白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 今回はあえてこの日付けに投稿。
 ちょっと残酷な描写があるので注意。
 ひとまずこれにてこの章は終幕とさせて頂き、次章『叛逆編』改め『未来への布石編(仮)』に移ります。
 結局ソコロとココの話し書けなかったなぁ……と思ったので、天界学園編に改めました。

 ホロライブJusticeが出ましたねー! この人達も組み込む予定です。なんなら次の編で登場させます。
 次回、風真いろは仙人になる。


第31話 天界の秘密

 本体真如住空理(ほんたいしんにょじゅうくうり)

 寂静安楽無為者(じゃくじょうあんらくむいしゃ)

 鏡智慈悲利生故(きょうちじひりしょうこ)

 運動去来名荒神(うんどうこうらいみょうこうじん)

 今此三界皆是我(こんしさんがいかいぜが)

 有其中衆生悉是(うごちゅうしゅうじょうしつぜ)

 吾子是法住法位(ごしぜほうじゅうほうい)

 世間相常住貪瞋癡之(せけんそうじょうじゅうとんじんちし)

 三毒煩悩皆得解脱(さんどくぼんのうかいとくげだつ)

 即得解脱(そくとくげだつ)

 

 掲諦掲諦(ぎゃてぃぎゃてぃ)

 波羅掲諦(はらぎゃてぃ)

 波羅僧掲帝(はらそうぎゃてぃ)

 菩提薩婆訶(ぼうぢそわか)

 

 多呪即説呪曰(たしゅそくせつしゅわつ)

 

 オン キリカク ソワカ

 オン キリカク ソワカ

 オン キリカク ソワカ

 

 

 

 ―――開闢・神域展開

 

 死者の霊魂が怨めしく泣くような声が、鬼哭が、辺りに響き渡る。

 

「ありえないでしょ!!?」

 

 全員が思ったことを、ヌトが代弁するかのように叫んだ。

 

「体感時間コンマ六秒で神域を展開だなんて、化け物か!!」

 

 外の時間は一分の経過であれど、思考速度が百分の一にされてるオメガにとっては、コンマ六秒しか感じてない。だというのに、コンマ一秒で身体強化魔法を使い、コンマ二秒で神威を放ち、そしてコンマ六秒で神域を展開してみせた。

 

「時間そのものに対して耐性があったりすんのかよ!!?」*1

 

 咄嗟に展開した神域の中で、ヌトはヤケクソ気味に叫んだ。

 

 ―――うず高く積まれた人骨は鳥居の如く。苦悶に歪む人面と醜悪に嗤う顔で構成された石籠に、石灰色でできた本堂。何体もの狐の石像が並ぶ中、本堂の前の階段で、オメガは独特な印を結んでいた。右手は何かを摘むような形をとり、ピンと伸ばした左手は右手に直角になるように置かれていた。その独特な掌印――荼枳尼天印は通常の掌印とは異なるものだった――が、左手が何故か崩壊したことにより印が解かれる。だが展開された神域は魔力の供給が続く限り消えることは無い。

 

「時間そのものに対する耐性があるか否か。その答えとしては、あると答えよう。――だが、そんなことより、これを使わなければならない程追い詰められるとは思わなかったぞ。少々遊び過ぎた」

 

 オメガが抱いた感情は、焦りと怒り。

 前者はこの身を追い詰めたことに対するもの。

 後者は下に見ていた存在から無様にやられたことに対するもの。

 

「戦闘の勝敗を決めるのは、何も持ってる術の多さや強さじゃない。どれだけ速く相手の命を奪えるかだ」

 

 コンマ六秒で神域を展開できたオメガの発言に、全員が心の何処かで納得する。

 オメガは基本念力と破壊の二つを用い、ヌトは生命を用いている。六大天使もそうだ。

 自分達のワザ、あるいは権能が一番術式発動速度が速い。即ち、勝利を収めやすい。

 

「しかし己と相手の間に絶大な力の差がある時のみ、前項を破棄できる。つまり―――お前達はもう何もできない。何もさせない。許されるのは死ぬことだけだ」

 

 強く言葉を吐いたオメガは、再び隻腕となった右手の人差し指と中指を顔の前でピンと立てた―――その動作は、今までと比べ物にならない程に遅い。

 

「『Probability(確率)――Linking(連結)

 Paradox(逆理) Manifestation(顕現)――』」

 

 紡がれる詠唱染みた科学の原理。

 微睡むような緩慢な詠唱は、この神域においてオメガが絶大な力を持っているからこそできる芸当。

 

「やべぇぞアレ!!」

 

 オメガが何をやろうとしているのかを察知できたのは、同じく念動力を操る『世界』のアリエル。

 

 アリエルは、自分とラファエルを除く皆の体表を包み込むように、霊魔子が纏わりついているのを感知した。

 それをどうにか剥がそうとするも、大きな念力の差を覆せず、掌から水が溢れるような無力感しか感じられない。

 

「『Quartet(五重) Particle Resonance(粒子共鳴)Authority(権能) Loading(装填)――』」

 

 泥水に溺れるような感覚の中、絶望の砲弾が、オメガを囲むように五つ装填された。

 【破壊】の権能が宿るその粒子は、万物を砕き森羅を無に帰す。

 

 そして、オメガは片目を眇め、顔の前で構えた右手を、血振りするようにピッと振り下ろした。

 

「『――【Volt()】』」

 

 世界に闇が伝播する。

 量子もつれ状態となった霊魔子に、【破壊】という情報が伝達。連結させられた霊魔子の持ち主――デウス、エクス、ガブリエル、ウリエル、そして天空神ヌトは、全身の末端からヤスリにかけたように破壊され、何か言い残す言葉も時間も無く()()だけを残してこの世から消え去った。

 

「あっあっ、ああああ……」

「うそ、うそうそ嘘嘘……っ『回帰!』『回帰!!』『回帰!!』『回帰!!!!』」

 

 ぷるぷると寒さで凍えるように腕を震わせる。

 ラファエルはウリエルとガブリエルがいた空間に手を突き出し、己のワザを行使するも、意味は無い。そもそも『回帰』で死者さえ蘇らないのに、【破壊】で塵一つ無く葬られたヒトを元に戻す事はできない。

 だが、それでも藁に縋るように『回帰』と叫ぶラファエルは、ついには現実を悟り、顔を覆って崩れ落ちる。

 同じく、【Volt()】の標的では無かったアリエルも顔をくしゃりと歪めて絶叫した。

 

「ちくしょおおおおおおおお!!!!」

「うわぁああああああんんん!!!!」

 

 慟哭する二人に目もくれず、オメガは残した五つの心臓を手に取り、あろう事か、それを喰らった。血の滴ったままの心臓を、つい先程まで鼓動を奏でていた心臓を、今にも動き出しそうな生々しい心臓を、飢えた獣のように食らう。口の周りが血で汚れるのも構わず、一つ残らず平らげた。

 

「アレスゥゥウウウ!!! お前はッ、人間じゃねえ!!! どうしてそんなことができんだよ!!!」

 

 それを目の当たりにしたアリエルは、瞳にこれでもかと言うほど憎悪の炎を燃やして、オメガに問いた。

 

「お前は牛肉や鶏肉を食った人に対して同じくそう叫ぶのか? 私にとってお前達天使はそれと同じ。家畜に劣る分際で、ぎゃーぎゃー喚くな。殺したくなる」

 

 あまりの物言いに絶句するアリエルとラファエルを傍目に、オメガは『不味い』と口の中に残った心臓の肉片をペッと吐き捨て、神域を解いた。 

 

「あ、ぁ………うう゛う゛う゛うあぁぁぁあああああ!!!」

 

 悲しみと憎しみと絶望と。ありとあらゆる負の感情が混じり混じった凄まじい絶叫が、現世に響き渡る。

 

 今まで静観を保っていた天界学園の天使達がざわめき始めた。

 武舞台の上には二人に減った六大天使がしとどと涙を流して泣き叫ぶのを見て、事の顛末を悟る。

 

 神威や神域などの脅威から運良く生き延びていた天使達に向かって、オメガは言った。

 

「私の邪魔をするな―――羽蟲ども」

 

 神同士の戦闘の終幕としては、随分と呆気ないものだった。

 完全に心を折られたアリエルとラファエルを捨て置き、オメガは徐ろに目を瞑り神器の気配を探る。数秒後、対オメガ用の神器を見付け出し、【Volt()】で【破壊】した。

 それと同時に、オメガはこちらをずっと見つめていた一人の天使を念力で引き寄せ、首元を掴む。

 その天使の夜明けに似た瞳を覗き込み、その向こうにいる人物に殺気を滲ませて問いかけた。

 

「何の用だセレス・ファウナ」

 

 ――天音かなたの目を通して観戦していたファウナは、口元に運んでいた紅茶をおろして、のほほんと答えた。

 

「別に。あなたが来るって知って、こうして見守ってたの」

「『…………そうか』」

「昔と比べて大分強くなってるわね。その時が来るのはあとちょっとかしら?」

「『……そうだな』」

「そう。今から楽しみよ」

 

 テーブルの上に置かれた写真立てをつるりと撫で、ファウナは微笑む。その顔は、まるで懐かしい友人に会えたかのような顔をしていた。

 

「そうだ、その子に色々教えてあげて」

「『元よりそのつもりだ。天音かなたはこの世界の重要な鍵を持つ一人。知らなければならないことがある』」

「そう、ありがとう」

「『……ついでに一つ聞きたいんだが、『ソロモンの書』にノイズが走ってる。何故かわかるか?』」

「知らないわよ。私よりあなたの方がよく分かってるでしょ?」

「『そうか……。まぁ原因は何となく把握してる。予想が正しければ―――世界に激震が走るぞ』」

「分かったわ。じゃ、久々のお話し楽しかったわ。またね」

「『ああ』」

 

 天音かなたの視界の支配を解き、ファウナは物憂げなため息を吐いた。そして、隣にいた白亜の人物に視線を向ける。

 

「彼の言う事は正しい。創造主は世界に変化を与えるつもりだ。この変化が彼をゼロに昇華させることを望んでいる」

 

 天使に似た三角形の輪を頭上に持つその神は、機械のようなトーンの変わらない口振りで告げた。

 

「来たる七月七日、五人の謀叛者が解き放たれ、明日(みょうじつ)には四人の正義が解き放たれる。結果、運命の道は幾重にも別れ、捩れる。その果ては二つの未来。彼の者が死ぬ未来か、我々の一部となる未来だ」

 

 そう言い残して、その神―――オメガαは白い光の中に消えたのだった。

 

 

 

―――………

 

 

 

「───う゛っっ」

 

 圧迫されていた喉が開放され、咳き込みながら喉を押さえる。

 

 怖いよ本当に。

 まじなんで僕を受話器代わりに使うねん。破壊の神の殺気を真正面から受けてさ、怖さのあまりチビリそうになるし、なんなら失神しかけたのにさ、セレス様のせいで瞼も閉じれないし気絶して現実逃避もできなかったよ。

 

「おい」

「ぴゃあ!?」

「ついて来い」

 

 これ拒否権無いやつだ。まぁ断る気なんて更々無いもん。だって拒否ったら絶対殺される奴だもん。

 僕は恐る恐る浮き上がり、空を飛ぶアレス様の後を続く。

 

 ねぇこれどれくらい側を飛んだ方がいいの?

 あまり離れ過ぎると顰蹙を買うのは当たり前じゃん?

 でも近過ぎるのもまずいじゃん?

 

 ねぇこれどうしたら正解なの?

 

 と現実逃避も兼ねて考えていたら、急にアレス様が僕の側に転移して、肩をがっと掴んだ。咄嗟の出来事で何も反応できないまま、アレス様の胸元に顔を押し付けられた。

 

「チッ、フォルトゥナとミカエルだな」

 

 見やれば、アレス様の蹴り抜いた右足と、キラキラとした輝きを持った何かが宙に消えていくのを捉えた。そして、どこからか飛来してくる数多の弓矢も。

 この光景から察するに、どうやらアレス様は僕を守ってくれたらしい。

 

「転移するぞ」

 

 僕らを狙ってくる弓矢が届く前に、アレス様が指を鳴らす。

 さっきまで上空高くいた筈が、目の前にはウラヌスを囲む結界があった。

 詳しくは秘匿されてて知らないけれど、この結界は確か許可の無い者がバリアを潜った瞬間、肉体が溶けるっていう機能も搭載されていた筈。それに、ウラヌスの結界は天界でも随一の性能を誇っていた筈なんだけど、アレス様の【破壊】の一撃で塵一つ無く消えたところを見ると、案外呆気ないものだと思ってしまう。

 

 不意に、脳内に『ビー! ビー!! ビー!!!』とアラームが響く。

 あまりの音量にうぅっと呻いた。

 

『警告! 警告!! 侵入者を検知しました!! 脅威レベル・特級!! 警告――』

 

 天界中に轟いてるのかと思う程の爆音が、どこからともなく飛んでくる。脳内に響く警告音も、ウラヌスの結界が壊され、天界が脅かされている事を示しているのかもしれない。

 

「――侵入者を発見!! 排除する!!」

 

 数え切れない程の天使の軍団が、アレス様を狙う。僕も侵入者の一人と認識されているのか分からないけれど、僕ごと侵入者たるアレス様を排除するという気迫を感じる。

 

 視界いっぱいに広がる白銀の矢が、その殺気をこちらに向けて飛んでくる。

 誰か助けてぇぇえええ!!!

 

「『――【Calm()】』」

 

 目にも止まらない速さで飛来してきた矢が、壁にぶつかったかのように空中でピタリと止まった。

 

「有象無象の天使など、無に等しい」

 

 アレス様のその一言で矢は落とされ、千は下らない天使の軍団が、一瞬にして命を散らした。無惨にも、頭を念力で潰されて。

 

 ウラヌスは何もかもが真っ白で、樹木さえも真っ白だ。

 純真、無垢を表すその白さは、今や天使の真っ赤な血で彩られている。

 僕は非現実的な光景、スプラッタな状況に頭がクラクラしつつも、なんとか気を保っていた。

 

「転移するぞ」

「はい」

 

 絞り出すように返事をして、コマが変わるように視界が変わる。今度は、馬鹿でかい神殿があった。そして、その前には教科書で見たことがあるカマエル様がいた。

 

「アレス……いや、オメガ様。貴殿は本当にそれを伝えるつもりか?」

「無論。そのためにここまでコイツを連れてきた」

「そうか。気が変わらないのなら、これ以上引き留めても意味は無いでしょう」

 

 カマエル様のワザは『先見』。未来を視る事ができるワザの中でも、可能性が最も高い未来を年単位で観る事が出来るワザだ。

 その未来を変えることができるのかできないのかは、本人が言わないから不明なままだけど。

 

 ともかく、そのカマエル様がこの状況を観たのは確定だろう。そんでもって、今後の未来で何か不都合があるのも今の会話で窺い知れた。

 

「私が要求するのは一つ。早々と帰っていただきたい。今回の事件で色々と忙しくなるのでな、早めに取り掛かりたいのだ」

「言われずとも、羽蟲の巣窟に意味も無く居座るつもりはない」

 

 すっと、カマエル様が道を開けて、神殿までの道が開く。

 長い階段を歩くつもりは無いのか、アレス様(オメガ様?)は僕の腕を取って指を鳴らし、三回目の転移をした。

 

 三回目となれば視界の変化にも慣れてきて、僕はあたりを見渡した。どうやら部屋の中にいるらしい。そしてその部屋の中には、人ひとりが入れそうな卵が整列して置かれていた。

 

「これが何か分かるか?」

「いえ……でっかい鶏の卵かなんかですか?」

「フッ」

 

 鼻で笑われたんだが?

 

「卵の頂点を押してみろ」

「あっはい」

 

 ひとまず、一番近い卵に近寄り、オメガ様の言う通り卵のトンガリ部分を押してみる。そうすると、カチッという音とともに沈み込み、プシューと煙が卵から漏れ出し、パカッと割れた。

 卵の中からも冷たい白煙が流れ出し、その煙が消えて中身が見えるようになった途端、僕は言葉を失った。

 

「これ……」

 

 掠れた声が途切れ、後を継いだオメガ様が中身の正体を口にした。

 

「――天使だよ。この全ての卵に入っているのは、生きた天使だ。この部屋だけじゃない。他の部屋にもある」

 

 耳から入ってくるオメガ様の言葉が脳内に木霊する。

 生きた……天使。それがこの部屋にある卵全てに?

 一体、何の為に?

 

「これは卵型生命維持装置(オヴォ)。中にいる天使をできるだけと長生きできるように造られたものだ」

 

 コンコン、とノックするようにオメガ様が卵を叩く。

 

「何故だか分かるか? ヒントは日常的にあるものだ」

 

 うむむ……。日常生活で目にするもの、手にするものを思い浮かべても、それがここの天使達と結びつかない。

 でも、なんだろう……少し引っかかるところがあるような……。

 

 

 ―――え? いや……まさか。

 不意に思いついたものは、確かに天使と関わりがある。でも、こんなの突拍子も無い話しじゃ……。

 

「この卵の中にいるのは神器の創造者達? 魂を糧に創られた神器は作り手が死ぬと消滅する……それを防ぐために?」

「正解だ」

 

 まさか、当たっているとは思わなかった。でも、確かに疑問に思っていたことだった。

 神器は強力なもの。なのにそれが大量にあるのが、不思議だった。

 

「ここにいる天使は、神々に命令され神器を創った。人によっては複数個創った奴もいる。神器の材料は己の魂。故に魂が磨り減り、個々の限界に達すれば息をするだけの人形になる」

 

 卵の中で蹲る天使の顔は、虚無だった。

 

「廃人になろうと、創り出した神器に性能の低下などは起こらない。だが、廃人になれば自分で生きられない。だからこそ、死なせない為に卵型生命維持装置(オヴォ)の中に閉じ込めるのだ」

 

 残酷だろう? と、オメガ様は続けた。

 

「でも、当人達は自分で進んで神器を創ったんですよね? 廃人になることを恐れず、天界の良き未来の為に犠牲になった決断を、僕は尊敬します」

「確かにその通りだ。だが、お前はどうだ? 進んで廃人となる道を選ぶか? 選ばないだろう? 何故ならお前は特殊個体だからだ」

「僕が……特殊個体?」

「そうだ。天使は神の言う事は絶対遵守。己の全てより神が優先される。他の有象無象は神に言われれば、それこそ自死すら満面の笑みを浮かべながら遂行するだろう」

 

 オメガ様の言葉に、コロシアムの出来事を思い出す。

 猛威を振るうオメガ様から全く逃げようとしない他の天使達。ルミニーもシャルロットも、逃げようとするかなたを変だと言った。

 セレス様の神域に招かれた時、お嬢とルミニーが酷く狼狽してたのは、不敬を買うことによる死を恐れたんじゃなくて、不敬そのものを恐れていたのかもしれない。

 

「お前は特別だ。特別の天使になれる」

 

 するりと、オメガ様の言葉が蛇のように僕の頭の中に入ってくる。

 

「かつて六大天使は七大天使だった。お前は欠けたその一人になれる。今や六大天使も三大天使に減ったが」

「ど、どういう事ですか?」

「七人目は強大な力を持った天使だった。かつては共に肩を並べたものだったが……それはさて置き、その天使の名前はルシファー。お前と同じ、神に疑問を持つ天使だった」

 

 教科書には七大天使が居たなんて記録は無かったし、ルシファーという名前の天使が居たという情報も無かった。

 揉み消されたのかもしれない。

 

「しかし、お前はルシファーよりも幸運だ。自然の番人セレス・ファウナより仙人となり、今こうして破壊の権化たる私と相見あっている。これがどれだけ異質な事かわかるまい。そして、お前は更に異常な存在となる」

 

 急に、ガっと肩を掴まれた。

 あまりの怖さに、上擦った声が出た。

 

「私の祝福を授けよう」

 

 オメガ様の満月に似た金の瞳が瞬く。

 僕は誘蛾灯に惹きつけられる蛾のようにその瞳から目を離せない。僕の頭の中が金に埋め尽くされ、そして、暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来が不安定となった」

 

「運命の糸も捻れたことだろう」

 

「正直、お前に祝福を授けたのが正解かどうかはわからん」

 

「だが、持っていて不足はあるまい」

 

 

 

「私は、お前を、唯一殺したくない天使(ヒト)だと思っている」

 

 

 

 気付けば、僕はウラヌス上空にいた。隣にはオメガ様もいる。僕が覚醒したのを一瞥し、何事も無かったかのように視線を斜め下方向のウラヌスに落とした。

 

「今一度、見ておけ。念動力の神髄。その一端を」

 

 Probability(確率)――Convergence(収束)

 

 ゾクッと背筋に寒気が走る。

 コロシアムでも見たあの一撃が、再び猛威を振らんと牙を砥ぐ。

 

 僕に教えを説くように、オメガ様は緩慢な動作で右腕を銃に見立てた。

 

「『Singlet(単重)Authority(権能) Loading(装填)――

 

 ビリビリと痺れるような感覚が全身に走る。

 大気が抵抗するように、風が荒れる。

 

 森羅万象を虚無に帰す破壊の御業。

 銃口の前に、超高密度に凝縮・圧縮された霊魔子の塊が、小さなブラックホールのように闇色の輝きを放っていた。そして、それがどんどん大きくなる。

 

  Maximum Output(最大出力)――【Strike()】』」

 

 破滅を宿した球体は一際強く輝いて、世界をモノクロに染め上げた。音すらも【破壊】したその砲弾は瞬く間に姿を消す。

 夢幻の如く消え去りけれど、渦中にあった住居、地面は大きな穴が空けれて、その先の海面が見えた。

 

「チッ。またフォルトゥナの仕業か。アイツもよくやる」

 

 中央からズラしたな、という言葉を聞く限り、ウラヌスのど真ん中にあの大きな風穴を開けるつもりだったらしい。

 

「ん? あれはヌトだな。Strike()。さて、見てたな? あとは精々頑張れ。私は帰る」

「あっはい」

 

 片手間に主神様を【破壊】したオメガ様は、じゃあなと告げて転移で消えた。

 心臓を悪い意味でどきどきさせる人がいなくなって一息ついた僕は、はっと気づく。

 

「僕、どんな顔して戻ればいいの?」

 

 僕は二度目のため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 6月29日

 午前9:15分

 ミネルヴァにアレスが顕現。

 主神ヌト、『神炎』ウリエル、『回帰』ラファエル、『世界』アリエル、『神言』ガブリエル、『人造の神』デウス及びエクスの計8名と戦闘。

 

 午前9:45分

 主神ヌト死亡。『神炎』ウリエル消滅。『神言』ガブリエル消滅。学園生徒358名消滅。戦闘の余波によりコロシアム倒壊。

 生存者である『回帰』ラファエルと『世界』アリエルに重度の心的外傷後ストレス障害を確認及び復活した主神ヌトに精神的外傷を確認。

 

 午前9:58分

 ウラヌスにアレス及び天音かなた両名が侵入。

 同時刻において、天軍勢総勢1500名及び天軍総長『正義』ミカエルを圧殺。及び奉還神殿に侵入。

 

 午前10:09分

 ウラヌスの1/3を消し飛ばし、眷属を持たない一部の神々は消滅。同時刻、復活した主神ヌトを殺害した後、アレスは姿を消した。

 

 

 *殺戮神アレスの戦闘能力に追加項目あり。

 【破壊】の権能に加えて詳細不明の権能を確認。(荼枳尼天印及び心臓を捕食していた事から、荼枳尼の権能を保有している可能性大。詳細を調査する為ヤマトへの派遣を決定)

 遠隔による【破壊】を確認。

 肉体反射による魔法行使を確認。

 原理不明の念力行使を確認。(アリエルによる再現不可。脳が焼き切れるとの証言)

 時間耐性を有することを確認。(本人証言)

 左腕の非再生を確認。

 

 以上より、殺戮神アレスの脅威度を特級→特別特級へと変更する。

 

 補足

 天音かなた、イータ、シータの3名の要観察を決定。

 

 

 

―――………

 

 

 

 6月29日午前10時7分

 白銀家会議室にて。

 

「―――つまり、戦闘を極めるということは引き算を極める事になります。無詠唱が推奨されるのはこんな理由もあります」

 

 この日は、銀鏡チヒロは団員相手に講義を行っていた。

 

「念力をこれに当てはめると、無詠唱かつゼロ距離で相手に霊魔子を介した干渉が可能になります。しかも相手が『仙人』以上でなければ抵抗不可というオマケつき。そんなわけで私としては『仙人』になることを推奨してるのですが……」

 

 ホワイトボードに『無詠唱!』『ゼロ距離!』『さいきょー!』と書いたチヒロはしょんぼりと耳と尻尾を垂らした。

 

「時間がめっっっっちゃかかるんですよね〜。しかも成り立てはショボい。もうへっぽこ中のへっぽこ。ゴミです」

 

 チヒロは『やべー程時間がかかる』『ショボい』『ゴミ』の三つをホワイトボードに書き足した。

 講義を聞く団員達は律儀に『やべー程時間がかかる』『ショボい』『ゴミ』の三つを書き写した。

 

「副団長、質問です」

「はいはい何ですか?」

「副団長は『仙人』になるのにどれくらい時間がかかりましたか?」

「う〜ん。実は私、『仙人』になるための修行してないんですよね〜」

「は?」

「私『夜明』で『仙人』に到達したタイプだったので、修行の時間を割いて無かったんですよ。あっ、でも成り立ては勿論へっぽこ太郎だったよ。だから念力を伸ばす為にめっちゃ頑張ったなぁ」

 

 遠い目をしたチヒロは、ゴホンと咳ばらいした。

 

「まぁ、本気で『仙人』を目指す人は私に連絡してください。私と一緒に修行しましょう! ファイトー!」

 

 拳を上げたチヒロは不意に固まり、とある方向に視線を向けた。

 

「ん! ちょっと用事ができたのでこれにて講義は終了! 解散! 閉廷!!」

 

 サラバダー! と叫びつつ講義室を飛び出たチヒロに、同じく講義室でチヒロの講義を聴いていたいろはが追い付く。

 

「急にどうしたんでござるか?」

「ちょっと覚えのある感覚がしてね、それを確かめに行くの」

「ふーん……」

「あっ、そんな顔しても着いてきちゃ駄目だからね! 危ないから大人しく私の執務室で待っててね!! あと誰か来たら対応よろしく!」

 

 にべも無く、チヒロは空を飛んで何処かへと消えた。

 

「…………風真だって強いんでござるからなー!!」

 

 チヒロには届かないと知りながらも、その空に思いを叫ぶ。

 いろははフン、と鼻を鳴らして言いつけ通りチヒロの執務室に足を運んだ。

 

 執務室の壁に飾られているカレンダーには、チヒロの予定がビッシリと記されている。ペラリと一枚捲れば、闘技大会の日付が赤文字で書かれている。7月6日予選、7月13日本選と記された隣には、可愛くデフォルメされた狐がぽこべぇらしき狸と『風真ガンバレ!』と言ってる吹き出しがあった。

 

 それを見るたびにいろはは、気恥ずかしい思いと一緒に、頑張ろうという気持ちが湧き上がってくるのだ。

 最近チヒロは忙しく、一緒に修行ができてない。ペットのくじらだって時たま寂しそうに鳴いている。さっき執務室の扉を開けた時も、いろはを見てこれ見よがしにがっかりしていた。

 

「お前も寂しいよなぁ……」

「くぅ〜ん……」

 

 執務室の主であるチヒロの趣味でフカフカなソファーに凭れながら、ぼーっと窓の外を見る。

 先週あたりからここらの地域は梅雨に突入し、今も窓の外は鈍い色一色。重く垂れ下がる空からは、今にも雨が降りそうだった。

 

 ―――不意に、窓の外に人影が落ちる。

 

(およ?)

 

 なんだろうといろはが視線を向けた途端、白線が煌めく。

 窓ガラスが切り裂かれ、湿った空気が室内に流れ込んだ。

 

(侵入者!!)

 

 直ぐ様壁にかけられた木刀を手に取ると、いろはは睨み付けるように目を凝らす。隣には、歯を剥き出したくじらが浮いている。

 鍵のかかった窓ガラスを破った場合、警告音が鳴り響く筈だが、何故か無音。侵入者を知る者は自身とこのくじらだけ。

 くじらに誰かに報告してもらおうと口を開いた途端、外から誰かが飛び込んできた。

 

 和風の装い、風に靡く薄金の髪。

 そして、澄んだ湖のような瞳。

 

「なんじゃ、ヤツかと思いきや……」

「え………」

 

 侵入者が居るというのに、いろはは木刀を抜くこともせず、ただ呆然と目を見開いていた。

 

「お前か、風真いろは」

「ばあちゃんんんんぅぅうう!!!?」

 

 ―――それは、風真の里の創設者。

 カミであり自然の番人自ずから〝目覚め〟と〝禊〟を施された最強の一人。

 今や『聖仙人(亜神)』と呼ばれる存在となった風神ミコトその人であった。

 

「久しいじゃないか」

*1
脳内速度を遅らせることで、間接的に体感時間を遅らせているため。時間は誰にとっても一定の速度で流れないことはアインシュタインが証明済み




 調べてみたら梅雨明けって本州の場合七月だったので、七月に闘技大会を変更しました。
 天界の秘密はまだあります。例えば、天使という存在がある理由と何故神が絶対なのか。大天使の位階は上から8番目で、最下位の天使の上なのに、何故六大天使は皆より優れた存在(神の直属)として認められているのか。ルシファーは何故七大天使から外され、六大天使となったのか。
 まだ天界で書きたい話があるので、また出します。

 天界にいる神々はいわゆるギリシャ神話やローマ神話などの神々であり、日本神話の神々はヤマトにいる。そのため、荼枳尼は天界にいない。

 天音かなた
 あの後、特に何も無く合流した。意味不明である。
 今後は同じ観察対象であるイータとシータとも過ごす事になる。

 主神ヌト
 二回目はあっさり殺された。

 カマエル
 『先見』のカマエル。どんな時も目隠しを外さない。

 ミカエル
 六大天使『正義』のミカエル。天軍総長で、「侵入者発見!!」と叫んだ人。特に活躍する事なくオメガに潰された。

 セレス・ファウナ
 オメガとは昔、交流があったようだ。

 オメガα
 四神の補佐として動き回る日々。目指す未来は唯一つ。

 オメガ
 破壊の権能と荼枳尼の権能を持つ。残り一つはまたいつか。
 ソロモンの書にノイズが走り、今後の未来が分からなくなった。それは即ち、近日中に何かとんでもない事が世界に起こることを意味している。それを引き起こすのはおそらく……。

 風神ミコト
 遂に登場。ちなみにのじゃロリで髪は腰まで伸ばしてる。好きなものは牛乳。
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