白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 んん、あ、かつもくぅ~。

 さて、ホロライブの二次小説を書くにあたって色々と情報を集めてみたものの、色々とごちゃごちゃしていて統一することが困難でした。まさにカオス。これぞホロライブ。ならば私も我が道を征こう。
 そんな中、ラプラスダークネスについて調べてみたら、イラストレーターが三嶋くろねさんでびっくり。なんか見たことある名前だなと思えば、この素晴らしい世界に祝福を! のイラストレーターさんではないですか。
 ちなみに、タイトルのランタンイオンは私が総帥の名前を初めて見たときに思った事です。
HoloxのPV「La+darkness」
私「……ランタンイオン……いや、ランタンプラスダークネス? あれ、そもそもランタンって三価が安定じゃなかったっけ? ……何て読むんだこれ」
 虚無の顔を晒しましたね。

 実はパソコンで『小説タイトル』を編集していた時に、確定のつもりでエンターキーを押した筈が投稿として処理されてしまい、未完成の本文が投稿されてしまったので、急いで削除&非公開にしました(二敗)。多分見れた13人の人はポカンとなったと思います。なにしろ唐突に「空」の文字が出て終わってるんですもん。


第1章 プロローグ
第1話 蠢くランタンイオン


 ―――ウェスタ。それは大陸西方で最も栄えている場所のひとつである。

 都市“ウェスタ”を取り囲むように聳え立つ、白亜の石壁。巨大な円環の形をしたそれは、はるか古代よりそこにある失われた文明の遺産。おそらく暗黒の時代とイワレているニブルヘイムより昔か、あるいはその時代に作られたと学者は提唱している。

 都市を三重に囲む巨壁の中心には、見上げるのが億劫なほど巨大な剣が突き刺さっている。空を凝縮したような色と輝きを放つそれは、全てが魔力で構成されており、今もなお魔力が霧散することなく結晶として形を成している。

 遠方からも見えるそれは、竜霊山の樹海並びにエルフの森で、迷う人々の目印となっている。しかし、なぜウェスタの中心に突き刺さっているのか、誰が作ったのか、そのイワレは誰も知らない。知っているとすれば、剣の傍らに鎮座する王城の主か、あるいは―――。

 また、ウェスタを海の方向に下ると、大きな港町が顔を表す。この港町には海の治安部隊である宝鐘海軍の本部が置かれており、宝鐘海軍は白銀騎士団と合わせて地上の白銀、海の宝鐘と呼ばれる二大治安維持部隊である。

 

 白銀騎士団はウェスタの王、姫森一族を守護する存在であり、ウェスタを守る一大組織でもある。

 しかし、王族を護衛する専門の騎士がいることや王族自体が外出することも少なく、都市外から来襲するケガレやアヤカシを迎撃することに重視しているため、その本部は一番外側の壁近くに位置している。

 

 これより展開する話は、白銀家を中心と、それを取り巻くモノガタリである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、白銀家には二人の赤ん坊が誕生した。方や男児、方や女児の双子であった。

 二人の瞳は、白銀家の血筋らしい翠の瞳。髪はまだ生えてないため不明であるが、おそらく輝くような銀髪が生えるのであろう。

 大変喜ばしいことだ。まっこと、心の底から喜ぶべきなのであろう。

 それが、人間であったのならば。

 女児の方は問題ない。獣人らしい耳や尻尾はなく、魔人らしい羽は生えておらず、正真正銘の人間であった。

 問題なのは男児の方であった。男児の方の頭部には、ぴょこりと三角の耳が生えていた。明らかな獣人。人間ではなかった。

 なお、ここで説明しておくが、別に奥方が不貞を働いた訳ではない。受け継がれたDNAに含まれていた『狐の獣人』に当たるDNA部分が、『人間』のDNA領域より優勢になっただけである。言ってしまえば突然変異に近い。

 

「旦那様……シエル様は……いかがいたしましょうか」 

 

 二人の赤ん坊を取り上げたのは、白銀家に代々使えるメイド、湊家の当主。当主は勿論、白銀家を継ぐに値する者は、人間でなくてはいけないことを暗黙のルールとしてよく知っていた。それに、万が一にも人間以外の者が産まれてきた場合、その者は産まれてきたことを無かったことにする、つまり死産にするか、あるいは家から追い出すことになるのを知っていた。

 だからこそ、喜色に染まった顔ではなく、青白く染まった顔で主君の顔を窺った。

 

「…………」

 

 深い沈黙。旦那様と呼ばれた白銀家現当主、またの名を白銀騎士団団長は、口を真一文字に結んだまま思考を巡らせていた。

 場所は執務室。重厚な文机に、天井にまで届く棚にはぎっしりと複雑怪奇な書物が並べられているがゆえに、静まり返った時の威圧が何倍にもなって降りかかる。

 

「そうだな…………」

 

 敵だけでなく、仲間内からも冷徹、無情、鬼、と呼ばれる当主であるが、家族に対しては温情はある。鉄仮面のように固定された表情の裏には、確かに家族の愛が脈打っている。

 しかし、いかに家族といえど、しきたりというものがある。白銀家の創設以来、決して反故されなかったことだ。それを、個人の感情どうこうで覆せるものではない。覆えしてしまえば最後、あらゆる方面から非難や誹りを受けるだろう。

 なら今の現状取れる選択肢はひとつ。

 

「来年、白銀家から追い出し縁を切る。エルフの森の不知火家を頼ろう。彼らに預けて育てて貰うようお願いする。皆の者にはシエルは死んだものとして公表する」

 

 これが、最良の判断であった。家族を殺すことなどできず、産まれたばかりの赤ん坊を外の世界に放り出して、野獣に食わせることもできない。

 

「かしこまりました」

 

 そして、シエルと名付けられた男児は一年だけ白銀家で育てられる運びとなった。

 シエルは、こぢんまりとした部屋で育てられた。無論、この部屋に出入りするのは限られた人間で、父親と母親を含めても片手で数えられる程しか存在せず、また手に余る者は誰ひとりとしてシエルの存在を知らない。

 双子の片割れのノエルでさえも、シエルの存在は知らないまま、あっという間に四季が流れ、シエルを不知火家に託す日を迎えた。

 天候は土砂降りの雨。秘密裏にシエルを引き渡すには好都合の天候だった。

 

「宜しく頼む」

「承知しました」

 

 フードを被った三人組。そのうちのひとりがシエルが包まれた毛布を受けとる。残りの二人はこの護衛である。

 当主と言葉数少なく交わし、直ぐ様彼らは白銀家を後にした。 

 

 

 

 

・ 

 

 

 

 

 疾風(はやて)の如く飛び去る影、木々の枝すら足場に変えて、エルフの三人組は、エルフの森の奥深くに向かっていた。

 順調に思われた帰還は、ひとつの轟音に防がれた。 

 

「下がれぇ!」

 

 土煙る中、降りしきる雨で、瞬く間に舞い上がった土埃が再び地に戻る。開かれた土煙の先には、真っ暗な闇で覆われたバケモノ。通称ケガレが、ここから先は通さぬと仁王立ちしていた。 

 

「見たところ、核となるものは鬼……これは拙いな」 

 

 ケガレとは悪いイワレ。具現化したケガレは核となるアヤカシによって強さも性質も、大きささえも異なる。例えばリスがベースとなったケガレは、リスの本能を備え持ち、頬に物を詰め込んで己が帰るべき場所に持ち帰る。

 ならば鬼はどうなのか。鬼は全種族の中でも剛力かつ鋼に匹敵するほどの硬い皮膚を持つ。攻撃手段はその力に任せた物理攻撃が主体となるが、その位によっては妖術を操る者もいる。

 このケガレのベースとなった鬼が、妖術が使える程に格が高いものならば、勝率は五分五分まで下がってしまう。しかもこちらは三人。そのうちの一人は両手が塞がっている。勝率は三割か四割くらいが妥当であろう。 

 

「フレア、シエル様を連れて逃げなさい。その者を死なせてはならぬ」

「しかし」

「いいから行け。お前を守れる程易しい相手ではない」

「っ、……了解しました」 

 

 エルフは年をとる程に力を増す。長年の研鑽が蓄積されるからだ。故に、エルフは肉体を必要とする刀や槍といった物理的攻撃より、知性を必要とする魔法による攻撃を得意とする。

 フレアはまだ二百五歳。長命のエルフの中では若輩者である。翻って残りの二人はどうか。方や五百歳に足を踏み入れ、方や千歳に到達した洗練された強者である。この千の年月を数えたエルフこそが、不知火家が当主、不知火ホムラであった。

 ホムラはシエルを抱いたフレアが後退するのを視界の端で見届け、全身の感覚を研ぎ澄ませた。

 

「グゥオオオオオオオ―――!!!」 

 

 耳を劈く雄叫び。その気迫は実体を持つように濃く、重い。

 鬼のケガレは、咆哮と共に大木に等しいその腕を、ホムラへと振り下ろした。 

 

「ケガレよ、ひとつ忠告しておく」 

 

 しかしホムラは引かない。臆さない。

 瞳の奥に光を宿し、迫る腕を睨む。 

 

「老骨だと侮っていると、足下を掬われるぞ」 

 

 黒いオーラが混ざった巨腕が、ホムラを強襲。轟音と共に砂塵が舞い上がった。

 鬼のケガレは、確かに潰した感触を得た。そして潰れたその様を見ようと腕をどかした時、表情が強ばった。

 築かれたクレーターの底には何もなく、ホムラの姿形は跡形もなく消えていた。 

 

「赫炎・不知火」 

 

 ケガレの背後に姿を現したホムラは、両手に展開していた魔法を無防備の背中に叩き込む。瞬間、眩い閃光と激しい爆発を巻き起こした。

 

 

 

―――………

 

 

「いや~コイツ中々やるなぁー」

 

 手元の機械をカチャカチャと弄り、間抜けた声を出したのは、秘密結社holoxの総帥、ラプラス・ディア・ハイエスト・デスサーティン・ダイナ・アートオブ・インパクト・サイン・皇・ロード・オブ・The・ダークネス。

 彼女の視線の先には、エルフの森が映し出されており、頻繁に爆音と土砂が視界を塞いでいた。

 

「まぁ、時間稼ぎ出来てるからいいんだけどな」

 

 ポツリと呟いた言葉に返す者はなく、幹部である鷹嶺ルイもラプラスの側にはいなかった。

 というのも、つい先程総帥に言われたからだ。

 

『あ、幹部ぅ~今日、エルフの森でシエルっつう白銀家のガキが運ばれるから、今すぐラッシュ(急いで)&ダッシュしてフラッシュ(アメコミヒーロー)並みに奪取(だっしゅ)してきてー、よろ』

『はぁ!? 今!!? もっと早く言ってよ!! あとそのネタ貰い!』

『いってらー。突撃してもクラッシュ(激突)すんなよー』

 

 というわけで、幹部は今、シエルを回収するためにエルフの森に向かっていた。

 

「このエルフ(ホムラ)すばしっこいな。あとさっきからもう一人のエルフからの攻撃がうざい」

 

 ガチャ、ガチャガチャ、カチカチ、とケガレを操作しながら、ラプラスは冷静にエルフの力量を見極めていた。

 ここでひとつ、今総帥が操作しているケガレは、ケガレであってケガレではない。簡単に言えばケガレを閉じ込めた機械と言ったところだ。ケガレを封印することでその性質を機械に宿し、ケガレ特有の本能や術式を他人が扱えるようにしたものである。製造主は勿論博衣こよりで、総帥の願いを反映したものを造り上げた。ただ、そのせいで要らない出費が重み、幹部の頭を酷く唸らせたのは言うまでもないだろう。

 

「さてさてさーて、こんな攻撃はどうかな?」

 

 ポチっとな。そんな軽い言葉と共に押された青色のボタン。そのボタンが押されると同時に、操っていた鬼のケガレの右腕が、ゴゥ、と音を立てて本体から分離した。俗に言うロケットパンチ。この機能も総帥が博士に頼んだものの一部である。

 

「くぅぅぅうう!! 流石我がholoxの頭脳! 我輩の心をこれまでかと擽ってくるな!!」

 

 その出来に感心する総帥は、更にボタンを連打する。上上下下左右左右BA、右左下上AB、とコマンドを入力する。するとどうだろうか。

 

「薙ぎ払え!」

 

 ―――口からビームが。

 

「ゲッタァァァビィィィィム!!」

 

 ―――指からビームが。

 

「波ァァアアア!!」

 

 ―――掌からビームが。

 

 お前バカだろ今すぐやめろ怒られるぞ、とツッコミを入れる人間はいない。

 

「ん゛ん゛っ、んじゃ次はと」

 

 残念ながらこれだけでは終わらない。総帥は咳払いして喉を整えたのち、備え付けられたマイクに向かって、無駄に荘厳な声で唱う。

 

 ―――千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風

 

 光は怯え、闇が沸きだす。周囲は暗闇に包まれ、ケガレの存在感が跳ね上がる。

 

 ―――集いて惑うな我が指を見よ

 

 目の前に膝を突くホムラも、対抗しようと難解な呪言を吐き出すように唱える。

 しかし、それが発動するよりも総帥の詠唱の方が早い。

 

―――光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ

 

 ケガレの周囲に浮かんだ十の光弾。その先は全てホムラに向かっている。

 そして凄絶な笑みを浮かべた総帥は、最後の一節を高々と叫んだ。

 

「破道の九十一 千手皎天汰炮!!」

 

 もうお前偉い人から怒られろ。

 多々な作品のオマージュを繰り出し、総帥は打って変わってきゃらきゃらと笑い、ただの子供のようにはしゃぐ。緊張感がまるでなし。

 一通りふざけた総帥は、ふと時計を見た。時計の針は戦闘開始から半周し、既に三十分は過ぎている。そろそろ幹部が回収するころだろうとアタリを付け、総帥はにやりと笑った。その笑みはまるで、悪戯を思い付いた悪ガキと同じようだった。

 

「くくくく、自爆こそロマン、そして、芸術は爆発だァ!!」

 

 瞬間、髑髏マークが音を立てて押され、視界のモニターが真っ赤に染まる。同時に、holoxの経営も真っ赤に染まる。幹部の胃も真っ赤っかである。胃潰瘍になる日は近い。

 

「フッ、きたねぇ花火だぜ」

 

 やってやったと言わんばかりに胸を張り、「勝ったなこれは、風呂入ってくる」と誰に言う訳でもなく溢し、冷蔵庫に入ってるコ●・コーラの缶で祝杯を挙げようと椅子から飛び降りる。

 鼻歌交じりに冷蔵庫の扉を開け、その中身を見た瞬間、総帥の顔は驚愕の色で染まった。

 

「な、なななな、我輩のコーラがなぁぁいい!!」

 

 そこには、『あると思ったかね? byルイルイ』と走り書きされた紙が鎮座していた。唐突な命令に対するささやかな仕返しであった。

 

「な、なんで………」

 

 あしたのジョーの如く白く廃れた姿で、ラプラスは両手を床につける。

 そして身を捻じ切られるような悲痛な慟哭が、喉から迸った。

 

「どうじでだよおおおおお!!!」

 

 

 

―――………

 

 

 

(何故このタイミングでケガレが……もしかして情報が抜かれていた!?)

 

 肩で息をしながら疾駆するフレアは、先程のケガレについて考えていた。

 ケガレが現れたにしてもタイミングが良すぎる。まるで、始めからこちらの行動を監視していたかのように。

 

(でも相手は一騎当千、百戦錬磨のホムラ様。それに加えて精鋭の同志もいる。そう簡単には負けやしない筈だ)

 

 と、その瞬間、自分の遥か後方から激しい光と爆轟がフレアを襲った。予想だにしなかった衝撃を無防備に受け、腕で抱えていたシエルが吹き飛び、茂みの向こうに消えた。

 

(敵襲……!!?)

 

 足場にしていた枝から(くう)に吹き飛ばされた身体をうまく丸め、衝撃を殺しながら草影に飛び込み地に伏せる。その状態のまま周囲の気配を探り、どこに敵が潜んでいるかを目視で確認する。

 

(敵はどこだ……それにシエル様はどこに……敵より早く見つけ出さなくては)

 

 その状態のまま十秒、二十秒、三十秒を数えたところでフレアは疑問に思う。何故追撃をしないのか、もしくは敵もこちらを見失ったのか、と。

 

(いや、先程の攻撃はケガレが居た方向から飛んで来た。もしかしてホムラ様達との戦闘の余波がこちらまで飛んで来たのか?)

 

 ここから更に時間を重ね、推測と憶測を重ねて戦闘の余波だと決定したフレアは、潜んでいた茂みから立ち上がり、シエルを探し始めた。

 

(くっ、シエル様、どこに……!)

 

 あちこちとシエルを探すも、どこにもその小さな姿が見付からない。次第に焦るフレアだったが、か細い泣き声がどこからか聞こえてきた。どうやら睡眠薬が切れて目を覚ましたらしい。

 

(あっちか!)

 

 体を翻して駆けつけた時、フレアは大きく目を見開いて窒息するような息遣いののち、声を絞り出した。

 

「な、なんでここに……ドラゴンが」

 

 そこには体長が十メートル近いドラゴンが、鼻息荒く立っていた。

 しかもドラゴンは背中に乗っているシエルに気付いてないのか、大きくその翼をはためかせ、一気に上空へと飛び上がった。

 

「っ、待て!!」

 

 蛇に睨まれた蛙の如く硬直していた身体は、今ようやく自由を取り戻す。フレアは遠ざかっていくドラゴンに向けて弓を引き絞るが、放つ前に射程距離から逃げられた。

 

「駄目だっ、待て、待て、待ってくれ!!」

 

 すぐに弓を投げ捨て追い掛けるも、あちらは空を飛んでこちらは足元が悪い地面の上。追い付けないのは火を見るよりも明らかだった。

 シエルの泣き声も、もう聞こえてこない。つまり、もう手遅れだ。

 

「くそ……くそ、くそ……」

 

 そう考え至った時、フレアは悔しげに唇を歪めて、地面を思い切り叩いた。みすみす逃してしまった己の醜態を恥じ、自ら罰を与えるように何度も何度も地面を叩く。

 

「すまない皆っ……私のせいでシエル様が……」

 

 

 

―――………

 

 

 

「ただいまラプラス」

 

 holox本部に戻ってきた鷹嶺ルイは、気落ちした声で帰宅の挨拶を告げる。

 

「ごめん。シエル回収できなかった――って何やってんの?」

「つーん」

 

 総帥は先ほど座っていた椅子に腕を組んで座り、『自分、今不機嫌です』と、口をとがらせていた。

 

「つーん」

「なに? 私がラプちゃんのコーラを隠したから怒ってるの?」

「……つーん」

 

 当たりらしい。しかし「つーん」を連呼するのはやめないようだ。

 

「つーん」

「…………」

「つーん」

「……でもラプちゃんがあらかじめ伝えてくれれば済んだ話だよね?」

「つぅぅん」

 

 萎んでいくように呟かれた言葉に従い、総帥は涙目で項垂れる。分かってやっているのか知らないが、幹部は総帥のその顔に弱かった。

 

「……はぁ、わかった。今から持ってくるから待ってて」

「つーん! つーん!!」

 

 お前はつーんが鳴き声か。黄色い電気鼠の鳴き声みたいなものなのか。

 喜色に濡れた鳴き声(つーん)を発し、総帥はうきうきと幹部を待つ。

 

「はい、お待たせ」

「やったぜ我輩の勝ちだ!」

 

 ここでようやく言葉を喋った総帥は、プルタブを開けるや否や喉に豪快に流し込んだ。

 

「……くぅぅぅうう!! やはり一仕事終えた後のコーラは絶品ですななぁ!!」

 

 悪魔的だぁ!! と叫ぶその様子を、諦めたような視線で見ていた幹部は重い溜め息を吐いた。

 一仕事と言っても総帥は自室でゲームをやっていたようなものである。それに引き換え自分はどうか。この土砂降りの天気の中、着の身着のままの軽装で出発し、魔法による隠蔽解除を防ぐために潜伏魔法等を使わず潜伏し、虫に刺されながらも機会を待ったのである。

 先程は絆されたが、喉元過ぎればなんとやら。もうこれは一発ぶん殴っても許されるのでは? と幹部は不穏な思考にハンドルをきった。

 

「幹部ぅ! もう一本!!」

「………はい」

 

 しかし総帥と違って大人かつ出来る女である鷹嶺ルイは、言いたいことをぐっと堪え、代わりに本題に入るために口を開いた。

 

「―――という訳でシエルは回収出来ませんでした」

「マジかぁ……しかもドラゴンかぁ……戦闘の余波がまさか幹部のところまで届くとはなぁ。あのエルフ(ホムラ)めやってくれるわ」

 

 総帥は自分が戦犯だということに気付いて冷や汗を流しながらも、いけしゃあしゃあとホムラに責を押し付けた。部下から尊敬されないどころか侮蔑&軽蔑される上司の典型である。

 

 あの時の爆轟でシエルを見失ったのは幹部も同様。ホークアイモードで探知を開始した瞬間、幹部は驚きのあまり声を挙げそうになった。なんとシエルはドラゴンの背中の上に落ちていたのである。何故ドラゴンがこんな所で寝ていたのかわからないが、ドラゴンは爆音で目を覚ましたあと、背中に引っ掛かっているシエルに気付くことなく、そのまま竜霊山の方向へと飛び去って行った。

 

「うーん……どうすっかなぁ」

 

 総帥にしては珍しく、頭を悩まして色々と思考を巡らせている。

 

「ところで、シエルを回収して何するつもりだったの?」

「ん? いや、ほら、うち人手不足だろ? あいつ育ててうちの戦闘員にしようかなって。夢で見たんだけどな、あいつすげぇ強かったぞ」

「あぁ、予知夢? でもシエルは白銀の血を引くと言ってもまだ幼児だよ。また予知夢じゃなくて妄想なんじゃないの。以前なんてトワ様? とかそんな人が訪れてくるとか言って来なかったじゃん」

「うるせぇ、それはそれ、これはこれだ……あとその時は本当にごめんなさいでした」

 

 総帥の推しらしい常闇トワ。彼女が秘密結社に入ってくるとかなんとか、総帥がお昼寝から起きた瞬間にそう叫び、幹部に捲し立てるようにあれこれ歓迎の準備を進めさせた。なお、この頃の総帥は喜びのあまり頭のネジが数本外れたのか、朝の挨拶は「おはやっぴー(おはようの意)」昼の挨拶は「こんやっぴー(こんにちはの意)」、夜の挨拶は「おつやっぴー(お疲れ様の意)」と満面の笑顔でキャピった挨拶をし、更に疲れて寝室に向かおうとする博士を「メンタル(頑張れの意)! メンタル!」と励まして仕事に向かわせ、失神するように眠った幹部の毛布を剥ぎ取り、「震えて眠れ」と悪魔的な所業を尊大な態度で言い放った。当の本人は頭に悪魔だか鳥だか鬼だか意味不明の帽子を被り、時折ふへへ、とだらしなく口許を弛ませるのである。その所業はまさに無能な上司が仕事を部下に押し付ける、所謂ブラックと同じであった。

 

 労働三法知らないよ?

 休日って美味しいの?

 休憩って何ですか?

 

 そんな労働環境で働いていたせいか、幹部と博士は一時我を失った。端的に「お通夜っぴー(そのままの意)」だった。

 幹部は突如として「醤油をshow you、豆乳を投入、作ったお菓子をプレゼンフォーユー(プレゼンとプレゼントをかけた)」と韻を刻んだダジャレを言ったかと思えば荒ぶる鷹のポーズを取り、「モルスァ!!」と叫んでもの凄い勢いでぶっ飛んだ。直ぐ様がんもが追いかけた。

 一方博士はグルグルお目々で「照明完了L.E.D」と呟き、ガッと掴んだマヨネイズをヂュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッッッッと吸って三本空にしたかと思えば、唐突に「アカーン!!」と遠吠えした。直ぐ様ココロによってメンタルケアが行われた。

 他にも、『歓迎! ようこそ秘密結社holoxへ!!』という垂れ幕も作らせ、更に口上も総帥と幹部と博士と何故か巻き込まれたゲーミング助手くんで三日三晩考えたというのに、結局来ると言われた日に来ず、そこから一ヶ月経っても来なかった。博士と幹部の堪忍袋の緒が切れたのは言うまでもない。

 あれは酷い事故だった。

 

「まあ、予知夢の真偽云々はひとまず置いといて、優秀な戦闘員は賛成だね。ただ雇えるほどお金がないけど」

「だから育ててやって、恩返しに戦闘員として働いて貰うつもりだったんだよ。我輩も我輩なりに考えたんだ」

「うわ、下衆な考え。もう“ラブ(rob(奪取))”ラス・ダーク“ゲス”に改名したら?」

「うるせぇ。我輩も下衆だと思ったわ。そこは分かってもお口はミッフィーちゃんにしとけ。あとそのギャグウマイと思うけどオモロくない」

「うっ……そ、そうかぁ」

 

 今、holoxには優秀な人材が不足している。その主たる原因は総帥が働かないことによる資金不足に起因するが、それはさておき、ここには優秀な戦闘員がいない。

 総帥は働かないニートだから論外。

 幹部は交渉担当兼戦闘員(仮)。

 そして博士は頭脳担当兼開発者兼医者兼戦闘員(仮)。

 文字で表すと博士の負担が凄まじい。そして総帥、テメーはいい加減働け。ソファーで寝転んで「我、堕天の王なりー」とか宣って一人だけ楽してんじゃねぇぞ。

 そんなわけで、そろそろ優秀な戦闘員が欲しかったところである。

 

「ともかく、この後はどうするの? シエルを追いに竜霊山に向かうの? それとも諦めるの?」

「どうすっかなー……追うにしても場所が場所だからなぁ……それにもう転落死してるかパックリ喰われてそうだしなぁ……仕方ねぇ諦めるか」

 

 総帥は頭の中でシエルがドラゴンにバックバックバクーンと喰われてる様を想像する。ベキグチブチブチ、ブシャー! と、赤い血潮がスプラッタな光景が目に浮かんだ。うん、死んだな。

 ともかく、投げやりな感じで決まった方針だが、それに異を唱えることもなく、幹部は「りょーかい」と静々と従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、話の中心のシエルは今現在どうなったかというと―――

 

「ガハハハ、何か拾ってきちまった!!」

「元居た場所に返してきなさぁぁい!!」

 

 人型になったドラゴンに襟首を掴まれ、天使の前にぶら下げられていた。




 主人公の名前はシエル。フランス語で空を意味する言葉です。白銀ノエルと家族感を出すために色々と悩みました。ノエルの名前の由来を調べても出てこず、公式も非公式を漁っても出てこず、最終的にフランス語の聖夜が語源なのかな? と思って翻訳片手に良い塩梅の名前は無いものかと、調べに調べて決定した名前です。
 もしどの(たか)、ノエルの由来をご存知でしたら、(わし)に一報お願いします。別にルイ友さんでなくても大丈夫です。教えてエロいひと!

 総帥が使ったネタ。これを書くのにどれほど時間がかかったことか。
 さてさてさーて:七つの大罪メリオダスの口癖。んにゃ、も同様

 ポチっとな:タイムバカボンシリーズ『ヤッターマン』の三悪ボヤッキーが、ドロンボーメカの切り札を発動させるボタンを押す際に発する決め台詞。

 ロケットパンチ:『マジンガーZ』に登場する人型ロボット・マジンガーZが装備する武器の1つ。

 上上下下左右左右BA:ファミリーコンピュータ版『グラディウス』のコナミコマンド。ポーズしてこれを打ち込むとフルパワーになる。これはTwitterにも存在する。

 右左下上AB:スーパー魂斗羅の裏技。タイトル画面でこれを打ち込むと残機が30の状態で始まる。2人同時プレイでも使用可能。

 薙ぎ払え:風の谷のナウシカ。クシャナが王蟲の大群の前で放った言葉。クシャナが巨神兵にビームを撃たせようとしたときの第二射の台詞で、第一射の台詞は「焼き払え!」である。

 ゲッタァァァビィィィィム!!:スーパーロボット大戦のビーム。指からビームを発射する。

 波ァァアアア!!(かめはめ波):言わずもがなドラゴンボール。溜めたかめはめ波より省略されたかめはめ波の方が強い気がするのは気のせいだろうか。

 破道の九十一 千手皎天汰炮:言わずもがなBLEACHの鬼道。浦原喜助が藍染惣右介に放った技。

 芸術は爆発だァ!!:NARUTOのデイダラの信条。

 きたねぇ花火だぜ:ドラゴンボール。キュイという登場人物をベジータが爆殺した時の独り言。飛び散る血肉を花火と見立てた。

 勝ったなこれは、風呂入ってくる:大抵負けフラグ。

 あしたのジョー:リングの端で真っ白に燃え尽きている姿が有名。「燃え尽きたぜ……真っ白にな……」。この台詞がヤムチャの「きえろ、ぶっとばされんうちにな」と同じトーンで再生されるのは何故だろうか。

 どうじでだよおおおおお!!!:DEATH NOTEの夜神月を演じた藤原竜也さんが叫んだ言葉。よくネタにされる。大抵、中学高校のうち、陽キャの一人は必ずこれをやっているくらい有名。

 悪魔的だぁ!!:カイジ。アニメでは荻原聖人さん、映画では藤原竜也さんが演じた。部活終わりのジュースで叫ぶ人が多い。キンキンに冷えてやがる……!! も同様に使われる。そして口の端から溢し、汚く飲むまでがワンセット。

 お口はミッフィーちゃんにしとけ:元ネタはとろサーモン。ちなみに、ミッフィーの本名はナインチェ・プラウスである。

 我、堕天の王なりー:元ネタはモンスターストライク。キャラのルシファーのストライクショットボイスを期間限定銀魂コラボの排出キャラであった坂田銀時さんが真似したもの。ソファーで寝転び、顔に雑誌か何かをかけている。傍らにはケーキが置いてある。

 鷹嶺ルイのギャグ、プレゼンフォーユーは、プレゼンテーションとプレゼントをかけたギャグ。前者はpresentationのカタカナ表記であり、プレゼンと省略されることが多い。そしてプレゼントはpresentと書き、最後の“t”ははっきりとは発音せずに後に続くfor youを繋げて発音することがある。よってpresent for youはプレゼンフォーユーと発音することもある。まぁ厳密に言えばプレゼンッォーユーってかんじですね。
 おそらくこの時の幹部はholoxについてのプレゼンと、ささやかな贈り物として何をあげるかを同時に考えていたため、このようなギャグが飛び出したと考えられる。
 モルスァ!!:これはファービーの鳴き声。ファービーは1998年頃に流行した電子おもちゃで、その可愛らしさから人気を博した。そんな中に2ch上で以下の文章が書き込まれ、話題となった。
 『ファービーが「ナデナデシテー」ってうるさいから頭の上にマッサージ器あてて死ぬほどナデナデしたら
「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファ-」ってなった。
 最初は面白かったんだけど、なんかキモくなったので首元を横から思い切りチョップしたら「モルスァ」みたいなこと言いながらすごい勢いで飛んで行った』
 というオモシロ経緯を経て「モルスァ」という言葉が広まった。
 やはり2ちゃんねらーは頭おかしい人(褒め言葉)が多い。

 博衣こよりが呟いた照明完了L.E.Dは証明完了Q.E.Dのオマージュみたいなもの。他にも救命完了A.E.Dや支払完了E.T.Cがある。
 アカーン!!:これは妖怪ウォッチの赤鬼の叫び声。決して宮川大輔さんのアカーン!! ではない。
 本ゲームにおいて、赤鬼はアカーン!! と叫びながら主人公を追いかけてくる。この時のBGMも追い討ちをかけてきて、初見の場合心臓のドキドキペコ~が止まらない。慣れるか実力があればこちらから探して立ち向かい、RTAばりにぶっ倒す。エメラルニャンの艦隊で放置していれば、気付いた時には勝っている。光オロチでも可。

 では貴様ら、来るべき時の為に備えやがれっt
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