今更言う必要も無いのですが、この作品はフィクションであり、登場する団体及び企業名等が実際のものとは何の関係性もありません。
今回珍しく一万文字書きませんでした。キリがよかったので九千文字です。
すみません予約投稿忘れてました。
「決行は三日後の学会。博士の発表が終わり次第、私が博士を誘拐する」
夜の帳が降りた教会。
集った七名に向かって、創始者が厳かに言えば痺れるような緊張が走った。
「あなたが直接出向くのですか?」
「そうだ。会場には十中八九『白銀の仙狐』がやってくる。奴に対抗するためには念力を使える私が出なくてはならない」
「しかし、自然の呪いが発動するのでは? ゼータの時とは状況が違いますよね?」
「それも承知の上で逆手にとる。突如として地震や地割れが発生すれば攫うことも容易となろう。ゼータを取り戻した時と同じだ」
アルファからの問いに、創始者は淡々と返した。
創始者が自分で動くなど珍しいと言わんばかりの視線を受け流し、創始者はさて、と続きを語る。
「博士は丁重にもてなす。協力を仰ぐためにもかすり傷ひとつ負わせる訳にはいかない。言葉を交わすことは許可するが、無意味な暴力を振るうことを禁ずる。……まぁ今更言われなくとも分かると思うが」
こくんと頷く彼らを見渡し、しかし創始者は憂鬱そうな溜め息をひとつ吐いた。
「基本丁重に扱うが、万が一にも博士がこちらに協力しない場合、手段は問わない。脅すなりなんなりして働いて貰う。最悪殺して死霊術で操る」
「やったー、シータがオモチャにしてもいい?」
「イータも一緒に遊びたい!!」
「どうぞご自由に」
万歳する双子に、創始者は肩を竦めて促した。
「何して遊んでもらう? やっぱりおままごと?」
「シータあれやりたい! 『サッカーしようぜおまえボールな!』ってやつ!!」
「さて、以上で話しは終わりだ。解散」
彼らを帰した後、一人残ったアルファが創始者へと声をかける。
研究所に向かっていた創始者は、アルファに背を向けたまま足を止めた。
「本当にあなたが出向くのですか?」
「そうだ」
「人が大勢死にますよ。それでも、行くのですか?」
「……ああ」
アルファが忠告するのは、創始者が無駄に人を殺そうとしているから苦言を提している訳ではない。
創始者にかけられている呪いが心配だったのだ。
かつて創始者は自然の神の怒りを買ったという。よって神の呪いを受けたその身は地に足をおろすことを許されず、それを破れば大災害が発生する。
地上であれば、どこにいようと地震と地割れが発生し、その身を大地に呑ませようとする。
海上であれば、海に触れた途端に大波が発生し、その身を暗い海の底に引き摺り込もうとする。
近くに火山があれば、火山そのものが吹き飛ぶような噴火が発生し、その身を炎にくべようとする。
それが森であれば、森そのものがひとつの生き物のように鼓動し、その身を永劫に離さない。
そのような災害が一つでもウェスタで発生すれば、被害は甚大。数多の血が流れることとなるだろう。築かれる死体で城のひとつやふたつはできてしまう。
理想郷を求める以上、それを許せる筈がなかった。
「命じられれば私が行きます。無駄に人を死なせる訳にはいきません」
「アルファ」
「っ」
返された踵。
交わる視線。
決して強く張られた訳でもないのに、発せられた言葉はその空間に縫い付けたかのように、アルファの身体を硬直させた。
「お前は少々優しすぎる。それはお前の美徳でもあるが……」
不意に言葉を切った創始者は、嘆くように息を吐いた。
「いや甘やかしていた私にも責がある。この話しはやめにしよう」
「しかし」
「くどい。これ以上私の指針に文句があるなら、結社を抜けて貰って構わない」
「……」
アルファは人を殺したことはない。
与えられる任務も片手で数えられる程。
しかもその殆どが雑用みたいなものだ。
今だって孤児の教育を任されているだけ。
「何故ですか?」
だがなぜ自分だけは特別なのかをアルファは知らない。
ベータは大空警察に工作員として潜入し、ガンマは宝鐘海軍に潜入している。デルタだって魔界で色んな任務をこなしてる。
イータとシータは別として、何故自分だけは日の当たるような仕事ばかりさせるのか。
「私、ずっと一緒に居るのに、あなたから一度もまともな任務を授けられたことがありません。ワザだって強力なものです。私ってそんなに信用ならないですか?」
「……今更何を言うかと思えば、そんなことか」
進めていた足が再び止まり、創始者の爪先がアルファへと向く。
果たしてどんな言葉が飛び出てくるのか。
くだらない、どうでもいい、或いははぐらかされるか。
続く言葉がどんなものであろうと追及するつもりであったアルファだったが、しかし創始者の口から飛び出た言葉は、アルファの呼吸すら忘れさせた。
「ときのそら」
覗く金の瞳は空虚な光を帯びて、吐き出された声は母の子守唄のように、どこまでも優しかった――
「お前がかつて私が殺した友に似ているから。ただそれだけの話だ」
――その内容とは残酷なまでに裏腹に。
アルファは、ときのそらは、何も言えなかった。
・
・
・
創始者はちぐはぐな人物だった。
仲間を使い捨てのように扱っているかと思えば、何よりも大切なものとして扱う時もある。
冷徹な人間かと思えば、愛嬌が覗く瞬間もある。
果たして創始者の本性はどちらなのか。
それとも、どちらも創始者の本性なのだろうか。
あるいは、どちらも演じているものなのだろうか。
信じるとするならきっと、心優しい人だと信じたいものだ。
あの日、差し伸べられた手の暖かさを、かけられた言葉の温もりを、脳が美しく着飾った幻だとは思いたくないのだから。
―――………
『お集まりの皆様、ご機嫌よう』
突如として現れた不審者。
宙に現れた不審者は腰を折って一礼し、そして月光に似た金の瞳がぐるりと辺りを見渡した。
そして一点に止まった。
『この度そこにいる天才科学者、博衣こよりを奪いに来た』
指差されたはかせの尻尾が僅かに跳ねる。そして二三歩後ずさった。
『こ、こよのこと?』
『そうだ。お前を戴きに参上した。できれば穏便に事を済ませたい』
『そんな……』
これ我輩には分かる。はかせ絶対場違いにもときめいてるだろ。両手でおさえている口許がわなないているのは、決して恐怖からじゃない。我輩には分かるのだ。
『私の手を取れ』
宙に浮かんだまま不審者がはかせに近付いた。
それを我輩は何もせず眺めている。
夢のような不確かさなこれは、いいやただの夢じゃない。この明晰さはまさしく予知夢。ただとても歯痒いことに、我輩はただ眺める事しかできないのだ。できることならはかせの耳元で、何ときめいてんだよオメーは! ってツッコミたいのに。はかせはああ見えて乙女チックなところがあるからな。不審者の言葉が変にクリティカルヒットしたんだろう。
何もできないならもうやることは一つ。そして真実もひとつ。
我輩はそういう映画を観るような気持ちに切り替えた。
『そこのお前それ以上動くな!!』
『………』
『会場にお集まりの皆様!! 今のうちに避難をお願いします!!』
スパイダーキッズ*1を散らすように人々がいなくなっていく。
それに反比例して大勢の警備員達や腕に自信のある冒険者達が集まり、不審者を中心に取り囲む。
囲まれた不審者と言えば、遠さがっていくはかせの背中を見つめている。囲まれていても余裕綽々と言った感じだ。ちょっとカッコいい。……おっと? 今はかせに向かって何か飛ばしたな? 恐ろしい程素早い魔法行使、オレでなきゃ見逃しちゃうね!!
そんな彼? 彼女? たぶん声からして男だと思うから彼と呼ぶことにしよう。彼ははかせに何かを飛ばした後、目の前の警備員達に視線を移した。
『つまり、私の邪魔をすることで宜しいのだな?』
『邪魔をするもなにも、貴様が我々の邪魔をしているのだ! 即刻捕らえて牢屋にぶちこんでやる!!』
おっと盛り上がってきました。手元にコーラとポップコーンが無いのが痛い。
『覚悟しろ!!』
彼らが展開した魔法陣が、一斉に強く輝いた。
色合い的に雷系統の魔法と、水系統の魔法だろうか。
四方八方から狙われている彼は、警備員達を一瞥し、一言。
『失せろ』
いやんカッコいい。
その一言で魔法陣は消えた。マジカッコいい。我輩そこに痺れる憧れるぅ!
『なっ!!?』
『消された!? もしかして『仙人』か!!?』
『自由に捉えて貰って構わない』
やべえ強者オーラがハンパない。マジパネェっすわ。
我輩もビシビシそのオーラを感じる。圧倒的なまでな力。垣間見えるカリスマ性。う~ん、特質系だね♥️
その場にいなくてもオーラ別性格分析ができるこれぞ、4DXを越えたLa+ムービー。桁違いな感覚が味わえます。
我輩が端っこで眺めている中、長い銀髪の女性が彼の前へと躍り出た。
表情を見るに自信満々で攻撃力に自信がありそうだけど、その胸部は厚みからして防御に向かないな。うん。ドンマイとだけ言っとく。
『ほぅ、琥珀色の瞳に銀の髪。手元の魔法陣は黒魔術か……貴様は魔界の紫咲家の者か?』
『その通りだ!! ここは『天才』の紫咲が守り通す!!』
黒色の魔法陣を展開させた紫咲と名乗る人物は、二つ名で『天才』を持つらしい。魔法の『天才』ということかな。
ふっ、だが残念。我輩は『魔神』の二つ名持ちよ。それ即ち魔法の神よ。格が違うのだよ格が。
『絶級魔法の五重展開。更に無詠唱で神話魔法をひとつ。なるほど、『天才』と呼ばれるに等しい力だ』
青、赤、黄、紫、白、黒。
その全ての色の魔法陣が煌めいて、耳をつんざく轟音と残像を残しながら彼へと迸った。
見えてる限りでは直撃したと思う。
でも我輩は分かる。これ生きてるやつだ。
『やったか!?』
こいつバカだろ。何フラグ建ててんだよ。
『魔法の練度、速度、威力、独自性。どれをとっても一級品であったが……私の前では意味を成さん』
『無傷……だと!!?』
はいフラグ回収おめでとー。お前には我輩からフラグ建築士の称号を与えよう。
『くっ、魔法が効かないならこれならどうだ!!?』
瞬間、床に魔法陣が展開。構築式を見る限り錬成陣。つまり魔法ではなく錬金術。
青い錬成光と共に射出された刺が、目にも止まらぬ速さで彼へと襲来。
それを見た他の冒険者達も錬成陣を展開して物理攻撃。
なるほど。魔法ではなく物理攻撃に舵をきったのね。
『その転換の早さは流石であるが、それもまた悪手』
刺の雨。槍の嵐。銃弾の霙。
絨毯爆撃もかくや、というほどの衝撃の中、やはりというかなんと言うか、無傷の彼。まぁ当たり前だな。
刺や槍が空中で止まってるんだもん。おそらく全ての攻撃が中空で止められたんだろう。
『私に魔法は効かん。物理も効かん』
『チーターや!』
誰かが上げた叫び声に同意するわ。どう捕えろっちゅうねんこんな奴。
『ついでだ。お前も私と来て貰おう』
瞬く間にフラグ建築士に迫った彼は、魔法で作ったと思われる白く発光する鎖で縛り、煌めく空間に放り込んだ。ああ、これ虚像空間か。
『さて、そろそろ本格的に動こうか。『最強』が来たら少々厄介だ』
そんな事を呟いた彼は、床に足を着いた。
てっきり浮いたまま行動するのかと思っていたのだが、歩いて行くのかな。いやでもその方が強者感出るのかも。う~む……深い。
『ひとつ助言をしておこう。我武者羅に生き残ることにのみ集中しろ』
我輩、このLa+ムービのリアルさを初めて恨んだ。いや何度か思ってる気がする。
『揺れてる地震だ!!』
『なんという揺れだ!! 床が跳ねてるみたいだ!!』
『天井が崩れる!!』
ぎゃああああああ!!!
夢だから声出てないけど、夢じゃなければそんな叫び声が我輩の喉から迸っていたに違いない。
死ぬ! 天井に押し潰されて死ぬぅ!!
警備員達と同じように頭を抱えて、てんやわんやと右往左往。あちこちから魔法が飛んで、我輩のすぐそばを通り抜ける。
一瞬押し潰されたかと思えば、天井が我輩の身体をすり抜けた。そのことにやっと冷静になる。
そうだこれ夢だった。やっだー、我輩ってば天然ね!
『誰か助けてくれ!!』
『あああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!』
轟く絶叫。行き交う怒号。流れる血は大河の如し。
目の前の惨状に対し、冷静さを取り戻した我輩の心は流水のように冷ややかだった。恐らくこの冷静さは剣の極致に辿り着けれるレベルだろう。いや知らんけど。
『神の呪いというのは凄まじい。たった数秒地に触れただけでこの有り様だ』
彼の周囲だけは落石が無い。全部避けたのか、或いは念力でどかしたのだろう。アラバスタ編のゾロを見た気分。つまり石の呼吸の使い手? なにそれ岩の呼吸の派生ですか?
『おっと地割れが』
コイツ今凄い軽やかに避けたけど、それヒョイって感じで避けられるレベルじゃなくね? もう地面が急に無くなる勢いだったよ? しかも底が見えないくらい深いし。
『さて、博士を捕らえに参ろうか』
今回の予知夢の中心は彼らしい。
目に見えないロープに繋がれたように、我輩は彼の背後に霊の如く憑いていく。
そんな中も大地震と地割れは続き、どこかの屋内であった筈だったが、今はもう外である。太陽も見える。
彼が迷いの無い足取りで瓦礫の間を歩いていく間に、我輩はこの参事が起こる筈の日付を確認すべく、倒れ伏す警備員の腕時計を見た。
日付は今日から三日後の午後三時。思いの外時間が無い。
『見付けた』
我輩が焦っている間に、彼は瓦礫に押し潰されているはかせを見付けた。
生きているのか、それとも死んでいるのか。
頭から血を流すはかせからは、生気を感じられない。
我輩が起こそうとしても、すり抜けてばかりで触れられない。
『頭を強く打ったか……念のため結界を付与しておいて良かった』
彼は宙に浮いて瓦礫を動かし、そしてはかせにポーションを浴びせた。
みるみるうちに回復していくはかせの姿を見て、思わず安堵のため息を吐いた。
『では帰るか』
未だ意識が戻らないはかせを横抱きし、彼は虚像空間を開いた。
そして周囲に広がる惨状を一瞥し、姿を消した。
それと同時に視界が白む。予知夢の終わりが近い。
ああ、なんとかしないと。はかせを奪われる訳にはいかない。
―――………
なんだかラプ殿の様子がおかしい。いやいつも何かと変なことしてるけど、今朝の様子はいつもと違うように感じた。
かざまがholoxに雇われてはや二週間。ラプ殿の様子がおかしいことに気付くくらいには、かざまはこの組織に馴染んでいたし、心地好さを感じていた。
「はかせぇー」
「はいはい博士ですよー」
「何処にも行かないでくれぇー」
「はいはいどこにも行きませんよー」
ラプ殿がこよちゃんにしがみつく姿は、正に赤ちゃんの如し。こよちゃんもラプ殿の頭を撫でて宥めてる。
こよちゃんに撫でられてふにゃふにゃと蕩けていたラプ殿の顔が、しかし急に泣きそうな顔になった。
思わずかざまもギョッとする。
「ウソだ! 我輩を置いてどっかに行くんだ! 我輩のことなんてどうでもいいんだぁ!!」
「ちょっと待って、こよってラプちゃんと付き合ってたっけ?」
「どうしたんでござるか? 何か落ちてたお菓子でも食べたんでござるか?」
いや拾い食いは何時ものことか。
かざまはもう両手では数えきれないくらいその光景を見てる。ついでにルイねぇに怒られているところも。
つまり、単なる拾い食いならこうはならないはず。
じゃあ一体、何がラプ殿をこんな風に狂わせたんだろう?
思い至るのはひとつ。
やはりコーラとゲームを没収されたのが堪えたのか。
わかる! わかるぞラプ殿!! 自分の好きなものが禁止されたら辛いでござるよな!!
イエスかざま、ちょー冴えている! この謎、名探偵ござるが解いたなり!!
「コーラとゲームが出来なくて辛いんでござるな?」
「違うわバカ」
辛い。顔を見られること無く拒否られた。バカにもされた。思わずリビングの隅で丸くなる。
なんだよこんなにかざまが心配してるのに! バカって言う方がバカなんだぞ!!
「ラプ殿のバカ! アホ!! おたんこなす!!」
えーと、あと何か悪い言葉何かあったっけ?
ムムム、自分の語彙力の少なさに気が滅入る。
……あれれ? ちょっと待って? バカって言った方がバカなら、つまりかざまはバカだった?
「くぅ、衝撃的事実っ!!」
「なんとなくいろはちゃんが考えていることが分かる……こよ、エスパーだったのかもしれない」
リビングの隅でズーンと沈んでいるかざまと、みょんみょん言ってるこよちゃんと、しくしく泣いてるラプ殿を見て、リビングに入ってきたルイねぇは言った。
「なにこの状況?」
・
・
・
ラプ殿がかくかくしかじか低燃費と説明し、やっと事となりが把握できた。
いやでも、予知夢って凄いんでござるな。
「予定だと、こよりが外に出るのって学会しか無かったよね?」
「うん。エックス・オヴァ学会だね」
「じゃあ、その日にこよりが誘拐されるのか」
今日から数えて三日後に開催される学会。これにこよちゃんが参加するのだ。
かざま田舎者で知らなかったけど、こよちゃんってとんでもなく有名な科学者なんだって。
なんだかかざまも鼻が高いでござる。
欠席しようかと話し合う三人に対し、かざまはピン、と手を上げた。
折角のこよちゃんの晴れ舞台。それを台無しにさせる訳にはいかないでござる!!
「秘密結社holoxの用心棒! この風真いろはが護衛するでござる!!」
鼻高々に宣言したかざまに、三人の呆気にとられた視線が刺さる。
むふー、このかざまに任せなさい!!
「そうだね、こよりの晴れ舞台だし、いろはに護衛して貰おうかな。私も行くし」
「うんうん! いろはちゃんよろしく頼むよ!!」
「さむらい……うん、我輩信じるぞ!!」
「この風真いろは、精一杯頑張ります!!」
皆で『えいえいおー!』と拳を突き上げ、一段落着いたところで、ラプ殿がルイねぇが持ってきていたダンボールに目を向けた。
「かんぶが持ってきたこのダンボールって、どうしたんだ?」
「ん? ああこれね、私の家に置き配されてたんだ」
「え? それ大丈夫なの?」
かざま達の心配に反し、ルイねぇは普通にガムテープを剥がしにかかった。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。だってここに白銀騎士団 銀鏡チヒロって書いてあるし」
「え、白銀騎士団から? それ逆に大丈夫じゃなくない?」
「待って我輩達目を付けられた?」
アワアワと慌てるラプ殿とこよちゃんをほっといて、ルイねぇはダンボールの中から手紙を取り出した。
「ええっと、『拝啓 鷹嶺ルイ様、風真いろは様――』」
時候の挨拶から始まる手紙を、ルイねぇがかざま達に聴こえるように話し出した。
「『この度は神器『宝鐘』の回収にご参加いただき、誠にありがとうございました』」
まずは今回の航海についての感謝が記され、また何故かざまのことも連名で書かれていたことについて説明があった。どうやら風真の里に届くか不安だったらしい。そのため、かざまが仲良くしていたルイねぇのところに送ったそうだ。
次に、途中で離脱したために迷惑を掛けてしまったことへの謝罪が綴られ、そして。
「『今回巻き込まれた沙花叉クロヱ様は現在、ウェスタ魔科学総合医療病院に入院しております』」
「誰だそれ」
頭にハテナを浮かばせたラプ殿とこよちゃんに、さかまたについて説明する。
なかなか元気で優しい子だったけど、そうか今は入院してるのか。機会があればルイねぇとお見舞いに行こう。
「『ダンボールの中身については、今回討伐したリヴァイアサンの鱗でございます。そのまま部屋に飾るのもよし、売り払ってお金に変えるのもよし、どこかに寄付するのもお気のままになさってください』……よし、売るか」
「あ、こよ解析したいから欲しい!!」
「じゃあかざまの分をあげるでござるよ」
「いいの!? ありがとー!」
ダンボールをひっくり返せば、梱包材と共に瑠璃色の鱗と深紅の鱗が二枚ずつ落ちてきた。ラプ殿曰く、大きさはどれもLサイズピザくらい。
「『最後に何かご不明な点など御座いましたら、以下の電話番号までご連絡をお願いいたします』」
そう締め括られた文末に、何を思ったのかルイねぇが電話をかけ始めた。
なんだろう。鱗をもっと寄越せとかそういう電話かな?
ラプ殿とこよちゃんにの三人で目を合わせ、一緒に首を傾げること数分。
「――はい、ありがとうございました。失礼いたします」
「急にどうしたの? こよの分の鱗も追加で欲しいって言ったの?」
「違うわバカ」
辛辣に返されて床に手を着いたこよちゃんの肩を叩く。分かる。分かるよその気持ち。
「ルイルイのバカ! アホ!! ……はっ!? こよはバカじゃないからっ!!!」
「なんとなくこよちゃんが考えていることが分かる……かざま、エスパーだったのかもしれない」
あれ、このやり取り見覚えが。
「電話したのは、銀鏡さんに学会の警護をお願いしたかったから。電話に出てくれた担当者さんに無理言って銀鏡さんに繋げて貰って、事情を説明したら快諾して貰ったよ。警護についてる隊長と変わってくれるって」
「おお~!! 流石ルイルイ、あったま良い~!!」
「凄いでござる!!」
「いよ! ちくわ大明神!!」
「それ関係ないだろ」
――かざまの仲間を殺したと疑わしいチヒロが参加すると決まっても、かざまに異論はなかった。それが最も安心安全だと理解している。
(でも……)
ただ理解していると言っても、かざまの心には不愉快な風が吹く。できるならば奴の手を借りずにいきたかったところ。だけどくだらない矜持で仲間を危険に晒すなど、絶対にやってはいけないこと。
(大丈夫、かざまはやれる)
風真一刀流は神をも殺す最強の剣術。
それを修めた二人が肩を並べるなら、生半可な者では太刀打ちできないはず。たとえ相手が並みならぬ強者だとしても、騒ぎが起これば援軍が来るだろう。それまでの時間稼ぎができれば勝機はある。
(立ち合いで 見るべきものは ただひとつ
月を見遣れば 太刀は届かん)
刀を抜けば、一点の曇りがない刃文が顔を覗く。
それに映るかざまの瞳は、迷いの無い光を放っていた。
(よしっ!!)
この時のかざまは、知らなかった。
この武術歌に込められた別の意味を。
自分は井戸の中の蛙だということも。
この時は、まだ。
―――………
神という生き物は自分勝手な生き物だ。
己の意志が全て正しいと言わんばかりに振る舞い、不幸に嘆く人々に何の施しも与えない。例え施しがあったとしても、それには必ず裏がある。
更に気紛れで行動し、その結果人を殺しても良心の呵責を感じない。
人だろうが動物だろうが、殺しても目の前を飛び交う蝿を叩き落とすような煩わしさしか感じず、自身は全ての生物の頂点に立っていると信じて疑わない。
これを傲慢と呼ばず何と呼ぶ。
ああ、怨めしい恨めしい。
今もなお、目蓋を閉じれば思い出す。
大切な人の亡骸を。
どうして母を殺したのかと嘆いた。
母はただ優しいばかりの善人だったのに。
すると神はこう答えた。
『大罪を犯した罪は、その命でもって償わせる』
神は正しいことをしたと言わんばかりの態度だった。
ああ、それは本当の事だろう。
だが何故私を殺さなかった。母には何の罪も無かったのに、全ては私が悪いのに。
私は既に禁忌を犯しているというのに、何故私を殺さなかった。何故母を殺した。
それとも、これが私への罰だというのか。
命を弄んだ罪だというのか。
『我直々に手を下されたことを光栄に思うがいい』
その言葉に、私の心はどす黒い感情で埋め尽くされた。
感情が吼えるままに神に襲いかかり、そして、戦いとも呼べぬ児戯染みたもので終わった。
私の完全な敗北だった
虫の息の私にトドメを刺すことなく神は姿を消し、そこには私と母が残された。
母の仇を取れず、それどころか生かされて。
ああ、ああ。
あまりの屈辱で臓腑が捩り切れる思いだった。
物言わぬ骸を抱き締めた私の心は、憎悪の炎で燃え盛った。
物言わぬ骸に口付けた私の魂は、悲哀の涙で濡れていた。
醜い自尊心に傲慢の皮を被り、信仰を迫る神どもめ。
やはりお前達は狂っている。生かしてはおけない存在だ。
神という立場を利用して、命を弄んでいるのは己自身だと何故気付かない。
世界を創ったからと、何をしても許されると何故思う。
ああ、ああ、そうだ。
それならばもう、それならばもう。
私が思い知らしめるしか道はない。
そして私は母の骸に誓ったのだ。
神を殺して、誰も理不尽に奪われることの無い理想郷を掴むと。
――この日、私は神という怪物を殺す怪物となった。
ときのそら
基本的に孤児の教育を担当している。創始者とは古い付き合い。ちなみに『聖人』に到達済み。
ラプラス・ダークネス
SAN値ピンチになるも、博士にナデナデされてホイミベホイミベホマズン。瞬く間に回復した。
風真いろは
瞑想したり刀を振ったりして初任務に備える。しかし悲しきかな、初任務は失敗する定め。なぜならそうしないと話が進まないから。
書いた住所は『竜霊山』のみ。これじゃあ届けられん。
銀鏡チヒロ
宅配の手配は自分で。というのも、幹部の住所は予め参加する際に記載して貰ったため判明していたが、用心棒に関しては上に述べた通りで、更に場所が場所なだけに確実に届けて貰えるか不安だったため。なら一緒にして送っちゃおう! という安易な考え。他の参加者達にも同じような文章の手紙付きで送ってる。
学会の警護は基本的に大空警察の仕事なので、騎士団はその区画の隊長とその部下達(30人中10人)のみで警護に携わっている。
創始者
一言で言えばマザコン。二言で言えば覚悟ガンギマリマザコン。神を殺すためには身を滅ぼすことも躊躇わない。なお口付けたのは額である。
神を憎み、天使を拒絶し、己を嫌う。
本文に書いてあることが全てではない。あえて書いてない事実も存在する。
神
世界を創世した四神のひとり。議会を創った神々である。よって、全ての神の頂点に立つ存在。
世界の運営者たる四神が滅びれば、世界は再び終末を迎え、虚無が暴悪を奮うだろう。ならば世界に理想郷はあり得ない。
しかし希望は存在する。唯一虚無を救うことができるとすれば、それは彼女の存在を証明することのみだろう。