハハハハハハ」

 

 耳慣れない、 若い男の声が到来した。

 ソラトとティリエルが向けられたソファーの、 真向かいに座っていた人物。

 肘掛けに背をもたれ、 十字架の装飾が付いた幅の広い

レザーの帽子で顔半分が覆われている。

 纏った衣服は黒い、 荘重な色彩の司祭平服(キャソック)

それに掛かる薄地の外套。

 胸元は勿論、 その装飾に至るまで神の象徴(シンボル)で在る

ロザリオが威光を放っている。

 

「誰? この人?」

 

 あどけない表情でソラトが、

 

「エンヤ姉サマ……」 

 

脇のティリエルも、 ヴァニラ・アイスとはまた異質の只ならぬ気配を覚り、

双眸を張りめかせる。

 荘厳且つ清浄ではあるが、 触れただけで己の存在を根底から

()()()()()()ような(くら)い霊気を男は称えていた。

 

「DIO様の客人じゃ。 詳しいコトはこのワシも知らぬ」

 

 そう言ってエンヤはその若い男を一瞥する。

 

「……」

 

 男は微笑んだのか口唇を少し曲げ、 おもむろに立ち上がった。

 

「フッ “紅世の徒” という存在。

最初に聞かされた時は少々面喰らったが、

なかなか興味深い者達じゃないか? ()()()

 

 そう言って男は胸元のロザリオを揺らしながら、 親しげな口調で絶対者に問いかける。

 

「貴様……! DIO様に対しッ!」

 

「無礼な……!」

 

 瞬時に激昂したヴァニラとヘカテーが男の前に立ちはだかる。

 

「……」

 

 男は最強のスタンド使いと紅世の王の脅威に同時に晒されながらも、

全てを慈しむような微笑を(たが)えずただその場に佇んだ。

 

 そこに響く、 天啓のような声。

 

「いい。 彼は私の “友人” だ」

 

 それまで黙っていたDIOが、 厳かに口を開いた。

 

「詳しく説明しておかなくて悪かった。 何せ急な来訪だったものでな」

 

 そう言うとDIOは、 その知友に艶めかしく微笑む。

 男も同じように、 己の友へと微笑を返す。

 間に残されたヴァニラとヘカテーは、 呆気に取られたように両者を見つめるのみ。

 

「まぁ、 そういう事だ。二人とも矛を収めてもらえるか?

まだ若い、 至らぬ点は私が侘びよう」

 

「い、 いえッ!」

 

「そのような事は……決して……」

 

 DIOの想わぬ返答に、 両者は戸惑いながらも即座に戦闘状態を解除する。

 

「失礼」 

 

 司祭平服(キャソック)の長い裾を揺らしながら、

その男は悠々と二人の間を通り抜けDIOの前に立った。

 

「何か飲むか? “プッチ” 」

 

 DIOはそう言って精巧なヴェネチアン・グラスを傾ける。

 

「戴こう」

 

 プッチと呼ばれたその若い男は、 緩やかな仕草でDIOの手からグラスを取り

ソレを口元に運んだ。

 その部屋にいる全員の視線が、 正と負あらゆる感情を織り交ぜて男の背に突き刺さる。

 プッチはそのコトを意に介さず飲み干したグラスをチェストに置き、 口を開いた。

 

「それにしても、 人が悪いな? DIO。

このような楽しいコトを行っているのなら、

どうしてこの私を呼んでくれない?」

 

 そう言うとプッチはDIOの背後に廻り、 椅子の背もたれに両腕を絡めた。

 

「フッ、 そろそろ呼ぼうと想っていた処だ。

空条 承太郎とその片割れ、

私の想像を超えて 「成長」 している為、 面白いコトになりそうなのでな」

 

「フム、 君と私の 『スタンド』 には及ぶべくもないが、

だが “アノ二人” 確かに使えるかもな。

私と君が目指す、 『天国』 の “実験体” として」

 

 そう言うと知友である両者は、 互いにしか解らない微笑を(つぶさ) に交わす。

 

「これから先の戦い、 途中で死ぬならソレもよし。

()()()()()()()()()()()()……フ、 フフフ……」

 

「私達の最終目的の “鍵” は、 己が 『宿敵』 か……

コレも 『運命』 そして “引力” だというのならば……実に興味深い。

いいだろう、 完璧を期すため、 是非この私も協力しよう」

 

 プッチはそう言って、 DIOの眼前に翳した手を半円状に振る。

 次の瞬間には、 その指の隙間に輝く無数の “DISC” が出現している。

 

「!」

 

「!」

 

 最強クラスのスタンド使いの眼にも、 いつソレが現れたか解らないほどの行使力。

 その能力の名が、 プッチの口から静かに告げられる。

 

「我がスタンド。 この 『ホワイト・スネイク』 でな……」

 

 そう言って微笑む男の顔は、 煌めくシャンデリアの下、

この世の何よりも神聖で何よりも邪悪に映った。

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

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