Mythの会話の英文に対応する和訳があるので、これを考慮したそれぞれの話し方も学習できて良かったです。
本来なら『天界学園』編や『桐生会』編等と分けて書くものですが、あまりにも展開が遅いし長いため、最終話まで辿り着くまでに力尽きる方が早いと判断し、上記二つを『運命の兆し』編と一つの章にまとめ、かつ『叛逆』編も同時に進めていく(予定)という暴挙に出ています。よって話が行ったり来たりしますし、年月もできるだけ飛ばしていきます。四の五の言ってられなくなりました。
今回久々の戦闘回です。ココが頑張ります。
ソコロは……うん、何かごめん。これから頑張って。
次の日の朝のホームルームで、ドミニ先生は二枚のプリントを配った。
「戦闘技能測定とダンジョン探索?」
二枚のプリントを見て、僕はそう呟いた。
「一ヶ月後の最初の金曜、土曜、日曜の三日間、サバイバル島にてダンジョン探索が行われます。それに伴い、各々戦闘能力を測定します。今日の放課後に行なわれる戦闘技能測定で測定した結果に伴い、ダンジョン探索のパーティーメンバーを決めます」
(ふぅ、良かった)
僕はほっと安堵の息を吐いた。
先生がパーティーメンバーを決めるなら、僕みたいな陰キャでも一人取り残される心配はない。
「ただ戦闘技能測定はペアで測定するので、一人二組を作っておいて下さい」
その一言で、教室中が俄かにざわめいた。
他のクラスメイトがウキウキと近くの人に小声で声をかけてる中、僕は白目を剥いていた。
だ、駄目だ。
ペアを作るだなんて無理だ。
きっと放課後僕は一人ぼっちで測定されるに違いない。
狼狽える
悲しき天使
ボッチかな
(某孤高天使)
「おほん、おほん」
「……」
「う、うんっ」
「…………」
「んん゛っ」
何やら隣のシャルロットお嬢様が咳払いしてる。
風邪でも引いたのかな? きっと僕と同じで昨日の夜楽しみで眠れなかったに違いない。それで寝不足で体調が悪いのかもしれない。
僕は落ち込んでいる顔(≡Δ≡)をシャルロットお嬢様に向けた。
「風邪引いたの?」
「違いますわ! わたくし、今お相手がいらっしゃらないの。貴女ならわたくしのペアになってもよろしくってよ?」
「えっ!? いいの!? ありがとう!!」
あぁ有難き神様仏様シャルロット様。
僕は内心で祈りを捧げた。
浮足立つ心地で僕は初めての授業を迎えた。
一時間目は『基礎魔法学』。先生は変わらずドミニ先生だ。
「基本的に魔法とは、己の魂から抽出した霊力あるいは魔力を糧とし望む現象をこの世に顕現させる―――」
ふむふむ。
「魔法の言葉や詠唱は各地で異なる。例えば火球を生みだす魔法でも、天界なら
ふむふむ。面白いね。
「―――同じ魔法でも威力は使い手の力量で左右されるが、単純に魔法陣の外周を大きくしたり増やすことでも威力を上げることができる。他にも、代償魔法である『天秤』は、代償を捧げることで威力を上げることができる。多大な代償を払えば、大いなる力を得られるということだ」
へーそうなんだ。天秤ね。
「―――ワザについて少し解説しよう。ワザは大きく分けて種族特有なモノとその人しか扱えないモノがある。前者は七歳の節目に発現するが、後者はそれより後に発現し、またイワレの蓄積による発現であるため多種多様なワザが発現しやすい。そして我々の種族特有のワザは『破魔』であり、魔子を元にする魔法を全て無効化する」
いや破魔強過ぎない?
僕ら天使は神の尖兵だからかな?
「―――ワザは己の力量次第で色々と発展応用ができる。先程挙げた破魔を、付与魔法のように現出……例えば槍に付与させれば、その槍は魔法を貫くことができる」
なるほどなるほど。
・
・
・
戦闘技能測定の会場は学園敷地内にある屋内訓練場。通称バトルスタジアム。全校生徒がどこからでも中心の舞台が見えるように座席は階段状に設計され、舞台からの流れ弾などが観覧席に当たらぬよう、結界を展開する魔道具が設置されている。
他にも舞台条件を変える魔道具も存在するが、今回は使用しないので割愛する。
とまぁ簡単な説明はこれで締めるとして、A組担任のドミニ・サント先生が集まった生徒達に声をかけた。
「まずこの舞台の周りを10周しろ。舞台は一周200m。つまり2キロ走れ。その後身体強化魔法を発動し、もう一度タイムを測定する。測定はペアで交互に走ってもらう。以上質問は? ……ないな。よし、今から十分後に開始する。それまで体を解しておけ」
解散、と続けられた号令に、かなたは早速シャルロットのところに駆け寄る。そして二人で念入りに準備体操を行った。
そろそろ開始かも、とドキドキしながら待っていると、ドミニ先生から声がかかった。
「それでは試験を始める。まずは最初に走る者、前へ並べ」
かなたは初めに走ることになったため、他の生徒達に交じるように歩を進め、所定の位置に並ぶ。
かなたの耳には、それぞれのペアを応援する声が聞こえてきた。その中には自身のペアのシャルロットの声もあった。
「頑張るんですわー!」
その応援にかなたは二へっと顔を弛ませた。そして号令がかかる。
うへへとシャルロットへに手を振っていたかなたは、ものの見事に出遅れた。
「なにやってるんですのー!!」
「ごめーん!!」
一番最後に走り出したものの、かなたは順調にペースを上げ、遂には先頭へと踊り出した。
かなたは辺境の島出身。野山に混じりて草を取りつつ御食のことに使いけりをしていた。加えて竜霊山での桐生ココと交流もあり、身体能力には自信がある。
最後まで誰にも抜かれることなくゴールを切り、測定結果は二分。天使の中ではだいぶ早い方である。
ふぅ、と息を整えながら皆の元に戻ると、クラスメイト達から口々に『天音さんはやーい』などと褒められ、かなたは『まぁ身体能力には自信あるので』と表面クールに見せながらも内心『フゥオオオオオ!!!』と興奮で地に足が着いてなかった。
「次の者、前へ並べ」
生徒達のざわめきを気にせず、ドミニ先生は淡々と号令をかける。かなたはシャルロットに激励の声を送り、シャルロットは意気揚々と所定の位置に並んだ。
「では、よーい、始め!!」
そして号令が飛んだ。
―――ここでひとつ、天使について少し解説しよう。
天使の階級は上から順に、熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、天使であるが、これは身体機能や含有霊子量、その他能力のレベルもこれに準ずる。
シャルロットはこのうち権天使である。ゆえに身体能力は天音かなたなどの天使より上位に存在する。
プリンシ・シャルロットの測定結果は、驚異の一分台を叩き出した。
「おーほっほっほー! これが権天使プリンシ・シャルロットの実力ですわぁー!!!」
高らかに笑う彼女の、お嬢様節が炸裂した。ついでに金髪縦ロールがびよーんと跳ねた。
しかし褒め称えてくれる人は召使(仮)の天音かなたと友人(仮)のアーク・ルミニーの二人だけだった。
「むきー! なんなんですの!!」
「まぁシャルロットお嬢様って権天使だからねー」
さもありなんと宥めているうちに、ドミニ先生から二回目の声がかかった。次は身体強化魔法を使用しての測定だ。
(ふふーん! 僕これ自信あるんだぁー!)
内心ふんぞり返る天音かなた。ぶっちゃけあまり魔法を勉強してこなかったので、使用頻度が高いこの身体強化魔法と錬金術がかなたの自信がある技術である。
「それでは位置について、用意―――」
瞬間、クラスメイト達の身体から青色の光が立ち昇る。かなたの身体からも、蛍の光のような燐光が放たれた。
「―――始め!」
ぐっと。
足に力を込め、強く地面を蹴った。
―――身体強化魔法は、身体能力を一定のレベルまで引き上げるものではない。元の能力に倍率をかけるものだ。
だからこそ、元のレベルが高ければ高い程、魔法使用時にはより高い倍率を身体にかけることができる。そしてより洗練された身体強化魔法の使い手は、それこそ残像すら残さず移動することすら可能。
天音かなたは、その領域に足を踏み入れていた。
最下位の
かなたが飛び出したその瞬間、音の壁を突破した。
周囲に波紋するソニックブーム。
間近にいた生徒達は浮遊感を覚え、身体の自由を瞬間的に失い、軒並み転倒した。
彼女達が立ち上がる前に、かなたは二キロを走り終えてしまった。
記録は六秒。文句なしのトップである。
「素晴らしい身体強化魔法です。音速を越えられる人は中々いません。誇らしく思いなさい」
「あ、ありがとうございます!!」
うひょぉぉおおお!!!
天音かなたは褒められたあまり、地に足が着いてない。
クラスメイト達からの称賛の声も相まって、天音かなたはフワァ……と浮き出し、文字通り地に足が着いてない。
(あぁ、神様。僕は今、天国にいます)
胸の前で手を組む様は、まるで敬嬪なる信者のようで。
その姿で浮き上がる様は、まるで天に召される死者のようだった。
そしてそのまま天上へと昇っていくかと思われたが。
「天音かなたさん。興奮したら挙動不審になる点を直しなさい」
直ぐ様ドミニ先生の手によって引き戻された。
「顔もだらしないから直しなさい」
うへへへっ、うへへへへへへ!! ヌヘヘヘヘヘ!!!
「直しなさい」
………。
……………。
ニチャア(粘つく笑み)。
・
・
・
天音かなたのニチャつく笑みが元に戻る頃には、測定は次の段階に進んでいた。
舞台には三体のマネキンが設置されている。
どうやらあのマネキンを破壊するまで魔法を撃ち込むらしい。
「ファイアーボール!」
「アースニードル!」
「ライトニング!」
クラスメイト達が続々と測定を終わらせていく中、かなたはどうしようと頭を捻る。一応魔法は使えるには使えるが、自信はない。
自信無くてもやれるだけやった方が良いのかと思考を練るも、他のクラスメイト達は大抵一発でマネキンを破壊している。なら自分も一発で仕留めたいところ。
(う〜ん………どうしよ)
まぁそう唸りつつも、答えはでてる。
かなたは一つ頷いたあと、それを実行することにした。
「次、天音かなたさん」
名前を呼ばれ、マネキンの十メートル手前に立つ。
そして錬金構築式を展開し、舞台上に強固な石槍を生やした。
それをポキリと折って手にしたかなたは、身体強化魔法を発動しつつ『いっけぇええええ!!!』とぶん投げる。
甲高い風切音が鳴るやいなや、直ぐに地を揺らすような爆音が轟く。
槍は見事にマネキンを破壊し、勢い余ってその後ろの結界にぶつかり大きく揺らした。
「しゃあ!」
やはり力。
力はすべてを解決する。
脳筋プレーを魅せたかなたは自信満々な顔でドミニ先生からの講評を待つ。
しかし返ってきた言葉は、想像とは反対の『やり直し』の一言だった。
「なんでですか!? 僕ちゃんとマネキン壊しました!!」
「錬金術と身体強化魔法は良しとしますが、マネキンを破壊したのは純然たる魔法ではありません。あなたの膂力によるものです。よってやり直しです」
「はい……」
正論を突き付けられ、かなたはしゅん、と肩を落とす。
そのままもう一度立ち位置に戻り、深呼吸して意識を切り替えたかなたは、ちゃんとした魔法を行使すべく詠唱を始めた。
「天啓・霹靂・裁きの
掌から現出した魔法陣から眩い雷光が飛び出し、残光を残しながら目標のマネキンに直撃、炎上。
「やったあ!! 今度はどうですか!!?」
「良いでしょう。下がりなさい」
それを一部始終しっかりと見ていたドミニ先生は、手元の採点表に天音かなたの得点を書き、諸手を上げて喜ぶかなたを下がらせた。
そして案の定、かなたは嬉しさで物理的に舞い上がっていた。
バカか煙なのかもしれない*1。
―――………
自称げぼカワドラゴンこと、桐生ココには悩みのタネがあった。
それは我が息子である桐生ソコロのこと。
ソコロは、お腹が空いたりしたら泣き声を上げるものの、基本的にその時以外喋らないのだ。
ソコロは1歳はもう迎えている筈なので、喃語はもう覚えててもいい筈。だというのに、言葉を全く話さないのだ。
不安になって(かなたが)調べてみたところ、耳が聴こえない可能性や知的障害の可能性もあるそうだ。
他にもコミュニケーションを取ろうとする気持ちが芽生えてない可能性もあるということで、ココはできるだけ話しかけたり、手と手を取ってボディーランゲージを試みたりと色々試してみたものの、効果は今ひとつ。
ココは気分が沈んだ。ヤミヤミドラゴンになった。
きっと産まれてから育児放棄されていたに違いないと確信した。
そして『まったくこんなに目に入れても痛くない程可愛いソコを捨てるだなんて頭ゲボってんじゃねぇかァ!?』と想像する両親へとドラゴンブレスを浴びせてやった。汚物は焼却するものである。
さて話は戻るが、ウェスタに行って病院で診てもらった方が良いと思いつつも、もしソコの真の両親にでもバッタリ出会ったら目も当てられない。ココはそれが街中であろうとドラゴンブレスをぶっ放す自信があった。
ということでウェスタに行くことは絶対無い。そして他の街や国の医療機関に赴く事もない。これに関しては桐生ココ自体の問題があった。
実は桐生ココは異世界―――ウツシヨからやって来た異邦人ならぬ異邦ドラゴン。カクリヨのドラゴンは人間になれないが、ココはできるため、万が一にもココの正体がドラゴンとバレてしまえば、ひと騒動起きてしまう可能性があった。そうなればソコロは泣いてしまうだろう。ココはソコロを泣かせたくなかった。
泣かすなら
殺てまうぞコラ
ホトトギス
殺意が甚だしい。『ソコの為ならわたし魔王すら倒しちゃうかもしれない』とはココの言葉だ。どこかライトノベルのタイトルじみた言葉だが、それはさて置き。
とまぁそういう経緯があって、ソコロを病院に連れて行くことができなかった。
しかし気付いてしまった。
カクリヨが駄目ならウツシヨに行けば良いじゃない、と。
マリー・ドラゴネットの誕生だ。
思い立ったが吉日精神で、『実家に帰らせていただきます』という誤解が生まれそうな書き置きを残し、ココは色々と持ち物を持ってウツシヨへの扉を開いた。
「開けー、ゴマっ!」
そんな、気の抜けるような言葉と共に。
・
・
・
ここは
扉を抜けた先は、深い山の中だった。
ベタベタと肌に纏わりつくような濃い霧が、辺り一面を覆い尽くし、月光を散らして視界は良好とは言えない。
それでも桐生ココにとっては故郷の空気。伸びをしつつ深く息を吸い、吐いた。
「うぅんんん、久しぶりですねー! シャバの空気は!!」
別に牢屋にぶち込まれてた訳では無いが、ノリでそう続けた。
「うしっ、無料案内所行くかーっ!」*2
もちろん行くとこは実家である。安心してほしい。
桐生ソコロを連れて舞い降りたのは、魑魅魍魎が跋扈する、神室町。
賑やかな活気に溢れ、そこらには無職、ニート、チンピラ、極道、殴られ屋にさまよう病人などなどと、変人奇人が我が物顔で闊歩している。そして海にはエスパー伊東が泳いでる。
ゆえに治安はすこぶる悪い。
通りを歩けばチンピラに喧嘩をふっかけられ、ちょいとぶつかれば殴り合いの喧嘩に発展する。
流血沙汰になるのは日常茶飯事だが、何故か死ぬことはない。
例え武器が刀だろうと拳銃たろうと釘バットだろうと、はたまたマグロ*3だろうと、神室町の住人は決して死なない。加えて命に危機が迫ると金を置いて逃げる。また、金の代わりにスタミナミンなどを渡してくるヤクザもいる。
「おうどこに目をつけてんだオラァ!!?」
「顔面ぱーんちッ☆」
「ブベラッ!!?」
チャリーン! 桐生ココは495円手に入れた!
「けっ! 最低賃金にも満たねぇカネしか持ってねぇのかよ!! 働け社会のドブカスネズミが!! 息クセェんだよ!!」
といういざこざが複数回ありながらも、ココは目的地に到着した。
乱雑に建てられたビル群の中に、ポッカリと開かれた土地。
そこに鎮座するは見るも憚れる極道の屋敷。
「おうネーちゃん、怪我したく無かったらとっとと帰んな」
明らかに堅気な輩ではない門番に凄まれても、桐生ココは一縷の怯えも見せずにシカトをかまし、あろうことか門を蹴り放った。
「カチコミじゃぁああああ!!!!」
「テメェ覚悟できてんだろうなァアア!!!?」
言っておくが、背中にはソコロがいる。
そんな状態でカチコミかければソコロは当然泣くことになる。
「てめぇらなにうちの息子を泣かしてんだぁああ!!?」
十割十分自分が泣かせたくせに、ドスを懐から取り出した門番へと責任を押し付け、更にはその長い足を門番の鳩尾へとめり込ませた。
「弱っちいなぁお前!!」
綺麗に鳩尾に入ったせいで息が上手くできずに地面に転がる門番へと、ココはそう吐き捨てた。
丁度その時、屋敷からドタドタと慌ただしい足音が響き、玄関を含めた庭側の引き戸が開かれた。そしてその全てからゴリッゴリの厳つい野郎共が顔を出す。
中でも一際目立つ男がいた。
体中の大小様々な刀傷を見せつけるように上裸で、更に龍の入墨が巻き付くように彫られていた。
加えて片目に大きな刀傷が刻まれて隻眼となってる男――親分は、その凶悪なツラを愉快そうに歪めていた。
「す、すみません親分。女の侵入を許してしまいやした」
「俺はケツの穴の小せぇ男じゃねえよ。気にすんな」
「流石親分、ケツの穴ガッバガバァ!」
「テメェ親分に向かって「良いって」はっ」
門番は今にも射殺さんばかりの視線をココに向けたが、ココは『いやん熱視線アッツアツぅ!』と意に介さなかった。
一方、親分は威厳を見せつけるようにゆっくりと歩み出し、ココの前に止まった。
「また随分と派手な帰宅じゃねェか。なぁ我が娘よ」
「ヘッ、まだくたばってなかったんか。厄介オヤジ」
―――極道貫く野郎共。
荒くれ者を束ねる長は、名を桐生リョウマと申す者。
他ならぬ桐生ココの父親である。
ここは桐生組。
桐生ココの実家であった。
「で、誰だそのガキは? 見るからにお前が拵えた子供じゃねえだろ」
「拾ったんだよ」
「へぇ」
先程の喧騒とは打って変わって物静かな和室に娘と父の二人きり。
煙管から口を離して白煙を燻らせた桐生リョウマは、煙管の先でソコロを差した。
「さっきから何も話さねぇ上に表情も変わらねぇ。泣くこと以外何もできんのか? 厄介なモンを拾ったな」
「うるせぇ、うちのソコを厄介者扱いすんな。その白髪燃やし尽くすぞ」
「俺とお前じゃ格が違う。お前程度の炎じゃ一本足りとも燃えやしない。最低でも神格を得てから物を語れ。……それで、一体全体何のために帰ってきた? ソイツが関わってるのか?」
「おう。オヤジの能力でソコロを診てくれ。なんか病気なら治して欲しいんだ」
「あ゛?」
ピクリと、リョウマの片眉が動いた。
逆鱗にでも触れたかのように、龍の荒々しいエネルギーが部屋の中を駆け回り、何処からともなく風が吹き込む。
「龍にすら成っとらん若造が、舐めた口を効くんじゃねぇよ!!!」
ビリビリと痺れるような威圧がリョウマから放たれた。
外からひっそりと中を窺っていた野郎共は、巻き込まれたらアカンと我先に逃げていく。
「神龍*4のクセして娘の願い一つすら叶えてやれねぇのかよ!!」
「俺が願いを叶えて、一体何の利があるってんだ!! タダでやる程俺の力は安くねェんだ!!」
ダァンッと、リョウマの振り下ろされた拳が卓袱台を真っ二つに割り、破片が飛び散る。
「ソイツを拾って息子としたのなら、それの面倒を見るのが親の役目。自分でどうにかしてみせろ。誰かに頼るなんぞ恥を知れ。竜の誇りが地に落ちる」
「わたしはそれが嫌だから家を出たんだ!! 誰かに頼って何が悪い! 竜の誇りなんぞでこの心は満たされない!!」
「竜の誇りを馬鹿にするなァア!!」
リョウマの一つしか無い左目に殺気が籠もる。そしてその目が妖しい光を放ち――
咄嗟に、ココは背後へと飛ぶ。
それと同時に、グシャリとココがほんの数瞬前までいた場所に穴が空いた。
一玉の冷や汗を頬に浮かべるココはまだ空中。着地まであと一秒はかかる。
リョウマの力の前では、それは命取りになりかねないもの。
案の定、避けられたリョウマはもう一度瞳を瞬かせた。
瞬間、ココの身を襲う知覚不可能な攻撃。
ココは部屋の壁を何枚も突き破り、庭へと吹き飛ぶ。
それでも宙で勢いを落として着地はしっかりと決めるのは流石と言うべきか。
しかしリョウマの視界から外れたことに安堵を覚えてしまったのだろう。その隙を狙われたココは地面に這い蹲ることになった。
「クソがァァ!!」
上に圧し掛かる重力。抵抗しようとも口を開くのが精一杯。
その不様さを嗤うように、リョウマは嘲笑を顔に浮かべながら縁側に姿を表した。
「ハハッ、結局口だけじゃねェか」
「うるせぇ!!」
「手も足も出ずに這い蹲り、舌を回すことしかできない癖によく吼える。お前もしや竜でなく犬だったか? ――ぐっ」
顔面目掛けて飛んできたココのブレスを、リョウマは思わず受けてしまう。
格が違うためにダメージは然程無い。しかし不意を付かれたのは事実。ココは身に圧しかかる重力が緩んだのを逃さず、抜け出してみせた。
そしてこれよがしに中指を立てた。それも両指だ。ダブルフ◯ッキンポーズだ。オマケにベロも出しといた。
「へっ、犬が炎吐けるかバーカ。そんなに長く生きてっから耄碌するんだよ。引導渡してやろうか」
「…………言いだろう。俺が直々に偉大なる竜の誇りを叩き込んでやる」
「あたしが勝ったらソコロを治してもらうし桐生会の会長の座も貰うからな」
「賭けとして成り立っとらん。……そうだな、お前の子供をこっちで預からせてもらう。うちのヒットマンとして育ててやる。血も涙もない殺戮人形にな」
「上等だぁああ!!!」
ひゅうううううっと。
両者の間を夜風が吹き抜ける。
二人の様子を遠くから見ていた部下達が『今だ!』とばかりに周辺へと結界を張った。何重にも重ね掛けしたものだが、これで大丈夫かと問われれば首を傾けざるを得ない。
「行くぞォオオ!!」
「来てみやがれぇええ!!」
親と子。
龍と竜。
戦力差は底が見えない程に深い。
―――先に動いたのは桐生リョウマだった。
大きく息を吸い込み、前胸部が大きく膨らむ。
「
カァァァッと。
まるで稲妻が目の前に落ちたような白さが視界を埋め尽くし、鉄すら蒸発しそうな高温のプラズマがその口から放たれた。
「
常人なら認識する前に終わるが、ココはその技を予見していたかのように、口から大量の水を吐いた。
プラズマに対し、水。結果は簡単。
両者の中間地点で衝突した二つの
耳を劈く轟音。
全身がバラバラになりそうな程の衝撃。
ドラゴンだから耐えられた爆発。並大抵の者では耐え切れるものではない。
「五百年振りに帰ってきた割りに、成長してねェなァココ!! 俺に勝算があるから喧嘩を吹っかけたンじゃねェのかよォ!!?」
湯気のように立ち昇る白煙で、両者の姿は互いに見えない。
リョウマは、その地に轟くような声を張り上げた。
しかし、数秒待ってもココからの返事はない。
さては機を窺っているなとリョウマは訝しむ。
その刹那、視界の端で白煙が奇妙な流れを生じたのを捉えた。
「あめェんだよ!!」
案の定、そこから飛び上がって来たココをリョウマは振り絞った拳で迎え撃つ。
「龍鱗!!」
「竜鱗!!」
両者の腕が一時的に鱗で覆われる。
リョウマの腕には龍の鱗が生え、爪が龍のように鋭く伸びる。
ココの腕には竜の鱗が生え、爪が竜のように変化する。
一時的な部分
「「ハァァアアアアアア!!!」」
ココの勢いが乗った拳と、リョウマの腰の入った拳が、ガゴンッッと人の拳から出たとは思えない硬質な音を立ててぶつかり合う。
ココの体重と重力が合わさった一撃は見かけより重い。
しかし踏ん張りが効かず、宙へと弾き飛ばされた。
直後、リョウマの左目が青白い輝きを灯す。
「空中なら避けようがねェよなぁ!!
「っ、
雷と重力を合わせた雷重に対し、ココは殆ど全身を竜化させる。人間形態でありながらも、肌は竜の鱗に覆われ、瞳孔は爬虫類のように縦に裂けている。尻から生える尻尾もその太さと長さを増していた。
「ぐぅっ」
ドゴォォォオオオンンン!!!
竜憑が発動したと同時に浮遊していた体が庭の砂利へと叩き付けられた。
ビキビキと地面が割れる中、ココは背中を丸め、両腕をクロスして身を襲う雷撃と重力を耐える。
「容易く地面に這い蹲るなんぞ、竜の誇りが穢れるなァ!! お前も竜ならその脚で地面を踏み締めろ!!」
「だから竜の誇りなんぞに………興味は無いって言ってんだろ!!」
啖呵を叫ぶように吐き捨て、ココはポツリと漏らすように『
それを知らぬリョウマは上空へと右手を上げ、追撃体勢に入った。
「
桐生屋敷の上空に、突如として黒い雲が現れる。
加えて、夜天に輝く星々の光と月の輝きが、闇に染まっていく。神室町のビルのネオンがジジジ……と不安定に揺れ、プツンと消える。行き交う喧騒も、ひっそりと息を潜めるかのようにピタリと止まる。
まるで、何か恐ろしいモノが直ぐ側にいるかのように。
まるで、心臓を握り締められているかのように。
町が、空が、純黒の闇に塗りつぶされて、迫って来る。
怒らせてはいけないものを怒らせた、その罰が。
「龍の裁きよ――」
空間が軋み、揺れ、塵が舞い上がり、地面を転がる石ころが電流を帯びて弾け散る。
頭上に漂う黒雲から、今か今かと暴れ出しそうな金色の光が漏れ出した。
「――下れ」
詞が喉を震わしたのと同時に、リョウマは雷重に今もなお囚われてるココを見た。そして驚いた。
ココは、不敵な笑みを浮かべていた。
刹那、その笑みは世界を染めた蒼白い龍が掻き消した。
・
・
・
結果から言えば、桐生ココの敗北で幕は閉じた。
池面を深く穿った先で、血を流し白目を剥く娘をリョウマは部下に命じて謹慎部屋に放り込んだ。
(一体どんな手を使った? 龍の裁きで手足の欠損すらも無ェなんてあり得ねェ……。本当に俺に勝てる算段があったと言うのか?)
謎は解けぬ。
本人が口を割らない限り。
(あるいは……既に龍へと成ってたのか? それどころか、神格も得ていた?)
そこまで考えて、いやありえないと頭を振った。
桐生リョウマ自身が何千年も掛けて達成したものを、たかが三千年程度しか生きてない若造ができる筈がない。
(どうやら
そう確信付けて、リョウマは無意識に隻眼である右目を擦る。
敗北の味は、筆舌に尽くし難い程に苦い。それも背中を向けて逃走したともなれば、想像を絶する苦さである。
この時に、竜の誇りはリョウマの中から喪われた。
だからこそ、竜の誇りに固執する。
もう二度と竜の誇りを喪わないように。
一服して一息いれたリョウマは早速、ソコロに魔法を施そうとした。ココとの契約通りソコロを殺し屋に仕立てるためだ。
リョウマがざっと見た感じ、魂の純度は高い。少々青みが混じっているが、大部分は純粋な銀。ならば強い戦闘員になれると期待できた。
「さて」
かける魔法は龍の神秘。神に至った龍が扱える秘技。
それは魂に作用して己の従属へと根本から創り変える魔法。名を竜星魔法。
リョウマはソコロの脳と心臓に手を当てた。
「『開門』」
――――ガシャン
その瞬間、リョウマは深い海の底にいるような冷たい息苦しさを覚えた。
なんだ、これはとリョウマは思う。
明らかに龍の神秘が通じてない。通じないなどあり得ないのに、その不可能が目の前で起こっている。
龍の門が開かない。門が鎖で縛られている。
その鎖も外せない。何か未知な存在が関与している。
神であるリョウマでさえも通じないナニかが、ソコロの魂を保護している。まるで、我が子を守る母親のように。
「ッは………」
瞬間、何か巨大な存在に見られた気がした。
見られた、というだけでリョウマの背中に冷や汗が幾筋も伝う。
もうこれ以上続ける気にはなれない。リョウマは直ぐ様両手をソコロから外した。
「……お前一体、――――何者だ?」
ソコロはただ、翡翠の瞳を瞬かせた。
天音かなた
次回ダンジョン探索。目指せナンバーワン! 1位の報酬は神器だぞ!!
桐生ココ
これから数年はホロアースには戻れない(予定)。
ソコロがヒットマンにされる未来が決まった。
桐生ソコロ
頑張れ未来のヒットマン。
代償魔法『天秤』
内容はそのまま某呪術界隈の縛りや某狩人の制約と誓約と同じ。ただ戦闘でしか使えない。
竜魔法
竜が好んで使う魔法。
神に至った龍が使える魔法
自然の法則を手足のように操れる。例:雷重(雷+重力)。
龍ならば自然の法則は少しだけ。雷重のように組み合わせたり同時に発動することはできない。
竜の誇り
大雑把に言うと、弱さを見せること全て。
竜ならば竜あれかし。そこらの獣のような真似事をするな。
高潔な死を迎えるべし。
ということ。とはいえ、全ての竜がこの信条ではなく、孤高で生きることこそが至高と考えてる竜もいたり、努力することは弱者のすることという認識の竜もいる。
リョウマの魔法
神に至ったことにより、魂に作用する魔法が使えるようになった。
開門は登竜門からもじった。
ココの魔法
イヌホオズキの花言葉は「真実、嘘つき」。詳しくはいずれ。