『奪われた竜の宝玉』編は当初、タイトルしか考えてなかったので三話くらいで終わると思ってましたが、キャラが勝手に動いてくれて『宝鐘』編と同じくらいの長さとなりました。ありがたやありがたや。まぁその『宝鐘』編も中身全然考えてなかったんですけどねー!
おそらく次回から『ツウィルと雪の花』編が始まります。登場する人物達はもちろん、あの方々です。
「頭を上げろ、風真いろは」
「貴様はまだ若い」
白銀家の屋敷のことだった。
風真いろはがholoxを抜けた次の日、いろはは白銀家を訪れていた。
別に訪問の報せを送っていた訳ではないため、出直してこいと言われたらそこまでと括っていたものの、イダスはすんなりいろはを己の執務室に通した。
そして今、いろははイダスと向かい会っていた。
「己が弱いと知ること。それに向き合うこと。それ自体は素晴らしいことだ。だが己に気を遣わないのはいただけない」
スッ、とイダスがいろはの左手を指差した。巻かれた包帯は血に滲んだままだった。
「剣士は心技体が資本。どれか一つでも疎かになれば綻びが生ずる。それは貴様も知っていることだろう」
こくりと、いろははイダスの指摘に首肯する。
しかし分かっていても、止められなかったのだ。
「これは自分自身への戒めなんでござる。弱い自分を、刀を折った自分を叱り付けるための戒めなんでござる」
「戒め、そうか」
イダスがひとつ納得したところで、いろはは本題を切り出した。
「かざまを白銀騎士団に入れて欲しいんでござる。特に副団長の銀鏡さんの側に置いて欲しいんでござる」
「騎士団への参入に文句はない。だがなぜチヒロの側を求める?」
イダスへの答えに、いろはは真っ直ぐ顔を向けた。その面構えは、さながら剣を掲げる騎士の如し。そして発っせられる言葉は宣言であった。
「強くなるために」
脳裏に過るあの光景。
足手まといになった屈辱。
刀を折られた自身への憤激。
そして、力及ばず博士を拐われた悲哀。
いろはは力強く両拳を握った。
「もう二度と負けないように、かざまはもっと高みに登りたい。かざまはもう、誰かの涙を見たくないんでござる」
深海のように静かで、荒々しい覚悟。
そこに張り詰めた弓矢のような決意を感じ取ったイダスは、重々しく頷いた。
「強さへの渇望。その根底にあるのは自分ではない誰かのため。全く素晴らしき精神だ。その精神は大衆の盾となり剣となる我々騎士団に相応しい。よかろう、チヒロへは話を通しておく」
「本当でござるか!? ありがとうございます!!」
「礼はいらん。それでだ、貴様神器はどうだった?」
その言葉に思わず下唇を噛む。
イダスとしては己の神器を壊されたから、そちらは無事だったか訊ねただけであったが、いろはのその反応で分かってしまった。
「そうか。貴様も壊されたか」
「はい。中半から真っ二つに」
そうして、いろはは隣に置いてあった愛刀を掴む。
鯉口を切られて抜かれた刃は、中半から折れていた。
「奴は己を神と名乗った。ならば権能が付き物。その権能はおそらく神器にも影響するのだろう。貴様が持ってるソレの権能の不壊を貫いたのだから」
「直せる……でしょうか?」
「神器を直せる程の手腕を持つのは稀だ。だが安心しろ。我々が懇意にしてる鍛冶士が神器も扱える」
「本当ですか!!?」
「ああ。私の『白銀』もそこに預けてある。貴様のも依頼しておこう。しかし直せるかどうかはまだ分からんぞ」
「いやそれでもっ、本当に、本当にありがとうございます!!!」
ありがたかった。本当に。もう喪われてしまうかと思ったものが直せると言われて、いろはは涙を禁じ得なかった。
「ありがとうございます、ありがとうございますっ」
いろはは深く、深く、頭を下げた。
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その後いろはは白銀騎士団の制服を仕立てるために席を外れ、イダスだけが執務室に残った。
そしていろはの愛刀をメイドに託し、チヒロへ届けるように伝えた。
「銀鏡様、白銀様よりお届け物です」
「はーい、お届けありがとうございます」
そんな訳で、チヒロはチャキ丸を手に入れた。テッテレー!
なお別にチヒロが神器を直すのではない。チヒロが更に別の人物に届けるのだ。
「ははぁ、そういうことか」
刀を抜いて事となりを悟ったチヒロは、早速屋敷を出てウェスタを飛び出した。
目的地は竜霊山。優秀な鍛冶士が住む場所だ。
なおくじらはお留守番である。
亜音速の速さで飛行すること数十分。
ちょっかいをかけてくるドラゴンをあしらっていると、眼下に目的の人物をみかけた。
「見つけた見つけた」
目的の人物は、ボディースーツのような黒と白の鍛冶服を身に纏い、日光をキラキラと反射する金髪の持ち主。
ドラゴンを適当にぶっ放して、チヒロは彼女目がけて降下する。そして彼女の目前に着地した。
「カエラさーん!」
「おお、三日ぶりですね。どうかしましたか?」
赤いゴーグルを額に上げ、カエラ・コヴァルスキアは珍しい来客だと目を開いた。
外で話すのもなんですから、と家に招き入れてくれたカエラに、チヒロはチャキ丸を差し出した。
「これも直して欲しいのですが」
「はぁ、『白銀』に続いてまたも神器ですか。権能は?」
「欠けず曲がらず折れることない、と言ってたので恐らく不壊かと」
「それは厄介ですね」
カエラは手慣れた手付きで刀身を鞘から抜き出し、色んな角度で検分する。そしてベルトに挟んでいたハンマーを取り出し、コンコンと叩く。
音の反響から内部の組成と密度を測っているのだろうか。チヒロは興味津々に見つめていた。
「どうですか?」
「難しい、と言っておきます。ただ幸いにもこの神器は、『白銀』と違って魂から創られた訳ではなさそうなので、最適な素材があればなんとか、と言った感じですね」
神器には二通りの創り方がある。
ひとつは作り手の魂を分割することで、魂そのものからできている神器。
そして二つ目が、内部に溜め込まれたイワレが長い年月を経て昇華し、神器へと変わったもの。
チャキ丸は後者だった。
「どんな素材があれば直せそうですか?」
「イワレがこもった鉄ですね。鉄のインゴットを渡しておくので持ち主に渡して念を込めるようお願いしてください」
「分かりました」
チャキ丸の権能は不壊。それは真っ二つに折られた今でも喪われていない。よって、普通に鍛造しても直せない。破壊した本人であるオメガなら片手間に直せるかもしれないが、カエラはそうはいかない。
「直せない可能性があることも承知しておいて下さい」
「分かりました。それも伝えておきます」
チヒロを見送り、仕事場に戻ったカエラは本格的に解析を始める。
床一面に解析の錬成陣と魔法陣を展開し、中央に折れた刀をそれぞれ置いた。これらの錬成陣によって化学的なものが分かり、魔法陣によって概念的なものが判明するのだ。
展開してから数十秒、錬成陣の空白部に段々と文字が浮かび上がってくる。魔法陣も同様に、空白部に文字が浮かんだ。
「ふ~む……」
それを紙に写しとりながら歩き、カエラは未だ浮かび上がってくる文字の羅列を理解する。
錬成陣が解析したのは鉄の立体構造及び結合配置、並びに組織の分布。
魔法陣が解析したのは蓄積されたイワレの質と量、及び霊子と魔子の流れ。
それらを読み取ったカエラはひとつ頷いた。
「やっぱり鍛造するのではなく錬金術で直した方がいいな」
そう結論付けて、カエラは材料を集めるべく地下にある巨大倉庫へと足を向かわせた。
―――………
竜霊山から戻ってくれば、風真いろはが正座していた件について。
ただいまーと扉を開ければ、そこには風真いろはプラスぽこべぇがいてびっくりしたチヒロ。
足が止まったチヒロに、いろはは佇まいを糺して頭を下げた。隣でぽこべぇも頭を下げた。
「かざまに、『仙人』になるための稽古をつけていただけないでしょうか」
チヒロは困惑したようにニ三度まばたきをした。
唐突な頼みに目を丸くし『えっえっ?』と言葉を漏らす。
「白銀さんから許可は戴いております」
その言葉にチヒロは動揺しながらも辺りをキョロキョロすると、机の上に封書があった。恐らくそれがそうなのだろう。
「どうかお願いします。皆を守りたいんです。もっと強くなりたいんです」
目一杯下げられた頭。床に置かれた手。
ようやく目の前の光景を受け入れたのか、チヒロは密かな溜め息を吐いた。しかしそこに呆れの念は無い。ただ小鳥が跳ねるような歓喜の色があった。
「いいよ」
そう言ってチヒロはいろはの肩を叩き、下を向いていた顔を上げさせる。
「だから、いつか恩を返してあげてね。約束だよ」
他人事のようにそう言って。狐の面の陰。翠の瞳は優しげに弧を描き、まだ見ぬ未来を見つめていた。
・
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そしていろはを『仙人』へと存在を昇華させる修行が始まった。
いろははてっきり実技から入るかと思っていたが、想像に反してまずは座学から始まった。
「まず『聖人』についておさらいしましょう。『聖人』は脳にある松果体が石化から解放され、脳の機能が十全に使えるようになったことを示します。これにより身体機能が格段に向上し、治癒力も上がります。副次的に長寿にもなります」
「ほぇー、知らなかったでござる」
「私なりの考えですから知らなくて当然かと。話を戻しますね。では『仙人』はどうかと言うと、自然と一体化できる者のことです。自然と一体化することで自然にある魔子と霊子を操ることができるようになります」
「はい」
「実際問題どうやって成るかと言うと、まぁご存知の通り瞑想による仙人化と、『聖人』にあたる『覚醒』と似たような『夜明』による仙人化の二つの方法があります……が、ひとつ裏技があります。それは自然の神、セレス・ファウナに頼むこと」
軽やかな口調とは異なり、チヒロは鋭い目でいろはを見詰めた。
「しかしこれは非常に危険なものとなります。誰かに授けて貰うことはイコール、その人に奪われることにもなります。更には繋がりができてしまうので、あちらからこちらを監視されてしまいます。なので最悪、『仙人』を取り上げられないように奴隷のように働くこととなってしまいます。それこそ永遠に」
「なるほど。それは辛いでござるな」
「そして自然とは人間以外の有機物を指しますので、その法則に反することを自然の番人に頼むこと自体が、神の逆鱗に触れることだと思ってください。よって、普通に瞑想することが一番の近道です」
「分かったでござる」
一通りの座学が終わったチヒロは、いろはを連れて訓練場へと赴いた。
そこで準備体操をして体をほぐすと、途中で持ってきていた二本の訓練用の刀の一本をいろはに渡した。
「『仙人』になることのメリットとして、一つ教えておきます。魔子や霊子を知覚できるということは、魔法の感知及び妨害だけでなく、発動している権能も分かります。学会を襲撃された時、オメガは右腕に権能を纏ってました」
「ああ、そういうことでござるか」
いろはは思い返した。確かにあの時、オメガは唯の拳で不壊の神器を折ったように見えた。だが実際は、見えないけれども魔子を纏って、権能を発動させていたのだ。
「ですが、風真さんはそれ以前に心を制御しきれてないように感じます。それに愛刀が折れないからと言って、剣筋が疎かになっているのも感じます。ですので丁度いい機会です。太刀筋を矯正しましょうか」
「うっ、分かったでござる」
「では素振り一万本。始め」
「いち……いえ、はい!」
あまりの多さに狼狽えたものの、いろはは直ぐに剣を振るい始めた。
それを見たチヒロも、剣を振るい始めた。
ただ人ならば千本もいかず音を上げてもおかしくないが、方や『聖人』方や『仙人』の二人は黙々と刀を振るい続け、夕陽に照らされた影を遠くに伸ばし続けた。
―――………
かざまは白銀騎士団に所属したものの、七つある隊に振り分けられることはなかった。銀鏡さんに訊けば、隊長以上の実力を持ってる場合、隊長が不在じゃない限り振り分けられないそうだ。銀鏡さんも所属した当初は初めから隊長に任命されたらしい。今は人員が揃ってるから振り分けられず、結果かざまは遊撃隊みたいな扱いになるんだって。一人だけだけど。あっ、でも銀鏡さんも機動力がずば抜けてるから実質遊撃隊か。たぶん、おそらくメイビー。
「明日は見回り……か」
銀鏡さんの元で剣術と『仙人』になるための修行を行うことはもちろんだけど、騎士団としての仕事もしなくちゃいけない。当たり前でござるな。働かざる者食うべからず、でござるからな。
ぽこべぇを抱きつつ、かざまは座禅を組む。『仙人』になるための修行だ。
思考を薄くし、身体の境界面がぼやけるように、そして周囲に溶け込むようなイメージで行うと良いらしい。
水心に 落ちる影を とらえるな
斬ろうとすれば 霞むばかりか
心の中でそう唱え、かざまは無心になる。
何も感じず、何も動じず、無風に揺れる。
無味を感じ、無嗅を嗅ぎ、無心に移ろう。
まぁ寝る前にそんなことをしているので、かざまはいつの間にか眠ってしまっていた。
「またやっちゃったでござる……」
しょんぼりとしていれば、ぽこべぇが慰めるようにかざまの膝を叩く。ありがとうの意味を込めて頭を撫でれば、心地良さそうに目を細めた。
「よし! っあ、イテテ」
座禅を組んだまま寝たせいで、足が痺れていた。生まれたての子鹿のように足を震わせ、壁に凭れかかりつつ立ち上がる。
「テテテテテテテテッ」
足のピリピリを感じつつ、騎士団の制服をクローゼットから取り出す。制服は鎧を元にしたものも選べたんだけど、かざまは銀鏡さんが着ているものと同じやつにした。
下着姿になり、制服の白いズボンを穿いて、銀色のベルトの金具を締める。上は白と金の詰襟を着て、下から順に釦を締めた。そして胸元に施されている旗印の紀章に皺がよってないことを鏡で確認する。
「うーん……よし」
最後に葉っぱの髪留めで髪を括って、準備は万端。
かざまはぽこべぇを連れて、部屋の扉を開いた。
・
・
・
見回りする場所は基本固定らしいけれど、その日の気分で変えても良いんだって。見回る場所と時間を敵に把握されて利用されないようにするためでもあるらしい。
「おはようございます!」
「おはようございます風真さん。では早速行きましょうか」
かざまがぽこべぇを連れてるように、銀鏡さんも髑髏島でテイムしたくじらを連れていた。
「こんにちわー」
「あらこんにちわ。銀鏡さん」
「こんにちわー」
「おう」
「こんちゃー」
「やあ」
見回りついでに行き交う人々に挨拶する銀鏡さんの隣で、かざまもペコリと頭を下げる。
しかし銀鏡さんはあれでござるな。挨拶返されなかった時を考えないタイプでござるな。かざまは挨拶返してくれなかったら軽くへこむタイプでござる。
「あらお隣の彼女は新人ちゃん?」
「はい。先日入団しました」
家の窓から顔を出した貴婦人に、銀鏡さんは和やかに言葉を返す。
「風真いろはでござる」
「そう、いろはちゃんって言うのね。素敵なお名前ね。お仕事頑張ってね、これ良ければどうぞ」
「わ、ありがとうございます」
「引き留めちゃってごめんなさいね~」
ヒラヒラと手を振る貴婦人に銀鏡さんは手を振り返し、かざまは軽く会釈して別れた。
なかば強引に渡されたビニール袋の中には新鮮な野菜が入ってた。
「トマトとキュウリ、ネギ、レタス。あ、ナスも入ってるでござる」
「ん、良かったですね」
「はい!」
見回りは続き、市街地から抜けて少し開けた場所に出た。踏み締める道はいつの間にか石畳から砂利道に変わって、かざま達はそのまま道沿いに歩き続ける。空には鳶が飛んでいた。
すれ違う人達も段々と少なくなり、遂には誰も見えなくなった。
それでもまだ歩き続け、ウェスタを囲む壁まで辿り着いた。
「さて、本日の見回りはこれで終了です」
「はい」
「ここからは風真さんの修行をつけていきます」
「はい!」
銀鏡さんが地面に錬成陣を展開すれば、数秒後に青い錬成光が下から上へと立ち昇る。
錬成陣の下にあった地面が陥没し、みるみるうちに圧縮された。どんな錬成構築式を立てたのか、青い錬成光が未だにバチバチと音を立てている。
そして出てきたのは、鈍い光を放つ一軒家程の立方体だった。
それを地面から抜き出して、銀鏡さんはコンコンと叩く。
「これを上辺と下辺の切り口差、0.1ミリ以内で両断して下さい」
「切り口を見るんでござるか?」
「そうです。それにこれは合金です。組織構成にも気を遣って仕上げたので、唯の合金とは侮らないでください」
「分かったでござる」
首が痛くなる程高い壁に銀鏡さんは凭れ、その側にくじらとぽこべぇが集まった。
一方かざまは、金属の前に立って腰に佩いた刀に手をかけ、集中。
合金自体を斬ることに問題はない。けれど真っ直ぐ振り下ろさないと切り口の上と下でズレてしまう。
「水心に 落ちる影を とらえるな
斬ろうとすれば 霞むばかりか」
無我の境地へのトリガーを引き、更に身体強化魔法を発動。
フッと息を吐くのに合わせて、抜刀からの振り下ろし。キンッと澄んだ音が目の前のソレから鳴るのと同時に、カチャリと刀を鞘に収めた。手応えはある。
「お見事。両断はされてますね、流石です。では長さを計ってみましょうか」
再び銀鏡さんが錬成陣を展開して、合金の塊に上から下へと透過させる。
「うん、やっぱりズレてますね。差は0.5ミリでした」
「うぅ、残念です」
「0.5ミリの違いと言えど、それが降り積もれば大きな問題を引き起こします。刀への負荷が最も足るものです。それに、自身が思い描いている身体の動かし方と、実際の身体の動かし方に差違が出ていることにもなります。これらを矯正していくことが、これからの課題となります」
「はい」
そう返事した瞬間、かざまのお腹がきゅるるぅ、と空腹を訴えた。
気付けば太陽は中天に差し掛かり、時間的にお昼時だ。ぽこべぇもお腹減ったのか、ぽんぽんを擦ってた。
「ワンワン!」
「うん? お腹減ったの?」
「ワン!」
「そっかそっか。じゃあ帰りましょうか」
パチン、と両手を合わせた銀鏡さんはこちらに振り返る。
「私はこの後用事があるのでここでお別れです。それでなんですが、風真さんは全力で走って戻って下さい。これも修行です。あとくじらも連れてって下さい」
「分かったでござる」
「じゃ、また後で会いましょう」
銀鏡さんは両断された金属の塊を地面に戻した後、かざまにくじらを託して宙に浮かんだ。そしてあっという間に見えなくなった。
「よし、帰るでござるよ」
肩にぽこべぇが乗ったことを確認して、ぐっと足に力を込める。くじらは宙を飛んでるから問題ないでござるな。
チラリと後ろを見てくじらを確認。そして弾けるようにかざまは走り出した。
―――………
一ヶ月前に起こった白銀邸の襲撃。
ベスティア・ゼータによる爆発に乗じて脱獄した『七変化』は、今もまだ逮捕されていない。
銀鏡チヒロの用事と言うのは、捜査がどこまで進んでいるか確認することだった。
「こちらが捜査資料になります」
「ありがとうございます」
使用されてない会議室の中、銀鏡チヒロは警官から資料を受け取った。
それによれば、とある一点から『七変化』の居場所を辿れなくなっていた。
「最後の消息は魔法の森で途絶えている、と。なんともまぁ厄介なことで」
「ええ。一応管理者のアユンダ・リスさんに事情聴取をしましたが、何の情報も得られませんでした」
「空間の歪みに引きちぎられたか、あるいは何処かに飛ばされたか……まぁ前者を願いたいですが血痕が無いなら後者の可能性が高いですよね……」
「ええ。魔法の森には報告書の通り、どこにも血痕が無く、足跡も見付けられませんでした」
それはウェスタの街中にあり、自然公園のように緑溢れる場所ではあるが、とある地点から立入禁止となっている。
そこから先は魔法の森と呼ばれており、空間の歪みや渦が多々見られ、しかも発生と規模の法則性が見られないことから管理者であるアユンダ・リス以外立ち入りを許可されていない。
ちなみに、ウツシヨからマンガと呼ばれる書物やゲーム、更には衣服や食べ物、遊具まで流れ着くことから、アユンダ・リスはそれらを収集販売を行っている。
「これ以上の進展が無ければ、捜査はここで打ちきりになるでしょう。その後は賞金首として指名手配し、冒険者達に
「そうなりますね。あ、この資料は貰っても大丈夫ですか?」
「もちろん」
数枚の資料をきっちり折り込んで、チヒロは椅子から立ち上がる。そして別れの挨拶を交わして大空警察を後にした。
数日後の新聞にて、『七変化』の生死問わずの手配書が発行された。
懸賞金は危険度から二千万の値がついたのだった。
・
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・
一か八かと飛び込んだ空間の渦は、七変化をここへと連れてきてくれた。
辺りは一面の銀世界。横っ面を激しく叩く雪は猛吹雪。
空間の渦に入ったせいか酷い目眩と吐き気に襲われながらも、七変化はひとまず一歩を踏み出した。
(どこでもいい。どこか休める場所を……)
吹雪はますます酷くなり、視界はもはや白一色。ともやすると暗闇より見えない世界に放り込まれ、七変化は苦し気な声をあげる。
明かりと暖を取るべく発動した火の魔法は、大自然の力には叶わない。平時であれば片手間に展開できるそれが、寒さで魔力の制御が乱れて発動するのも一苦労。ようやっと発動できても、焼け石に水程度のものしか恩恵を授かれない。
(死ぬのか? ここで? 嫌だ俺はまだ死にたくない……)
薄れゆく視界。
感覚が消えていく手足。
明滅した意識の中で、洞窟のようなものが見えた。
それが本当に洞窟なのかは分からない。もしかすると死に際に見せた幻影かもしれない。だが七変化は藁にも縋る思いで最後の力を振り絞り、その救いの中へと飛び込んだ。
―――七変化が飛ばされたのはユニーリア。
とある雪の一族が住む、美麗な国であった。
カエラ・コヴァルスキア
鍛冶場と自宅はほぼ一体化してる。地下には巨大倉庫があり、師匠や自分で集めた鉱石などが陳列されている。
この人、カテゴリーとしては人間なのかな。あとどうして右手の肌が黒色なんだろう。そういう手袋か種族なのかな、と不思議に思ってます。
銀鏡チヒロ
創始者の名前を知ってるのは、冥土の土産的なサムシングで教えてくれたから。あとセレス・ファウナとは面識がある。しかし仲は知り合い以上友達未満。
チヒロの『仙人』ゆえの機動力はずば抜けて高いため、要請があれば他国であろうと参上する。なので遊撃隊みたいな側面もある。今回一人追加された。
風真いろは
この度白銀騎士団に入団。ありがたいことに銀鏡チヒロの元で修行を積むことができるようになった。
寝る前や時間ができた時に、鉄に念を込めたり瞑想をしている。
無我の境地に至るために病去一告の武術歌を唱えている時点で、仙人になれる可能性は低い。いつどんな場面だって無心になれなければならないのだ。
セレス・ファウナ
設定によると自然とは人間以外の有機物を指す。
そして『仙人』とは自然と一体化できる者を指す。
人間と自然という相反する二つを一つにすることを彼女は望まない。できるとやらないは違うのだ。
魂由来の神器
作り手の魂から創られるため、桁違いの権能を発揮することが可能。材料が無くても創れるが、破壊された時の修復が遥かに難しい。また、作り手の魂から創られているため、その作り手が死んだ場合神器は消滅する。
イワレ由来の神器
多くの人々の願いを受け、イワレが権能へと昇華したもの。チャキ丸の場合、折られないように、曲がらないように、欠けないようにと願が掛けられ続けた結果、不壊の権能となった。
人々の願いを反映するため、似たような神器も存在する。なお、魂由来の神器とは違い、作り手が死んでも消滅しない。