白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 私は三人称視点の場合、基本的に幹部や博士、総帥と言った感じに肩書きで書いているのですが、用心棒と書くと何か変なので、ここはいろはと書いています。

 創始者無双回です。こよいろ要素ありです。上に述べた通り曇らせ要素ありです。
 苦手な方は注意して下さい。

 アンケートご協力ありがとうございました。やはり魔乃アロヱは出すことにします。頑張ります。

 感想欄で二回『桐生ソコロはいつ出てくるの?』みたいなことを訊かれたのでここで答えます。丁寧に答えるので長いです。
 ソコロはこれでも一応主人公として設定しているため、彼の話を出すためには、まずコミュニケーションが取れる歳になるまで月日を年単位で飛ばさなくてはならないんですよね。乳児や幼児期とかの、思考や行動がままならない時期を書いても需要がないと思っていますから。それでも書こうとするならば、彼の幼児期を桐生ココや天音かなたからの視点で書かなくてはなりません。そうなると二人の思考や行動を私が理解する必要があります。天音かなたに関してはトレースできると思ってますが、桐生ココに関しては難しいです。なぜ配信であのような言動をとれるのか、何を考えればそのようなことをしたのかを理解するのが難しいのです。突拍子つかないことをされると凡人には理解できないのです。
 よって、年月をソコロがある程度コミュニケーションが取れる歳まで飛ばす必要があります。ですが私はそういうのをしたくないんです。~年後とか、~ヶ月後とかやるくらいならその間の話を考えとけっ!! てなります。もちろん個人の意見なので誰かに押し付けるつもりは全くありません。
 そんな訳で、私はソコロがコミュニケーションを取れる歳までじっくり他の人達に焦点をあてて書いています。ホロライブの人達は全員主人公のつもりでじっくり書いています。ただ、場合によっては何回か年月を飛ばすかもしれません。
 しかし二回も『主人公は~』と訊ねられたので、出すことにします。プロットを大まかにしか設定してないからこそできる芸当。
 今回の『奪われた竜の宝玉』編が終わり、次の『ツウィルと雪の花』編(仮)との間に入れておこうと思っています。ただ、9話で雪花ラミィが『なんだかとっても素敵な予感がするのです』と言ってるので、先に『ツウィルと雪の花』編を書いてから桐生ソコロが出てくる『突撃隣の桐生会』編(仮)を書くかもしれないです。だって素敵な予感がしたのに、その予感があたるのが数年後とか意味不明でしょ?
 どちらにせよ、出てくるのはまだまだ先です。


第14話 学会襲撃

 ウェスタで開催されるエックス・オヴァ学会。

 生物に関する各自の研究成果を発表するものであり、大規模に開催されるため数多くの科学者達や究明者達が集まる。また、一般公開もされているため、科学に興味がある一般人や学生も後学のためと集まってくる。

 いわゆる万博に近い存在であり、経済的効果も期待されている。

 

 そんな盛大な催し事の日、鷹嶺ルイ及び風真いろは、そして博衣こよりを含めた三名は、広場の陰にて銀鏡チヒロを待っていた。

 ここにラプラス・ダークネスの姿はどこにもない。総帥に関してはその特徴的な姿がゆえ、今日はお留守番なのだ。

 

 銀鏡チヒロとの待ち合わせ時刻は、予定の時間より少し遅れている。何かあったのだろうかと、幹部は広場の中央にある噴水の時計を見た。

 

「鷹嶺さーん!!」

 

 噂をすればなんとやら。

 石畳の上を小走りでかけてくるチヒロは、別れた時同様白と金の詰襟の正装を纏い、狐のお面を被っていた。

 

「少し遅れてすみません」

「いいえ。全く。こちらも無理を言って申し訳ございません」

「いえいえ、そんな、頭を下げなくても全然大丈夫ですよ!」

 

 アワアワとチヒロは両手を振り、この話を打ち切ろうと幹部の隣に立つ博士といろはを見た。

 

「お久しぶりです風真さん」

「……お久しぶりです」

 

 つん、とした感じにいろはは挨拶し、そしてそっぽを向いた。

 それに内心ダメージを受けながら、チヒロは博士と向き合った。

 

「はじめまして博衣こよりさん。天才科学者と名高いあなたにお目通りが叶って喜ばしい限りです」

「へへーん! もっと褒めてくれてもいいのよ?」

「それであの、こちらの色紙にサインをお願いします。その、ちょっと頼まれてしまって、よければ」

 

 しどろもどろになりつつも、チヒロは色紙とペンを取り出した。しかしペンを取り落とす程緊張するとは珍しい。一体誰からかと疑問が博士の中で首を傾ける。

 

「もちろんいいよー! 宛名は誰ですか?」

「わぁありがとうございます! 名前は銀鏡チヒロでお願いします!」

「オメーじゃねえーか」

 

 幹部の突っ込みを無いものとして、チヒロは書いて貰った色紙を大事な宝物のように抱き締めた。

 そしていそいそと仕舞って、オホンと咳払いをひとつ。

 

「風真さんは本来武器の携帯が許可されてませんので、こちらのカードを首にかけて下さい。一応鷹嶺さんもカードを持っておいて下さい」

「ん」

「ありがとうございます」

 

 二人とも首にカードをかけたことを確認し、チヒロはさぁ、と一言声をあげる。

 

「博衣さんの出番が来るまで、色々見て回りましょうか! 私、頑張って案内します!!」

 

 

 

 

 

 

 

 こいついい奴だなー。

 こよは横目で銀鏡さん、いやチヒロちゃんを見ながらそう思った。

 白銀騎士団の副団長という偉い立場だというのに、物腰は柔らかく、冗談も通じて、色んな人から話しかけられている。それだけで性根が優しいことが伝わってくる。

 それは今も同じだった。

 

「キツネさん、ぺこちゃんチュロス食べたいペコ」

「いいよー。でも耳掴まないでねー」

 

 迷子の兎の獣人を肩車して、ケモ耳を鷲掴みされても嫌な顔ひとつせず、チヒロちゃんはチュロスを四つ買った。

 

「わーいキツネさんありがとぺこー!」

「いいよー。でも耳離してねー」

 

 ひとつを幼女にあげ、チヒロちゃんは残りの三つをこよとルイルイといろはちゃんに分けた。

 自分は食べないのかと思ったけれど、そう言えば人に顔を見られたくないんだったっけ。噂でそう聞いている。

 

(しかし見られたくないなら、見たくなるのが人の性。果たしてその面の下にはどんな顔が隠されているのか……)

 

 この博衣こより、とても気になります。

 こよがどうやってお面の下を覗こうかと思案に耽るなか、

 

「ちょっとあそこのベンチで休憩しましょうか」

 

 と、チヒロちゃんが指差したベンチで少し休憩することにした。

 今回の学会のために準備されたベンチにこよ達は腰を下ろす。けれどチヒロちゃんは座らずに立ったまま。

 

「私、ちょっとこの子の家族探してきますね。十分しても見つからないようならまた戻ってきますから!」

「うん。行ってらっしゃい」

「あ、それなら私も行ってくるよ。いろは、ここは任せたよ」

「行ってらっしゃーい」

 

 そうしてルイルイとチヒロちゃんは幼女を肩車したまま居なくなり、この場にはこよ達だけが残された。

 束の間流れた沈黙。それを破ったのはもちろんこよの方。

 

「なんでそんなに気が立ってるの?」

「っ、いや」

 

 ずっとずっとずっと、刀の柄に手をかけたままのいろはちゃんにそう問いかけた。

 

「守ってくれるのは嬉しいけどさ、いろはちゃんと初めてのお出かけだよ。こよ、もっといろはちゃんとお話ししたいな」

「……そうでござるな」

「なんか、話辛いことでもあるの?」

 

 いろはちゃんの顔に陰が落ちる。唇は横に噛み締められていた。

 いろはちゃんが話し出しやすいように、こよは隣をぽんぽん叩く。するとこよの意図を察してか、いろはちゃんはやっと隣に座ってくれて、足の間に刀を立て掛けた。

 

「こよちゃんは風真一刀流を知ってるでござるか?」

「ううん」

 

 それを契機に、いろはちゃんはポツポツと教えてくれた。

 風真一刀流の継承。それを継承してない筈のチヒロちゃん。故に殺して奪ったと疑ういろはちゃん。

 でも、市民に慕われている姿を見て、証拠も無いのに疑う自分が嫌になって、だけどそのことに気付いても、かつて見た風真一刀流の剣技が自分より洗練されている事に嫉妬を向けてしまって、そんな自分がまた嫌になったと。

 

「そうだったんだね」

「幻滅したでござるよな。かざま、風真一刀流を修めているのに、こんな簡単なことで心を惑わされてしまうでござる。かつて師匠に直せと言われたことが、今もずっと直らないままでござる」

 

 こよは剣士じゃないし、何か武術を修めている訳じゃない。だから、こんな時なんて励ました方が良いのかわからない。

 

 だから。

 だから。

 

「えぇい、この『元気が爆発する薬』でも飲めぇぇ!!」

「むぐぅ!!?」

 

 こよはこよのやり方で元気付ける。

 無理矢理口に突っ込まれた薬を、いろはちゃんは溺れかけながらも全部飲んだ。

 

「急に何するでござるかぁあ!!?」

「うるさーい!! こよの前でうじうじ悩むの禁止!! ずっと笑ってろぉ!!」

「笑う前に死ぬところだったでござる!!」

「いろはちゃんはこよの後輩! よって先輩の言うことは絶対!!」

「パワハラでござる!」

「いい!? いろはちゃんが自分を嫌いなら、こよがその倍好きになってる! いろはちゃんが自分を悪く言うなら、こよがその倍好きな所言ってやる!!」

「……っ」

「いろはちゃんは毎日鍛練してて凄い! 刀使えるのかっこいい! いつも早起きしててえらい! たまにご飯差し入れてくれてありがとう! 低い声がかっこいいと思ってるの可愛い! 気配りできてて凄い! ぽこべぇと戯れてるの可愛い! 寝顔可愛い!! 寝言も可愛い!! 声音が心地よくて好き! それからそれから―――」

「もういいでござる恥ずかしいでごさるぅ!!」

「へっ、勝ったな」

 

 衆人環視のもと、いろはちゃんへの愛を叫んだ結果はあった。

 こよの顔を見れず真っ赤に俯いて、両手の人差し指をツンツン突き合わせてるいろはちゃんを見て、こよは心の中でガッツポーズ。

 だけど慣れないことをしたせいで、頭が熱でクラクラする。胸もドキドキと心臓が早鐘を打っている。

 もしかしたら、こよの頬はいろはちゃんの顔以上に真っ赤なのかもしれない。

 これじゃあいけない、頭がオーバーヒートしちゃう。

 

 冷静になろうと、ふぅ、と吐き出した吐息は目が眩む程の熱を孕んで、

 

「あっつい」

 

 果たして、唇から漏れた言葉はどちらのものだったか。

 

 

 

―――………

 

 

 

 戻ってきたらこよりといろはが赤面していた件について。

 

 銀鏡さんと運良く迷子を届けて戻ってきたら、こよりといろはが風邪引いたかと思う程顔が真っ赤になってて、一体何があったのかと訊ねてみれば、二人揃って勢いよく首を横に振った。

 

 一体何があったというんだ。

 

「あ、こよ時間だから行かないとー!! じゃあねぇ!!」

「あ、うん頑張って」

 

 はて、まだ時間はあった筈だが、こよりは土煙を巻き上げる程の早さで姿を消した。

 

「何があったんでしょう?」

「さぁ?」

 

 銀鏡さんと顔を合わせて首を傾げる。

 答えを知ってそうないろはに視線を向ければ、物凄い勢いで目を逸らされた。

 

「何も言わないでごじゃるぅう!!」

「お、おう」

 

 顔を覆って蹲るいろはに、取り敢えず追求するのはやめた。凄い気になるけど。

 

 まぁ、いろはが元に戻るまで雑談でもするか――と銀鏡さんの方を見たら、インカムで誰かと話してた。おそらく部下の人達だろう。

 

(それにしても……これ端からみればあれだな)

 

 三人集まってるのに誰も会話しないとか、ここは陰キャの集まりですか?

 

「――えぇ、会場には来なくていいです。捲き込まれるので会場の周辺の警備をそのまま続けて下さい」

「――はい、事前に伝えた通りに動いて下さい」

 

 先程までとは打って変わってビシバシ指示を飛ばす銀鏡さんを見て、私の体に緊張が走る。いろはも声が聞こえたのか、ピクリと体を震わせた。

 

(そろそろ本腰を入れるべきか……)

 

 知らず知らずのうちに、私は両拳を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、襲撃の時刻を迎える。

 

 

 

―――………

 

 

 

「お集まりの皆様、ご機嫌よう」

 

 ステージに現れた創始者の声が響き渡る。

 漆黒の装いに包まれた身から、圧倒的なまでの重圧が放たれた。

 

「この度そこにいる天才科学者、博衣こよりを奪いに来た」

 

 指を差された博士の尻尾が僅かに跳ねる。そして二三歩後ずさった。

 それを庇うように、銀鏡チヒロが前に出る。

 

「それをさせる訳にはいかないですね」

 

 白銀騎士団副団長──脅威の念力を誇る『白銀の仙狐』は、トンと床を軽く蹴り、宙に浮かぶ創始者と同じ目線の高さまで浮かび上がった。

 

「ああ、やはりいたか。『白銀の仙狐』」

 

 真白の団服を翻すチヒロと、漆黒のコートを靡かせる創始者。

 宙で対峙する二人は、暫しの間睨み合うように動かない。

 だがその数瞬後、耳を塞ぐ程の甲高い軋む音が鳴り響き、両者の間の空間がひび割れた。

  魔法現象にも似たこれは、いいや魔法によるものではない。

 

 絶大な念力と膨大な念力の衝突。

 魔子と霊子の奪い合い。

 己の領域の塗り広げ。

 

 異次元なまでに鍛え上げられた二人の念力が、空間でさえも引き裂いた。

 その現象は闇の稲妻を伴って、見境無しに降り注ぐ。

 

 人間業とは思えないこの現象に、誰もが体を止めて目を見開いた。

 

 これが──高みに到達した『仙人』同士の激突かと。

 

「問いをしよう、『白銀の仙狐』」

「っ、なんでしょう?」

「お前、私と共に来ないか?」

「ご冗談でしょう」

「私はお前をよく知っている。例えば──その面を何処で誰から貰ったのかも」

「っ!? 何故それを」

 

 大きく動揺するチヒロに、創始者は追い討ちをかけるように問いを投げかける。

 

「なぁ、母を失った時、何を思った? 友を手にかけた時、何を感じた? 己を慕う人を殺した時、何を憎んだ? 神を恨み運命を憎んだ筈だろう?」

「………」

「そうだろうそうだろう。『答えられない』それが答えだ。ならお前は我々と共に来る資格がある。お前が私と手を組めば、大きく理想郷に近付くぞ。──誰もが幸せな理想郷にだ!!」

 

 語尾を荒げた創始者は、両腕を大きく広げた。

 

「なぁ、寂しいよな。辛いよな。だがその痛みは決して癒えやしない。ずっとずっとずっと、お前にしがみついて離さない」

 

 一瞬だけ、空間が揺れた。

 創始者の言葉に惹かれたのか、一瞬だけチヒロの念力が弱まった。

 だが。

 

「わかってる! だけど私はその痛みを誰かに渡すつもりはない!!」

「そうか。残念だ」

 

 黒雷が消えた。耳が痛い程の沈黙が支配する。

 

「なら、お前はいらない」

 

 創始者の眼前に開かれたもの。

 それは目玉だった。

 いや、正確には目玉に見える魔法陣だ。

 禍々しい光を放つそれが、瞬きをしたのと同時に光の洪水が放たれた。

 一方チヒロは刀の柄に手を置いて、『桜花爛漫』が閃いた。

 

「──風真一刀流 ニノ段 魔風刃」

 

 剣筋が走る。

 一瞬だけ。

 光と刀が交差する。

 

 結果、光の洪水は二つに別れて床に衝突。そのまま地面を深く削り、深い谷を形成した。

 

 更に気配を殺していたいろはが、創始者の背後から襲撃。青銀の軌跡を纏った一撃──疾風迅雷天津風を叩き込む。

 

「くっ、硬った……っ!?」

 

 しかし、首を刈らんばかりの一撃は、創始者の左腕で止められた。

 

「風真一刀流。それは神をも殺す最強の剣術。はて、それは本当に神をも殺し足らしめるものだろうか? どう思う風真いろは」

「かざまの事知ってるでござるか!?」

 

 驚愕しながらも瞬時に距離を取り、そしていろはと入れ替わるようにチヒロが奥義を叩き込む。

 

「『天神地祗刕・志那都比古』だったな? 全ての神を斬ると謳いながら、私の命を刈り取れない。なぁ、銀鏡チヒロ。お前もどう思う?」

 

 だが奥義でさえも、創始者によって止められた。

 額を突き合わせんはがりの距離で、創始者はチヒロにそう問いた。

 

「一度で駄目なら神を殺すまで叩き込むだけです」

「おぉ、成る程。だが及第点に過ぎん」

「……なら、答えは?」

「紛い物の神は殺せるが、本物の神には通用しない。これが答えだ。まぁどの物理攻撃も本物の神には通用しないものだが」

「なら、貴様は本物の神だと?」

 

 問答を続ける創始者へ、隙を突かんといろはは再び刀を振り上げる。

 だが、一瞥されることなく念力によって捕えられた。

 そして念力から逃れようと踠くいろはに目をくれることもなく、創始者はチヒロへと答えた。

 

「いいや」

「じゃあ殺せる筈です」

 

 決意がこもった瞳。狐の面の向こうで輝く瞳に、創始者は苛立ち気に舌打ちを打った。

 そして、闇のように黒い右腕でチヒロの首を掴んだ。

 

「銀鏡チヒロ。お前に私は殺せない。分かるだろう。まだ私が本気を出していないことを」

「くっ……だけどやってみなければわからないでしょう!!」

 

 チヒロの啖呵に、創始者は思うところがあったのか口を噤んだ。

 

「……そうだな。やってみなければわからない。私にとっても同じことだ。……だが、お前の希望は簡単に散るぞ」

「私の希望は、なにも私が貴様を斬ることだけではないですよ」

「なに?」

 

 チヒロが不敵に笑った直後、天井が崩れて一人の男が降ってきた。

 

「──眼似流星、機如掣電」

 

 それは白銀騎士団の団服を翻し、神器『白銀』の真の継承者。『最強』の二つ名を背負うその者の名は、白銀騎士団団長、白銀イダス。

 禅語を唱えたイダスは、身体強化魔法を発動させて床を蹴り、宙に浮かぶ創始者へと踏み込んだ。

 

「電光影裏斬春風」

 

 イダスの剛剣を、創始者は振り絞った右腕で受け止めた。しかし、肌に食い込んだ刃はそのまま創始者の右腕を半ばから切断した。

 

「くそ、『最強』が来たか」

 

 切断されたものの、創始者に焦りは見当たらない。それもそうだろう。創始者に物理攻撃は効かないのだから。

 

「腕が再生した……!?」

 

 みるみるうちに生えていく右腕。三秒もしないうちに生えた右腕は、すっかり元の姿を取り戻した。

 

「貴様『仙人』ではなく『聖仙人』だったか!!」

 

 これにはイダスも動揺を禁じ得ない。まさか亜神と称される領域まで踏み入れていたなど、誰が想像できるものか。

 

「いつ私が『仙人』だと言った。それに『聖仙人』でもない」

 

 生えた右腕を確かめるように軽く振りながら、創始者は独り言のように言った。

 

「私は神だ」

 

 

 

―――………

 

 

 

 足手まといになってることを、かざまは薄々感じていた。

 

 かざまの取り柄は風真一刀流。それが完璧に防がれるなら、かざまの出番は無い。

 

 もしまともな魔法が使えたとしても、かざまはあの三人の間には入れなかっただろう。

 仙人相手に立ち向かうやり方は知っていた。それは念力に捕まる前に叩き斬ること。

 だけど念力の範囲が広すぎて、更にこちらの気配に敏感で、容易く捕らわれてしまう。

 

(かざまは一体なんのために……!!)

 

 悔しげに噛んだ奥歯からは苦渋の味がした。

 握りしめた拳からは鉄錆に似た匂いがした。

 

(今もそうだ。銀鏡さんと白銀さんに庇われてる)

 

 もうかざまには二人の背中しか見えない。

 悔しい。悔しい。悔しい。

 あまりの悔しさで涙が出てくる。ここまで差があるとは思わなかった。

 

「風真さん、鷹嶺さんと合流して博衣さんの護衛をお願いします!!」

 

 振り向くことなく、銀鏡さんはかざまにそう言った。言葉の裏には戦力外通告が含まれているのだろう。

 だけどそれに異を唱えることはできなくて、かざまは唇を噛みながら、逃げるように会場から走り出す。

 

(強くなりたい)

 

 もっと。もっと。もっと。

 

(誰にも負けないくらいに強く!)

 

 決めた。かざまはこれが終わったら銀鏡さんに師事しよう。『仙人』になるための修行をつけて貰おう。

 そしたらきっと、かざまはまっすぐ前を向ける。

 

 

 

 

 

 

 かざまが会場の外に出た直後、大きな揺れが襲った。

 これがおそらくラプ殿が言ってた地震。ならこよちゃんが捕まるまで時間の問題だ。

 

(一体どこに……)

 

 あんな優しい彼女を誘拐される訳にはいかない。

 いざとなったら命を擲つ覚悟で護る。

 

(冷静に、冷静になれ風真いろは)

 

 足を踏み出した直後、地面が生き物のように跳ねてかざまを強く跳ね飛ばす。次の瞬間には視界が上下逆さまに、更に視界の端には流星の如く瓦礫が飛んできてるのを捉えて、反応が遅れた。

 

(――はっ!!?)

 

 頬に当たるざらついた感触は砂。口内を蹂躙するのは鉄の味。

 目を覚ました時にやっと、自分が意識を飛ばしていたことに気が付いた。

 

(急げ急げ急げ!)

 

 全身を強く打ったけど、幸いなことにそれ程深い傷は負ってない。

 あまり時間が経ってないことを祈りつつ瓦礫の間から這い出して、立ち上がって、周囲を見渡した。

 

「なに、これ」

 

 掠れた声が出た。

 体が固まった。

 痛みもどこかに吹き飛んだ。

 

「ひどい」

 

 視界に入る全てが瓦礫瓦礫瓦礫。

 屋台も潰れ、香ばしい香りの代わりに煤けた匂いが鼻を擽る。

 それだけじゃなく、風が運んできた匂いは濃厚な血の匂い。誰かが死んだ匂い。

 研ぎ澄まされた聴覚は、誰かの泣き声と呻き声を捉えた。

 そのひとつに覚えのある声がして、まさかまさかと思いながらも、聞き間違いだと願いながらも、その声の元へと疾駆する。

 

 血の川を越えて、人の死体を跨いで。

 

 やめて。

 やめて。

 お願いだから。

 

 そう願って。

 でも。

 

「待て!!」

 

 肩を荒々しく上下させ、鼻息荒く呼吸をするかざまに、彼はゆるりと振り返る。

 その右手には、こよちゃんが捕まっていた。

 

「おお、誰かと思えば遅かったな、風真いろは」

「いろは……ちゃ、ん……逃げ、て」

 

 待ち合わせに遅れたことを咎めるような軽さ。

 その足元にはルイねぇが横たわっていた。

 

「その手を離せ!!」

 

 駄目だ心が落ち着かない。落ち着けられる訳がない。握った刀は怒りのあまり震えていた。

 かざまの訴えを、奴は鼻で笑って叩き落とした。

 

「離す訳がないだろう。それにしても非情な奴だな。銀鏡チヒロと白銀イダスの安否が気にならないのか」

「非情な奴? そんな言葉をこの惨状を産み出した奴に言われたくはない!!」

「失敬な奴だな。これは私がやった訳ではない。自然の神が起こしたものだ」

 

 一体何をのうのうと。

 これほどまでの血と死体の山を築いて、ああ、怒りで視界が真っ赤に染まる。

 

「ふざけたことを抜かすな!!」

「わからん奴だな。今回私は誰も殺してない。銀鏡チヒロも白銀イダスも重傷だろうが生きている。この惨状を産み出したのは自然の神だよ」

 

 物事の分からない幼児に訴えるように、奴は優しくかざまに話しかける。

 

「神はそんなものだ。人がどれ程死んでも気にならないし気にも留めない。あいつらは狂ってるんだ」

「お前も神のクセに」

「そうだな。だが私は奴らとは違う。救う者は救うし、それを盾にして信仰や代償を迫らない」

 

 意味が分からない。救う者は救うだと。

 それ以上の犠牲者を生み出しといて何を言ってるのか。

 奴の言ってること全てがかざまの癪に障る。

 

「もういい!! こよちゃんは返して貰う!!」

 

 怒りは凄まじい力を与える。けれど怒りは理性のコントロールを失う。

 師匠の言葉も忘れて、かざまはただ力の限り刀を振り下ろした。

 

「馬鹿な奴め」

 

 呆れた声と共に繰り出されたただの拳。それが振り下ろされたかざまの刀身を叩く。それは呆気ないほど簡単に、かざまの刀を中頃で折った。

 

「――え?」

 

 折られた勢いのまま舞い上がる刀身を、かざまは呆けたように見つめる。

 だって、かざまの神器は、チャキ丸は、決して折れず曲がることはないのに、それが、折れた。

 

『覚えておけ。真剣は横からの衝撃に弱い』

 

 昔師匠に言われた言葉が頭を過る。

 でも、折れないはずなのに、でも、折れた。

 

「刀は横からの衝撃に弱い。太刀筋を見極めれば単純な事だ」

 

 混乱で頭が一杯のかざまに、奴はなんか言って、直後横腹に強い衝撃を受けた。蹴られたのだ。

 

「ゴホッゴホッ、げほ」

「いろはちゃん!!」

 

 地面に転がるかざまの耳に、こよちゃんの心配する声が届く。なんて優しい人なんだろう。自分の事よりかざまの事を心配するだなんて。

 

 ならば尚更連れ去られる訳にはいかない。

 例え神器が折れても、骨が折れても、命がある限り立ち向かう。

 

「まだ立つか。いい加減諦めろ。『白銀の仙狐』と『最強』が止められなかった私に、お前が敵う相手ではない」

「――ない、渡さないっ、こよちゃんは絶対渡さないっ!!」

「……その強情さは天下一品だな」

「ううっ!?」

 

 見えなかった。いつの間にかかざまは地面に倒れて、奴を下から見詰めていた。

 奴の両手には、折れたかざまの刀とその切先が。

 

「その強情さ、死んでも発揮されるかな?」

「っ」

 

 避けようと起き上がろうとした左手に、折れた切先が突き刺さった。

 

「うあっ!!」

「動くと余計に痛いぞ」

 

 あまりの痛みに歯を食い縛るかざまの首に、奴は刃を添わせた。背筋を震わせる冷たい感触がした。

 

「さらばだ」

 

 首に添えられた刃に力がこもるのを感じる。ほんの少しでも引けばかざまの頸動脈は切り裂かれ、噴水のように血を吹き出すこととなるんだろう。

 

(みんな、ごめん)

 

 かざまは死を覚悟した。けれど目は真っ直ぐ奴を見る。最後まで抵抗したかった。

 

「やめてぇ!!」

 

 けれども、かざまに迫った死神は、こよちゃんのその一言でたじろいだ。

 

「こよ付いていくから、もういろはちゃんを、皆を傷付けないで!!」

 

 泣いていた。

 紫陽花の瞳一杯に水面を波立たせ、こよちゃんが泣いていた。

 

「良いだろう。命拾いしたな」

「……だ、駄目! 行っちゃだめっ!」

 

 刺されていない方の手を懸命に伸ばすも、もう届かない。

 ならばと、意を決して左手に突き刺さる刃を掴んだ。

 刃が掌に食い込む。血で滑る。汗が吹き出る。だけど呼吸をして、一息に抜いて、立ち上がる。追いかける。

 

「いろはちゃん!」

 

 だけどかざまの足を止めたのは誰でもないこよちゃんの声で、涙に濡れたこよちゃんの声で。

 こよちゃんの顔が、精一杯笑った。

 やめて、そんな顔で笑わないで。そう言えたらどんなに良かったか。続く言葉を、塞ぐことができればどれ程良かったか。

 

「バイバイ!」

 

 明らかな決別の言葉。

 こよちゃんはそれ以上何も言わず背中を向けて、踵を返して、煌めく空間へと足を進める。

 

「やだ、やだよ、一緒にいようよ、まだいっぱいお話ししようよ」

 

 そして、最後に振り返ることなく、煌めく空間に入って、消えた。

 

「やだよ、やだ」

 

 力無く地べたに座り込む。

 もう自分の手は届かない。

 自分の足では辿り着けない。

 手遅れとなった現実に耐えきれず、幼子のように背を丸め、涙に溺れた不明瞭な声で繰り返す。ごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す。やだよやだよと繰り返す。

 

『バイバイ!』

 

 そう言ったこよちゃんの笑顔が瞼の裏に焼き付いた。

 そう言った声が鼓膜に響いて離れない。

 

 手の痛みよりも、全身を打ち付けた痛みよりも。

 こよちゃんを失った心が、何よりも何よりも痛かった。

 

 またひとつ、涙が頬を伝って滴り落ちる。

 このまま、涙で溺れてしまえば、どれ程良いことか。




 風真いろは
 足手まといになり、神器は壊され、庇護対象に庇われた挙げ句仲間を連れ去られる。
 はーいSAN値チェック入りまーす!
 次回、風真いろはholox脱退の危機。

 博衣こより
 こよの前ではずっと笑っていろぉ!!
 を体現。自分で言ったことなんだからやれるよね。

 銀鏡チヒロ
 あらかじめ指示を出したのは以下の通り。
 ひとつ。会場には近付かないこと。
 ふたつ。博士の発表が終わり次第、すぐに観客を避難させること。
 みっつ。侵入者が出た瞬間、団長に連絡すること。
 よっつ。後は自分の身を守れ。

 白銀イダス
 神器『白銀』を破壊された。しかし『白銀』は流動性があるため、時間が経てば直りそう。もちろん優秀な鍛冶職人にチェックはして貰う。

 創始者
 名前と権能はそのうち。権能の正体は不明だが、どうやら神器にも影響するようだ。

 兎田ぺこら
 迷子になってた。なお赤髪でオッドアイの少女と仲良くなった模様。

 紫咲
 二つ名『天才』をもつ女性。ついでとばかりに拉致られた。

 エックス・オヴァ学会
 名前はエックス・オヴォ・オムニアを少しもじったもの。これはウィリアム・ハーヴィー著『動物の発生に関する研究』(1651年)の口絵で言ったもの。意味は『すべては卵から』。あらゆるものは卵から生まれるという確信(にすぎないもの)を表現している。理系の人は分かると思うが、これは間違っている。菌やカビなどは卵から生まれない。
 本当はフィルヒョウ(19世紀)がハーヴィー風に表現したオムニス・ケルラ・エー・ケルラ(あらゆる細胞は細胞から)が学会の名前としては適していると思ったけど、長すぎたし切っても語感が悪いのでボツとなった。
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