今回の主な内容は三期生の馴れ初めです。全員出ます。あの人もです。苦手な方は注意してください。
話のストーリー上、フレア以外幼児なので、普通本文のような言動や思考はできないと思いますが、そこは目を瞑ってください。
次は以前あげた降臨を書き直す予定です。
Magic・Scienceより一部抜粋して記載。
21世紀までは、魂はどこか胡散臭いものだと捉えられていた。1901年ダンカン・マクドゥーガルがとある発表をした。『人の魂の重さは21gである』というものだ。人の体には魂が宿っており、ある程度の重量を持つはずだとの説を唱えたマクドゥーガルは、死期が近い被験者の死亡前後の体重を計測することで証明しようとした。だがその重さのばらつきが大きかったり、再現性が低すぎる事から、真剣に取り扱われる事が無かった。せいぜい漫画や小説、映画に取り上げられる程度であった。
だが科学技術の発達、魔法技術な向上により、『もしかしたらあるのでは?』というようなものになってきた。
その後、魂の存在は、神や亜神、魂を視る事ができるワザの持ち主などでその存在は確かなものだとされた。しかし、魔導科学的*1に魂の存在を証明することは長年の課題であった。
だが積年のその課題も遂に紐解かれる日が来た。
魔法の名家である紫咲家と死霊術の名家である潤羽家の共同研究により、魂の存在が魔導科学的に証明された。その観測手法や計算手法が確立された後、当然ながらその技術の向上及び効率の向上などが研究され、魂の存在が証明されてから数十年後、〝魂の情報〟はどこへいくのかが、当時のホットな話題だった。
どんな事があろうと〝情報〟は失われないというのが定理だ。*2だが魂はいつか必ずこの世から姿を消し、いわゆるあの世へ行くというのが共通の認識である。ここでヤマトの輪廻転生という考えを挙げよう。これを簡単に言えば、人は何度も生き死にを繰り返すということである。これを単純化して考えると、確かに〝魂の情報〟は消滅することなく保存される。
魂の存在が魔科学的に証明されてから1世紀半、『魂は輪廻転生する』という説が魂魄学学会を賑わした。また、世界的科学雑誌である『Nature』に『生前の記憶は生前の自分から遺伝する』という論文が同時期に発表された。この偶然の一致はまったく意図しない出来事であった。
その研究グループはオッドアイを持つ人間に着目していた。背景としては、オッドアイ――つまり虹彩異色症の人間は高確率で前世の記憶を保持しているのは何故か? という問いに遺伝子という物理的なものに着目して話を展開している。
この論文では百組の前世を覚えている虹彩異色症の人間の遺伝子調査結果を示している。
虹彩異色症の人間の全ゲノム解析を行った結果と、その方々の前世の遺体の全ゲノム解析の結果だ。
二十年にも渡る長年の研究の結果、タンパク質をコードしないジャンクDNA*3と呼ばれる領域に、『前世遺伝子』と呼ばれる遺伝子が虹彩異色症の人間に発現していたことが判明した。この遺伝子は血の繋がった親や兄弟に存在せず、前世の自分と今世の自分に共通していた。『前世遺伝子』は五百以上のアミノ酸で構成されているが、そのアミノ酸全てが一字一句違わず合致していたのだ。これは大変興味深い結果である。この結果は即ち、『魂は遺伝子という物理的な存在で
この二つの論文が科学者達と究明者達を大いに興奮させた。
特に死霊術師であるネクロマンサー達はやっきになった。死霊術は死者の生体情報を媒介にしてその者の魂を降ろす。無論魂は遅かれ早かれいつか必ず消えるため、降ろす時に魂が無ければ死霊術は失敗する。
ここで、もし、今世の生体情報を使って前世の自分を起こせた場合、魂は二重性を持つことになる。つまり魂は
①この世の全てのものは、エントロピーは増大に向かうという法則*4の下、情報も増えなくてはいけない。
②魂に時間的不変性があるならば、エントロピーは極限的に停滞しなければならない。
③この場合、魂はイワレを蓄積しない。
イワレは生きとし生けるもの全てに蓄積するものであり、イワレは魂に収束する。魂の時間的不変性が証明された場合、この原理に反することになる。
逆に魂が時間的に可変であるとすると、五百以上にものぼる『前世遺伝子』は必ず前世と今世で変化しなければならない。
このようなパラドックスが生まれる。
結果、前世の人間を起こす事ができ、このパラドックスが誕生した。実際に実験を行った潤羽家により、このパラドックスを
ここで少し別の話をしよう。
死者の自分を今を生きる自分の生体情報で起こす事ができた場合、その逆はどうなるのかと研究したグループがあった。この紫咲グループは、本人承諾の下、今世の死後、前世の生体情報で魂を降ろしたところ、今世の自分を起こす事ができた。逆に言えば、前世は起きなかったのである。復活させた人に話を訊いたところ、この体に戻りたいと無意識下に思っていたようだった。また、もう一方のケースだと、前世の自分が復活した場合があった。こちらに関しても同様の事が起きている様子であった。
ケースが少ないので絶対的な事は言えないが、この結果から『魂は意識に影響される』という事が示唆された。
察しの良い読者の皆様方はもう分かっているだろう。
潤羽グループが行った研究では、死者と生者の二人分に相当する魂があった。
一方紫咲グループが行った研究では、死者と生者のうちどちらかしか復活しないため、魂は一人分しか相当しないことになる。なお、生者を起こした後、もう一度死霊術を執り行なった場合でも前世は起きなかった。
ここで再び、妙なパラドックスが生まれた。
魂は同時期に二つ存在できるのか。あるいはできないのか。
この二重性が顔を出してきたのだ。
この問題を〝潤羽・紫咲問題〟と呼ぶ。
魂というのは奥が深い。一つの事実が発見されても更に不可解な発見が同時に見出される。
長々と綴ってきたが、筆者が言いたいのは、前世は確かに存在するという事で、現在多くの科学者と究明者達が日夜研究に勤しんでいる事である。
果たして〝死神からの挑戦状〟と〝潤羽・紫咲問題〟は解かれる日が来るのか? 筆者はそれを心より楽しみにしている。
ここでこの話題に触れるのは正しくない事かもしれないが、xxxx年12月3日、ウェスタで開催されたエックス・オヴァ学会にて襲撃事件が起こった。その際、参加していた博衣こより氏と紫咲ショコラ氏が襲撃犯に連れ去られた。この事件から半年以上過ぎた今に置いても、その安否は定かではない。
この事件で逝去なされた多くの方々に黙祷を捧げるのと同時に、博衣こより氏と紫咲ショコラ氏両名が存命であることを祈っている。
著者 神崎薫(かんざき・かおる)
ヤマト大学大学院魔導科学研究科・相関基礎魂魄科・准教授。専門は原子・分子・分子生物・魂魄。霊魔子系を用いた量子シミュレーション実験に取り組んでいる。
監修 潤羽ひより(うるは・ひより)
デーモン大学教授。専門は魂魄・死霊術・基礎呪術。死霊術の拡張性について研究している。
詳しく知るには……
『現代の謎』、博衣こより、Magic・Science xxxx年5月号
『魂と意識の関係性』、紫咲ショコラ、Magic・Science xxxx年8月号
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潤羽るしあには、繰り返す見る夢がある。
それはいつだって、血と土と誰かの叫び声で満ちている。
踏みしめる地面は、憎悪を煮詰めたようなどす黒さ。
頭上にかかる空は、血肉を凝縮したような鮮烈な赤。
ここは地獄だ。
そうとしか思えないような世界。
空に雷が走る。紫がかった大きな雷が、幾筋も流れて不安を煽る。遥か遠い場所で何かが起きている。でも何かがわからない。
夢の終わりを告げるのは、いつも決まっている。
誰かに殺されるのだ。
心の臓を刺されて、死ぬ。
夢の中は朧げで空気を漂うような曖昧さだというのに、何故か、何故かその痛みだけは強烈に、るしあの脳に刻みつける。
その痛みを忘れるなとでも言うように。
『ごめん』
『ごめんね』
『君の死を無駄にしないよ、ルシ――』
いつだってるしあは、その人を探している。
―――………
宝鐘マリンには夢がある。
それは海賊になって宝を見つけることだ。沢山の仲間に尊敬される船長になり、金波銀波をかき分け、まだ見ぬ冒険に出たいのだ。
朝だ あ〜さ〜だ〜よ♪
その夢を抱いたのはいつだったか。確かな日時は覚えていないが、きっかけはあった。
そのきっかけは、夢だった。睡眠時に脳が見せる幻影、過去、妄想。
朝日が〜 のぼ〜る〜♪
その夢でマリンは船長だった。
十数人の仲間で構成された宝鐘海賊団の船長。
『船長!』
『デ――ネ船長!!』
声の色はわからない。ただ呼ばれてることだけが分かる。
でも、不明瞭で、上手く聞き取れない。
いつだってマリンは、その声の続きを探してる。
月内向き 陽はのぼる♫
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みん〜な 元気で〜♪
朝日〜を浴びて〜♫
目が覚めれば、見慣れた天井。寂れてシミが浮かんだ木目の天井。薄い布団の上でマリンは今日も目覚める。
朝だ 元気だ〜♫
元気な〜 あ〜さ〜だ〜♪
梅雨が終わって夏の始まりを告げる蝉が、今日も今日とて鳴いている。マリンちは貧乏だから、エアコンはあまりつけない。代わりに扇風機と窓を開けて少しでも熱が逃げるようにしてる。窓辺には風鈴がチリンチリンと鳴いていた。
「おはよう! おはよう!! おはよう!!!」
「おはよー。お父さんのその歌、夢の中まで貫通してたわ」
枕元でマイムマイムしながら歌うお父さんに起こされ、マリンは寝惚け眼を擦る。
そうだ、今日は闘技大会の観戦に行くんだった。
布団を畳み、パジャマ姿のままリビングに向かう。食卓には、既にお父さんが新聞を広げていて、テレビを見てるお姉ちゃんが座っていた。台所にはお母さんが朝ご飯を用意していた。
「おはよー」
陰キャ極めし我が姉の隣に座り、テレビに映るお天気お姉さんの声に耳を傾ける。
『ウェスタ全域は広く高気圧に覆われ、爽やかな青空が広がるでしょう!』
七月六日、今日の最高気温は三十三度、夏の始まりを告げるような気温だ。
「板抱きまーす」
「………」
「………」
お父さんのしょうもないギャグをお姉ちゃんと揃ってフルシカトし、手を合わせる。今日の朝ご飯は苺ジャム付きのトーストだった。ちょっと贅沢だ。
マリンの口いっぱいに頬張ったところで、再びテレビを見る。既にお天気コーナーは終わり、次のコーナーに移っていた。
どうやら今度は中継らしい。きっちりとしたスーツを着た男性がマイクを手にカメラに向かって片手を振った。
『テレビの前の皆さんおはようございます! 私は今、本日から開催される闘技大会の会場に来ております!!』
ぐるりとカメラが周りを映す。そこには大理石で造られた白亜のコロシアムが鎮座していた。古くからあるそのコロシアムは歴史的価値もあり、観光客が多く訪れる観光名所となっている。外壁には屈強な男性と女性の彫像が多く並べられていて、その人達はかつて実際に存在していたらしい。
カメラマンがズームする先には、今日行われる闘技大会を楽しみに入場口に並ぶ人々が居た。
「おー、めっちゃ並んでるやんけ」
『開場は9時からとなっていますが、既に大勢の人達が並んでいます!』
今はまだ8時5分。随分と気合が入った様子だ。先頭に並ぶ観戦客によれば、早朝から並んでいたらしい。有料観覧席のチケットは取れなかったからだって。無論、マリン達は無料のとこで観る。
カメラが動き、コロシアムの中に入っていく。コロシアムに関する情報や闘技大会に関する情報を軽やかに話すレポーターを画角の端に捉えながら、カメラはそのうち、一つの部屋の前で止まった。扉に張られた電光プレートには『闘技大会実行委員会控室』の文字が浮かんでいる。
そのドアをノックし、開かれた先にはこれまたスーツ姿の男女三人と白銀騎士団団長と副団長がいた。副団長の銀鏡チヒロさんはカメラに気付くとヒラヒラと手を振る。
『おはようございます! 本日開催される闘技大会予選。見どころや注目選手について教えていただきたいです!』
『おはようございます。見どころと致しましては、やはり乱戦ということで、個人がどう立ち回るか、そしてどんな手で他者を蹴り落としていくかが見どころでしょう。また、事前に登録した三つの手段をどう組み合わせていくかも興味深いところです』
『なるほど! ありがとうごさいます!!』
マイクの向けられる先が実行委員の人から副団長に移る。*5
『注目選手としては、やはり風真いろはさんですね。身内贔屓もありますが、彼女の強さは本物です。どんな強敵難敵であれ、必ず本選まで残るでしょう』
『白銀騎士団遊撃隊隊員の風真いろはさんですね! 確か『聖人』であるとか……?』
『はい。入団時点で既に隊長に勝る実力を身に付けており、現在は私、『白銀の仙狐』指導の下『仙人』の修行を行っております』
『つまり風真さんは『仙人』だと?』
『はい。つい先日到達致しました。鼻が高いばかりです』
「めっちゃ喋るやんコイツ」
銀鏡さんの話が長い。もうマリン達は朝ご飯食べ終わってしまったよ。あっ団長に小突かれた。
『すみません、つい長話を』
『あはは、沢山ためになる情報を教えていただきありがとうございます。テレビの前の視聴者さんも喜んでいると思われます』
『あ、最後に一つだけ皆さんに。優勝候補者の中には、生きる伝説、『勇者』風神ミコトが参戦することをお伝えしておきます』*6
「うぉいマジかよ!? すげぇなオイ!」
レポーターが驚きのあまり絶句するのと同時、お父さんも驚愕の声を挙げた。お姉ちゃんも驚きのあまりジャンプして膝を食卓の裏に派手にぶつけた。
「誰?」
「風神ミコトってのは一万年前の暗黒時代、猛威を振るっていた魔王マクスウェルを討ち、平和を齎した人物だって言われてる人間だぜ」
「へぇ〜そんな凄い人が参加するんだぁ」
「こりゃあ優勝者決まったかもなぁ」
「沢山人集まりそうだね」
「そうやなぁ。それに、『勇者』が優勝したとして、『最強』か『白銀の仙狐』と戦う権利が得られる。こりゃあどっちを選ぶかみものだぞ」
果たして『最強』と『勇者』はどっちが強いのか。はたまた『白銀の仙狐』と『勇者』はどっちが勝つのか。
「エキシビションマッチは予選や本選と違って制限無く、全力で戦える。すげぇことになりそうだ」
お酒でも飲んだかのように饒舌にペラペラ喋るお父さんは、楽しそうに口元を吊り上げた。
コロシアムの開場は9時からだが、予選自体は10時から始まる。また、参加者はAブロックからCブロックに分かれており、それぞれのブロックに30名ずつ参加している。制限時間は2時間とされて、各ブロックから2名本選に出場できる。2時間経過時点で3名以上立っていた場合、その3名は観客からの投票で本選出場者が決められる。
※闘技大会規則
1、徒手空拳に加えて事前に登録したワザと霊魔子を介する術三つ(魔法や呪術、錬金術など)のみを使うことができる。例:ワザ、身体強化魔法、結界魔法、反射呪法
2、闘技場から落下したものはそこで脱落とする。これに関して、結界を用いて足場とするのは良しとする。ただし闘技場の高さ(2メートル)未満の高さで結界を張るのは禁止とする。
3、剣や刀、槍、棍棒、ナックルなどの近接武器に加えて銃や弓などの遠距離武器も使用可とする。その数は問わない。
4、徒党を組むのは許可するが、残り人数が10人以下となった時点で即刻解散すること。
5、特殊な効果がある道具の使用(魔道具や呪具、神器等)は禁止とする。ただし
6、降参を宣言した者への攻撃は禁止とする。
7、観客席及び解説実況席への攻撃は禁止とする。
8、規則の穴をつく行為は咎めないが、場合によっては審判による規制が入る。その他審判の指示には必ず従うこと。
9、前項らに違反した参加者は反則負けとなる。また、著しくスポーツマンシップに欠けるものが見られた場合も同様である。
力は正しきことの為に。
参加者諸君らにはこの文言を胸に刻んで励んでほしい。
『―――以上がこの闘技大会のルールだぜ! さぁAブロック、心して聞けよ!! 開戦の合図だぁあああ!!!』
解説実況席から、号砲が飛ぶ。
出場者達はこぞって鬨の声をあげ、己の力を振るい始めた。
―――………
Aブロックの戦いが終わり、昼休憩を挟んだ12時28分頃。
コロシアム貴賓席にて、座り心地抜群のソファーに乗って足をバタつかせているのは、白銀家御息女、白銀ノエル。その背後に仕えるのは側仕えのハーフエルフ、不知火フレア。
「フレア〜、お外遊びに行きたい! 屋台行きたい!!」
「承知しました。お出かけの準備をします」
もうじき2歳となる白銀ノエルはわんぱくの一文字だ。目に映るもの、耳に入るもの全てに興味を示し、あれは何これは何と質問責めにする。フレアは大抵の事に答えられる*7が、専門性が高くなると匙を投げるか、ノエルの様子を頻繁に窺ってくるチヒロに投げている。
と、噂をすれば銀鏡チヒロがやって来た。
「やっほー、ノエちゃん元気ー? 不知火さんも元気ですかー?」
「元気ー!」
「おかげさまで」
「ん、重鎮重鎮。ところでどっか出かけるの?」
チヒロの足にしがみつき、登山のように登り始めたノエルに構いつつ、ノエル用の麦わら帽子とレースの付いた日傘を持ったフレアに水を向けた。
「はい。ノエル様が屋台に行きたいと申されたので」
「おーいいねー。「チーちゃんも一緒に行こ!」いいの? やったー!」
頭の上まで登頂したノエルを肩車し、屋台に誘われたチヒロは浮足立つを表現するように、弾むように足を動かす。それにきゃっきゃとノエルは喜色の声を挙げた。
屋台が連なるエリアでは、焼きそば、フランクフルト、じゃがバターなどなど、お腹を空かせるような香ばしい匂いが漂っている。
チヒロに肩車されてるノエルは、その頭上から『わたあめ』の文字を見つけ出した。早速己の足になってるチヒロに指示すれば、合点承知の助と返事が返ってきた。
「お待ち下さい銀鏡様。私が買ってきます」
「あぁ、うん、ありがとうございます」
フレアに止められたチヒロは『別にいいのになぁー』と零しつつ、わたあめ屋に向かうフレアを見送った。
件のわたあめ屋は多くの子供連れの客や、子供達が集っている。その子供達の群れを遠巻きに見つめる二人の少女がいた。
「わたあめ食べたいぺこ」
「マリンも」
「「でもお小遣いが……」」
手に握るお小遣いは、わたあめを買える程の金額は無かった。既に焼きそばやりんご飴を買ったために手持が底をついていたのだ。
「世知辛い世の中だなぁ……」
口を慰めるように指を咥える二人を、ノエルは見ていた。
「……チーちゃん」
「もちの論でっせ。お嬢様の優しさで私、感激の嵐でございます」
「ふふっ、チーちゃん大げさっ!」
フレアに三人分のわたあめをお願いして、ノエルを腕に抱いたチヒロは二人の少女に近付く。片方は兎の獣人。片方は赤目黄色のオッドアイの少女だった。
「こんにちわ」
「………」
「ちょっと待て。無言で防犯ブザーのスイッチを引き抜くんじゃない」
「それ以上近付くと防犯ブザー、鳴らしますよ!」
「もう鳴ってるんですけど。加えて電撃もバッチバチに当たってるんですけど。隣の君も彼女に何とか言っておくれ」
「ナンパ?」
「違うわい!」
このやり取りで何を感じ取ったのか、ひとまず防犯ブザーをおさめてくれた。
「私は銀鏡チヒロ。そしてこの子が……」
「白銀ノエルです!」
「君たちのお名前を訊いてもいいかな?」
「「ナンパ?」」
「だから違うわ!!」
チヒロの鋭いツッコミにクスクスと笑顔を見せる二人は、改めて名前を名乗った。
「宝鐘マリン! 夢は海賊になること!!」
「兎田ぺこらぺこ」
「マリンちゃんと、ぺこらぺこちゃんね!」
「違うぺこ。名前がぺこらで、語尾がぺこですぺこ」
「ダハハッ! 名前間違えられてやんの!!」
「やんのかテメェー、オラッ!!」
「今どきの子ってこんなに血の気多いの?」
先手必勝とばかりに、マリンの顔面を狙って右ストレートを繰り出すぺこらの肩を掴んだチヒロは、その容赦の無さと喧嘩っ早さに慄いた。
「それはさて置き、ぺこらちゃん。私達前にも会ったことあるよね?」
「ナンパ?」
「ナンパの常套句じゃないし、それはもう面白くないぞ。ほらエックス・オヴァ学会でぺこらちゃん迷子になってたでしょ?」
「あっ、あのときのキツネさん?」
「そうそう、あの時は自己紹介しなかったからね。にどめましてっていうやつだ」
改めてよろしくね、とチヒロが告げたところで、わたあめを三人分買ってきたフレアが合流した。ぺこらとマリンを見て、チヒロの意図を察したフレアは優しい笑みを浮かべて二人に手渡した。もちろん、ノエルにも。
「「いいのー!?」」
「もちろん! でも感謝はノエル様に言ってね。ノエル様が君たちにあげようと思ったんだから」
「「ありがとうノエル!!」」
「えへへっ、よせやい」
「(……なんか発言が私に毒されてる? 言葉遣い気をつけねば)」
ノエルは照れ隠しか、わたあめに顔を突っ込んだ。案の定、ベタベタになり、少し呆れた顔をしたフレアがハンカチで顔を拭う。
わたあめを食べ終えて早々、マリンがノエルとぺこらの手を握った。どうやら一緒に屋台を周りたい様子。その旨を二人に投げかければ、幸先良い返事が返ってきた。
「じゃあ好きな物なんでも奢ってあげよう。遠慮せず言いなさい」
「「「いいの!!?」」」
「せっかくのイベントだからね。もちろんですとも」
「「「やったぁぁあああ!!!」」」
チヒロというぶっとい財布を手に入れたマリンとぺこらは、あれ食べたいこれやりたいとはしゃぐ。そのうち、射的や金魚釣りをやった事が無いというノエルの発言により、まずは射的をする事になった。
先をゆく幼女三人組の後ろを、保護者のフレアとチヒロが歩く。
「よろしいのですか?」
「ん、何がですか?」
「ノエル様の友人は高貴な方で無いと」
「あぁ、そういう事。確かに白銀家はその成り立ち上、高貴な方々と深い縁がありますが、貴族という訳でもありませんので、そこまで角張った事をする必要はありません」
「そうだったんですか」
「……それに、小さい時くらい自由でないと。今後、白銀家に相応しい人物になるよう、武術や勉強が厳しくなりますからね」
「なるほど……」
チヒロに言われて、フレアは想像してみる。
騎士団の隊長や団長、副団長に稽古をつけられるノエル。毎日毎日度が過ぎる訓練に身を窶して、疲れ果てた表情で眠る。女の子らしく成長してきても、竹刀の振りすぎで豆が潰れて固くなり、女の子らしくないと嘆く姿。
算数や国語などの基本教科に加えて、礼儀作法や帝王学までみっちり勉強させられて、目をぐるぐる回すノエル。そして、もう勉強やだぁ、と深夜にフレアに泣きつく姿。
反抗期で色んな人や物事に反発して、やさぐれるノエル。それは側仕えのフレアでも同じで、勝手に人のモン触んじゃねぇよ!! と怒鳴られるのだ。
「……悲しい」
「今の間に何があった?」
ノエル様ぁぁぁ、とすんすん泣き出したフレアに、チヒロはしどろもどろで内心、『(不知火さんって情緒不安定なのかな?)』と思いつつ、この場を収められるであろうノエルを探すにも、当の本人は現在射的にヒャッハー! と夢中。後ろの惨状には気付いてない模様。
「(これ周りの人から、女の子を泣かすなんて銀鏡さんってもしかして酷い人? って絶対思われるよぉ!!)」
別の意味で泣きたいチヒロに、突如背後から声がかかった。
「女の人を泣かせるなんて、最低ですね」
まさに危惧していた台詞が、背後からチヒロの心を的確に貫く。ぐふっと血を吐く自身の幻影を見ながら弁明すべく振り返れば、そこで更に心を抉られた。
「マジあり得ないんですけど」
幼女だった。
汚物でも見るような目をして、顔を顰めた幼女がそこにいた。
これが大人だったらまだ耐えられた。だが幼女だった。まだ純真無垢な存在である彼女から出た言葉が、チヒロの心に重大なダメージを与えていた。チヒロは泣きたくなった。
「いやこれは私のせいではなくてですね」
「黙るのです」
「はいすみません」
「まったく、師匠はどこか行っちゃうし、こんな変な人に出会っちゃうし、地上は困ったところなのです」
「……ん? もしかして魔界の潤羽家のお嬢さんですか?」
彼女の髪色と、血のように赤い目の色、そして地上という発言。最後に、出場者の中に明らかに死霊術の賜物である骸骨がいたことより、チヒロは目の前の人物が誰か当ててみせた。
「なんでるしあのこと知ってるのです? もしかしてロリコンなのです?」
「なんで今日みんなそんなこと言うの? 全然違いますけど?」
「あ、またチーちゃんが女の子引っ掛けてる」
「ノエちゃん、頼むからそんなこと言わないで」
射的を一通り終わらせたマリンとぺこら、そしてノエルが合流。フレアがノエルに気付くと、行方不明になってた娘と再会した母親のように、ノエルを抱き締めた。
「ノエル様!!」
「えへへ、痛いよぉフレア!」
一気に三人も人が増えたせいか、あるいはそんな茶番を目の当たりにしたせいか、潤羽家幼女はフードを被って縮こまってしまった。
そんな彼女に近付くのは、陽キャそのものの宝鐘マリン。その太陽のような明るさをもって、話しかける。
「わたしは宝鐘マリン! あなたのお名前は?」
「………」
「お名前は?」
「……潤羽るしあ」
「なんて?」
声が小さくて聞こえなかったマリンに、るしあは大きく息を吸って、叫んだ。
「潤羽るしあなのです!」
「おお! そうか!! よろしくな、るしあ!!」
この出会いが今後、各人の人生において多大なる影響を及ぼすことは、誰にもわからなかった。
「あ、チーちゃん」
「どうしたのマリンちゃん」
「射的ツケてるからお金払っといて」
「なんでお金払ってないのに遊べてたのか疑問に思ってたんだけど、ツケてたのか。よく屋台でできたね」
「チーちゃんの名前出したら一発だった。マリン、悪いこと思いついちゃったかもしれない」
「それはやめとこうか。捕まるよ。そして私はマリンちゃんを捕まえたくないからね」
・
・
・
コロシアムの至るところにあるテレビジョンが、Aブロックの本選出場者を映し出していた。なんの気無しに、『あの人がるしあの師匠なのです』と零したところ、マリンが食いついた。
「へぇー! るしあちゃんの師匠ってあの人だったんだー! うんこするの?」
「知らない」
「じゃー、おしっこは?」
「知らない」
マリンがそこに食いついたのも無理はない。
るしあの師匠の特徴は、何と言ってもその姿。下半身が無い骸骨なので、排泄機構がどうなってるのか気になったのだ。
付け加えると、不気味にゆらゆらと浮いてもいる。頭陀袋を体に巻いたようなその見た目から、見る者全てにジャック・オー・ランタンを連想させた。
るしあの師匠ともう一人の本選出場者の映像から切り替わり、場面は舞台へ。ズームしたカメラが緊張気味の選手達を映し出した。
『お待たせしました観客の皆様!! これよりBブロック、開戦の合図をさせていただきます!!』
―――………
『――以上で予選を終了します。退場の際、大変混むことが予想されますので、ご注意ください』
全ブロックの本選出場者が決まり、コロシアムは閉場となる。
西日に照らされた白亜のコロシアムは、黄金色に輝いていた。
「お疲れ様です! 私の予想通り、本選出場決まりましたね!」
「はい!」
「つまらん奴らばっかりじゃったわ」
本選出場が決まって嬉しそうに破顔してる風真いろはとは対照的に、風神ミコトはつまらなそうに耳をかっぽじり、小指の先についた耳垢をフッと飛ばした。
「他の本選出場者も食いでが無さそうじゃ」
「そりゃまぁ、ばぁちゃんは一万年前から現役でござるからな」
「現代最強と謳われる白銀イダスは、確かに強者の匂いがするのじゃ。だが……なんか変な感覚がするのじゃ。…………死臭というかヘドロというか、そんなのに似た悪臭がする」
「そうなんでござるか?」
「……(やっぱりミコトは気付きますか。正体に気付くのも時間の問題かな)」
「やっぱり狙うはお前じゃ。お前との死闘が一番心が躍るのじゃ」
カチャリと。
いつの間にか神器を抜いたミコトが、その切先をチヒロに向けた。だがその切先を弾いたのは、チヒロではなくいろは。
「何を初めから勝った気でいるんでござるか。かざまの事を忘れたでござるか?」
「ハッ、確かにのぅ」
「……喧嘩はやめてね?」
バチバチと火花が散る両者。その間に立つチヒロは、狐の面の下で困った顔をしていた。
火が猛るように闘志を滾らせるいろはは、白銀家に着いて早々、チヒロに頭を下げた。
その視線は、チヒロの左腰に佩かれた桜花爛漫を差している。
「本選の戦いで、銀鏡さんの刀を使わせて欲しいんでござる!!」
「……急に頭を下げたかと思えば…………」
「銀鏡さんが桜花爛漫を大事にしてるのはもちろん知ってます! 無理な事を言ってるのは「いいよ」……えっ?」
ほいっと。いろはの眼前に出されたチヒロの愛刀、桜花爛漫。
凄い肩透かしを喰らったいろはは、束の間目を白黒させた。
「私自身、風真さんに優勝して欲しいので、これくらいなら喜んで。それに、前回仙人になったお祝いで私の性別教えましたけど、あれじゃあ全然釣り合ってなかったので丁度良かったです」
「いいの?」
「うん。使っていいよ。その代わり、来週の本選、優勝するんですよ」
「頑張ります!!」
受け取った桜花爛漫は、チャキ丸より重く感じた。それは刀だけの重さじゃなく、チヒロからいろはへの期待の分の重さも入っているかのようだった。
チヒロと別れ、足取り軽く己の部屋へと向かういろは。
その道中、不意に風が吹く。
『――お主、随分と愛されてるようじゃの』
(………??)
振り返っても誰もいない。
だが確かに、誰かの声が、女性の声が聴こえた気がした。
宝鐘マリン
新しい友達が二人もできてハッピー。
あの夢をは見るたび、何か大事な事を忘れてるような空虚さが体に満ちる。
潤羽るしあ
魔界に住む名高い死霊術師の一家の御息女。今回死霊術の師匠であるジャックが出場するということでついてきた。初めての地上でドキドキしていた。
白銀ノエル
頻繁に来るチヒロの事は、喋る狐と思ってる。フレアのことは家族のように思ってる。
不知火フレア
存在するかもしれない記憶で脳が焼かれる。でもそんな未来は来ないから安心して欲しい。
銀鏡チヒロ
頻繁にノエルの部屋に来るので、フレアから暇人なのかと少し疑われてる。
風真いろは
チヒロの愛刀を手に入れてウッキウキ。がんばるぞい!
バトルロワイヤル中、ずっとチヒロが見てることをなんとなく把握してた。正直緊張した。解説実況なんだから他の人もみてよ! とも思った。
魔王討伐を果たした『勇者』風神ミコト
バトルロワイヤルは数分で終わらせた。あっという間に終わったので他の参加者の実力が不明なため、二人目の本選出場者は投票ではなく、例外的に無しになった。一応参加者達に訊ねたものの、ミコトに恐怖を抱いたためか全員納得で二人目は無しとなった。当然シード枠。
マリンパパ
目覚めの歌は配信より。