白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 宙に浮かぶ提灯を組み込もうと思っていたんですが、ユニーリアに提灯ある筈が無いですね。 
 今回割りとお父様とお兄様が喋ります。
 また、魔乃アロエ視点が主となってるので、気にしい方はご注意を。加えて、5期生が全員揃ったので、タグに追加しました。
 ツウィルと雪の花編はこれにて終幕。次からはやっと、本作主人公の話を書き始めます。

 今まで基本、最低一万文字を目安に書いていたんですが、やはり六千文字のほうが読みやすいんでしょうか?


第24話 夢に向かって第一歩

 主様からの任務を遂行するために、我輩はユニーリアにやって来た。

 前回来た時には迎春祭の準備が街中で行われていたけど、途中であの騒ぎがあったから、てっきり今年はやらないかと思ってたけど街の様子を見る限り開催されるようだ。

 

 あっ、ちなみに今の我輩の姿は普通の恰好だぞ。我輩がユニットの仲間だとバレちゃいけないって主様言ってたからな、あの真っ黒の服は流石に着て来てないぞ。

 

(それにしてもなぁ、あのヒト達どこに居るんだろ?)

 

 一先ず前回会った街でぶらついているけど、見つけることができるか不安だぞ。どうせなら主様に居場所聞いとけば良かった。

 

(迎春祭まであと数日あるし、取りあえず宿でも取っとくかな)

 

 主様に聞くかどうかはさておき、まずは宿探しだ。

 そう思って爪先を変えた途端、ポフン、と柔らかい何かで肩を叩かれた。誰だと振り返って見れば、雪民がいた。なんで?

 

「えっなに?」

 

 そのふわふわな小さい手でどこかを指差している。あっちに何かあるのかな。

 

「えっと、あっちに行けばいいのか?」

 

 コクリと首肯した雪民を見る限り、我輩の考えは当たってる。

 宿探しに向かおうと思ってた爪先を翻し、雪民が指した方向へと歩く。

 

「どこまで行けばいいんだ?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡しつつ、人ひとりしか入れ無さそうな脇道を通り過ぎようとした途端、突如身体が宙に浮いてその脇道へと引き摺り込まれる。

 

 横に飛ぶ視界から首を傾け、真っ直ぐ視線を移せば、道の暗がりに人が立っているのが見えた。あれが元凶に違いない。

 我輩は反撃できるように拳を握りしめ、顔面ぶちのめしてやると闘志を燃やしていたら――ふわりと地面に下ろされた。

 

(あれ?)

 

 想定とは違う扱いに困惑する我輩に影が差す。我輩の前に立ち塞がった不審者は、顔を隠していたフードを脱いだ。

 

「やっほー」

「って、何だゼッ……銀鏡さんか。驚いたぞ」

「おどろき桃の木どんげばびー*1って?」

 

 銀鏡さんの姿を認めた途端、ホッと安堵の息を吐く。

 緊張と闘志で握り締めていた拳をほどき、プラプラと振った。

 

「えっと、何か反応欲しいなー、なんて……」

 

 それに危うく魔法で攻撃するところだった。でも例え攻撃してもあまり通用しなさそうだけどな。銀鏡さん『仙人』だし。

 ていうか普通に我輩に声かければよかったんじゃね?

 

「私ってそんなに面白くないのかな……」

 

 このまま勝手に落ち込んでく銀鏡さん見てても面白そうだけど、まぁ用件を聞いてあげよう。

 

「すまん銀鏡さん。何か言ってた?」

 

 おっ復活したな。あと『聞こえてなかったからヨシ!』てのは何がヨシなんだ?

 

「もぅ、仲間なんだから敬語要らないし、なんなら気安くチーちゃんと呼んでも良いんだぞ?」

「チーちゃんはなんでここにいるんだ?」

「あ、マジで呼ぶのね。まぁうちらのトップの伝言ついでにあなたの『ワザ』の内容を知りたくて」

 

 我輩の『ワザ』に興味が?

 

「ならどこかお店入るか?」

「いや私はほら、こう見えて有名人ですから、一緒に居る所を見られたら迷惑かなって。だからここに呼んだんです」

 

 はー、なるほどな。

 確かにチーちゃん有名人だもんな。しかもユニーリアに居るだなんて知られたら、ちょっとした騒動になりそうだもんな。

 ……あれ? 職務どうしたんだ? まさかサボタージュしたのか?

 

「前にこの街で会った時、あの騒ぎがあったにも関わらず、誰も野次馬根性発揮して来なかったじゃないですか。結界を張っていた訳でもないのでどうしてかなーって」

「あー確かにそれ我輩の『ワザ』で近付かせなかったけど、タダで教えるのもなー……代わりに、チーちゃんの秘密教えて欲しいなー」

「うわ悪どい笑み」

「ほら、秘密を共有すれば仲が深まるって言うじゃん?」

「それは確かに」

 

 うむむと唸るチーちゃんに対し、我輩に少しイタズラ心が湧いた。

 

 我輩の種族はサキュバス。厳密にはサキュバスの中の希少種族だけどそこは割愛。

 

 サキュバスには天姿国色、閉月羞花、と美しさを讃える言葉に加え、こんな言葉もある。

 

 食らい花と。

 

 本気になったサキュバスは、艶めかしい色香を全身から醸し出す。その色香はさながら虫を手招きし、殺してしまう花のように、溺れさせてしまうのだ。

 

 我輩は情欲を煽るようにシュルリと上着を落とし、背まで流れる髪を靡かせ、上目遣いで身を屈める。

 そしてチーちゃんの手を取って包むように握り締め、恋人のような甘い声を出した。

 

「我輩のお願い、聞いてくれる?」

「え、やだ」

「チッ」

 

 まぁ分かってたけど! 分かってたけど何の反応もないのはつまらないっっ!!

 うがぁー!! と手足をバタつかせて癇癪を起こした子供のようにチーちゃんを叩いた。

 

「痛ったい何で叩くのぉ!?」

「なんの反応もしないからぁ!」

「えぇー」

 

 呆れた声を出すチーちゃんに、追撃の平手をくれてやる。けれどパシリと受け止められた挙げ句、宥めるように頭を撫でられた。

 

「よしよし」

「……何か撫で方主様に似てる」

「え、そうなの?」

「うん」

 

 髪を梳くように撫でるこのやり方で、主様はよく撫でてくれたものだ。

 ふと思い出してしまえば、無性に主様に撫でて欲しくなってきた。けれど今は任務中。不要な訪問は駄目だ。我輩は無駄に主様からの評価を落としたくない。

 

「それで、結局『ワザ』は何なんですか?」

「『アクマイク』。我輩の尻尾にくっついてるマイクを通して放った声は、聞いたものを操る。ヒトも魔獣も関係無い」

 

 ちょっと名残惜しいけどチーちゃんから離れて上着を拾い、傍にあった樽に腰掛けた。

 

「もちろん、効かない奴もいるけどな」

「私かな?」

「ああ、うん。チーちゃんも効かないでしょ。まぁこの『ワザ』でヒトビトを操って、あの時来ないようにしたの」

「なーほーね」

 

 さて、今度訊くのはこちらの番。主様の伝言って何だと問えば、チーちゃんは軽く頷いた。

 

「今頃この街で雪花さん達を探しているだろうから、迎春祭になるまで来ないってのを伝えておいてくれって」

「おお、バッチリ合ってる。助かったぞ」

「じゃ、私は帰りますね。抜け出してきたので早く帰んないとバレちゃいます」

 

 恥じらうように声を落として、これナイショね? としぃーっと口許に人差し指を立てたチーちゃんは、まのちゃんまたねー! とヒラヒラ手を振って虚像世界の中に消えてった。

 

 チーちゃんが何かと子供っぽい言動をするのは、ひとえに我輩の年齢を知っているのかもしれない。

 

 だって我輩は、まだ十にも満たないのだ。

 

 我輩は自分の貧相な身体を見下ろす。小柄な体型、膨らみが少ない胸。小さな手。

 頭に手をやれば、未熟な角の感触がする。

 

 はぁ、と溜め息を吐いた。

 

「早く大人になりたいなぁ……」

 

 

 

―――………

 

 

 

 迎春祭を迎えた当日。

 

 私ラミィは、部屋の鏡の前でにらめっこしてました。

 

「ラミィ可愛い? ねぇ可愛いい?」

「―――」

「面倒くさがらずにもっとIQ下げて褒め称えてよ! カワ(・∀・)イイー!! みたいにさぁ!」

「―――――!」

「『キミきゃわいいネー!』ってナンパ師みたいで、ふふっ」

 

 だいふくが黒いサングラスをかけて雪民をナンパしてる姿を想像してしまい、思わず声が漏れてしまいました。

 

 心臓がドキドキと鼓動を鳴らし、落ち着くために深呼吸しても頬が緩んでしまいます。だいふくとの会話でも、小匙一杯分も小さくなりません。

 

 初めてのお祭り。それも人生初の友達と。あ、ちなみにだいふくは別枠です。それを前にして、ラミィの心はふわふわと沸き立つように浮いています。

 結局、服とかバッチリ決めるのに二十分くらいかかりました。

 

 そして部屋から出る直前、机の写真立てに向き直ります。

 笑ってるお母様に聞こえるように。

 

「行ってきます!」

 

 と。笑顔でラミィは挨拶を告げました。

 

 

 

 

 

 

 

 街に着くまえから、何だか浮き立つような空気というか、色めきたっているような雰囲気が街から漂って来ていました。

 春の訪れを告げる鳥の囀りが、街の喧騒に小さな合いの手を入れて、ラミィ達の足取りを更に軽くさせます。

 みんなと一緒に慣れない通りを歩きながら、両手に花ならぬ両手にビールを装備し、何の意味もなくぶらぶらと周ります。

 

「ラミィちゃん、はぐれちゃまずいからさ……ほら」

 

 そう差し出されたししろんの左手。

 さっきからあえて意識しないようにしていたのに、朝の出来事と共に、頬の熱さが蘇ります。

 

 ラミィの晴れ姿を、一番綺麗だよと微笑まれたことが、今もこうして第二の心臓のように脈を打ちます。

 

 照れくささに俯いた先にあった、ししろんの尻尾。それが少し震えていたのは、もしかしたらししろんの方も照れているのかもしれません。

 それに何だか心が落ち着いて、差し出されたししろんの左手をそっと握りました。

 ラミィの手をきゅっと握り返したししろんの手は、思ったよりも大きかったです。

 

「えへへ」

 

 照れくささが漏れた声で、ししろんはラミィより数センチ高い位置で、ふっと息遣いで笑いました。

 

 

 ……なんでか、おまるんとねねちは砂糖を飲み込んだような顔をしてましたけど。

 

 

 

 さて、ししろんと手を繋ぎながら歩くこと数分、ワァと沸いた喝采に気が引かれました。何でしょうか、と首をひねった直後、ぐっと引かれた右手の勢い。

 少しの驚きはあったものの、ラミィは身を任せます。

 

 視線の先には、色んな花であしらわれた壇がありました。その壇上には演技が終わったのか、曲芸師が色んな小道具を鞄に詰めているところでした。

 その曲芸師は沢山の拍手で見送られ、今度は司会に呼ばれた一人の女の子が壇上に上がりました。

 

「楽しみですね」

 

 囁くようにししろんに告げれば、ししろんも小さく頷きました。

 再び壇上を窺えば、ちょうど彼女がペコリとお辞儀をするところでした。彼女は頭を上げると、自分の尻尾をマイクのように持ちます。いえ、『マイクのように』ではなく、まさにマイクを持ちました。なんと彼女の尻尾の先にはマイクがくっついていたのです!

 彼女は一体何の種族何でしょうか? とても気になるところです。

 

 ししろんに訊いてみようと口を開きかけて、しかし言葉が出ることはありませんでした。

 唇をペロリと舌で舐めた彼女は、ニカッと笑って。

 

「テンションぶち上げてけー!!」

 

 痺れる声とはまさにこの事なのでしょう。

 彼女の幼さが残る声に、ラミィは確かに身体が痺れた感覚がしました。

 

 そして聴こえてきたのは、歌。

 

「────…………」

 

 この瞬間、誰もが瞬きを、呼吸を忘れたことでしょう。その声が奏でる音色に、ただ魅せられたに違いありません。皆がみんな、その音色を追うのに夢中になりました。

 

 この歌を例えるなら、希望という言葉が似合うかもしれません。

 

 最初の低音が表すのは、曇天に覆われた夜。何の灯りもない世界で、怖い、辛い、寂しい、悲しいという感情が込められていて、一寸先も見えない真っ暗闇の世界が脳裏に描かれます。

 もうずっと、このままなんじゃないかって悲嘆に暮れて、諦めるように踞る様子が見えます。

 

 しかし、突如軽やかな音色が飛び込んで来ました。

 

 ああ、夜が明けた、助かったと思いました。自分を閉じ込める扉から漏れ出す光の気配。そして徐々に開いていく扉。比例して高鳴る心臓、希望。

 戸惑いながらも伸ばした手は優しく受け止められ、冷えきった身体を抱き締められ、思わずポロリと涙を流す。穏やかな音色が、少しずつ歩み寄るように段々と激しく、大きく、成長していく──そして遂には、大人になるのだ。

 

 最後は、始めと同じやや低めの音で閉められた。しかし今度は晴れやかに響いて、希望が胸に宿っていることを意味していて、未来があることを示唆していました。

 

 しん、と水を打ったような静寂に包まれたのは一瞬。誰かの拍手を皮切りにして、割れんばかりの歓声と拍手で溢れかえりました。ラミィも惜しむことのない拍手をしながら、はぁと息を漏らします。

 

「……すごかったぁ」

「そうだねぇ」

 

 思わず漏れた感想に、ししろんも同じく同意を示しました。そしてもう一度壇上に視線をやって、お辞儀をする彼女に感嘆の思いで眺めていると──彼女はこちらに顔を向けた。

 

「あ、今目が合った! 目合ったよししろん!!」

「おう、よかったじゃねぇか」

 

 バシバシと肩を叩いて喜びを露にすれば、ししろんは目を眇めて口角を上げました。

 

 さて、次はどんな催事があるのかと期待に胸を膨らませながら舞台を注視していると、舞台の端っこに、見慣れた人物がいました。

 

「ししろん、あれ」

「ありゃ、アレおまるんとねねちゃんじゃないっすか」

 

 ホントいつの間にエントリーしたのか、ねねちゃんとおまるんが司会に呼ばれて『どうもどうも〜ねねぽるでございますぅ〜』と言いながら壇上に上がって来ました。漫才でも始める気なんでしょうか。

 いえ、おそらくそうなんでしょう。ラミィは好奇心を胸に踊らせながら、二人が始めるの見つめていました。

 

 

 

―――………

 

 

 

「クククッようやく見つけだぜ………」

 

 なーんて台詞を言った我輩は現在、ターゲットの姿が見える場所でトマトクッキー片手に張り込みをしていた。

 

「思った通り、一番賑やかな場所に来ると踏んで正解だった」

 

 ザクッとクッキーをひと齧り。

 ユニーリアの名産であるトマトを使ったこのクッキーは、トマトとは思えない程の甘味で舌を楽しませてくれる。そう、この祭りのようにね!

 

 誰でも参加可能な宴会芸大会に出場し、我輩の得意な歌で衆目を集め、雪花ラミィとその一行を見つけるという、我輩のナイスなアイデアは実を結び、こうして影から眺めていられるのだが……。

 

「どどど、どうやって声かければいいんだ?」

 

 肝心な所を考えて無かった――!!

 馬鹿っ! 我輩の馬鹿!!

 

「ヒトの第一印象って三秒で決まるって言うし、何て声かけたらいいんだ!?」

 

 既に単独任務は始まって、仲間の手助けも借りられない。

 クソっ、予め主様にどうすればパーティーに入れてもらえるか訊けば良かった!!

 

 どうしよう!? このまま声をかけられず、仲間に入れて貰えないことになったら!!

 一体何て言われる!? 主様に何て言われる!!?

 

『こんな単純な事さえできないとは……デルタ、お前クビ』

 

 いいやぁあああ!!!!!

 主様から見放されたら我輩どうしたらいいんだ!!?

 

 待てよイータとシータからもきっと……。

 

『『ねーちゃ……かっこわる』』

 

 ぁああああ聴こえる聴こえる!!“スクスク育てきた尊敬の念が崩れる音ォ~!”*2が聴こえてくるよぉ!!

 

 ずっと一緒に過ごしてきた妹分から軽蔑されるなんて嫌ぁ!!

 

 明確な答えがだせず、最悪な想像でお目めグルグルとなって頭がパンクしそうになった、その時だ。

 

『これにて宴会芸大会を終了致します』

 

 幕を下ろす司会の声が、我輩の耳に飛び込んだ。

 

 ええぃどうする? 一応まだ時間はある。春迎祭はまだフィナーレではないから、声を欠けるタイミングなんてゴロゴロ転がってる筈。

 そのうちの一回でも声をかけて、仲間に入れて貰えば我輩の勝ち。大丈夫、じゃんけんより勝つ確率は高い。

 なんなら一回でダメなら二回目がある!

 

(気合いいれろよ、我輩!)

 

 よしいけ我輩! 頑張れ我輩!

 

 頬を叩いて決心の唾を飲んだ我輩は、恐る恐る一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言って、まだ声をかけてない。

 やめて、そんな目で視ないで……興奮するじゃないか♡*3

 まぁ現実逃避はさておき、祭のフィナーレは近づいている。マジで声かけなきゃやばたにえん。出来なかったら我輩はぴえんぴえん。

 

 空はすっかり夜の暗さを孕んで、浪費した時間の長さを示してる。

 よ、よし。もう本気にならなきゃダメだ。

 大丈夫。一言、たった一言言えば良いだけ。

 

 隠れていた壁から顔を出してターゲットを覗けば、こちらに気付いた感じはしない。

 

(スゥー……ハァー……、スゥゥウウウ……ハァァアアアア……)

 

 緊張に弾む心臓が、コンニチハ! ワタシ心臓!! といわんばかりに肋骨を叩いて、何だこいつ自己主張激しすぎだろ。いつから我輩の心臓に自我が芽生えたんだ?

 

「なぁ、アンタさっきから一体何の用?」

「!!!?!?!!?」

 

 背後から不意に声をかけられた我輩はさながら猫のように飛び上がった。

 直ぐに誰だと顔を見れば、まさかのターゲットの一人、獅白ぼたんだった。更に付け加えれば、彼女の肩からは雪花ラミィもひょっこり顔を出していた。

 

 どうしよう。出鼻を挫かれた挙げ句、不審者を見るような視線に晒されているこの状況。控え目に言って詰みの一歩手前って感じがするぞ。

 はてさて、どう挽回したものか。

 ……褒めに褒めればワンチャンいけるか? 褒められて嫌な気分になるヤツなんかいないだろ。特に容姿に関することは顕著だろ。

 

 我輩はパチンとウィンクして、イェアって感じで人差し指を雪花ラミィに向けた。

 

「キミきゃわいいネー!」

「ふふっ」

 

 お、なんかウケたぞ。

 案外イケるかもしれない。

 我輩は背筋をピシッと伸ばして、直角に腰を折った。

 

「我輩を仲間に入れてください!」

「……なんで?」

 

 そりゃそうだわ。

 でも本当の事を言うわけにはいかないし、もう口からのデマカセで乗り切るしかない。

 

「あなたは冒険者の獅白ぼたんさんですよね? 最近では髑髏島の任務にも参加し、直近では賞金首の『七変化』を討伐したとか。あなたの、あなた方の活躍に心が踊ったので、是非とも側に置いて貰いたいと思いまして」

「……」

「もちろん我輩も戦いますし、荷物持ちとかやりますよ!!」

「……」

「だから……その、仲間に入れてほしいなって……」

「…………」

「うぅ……」

 

 あ、あれ? 何だか涙が出てきそう。たかが無言に返された程度で、このデルタが泣くの?

 

「お願いします、仲間に入れて下さい……」

 

 いや、違う。

 仲間に入れて貰えず、任務を失敗した時が怖いんだ。

 

 主様は時折残酷な一面を見せる。

 だから、もし我輩が任務に失敗して、あの心地いい場所から追い出されたらって思ったから、こんなに悲しくて怖いんだ。

 

「仲間外れは嫌だ、ひとりは嫌だ」

 

 あぁ駄目だ。唇を噛み締めても溢れる涙が止まらない。

 ぐしぐしと目を擦ったところで、ボスンと頭に衝撃が走る。見上げてみれば、獅白ぼたんが気まずそうに頬を描きながら我輩の頭に手をのせていた。

 

「あー……悪い。泣かせるつもりは無かったんだ」

「ししろん目付きがちょっと怖いですからね」

「うるせぇ。んで、仲間に入れるかどうなんだが……」

 

 ピクリと肩が跳ねる。

 一瞬怖気ついたけど、堪えて目線を合わせた。

 

「良いぜ。うちのパーティーに入れてやる」

「っ~~!! やったぁああああ!!!」

 

 やった! やったよ主様!!

 我輩、これから頑張ります!!

 

「あっ申し遅れました! 我輩の名前は―――」

 

 大きく息を吸って、胸を張って。

 

「魔乃アロエだぞ!」

 

 

 

―――………

 

 

 

「お父様、ラミィはこの屋敷を出ます」

 

 勇気を絞って出した声。ラミィの意を決した宣言に、顔を上げたお父様はさほど驚いた様子ではありませんでした。薄々、感づいていたのでしょう。

 

「そうか」

 

 お父様が溢したのはその一言のみ。

 ラミィは、それが受け入れてくれたのか、それとも拒否されるのか分かりませんでした。

 

「ラミィは皆と外に行ってみたいのです」

「……外は……危険だ。魔獣やケガレ、ならず者ばかりじゃない。エルフを狙う輩もいる」

「うん。分かってる」

「……そうか」

「それにラミィは、お母様に守られてばかりのラミィじゃない。もう大きくなったの! 魔法も十分使えるもん! 自分の身はもう自分で守れる!」

 

 フン、と力んで示した二の腕は細く頼りない。

 お父様はゆるりと手を伸ばしてラミィの腕を掴み、膝の上に座らせました。

 

「お父様?」

 

 一体急にどうしたんでしょうか。

 ラミィの心配を誤魔化すように、お父様はラミィの頭をゆっくりゆっくり撫でた。

 

「……大きくなったな」

 

 ふっと、空気が抜けるような淋しげな声が、ラミィの鼓膜を震わせます。瞬間、ポタリと何かが髪の毛に落ちた。直ぐにお父様の涙だと気付きました。

 

「本当に、大きくなって」

 

 ラミィは思わず固まってしまいます。部屋の大きな古時計が、チクタクと時間を刻むのが、やけに大きく聞こえました。

 

「お母様も、さぞ嬉しかろう」

 

 一瞬だけ喉を詰まらせて、ポロリと、ラミィの右目から一滴涙が滑り落ちました。お父様の涙で涙腺が弛んでいたところに、トドメの一言。ラミィは涙を禁じ得ませんでした。

 

「……大きくなったよ。お父さん、お母さん。二人のお陰で、ラミィはここまで大きくなれなんだよ」

 

 窓から差し込む月光が、キラキラと部屋を照らす。

 ラミィとお父様の涙が、キラキラと部屋に落ちる。

 

 何分か経った頃、目尻をハンカチで拭いたラミィに、『ラミィのやりたいことをやりなさい』と、お父様はそう言ってくれました。

 

「あの夜を思い出すなぁ」

 

 ラミィの髪の毛を丁寧に撫でていたお父様が、出し抜けにそう言った。声は少し濡れていた。

 

「あの夜も、今日と同じ三日月だった」

 

 お父様が窓を向いた気配がした。それにつられて、ラミィも窓の外へと視線をやる。上空には澄み渡る三日月が浮いています。

 

「あの夜、ラミィとお母様を、冒険者の二人が届けてくれたんだ」

「えっ?」

 

 はっ、と気付きます。そういえば、一体誰が深夜のあの山の中から屋敷に運んでくれたのでしょうか。

 

「誰なの?」

 

 振り向き様にそう訊ねれば、お父様は残念そうに首を横に振った。

 

「聞いたんだけどね、答えてはくれなかった。ただの通りすがりの冒険者だと」

「……そうなの」

「夢や幻のような人達だった。いつの間にか、姿を消していた。確か名前が…………」

 

 二百年前の遠い記憶を、お父様は手繰り寄せる。思わず眉をひそめたせいで、眉間に皺がよっていた。

 

「ああそうだ、名前は教えてくれなかったんだ。だが容姿は覚えてるぞ」

 

 方や銀髪に金の瞳。前髪の一部が紫色だったそうだ。

 方や茶髪に青の瞳。前髪には流れ星のような髪飾りを付けていたそうだ。

 もしかして片方、ししろん達が教えてくれたオメガという神様かなって思ったけれど目と髪の色だけじゃあ、他にも条件に合う人いるよね。

 そう思ったから、口に出すことはしなかった。

 

 あの日の出来事を語るお父様の瞳は細く、過去の思い出を懐かしむような目をしていました。そんな追憶の瞳が、不意にラミィを見詰めます。

 

「あの人はね、私に希望をくれたんだ」

 

 お父様は再び、ラミィの頭をゆっくりと撫で始めました。風の無い日に舞い落ちる雪のように、ゆっくりとゆっくりと。

 

「ラミィは、お母様の死を乗り越えて、沢山の友達に囲まれて笑ってるって」

 

 けれどね、と言葉が続く。

 

「私は信じていられなかった。裏切られた気持ちだった。一体いつ、私の娘に友人ができるんだって。お母様の死を受け入れられるんだって」

 

 エルフという種族の性根。

 亡きお母様を思って心を引き摺り、何年経っても変わらないラミィに、お父様は疲れきってしまったそうだ。

 その言葉に、申し訳無さばかりが募ります。

 

「待てど暮らせど訪れない希望。幾度と繰り返し夢を見ては、ああまた夢かと体の力が抜けた。そんな夢にさえ見たことが、今こうしてやっと現実となって、私は……私は」

 

 そこで切ったお父様はまるで、堪えきれず溢してしまったかのような、震える息を吐いた。

 

「天にも昇る思いだよ」

 

 その頬に伝う涙はきっと、幸せの色をしている。

 お父様もラミィと同じだった。

 氷河期のような二百年を堪え忍び、乗り越えて、今ようやく春を迎えた。

 

「ありがとう、お父様。ずっと待っててくれて」

 

 お父様と改めて向き直ったラミィは、万感の思いを込めてお父様を抱き締める。お父様も、ラミィを抱き締め返してくれた。

 

「ありがとう」

 

 背中に回された手は、記憶のそれより小さかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「娘は……ラミィはとびっきりの優しい心をもつ人間だ」

「はい。この命に換えましても護り続けます」

「……よろしく頼む」

 

 

 

―――………

 

 

 

 春というのは別れの季節だ。

 春を迎えたユニーリアの空気は、清々しい。

 どこからか吹いた風に乗って、ツウィルの匂いが運ばれてきた。蜂蜜に優雅さを足したような香りが、体中を包んでくれる。

 

 天気は快晴。

 視界は良好。

 体調も良く、足取りに不安はない。

 

 これ以上ない、出立日和だ。

 

 

 

「それじゃ、そろそろ行くよ!」

 

 晴れ渡る空のようなにこやかな笑みを浮かべて、ラミィは手を振った。その後ろにぼたん、ねね、ポルカと続き、アロエが並ぶ。

 

「ああ」

 

 儚い微笑みで手を振り返す父親。その隣にいる兄は、潤んだ瞳を隠すように、そっぽを向いていた。

 

「なんだ……まぁ、困ったら帰ってこいよ」

「うん」

「あと、用事が無くても連絡しろよ」

「うん」

「それから、お酒はほどほどにしろよ」

「やだ」

「やだじゃない」

 

 ラミィは一瞬、カバンをもつ手に力を込めたが、おそらく中に酒が数本入っているのだろう。

 兄はそれを見て咎めるような視線をくれたものの、ラミィの無言の抵抗(高速首振り)を見て、諦めたように肩を竦めた。

 

「それから」

「なに? まだあるの?」

「元気でな」

「っ……ふーん。当たり前でしょ!」

 

 ラミィは胸を張ると共に、そう笑顔で言い放った。

 

 さて、このまま話していては日が暮れる。

 別れの挨拶もこれまでに、ラミィ達は下ろしていた荷物を背負った。

 

「次に会う時は、お土産沢山持ってくね!」

 

 何時になるかは分からないけど! とラミィはそう付け足して、真っ白なペレー帽をかぶりなおし、大きく手を振った。側に浮かぶだいふくも、その小さな手を目一杯振った。

 

「行ってらっしゃい」

「気を付けろよ!!」

 

 少し遠下がった彼我の距離。

 ラミィは後ろ向きに歩いたまま、叫んだ。

 

「お父様、お兄様、長生きしてね!! またね!!」

 

 少しずつ小さくなる彼女らの姿。

 時が経つにつれて点になっていくラミィ達。

 

「「…………」」

 

 父と兄の二人きり、屋敷の門の前、誰もいない地平線を、ずっとずっと見送った。

 

*1
パって思い付いた言葉で意味はない

*2
元ネタは『ああ~!水素の音ォ~!』と『わぁ〜皆よく気付いたねぇ!可愛くて知的でダンスも最高!完璧超人ここに集まれりってねぇ!アァ〜すくすく育った畏敬の念が総じて両手からこぼれ落ちていく音ぉ〜!マリンちゃんこんな仲間に囲まれて心がポッカポカの水面張力ギリギリィ〜!ナハッ あ〜浮いてる!あれ浮いてるよぉ〜!アウッ』である

*3
ズキューン!!




 デルタこと魔乃アロエ。
 早く大人になって老若男女問わず手玉にとれるようなサキュバスになりたい。歌姫になりたいってのは、オメガにも言えてない。半ば諦めかけてる。
 何か書いてる間によく分からなくなってしまった。キャラが崩れている気がしなくもないけど、幼少期はこんな感じかな。

 尾丸ポルカと桃鈴ねね
 屋台巡りから帰ってきたら、いつの間にか仲間が増えててびっくり。けれど秒で受け入れた。ただ、何故か既視感を感じている。

 獅白ぼたん
 アロエの仲間に入れてください云々は、急に言われてびっくりしてたから無言だった。

 二人の漫才を書くために色々検索したり、コメディ系の小説を漁ってみたりして会話文での漫才を考えていたけれど、結局書けなかった。更新が遅くなったのはこれが一因。
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