これじゃ怪しいおじさんだぜ。
長門一団の一件から、昼頃。
皆、これまでの極度の緊張感から解放されたのか、様々な話に花を咲かせているようだ。
邪魔をするわけにもいかないと、私は一人で鎮守府を歩き回っていた。何をするなどの当てもないのだが、セルブスがどこで何をしているかも分からないし、探しに行くのもありだな。
しかし、こちらに来て早何日ばかり。狭間の地で慣れているものとは全く違う感覚に、驚きや発見、疲れもかなりある。(寝てた割には)
安息地でも作るか…、そんなことを思い浮かべながら、ぼっと歩いていると…
「きーしれーかんっ!!」ポンポン
褪人「…む?」
雷「ちょっと?もう忘れちゃったの…?私よ、いかづ「忘れるわけがないだろぉぉっ!!」ひゃあぁっ!?」
電「きしれーかんさん!?雷ちゃんに飛び込んじゃダメなのですー!?」ポカポカ
………
褪人「す、すまん。少し色々あってな、気が動転していた…」
電「でも、急に飛びついたりするのはこわいのです…」
褪人「いや、それはな。お前達二人を見ていると、もはや安心感がありすぎて何というべきか…。おぉ癒しというか、よくやった!というか、万歳!というか…」フムム
要は褪せ人にとって、この二人はマスコット的存在なのである。某大壺の漢と同じ感覚だろう。
電「……???」ハテナ?
褪人「ま、まあともかく!すまなかった、許してくれ」パチッ
雷「いいわよ別に。でもその鎧重いんだから…」
雷「(鎧無しだったらよかったのに…///)」ブツブツ
心なしか何か聞こえた気がするが、気のせいだろう。
無事に雷からも許しを得たところで、私は用件を聞いた。
雷「あ、そうそう。これから倉庫の掃除をしにいく所だったの。きしれーかんも一緒に…と思ったけど、その様子じゃ…」
褪人「いや、私にもやらせてくれ」
雷「でも…昨日は本当に大変だったって、陸奥さんから聞いたから。それなのに、わたし……」
電「電たちが寝てる間、そんなことがあったなんて知らなかったのです…。お役に立てなくてごめんなさいっ」ペコリ
雷と電の二人はずっと申し訳なく思っていた。やっと見つけた信頼し合える提督、その命の危機に駆けつけられなかったのだから。
褪人「うーむ。あれは種々の問題があったからなぁ…特段、謝ることでもないだろう?」
電「それでも…」シュン
褪人「それに先も言ったが、お前達を見ていると私も安心できるのだ。だから、私も共にいたい」グッド!
雷「きしれーかん…」ウルウル
電「ふえぇぇ…」ウルウル
お、おぉ…?泣くほどか?
本当に、そこまで気にすることでもなかったと思うのだが。二人とも涙脆いものだな、はっは。
ちなみに、騎士司令官→きしれーかんに短縮されていることに褪せ人は全く気がついていない。むしろこの方がお互い違和感のない呼び名なのかもしれない。
…………
―鎮守府・倉庫群―
ガシャァァァン…
倉庫の入口の重厚な扉を開けると、そこには沢山の宝物…
褪人「ってすっからかんじゃないか!!」ズテーン
雷「前の司令官がいなくなった時に、軍の人たちが資材とか全部持っていっちゃったの」
電「皆であんなに頑張って集めたのに…ひどいのです!」プンプン
やはり…。
これだけの大人数がいて、軍部は物資を根こそぎ横取りしていったのか?何たる非情さ…。
褪人「(奴には早く着いてもらわねばな…)」
褪人「ふむ…そうとなると、何を掃除すればいいのだ?」
雷「床や壁に散らかってる埃を取るくらいね。倉庫なだけあって、広さは結構あるから二人じゃ大変なの」
褪人「なるほどな…。む、暁や響はどうした?何ならはぐ公にも手伝わせるべきだったか…」
雷「あの子達は寮の方で、また一仕事してるわ。ほんとにどこもかしこも散らかりっぱなしなのよ」
"皆、そんなこと気にしてられなかったからしょうがないんだけど…。"、と雷は加えた。
まあ人数に合わせて、この建物もかなり規模は大きい。それを一辺に片付けようとしても時間はかかるのは間違いない。
二人がそんなことを話していると、電が箒などの掃除用具を持って走ってきた。
褪人「おぉ、そんな焦らなくてもいいぞ~」
電「ふたりともー!持ってきたのでs」ドターーン
褪雷「「あちゃあ……」」
見事にずっこけた電なのであった。
しかしそこからというのは、時折雑談や褪せ人の戯れが繰り広げられつつ、意外にもテキパキと掃除をこなしていく。
褪人「掃除も久々にすると楽しいものだな。こう、箒をっ、ほっ!」ササッ
電「武器みたいに使っても埃が飛ぶだけなのですー!」アワアワ
───
褪人「お前たちー!こっち見てくれ!!」
雷電「「?」」クルッ
褪人「」(死体のポーズ)
雷「ひゃっ!?び、びっくりしたぁ…」
電「はにゃああぁぁぁぁっ!!!?」
褪人「ハッハッハ!こういう場所で遺体が転がっているのは醍醐味だからな」
───
褪人「一番奥の倉庫は倒壊していたが…何があったんだ?」
雷「昔、大和さんと長門さんがものすごい戦いをしたのよ。それはもう大変でね?」
褪人「(大和……?)」
電「後、あの倉庫には、実は…ご、拷問部屋が、隠されていた!なんて噂があったのですぅ…」カタカタ
褪人「それは悪趣味な…。後で詳しく聞かせてもらおう」
───
褪雷電『できたぁーっ!!(よくやった!)』
無事に第一倉庫を綺麗に仕上げた三人。かなりペースは速かったものの、高窓からは既にオレンジ色の光が射し込んでいた。
褪人「しかしもう夕暮れだ。隣の倉庫はどうする?」
雷「しばらくはここ一つあれば十分よ。またの機会にしましょ」
褪人「分かった。では、執務室まで来てくれないか?ここで次の話をするのも癪であろう」
─────────
―執務室前―
む?扉の前に誰かが立っているな…。
電「あ…」
褪人「おーい、貴公!私に何か用があったか?」
「?」チラッ
「あー、もしかして!!」
その少女はこちらを見つけては物凄い速さで走ってきた。な、何だ、あの走り様は…!?おそらく犬…っ!?
夕立「新しい提督さんっぽい!?あたし夕立っていうの!よろしくね!!」ダキッ
夕立「何か、これ本当に鎧っぽい~♪」スリスリ
褪人「ぬおっ!?やはりいぬ…」
実のところ、褪せ人は犬に弱い。三匹の飼い犬…もといはぐれ狼には気を許せているのだが、どうも犬には凶暴さとそこからの苦手意識が払拭できない。
褪人「(まあ落ち着け…この子は艦娘。犬ではない、おぉ犬ではない…)」
雷「夕立?しばらく会わない間に随分変わったわね」
電「あ、あの…きしれーかんさん、ちょっと…」アセアセ
褪せ人は犬で頭いっぱいだが後ろの二人については、雷は意外な出会いをしたという反応であり少し警戒し、電は何やら焦っているようだ。
夕立はその様子に気づくと、顔をしかめた。
夕立「…ちょっと後ろの二人、その反応やめてくんない?バレちゃうっぽい」
褪人「……む?」
雷「やっぱり!また何か企んでるのね!きしれーかんから離れなsにゃっ!?」
電「な、なのでsむぐっ!?」
「おっと、これ以上はいけないよ…♪」
二人のさらに背後から忍び寄る影。口封じをしかけてずりずりと後ろへ下がっていく。
褪人「雷!電!」
褪せ人は助けに行こうとするも、夕立が力を入れて離さない。
夕立「睦月ちゃん、ナイスっぽい~」
睦月「にゃしし!睦月の手にかかればどうってことないねぇ!なーんて♪」
褪人「貴公ら!一体なにを「こうっぽい!」ドガッ ぬあぁっ!」
夕立は雷、電の二人が離されたのを確認して、褪せ人を思いきり蹴り飛ばした。鎧の防御力をもっても相当な威力で、吹き飛ばされるも何とか体勢を維持する。
雷電「「~っ!!」」バタバタ
睦月「危ないから大人しくしててってばー!睦月達は雷ちゃん電ちゃんは傷つけるつもりはないのねっ!」
褪人「何がどうなっているか分からないが…いいだろう。その勝負、受けて立つぞ」シャキッ
正直少し戦には疲れていたところなんだが…。まあいいか、御嬢との遊び事に付き合うくらいならば。
夕立「騒ぎになる前にねじ伏せて、地下まで連れてくっぽい」ダッ
褪せ人が構えると、夕立はそれ目掛けて突進。ただ夕立は艤装を出していないが…。
夕立「ほらぁ!」ザシャァッ
夕立は高く跳んでくるりと一回転。回転の間にすかさず両手に武器を持つ。そしてその勢いのまま攻撃を仕掛ける。
キイイイィンッ!!
褪人「だあッ!!」ズァッ!!
褪せ人も大剣を一振し、夕立の勢いをそのまま押し返した。普通ならば、二点からの攻撃を防ぎ切るのはかなりの力を要するため辛いが、こういう時の大剣はやはり心強い。
夕立「きゃあああっ!?」
褪人「驚いた。両手斧とはな…ただ遊びたいのかと思っていた。やはり艦娘の力量はすごいな?だが技量が足りていないぞ。そんな扱いではまだまだその武器を活かし切れん」
夕立「むー…夕立だってこれ初めて使うっぽい!明石さんにテストするの頼まれただけ!!」
褪人「そうか?ではもう一度来い!今度は刃に重心を置くようにやってみろ、腕力がそこへ向かえばさらに強力な攻撃になるぞ」
雷「敵に使い方を教えちゃダメじゃnむぐっ!」
睦月「こらこら!だから暴れちゃダメって~…」
睦月「まあでも…確かにあの人、なんで教えてくれるのかにゃ?」ニガワライ
少し遠くから見ている三人だが、ノリに乗ってきた褪せ人のコーチングに揃って困惑するのであった。
夕立「やあぁっ!!」ブウゥンッ!
褪人「ほっ!!ぐおぉっ…!」ギギギ…
夕立「どうっぽい提督さん!?これでやられてくれるかしら!!」
夕立…押しの力がかなり強いな。この大剣でさえ折れてしまわないか、心配になるくらいだ…!
褪人「だが、まだまだ…よおッ!!!」キイン!
激しい力のぶつかり合いを繰り広げる二人。その分音も激しいため、そろそろ人がいれば駆けつけてきてもおかしくはない。
夕立「うわぁっ!!うぐぐ…やっぱりこれじゃ勝てないよぉ!」
夕立「もう面倒だし、普通にいくっぽい!」チャキッ
褪人「むっ!お得意の砲台か!!」ガッ
一点留まりの体勢から動き回り始める褪せ人。数が多い場合などは大盾を使うが、通常の遠距離戦は避けまくるのが有効だ。
しかし長門達との戦いを経て分かったが、内部での砲撃戦は避けたいところだ。すぐにでも止めにいくべきか…?
「そこまでになさい!!」
夕立「ぽい?」
睦月「にゃ!?た、大鳳さん…」
二人の暴動を止めにきたのは空母、大鳳。彼女も二人と同じように、個々の制服の上から白いインバネスコートを着ている。
大鳳「新しい提督には付き従うよう言われていたでしょう。もう言いつけを忘れていたんですか?」
夕立「そ、そんなことないっぽい」アセアセ
睦月「ふぇぇ…早く連れてって、大和様にいい顔したかったからとか全然違いますからぁ…!」
大鳳「もう…勝手は後が怖いんですからね。それとも、お叱りを受けたいのかしら」ジトッ
大鳳が二人に睨みを効かせる。その凍てつくような瞳は、無邪気な二人をおびやかす。
夕睦「「いやぁ~!!」」ブンブン
大鳳「そう。じゃあその子達を離して、ほらもう行きなさい」
夕立はすぐに艤装をしまい、睦月も「ごめんなさーい!」と二人を解放し、慌てて逃げていった。
大鳳とやら、一瞬で二人を追い返してしまった…。それに何だ、ノクスの民が着てそうなあの服装は。
まあ助かったのだから、何でもよいのだが。
褪人「貴公、ありがとう?」
褪せ人は大鳳に近づき、手を差し出す。だが彼女はその手を冷たい顔して振り払った。
大鳳「…勘違いしないで。私は…教えに従うのみ」
褪人「教え?」
大鳳「…あの子達にはまだ早かっただけ。気をつけなさい、いずれ"
そのまま足早に去ってしまった…。
桜の剣…、一体どういうことだ…?