白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 皆殿ーござるー

 私、この話に限らずホロライブの二次小説は何も考えずに頭空っぽハナホジで書いています。今回風真いろはの技名が出てきますが、何も考えてません。意味深な和歌も出てきますが何の意味も込めてません。『ほぇぇぇ』と脳死状態で流して下さい。
 カッコいい技名……ハッ閃いた! これでええやろ。
 カッコいい詩……なんか思い付いたこれでええやろ。
 秒です。効率の鬼です。

 その他にも色々出てきますが、現実のものとは何の関係もありません。誤解のなさらぬようお願いします。
 思いの外長くなりそうなのでブッチギリました。
 
 9月1日。配信での要望を受けタイトルを変更。


第2章 宝鐘編
第3話 ジャキンジャキンなつよつよ侍でござる


 秘密結社holoxの資金源は、博衣こよりが開発した物品の販売および特許による使用料、そして鷹峰ルイが経営だけをしているバーとカジノ。これらからの売上金などが主な資金源である。

 さて、今日のこの日、街は賑やかな騒がしさで包まれていた。その例に漏れず、幹部が経営するバーも熱がこもった声があちこちに飛び回っていた。

 

「おい聞いたかお前!」

「ああ、『宝鐘』だろ?」

「そうさ! かつて海という海を制し、山のような財宝を築いたと言われる宝鐘海賊団!! その海賊団の船長の名は宝鐘ディーネ!!」

 

 熱に魘されたように声を張り上げる男。酒も入っているせいか、周りの目も気にせず立ち上がった。

 

「彼女が鳴らした『宝鐘』は海洋生物を操り、かのクラーケンをも操ったという!!」

 

 ここで切った男は、ジョッキをテーブルに叩きつけるように置いた。 

 

「そんな伝説の鐘を探しに! 俺達も海に行けるかもしんねぇんだ!! これが興奮せずにはいられねぇぜ!!」

 

 ことの始まりは数日前。白銀家当主が解読に成功したという古い手記に、その宝鐘の所在が記されていたという。

 当主は直ぐに海の治安部隊である宝鐘海軍に一報を入れ、直ちに会談が行われた。

 

 そこで決まったのは以下の通り。

 そこは海の怪物が特段と蠢く海域にある島であるため、艦隊を組んで出航する。

 そして、乗船する船員は海軍海兵も含め、腕に自信がある冒険者なども乗船を許可する。

 簡単な面接及び実力の確認は○月×日の昼から三日間行い、出航は面接最終日から五日後。

 眼鏡に叶った者は報酬金も出る。

 

 これらが決定及び市井に発表された。

 絵本や映画にもなった宝鐘海賊団の冒険譚。

 何よりも伝説や幻と呼ばれた『宝鐘』を、この目で見れるどころか実物に触れられる可能性もあるのだ。

 ロマンを胸に秘める冒険者は、その発表に目を輝かせたのは言うまでもない。

 

「いよいよ明日だ! おれぁもちろん参加するぜ! お前はどうだ!?」

「当たり前だ。例え死んでも必ず行くぜ!」

「だよなぁ!!」

 

 ―――以上のことをバーに仕掛けてある盗聴機から知った幹部は、ソファーに寝転んで漫画を読んでいる総帥の元に歩み寄った。

 

「ラプ、街で『宝鐘』っていうお宝を探しに海に出るっていう話題が上がっているんだけど。奪いに行く?」

「『宝鐘』? んんー……なんか聴いたことある気がすんなぁ」

「絵本にもなっているからね。そのことじゃない?」

「そうかもなぁ……ちなみに効果は何だっけ?」

「確か『宝鐘』の効果は海洋生物への催眠だよ。鐘の音を聴いた魚や鯨、鮫もクラーケンも例外なく操れるんだよ」

「ああーそうだったなぁ……でもなんか重要なことがあったんだけどなぁ……」

 

 漫画を胸に置いた総帥は、必死に思い出そうと頭を捻る。

 

「なんだったかなぁ、こう、喉まで出かかってんだけどなぁ」

「じゃあ行かない方がいい?」

「んー……いや、行ってくれ。でも鐘は鳴らさないようにしろよ。まだ思い出せないけど、ひとまずそれだけ守ってくれてれば大丈夫だ」

「そう、わかった。じゃあ明日出発するね」

「りょーかーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、人が多い……」

 

 街に足を踏み入れる前から人の多さは目についていたが、中には数えるのも億劫になるほどの人達で溢れ返っていた。

 ラプラスなら嬉々として『人がゴミのようだ!』とでも言いそうだな、と思いながらも、幹部は目的地である海軍本部へと歩を向ける。

 

「ひ、人が多いでござる。ぽこべぇ、はぐれちゃダメでござるよ」

 

 ふと、声を聞こえてきた方へと顔を向ければ、そこには刀を背負った少女がいた。

 淡い黄色の長髪を葉っぱの髪飾りでポニーテールで纏め、薄浅葱の袖口の羽織りを羽織った和風の少女。

 彼女は膝を曲げて狸に話しかけていた。

 

(あの娘も面接に行くのかな?)

 

 なんともなしに眺めていると、彼女はさっと立ち上がり宝鐘本部とは逆の方向へと歩き始めた。

 

「うーん……宝鐘海軍ってどこでござるか? この道を真っ直ぐ進めば着くでござるか? あれ? 右が左にある……なんでぇ~?」

 

 どうやら彼女は極度の方向音痴のようである。

 幹部は微笑まし気に頬を緩めると、口をぽかんと開けて、ぼけぇぇと地図を眺める少女に声をかけた。

 

「貴女も『宝鐘』の面接を受けに来たんですか?」

「わ、はい、そうでござる! お金も出るということで、稼ぎに来たんでござる!」

「そう、私もそうなんだ。良かったら一緒に行かない?」

「良いんでござるか!? 助かったでござる! どうもこの地図上下左右間違ってて、困っていたところでござる!」

(それは単に向きが間違っていただけなんじゃないかな?)

「あはは、それは災難だったね。ちなみに……えぇと」

「あ、自己紹介がまだだってござるな、拙者、風真いろはと申す者! あらかじめ言って置くでござるが、かざまは侍でござる! 忍者ではないでござる! のっと!ニンニン!! いえす!ジャキンジャキン!!でござる! これからよろしくお願いするでござる!!」

「よろしくいろは。私は鷹嶺ルイ。短い間だけどよろしくね」

 

 天真爛漫とは彼女のことを言うのだろう。屈託もなく笑う彼女は、きらきらと輝いているように見えた。

 

「ところでこの狸は?」

「この子は非常しょ……お供のぽこべぇでござる!」

「今非常食って言いました?」

「言ってないでござる!」

「そ、そう……お腹減っているの?」

「大丈夫でござるよ。ちなみにルイさんもお供はいるでござるか?」

「いるよ。ちょっと待っててね」

 

 ピィィィィ!!! と幹部は指笛を吹くと、上空から一羽の鳥が幹部の肩に舞い降りた。

 

「うわぁぁ!! その呼び方かっこいいでござるな!」

「ふふーん。デキる女は違うのだよ」

 

 いろはに持て囃されて調子に乗った幹部は、ウインクと共にコッと舌鼓を打った。

 

「この子は相棒のガマグチヨタカのがんも。頭の一番上にいるのはヒナのつくれでその下がつくね」

「がんもとヒナは親子なんでござるか?」

「ううん」

「じゃあ非常食でござるか?」

「何で『じゃあ』なのか分からないけど、やっぱりお腹減ってない?」

「心配は無用でござるよ。かざま、ぽっぽ焼きはお手の物でござる」

「うん。お腹減ってるよね?」

 

 たわいもないことを話している間に、既に宝鐘海軍本部が見えてきた。

 周囲の建物より一段と高く、コンクリート製だろうか、見た目からにしてとても頑丈そうである。

 普段は門が閉ざされ、プレートメイルを着付けた守衛が二人立っているが、今回の面接のために門は開け放され、守衛も呼び止めて通行証などを閲覧することなく通していく。

 いろはと幹部も守衛からは何も言われず、そのまま軽く会釈すると、守衛はあちらに行けと指を指した。

 その方向に集まるのだろうと理解した幹部は、背中に引っ付くいろはを連れて中に足を踏み入れる。

 

「何だかかざま、場違いに思えてきたでござる」

 

 周りを見れば、物騒な格好をした人間が犇めくようにいる。鎧を着込んだ戦士然とした大男から、魔法使いめいたローブを身に付けた男女の組、広刃の大剣を磨いている獣人の男もいるし、人間の頭なんて卵みたいに潰せそうな筋骨隆々な人間なども見掛ける。

 一歩二歩踏み込むだけでピリピリとした空気にあてられ、いろはは『ほぇぇぇ』と怖がっているのか感心しているのか分からない声を挙げながら、幹部の裾をちょこんと摘まんで引っ付くように付いていく。

 

 集合場所である本部内の広場の先には、輝く白銀の鎧を身に纏った男性が泰然とした態度で立っていた。

 その男性を見て、幹部は少し冷や汗をかく。

 

 なぜなら彼は、人間の中で最強と吟われている人物。白銀家が当主、白銀イダスであったからだ。

 

 善者か悪者かと問えばどちらかと言えば後者である幹部にとって、捕まる訳にはいかない。けれども『宝鐘』は欲しいためにトンズラする訳にはいかない。

 

 気を引き締めた幹部は、何気なく視線をイダスから離して、己の背後にいるいろはに目を移した。

 

「シシシシシシシシーーーー」

「……何してるの?」

「セミの真似でござる。かざまは今セミ。有象無象のセミ。これでおそらくめいびー誰にも見られない。かざまの得意技でござる」

「物真似上手過ぎて逆に注目集まってるけど」

「はっ!?」

 

 今度は口笛を吹き始めたが、ひゅーひゅーとした風切り音が出るばかりで吹けてない。

 やることなすこと空回り。これではくるくる回る風車である。ハムスターが走るアレでも可。

 周りからの視線を受けて針の莚状態が幾ばくか続いたが、時間となったのかイダスから声がかかった。

 

「刻限となった。ではこれより選抜を始める。実力試験の試験官は私だ」

「おいおいマジかよ」

「人類最強が相手かよ」

 

 ざわめく周囲。当たり前だ。まさか直々に相手するとは思わなかったのだろう。幹部もそれは勘弁願いたいと苦笑を禁じ得ない。

 

「ルイさん、あの人って有名な方なんでござるか?」

「知らないの? あの人は人間の限界を越えて『聖人』の領域に至った強者だよ」

「へぇーそうなんでござるか。ルイさんは物知りでござるな!」

 

 彼を知らないとは一体どこに住んでいたのか、そう気になった幹部であったが、集中しようと視線を戻す。

 

「人数が人数であるがため、実力試験は手荒にいく。今から貴様らに与える威圧に堪えた者が合格だ」

 

 途端、重力が何倍もなったかのような威圧が参加者達の身に降りかかる。

 

「ぐっ」

「重い……!!」

「……?」

 

 一人、二人、三人四人、瞬く間に地に倒れていく参加者達。幹部も実力者であるが、少し辛そうに顔を歪めている。だが、いろはは涼しげな表情で威圧を受け流し、それどころか幹部を気遣う余裕があった。

 

「大丈夫でござるか? 何か皆殿が倒れ始めたでござるが、試験はもう始まっているのでござるか?」

 

 こいつやべーやつだ。

 先ほどの非常食云々も相まって、幹部はいろはの評価を『世間知らずの方向音痴侍』から『やべー方向音痴のやベー侍』と改めた。

 参加者達を見渡していたイダスも、そよ風の如く受け流すいろはを見て僅かに眉尻を跳ね上げた。

 そんな間にも威圧は続き、参加者は幹部といろはを含めた二十人まで数を減らしたところで、イダスから声がかかる。

 

「今立っている者が合格だ。そしてそこの貴様。名をなんという?」

「え、かざまのことでござるか? かざまは風真いろはと申します!」

「そうか、私の名前は白銀イダス。勝手な願いですまぬが手合わせをお願いする」

「え?」

 

 イダスに目をつけられたいろはは、どうすべきか幹部に尋ねる。幹部にとっては『話しかけるな私も目をつけられたらどうすんだ!』と言いたいところだが、その言葉は飲み込んで、受けた方がいいと促した。

 イダスがいろはを結社の一員と訝しむのと同じように、幹部もいろはの実力を見て出来るならば引き込みたいと思っていた。

 

「じゃあルイさんがそう言うなら、受けるでござる」

「ありがたい。礼を申し上げる」

 

 突如として決まった試合。周囲に居た参加者達は慌てて攻撃の余波が届かなそうな所まで下がり、未だ威圧で動けない者は動ける者に引っ張られて退散した。

 

「察しの良い者達で助かった。これで周囲に被害が及ぶことはないだろう。風真殿も存分に刀を振るうといい」

「はい!」

 

 いろははイダスに促されて、背中に担いでいた刀を腰に佩き、スラリと刀身を抜く。

 

 鍔元をわずかに開けて持ち。

 左手と右手の間は指三本分ほどに開け。

 強くは握らず、かといって弱すぎず。

 刀の切先をイダスの右目に向かって構え。

 深く息を吸い、一瞬止めて息を吐き、心を静める。

 

「参るでござる」

 

 いろはが静かに前に出ると、あっという間に肉薄してきたイダスが斬りかかる。

 正面から真っ向斬りをしてくるイダスに対して合し打ちの要領で同じ剣撃を打ち付け、いろはは鍔迫り合いに持ち込んだ。

 

「ほう……」

 

 思わずイダスは感嘆の溜息を吐く。

 次いで示し会わせたように互いに一歩下がり、互いに互いの体を、まるで撫でるように切っ先でするりするりと刃を通す。

 

 無駄を極限まで削ぎ落とした回避。

 両者とも紙一重でヒラヒラと躱しては刃を交わす。

 

 演舞染みた動きが終わるや否や、今度はお互いの剣撃を確かめ合うような袈裟斬り同士の激突。

 一撃二撃と、刀同士がぶつかる度に火花を豪快にまき散らし、激しい金属音を響かせる。

 そして二人の動きは激しさを増し、腕や脚が霞がかるほどの速さで動き始めた。

 

「……はっや。あの娘一体何者なんだ?」

「見た感じ身体強化魔法使ってないよな? 一体どうやってあれ程の強さと速さを? まさかあの娘も『聖人』か?」

「うぉ、今弾かれたと思えば一瞬で刀を背中に回して持ち替えたぞ。あんなやり方初めて見た……」

 

 どこからともなく唖然とした声が挙がる。それにつられるように、観客の腹の底から熱気が沸き上がる。瞬き一つも許さない攻防に、誰も彼もが息を呑んでいた。

 

「流石と言ったところか」

「かざま、こう見えて負けず嫌いなんでござる」

 

 一合二合三合と刃を合わせ、イダスが先に後ずさった。それに追撃するかと思えば、いろはは弾けるように後方に飛び、カチン、と納刀した。

 

 無論諦めた訳ではない。

 攻撃のためだ。

 

 極端に上半身を前に倒し。

 左足もまた大きく下げ。

 左手は鯉口、右手は柄に手を添えて。

 

風真一刀流(ふうしんいっとうりゅう) 一ノ段 疾風迅雷天津風(しっぷうじんらいあまつかぜ)

 

 刹那、瞬間移動と見間違う程の高速移動でイダスの眼前に迫ったいろはは、雷獣の咆哮の如し轟音をたけ鳴らし、青銀の軌跡を纏った一太刀をイダスに浴びせた。

 

「うっそだろ……」

「今何が起こったんだ?」

「雷が横に走ったように見えた……」

「いつ鞘から刀を抜いたんだ!?」

「見たかよ今の。アイツ最強に押し勝つどころか一太刀入れたぞ」

 

 しばらくの静寂のあと、観客がざわめきの渦に呑まれる一方で、いろはの心の中は驚愕と困惑の渦が巻いていた。

 

「その鎧……神器でござるか?」

「いかにも。この神器の名は『白銀』。真の継承者である私は、『白銀』を鎧として纏っている」

「やはりそうでござるか。かざまは大抵のものは斬れる。合金も斬れるでござるが、その鎧は斬れなかった。傷一つ付けられなかったでござるから、かざまは神器を疑ったのでござる」

「成る程。頭もキレるようだな」

「褒めても何も出ないでござるよ」

 

 一言二言言葉を交わし、いろはは心を静め、凪いだ水面を思い浮かべる。

 明鏡止水の境地に至ったならば、剣を握っている間は水面を揺らがせてはならぬ。

 

「ひとつ、いやふたつ問おう」

 

 イダスは指を二つ立てていろはに尋ねた。

 

「風真殿のその刀も、神器だな?」

 

 イダスが身に纏う『白銀』は神器。故に並大抵の武器で傷が着くどころか、逆に武器の方が折れる。

 しかし、いろはが操る刀は折れず、それどころか刃零れのひとつも起こってない。

 

「その通りでござる」

 

 いろはは神器を抜き、天に掲げた。その姿は威風堂々、顔も誇らしげな表情で満ちている。

 晴天の日射しを受けて煌めく、冷たくも美しい銀色の輝き。月光にも似た冴えた光を放つそれは、清流の如く透明な輝きを放っていた。

 

「決して曲らず、決して欠けず、決して折れることはない二尺八寸直刃の一振り。名を―――」

 

 いろはは衆目の視線を一身に浴びながら、声高々に謳う。

 

「チャキ丸でござる!!」

 

 ふふーんと自慢げに胸を張り、答えた。

 満足げな表情は、微塵もその名前のセンスを疑ってない。

 

「…………」

 

 周囲に気まずい沈黙が満ち、生ぬるい風が吹いた。

 皆の心の声はただ一言。

 

 ダッセぇ名前。

 

 期待した反応が返ってこないことに気が付いたいろはは、チラリと周囲の観客の顔を窺う。

 そして察したいろは、ぷくっと頬を膨らませて抗議した。

 

「今絶対心の中で『ダッセぇ』って思ったでござるな〜!?」

 

 むきー! と憤慨するいろはに、先程よりも無表情となったイダスが声をかける。

 

「教えてくれてありがとう。チャキ丸という名前か。良い名前だな」

「そうでござるよな! いや~白銀殿は分かっているでござるなぁ!」

 

 るんるんと機嫌を直したいろは。どうもイダスの言葉が本心から言った言葉だと疑ってない様子。

 嘘だと察知される前に、イダスは二つ目の質問を投げかけた。

 

「二つ目の質問だが、風真殿はもしや、風真の里出身か?」

「そうでござるが?」

「ほう……通りでその強さ」

 

 いろはの故郷である風真の里は、竜霊山にある。その所在は不明であるが、そこの者は須く強者だという。

 竜霊山という極限世界に住む彼らは、竜を退けるほどの力を持つ。

 更に、人間が『聖人』へと至るための武者修行を日常生活レベルで行っているのだ。

 つまり、風真の里出身の風真いろはは。

 

「風真殿は『聖人』だな」

「……確かに成人でござるが、お酒は日本酒と甘いお酒しか飲まないでござる」

「そちらではない。聖なる人と書いて『聖人』と読む方だ」

「えっ、かざま『聖人』なのでござるか!? 初めて知ったでござる!」

「恐らくだかな。私の次の攻撃に耐えたのなら、風真殿は確かに『聖人』と言えるだろう」

 

 そしてイダスは、わずかに身体を傾けた態勢をとった。

 膝を軽く曲げ、重心を爪先より前に乗せている。

 イダスはおもむろに口を開き、厳かに禅語の一節を唱える。

 

眼似流星(眼は流星に似て)機如掣電(機は掣電の如し)

 

 そして刃の切先は地に向けられ、尋常じゃない威圧が撒き散らかされる。

 いろははこれがイダスの本気だと悟り、明鏡止水の極意に達するためのトリガー、和歌を口ずさむ。

 

 水心に 落ちる影を とらえるな

     斬ろうとすれば 霞むばかりか

 

 この武術歌は五観一見の内のひとつ、『病気』を一去するために唄う詩。

 『病気』を一去するとは、簡単に言ってしまえば、打とうと思わず、勝とうと思わず、合わせようと思わず、心を無念無心とすることである。

 これは『花を見ては花と思わず花を見て、敵を見ては敵と思わず敵を見て、不動心で居られる』と同じ意味である。

 

 詩を唄って無我の境地に踏み込んだいろは。

 瞳は凪ぎ、表情は抜け落ち、静謐な気配を身に纏った。

 まるで風に舞う落葉のようにゆったりとした緩慢な動作で腰を落とし、撫ぜるように柄頭に手をかけた。

 一方でイダスは、やおら一円相を描いて静かに句を唱える。

 

「乾坤、地として孤筇を卓する無し喜び得たり、人空、法も亦、空珍重す大元三尺の剣―――」

 

 いろははおもむろに目を閉じ、己の中の()に耳を傾ける。

 余計な事は考えない。ただ身体の動くままに。

 そして歌うように口を開き、玲瓏と響く声が場に満ちる。

 

「風真一刀流 五ノ段―――」

 

 迫り来るイダスの絶剣に、いろはは無意識に刀を抜いた。

 

火雷噬嗑無獄爻(からいぜいごうむごくこう)

電光影裏斬春風(電光影裏に春風を斬る)

 

 両者の激突によって生じた衝撃波は、体重が軽い者だと吹き飛ばされるほどの威力を持っていた。

 イダスの全力を受け止めたいろはの足元が、ズン、と沈み込み、まるで蜘蛛の巣のように広範囲に罅割れが生じ、地面に刻み込まれる。

 それだけでは終わらず、次の瞬間には地面に敷かれていた石畳が一斉に粉々に砕け散った。

 更に衝撃の余波で観客の方向にも罅が走り、驚愕と悲鳴混じりの声が挙がった。 

 

 しかしその声はいろはとイダスの耳に入らない。

 目の前の相手を倒すべく、全身の力を注いでいた。

 

「はああああああああああああッ!!」

「だああああああああああああっっ!!」

 

 両者は爆轟さながらの鬨を張り上げ、相手を討ち滅ぼさんと刃を振るった。

 そして勝者は―――

 

 

 

―――………

 

 

 

「負けちゃったでござる……」

「いつまで引きずってるの。それに大分いい線いってたよ」

 

 落ち込むいろはを、隣で励ます幹部。面接を終えた二人は今、宿場の一角にてテーブルを囲んでいた。

 

「ぽこべぇ? 励ましてくれてるのでござるか? 優しいやつでござるなぁ」

 

 いろはは結局イダス相手に勝ち星を挙げることは叶わなかった。

 そう簡単に勝てるほど、最強の二つ名は伊達ではないということだ。

 ぽこべぇをモフモフして耳吸いしたいろはは、幾分とスッキリとしたようである。

 

「そう言えば、いろは最後に何か詩みたいなの詠んでなかった? 水心みたいな」

「水心に 落ちる影を とらえるな 斬ろうとすれば 霞むばかりか……でござるな。これは病去一告でござる」

「病去一告って?」

「えーっと、まず五観一見のひとつに『病気』というものがあるでござる。これは相手を打とうとする、相手に勝とうする、合わせようとするみたいな心に囚われると、病気のように身を蝕んで勝てる勝負にも負けてしまうのでござる。なので、病気にならないようにするために唄う武術歌を病去一告と言うのでござる」

「なんとなく分かった」

 

 ううむと眉間に皺を寄せて頷く幹部に、いろはは詩の解説をする。

 

「それで先の詩は『病気』になると斬るに斬れず、逆に斬られてしまうのを表しているでござる。上の句の『水心』は心に浮かばせた水面で『落ちる影をとらえるな』の影は敵の気の懸りを表しているのでござる。つまり水面に光が差しても、もとい気の懸りを察知してもそれを見てはいけない、意識を割いてはいけない、ということでござる」

「お……おう」

「下の句の『斬ろうとすれば霞むばかりか』は、もしとらえてしまえば、斬っても霞みたいに手応えがなく、また視界が霞がかったようになり、敵に斬られてしまうのを表しているでござる……言葉で説明するのは難しいでござる。ルイさんも剣士を続ければその内わかるでござる。分かったでござるか?」

 

 いろはの問いに、やはりholoxの交渉担当という頭を使う立場か、幹部は確と頼もしく頷いた。

 

「なるほどわからん」

 

 違った。

 全然理解してなかった。

 

「そ、そうでござるか」

「私剣士じゃないからね……ってなに食べようとしてるの?」

「ナスでござるが?」

「えっ、それ生だよね?」

「おいしいでござるよ。ルイさんもおひとついかがでござるか?」

「いらない」

「おやつの玉ねぎも?」

「いらない。あと玉ねぎはおやつに含まれない」

「バナナは遠足のおやつに含まれるのに?」

「のに」

 

 幹部は再び、こいつやべーやつだと認識した。同時にコイツは遠足気分で来たのかと、いろはの正気を疑った。

 一方いろはは、『ははーん』と何かを悟った顔をして、上の子が下の子に宥めるような優しい口調でこう言った。

 

「好き嫌いはダメでござるよ」

「別にナスと玉ねぎが嫌いっていう訳じゃないからね!?」

 

 違うのならばと、次に考えられるのはひとつ。

 いろはは確信を持った声音で続ける。

 

「はいはいはいはい。かざまイエスアンダスタンド侍」

「なにそのパワーワード」

「ルイさんはナスと玉ねぎのアレルギーでござるな?」

「違う」

 

 『うぇっ? 違うの?』みたいな顔で固まるいろはを傍目に、幹部は今後の計画を練り直す。

 

 元々の計画は、注目は集めずに周囲に溶け込み、船上にて海獣の妨害に合わせてボヤなどを起こして海兵などを迷走させ、警戒が疎らになった瞬間を狙って『宝鐘』を奪い、上空を経由して逃げるつもりだった。

 他にもプランBからEぐらいまで考えていたが、隣にいる侍のせいでその殆んどが使えなくなった。一番重要なのは目立たないことだったのに、隣の侍と一緒に行動していたせいで、こっちも注目される羽目になったのだ。

 ちなみに、名前をイダスに問われた時は思わずどもってしまい、幹部は焦っちゃって汗かいた。

 

「はぁああああ」

 

 これには嘆息を禁じ得ない。

 幹部はクソデカ溜め息を吐くと、うまうまとナスを頬張るいろはを見る。

 

「? やっぱり欲しいでござるか?」

「いらない」

 

 ナスの欠片を頬に付けて首を傾げるいろはを見て、幹部は『最強相手に鎬を削った人とは思えないな』と苦笑混じりに微笑んで、ハンカチを取り出してナスの欠片を拭ってやった。

 

「えへへ。ありがとうでござる。なんだかルイさんは姉さんみたいな人でござるな」

「そ、そうかぁ?」

「ルイねぇ……なんちゃって」

 

 これはアカン。

 いろはに上目遣いで『ルイねぇ』と呼ばれた幹部は、嬉しいやら気恥ずかしいやらなんやらで、ニヨニヨと口元を弛ませた。

 

「嫌だったでござるか?」

「いや全く。是非ともそう呼んでくれいろは」

「えっ、分かったでござる」

 

 思わずいろはの手を握って頼み込んだ幹部は悪くない。悪くないよねぇ?

 

 さて、一段と仲を深めた二人に、背後から忍び寄るひとつの影があった。

 

「Ahoy!」




( ゚д゚)「ほぇー……てきとーに作った詩にはそんな意味が……」

 そんなに意味込めてないぞ!


 宝鐘ディーネの『ディーネ』は水の精霊ウンディーネから。
 白銀イダスの『イダス』は、神話の人間の中で最も強い男という意味から。
 イダスは剣術は勿論のこと、魔法も極めている。故に最強。しかしいかに最強といっても、世の中には『聖仙人』どころか『聖人』でもないのに最強のカテゴリーに括られるほどの強者が存在する。ラプラス総帥もまた、その一人であろう。

 『人間や獣人』などの全種族の限界の先に『聖人』があり、更にその先に『仙人』があり、更に上に『聖仙人』がある。また、神になるには『聖仙人』に至った者が死を迎えることでしかなれない、とされている。(諸説あり)
 イダスの場合、『聖人』に至ったのは覚醒したため。白銀家は昔から『聖人』に至る者が多く、その殆んどが覚醒することで至っている。『仙人』に至った者も存在するが、数は少ない。『聖仙人』に関しては白銀家の歴史上一人しか存在しない。
 『聖人』になると身体機能が諸々格段に上昇し、『仙人』になると自然に存在する霊力や魔力を直接操ることができる。『聖仙人』になると半不死性を持つ。
 なお、この世界は霊力と魔力の二つの力が存在する。これといった違いはなく、人種やその人の性格、家柄、育った環境などで決まる。例えば白銀家や不知火家は大抵霊力であり、鷹嶺ルイや桐生ココは魔力である。

 次回、未来の海賊コスプレ女(ロリ)が出演。

 お疲れ様でござる~
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