白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 失礼、ちょっと留学してた関係で投稿遅れました。
 今回いつもより文字数は少なめです(9300文字)。次々回でこの編は終わりかな。その後はAdventの話に移るつもりです。Advenの話が終わったら本格的にソコロに着目して話を書くつもり。面倒なので時間は一気に飛ばします。
 最近葬送のフリーレンにハマってしまった。そのうちこっちの二次小説も書き始めてしまうかも。

 4月22日ガブリエルの発言の、四大天使→六大天使に訂正


第29話 三位一体の天使

 目が覚めればそこは、知らない天井だった。

 天音かなたは、ぼんやりとした意識の中、辺りをぐるりと見渡した。

 自身が横たわるベッドをコの字型で囲む水色のカーテン。唯一開いてる足の方向からは、ゴチャゴチャと積まれた薬品と、何故かシュークリームが何十個も積まれた机が見えた。

 

 そんな奇妙な山の中から、ヒョコリと水色の髪をした天使が顔を出す。何か書類作業でも行っていたのか、伸びをした手にはペンが握られていた。

 

「んぅ〜……疲れたぁ………って、あらぁ?」

 

 艶やかで色気のある声だ。そんな声の主がかなたの方を向いた。かなたが目を覚ましていると気付くや否や、慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「(世の中は不条理と不公平で満ちている……)」

 

 白衣の下に纏うセーターの中、窮屈そうに暴れ回る脂肪の塊がかなたの脳を焼いた。

 あれは今まで見た人の中で一番デカイ。

 かなたはこの天使のことをえっちなねーちゃんと心の中で呼ぶ事にした。

 

「おはようございますぅ。お体に何か違和感感じますぅ?」

「いえ゛」

「あら、喉がおかしいわね。水持ってくるわね〜」

 

 かなたの声が掠れていたため、天使は室内のウォーターサーバーから水を持ってきてかなたに渡した。

 かなたは「(甘い匂いするなこの人。生クリーム?)」と思いながら水を口に含む。飴玉を転がすように口の中で数秒置いて、ゆっくり飲み込む。それを二度三度と繰り返して、再び口を開いた。

 

「あ゛の」

「あら? まだおかしいわねぇ〜。治りきってなかったのかしらぁ? ちょっとごめんなさいね〜」

 

 カイロでも握ってたのかと思う程暖かい人差し指と中指がかなたの喉に触れる。

 

「『痛いの痛いの飛んでけ〜』」

 

 そんな声と共に喉が光る。淡い緑色の発光が数秒続き、穏やかに消える。治癒魔法とは少し異なったものだった。この人のワザだろうかとかなたは思う。

 

「あ、あ、あー」

「ん、大丈夫そうねぇ」

「ありがとうございます」

「かなたちゃんがダンジョンから出てきた後は、覚えますぅ?」

 

 あの時は体力も霊力もスッカラカンな状態で、気力だけで動いていたのだ。転移魔法を起動した直後に視界が暗くなり、地面に倒れたかどうかさえ定かでは無い。

 かなたはフリフリと首を横に振った。

 

「そうだよねぇ〜」

「(じゃあなんで訊いたん?)」

「かなたちゃんの怪我、本当に酷かったのよ〜。両足なんてもう……きゃぁー! って感じでね〜。もう目も当てられなくてぇ、先生頑張って治したのよ〜。それでぇ、調子はどう?」

 

 おおっ、とかなたは驚く。焼失していた両足の爪先の感覚は以前(聖人の時)と変わらず、肺に痛みも感じない。

 かなたは深く頭を下げた。

 

「治していただきありがとうございます。こんなに綺麗に治るなんて驚きました」

「先生はこう見えて、六大天使がひとり、『回帰』のラファエルですからー!」

 

 えっへん! と胸を張った拍子にドタンコと跳ねた胸部に、反射的に憎しみを覚えながらも、かなたは不思議に思ったことを尋ねた。

 

「あれ、でも聞いた話だとラファエル様はスレンダーな体型だって……」

 

 かなたの視線が下に移ってたのは言うまでも無い。

 そんな疑問に対し、えっちなねーちゃんことラファエルは恥ずかしそうに両手で頬を押さえた。

 

「太っちゃったのぉー!」

 

 ムチムチな太ももを組みながら、くねくねと恥ずかしそうに体を捻るラファエルは、思い出したかのようにかなたの耳元に顔を寄せて、『これナイショね。シーだよ?』と吐息まじりの声で囁いた。

 

 うむ。やはりえっちなねーちゃんである。

 かなたはそう結論づけた。

 

「ほらぁ、ここって食事無料じゃない? だから、ねっ?」

 

 ウインクと共に飛ばされた言葉にかなたは深く頷き、はっと閃く。

 

「(つまり僕もそんな体型になれる……ってこと!?)」

 

 目指せボンッキュッボン!

 かなたはウヒヒと心の中で笑みを溢した。

 だが白薔薇寮の寮長――ミュウがロリ体型な時点で察するべきである。

 

「それはそうと、かなたちゃんってば三日眠ってたのよ〜。友達が心配してたから後で元気な顔を見せてあげてねぇ〜」

「はい」

「あと、かなたちゃんから妙に神聖な気配感じるんだけどぉ〜、何でか分かるぅ?」

「えーっと、セレス・ファウナ様に〝目覚め〟と〝禊〟を施されまして、仙人になったから……ですかね?」

 

 かなたからそんな宣言をされたラファエルは、それはもう面白い程に驚愕していた。

 目をまんまるに見開いて硬直したかと思えば、『うぇぇえええええ!!?!?!??』と暴走トラックにでも轢かれたのかと思う程の勢いで後方にぶっ飛び、『ぐえっ』と壁に激突した。ついでにその衝撃で机に積まれていた薬品とシュークリームの山は土砂崩れを起こした。復旧には時間がかかりそうである。

 

「痛ててて、たんこぶできたかなぁ?」

 

 後頭部を擦り『痛いの痛いの飛んでけ〜』と治したラファエルは、『(おもしれー女)』と評価を改めたかなたの前の椅子に再び座り、一言。

 

「マジで?」

「マジで」

「うわぁ~……かなたちゃんスッゴイ経験したねぇ。先生聞いたことないよぉそんな話。あ、拝んでも良い? ご利益ありそう」

「いやそんな二礼二拍手一礼されても」

「でっっっかいシュークリームが食べられますように!」

「その願いは我の力を越えている……」

「そこをどうにか! もう夢から醒めて枕を齧ってるなんてひもじい思いはしたくないんですぅ!!」

 

 うむ。やはりおもしれー女である。

 かなたはそう付け足した。

 

 

 閑話休題。

 

 

「あっ、そうそう。かなたちゃんが持ってた核の質が規格外に良かったからぁ、かなたちゃんのグループが一位になったのよ〜。おめでとうぉ〜」

「ええっ本当ですか!? よっしゃー!」

「優勝者発表とか一連のイベントはもう最終日に終わっちゃってるからぁ、賞品の神器を選ぶのはもうちょお〜っと待っててねぇ。ガブちゃんがそのうち連絡してくれると思うわぁ〜」

「ガブちゃん?」

「ガブリエルのことよぉ〜」

「え゛!?」

 

 六大天使の一人の名前が飛び出たことで、かなたが驚いて固まる間にも、ラファエルはペラペラと喋り出す。

 

「普段はウラヌスの神殿に務めてるんだけど、神器に関することはミネルヴァ*1まで出張ってくるのぉ〜。神器はとんでもなく強力なものだからね、流石にそこらの天使には任せられないからねぇ〜」

 

 元々ミカエルの仕事だったんだけどねー、といらない情報も付け加えた。

 

「たぶん学園長のウリちゃんからも連絡来ると思うわぁ。それか授業の一環として行われるかもねぇ〜」

 

 という言葉があった数十分後、天音かなたの姿は学長室にあった。学園長のウリエルが直々に迎えに来たのだ。

 

「(いくら何でも早すぎだろ!! まだ一時間も経ってないんだが!!?)」

 

 体調はラファエルの治療によって万全とは言え、緊張による手足の震えは止まらない。

 かなたは緊張で口の中がパサパサに乾いてるのを自覚した。

 

 学長室には学園長のウリエルに加えて、二人の天使の姿があった。緑色の髪と目をした天使は、田舎モンのかなたも知ってる『神言』ガブリエル。だがもう一人の天使は全く分からなかった。

 

「まずは謝罪を。いきなり連れてきてすまなかった。そして優勝おめでとう。素晴らしい成果を挙げたな」

「あっいえ」

「それに、『仙人』になったそうだな。念力は鍛えれば強力な武器になる。後でアリエルに修行を付けさせよう」

「あっども」

 

 あっあっと吃っててヤバイと思うかなたに、ウリエルは本題を告げる。

 

「君のパーティーの二人は既に神器を選んだ。君は説明を受けてから選ぶこととなる」

「はい」

 

 ウリエルがガブリエルに視線を送り、それを合図にガブリエルが腰に付けていた巾着を外し、掌に乗せた。

 

「この巾着は神器だ。内部空間を拡張かつ時間の流れを収容物それぞれに対して変更できる」

「おぉ」

 

 その権能が真実であるとでも示すかのように、ガブリエルは中から剣や弓矢、盾、拳銃などを取り出してみせた。しかもこれは全て神器だという。

 

「神器は押し並べて強力だ。規格外にな。そして神器には色んな種類がある。例えば、コピア島にある豊穣の角は土壌を豊かにし、動植物をより大きく育たせる権能がある。あとは天界を守る神の盾(アイギス)巨人の瞳(アルゴス)も最も強力な神器のうちの一つだ。権能は明かせないがな」

 

 そこで言葉を切ったガブリエルは、ずっと静かに佇んでいた天使に目をやった。

 

「神器はなにも物だけじゃない。生物だって神器となる。この天使は生きる神器。三位一体の天使だ」

 

 空を濃縮したような澄んだ青色の瞳がゆっくりと瞬き、三位一体の天使が身長差を埋めるように少し頭を上げて、かなたへと口を開く。

 

「告。我々はデウス・エクス・マキナ」

 

 その声は三重に重なって聞こえた。まるで三人の人間が同時に喋っているかのようだった。

 生きている神器を目の当たりにして、かなたは驚愕や称賛よりも、憐憫の情を抱いた。

 

 一体何を目的にこの娘達は産まれてきたのか。

 神器という生物の類から外れた存在としてこの世に生まれ、誰かに使われる為だけを望まれて誕生した。

 

「(可哀想……)」

 

 何となく手を伸ばしてみれば、三位一体の天使は何の抵抗もすることなくかなたの手を受け入れ、頬を撫でられる。

 

「(暖かい。生きてる温度がする……)……この娘にします」

 

 無意識にそんな言葉が出た。本当はめっちゃ力が出る神器にしようと思っていたのに、そんな言葉が口を衝いて出た。

 ウリエルとガブリエルは驚いたように目を見開き、少し考えるような素振りを見せて、頷いた。

 

「良いだろう。天音かなたの神器は、デウス・エクス・マキナとする。マスター権限の一部を天音かなたに移せ」

「了。……完了しました。個体名天音かなた。以降、あなたの支配下に移ります」

 

 かなたの目を見つめる彼女の瞳は、生物とはとても思えない程の無機質なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デウス・エクス・マキナの手を繋ぎながら保健室に戻ったかなたは、ラファエルから驚きの声を浴びせられた。詳細を話すかなたの隣で、話題の中心人物のデウス・エクス・マキナは人形のようにじっとしていた。

 

「―――そういう訳なのねぇ。………でもよくガブリエルは許可したねぇ。(予言が絡んでるのかしら?)」

「あの、この子は何を食べるんですか? 普通に食べ物? それとも電気とか霊力とかですか?」

「その全てで活動を維持してるわよぉ。……ちょっとお話ししちゃうけど、デウス・エクス・マキナはとある神への兵器として創られたから、戦闘中でも活動できるように霊力や魔力でも動けるようにできてるの」

 

 かなたの耳に口を近づけてコソコソ話をするラファエルは、『これもオフレコね』と続ける。

 

「デウス・エクス・マキナはデウスとエクスとマキナの三人が存在していて、どれも本体なの。だから一人でも生き残っていれば直ぐに他の二人は復活するの」

「……なるほど」

「まぁ詳しくは本人に聞いてみてねぇ」

「はい」

 

 ひとまず、ラファエルの言う通りデウス・エクス・マキナに訊ねることにした。

 

「了。機体情報を提示します」

「おっ、何か出てきた」

 

 デウス・エクス・マキナの片目から光が放たれ、プロジェクターのように空間に文字が映し出された。

 デウス、エクス、マキナの三人分の身長体重、取得魔法数及びその種類、霊力量、位置情報などの情報が記されていた。それらによると、目の前の天使はデウスらしい。

 取扱説明書のようだと思いつつ眺めていると、ひとつ、かなたの目を引くものがあった。

 

「あれ? ヌト様が第一主人(プライマリーマスター)じゃないんだ」

 

 ヌトは天界を治める天空神であり、ウラヌスの神殿の主でもある。そんな方がデウス・エクス・マキナの本来の持ち主ではないことにかなたは疑問を抱いた。

 

「告。我々を創造したのはヌト様ではないからです」

「あ、そうなんだ。じゃあアリエル様が第一主人(プライマリーマスター)なのは、アリエル様が君達を生み出したの?」

「是」

「へー」

 

 ちなみにかなたは第三主人(サードマスター)だった。なお第二主人(セカンダリーマスター)にはアリエル以外の六大天使の名前があった。

 

 その後三人で今後の事も含め色々と話し合った結果、デウス・エクス・マキナは学園の生徒として天界学園に通う事となった。なお天音かなたとは同室である。

 

 次の日、学園に登校した天音かなたはクラスメイト達からの心配の声や優勝したことに対する称賛の声を浴びせられ、ご満悦の表情をしたまま朝のホームルームを迎えた。

 

 担任のドミニ先生が転校生としてデウス・エクス・マキナを迎えた。彼女が神器であることは既に生徒達は知っているため、余計な手間をかけることはなかったが、何故転校生としてこのクラスに入ってきたかの説明はしなければならなかった。とはいえ、天音かなたの神器であるの一言で終わったが。

 

「ええぇ!!?」

「マジー!? 天音さんの神器なの!!?」

「すごーい!!」

「静まれ」

 

 騒ぎ出す生徒達に、ドミニ先生が軽く睨む。それだけで一瞬にして教室内に静寂が戻った。

 

「まったく……まだ伝達は終わってないんだぞ」

 

 やれやれと頭を振ったドミニ先生は、続けて口を開いた。

 

「寮戦祭が迫っている」

「おお〜!!!!」

 

 再び沸く生徒達だったが、学習したのか直ぐに口を噤んだ。

 

「来月の6月、その末。白薔薇寮と黒薔薇寮の対決が行われる。始めの三日は歌と踊りで。終わりの四日はバトルロワイヤルだ。そしてこれが一番大事なことだが、ヌト様が親臨なされ、勝敗の判断もなされる」

 

 みっともないところを見せるなよ、と一言添えたところで朝のホームルームは終了した。

 その直後、クラス中がざわめき立ったのは言うまでもないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 打倒黒薔薇寮を掲げ、白薔薇寮では寮長のミュウを筆頭に誰もがやる気に燃えていた。きっと黒薔薇寮でも同じ光景が見られることだろう。

 

 そんな中、天音かなたは屋上にいた。目の前には、六大天使がひとり『世界』のアリエルが金色のツインテールを靡かせて立っていた。夕暮れ時ということもあって、アリエルの髪はキラキラと輝いている。それに引けを取らない程、本人の目も輝いていた。

 

「さぁ! さぁ! ほら言ってみ!! リピートアフターミー、師匠!」

「し、師匠!」

「はい! はいはい! ワタシ師匠! ワ・タ・シ、師匠!!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねながら、アリエルは手をぶんぶん振った。ツインテールもぴょんぴょんと跳ねている。

 

 アリエルはかなたに自身のことを師匠と呼ぶように要求したのだ。その師匠呼びが嬉しかったのだろう、アリエルは子供のような満面の笑みを浮かべていた。

 

「さて、愛弟子よ」

「はい」

「まずはワタシと戦え!」

「え? いやちょっと「問答無用だ!」待ってぇぇええ!!」

 

 かなたは堪らず逃げ出した。

 なぜ戦わなければならないのか。相手は自分なんか片手だけで、簡単に叩きのめせるだろう。もしかしたら片手すら要らないのかもしれない。

 だというのに。

 

「どりゃああ!!!」

 

 チラリと背後を見れば握り締めた拳を振り下ろすアリエルの姿が。

 

「ぎゃああああ!!! 危ない! 今ちょぴっとかすった!!」

「わはは! 今の躱すか! なら―――」

 

 跳び込み前転で避けたかなたは、急いで立ち上がり――ぞくり、と寒気。

 

 聖人となって研ぎ澄まされた五感が、警報を鳴らした。

 時間の間隔が引き伸ばされ、全てが遅く動き出す。背後から放たれるプレッシャーがひと際大きくなった。

 

 達人の間合い。

 必死の領域。

 

 その空間に、呑まれた。

 

 だらだらと、冷や汗が垂れ流しながらアリエルへと振り向けば、身の丈を遥かに超える長刀を腰に構えて。

 

 獅子のように燃える金色の髪を靡かせて、一直線にかなたを射抜く。それはさながら、狙撃手のように。

 

 くる――!

 

 直感が告げた通り、思いっ切り、かなたは仰け反って避ける。

 髪の毛が、数本、切り裂かれて剣風に飛ばされた。

 

(デッカイ斬撃飛んで来たんですけどー!?)

 

 冷や汗ダラダラの状態で、かなたは命からがら生き延びたことに感謝した。その一方で、アリエルは『へぇ〜!!』と嬉しそうに、獰猛に、笑った。

 

 殺す気だったのか、あるいは直前で止める気だったのかは不明。

 しかし、仰け反った体勢のままの視線の先には、斬撃が刻まれたように空間が割れていた。

 

(殺す気じゃんかー!!)

 

 数秒、遅れてかなたの頬から血が流れ始めた。

 どうやら完全には躱しきれて無かったらしい。

 

「う、う、う………」

 

 キャパを超えたのか、かなたはしゃがみ込み、泣いた。

 

 泣くとは思って無かったんだろう。アリエルは獰猛な笑みから転瞬、武器を消して慌てた顔でかなたに駆け寄り、同じくしゃがみ込んだ。

 

「ご、ごめんよぉ」

「シクシク……」

「ワタシが悪かったよぉ。ちょっとどれくらい動けるか見てみたかったからぁ」

 

 ツンツンと人差し指を突き合わせて、言い訳するアリエル。

 不意に、良いことを思いついたかのようなハッとした顔をした。

 

「そ、そうだ! この刀凄いだろう!? ワタシの神器なんだ! 名前は『ザ・ベスト』と言ってな、ワタシが創ったんだ!! 昔アレスの腕も断ち切ってやったんだぜ!! 触ってみるか!? 触ってみるよな!」

「別に」

「がびーん!?」

「で、師匠、まずはなにから教えてくれるの?」

「いつの間に立ち直ってる!?」

 

 嘘泣きだったのだろうか。

 

 はよ教えろと言わんばかりの視線を受けて、アリエルは咳払いをして口を開いた。

 

「念力の基礎は、瞑想から。とは言っても、瞑想なんて一人でもできるし、せっかくこうして対面できてるから、一度高みってもんを見せてあげる」

 

 アリエルは、立ち上がり、微笑む。

 その内心は、いかに自分のカッコいい姿を見せて弟子の好感度を稼ぐかだ。

 

 おもむろにアリエルは五つの岩石を作り出し、それを直列させて宙に浮かべた。

 そして、しゃがんだままのかなたの眼の前で、アリエルは、天高く指を掲げ――

 

ホワイト・レイ(白き光)!!」

 

 指先から放たれた極光が、全ての岩石を塵一つ残さず消し飛ばした。

 

 反応はどうかと、アリエルは振り返る。

 そこにはキラキラとした目を見せるかなたの姿があった。

 

 

 

―――………

 

 

 

 場所は移り、ウラヌスの神殿。

 その寝殿には身長三メートルはある女性が横たわっていた。

 

「ヌト様、お目覚めのお時間です」

 

 巨大なベッドの枕元でガブリエルが囁く。

 しかし囁き声では覚醒には至らず、ガブリエルはもう少し大きな声でもう一度告げた。

 

「………ん」

 

 ピクリと身じろぎ、柳眉を歪ませたかと思えば、ゆるりと目を開いた。その瞳は虹色の瞳。俗に言うアースアイと呼ばれる瞳が微睡むように瞬く。

 自身を起こしたのがガブリエルだと知ると、ヌトはその長身を幼子のように丸め、毛布を頭まで被った。

 

「やだ起きたくない!!」

「駄目です」

「神様の言うことは絶対だよ!!」

「どのような事を申されても必ず起こすよう、寝る前のヌト様から承っています」

「ちくしょう! わかったよ!!」

 

 半ばヤケクソ気味にヌトはベッドから起き上がり、ガブリエルにエスコートされながら磨き上げられた廊下を裸足で歩く。塵一つ無い廊下は、ヌトの長い金髪を引きずるように歩いても、汚れることは無い。

 

「来月末に天界学園で寮戦祭が開かれます」

「うん」

 

 数ある部屋の一つ。大きな姿見の前で、ガブリエルはヌトの髪にブラシをかけながら話す。ヌトは半分寝ているように、瞼は閉ざされていた。返事もどこか朧気だ。

 

「予言はその時を示しています」

「うん」

「アレスが来ます」

 

 ガブリエルのその一言に、ヌトはびっくりした猫のように目を見開き、そして頭を両手で守るように屈んだ。

 

「やだぁああ!!」

「予言は絶対です。ヌト様でも覆りません」

「やだぁああ!!」

「予言は絶対です。ヌト様でも覆りません」

「慰めてよ!!」

「予言は「分かったから!」そうですか」

 

 涙目で再び背を伸ばしたヌトの髪にブラッシングを再開する。

 

「アイツ天界をぐちゃぐちゃにするんだもん……一体誰が直すと思ってんのさ」

「我々天使です。ヌト様ではありません」

「正論やめて」

 

 ムッとした顔でヌトはガブリエルを見るも、ガブリエルの視線は自身の金髪に向いていた。正しくは寝癖だが。

 

「以前とは異なり、今回は神器も大量に用意しますし、デウス・エクス・マキナも出陣します。我々六大天使も全力を振るいます」

「うん」

「被害はおそらく、前回よりも小さくなると思われます」

「うん」

「ただ、最悪ミネルヴァごと無くなる可能性もありますが」

「うん。人的被害はどれくらいかな?」

「どうでしょうか。予言から考えるにミネルヴァの島民と学生くらいでしょうか」

「ふーん。なら別に死んでも構わないか。どうせまた増やせる」

「そうですね」

 

 淡々と、ヌトとガブリエルは会話する。

 

「予言をもう一回言ってくれる?」

「彼方より来たる青銀の冠。

 天の奏でる風鈴はその音色を奪われん。

 再臨する破滅の罪人。破滅を背負う二翼を引き連れん。

 心せよ。罪無き者の血が流され、空の星が地に降らん。

 天を舞う羽は奪われ、羽ばたくことは叶わない。

 祈れよ祈れ。混沌が世界を終わらせぬように。

 願えよ願え。虚無が世界を終わらせぬように。

 全ての鍵は運命の申し子が握っている」

「既に予言の冒頭は終わってるんだよね?」

「はい。天音かなたが該当しました」

「破滅の罪人がアイツのことか」

「おそらく」

 

 ヌトへのブラッシングは終わり、今度は髪結いを始めた。

 

「けど破滅を背負う二翼は何だ?」

「わかりません。活動限界か死期が近いモノでしょうか」

「いつも思ってるけど、なんで予言ってこんな回りくどいんだろうね。ズバッと言ってほしいよね」

「そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なーんて、破滅を背負う二翼について頭を悩ましている頃、ここウロボロスでは。

 研究中のオメガのところにイータとシータが押しかけた。

 

「「学校行きたい!!」」

「……」

「「連れてってあるじー!!」」

 

 翼をバサバサと羽ばたかせて、イータとシータはオメガへと懇願する。

 オメガとしては、断る理由は無い。元々限られた命ゆえ、二人の望みはできる限り叶えるつもりだった。

 

「一応聞くが、何故だ?」

「セイシュン!」

「アオハル!」

「ウツシヨのマンガの影響か……」

 

 ぐいぐいと手に持っていた漫画をオメガの眼前に押し付け、馬鹿の一つ覚えのように『セイシュン!』『アオハル!』と叫ぶ二人に、ため息を一つ吐いた。

 

「「だめ?」」

「いや、構わない」

「「やったー!!」」

 

 手を取り合って喜ぶ二人を傍目に、オメガはタブレットを操作して二人の未来を検索した。未来という数多の別れ道が存在するその先、膨大な検索結果が表示される中、一番二人にとって相性が良く、寿命の減りも少ないのが、天界学園だった。

 

(……天界か)

 

 オメガは天使が嫌いだ。以前必要となって大量虐殺もした事がある。その時は罪悪感など微塵も湧き上がることは無かった。それどころか愉しんでいた節もある。

 

 タブレットによると、どうやら今回も暴れ回る必要があるようだ。

 

(ちょうどいい)

 

 天使は無尽蔵に湧く。話せる虫だと思えば何の躊躇いもない。それに神の兵など、これからの計画を鑑みて少ない方が良い。

 憂さ晴らしにもなるなと、オメガは思った。

 

「場所は天界学園。天使が集う学校だ」

「「うん!」」

「ある程度の勉学と戦闘技術を修めたら向かうぞ。気を引き締めておけ」

「「あい!!」」

*1
天界学園がある島




 ラファエル
 えっちなねーちゃん略してえーちゃん。

 アリエル
 天使の中で唯一仙人である。しかしそれはワザによるもので、彼女だけが例外。

 デウス・エクス・マキナ
 対アレス用神器。色々応用が効くようにできている。
 三人とも同じ顔で同じ身長で同じ体型で同じ体重。敵を混乱させる為にこうなってる。

 コピア島
 ローマ神話の豊穣の女神から。

 オメガ
 皆さんの予想通りアレスのこと。
 困ったらオメガを動かせばいいので凄い助かる。作者のお助けキャラ。

 予言
 天の奏でる風鈴は寮戦祭の開会式と閉会式で鳴らされる鐘のことだとガブリエル達は予測した。なのでアレス(オメガ)が来るのは寮戦祭だと考えた。
 ちなみにこれは後付け設定。元々は天音かなたが声を出せなくなることにしてたけど、ラファエルが治しちゃったからボツになった。
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