今まで大変な間違いを犯してました。ラプラス・ダークネスの一人称は我輩ではなく吾輩でした。申し訳ございません。今話より訂正していきます。ただ、私は訂正ついでに伏線を張り直していると思われるのが嫌なので、今までの話を編集して訂正することはしません。
博士はすあまが好物の一つらしいのですが、私それを食べたことなかったので買ってみました。見た目かまぼこなのに味わいは団子で、個人的にはまぁまぁと言ったところでした。
「私の腕をとれ」
虚像世界と言われる空間にて、こよは差し出された腕を取る。もう一人捕まっていた女性は白い鎖で縛られていたため、彼が自分で彼女の腕を取った。
「わっ!?」
彼が指をパチンと弾いた途端、視界が切り替わる。先程までいた学会じゃなくて、目の前には立派な教会が聳え立っていた。
「我々の本部。ウロボロスへようこそ」
「アンタ今のは転移魔術かい!? 一体どうやって!?」
「私は空間の祝福を持ってるからな。術式を物に刻む必要はない」
どうでもいいように肯定し、彼は虚像世界を解いた。
そしてこよ達を教会の中へと招き入れる。
この教会、変なことばかりだ。壁を見ても継ぎ目が無いし……知らない鉱物でも使われているのか。それに所々に逆さまの十字架、しかも真っ赤なやつが描かれてあって薄気味悪い。
「ここに入れ」
何回か角を曲がったのち、ひとつの部屋に通された。中には木製の長い机と椅子があって、貴族の食事のシーンみたいだ。こよの考えを後押しするように、机の上には赤い花が花瓶に挿してあった。
「好きな所に座るといい。軽食としよう」
彼はどこからともなくお菓子を取り出し、食卓の上に並べる。出てきたものは、チョコレートケーキ、すあま、たい焼き、そしてマヨネイズ。全部こよの好物だった。おそらくこのたい焼きも、もちもちの薄皮カスタードだろう。
一体どうやってこよの好物を知ったんだろ。
「博士の好物を用意しておいた。だが紫咲のは用意してないため適当に見繕ってくれ。鎖も解除しよう」
さぁ、と勧められても食指は伸びない。それは彼女も同じこと。毒が入っていたらどうしようと不安なのだ。
「別に毒など人体に影響があるものは混ぜてない。殺す気ならとっくに殺してる。たんに腹を満たして話しやすくしようという魂胆だけだ」
「ああ、そうかい」
それもそうか。いろはちゃんがあんな簡単にやられたんだ。こよを殺すなんて赤子の手を捻る程に簡単なんでしょう。
こよも紫咲さんも、目の前に並べられた甘味に手を伸ばした。
(くそ、美味しいじゃないか)
味は普通にうまい。啜った緑茶もうまい。
なんだか拍子抜けた気分。
(こうなったら毒を食らわば皿までの精神で食い散らかしてやる)
ムシャムシャもぐもぐと甘いお菓子を食い散らかして、しかしピタリと手が止まる。
(マヨネイズ……いや駄目だよね)
こよの罰はまだ終わってない。もうルイルイとも会えないかもしれないけれど、だからといって約束を破るわけにはいかないよね。
ルイルイの事を考えたせいか、いろはちゃんの事が気になった。
脳裏に汪然と泣き崩れるいろはちゃんの姿が過る。それと同じくらいに、こよをかばって投げ飛ばされたルイルイの声も鼓膜を震わせる。
(でも、こうするしかなかったんだよね)
こよがこの人に付いていかなくちゃ、いろはちゃんは殺されていた。
大丈夫かな。治療は受けてるかな。
最後に見た姿が痛々しくて、心配ばかりが胸を締め付ける。ルイルイも大丈夫かな。意識はもう戻ってるかな。
ラプちゃんも心配するだろうなぁ。
「なぁアンタ、一体何者なんだい? 何を目的に私達を誘拐したんだい?」
ナプキンで口元を拭いた紫咲さんが口を開いた。
満足げにゲップまでした。汚い。
「私はありとあらゆるデータにアクセスできるシークレット・アーカイブ・ユニットの創始者。理念は理想郷を掴むこと。そのためにお前達を拐した」
「シークレット・アーカイブ・ユニット? なんだか聴いたことあるなその名前……」
「お前が住む魔界でも私の仲間が勧誘してるからな。そこで噂話でも耳にしたんだろう」
てっきり答えてくれないと思ったけれど、普通に答えてくれるらしい。ならこよも訊きたいことがあった。
でもまずは軽いジョブから。
「ありとあらゆるデータってどういうこと?」
「そのままの意味だ。遥か昔の太古の時代の情報から、今を生きる個人の情報、はたまた別の惑星の情報まで。ありとあらゆるデータだ。それがこのタブレットに表示される」
「うええっ!!?」
軽いジョブを打ったつもりが重いブローを喰らった気分。思わずすっとんきょうな声が出た。
いや、そんなことはあり得ない。もしそれが実在するなら、そのデータが載ってる媒体はタブレットよりも遥かに大きいものとなる筈。
「嘘だ! だってそんなのあり得ない!! 作れる訳がない!!」
こよの否定に、創始者はタブレットを操作してホログラムを立ち上げた。
それには見たこと無い建物が、文明が広がっていた。
中でも目を引くのは、全部が宝石でできたピラミッド達。
「遥か太古、ニブルヘイムと呼ばれた暗黒の時代よりも前の時代、この星にはエデンと呼ばれた楽園があった」
ペリドットのピラミッドを中心に、アクアマリンのピラミッド、琥珀のピラミッド、アレキサンドライトのピラミッド、ルビーのピラミッド、トパーズでできたピラミッド、ルチルクォーツでできたピラミッド、タンザナイトのピラミッド、ラピスラズリのピラミッド。これらが円を描くように配置してある。もしかして太陽系をイメージしてる?
他にもダイヤでできた塔や瑞々しく潤った森、神々しいまでに輝くアーチもある。更には滅びた筈の巨人が透き通る石畳を歩いている。
「凄い綺麗……」
煌めく青い水路が街中に張り巡らされ、透き通る石畳に添えるように通ってる。陽光が水面を銀色に輝かせ、ペリドットのピラミッドも目映い光を放っていた。その上空を息を飲む程綺麗な、白金のUFOが通り過ぎる。
人が作り上げたとは思えないくらい発展した文明がそこにはあった。
「その科学技術は今の時代でも再現できない程に飛び抜けて、不老不死が実現されていた。他にもたった一粒で万病に効く薬も、たった一体で軍隊を滅ぼすことができる兵器も存在していた。科学だけじゃない。魔法は神話魔法レベルのものが一般的に普及し、誰もがあり得ない程の魔法の腕を持っていた。それはこの星を滅ぼすことも、別の惑星を滅ぼすことも、あるいは新たに星を創造することもできたと言われていた」
人体が表示され、透明になって、骨と血管が浮かび、細胞単位まで拡大され、更にDNAが見える程に大きくなり、塩基配列も、構成する分子も見えて、そして渦巻いて消えた。
次に表示されたのは太陽系。そのうちの地球が拡大され、月がひとつふたつと増えて、破壊されて消えて、恒星も創造されて、超新星爆発を起こして消えた。けれども地球に何の影響もない。
今度はピラミッドが映し出されたかと思えば、数あるピラミッドのうちのひとつ、中央にある一番大きなペリドットのピラミッドが拡大された。
「この太陽のピラミッドには『ソロモンの書』があった。全てのデータが載せられた本だ。八八八ページしかない本に、世界中どころか他の惑星の情報が載っていた。私はそれを持ち帰り、解析してこのタブレットに移したのだ。無論簡単なことでは無かったが」
創始者が持つタブレットが、なんだか神々しいものに見えてきた。
でも気になる所があった。
「この星にあったんですよね? どこにあったんですか? それになんで滅びたんですか?」
「今はもうエデンという名で残って無い。代わりにポイント・アルファと呼ばれている」
「ポイント・アルファって、立入禁止であの何もないと言われてる広大な砂漠?」
「何もない訳ではないが、まぁそうだ。そして滅びた理由だが……まず内部で
「オメガα?」
「『終わりと始まりを繋ぐ者』、『永遠を司る神』、『安寧秩序を齎す者』、『番外の四神』。文献によって色々な名前で呼ばれているが、古代の石板にはこう刻まれていた。『数多の星が流るる星夜、楽園を見初めしかの者は、世界から追放されし観測者』と。そしてオメガαはエデンを『オメガの眼差し』で滅ぼした。何故かは知らん」
凄い。そんな状況じゃないのに、胸のワクワクが収まらない。こよ達は今、世界の真実を知ろうとしている。
「ちょっと待て! アンタが持ってるソレに全部のデータが載ってるなら、アタシ達を拐った意味はなんだ?」
「いい質問だ。万物が完璧では無いように、『ソロモンの書』にも大きな欠点が二つあった。それはつまり、“無から有は創れない”こと。既にあるデータから予知にも近い予測をして結果を示すことは可能だが、全く新しいデータを弾き出すことは不可能なのだ。そして二つ目が“真なる神には干渉できない”こと。先程オメガαがエデンを滅ぼしたが、その理由は知らないと答えた。何故なら『ソロモンの書』には示されていなかったから。そこで私は真なる神には干渉できないことを仮定した。実際調べてみれば、私のこの仮定は証明された」
な、なんとなく分かってきたぞ。
つまり、こよ達を誘拐したのは『ソロモンの書』ではどうしようもないことを実現したかったからだね。
「お前達を拐ってきたのは……、いやまず前提から話そう。私は理想郷を目指しているが、理想郷を得るためには世界の運営者である四柱の神を殺す必要がある。だが簡単には殺せない。神話魔法も物理も通用しなかった。よって私は呪殺することにした。呪いなら神の魂を眷属ごと破壊できると考えたからだ。しかしその呪いをどう作るか分からなかった。真なる神には干渉できない『ソロモンの書』にはやはり載っておらず、ならばと『神の天敵』と呼ばれた『ダークネス一族』の元――」
「え? 今ダークネスって?」
ラプちゃんの名字?
「悪いが質問は後にしてくれ。そいつらの星にも赴き文献を漁ったが、こちらも出てこなかった。つまり四神を殺す手段は無いのか、あるいは揉み消されたか、はたまた誰も考えなかったことか。だが見付からないからと言って諦める訳にはいかなかった。そこで、世界でも天才と名高い博衣こよりを誘拐した。お前はまぁ、魔法の『天才』だから連れてきた」
「アタシはオマケかっ!!」
「実際、今から十年後の未来、お前の姪っ子は『天災』と呼ばれる程の魔法の使い手となる。だから『天才』は居なくても良かったが、まぁ目に入ったから連れてきただけだ」
「え、姪っ子って紫咲シオンのこと?」
「そうだ」
「ウッヒョイ!」
こいつ状況分かってんのかな。
奇声を上げて喜ぶ彼女にこよは訝しんだ。
「他に何か訊きたいことは? より良い関係を築くために何でも答えよう」
「じゃあ今日のシオンちゃんのパンツの色は?」
「頭正気か?」
バカと天才は紙一重って言うけど、彼女もそうかもしれない。真剣な瞳で彼を見詰める彼女はどこまでもバカだった。
「はぁ、ちょっと待て調べる……水色だな」
「ハイ勝ちぃぃいい!!!」
万歳三唱するくらいのものなのかな。
全く、『天才』の二つ名が可哀想。同じ“天才”科学者のこよがもっと素晴らしいものを訊いてあげる。
「今日のいろはちゃんのパンツの色は?」
「……ミントグリーンだな」
「ありがとございます!!!」
おほほっ、ありがとうございます。そう、ミントグリーンなのね。へへっ、良いじゃない。こよ嫌いじゃないよ。
おっと、鼻から熱いパトスが止まらない。
「はぁ、もういいや。本題に入ろう」
にやにやしていたら彼が軽く食卓を叩いた。
「私は今、神界への門を構築するために竜の宝玉を解析している。しかし破壊された残骸であるため術式が大分破損しており、解析が遅い。そこで、博士にはこの術式を解析して貰いたい。あと神を殺すための呪いである神喰呪を創っている。これに関しても意見を聞きたい。もちろん、紫咲にも」
こよには実物を渡され、紫咲さんには神喰呪の構築式が書かれた紙を渡された。
大きさは直径1~2センチ程。
解析の魔法陣を展開して見てみれば、確かに術式が欠けている。元の何十分の一程なのに、これを解析しろって無理だろ。
あれ、ちょっと待って。竜の宝玉自体は『ソロモンの書』に載ってるんじゃないの?
「あの、『ソロモンの書』にはこれ、載って無いんですか?」
「『ソロモンの書』が網羅してるのはこの世界の話だ。その竜の宝玉はこの世界のものではない。よって『ソロモンの書』には表示されない」
「そうなんですか」
つまり異世界の術式を解析しろってこと?
無理に決まってんだろ!!
未知の言語でプログラミングするレベルだぞ!!
「無理ですよこれ! こよでも無理!!」
「そうか残念だ。成功すれば仲間に会わせてやろうと思っていたが」
「できますよ任せて下さい!!」
うんうん簡単簡単、つまり未知の言語を習得すればいいんでしょ? 余裕よ余裕。holoxの頭脳に任せなさい。
よっしゃオラ、オラやったるでオラ。ファイヤー!
こよが燃え始めた時、紫咲さんが目を通し終えたのか口を開いた。
「元にした黒魔術は呪術と死霊術。簡単に言えば相手の魂に死霊術で干渉、その後呪術で滅ぼすってことで合ってる?」
「そうだ」
「だけどこれ、完成したものをぶつけるのは神じゃなく、自分だよね?」
「そうだが?」
紫咲さんは真っ直ぐ彼の目を見る。
彼も真っ直ぐ彼女を見る。
「死ぬよ?」
「ああ、そうだな」
淡々と吐き出された声音に、恐怖は無い。さながら息を吐くように、彼は自死することを肯定した。
「真なる神を殺すには、まず奴らに接触しなければならん。誰がその役目を果たす? 私の仲間か? いいや無理だ。私が勝てなかった相手に私より劣る彼らに任せる訳にはいかない。それになによりも、神界には神しか入れん。ならば神たる私がやるしかない」
死ぬことは怖くないと、もう一度彼は言った。
フードの闇から覗く金の瞳。
その瞳はどこを見てるのか。
「神、ねぇ」
あの強さを目の当たりにした今、彼が神であることに疑いの余地はない。寧ろ納得したまである。
「……そう言えば、名前はなんと言うんですか?」
金の瞳がスッとこよを射貫く。
何故かそれに、既視感を覚えた。日常的に目にしている気がした。
だけどそれも瞬きすればすぐに消えた。
「かつて私は様々な名前を持っていたし、あらゆる名前で呼ばれてきた。だが今はこう名乗っている」
そして彼はひと息ついて。
「――私の名はオメガ。神に終焉を告げる者の名だ」
オメガと聞いて、浮かんだのはやはり、さっきのオメガαのこと。
そこから取った名前なのかな。
「ついでにフードを取って顔を見せてよ。これから長い付き合いになるんだろ? 顔すら分からない奴には不信感しかないね」
結構グサグサいくな紫咲さん。
オメガさんも暫く逡巡したのち、フードを取った。
「これでいいか?」
幼さが残る端正な顔立ち。白磁に染まった肌は太陽の熱烈さを知らず。横に結ばれた唇は春にそよすぐ桜色をしていた。
案外くりっとしている瞳は言わずもがな金色で、髪は銀髪。けれど前髪の一部が紫がかっていた。
(ああ、そうか)
それを認めた途端、カチリとパズルのピースが嵌まった音がした。
その特徴は、ラプちゃんと同じだった。角も生えていればますます一緒だったろう。
さっきの既視感はこれだった。
「アンタって思ったより女顔なんだな」
「元からこういう顔だ。悪かったな」
それっきり、オメガさんは再びフードを被った。また目しか見えなくなる。
シャイなのかな?
・
・
・
難しい。いや本当に難しいんですけど。
あれから三日。宝玉の解析は全くと言って良い程進んでなかった。
いや、分かったこともあるよもちろん。ずのーですから。
宝玉に使われてる術式は魔法というよりは、錬金術に似てた。正確に言えば、魔法半分錬金術半分って感じだけど。
そもそも魔法っていうのは、自身の魂から魔子あるいは霊子を抽出し、これらをエネルギーとして用いてこの世に現出させるものなんだけど、錬金術はちょっと違うんだよね。錬金術は周囲の魔子や霊子を使うんだよ。俗に言う自然エネルギーを使って、結果を出す感じ。
あと魔法は言ってしまえばなんでもできるけど、錬金術はそうじゃない。化学変化や状態変化などをベースにしてるから基本的に原子や分子、化合物を操る感じになる。だから結界を作りましょうとなった時に、魔法なら魔子や霊子を固めるだけでオッケーなんだけど、錬金術は空気中に含まれる分子や化合物などをその場に固定しなくちゃならない。これは熱力学第ニ法則のエントロピーの増大に反することだから、維持するためには多くのエネルギーが必要になる。
だから結界を作るときは魔法が便利なんだよね。あ、これ一番簡単な結界を作る時の話ね。一番初めに学ぶ結界構築法みたいな。複雑なやつはもっと複雑だから。
……まって、こよ何の話してたっけ?
ああ、そうそう魔法と錬金術の話だった。
さっき述べたように異なる系統の学問なんだけど、やはり突き詰めていけば根底で繋がってるんだよね。だから魔法と錬金術を同時に使ってるのは理解できる。簡単に言えばどっちも円を描いてるんだもん。なら繋げられるよね、って話。
それで、魔法には主に概念的要素が内包されてるけど、錬金術の場合は数学的要素と化学的要素が主に内包されている。円や三角形などの図形的要素から、微積や線形、三角関数、対数関数などの関数的要素。ならばフーリエ変換も含まれるしマクローリン展開などなども含まれるよね。
化学的要素なら簡単なものなら元素記号、エントロピーとエンタルピー、項の記号。複雑なものならシュレディンガー方程式や永年方程式を解いた波動関数。
はい。この話に付いてこれない人には錬金術の資質は無いです。
まぁ、こんな感じだから錬金術ってのは極めるのが難しいんだよね。物理や化学を理解してないと基礎止まりで終わっちゃうんだもん。自分で創ったオリジナルの錬金構築式なんて出来ない。
まぁ、そんな一般ピーポーと比べてこよは
天才だから理解できちゃうんですけどー! ドャァ。ドヤドヤドヤァ。
でも理解すればこれ程便利なものはない。だって自身の魔力や霊力が切れる心配をすることなく、実験を早く進めることが出来るんだよ? わざわざ特定の化学物質を抽出するために冷やしたり熱したりする必要なく、錬成陣を書いて終わりだもん。ただ目的の物質が何か分かってないと無理だけど。
だからその場合は魔法を使った方が早い。そもそも錬金術が使えないなら魔法で代用できるんだけどね。
……うーダメだ、話がそれちゃうな。
れいこよれいこよ*1。
オメガさんに聴いた話だけど、この宝玉に使われてる文字と記号はこちらとあんまり変わらないらしい。
つまり言語体系が似てるんだって。なら連想ゲーム的に何が何を意味してるか分かってくる。
これで何が安心かって言ったら、未知の言語を習得せずに済んだって話だね。流石にこよでも言語の習得には時間がかかる。
あとオメガさんについてひとつ言いたい。
あの人頭良くない!!?
いやホントにあの人、異次元レベルで知能指数爆発してる。一を聞いて十を知るレベルじゃない。そこから百を思考して千を自答し、万の結果を出す感じだよ。
驚いたね。知恵の実遺伝子*2働き過ぎじゃない?
「あのー、何かドーピングしてます?」
「急に何の話だ?」
一緒に解析してた時、つい訊いてしまったこよは悪くない。
「いや、凄く頭良いなって」
「私は完全記憶持ちだし、あと知恵の実を食べたし」
「マジでドーピングしたんですか!!??」
「何の話だ??」
ドーピング説あるかもしれない。
一度オメガさんは紙に解析した情報を書き込み、そしてこちらへと振り向いた。
「『議会』と呼ばれる五柱の神々。『空間の代弁者』、『自然の番人』、『時間の典獄』、『文明の守護者』、『混沌の具現』の五柱の神々のうち、四神から作られし二番目の概念である『自然の番人』は、口にした者に知恵と知識を与える黄金の林檎を持っている」
「まさかそれを?」
「ああ、奪って食べた。美味しかったぞ。じっくり味わう時間は無かったが」
コイツやべぇ。まさに神をも恐れぬ所業。あと美味しいのか。
「まぁそのせいで、呪いをかけられたがな」
「うん。でしょうね」
ふと思い出す。
拐われた時、大きな地震と地割れが発生していた。
いろはちゃんに色々言ってたけど、あれってこの時にかけられた呪いのせいだったんだね。
「一応言っておくが、黄金の林檎は神々の食べ物だから神以外が口にした場合、死ぬぞ」
「食べるつもりないんで大丈夫です」
「そうか」
そう頷いて、オメガさんは再び手元に視線を移す。
それに倣ってこよも頭を切り替える。解析が進めば進むほど、こよが皆に会える日が近くなるんだから。
何十日、何ヵ月、いや何年経ってしまっても、こよは必ずholoxの皆に会いに行く。
―――………
何者かによる学会襲撃事件から数日。
holoxのアジトに戻ってからというものの、風真いろはの顔色は優れなかった。
それもそうだろう。愛刀は折られ、守るべき仲間に庇られて、そして連れ去られ、用心棒としての仕事がまるでできていない。
そんな弱い自分を切り捨てるように、風真いろはは睡眠も食事も取らず、鍛練に身を費やしていた。
だがその自殺紛いなことを許す幹部や総帥ではない。あの手この手と休ませては休息を取らせていたが、いつの間にか布団から抜け出ては木刀を振っている。
今日もまた、風真いろはは無心に木刀を振るっていた。
「いろは。もう夜だよ。いい加減やめて体を休めよう? 私いろはのこと心配だよ。ぽこべぇも心配してるよ」
「心配ご無用。まだまだ大丈夫でござる。ルイねぇも休んだらいかがでござるか? こよちゃんの居場所を寝る間も惜しんで探っているのでござろう?」
「私は元々ショートスリーパーだからあんまり寝なくても大丈夫だけど、いろはは違うでしょ」
「大丈夫でござる。かざま、まだまだいけるでござる」
「いろは……」
ずっとずっとずっと、木刀を振るっている。幹部が話し掛けている今も、背を向けて振るい続けている。
「いろは!」
それに無性に堪えきれず、幹部は無理矢理いろはの肩を掴んで振り向かせた。
そして、目を見開いた。
風真いろはは、泣いていた。
「いろは……」
「……かざまのせいでこよちゃんは連れ去られたんでござる。かざまがもっと強ければ、こよちゃんは連れ去られずに一緒に笑っていられたでござる。犬が転がるように笑う彼女を、曇らせたのはかざまなんでござる。全部全部かざまのせいなんでござる」
涙が頬を伝って顎へと下り、木刀を握る手に滴り落ちる。包帯が巻かれた左手に、じわりと滲んで消えていく。
「………かざま、考えていたことがあるでござる……ルイねぇ、聞いてくれるでござるか?」
「もちろん」
「かざま、秘密結社holoxを抜けるでござる」
「えっなんで!?」
「かざまはバカでアホだったんでござるよ。憧れていた伝説の秘密結社に入れたからと現を抜かして、その結果がこのザマでござる。自分で守ると高らかに宣言したくせに大敗を喫して、これじゃあかざまは何のために用心棒としているのか分からなくなったでござるよ」
「……」
「だから、かざまは抜けるでござる。抜けた後は、故郷に帰るか、白銀騎士団とかに応募するでござる」
「そう、決めたのね?」
「うん」
「それはもう、覆らない?」
「……うん」
「どうしても?」
「……うん。短い間でしたが、お世話になったでござる」
悲痛な沈黙が両者を取り巻く。
だがその沈黙は、かの総帥によって破られた。
「バカやろてめーようじんぼう!!」
すべてを吹き飛ばす勢いで叫んで、総帥の月光に似た金色の瞳が、まっすぐまっすぐ、いろはを貫く。
しかし乱暴な足取りでいろはへと近付く総帥の瞳は、僅かに濡れていた。
「はかせが居なくなって、お前もいなくなったら、吾輩はっ、吾輩は」
堪えきれないように、総帥は唇を噛む。呼吸が乱れる。けれどこの思いは届けねばならない。絶対に引き留めなければならない。
総帥は深呼吸して、思いの丈を叫んだ。
「――吾輩は誰にオギャればいいんだよ!!?」
「そんなの知らないでござる!!!」
こやつ本当に引き留めるつもりがあるのかないのか。
もう登場した時のスタイルで分かってた。
かつての赤ん坊スタイルで登場した総帥は、おしゃぶり片手に『吾輩のママはお前らなんだよ!!』と熱弁を振るった。しかし効果はいまひとつ。ならばと今度はガラガラを取り出した。つまりおしゃぶりとガラガラの二刀流。単純計算で攻撃力は二倍だ。
さながら刀を構えるが如く、総帥はガラガラをいろはへと向ける。
しかしそれを見たいろはは一言。
「気持ち悪いんでござる」
「……ウッ」
幹部も一言。
「気持ち悪い」
「ガフッ」
総帥は血を吐いて膝を突く。攻撃力極振りで防御は考えてなかった。
だがそれでも勝算はあった筈だと総帥は思う。
ゆえに理解できない。考えられない。
「なぜだ……なぜ笑わない? 笑ってくれれば『ラプ殿おもしろーい! やっぱりかざまここに居る!』って言うと思ったのにっ!! ついでに吾輩のママになると思ってたのにっっ!!! この計画のどこに失敗する要素があったと言うんだ!!!!?!??」
「全部だよ」
床に手を突く総帥と、その肩を叩く幹部を傍目に、いろはは荷物をまとめる。元々荷物は少なかったため、あっという間に支度が終わる。
そしていろはは二人に向かって頭を深く下げた。
「お世話になりました」
踵を返したいろはは階段を上る。玄関口へと上る。
もう直ぐでいろはは、ここから居なくなってしまう。
それはもはや止められない。だが言葉はまだ届く。
総帥は拳を握って叫んだ。
「いろは!! いつか必ず吾輩達が迎えにいく!!! それまで待ってろ!!」
いろはは少し振り向いて、申し訳ない顔と困った顔が混ざった顔で頬を掻き、ちょっと笑った。
――風真いろは。秘密結社holoxを脱退。
オメガα
何故エデンを滅ぼしたのかは、まさに神のみぞ知る。
個人的に容姿が好み。カッコいい。めっちゃカッコいい。
オメガ
創始者の名前。神に終焉を齎すべく自分で自分に付けた名前。かつて持っていた名前は捨て、神を殺す為にこの名を名乗る。権能はそのうち本文で書くつもり。
自然の番人であるセレス・ファウナから自然の呪いをかけられた。拠点が空島なのは地上に降りれないから、という理由もある。
ちなみに、紫咲を縛っていた鎖は縛られている人の魔子や霊子を吸収し、魔法の発動を阻害するもの。紫咲は『天才』であるため、虚像世界から逃げられる可能性があった。
紫咲
紫咲シオンを姪っ子として持つ。親じゃないけど親バカ。けれどそこに変態性が入ってる。
ちなみに、まだ名前を考えてない。
風真いろは
まさかのスピード退社。RTAかな?
でも契約は結ばれたままなので、書類上は辞めたことになってない。
アジトを出た後、今夜の宿を探す必要があることに気が付いた。でも今更戻れない。
祝福
神が授ける加護のようなもの。それを持っていれば色々楽になる。空間の祝福があれば、空間に関する魔法を行使する際、消費される魔力や霊力は遥かに少なくてすむ。他にも転移する際にわざわざ魔法陣を展開したり物に刻む必要がない。とにかく祝福があれば便利。
ソロモンの書
一体誰が書いたのか不明な書物。ソロモンと呼ばれる者が書いたのかすら不明。八八八ページにありとあらゆる情報が載っているが、一番知りたい情報だけが載ってない。はーつっかえ!
ちなみに、ページに書かれてある文字は常に変化し様々な文章を作成する。使いこなすには慣れが必要。
また、何故かとある人物に関する情報だけが載っていない。
エデン
オメガαによって滅ぼされた楽園。今はポイント・アルファと呼ばれる砂漠地帯となってしまっている。イメージとしては七詩ムメイのオリジナルソングに出てくる遺跡と砂漠。この砂漠の上空にシークレット・アーカイブ・ユニットの空島が浮いている。この空島にはオメガが展開している認識阻害の結界が覆っているため、見付け出すのは不可能に近い。
ちなみに、なぜ立ち入り禁止かというと、砂漠を海のように泳ぐでっかい怪物がいるから。あとエデンの遺物である破壊兵器が今も稼働してるから。
タイタン
古の時代に生きていたと思われる巨人。今はもう絶滅してしまった……と思われている。巨人ではないがその血を引いた人物はいる。
錬金術
その学問はあまりにも深いゆえ、扱うのが難しい。けれども、ひとつの結果を生み出すものがひとつ出来れば、それを丸暗記みたいにすることで理解してなくても再現可能。事実、総帥が見た予知夢で冒険者達が決まった錬成陣を描くことでオメガへと攻撃した。簡単に言えば電子レンジの加熱原理を知らなくても使えるのと一緒。また、錬成陣を解析装置に組み込むことで装置の軽量化及び縮小化できる。