白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 こんらみです。

 話は駆け足で進んで行きまーす。でもこの編自体の話数は少なくなりそう。
 なお当方はししらみ推進委員会の者です。あとは分かるね? お前もこっちにくるんだよォ!


第4章 ツウィルと雪の花編
第17話 夢でしか会えない人


 博衣こよりが誘拐されて二ヶ月。

 同じく、風真いろはが抜けて二ヶ月。

 

 秘密結社holoxは実質的に幹部と総帥しか残ってない。

 総帥は今まで楽しそうにゲームをしていたのに、今やただの作業のようにゲームをしている。端から見て全く楽しそうに見えない。そのうち病んでしまいそうな程だ。

 その一方で幹部は、独自で博士の行方を探していた。

 大空警察も行方不明者が二名出ていることを知っているため捜索をしていたが、いまやそれは残り火に過ぎない。メディアも諦めているのか『天才科学者の喪失』と新聞の見出しにデカデカと記載した。

 

 頼れるのは結局、自分自身の力。そして助手くん達だった。

 

 助手くん達のマザーであるココロは博士と共に行動している。そのため博士が居るところにココロあり、と言っても過言ではない。そのココロには位置情報を常にラボに送信しているため、どこに居ようと位置を把握できる。

 しかし、博士が誘拐されてから位置を示すピンは地図のどこにも刺さってない。

 つまり、博士は通信妨害が施されている場所にいる。

 

 そこまで推察するのは簡単だった。

 そこで幹部は考える。

 

 果たして、博士の場所が分かったからと言って奪い返せるかどうか。

 奴は『最強』と『白銀の仙狐』を下した。最高戦力の二人を下した奴に、力ずくで奪い返せるとはとても思えない。

 

 ならば隠密に特化してバレないように奪う必要がある。あるいは陽動の裏で秘密裏に奪還するか。

 しかし陽動はいろはに任せるとして、己は隠密に特化している訳じゃない。それは総帥も同じだ。

 

 総帥の封印を解ければそれで万事解決に繋がるが、今更それを期待するのは望みが無い。

 そうなると隠密に特化した仲間を集める必要となる。

 

(けれど……)

 

 チラリと幹部は総帥を見やる。

 肩肘をついてカチカチとパソコンを弄る総帥の目に光は無い。

 もし仲間を連れてきたとして、果たしてそれを総帥は受け入れるのか。

 きっと表面上は喜ぶだろう。けれども心はどうか。

 

(耐えられないよね、きっと。……ううん、絶対)

 

 総帥の仲間思いは筋金入り。

 間に合わせのような仲間を迎え入れる訳が無い。

 誰であろうと、博士やいろはの代わりになる訳が無いのだから。

 

(……あれを使う時がきたのかな)

 

 そう思いつつも、幹部は眉間を揉んで深い溜め息を吐いた。

 幹部の頭に浮かんだ術は、かつてニブルヘイムの時代に使ったもの。

 

 名を生命の創造。

 

 博衣こよりを二代目博士と称するものならば、彼は初代博士と称すべきもの。

 その彼が遺してくれた、人造人間、又の名をホムンクルスの創り方。

 

(創り方だけ、理解はしておこう。創るつもりはないけど、念のため、万が一のために)

 

 幹部はそれに反対だった。

 自然の摂理を冒涜する行為を賛成できなかった。

 しかし当時はニブルヘイム時代。マクスウェルの悪魔を倒すためには必要だったのだ。

 

 幹部は腰かけていた椅子からゆっくりと立ち上がり、アジトの廊下を歩く。段々と地下深くに進むにつれて肌寒さを覚えてくる。

 そのうち、とある部屋に着いた。扉には三重の鍵がかけられており、それを一つずつ幹部は外していく。

 外した錠をそのままにドアノブへと手をかけ、幹部は力一杯扉を押した。錆び付いている蝶番が地獄のような叫び声を上げ、そして全開に開けられた。

 

 厳重な警備に反し、中には物が無く伽藍堂。

 しかしここの床だけ時間の流れに取り残されたように古びた石畳であり、その石畳一面に大きな魔法陣が一つだけ、赤い色で刻まれている。

 

 その中央に幹部は立ち、魔法陣に魔力を注ぎ始めた。

 古びたその魔法陣は魔力というエネルギーを注入され、徐々に光を放ち始める。

 魔法陣の全ての文字と記号が光を放ち、どこからともなく風が吹き上がる。ゴゥゴゥと唸る風に髪の毛を遊ばせながらも幹部は魔力を注入し続け、そして遂には閾値を越えた。

 

 一瞬魔法陣が力強く輝いた瞬間、幹部の姿は何処にもなかった。

 そこにはただ、何もなかったように魔法陣が刻まれていた。

 

 果たして、幹部は何処に消えたのか。

 

 

 

―――………

 

 

 

 ユニーリア、正式名称ユニーリア王国は雪国ながらも四季があることで有名な国だ。あとトマトの名産地としてでも有名であり、ここで採れるトマトは果実にも負けず劣らずの糖度を誇っているためそのまま丸齧りすることもできる。

 この国の一年の半分は冬であり、残りの半年が春と夏と秋が巡る。しかし最近では地球温暖化の影響で春の到来が早くなっていると気象学者は唱えている。その影では混沌の誕生が近いからと予想する者もいたりいなかったり……。

 

 ユニーリアの標高の高い山々、果てしなく続く丘隆地、地に根を張る針葉樹と広葉樹などなど、山々は季節が巡るにつれてその装いを変える。春は花溢れる山河が人々の目を楽しませ、夏は避暑地として憩いを求め、秋は落葉の雨が心を潤わせ、冬は世界全てが静寂に満ちたひと時を与えてくれる。

 ここに住む人は雪民と呼ばれる精霊だ。真っ白で丸くふわふわとした見た目の生き物であり、その愛らしさに心を奪われる人も少なくない。

 街には観光客向けの商店が溢れ、雪民達はそこでせっせと働いている。休息日や夜になるとどこからともなく心地よい音楽が流れだし、雪民達はこぞって酒を傾け始め、ネルーシェを奏でたりモウス*1を取り始める。初めてここに訪れた観光客はその光景に驚くこととなるが、すぐに雪民達と共に盃を傾け始め、モウスの賭け事をしたり一晩中騒ぐこととなる。

 そのため、大抵の者は麓の街に滞在、あるいは移住する。よって、それ以外の場所に住むものは変わり者か何かしらの事情を持つ者だ。

 

 現在のユニーリアの季節は冬と春の間。じきに雪解けが始まる冬の終わりごろ。

 ここに、観光目的で訪れようとする三人の冒険者の姿があった。彼女らはユニーリアを目指すために、丘隆地を進み、深い森の中を歩いていた。

 ザクザクと新雪を踏みしめ、三人は白い息を吐き出しながら前へ前へと進んでいる。

 ただし全員目が死んでいた。

 

 なぜ彼女らはこんな森の中にいるのか、なぜ死んだ魚の目みたいになっているのか、それはパーティーメンバーのひとりである桃鈴ねねの一言で始まった。

 

「野生の雪民をゲットしたい!!」

 

 と。

 直ぐ様尾丸ポルカによって『ポ○モンじゃねーんだぞ!』とツッコミが入ったのは言うまでもない。

 そもそも雪民達は精霊であるが、人間と同じく拉致監禁は禁止されている。よって、無理強いで連れていくことは法に触れる行為である。

 

 そんなことをうんたらかんたら説明して発言を撤回させたが、ユニーリアに行くこと自体は反対ではない。

 神器『宝鐘』の回収任務の報酬とリヴァイアサンの鱗の売却(念のため鱗は二枚残してある)で、懐はホッカイロ並に暖まっているため多少散財しても痛くも痒くもない。そこで、ユニーリアで行われる迎春祭があることを思い出し、せっかくだし、と祭が開催されるまでユニーリアに滞在することが決定した。

 

 だが出発前日になって、オメガが博士を誘拐せんとウェスタに襲来した。オメガにかけられていた呪いによってウェスタは地震と地割れに襲われ、家屋が軒並み倒壊したのは以前に先述した通り。

 彼女らはそんな状況で出発する程人が悪い訳ではないので、家屋の修復や炊き出しを手伝っていた。

 それを一通り終わらせ、漸く彼女らはウェスタを出発した。

 

 ユニーリアはウェスタから見て北方に位置しており、広大な領土を持っている。自然の川や地形などを国境線として用いているが、跨ぐのにパスポートなどは必要ない。身を凍らせんとする厳しい寒さがそのまま余所者を寄せ付けないからだ。それに、パスポートなどを必要とする国自体が少数派である。

 そのため、彼女らは税関や関所といった所を通過することなく、ユニーリアへと踏み込めた。

 

 出発してから半月もかかれば、流石に体力の限界。冒険者ゆえ体力には自信があるし、獣人だから持久力も余裕があったが(桃鈴ねねを除く)、固い地面での野宿では完璧な休息は取れない。

 

 よって、彼女らの頭の中は、ベットに飛び込んで好きなだけ眠ることで一杯だった。

 

 なので彼女らの間で空気が死んでるのはこれが原因。

 もう口を開く元気も無かった。

 

 しかしそれも今までのこと。

 

 踏み締めていた雪が石畳に変わり、道は雪掻きがされて歩きやすくなり、そしてユニーリアの住民である雪民が浮いているのが見えた。

 

 長い旅がやっと終わったのだ。

 もうIQが死んで『今日の晩メシどうするよー?』『やっぱ昆虫ゼリーが一番じゃない?』『じゃ、それでー』と話噛み合ってんだが噛み合ってないんだが分からなくなる心配もなくなるのだ*2

 

 着いたことの喜びで彼女らは膝から崩れ落ちそうになるが、体に鞭を打って歩き続け、そしてホテルへとチェックイン。からの部屋に着くや否や荷物を放り投げベットへとダイブ。秒で夢の中へと落ちた三人はほぼ丸一日眠り続けた。

 

 

 

―――………

 

 

 

 私、雪花ラミィには、いつも見る夢がある。

 それは幼い頃の自分と、お母様が主人公の夢だ。

 ニ百年前のラミィの記憶から作られた、まさに夢のような出来事。

 夢を見ている最中は、それが現実だと思ってる。七歳の頃の自分に戻って、世界に何も辛いものはないと、楽しいことしかないと笑っていた。

 

 幼いラミィの前には、美しく笑う白樺の女性。ラミィのお母様がそこにいた。

 

『ママはらみぃが守る!!』

『あら? じゃあラミィは私の騎士様ね!』

『キシ様? 誰よそのオトコ!?』

『誰かを守ってくれるカッコイイ人のことよ』

『じゃあ、らみぃはカッコイイ?』

『う~ん、どちらかと言えば可愛いかな?』

『やーん!!』

 

 ほっぺたに手を当てて照れるラミィを、お母様は聖母みたいな慈笑を浮かべて、頭を撫でてくれた。

 

 

 でも、幸せというのはこの夢のように甘く、脆く、儚いもので、泡沫のように消えてしまうもの。

 泣きたくなるほど、幸せというのは永遠には続かない。

 

 

『ゴホッ、ゴホゴホッ』

『ゴホゲホッ、ゲホ』

 

 お母様は病気だった。病名は長く、幼いラミィには覚えていられなかった。

 いつ頃だったか、お姉様の本棚に人体の図鑑や薬草の図鑑が並び始めた。お父様はともかく、もしかしたらお姉様も知っていたのかもしれない。それに、お兄様も。

 もしかしたらお母様の病気を知らなかったのは、ラミィだけだったのかもしれない。

 

 お母様の様子はみるみるうちに酷くなっていった。

 

 食事の時は家族で一緒にすることがルールだったのに、お母様はリビングに来なくなった。

 体力の消耗も激しくなり、少し出歩くことで息切れするようになった。ラミィとの庭園の散歩もできなくなった。

 遂にはベットから起き上がることもできなくなってしまった。

 

 

 場面が変わった。

 

 

 両親の寝室の扉の前で、ラミィは扉に耳をあてて中の声を聴いていた。

 中でお父様とお母様が何を話していたのかは覚えてない。

 

 ただ、漠然とした焦燥感と小匙一杯くらいの希望があったのを覚えている。

 

 そしてラミィは家の外に出た。お気に入りのぬいぐるみを抱いたまま、モコモコふわふわなパジャマを着たまま、夜闇の世界に飛び出した。

 

 ラミィは何かを探していた。それが希望だった。

 それを求めて歩いていたけど、やはりと言うべきかラミィは迷子になってしまった。見えるもの全てが雪に閉ざされ、しかも明かりというものは頭上に輝く月と星々しかない。幼いラミィはすっかり迷子になってしまった。

 

 ラミィは不安で悲しみで寂しさで、泣いてしまった。

 聴こえてくるのは自分の泣き声と、ザクザクと雪を踏む音だけ。

 どこにも、ラミィの名前を呼ぶ声は聞こえない。

 

『ママぁ!!』

 

 たまらずお母様を呼んだ。でもその声は雪に吸い込まれてしまう。静寂な雪世界は切り裂けない。

 お父様も呼んだ。お姉様も呼んだ。お兄様も呼んだ。

 けれど決して、返ってくる声は無かった。

 

 絶望が沸き上がり、同じくらい涙が迫り上がってくる。

 

『ママぁ! どこにいるのー!! どこー!! らみぃはここだよー!!!』

 

 ぐしゃぐしゃに泣いて、頬を伝う涙が冷たい。

 ユニーリアの冬は凍え死んでしまう程に寒い。

 吐く息は白く、手足は痛い程にかじかんで、鼻と耳の先も真っ赤になって、だけど目元だけは熱かった。

 

 いつの間にか、ラミィは雪の上に倒れていた。

 空は雲に覆われ、うっすらと月の輪郭だけ見えている。真っ黒の空からは、ちらりちらりと雪が舞う。しんしんと降り積もる雪片が、ラミィの体の上にも降り積もる。顔と手に落ちた雪は体温で溶けたけれど、そのうち溶けるに時間がかかってきた。

 それに漠然と、自分の時間が止まりかけているのを感じた。

 

 もう諦めと冷たさが全身に回り、瞼を閉じる。でも――。

 

 ザク、ザク、ザク、と、遠くから小さな音が聞こえた。

 誰かが雪を踏む音が聞こえる。

 ラミィの顔を覗き込んだのか、顔に雪があたらなくなった。

 

『―――ィ、ラミィ』

 

 強く体を揺さぶられた。

 仕方なく、微睡むように蕩けた瞼を、ゆっくりと開いた。

 そこには、繊月のようにカーブした笑みがあった。

 

『ラミィ』

 

 名前を呼ばれた途端、まるで湯船に浸かったような暖かさが全身に回った。

 そこにいたのは、他の誰でもない―――。

 

『ママ?』

 

 そう呟いて伸ばした手は、空しく空を切った。

 

「夢……か」

 

 寝ぼけて天井へと伸ばした手を、ポトッと毛布に落とす。

 

 あの夢はラミィがよく見る夢だ。特に冬から春にかけてが酷い。

 何かを思い出させようと、ラミィに何度もあの夢を見させるのか。

 

 ふっと、天井に向けていた視線を机の上の写真立てに移す。家族で撮った写真の中に、お母様が写っている。

 

 そのお母様は次の日に死んでしまった。

 お母様は人間で、病気で死ななくとも寿命で亡くなってしまっただろう。お母様との最後の記憶は、お母様の笑みで途絶えている。

 

 また夢を見ればお母様と会えるかな、と寝返りを打った瞬間軽く頭をはたかれた。

 

「もう、だいふくったら頭を叩かなくてもいいじゃないの」

 

 ラミィの頭をその白いモフモフ手で叩いたそれは、一見するとマフラーをして壺に入っているミニマム白熊。

 この白いモコモコした生き物はラミィのお供で、雪の精のだいふく。なのに超絶寒がりで、壺の中には冬にはお湯が夏には水が入っている。

 

「―――」

「いつも寝過ぎだって? 良いじゃん別に減るもんじゃないんだから!」

 

 だいふくは喋らないけど、ラミィとは意思の疎通ができるの。別に念話を使ってる訳じゃないんだけど、なんとなく言ってることが分かるんです。

 

「分かった分かったって! 起きます!!」

「―――」

「分かってる。ちゃんとご飯も食べます」

 

 こうして今日も、ラミィの一日が始まるのだ。

 

 

 

「ケホッ」

 

 

 

 

 

 

 

 雪は何でも白く塗り潰してしまう。音も、匂いも、色も、なにもかも。

 それは記憶も例外ではない。

 

 雪花ラミィの、その夢の続きは未だ雪で隠されている。

 

 

 

―――………

 

 

 

「伝説の花って知ってる?」

「伝説の花?」

「うん。ここユニーリアに伝わるお伽噺に出てくるお花。さっき耳にしたんだ」

「それがどうかしたん?」

 

 ホテルの部屋に戻ってくるなり、桃鈴ねねはそう言った。

 尾丸ポルカは小首を傾げ、獅白ぼたんは手入れしていた銃を机に置いた。

 

「探しにいかない!!?」

「伝説の花かぁ~……いいなそれ! 賛成!! ししろんは?」

 

 ねねとポルカの好奇心に満ちた瞳を向けられ、ぼたんはまぁいっかと頷いた。

 

「お祭りまでの暇潰しに丁度いいな。いいぜ、行こう」

「「やったぁ!」」

 

 ユニーリアのお伽噺。

 どんな場所にも大抵お伽噺や言い伝えが存在するものだ。ものによっては観光客を呼び寄せるための嘘であったり、ただの偶然の連鎖による勘違いだったりするが、ユニーリアのお伽噺は真実性があった。

 

「“凍らない湖に咲く幻の花。その花を肌身離さず持っていれば、どんな病にも罹ることはない”と。へぇ、良いじゃねえか」

「いいねぇいいねぇ! テンション上がってきたよ、わし!」

「ねねもねねも!!」

 

 情報収集した結果、ユニーリアに住む雪民からは以上のことが返ってきた。

 しかも訊ねた雪民のうちの一匹は、サラサラと地図も書いてくれた上に、どこに湖があるのかも書いてくれた。

 

 早速、彼女らは一番近い湖を目指して歩き始めたのだった。

 しかし軽やかな足取りで始まった幻の花探しは、道中フワフワな雪兎を追いかけたり、魔獣に追いかけられたりと中々思い通りに湖には着かず、また幻の花も見付けられなかった。

 

 そんなこんなで、湖巡りは最後の一つになった。

 

「次の湖で最後だね」

「げぇ!? マジで!!?」

「えぇ~」

 

 ぼたんは落胆する二人の肩を叩き、手元の地図に視線を落とす。

 そして地図に書き込まれていた文字に『あぁ』と声を漏らした。

 

「次の湖、私有地だね。どうするよ?」

「ここまで来たら行くしかないっしょ」

「うんうん!」

「へ、やっぱそうなるよな」

 

 地図に示された最後の湖。それは雪花家が所有する湖。今いる湖からは大分距離が離れており、おそらく夕方から夜頃に到着といったところか。

 

 彼女らは雪花家がある丘隆地を目指して再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性の三人組が、夕焼けに照らされた屋敷までの一本道を歩いていた。

 一人目はシニヨンカバーをサイドにつけた人間。

 二人目は薄橙色の長い耳と、先が黒く染まった尻尾を持つ獣人。

 三人目はこれもまた獣人で、ネコ科を思い浮かべる灰色の三角耳と先がふさふさな細長い尻尾を風に靡かせていた。

 

 二人目の尻尾を見て、筆の先っちょみたいと思ったのはラミィの秘密だ。

 そのラミィは、三人組が歩いてくる様子を自室の窓から眺めていた。

 ラミィがいる屋敷は、雪花家が先祖代々受け継いできた、古めかしくも味わいのある佇みの洋館。白壁に青い屋根、見事な庭園を持ち合わせ、屋敷と門との間にある庭園の真ん中には、これもまた見事で流麗な噴水が涼しげな音を出していた。

 それらの様はまさにお伽噺に出てくる挿絵のようだ。

 

 雪花家の屋敷は、かつての歴史からユニーリアの辺境にある。周辺には栄えている街などないし、隣家と呼ぶ家も遥か遠い場所。全方向が自然に囲まれたところに建っているため、訪問客がいればすぐに分かった。

 

「お客様だなんて珍しいですね」

 

 件の三人組が門に着いた。

 誰がブザーを鳴らすか決めるためか、輪になって拳を振り上げている。出した拳が何かは分からないが、ネコ科の獣人が門の前に立った。

 

 途端、屋敷に響く来客を報せる鐘の音。

 ラミィは自室に閉じ籠ったまま、じっと三人組を見詰めている。

 

「じー……」

 

 できるだけ隠れるように、窓枠からひょっこり目元だけ出して、様子を窺う。ちょっと楽しさを見出だしてきたのか、頭のハートのアホ毛が左右に揺れた。

 だいふくも興味津々に見詰めている――と。

 

「!?」

 

 ネコ科の獣人と目があった。たぶん。

 ラミィは思わずひっくり返らんばかりに仰け反った。ラミィの背骨と腰のしなやかさに、だいふくが感心していると、屋敷で働く雪民のひとりが門に向かっていた。

 

「……大丈夫そ?」

 

 ぷかぷか浮かぶだいふくに確認して貰い、ラミィは再び外の様子を窺う。

 どうやら何かを話している様子。

 そして用件を承ったのか雪民が戻ってくる。三人組はまだ門の前だ。

 

「だいふく、何の用だと思います?」

「―――」

「いやトイレじゃないと思いますけど」

 

 再び門の方へと視線を向ければ、人間の女性がおもむろに門の隣に屹立した。何をしたのかと思えば*3、筆の尻尾の獣人がお腹を抱えた。

 

「トイレかもしれん」*4

 

 だいふくの言う通りかもしれないと考えを改めていると、ネコ科の獣人が何か言ってる。

 

「―――」

「ふふっ、トイレに行っといれーって、10点」*5

 

 だいふくのアフレコに笑っているうちに、お父様が門へと向かっていく。そして三人組はお父様と一緒に門から離れてどこかへと歩いて行った。

 

「何かあったのでしょうか、お父様が直接対応するだなんて。それとも余程あの子達が気になったのかしら?」

 

 もし気になったのだとしたら、それはラミィも同じだった。

 だいふくには気取られないよう心を冷静に保っていたけれど、ラミィの心はなんだか弾んでいた。三人組を目にした途端、心のどこかがざわめいたのだ。

 なんだか、運命の人にでも出会ったみたいな、そんなあやふやな感じで。

 

(ちょっと、ラミィもお話ししたいなー……だなんて)

 

 頭を過ったのは、二ヶ月前の流星群。

 小さな小さなお星さま。

 それらに、ラミィはなんだか素敵な予感がしたのだ。

 その時に胸を貫いた春雷と、今の心の空模様はよく似ていた。

 

 

 山の天気は移ろいやすい。予報だと晴れの筈が、空は曇天となり灰雪が舞い始めた。

 お父様はまだ帰ってきておらず、ラミィは落ち着かない様子で窓の外へとしきりに視線を向ける。

 それが二十を余裕に越えた頃に、屋敷の門に人影が見えた。

 

「―――」

「帰って来たんですか!?」

 

 外がしきりに気になるラミィの代わりに窓の外を見ていただいふくからの合図に、ラミィは奏でていたネルーシェから手を放し、窓へと駆け寄る。

 見える空にはすっかり帳が降りていた。

 その中に、お父様の姿と三人組の姿が浮かび上がる。そして門を開いてお父様と一緒に三人組が屋敷へと入ってきた。

 

「あらららららららら!!? もしかして泊めるつもりなのかしら!?」

「―――」

「そうだよねもう夜だもんね! 雪も舞ってるし泊まらせてあげるよね!! でもどうしようお洒落して出迎えた方が良いのかしら!!?」

「―――」

「諦めたらってどういう意味よ!!?」

 

 

 

―――………

 

 

 

 ご厚意に預かって招き入れて頂いた屋敷はとても広く、白と青を基調として、植物の模様がいたるところに描かれている。天井から吊るされたシャンデリアも花弁が開くような形をしていた。

 

 彼女達は夕飯に招かれて一室に案内された。中にはシルクの青いシートが敷かれた円卓があり、木製の椅子に座るよう雪民に促される。

 彼女達は上座とか下座とか考えなくてもいいのかと思ったけれど、そもそも円卓の場合どこが上座か下座か分からなかった。なので促されるまま座ることにした。

 

「やべぇよやべぇよ」

「あ~なんだかお腹が痛くなってきた……」

 

 ポルカとねねはあまりの格式の高さに気圧され、あれほど夕飯を楽しみにしていたとは思えない。

 

 ポルカの表情が次第に焦りから虚無になった頃に、扉がコンコンとノックされた。

 失礼しますとの声が扉の向こうから聞こえ、そして扉が開かれた。

 

「いらっしゃいませお客様方」

 

 雲雀の声の彼女は、スッと腰を落としてシースルーのスカートの裾をつまんで会釈した。

 その所作があまりにも流麗で、彼女達は思わず息を呑んだ。

 

「お客様?」

 

 玲瓏な声の持ち主は物語から飛び出したような美しさ。人形のように整えられた相貌は、まさに見たもの全てを凍りつかせる冬の化身。黒糸の睫毛に覆われた金の瞳は朝に輝く太陽の色彩で、新雪の肌に浮かぶは桜の花弁。

 

「あのー……」

 

 ウェーブがかかった明るい青の長髪に飾られた可憐な花。そして頭頂部に揺れるハートのアホ毛は毛先がピンク。そのアホ毛が不安げに左右に揺れた。

 彼女の立ち姿は冬であれど、中身は春であった。

 

(神様が季節の化身として彼女を創ったとしたら、あたしはそれを信じてしまうだろう)

 

 ぼたんが柄にもなくそう思ってしまう程に、彼女の美しさは完成されていた。

 

「あの、あんまり見つめられたら、その、困っちゃうと言うか……あの恥ずかしいですぅ」

 

 大きな宝石のような瞳を潤ませてそう言うもんだから、ぼたんは少々ドキドキしながらも謝った。

 

 たちまち居心地が悪くなるが、幸いにも雪民達が料理を運んできてくれて、雪花家を交えた食事が始まった。

 

 ここから先はあまりぼたんは覚えていない。並べられたカトラリーを外から順に使ったのかすら覚えておらず、ならば交わした会話の内容も覚えていない。

 

 口に運んだ料理の味も朧気だったけれど、たった一つだけ、覚えているものがある。

 

 それは雪花ラミィ。彼女の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の晩、雪花ラミィは三人が滞在する客間を訪れた。目的は彼女達の冒険譚。食卓を囲んだ時に、今までの冒険の話をしてくれると言ったからだ。

 

 お酒は大和酒とワイン、おつまみは色んな種類のお菓子やケーキを用意して、ラミィは客間の前までやって来た。押してきたカクテルワゴンを静かに止め、扉をノックする。

 途端、中からがちゃがちゃ音がした。

 

『ん? あれ開かねぇぞこれ』

『なにやってんのおまるんてば。ねねに任せてみ』

『おう悪いな』

『……これ引くタイプ!!』

『あ』

 

 部屋側に開かれた扉。顔を出したポルカは、照れ臭そうに頬を掻いていた。

 

「いらっしゃーい!」

「ふふふ、お邪魔します」

 

 ねねの歓迎に笑みを溢し、カクテルワゴンを中に押していく。ぼたんはベットに銃器を広げていた。

 それを物珍しそうにラミィが見つめていたら、ちょいちょいとぼたんに手招きされた。

 

「お嬢様はこういうの見たこと無いっすか?」

「はい。初めてです」

「ねぇおまるん。初めてだって。なんかドキドキしない?」

「お前ちょっと黙っとけ」

「ちょっと持ってみます?」

「是非とも」

 

 適当に見積もられた銃は、ぼたんが持つ銃器の中でも軽量なもの。

 

「わぁ」

 

 黒々とした銃身に、鈍く光る銃口。ラミィがなんとなく構えてみたところ、ぼたんに腕の形を修正された。

 

「銃はしっかり両手で持って脇をしめましょう。じゃないと反動で目標からズレてしまいます」

「あっはい」

「そうそう、そんな感じだ……です。そして撃つときはここのセーフティを外します。んで、パァン」

 

 流石に安全装置を外すことは無かったが、ラミィは撃ち方を覚えた。

 

「まぁ雪花さんは見たところエルフだし、銃を使うことは無いか」

「いえ、ラミィは魔法使えないので、こういう武器の使い方を学べるのは非常にありがたいです」

 

 しげしげと他の銃を見つめるラミィは、当たり前のようにそう言った。

 

「使えないんですか?」

「ええ、全く。これっぽっちも」

 

 ラミィは魔法が使えない事を気にしている様子では無かったが、深く踏み入ることは憚れたためぼたんは話を変えた。

 

「じゃあ、お嬢さんはどんな話をご所望です? うちらが面白おかしくお話しして差し上げますよ」

「うふふ、ラミィで結構ですし敬語も大丈夫ですよ。それと、一番最近の冒険の話を聞きたいです」

「おっしゃ。なら髑髏島の冒険だな」

 

 そして始まった手に汗握る冒険話。

 臨場感溢れる話し方に、ポルカやねねが実際に動いてみせて、それにラミィは目を輝かせる。

 

 その日の客間の明かりは、朝になっても灯り続けたのだった。

*1
ユニーリアの伝統競技、直径10mの円形の闘技場でなんでもありの格闘を行う。魔法でも飛行でもなんでもあり。闘技場から押し出せば良い。天下一武道会のようなものである。決して相撲ではない。引用元 非公式wiki

*2
なお桃鈴ねねは食べた様子

*3
門ねねー!

*4
笑っただけ

*5
なお60点が及第点




 鷹嶺ルイ
 仲間が居ないなら創ればいいじゃないというタカネー・ルイトワネット理論。
 アジトの地下にある転移魔法陣で何処かに消えた。
 ホムンクルスの作り方は学びつつ、博士の居場所を探す。
 
 獅白ぼたん
 幻の花は見付からなかった。
 銃は基本的に複数持ち歩く。弾丸とかも持ち歩くのでこの人が一番体力の消耗が激しい。なおホテルはチェックアウトしてないので、部屋にまだ荷物や銃が残ってる。

 尾丸ポルカ
 旅をする時にはテイムしている動物を偵察に使ったり足に使ったりする。だが第7話で書いた通り、呼び出している間に消費するのは動物の体力ではなく自身の霊力なので長時間使うことはできない。

 桃鈴ねね
 イマイチこの人の書き方が分からない。なのであまり喋ってないのはこのせい。

 雪花ラミィ
 お母様の死因は病気だと、家族から言われたことをそのまま受け取っている。
 最近咳がよく出るようになった。

 ラミィママ
 死因は病気ではない。
 ベットから起き上がれない程に体力を消耗していたのに、ラミィを探すためには歩けたのは、愛の力と思って下さい。愛は凄いって愛じゃよ爺さんも言ってた。

 エルフ
 エルフは莫大な魔力あるいは霊力を持つ。その為、かつてはその力で暴悪を振るわされていた。
 ラミィはハーフエルフであるが霊力は膨大。しかし魔法が使えない。原因は母親の死が関連しているようだ。

 おつらみです。
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