黄金律これくしょん   作:満員座・スノー

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軽い飯テロ回。(作者に食レポの文才はないのでそこまでテロりません、多分)


#6 エビ好きに、悪人はいねえ

 

日の明るくなりつつある朝。

今は空きとなった食堂部屋で会話している二人。

 

褪人「とまあ、そんな感じでラニ様に会ったわけでな」

 

ティシー「そんなことが…。本当にありがたい言葉を、ラニ…!」

 

褪人「まあ、あの事は気にしすぎるなということだ。刺客たちも混沌に包まれ気が立ってたのだろう」

 

"あの事"とは、かつてラニの従者であった刺客たちが反乱を起こした事件のことである。その理由は刺客たちの長が"娘"を死に失ったことで、狂ってしまい投獄されたことへの腹いせだろうか…。

 

 

真意は定かではないが、ともかく反乱を起こした事実にティシーは気まずい思いをしていたのである。

 

ティシー「はい。ありがとうございます…」

 

褪人「うむ!」ポンッ

 

褪人「お、姉妹達も来たか」

 

 

雷「ふあ~…久々によく寝たわ」

 

電「狼さんのモフモフ心地良かったのです~♪」

 

響「暁はまだ半寝だけどねー」

 

ガゥ……

暁「…んぇ…まだねむ…ぃ~…」zzZ

 

はぐ公に咥えられているお眠の暁。

昨晩もじゃれ合っていたらしい。鎮守府の暗い生活に寂しくなっていた暁にとって、姉妹以外の遊び友達はよっぽど嬉しかったのだ。

 

褪人「おはよう諸君!」

 

響雷電「「「おはようございます!」」」

 

 

暁「…おは、うぇ…!?お、おはよう司令官!」

 

褪人「うむ!無事に一夜過ごせたな」

 

雷「ふふ、そんな大袈裟に言うものかしら」

 

褪人「そうか?夜といえば、黒馬に乗った騎兵や恐ろしい鈴玉狩りが…」

 

電「そ、そんなのいないのです!!」アセアセ

 

響「狭間の地、やっぱり過酷だ…」

 

褪人「ハッハッハ!そんなのは序の口に過ぎんぞ。もっと恐ろしいのが…」

 

褪人「む?」

 

カツカツ

 

また知らぬ艦娘が二人、近づいてくる…朝の騎兵か?

それにあれは…かなりの風格。その強さが伝わってくるぞ。

 

「ふむ、貴様が新しく着任したという提督か?」

「…」

 

ティシー「…」キンッ

 

褪人「よせティシー。ここは一旦対話といこう」

 

褪人「そうだとも。貴公らは?」

 

長門「戦艦、長門だ」

陸奥「…陸奥よ」

 

戦艦…か。天龍たちとはまた違う、この強者の迫力は…おそらくこの鎮守府の主力。

それにかなり警戒されているな…少しでもあちらの気に触れてしまえば、戦は避けられない。

 

第六の姉妹たちも危ない状況を察したのか、黙り込んでしまった。

一触即発の状況に、緊張感が走る。

 

長門「…ふむ。いたって冷静、か。少しは話の通ずる奴のようだな」

 

陸奥「だといいけど」ジッ

 

褪人「時に貴公ら、何用か?」

 

長門「少し挨拶をしておこうと思っただけだ。貴様がいくら提督になろうとも我々は従わないと、なッ!」

 

褪人「ほう…」

 

陸奥「何よ、処罰でもする気かしら」

 

やれるものならやってみなさい、と睨み付ける陸奥。一方褪せ人は、参ったな…と困惑している。

 

褪人「処罰…か」フム

 

長門「馬鹿め!本当に受けるとでも思っていたのか!」チャキッ

 

ティシー「…ッ!」キンッ

 

雷「ま、待っ…!!」

 

雷は焦って砲撃を止めようとするも、褪せ人にその心配は無用である。

 

褪人「処罰は考えようもなかったが、"報酬"なら与えられるぞ」

 

長門「…は?」

陸奥「…?」

 

 

 

………

 

―艦娘寮・長門一味の部屋―

 

長門「…その鍋、一体何が入ってる」

 

褪人「まあ見ておけ」

 

ガチャ

 

 

由良「長門さん?みんな!二人が帰ってきた…わ…」

 

褪せ人はどんな部屋に関わらず、相変わらずズカズカと入っていく。そして、その大釜をドンと置いた。

 

村雨「ひっ…!?」ビクッ

 

時雨「早速お出ましかい?」キッ

 

龍驤「ちょ…!思ったよりゴッツいな…何やこの大漢…!」ビクビク

 

部屋の皆は震え怖がったり、身を守るように伏せたり、警戒したりとし始めた。

 

 

褪せ人は深呼吸をして、声を張り上げる。

 

褪人「私は昨日此処の提督となった、褪せ人という者だ!!」

 

褪人「貴公らの事情はある程度聞かせてもらった!そこでこれは、私からの謝礼品である!!」バァン

 

蓋を豪快にあけると、そこには大量のエビとカニが。湯気と共に出来立ての海鮮らしい匂いが部屋中を漂う。

 

陸奥「え、うそ…こんなのいつの間に…!」

 

龍驤「ふあ…うまそ…」

 

ザワザワ…

 

よし。暗い雰囲気だったが、少し晴れたな。

茹でエビ、茹でカニ万歳!

 

瑞鳳「も、もしかして毒とか…?」

 

褪人「安心したまえ。私は美味い飯を汚すのは断じて許さない」

 

褪せ人は茹で料理の達人なのである。

褪せ人となってからの主食は大抵この二つであった(たまに竜肉)

 

褪人「さあ…至高の茹で料理をご賞味あれい!!」バッ

 

褪せ人がそう言うと、匂いに釣られた者たちが次々とそれに手を伸ばしてしまう。絶妙な塩気が、茹でたての身のホロホロ具合が、エビとカニの出汁が効く…!

 

みな空腹だった。かつこんなにも美味い"食べ物らしい食べ物"を食したことなどなかったのだ。

 

 

 

白露「…」パクッ

 

白露「!!…ぅ、ぐすっ…」

 

褪人「そこのお嬢、大丈夫か?味や塩加減とか不満があれば…」

 

白露「ち、違うんです!…"美味しい"って、こんな、感覚なんだ…って」

 

褪人「…そうか。どんどん味わってくれ」ヨシヨシ

 

白露「!!う、ん…!」ポロポロ…

 

白露のように、あまりの美味しさに涙を流す者もいた。かつてまともな食糧も与えられず、ほぼ死人のような生活を強いられていた艦娘も多くいたのだから。

あの提督がいなくなった後も、何か特別な食料があったわけではない。食で満たされることなどなかった。

 

それなのに、これ程の物をいきなり食えば思わず涙を流してしまうものである。

 

 

由良「あ、あの…」

 

褪人「おぉ、貴公は!えぇと?」

 

思い切り返事しようとしたら知らぬ子だった。あちゃあ…。

とても綺麗な出で立ちだが、他の子達と同じように衣服はボロボロで傷もあるようだ…。話し掛けてはくれたが、目を合わせずに震えている。

 

由良「由良、です…そ、その…」プルプル

 

褪人「ん?何でも言ってくれて構わんよ。おかわりでも用意しようか?」

 

由良「い、いえそんなお手間は!!私は一本だけ、一本さえ戴ければいいんです…なので、その許可をと…」

 

由良はかつて提督から一種の監視のようなものを受けていた。自分から何か勝手なことをすれば、すぐに殴られる。それ故、何をするにも一度確認しなければ…恐くて仕方がないというのだ。

 

褪人「許可?そんなものは要らん!好き放題食べて、満足するまで蓄えていくと良い!!」

 

由良「そ、そんな…!?」

 

由良は、その態度に驚愕した。

提督というのはもっと厳しいものであったはず。そして、自分たちを兵器としてしか見ていないんだ。だから、自分たちの感情など、一切考えない。

 

しかし、目の前の鎧騎士は違うのである。

 

 

褪人「フフッ、何なら私が剥いてやろう。エビ・カニは慣れていないと面倒だろう?」ニヤリ

 

褪せ人はそう言うと、鍋のエビやカニを一気に食べやすいように加工していった。

 

褪人「…」スパパパパパ

 

村雨「す、すごい…!」

 

時雨「恐ろしいくらいの速業…」

 

 

褪人「よっと。ご照覧あったか!偉大なるならず者よ!!!」ドンッ

 

ならず者は狭間の地時代、褪せ人が茹で料理を教わった伝説の道端コックである。

 

褪人「味の相性が大切だからな。まずは一つ、いかが?」スッ

 

由良「いただきます…」パクッ

 

由良はその身を味わって食べた。

すると、沈んでいた顔がパァッと明るくなる。

 

由良「お、おっ、おいし、すぎます…!!」パァァ

 

褪人「よかったよかった。たった二品目ですまないが好きに食べていってくれ」グッド

 

由良「はい…!ほんとに、ありがとう…ございます」グスッ

 

そして褪せ人は他の子達の方へ寄り添うために向かっていった。由良の瞳に映るその背中はやはり騎士道を表すよう勇ましく、それでも優しい光のようであった…。

 

由良「(…とても素敵な人、だなっ)」

 

 

 

 

褪せ人は角で静かに座っている駆逐艦の子を見つけた。そして手を差しのべる。

 

褪人「…そこのお嬢も食べるか?」ホイッ

 

秋月「いいえ…構わないで、ください」

 

酷く痩せこけているな…。他の子達よりも様子が悪い…おそらくかなりの期間食べていない。

 

褪人「しかし、そのままでは危険だ。一口でもいいから、な?」

 

秋月「……」プイッ

 

褪人「…頼む。この通りだ!」ドゲザーッ

 

秋月「!?」

 

褪せ人渾身の土下座につい振り返ってしまう秋月。

どうやらあのスキンヘッドからかつて学んだ乞いの術は功を成したようである。

 

 

秋月「…な、何をして…?」

 

褪人「私はただ貴公を助けたいだけなのだ!頼む…」

 

褪せ人は真剣な様子でそう言った。

秋月にもそれは伝わったのか、事情があることを伝えようと自らの身の上を話し始めた。

 

秋月「…ごめんなさい。私、昔からまともな…食べ物、食べてないんです。草、骨に塵…もう、食べることが…怖くて…」

 

褪人「何と…それは…!!」

 

驚いた。それは即ち、食事へ拒否反応を示してしまう…ということか?戦いは苦難あっての食、食あっての苦難だと言うのに。

 

くっ、この者は一体どんな生活を強いられてきたんだ…。

 

秋月「すみません…だから、このまま私のことは…」

 

褪人「…ちょっと待っていてくれ」

 

秋月「え…?」

 

 

褪人「これならどうだろうか?」ササッ

 

褪せ人が出したのは、皿の上にブロック上に細かく切られたカニ。一口サイズ…もはやグミのようだ。

 

秋月「こ、これは…?」

 

褪人「さっきと同じものだが、食べやすいサイズにしてさらに水で洗ったから塩気も薄れている。これなら食べやすいだろう?」

 

秋月「な、何も、そこまで…」

 

褪人「それ程に、貴公に生きてほしい。私と共に戦ってほしいのだ」グッ

 

秋月「!!!」

 

秋月は、本当に提督であるのかさえ疑った。かつてあの悪魔にごみのように扱われた自分にとって、提督とはそういうものだったから。

 

秋月「…」パクッ

 

秋月「あ…あ、れ…?」

 

秋月はそれを食べた時、いつものように吐き戻してしまうのだろうと思った。しかしそうではなかった。

むしろ食べやすい味加減にサイズ、そして身の柔かさが自然と喉を通るのである。

 

秋月「ぅ、うぅっ…ひぐっ…お、いし…です…っ!」グスッ

 

…涙でボヤけて、よく分からないけれど、それは美味しくて仕方がなかった。自分でも受け入れられる、ほんのりとした優しい味だった。

 

褪人「うむ、食べれたようで何より。これから少しずつ慣らしていこう、な?」

 

茹でエビと茹でカニにはあの出来立てが絶妙な茹で加減と塩具合なのだが、振る舞う客の基準が何よりだ。ならば、その黄金比を崩してやってもいいじゃないか。

美味ければ、それでよいのだ。

 

秋月「うぅ……うっ…うん…!」コクコク

 

褪人「ハッハッハ!そう焦るでない、ゆっくり食べよ」ヨシヨシ

 

秋月「あ…うぅ……ぐすっ…」グスッ

 

この時、秋月は自分にとって初めての幸せを感じたかもしれない。いつも食べ物を嘔吐してばかりで苦しくて悲しくて…でも今はその代わりに全身から色々な感情が出ていきたがっていた。

 

 

<キシシレーカン、チョットー!!

 

褪人「む…呼ばれているようだ。ではまたな」グッ

 

秋月「あっ……」

 

秋月にその男は王のように感じられた。

広々とした草原のような大地に立つ…優しき光の王。

 

その優しい手にもっと包まれていたかったけど、今は我慢。それはまた今度、きっといつか、ね。

 

 

……

 

 

天龍「うっま…!すげぇアイツ、料理もできんのかよ…」

 

ティシー「そうでしょう。我がマスターの茹でカニは絶品なんです」パクッ

 

ティシー「ん…♪」ポワポワ

 

褪人「(ティシーも楽しんでいるな。何だかんだ打ち解けた仲間も増えたようで何よりだ)」

 

 

さて、誰かにお呼ばれしたわけだが一体?

こっちの方から聞こえた気がするが…。

 

雷「あ、来たわね騎士司令官!」

 

褪人「お、おう。何かあったか?」

 

そういえば今日から提督なんだった。

とはいえその呼び名は長過ぎて不便な気もするが…どうなんだ。

 

雷がちょっと耳貸して、と言うので鎧を仲介して話してもらう(聞こえが悪そうだが)

 

 

雷「昨日のことで大淀さんが呼んでるの。皆の前じゃ声を大にして言えない事らしいから一人で来て、だって」ヒソヒソ

 

褪人「ふむ…分かった」

 

昨日のこと、といえば提督就任の件だろう。何かあったのだろうか…。

 

 

 

長門「…」チョイチョイ

 

陸奥「?」

 

長門「…後をつけるぞ」ヒソヒソ

 

陸奥「…」コクリ

 

 

 

───────

 

―執務室―

 

褪人「ここにいたか」

 

大淀「提督、わざわざすみません」ペコリ

 

褪人「うむ。それで、話というのは?」

 

大淀「実は………」

 

大淀は前のような暗い顔になってしまった。折角調子を取り戻したはずが…一体何が?どうやら何か問題があったようだが…。

 

 

大淀「提督の着任が"破棄"されたんです…」

 

褪人「何と…!!」

 

大淀「普通ならば、空き鎮守府には早急な代理の補充がされるんです。でもここ舞鶴は艦娘達があのようですから…希望者でも現れない限りはあのままだったんです」

 

褪人「希望者?それは私も当てはまるだろう」

 

大淀「はい。ですから後は着任許可をもらって、検査を少しして承認という形なのに…!」

 

褪人「そうなのか…」

 

褪人「ちなみに検査というのは?」

 

大淀「鎮守府には"妖精"さんという不思議な存在がいます。我々艦娘は姿が見えるのですが、人は見える見えないの差があるみたいで…それが見える必要があるため、検査しなければいけません」

 

妖精か…狭間の地にもインプのような近い者共はいたが、基本は見えていたはず。まあ、いざという時は歩哨の松明でも使えばいいだろう。

 

褪人「今もこの周りを飛んでいるのか?」キョロキョロ

 

大淀「いえ…前提督がいなくなってから何処かに身を隠してしまったみたいで…」

 

褪人「ではそこは今度探すとして…許可まで貰えないとは一体何が?」

 

大淀「それが分からないんです…。着任の話をしようとしたら無理矢理に切られちゃって…違和感でした」

 

褪人「むう…」

 

上に何かまずいことがあるのかもしれんな。この鎮守府に何らかの不適があったりするのかもしれない。しかし何の話も無しに?

 

 

…いや、それとも"嵌められている"のか?

 

 

褪人「…大淀よ」

 

大淀「は、はいっ!本当に申し訳ござ「そうではない」いま…、で、では何を…?」

 

褪人「おかしいと思わないか?これだけの大人数がいて…きっとまだ私の知らぬ娘共もいるのだろう」

 

あの前提督の存在がなければ、道具を使うも飯を食うも自由にできるはず。

にも関わらず、あれ程飢えた者がいるのは些か疑問だ。

 

 

褪人「…それなのに、あまりに"物資が少なすぎる"とは思わぬか。いくら空きでも、貴公らへの支援があってもおかしくはないはず」

 

大淀「で、でも私達は兵器で……」

 

褪人「違う!!それ以前に人だろう!少なくとも私よりは人間だ」

 

…これについては実際そうである。

鎧の下のこの肉体はもはやボロボロだからな…もはや雫瓶でも治りはしない。

 

大淀「うう…そ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど…!」

 

褪人「まあともかく。あまりにおかし過ぎる…」フムムム

 

これは策を練らねばな…。妖精か、それとも上の探りか?皆のケアを第一優先にしたかったところだが…残念ながら、暫くは忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

長門「…」

陸奥「…」

 

長門「…フン。所詮は提督の器でもない程度の存在だったか」ボソッ

 

陸奥「……決行しましょう。"今夜"に」ボソッ

 

 

多々の問題が上がる中、苦悩する褪せ人。

そこへ密かに、危険が迫っているのだった…。

 

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