白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 Justice登場します。
 いつもより文字数多めの15,000文字です。


第35話 正義の名の下に

 誰にも知られずひっそりと収束した宵の事件。

 その裏側には大きな騒動があった。

 

「異常事態発生!! 脱獄者が多数!!! 至急囚人らを鎮圧せよ!!! 繰り返す!! 異常事態――」

 

 閻魔人の声が監獄中に響き渡る。

 クルクル回る警告灯が世界を真っ赤に染め上げる。

 その数瞬後、轟音がThe Cellを揺るがした。

 

 大監獄The Cellより緊急招集。あらゆる悪党が恐れをなすJusticeのリーダー、緋色の女王(スカーレット・クイーン)は立ち昇る炎と共に現れた。秩序の先駆者としての異名も持つ彼女は、悪名高い囚人達の前に立ちはだかった。

 

「オーッホッホッホッ! 薔薇は赤い。私の心の炎は青い。またの名をスカーレット・クイーン、秩序の先駆者――私はエリザベス・ローズ・ブラッドフレイムだ!!」

 

 美しく高らかに笑うエリザベスは、暴れ回る囚人達を一撃で吹き飛ばし、愛刀を振り上げる。

 

「一人たりとも出られると思うなよ!!!」

 

 The Cellには現世に出してはならない人物しかいない。だからこそ、その防衛の中枢を担うエリザベスは、誰よりも強くあれなければならない。

 囚人一人ひとりのワザと権能を知り尽くし、絶えず変化する戦況を見極め、最適の一手を出し続ける。

 

 結果。一時間足らずで見事に囚人達を鎮圧してみせた。

 

 伸した囚人らを元いた牢獄に戻していく他の閻魔人達を尻目に、エリザベスは騒動の始まりであるThe Cellの最下層に足を運んだ。

 

 そこにはいるべき筈の囚人達、計五人がおらず、牢獄はもぬけの殻だった。

 

 (まさか脱獄したのか!? 待て……確かここにいた奴らは―――)

「クハハハハ」

 

 エリザベスの思考を遮ったのは、誰かの笑い声と枷がジャラジャラと鳴る音。

 その正体に気付くと共に、エリザベスは驚愕で目を見開いた。

 

「魔王マクスウェル・ダークネス」

「あいつらなら逃げたぜ。オマエ、一足遅かったな」

「……どうやら一杯食わされたようだ」

 

 無機質の鉄格子を間に挟み、エリザベスとマクスウェルは顔を突き合わせる。マクスウェルは愉しげに口の端を釣り上げ、ベーっと舌を突き出した。

 

「ふん。まぁいい、私達もどうせ現世に向かう事になる。逃げた奴らを再び捕まえてやろう」

「ハッ、捕まえる? 意味の無い事だぜそれは。現世には妾の……いや、言うのはやめておこう。ともかく、運命を知らないオマエにAdventを捕まえるのは無理だ」

「無理かどうかはやってみねば分からんことさ。精々負け惜しみの言葉でも考えておけ」

「その言葉、そっくり返してやるぜ」

 

 背を向け離れるエリザベスに、マクスウェルは『じゃあなぁ〜』と枷の着いた腕を振る。伽藍洞になったフロアに鎖の音が木霊した。ジャラジャラとしたその音が、エリザベスをずっと追いかけていた。

 

 

 上からの指令はエリザベスの思った通りだった。

 観測器『Panscope』*1により、Advent達の魔力を探ったところ、ポイント・アルファの上空に集っていることを発見。更にそこの空間を解析すると、不可視の島が浮遊している事が判明し、そこにAdvent達が潜んでいる事が示唆された。

 そこで、エリザベス・ローズ・ブラッドフレイムをリーダーとするJusticeを派遣する―――。

 

 という内容だった。

 それをThe Lookout*2にて集った仲間――ジジ・ムリン、セシリア・イマーグリーン、ラオーラ・パンテーラ――に諳んじたエリザベスは、高らかに宣言した。

 

「明日の未明、この島に突入する!!」

「おっしゃー!」

「承知しました」

「え、もう行くの?」

 

 三者三様の反応。

 諸手をあげて叫ぶジジに、静々と頷くセシリア。そしておろおろとするラオーラ。ラオーラは今ハマってる新作ピザ情報の収集と極東のポップカルチャーに時間を割きたいのだ。だがそんなこと言ったらエリザベスに冷ややかな視線を送られるのは確定。ラオーラは仕方ないと覚悟を決めた。

 

(まぁ、帰りにヤマトに寄ればいいや)

 

 エリザベスがホワイトボードにAdventの情報を書き連ねていく中、ラオーラの頭の中はヤマトをどう楽しむかで一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ポイント・アルファ上空、ウロボロスにて。

 

「――いかに効率よく霊魔子を操れるかがミソになる」

 

 漆黒の衣装に身を包むゼット――銀鏡チヒロを前にオメガは語る。

 

「多重展開した霊魔子を全て操れれば、如何なる状況にも対応できる。だが脳への負担が大きい」

「私の認識としては、粒子か波に統合した霊魔子はBEC*3の状態にあると考えていまして、そうなると全てを操らないと破綻してしまうのでは? 実質、失敗して暴走しましたし」

「その認識は正しい。だが今のお前ではリソースが足りない」

 

 ゼットとオメガの二人きり。

 窓から差し込む朝日が室内を照らしている。

 

「霊魔子を粒子として撃ち出す【撃】

 霊魔子を波状に展開する【凪】

 超高速に振動させて切断する【解】

 発展技を除いたこの三つがお前の主な念力の技になるわけだが、これら全てを完全にコントロールしたいのなら、天秤が必要だな」

「となると、詠唱ですか……」

「今のうちに考えておけ。後で手合わせをしよう……と言いたいところだったが、どうやらお客さんが来たようだな」

 

 四人の気配、魔力。

 知らない気配と思いながら、オメガはゼットと共に協会の外に転移する。

 島の上空、結界の外側には四つの点が見えた。刹那、紅色の斬撃が放たれ結界を揺らした。

 

「こちらを認識している? 妙だな。権能に加えて、天秤と〝護りの理〟で認識阻害の効果を限りなく高めているのに」

「敵……という認識でおっけー?」

 

 強度を落として認識阻害の効果を上げた結界は、今一度振るわれた紅色の刃によって破られた。

 結界を破壊してもなお衰えぬその極大の刃は、ウロボロスを呑まんと大気を震わせる。

 

「丁度いい。ゼット。防いでみろ」

「だと思いました!」

 

 朝日で黄金に燃える砂漠の世界。そこに一筆添加された紅色の斬撃。島ごと真っ二つにせんと迫る巨大な斬撃の前に、ゼットは立ち塞がる。

 

『位相』『収束』『無覚の境界』

 

【解】!!!

 

 ――斬、と。

 放たれた「不可視の飛ぶ斬撃」が、敵の斬撃を掻き消した。

 

「やっぱり詠唱あったほうがスムーズですね。【解】なら四重まで同時展開できそうです」

「見たところ、もう少し刃を薄くできそうだな。イメージは刀より線の方が良いだろう」

「なるほど。次は意識してやってみます」

 

 和気藹々と。まではいかないが、敵を前にしてこの余裕。だが警戒はそのままに、二人は敵の出方を待った。

 不意に、遠方に見える四つの点に火が着く。と同時に、オメガの背後から青い炎が剣を携え飛び出した。

 

「変わった転移魔法だな。初見だ」

「――っ(躱された!)」

 

 背後からの不意打ち。エリザベスによる横一線の斬撃は空間の祝福を持つオメガによって容易く避けられた。

 

「わぁ、見たこと無い人達だ。しかも一人は人形かな?」

 

 オメガとは距離があったゼットは、再び放った【解】でエリザベスから飛んできた斬撃を打ち消し、炎の中から現れた三人に目を向けた。

 

「あかん! うちらの手に余るわ!! セシリア!!!」

「ん」

 

 ピンクの猫――ラオーラ・パンテーラが瞳を一瞬輝かせるや否や、セシリアと呼ばれる人形に声を飛ばした。

 

「(歌?)」

 

 その人形が使う魔法は見たことも無いものだった。詠唱は旋律そのもの。魔法構築式は遥か昔の文字で構成されていた。金の魔法陣から古代魔術であることは推察されたものの、どんな効果かさっぱり分からない。

 ゼットはとりあえず防御結界を展開。及び【凪】で来るであろう攻撃に備えた。

 

「お?」

 

 しかし、その備えは無用だった。発動した魔法は転移魔法だったらしく、三人は何処かに消えた。

 

 未だオメガと肉弾戦をしてるエリザベスは、味方が居なくなったにも関わらずニヤリと口角を上げた。

 

「(これで全力が出せるな!!)」

 

 大規模破壊は味方を巻き込む諸刃の剣。だがその憂いが無くなってしまえば、その制限は解き放たれる。

 

「(何かしてくるな――まあ問題ない。現状気を付けるべきはあの武器そのもの。見たところ神でもない輩に何ができるかはたかが知れている)」

 

 焦りは無い。

 加えて、ゼットもいる。

 故に、オメガは目の前の人物から情報を採取しようと、あえて後手に回る。

 

 瞬間、エリザベスの胸の炎が燃え上がる。

 

 Raising Sun――

 

 突然上昇した気温。それを知覚する前に、エリザベスはオメガへ肉薄する。その速さに僅かに目を瞠るオメガだが、十分対処は可能。両者、比類なき神速を以て、相対する。

 

「(また見たことも無い術だ。胸の炎がトリガーか? あらゆる火炎系魔法とは毛色が異なるな)」

「思考回してて平気なのか!!?」

 

 挑発するように、エリザベスは言葉を吐く。

 その問に、オメガは無論と返す。

 剣と拳が数百交じった後、その剣と拳の乱舞に音が割り込む。

 

『位相』『収束』『虚空の玉座』

 

「私も居ることをお忘れなく!!」

「分かってるさ!!!」

 

【撃】!!!

 

 ――ドガァン!!

 放たれた【撃】は盾にした剣に阻まれ、主からの役目を果たせず消える。

 

「今のを防げますか!! 何の神器ですかね!!(単純な【撃】で無理なら、電荷を引き出したこっちはどうです!?)」

 

『位相』『収束』『空の帝王』

 

 バチバチィッ!!

 詠唱により威力が上がった霊魔子が空気を焦がす。

 それと同時に、

 

Probability(確率)――Convergence(収束)

 

 エリザベスを挟み、オメガもゼット同様銃口に見立てた指を突きつける。

 

「――三重展開!!」

「――Quartet(五重)Authority(権能) Loading(装填)

 

 金と黒、二色が空間に色を残す。

 【撃】×【(らい)】=全てを撃ち抜く高出力の砲弾。

 【Strike()】×【破壊】=万物を無に還す防御不能の弾丸。

 そんな攻撃が今――放たれる。

 

【雷】!!!

Strike()】!!!

 

 放たれた極大な奇跡は大気を滅ぼし。黎明の世界を夜の闇に一転させた。

 だが、それでも、エリザベスは五体満足で生きていた。その立ち姿に一切の傷なし。

 

「オーッホッホッホッ! 私はJustice!! 秩序の先駆者――エリザベス・ローズ・ブラッドフレイム!! この程度でやられる者ではない!!!」

「どうも初めましてゼットです!! そして隣にいるのがオメガです!」

「(成る程。おそらく神器の権能は『虚無』かそれに連なるもの。私の【破壊】が決定打になっていないのは、権能の上下関係のせいというのもあるだろう。それに加えてあの炎……)」

 

 エリザベスと神器をじっと見詰めて、今までの知識から悟る。

 

「(あぁ、思い出した。神々の寵愛を受けし人間だ。アブラハムの書に無いため眉唾ものだと思っていたが、実在したのか。となると、他にも隠し玉がありそうだな)」

「エリザベスさん! 私は今とても感謝しています!!」

 

 冷静に思考を回すオメガとは一転して、ゼットは興奮気味に感謝を叫んだ。

 

「念力の核心を掴んでから、素晴らしいアイデアが浮かんてくるんです!! その練習台になってくれてありがとう!!!」

「ハハッ!! 練習だと思ってると足元掬われるぞ!!!」

 

 Raising Prometheus――

 

 再び、気温が上がる。もはや息するだけで肺が焦げるような気温だが、術者のエリザベスはともかく、ゼットとオメガも微塵も気に留める事は無かった。

 

「今度はこっちから仕掛けさせてもらおうか!!!」

「ばっちこい!!」

「(警戒レベルを上げておこう)」

 

 Raising Prometheus(神は空に)-The Great Flame(偉大なる炎を携えて)

 

 燃えよ燃えよ燃えよ。

 現出するは始まりの炎。

 全てのエネルギーの源。

 

Thank you for the flames(炎に感謝を)

 

 ウロボロス上空に現れた炎。その巨大さはまさに太陽の如く。

 島ごと燃やし尽くさんと迫る太陽に、ゼットは今思いついた技を試さんと、興奮気味に口の端を釣り上げた。

 

『位相』『収束』『散り行く燐光』

 

 詠唱が紡がれると共に現れたのは空間の揺らぎ。

 波打つ空間は、詠唱が続くにつれて大きくうねり、一つの点に収束していく。

 

『巡る次元』『揺蕩う空間』『黎明告げるは滅びの奏』

 

 超々高密度に凝縮・圧縮された霊魔子を確率変化。

 ポツリと空間に滲む黒点。それ即ち拳大の極小ブラックホール。

 詠唱しなければ発動及び制御できないそれに極度の集中力を割きながら、放つ。

 

「重力子顕現【(れい)】」

 

 万物を奈落に引きずり込む黒穴。深淵へと導く虚無の道。

 その名に相応しい程に、太陽を空間ごと呑み込んでいく。

 気を抜けば手元を誤り太陽以外も呑み込んでしまうそれを、ゼットは楽しげな笑みを浮かべながら制御する。

 ――その太陽の裏側で、エリザベスはオペラのように、詠唱()を紡いだ。

 

 Raising Zeus(神は空に)-The Great Thunder(偉大なる雷を携えて)

 

 掲げた右手に雷が落ち、青白い槍を創生する。

 世界を照らす極光は、膨大なエネルギーの余波でしかなく。圧倒的な存在感を振り撒いて、畏怖すらも抱かせる。

 

Thank you for the Thunder(雷に感謝を)

 

「――クッ!? (何か来る! これはちょっと――)ヤバいかも!!」

 

『位相』『収束』『世界の道標(どうひょう)

 

 【零】の制御を放り投げ、変わって述べるは原初の盾。

 

「三重展開【凪】!!!」

「(少々拙いな。ここを壊されたらかなわん)」

 

 それと同時に破壊神オメガに緊張が走る。焦燥が心臓を蹴り上げる。

 オメガはパァンッ! と高らかに両手を合わせ、紡ぐ。

 

「開闢・神域展開」

 

 一瞬にして、世界が塗り替わる。書き換わる。

 灼熱の世界は一転して、冷たく暗い世界に閉ざされた。

 

 月の無い夜のような漆黒の天蓋に、異分子のように揺らめく雷。轟く雷鳴。だが【破壊】の権能が付与された神域により数秒程度で霧散。だがその炎だけは――エリザベスだけは消える気配がない。

 

(やはり開闢の対抗手段を持っていたか。この様子では神威も効きそうにないな)

「あれー? 私生きてる!」

 

 【破壊】対象からゼットを外したオメガは、冷静に戦況を見やる。

 

(アブラハムの書に載ってない以上、奴はこの世界に産まれ落ちた存在ではない。加えて、たかが噂と捨てた神々の寵愛を受けし人間。神でもない人間が神域に1秒足りとも生存できる筈がない。神域を展開しない限り、如何なる魔法も如何なるワザも、ありとあらゆる手段は破壊尽くされる筈だが、一体どんな隠し玉を持っている?)

「解せない顔をしてるな!!」

「正直に言えば、そうだな。あぁいや、そうか。理解した」

 

 生身のまま、エリザベスは神域の中で息をしている。オメガはエリザベスとその周辺の空間を解析することでカラクリを見抜いた。

 

「その剣から妙な霊魔子が働いてるな。さしずめ、術者の周囲を虚無の領域で保護しているのか。擬似的、いや簡易的な開闢だな」

「正ッ解!! 初見で見抜かれたのは初めてだ!!!」

「だがここからはどうする? 何ができる? お前の領域から出た瞬間、あらゆる魔法やワザは私の権能によって破壊される」

 

 言葉では既に決着が見えたように捉えられるが、オメガは期待していた。この戦況をひっくり返すような一手を。

 

「(これはいわば、未来の予行演習。真なる神が開闢に対する手段を持って無いと判断するなど思考停止に等しい。今、この盤面でこいつと戦えたのは僥倖だった)」

「よく見とけ。出血大サービスだ!!!」

 

 何かする前に止めようと、ゼットが動く。だがそれをオメガは制した。

 一方、エリザベスは大剣を高らかに掲げた後、胸の前に戻した。その所作は忠誠を誓う騎士のような振る舞いだった。端正に整った顔に、楽しそうな笑みが宿る。

 

「開闢・神域展開!!」

「(マジか)」

「うそやろ!!!?」

 

 エリザベスの魔力がオメガの領域を侵食する。

 無限に続きそうな穏やかな浅瀬が広がり、ちゃぷりと白波が立つ。そしてエリザベスの背後に鎮座するは幾つもの骸骨でできた玉座。そして巨大なトライデント。

 初期の神域は術者の権能が内包される。つまりその骸骨の玉座とトライデントが示すのは――

 

「これが私の切り札――海神と死神の二重領域だ!!」

 

 展開された領域に付与された必中必殺の術式が、オメガとゼットを襲う。

 

「!?」

「グッ!?」

 

 発動した死神の権能がゼットに降りかかる。突如として左胸を抑え、苦悶の声をあげてザパンと倒れ込んだ。

 

「(これは心臓麻痺!)」

「(心臓麻痺か何かか? だが何故だ。私の開闢は間に合ってる。必中効果を相殺できてないのか?)」

 

 死神の権能と海神の権能が重複した必中の術式は、破壊神の権能では相殺しきれない。今も倒れたゼットを盛り上がった海面が包み込み、溺死させようとしている。

 

「(クソッ、電気ショックをセルフで与えても治らない!! それにこの海、クソ重てぇ!! 深海の水圧を再現してる!!!)」

「そっちのやつは放っといても死にそうだな!!」

「……だが私には効いてないみたいだが?」

「神は魂が本体、肉体はただの包装紙みたいなもんだからな。でも――こっちは通るぜ!!」

 

 地を蹴り、エリザベスが動く。一瞬で彼我の距離を詰めたエリザベスの右手には先程の神器は無く、代わりにデスサイズが握られていた。

 

「(死神の鎌か!!)」

「掠ったりしてでもアウト!! Death Penalty(死刑)だ!!!」

 

 ボワッと不意に燃え上がる青色の刃に対して、無防備に立ち尽くすオメガ。その両足に海水が纏わりついた。見た目は薄くても内包するのは深海の水。重く冷たい水がオメガの行動を阻害しする。

 

「(ハデスの武器か?)」

「(獲った!!!)」

 

 振り下ろされた白骨の鎌。オメガの首まで一寸を切ったところで、しかし鎌は空を刈り取った。

 

「(ハデスの鎌にポセイドンの矛だな)」

「転移魔法か! そうだな、使えて当然だよな!!」

 

 仕切り直しだと、エリザベスは血振りをするようにデスサイズを振った。

 その一方、

 

「(『位相』『収束』『世界の道標』――四重・波動展開【凪】! からの……『位相』『収束』『無覚の境界』――確率変則・多重発動【解】!!)」

 

 斬。斬。斬、斬、斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬―――斬!!!

 

 バシャアアアン!!!

 

「(よし! ひとまず脱出成功!!)」

 

 ゼットが行ったのは、自身を取り巻く海水の排除。己を中心に半径30センチにも満たない範囲で四重に【凪】を展開。そして【凪】を【解】に変換。そこで一か八か無作為かつ無制限、集中力が続く限り発動した【解】―――少なくとも千は超える斬撃により、海水の牢獄を切り刻んだ。

 

 しかし死神の必中効果はどうにもできない。

 そこでゼットが考えたのは―――ザシュ!!

 

 心臓を抉り抜くこと。

 

「ゴボッ!! ……へ、へへっ、心臓取っちまえば意味無ぇよなぁああ!!!」

「正気か!?」

「(なるほど。魂が無事なら生存できる聖仙人ならではの力技だな――それはともかく)」

 

 余りにも力技過ぎるゼットの行いにドン引きするエリザベスに、オメガは口を開く。

 

「我ながら随分と遅くなったが……理解したぞ。お前の領域。二重領域の方法を」

「は?」

 

 オメガは目を瞑ると同時、己の中で特殊な魔力の練り方を始めた。

 

「(権能は同時には使えないといつ固定観念に囚われていた。なんせ権能は一人一つ、一つの魂に一つの権能しか宿らないものだからな)」

「本気で言ってんのか? 神々から与えられしこの領域を習得したと?」

「もちろんだとも。(私の魂から抽出した異なる魔力、二つの権能。それを掛け合わせれば――)」

 

 オメガの魂に宿る三つの権能。選んだのは自身の権能【破壊】と荼枳尼の権能【訶利訶(キリカク)・与奪】。それを宿した魔力を練り合わせ、放出。

 

 瞬間、天に雷が轟いた。

 どこまでも続く浅瀬は河原に変わり、心臓を抉ったせいで血で噎せていたゼットの呼吸が楽になる。

 

「天地開闢・神域展開――とでも言っておこうか。ふむ、成程。こういう感覚か」

 

 あり得ない程の早さで構築されていく神域。

 自身の領域を押し返していく尋常じゃない強度。

 それらを目の当たりにして、エリザベスは戦慄する。

 

Out of order(規格外だ)……!」

 

 もはやエリザベスの領域は髑髏の玉座とトライデントが突き刺さった地面周辺のみ。他は全て河原と、暗雲垂れ込む天と、社に呑み込まれた。

 いや、そこだけ残されたのか。

 

「(正直、今までの敵の中で最も手強い。底が見えない程の魔力量に、一目で私の神域対策を見抜く思考力、洞察力。そして神がかった魔力操作。どれもこれも厄介すぎる――!!)」

「……魔力の消費量が単純に二倍か。妥当と思えば妥当だな」

「キツイだろ?」

「ん? いや全く。生まれてこの方、魔力切れになった事が無くてな」

「っ」

 

 オメガのその言葉に、一秒、二秒と時間をかけて、ようやく状況を理解し、貼り付けていた威勢の笑みは、大量の汗を流す憔悴を隠しきれない表情になった。

 

「(それが本当なら、勝ち目が薄い。どうすればいい?)」

 

 胸の炎が、弱まる。術者の意思に反応するように、ゆらゆらと揺らいで勢いが無くなる。

 

「ほら、まだあるだろ。別の手を打ってこい」

「(どうする? 奥の手を使うか? だがそれすらも打破されたらそれこそ終わりだ。それなら撤退するべきか? だが簡単には逃がしてくれないだろう。それに、正義が負ける訳にはいかない。だが……)」

「……悩んでいるな。どうせ正義に拘り尻尾を巻いて逃げられ無いんだろう。戦うにしてもこれ以上の札は限られるし、私はそれを既に想定し、対策も打てる」

「くそ、これならどうだ!!」

 

 敗色濃厚。その現実に目を背けるように、エリザベスは一か八かの賭けに出た。

 

 術者、エリザベス・ローズ・ブラッドフレイム。

 一か八か――0.2秒の神域展開!!!!

 

 0.2秒はエリザベスが勘で設定した、神域の強度を限界以上に引き上げるための代償。

 天秤を傾け、一瞬の神域展開により、オメガの神域を塗り潰す。そして崩壊する神域から脱出する。

 

 更には、展開する神域を死神×海神から、天空神×太陽神に変更。雷撃と熱線による目眩ましで、脱出するための一瞬を確保する――算段が、自身の神域ごと崩壊した。

 

 他ならぬ、ほぼ同時に勢いを増したオメガの神域によって。

 

 ガシャァァン、と神域が崩壊する音は、エリザベスに敗北を認めさせるには十分だった。

 

「読めていたよ。全てな。天空神と太陽神の複合領域を使ってくることも、その後転移することも、全て。お前が神域を展開した刹那、私も天秤を傾け、同じ条件で神域を展開した。その結果、お前の神域がこちらに届く前に私の神域に衝突、そして呑み込まれたのだ」

 

 膝を突き、肩を上下させるエリザベスはオメガの言葉を聞きながらも必死に頭を回していた。

 

(どうする? どう動けばいい。どこに踏み出しても、どこに剣を振っても封じられる想像しかできない)

 

 考えが堂々巡りになって、思考は迷子のようにループする。

 

「無駄」

 

 オメガがエリザベスの思考を読んだように、軽く呟く。

 すると、まるで魔法でも呟かれたかのように、息が荒くなった。

 斬り込めない。下手に斬り込めば囚われる。

 魔法も駄目だ。予兆を察知されて封じられる。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 気付けば、息切れを起こしていた。

 既にオメガの隣には心臓が復活したゼットが並んでいる。どちらもとんでもない強者。それに対しエリザベスは、起こるかどうかもわからない不確定な未来を恐れて、何もしてないのに息を切らしている。

 

「ッ――私は秩序の先駆者! 正義の執行者!! 神々が認めし正義が負けるなどあり得ないッ!!」

「正義など一つの思想でしかない。お前にとって私が悪のように、私にとってお前は悪だ」

 

 炎を燃やす。心に意思の火を焚べる。

 剣を握り、力強く両足で地面を踏みしめた。

 

「無辜の民が望む平和に、お前達はッ、Adventは不要なのだ!!」

「平和の為に誰かを蔑ろにする、犠牲にするのは一理ありますし、理解しています。でも、私達は望まれて生まれてきた」

 

 エリザベスの叫びに返したのは、オメガではなくゼットだった。

 

「親だろうと友人だろうと他人だろうと、誰かが私達を求める限り、私達はそれに応え続ける。この生き方を否定するならば、私達は力の限り抵抗します。例え相手が神だろうと、その顔面ぶん殴ってやります。これが私達の正義です」

「清濁併せ呑むという奴だ……話は終わりだ。まだやるか?」

 

 息を吸って、吐いた。

 正義とは、何か。悪とは、何か。

 自分の中の正義の定義を見直さなくてはならない気がした。

 

「――オメガ。そしてゼット」

 

 胸の炎を一段と燃やし、ここで果てる覚悟を決める。

 今の正義、今まで掲げてきた正義をぶつけるのだ。

 

「やらせてくれ」

 

「ああ」

「もち!」

 

 エリザベスが構えたのは、神器。

 弓矢のように地面から水平に構えた。

 胸の中心の炎が弓と弦を象り、それに神器が矢のように番えられた。

 

 その一方で、

 

「『位相』『収束』『空の帝王』」

Probability(確率)――Convergence(収束)

 

 ゼットの指先には【雷】が。

 オメガの指先には【撃】が。

 各々の必殺が装填された。

 

 そして。

 

「『The holy bow and arrow that destroys evil(悪を滅ぼす聖なる弓矢)』」

 

 両者の術は完成する。

 

 オメガとゼットの必殺と。

 エリザベスの必殺が。

 

 ジリッ、と空間が焼け付き。

 ミシッ、と世界が軋んだ――直後、放たれた必殺は両者の中間地点で衝突し、せめぎ合うエネルギーは世界の果てにまで届くような大爆発を起こした。

 

 白む視界の中でエリザベスは想起する。

 

「(今の攻撃は本気だけど全力じゃなかった。天秤を使わず、私の意図を汲んだ上で、二人とも戦ってくれた)」

 

 心の炎が少し揺らいだ気がする。

 でもその揺らぎは不快なものではなく、赤子をあやす揺り籠のような、奇妙な安堵があった。

 

「(共に闘う仲間か。共に過ごす仲間は居ても、肩を並べる仲間はいなかった)」

 

 別にJusticeのメンバーが嫌な訳じゃない。彼女らは心を癒してくれる。孤独ではない。

 ただ、それでも。肩を並べていれれば。

 

「(同じ世界を共有できたのかな)」

 

 贅沢な悩みだと我ながら内心苦笑しながら、爆炎に身を焚べた。

 

 

 

―――………

 

 

 

 爆炎が晴れた先、再生するのは二人の影。オメガとゼットだ。

 ものの数秒で再生した二人は、地面にエリザベスの神器が刺さっているのを見つけた。その持ち主の姿は無く、先の爆発で灰燼と帰したようだ。

 

「これ、どうします?」

「触って大丈夫そうなら持ち帰って解析する」

 

 オメガが解析用魔法陣と錬成陣を展開。本人にしか触れない代物かどうか、呪いなどの罠は無いか確認し、そして引き抜いた

 

「にしても大きな剣ですね〜。重い?」

「不思議と重くはないな。かといって軽すぎる訳でもない。魔法でも神器の効果でも無さそうだ。素材だとしたら何の金属でできてるんだ?」

「セラミックとかカーボンとか? あと金属ナノ粒子を組み込んでるとか?」

「どれも可能性はあるだろうが、主体が分からんな」

 

 未知の素材に頭を悩ませる二人に、どこからともなく矢が飛んできた。

 それに見向きもせずに避けた二人は、矢が飛んできた方向を見る。そこには早々と離脱したJusticeの三人がいた。

 

 エリザベス(Liz)の神器を返せと口々に叫ぶ三人に対し、オメガは言う。

 

「これは我々が勝ち取ったものだ。勝者の我々に対し敗者は従うもの。自然の摂理だ」

「くっ」

「それとも……なんだ? お前達が戦うとでも?」

「そうだ!!」

「チッ、面倒だ。秒で終わらせる」

「(なんかオメガの機嫌、悪くなってない?)」 

 

 臨戦態勢を取るラオーラ、セシリア、ジジ達の一方で、ゼットは内心ヒヤヒヤしてた。

 

 神威

 

 オメガが初手で放ったのは念力ではなく、己の威光を知らしめる神の覇気。

 その結果。

 

「口程にもない。神威対策をしてるのかと思えば、このザマだ。一体どこに勝機を見出して挑んだのだ?」

 

 神威を受けた三人は抵抗らしい抵抗をすることなく、気を失った。

 神威の次に【破壊】を乗せた念力、それが効かないなら開闢、更に天地開闢と武器を仕込んでいたのに、肩透かしされた気分だった。

 

「まぁまぁ、仲間の仇を取る事で頭が一杯だったんですよきっと。私も仲間がやられたりしたら無策で飛び出すかもしれないし」

「……エリザベスは死んでないだろう。どうせ不死鳥の如く蘇る」

「そうなの?」

「神々に祝福された人間だ。死んでも蘇るだろ。ハデスの祝福か、あるいは……そうだな、アポロンの祝福かそこら辺だろ」

「ふーん……ところでこの人達どうします? 捕虜にします?」

「ああ。そもそも何故我々に喧嘩を売ってきたのか不明だからな。問い質す」

「じゃー連れていきますか」

 

 かつて紫咲ショコラを誘拐した際に使った魔法を封じる鎖――魔縛鎖で一人一人縛ったのち、三人纏めて念力で持ち上げて教会へと連れ込んだ。

 

「あ、あの大丈夫でしたか?」

「うん私達は大丈夫でしたよ。アルファさんも怪我とかしてませんか?」

「はい。こよ……博衣さんと紫咲さんも騒いでいましたが無事です」

「それなら良かったです! あっオメガも何か言いなよ!!」

「言う必要ないだろ」

「ゼットさん、私は気にしてないので大丈夫です」

「そう? それならまぁ良いんだけど……」

 

 アルファに出会っても足を止めずに地下牢へと向かうオメガに、ゼットは「むむむ」と不満気に唸りながらもアルファに別れを告げ、後を追う。

 数分歩いた先、地下牢の扉が二人を出迎える。その扉は扉の形をした壁であり、出入りするには基本的に一度鏡像世界に入る必要がある。オメガの場合転移があるので、ゼットと共に転移で地下牢へと入れば、左側から声が飛んだ。

 

「あー!」

「なんだ?」

 

 左側の牢屋にいるAdventが各々驚きの声を上げたり、縛られてるJusticeを指差していた。ゼットが牢屋に近付いて知り合いかどうか問いかければ、先のエリザベスの同僚だという。そしてそのエリザベスはThe Cellの防衛の一部を担っていたらしい。

 

「なんとなく把握していたが、やはりこいつらはお前達を追ってきていたのか」

「私達はそれに巻き込まれたんですね〜」

「別に構わないがな。……さて」

 

 ゼットとAdventが話してる間にJusticeを牢屋に入れたオメガが、その牢屋の前にエリザベスの剣を浮かべ、距離を取った。

 

「ゼット、お前も協力しろ。〝護りの理〟を刻む」

「分かりました。でもそれだけで縛れますか?」

「ある程度行動が制限できれば十分だ」

 

 そして槍を五本錬成し、その穂に原初文字の〝護りの理〟を刻み込む。そして五芒星を象るように突き刺し、その中心にエリザベスの剣を置いた――直後、五芒星が紫色の火を吹いた。

 

「ひとまず設置完了。あとは」

 

 続く言葉は、突如として燃え上がった剣に掻き消された。

 

「やぁ、さっき振り」

「くっ、これは……!!」

「〝護りの理〟を反転させて行動を封じてある。我々からも干渉できないのは非常に残念だが、流石のお前もまともには動けまい」

 

 不死鳥の如く炎と共に復活したエリザベスは、復活地点の剣から離れられず、仁王立ちを強制されていた。

 

「「「リズ!!!」」」

「!? みんなも捕まってしまったのか!!? すまない私のせいで……!!!」

「おっと、感動の再会はここまでだ。今自分が置かれてる状況を考えろ。私の機嫌を損ねればどうなるか分かってるな?」

「貴様ッ!!」

「お前達は互いに人質だ。エリザベスが妙な動きをすれば他の仲間を【破壊】する。逆に、お前らが妙な動きをすればエリザベスを何度でも【破壊】する。魂が砕ける感覚にどこまで耐えられるか試してもいいぞ?」

「(わぁ、すごい悪役やってるー!)」

「「…………」」

 

 視線だけで殺せるなら既に数百回は殺されていそうなほどの憎悪の憎しみがオメガに注がれていた。

 

「……私の正義はやはり正しかった。危うく惑わされるところだった」

「あの言葉は少なくとも嘘ではなかったぞ」

「知らん。そして覚えておけ。必ずお前達を捕まえてやる!!」

「ハッ、できやしないことをさも当然かのように語るな。惨めに見えるぞ」

 

 殺意を一身に受けながらもそれを無視し、体の向きを反転させたオメガはAdventの方に視線を向けた。

 

「Advent。貴様らは我々の配下に収まってもらう。自由に動いて構わないが、ヘマはするな。多少の事は目を瞑ってやる」

 

 無言でコクコク頷く彼女らに、オメガは続ける。

 

「だが自由にするのは強くなってからだ。お前達は弱い。私が納得するレベルまで私や仲間に指導をさせ、及第点になれば自由気ままに動いて構わない。理解したか?」

「「「うん!!」」」

「オッケー」

「承知したよ」

「よし、ならば牢屋から出してやる。アルファを案内につけさせるから詳しくはアルファに聞け」

 

 そして牢屋から解放すれば、各々が伸びをして牢屋から出られた開放感に束の間浸っていた。

 

「Justice。食事やらなんやらは支給するし、その牢屋の内装も変える。窮屈なのは嫌だろう。……ゼット、内装を整えておけ。私はAdventとアルファに話がある」

「ええよー」

 

 ひらひらと手を振りオメガとAdventを見送ったゼットは、「(気まずいぜこの状況!)」と内心嘆いていたのだった。

 

 

 

―――………

 

 

 

 博衣こよりが誘拐されてから一度も応答しなかったアジトのパソコンが、ピコンと反応した。

 チカチカと点滅するパソコンに、助手くんの一人が気付き、近づく。その様子に気付いた他の助手くん達もパソコンに近づいたり、総帥と幹部を呼びに行った。

 

「「反応したって!!?」」

 

 そして集った二人は助手くん達に囲まれながらも、パソコンの起動スイッチを押した。

 

『もしもし? 聞こえてるー?』

「「こより!!」」

『これ録画だから何言っても伝わらないから、そこんとこよろしく。今の時期はこよが誘拐されて2カ月経った頃だよ。こよは今シークレット・アーカイブ・ユニットっていう組織で働かされてる。ああ、一応言っとくけど奴隷みたいに働かされてる訳じゃないよ。安心して。睡眠もバッチリ取れてる』

 

 パソコンから聴こえてきた仲間の声に、総帥は安堵の涙を叱咤と流し、幹部は目を潤ませていた。

 

『この映像がいつみんなのとこに届くか分からない。でも、もしこの映像が届いたからといって、こよのとこにきちゃダメ!』

「「何で!!?」」

『シークレット・アーカイブ・ユニットは曲者揃い。幹部はアルファからシータの六人いてどれも一筋縄ではいかなそう。加えて創始者は規格外だった。ラプちゃんを十人集めて敵うかどうかってとこ。だから、まだ来ちゃダメ。助けて欲しいのは本当だけど、今のとこ全然大丈夫だから!! じゃあまたね。また連絡するから!!』

 

 焦った顔を最後にプツリと切れた映像。束の間の静寂が横たわる。

 だが直ぐに別の動画が再生された。

 

『ちょお〜〜っと拙いことになったかも。心して聞いて。ちなみに今の日付は7月1日。前回から大分期間空いちゃった。良いニュースとめちゃ悪いニュースの二つがあるんだけど、どっち聞きたい?』

「………え、これ聞かれてるの? じゃあ『悪いニュースからね、了解!』なんやねん!!」

『めちゃ悪いニュースは、『白銀の仙狐』銀鏡チヒロが、ゼットというコードネームで入ってきた。いや言いたい事とか分かるよ!! 潜入捜査の可能性があるってね!!! それに見間違いかもしれないし……でもウェスタの最大戦力の1つがここに入ったのは拙いと思った。そして良いニュースは、デルタ、イータ、シータの3人が拠点を離れた』

「その三人で銀鏡さんと力のバランスは取れてるの?」

『今回の報告はこんなものかな? 後は特に言うこと無いし……あっ、いろはちゃん見てるー? こよ元気だから落ち込まないでねー!! 再会したら一緒に遊ぼうねー!!!』

 

 笑顔で手を振る姿を最後に映像が切れる。

 さっきの静寂に悲哀が追加された。

 そのまま数秒待ってもパソコンが動画を映すことは無く、動画はこれでおしまいかと思われた。

 しかしパソコンは勝手に動き、地図を開いてとある一点を示して止まる。赤いピンが刺された場所はポイント・アルファ。察するに、博衣こよりはここに居ると思われた。

 

「……ひとまず、こよが無事で良かった」

「そうだな! まったく吾輩を心配させやがって!!」

「ふふっ、そうだね。帰ってきたらお説教しないと」

 

 総帥の頭を撫でながら、幹部は思う。

 何故今この映像が届いたのか。シークレット・アーカイブ・ユニットの拠点で何かとんでもない事でも起きたのだろうか?

 それとも、わざと届けさせてこちらを誘う罠を仕掛けてきたのか。

 

 どちらの可能性もある。だからこそ、次の連絡が待ち遠しく思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月13日土曜、闘技大会本戦。

 青く遠い空に、観客の歓声が響き渡る。

 

『闘技大会優勝者はぁあ!! 風神ミコトォォオオオ!!!!!』

 

 かざまはまた、駄目だった。

*1
世界の出来事を遍く見通せる、なんてことはないが、高い精度で遠隔地の監視・観測が可能な望遠鏡。世界各国や大監獄『The Cell』にまで任務の広がるJusticeには欠かせない設備の一つ

*2
組織本部の一角にある『Justice』の専用区画

*3
ボース=アインシュタイン凝縮




 The Cell
 現世に出してはいけない人や獣、神などの生命体及び人工生命体に加え、物も収容されている。

 The Lookout
 組織本部の一角にある『Justice』の専用区画。作戦会議や監視、情報共有などを行う際にメンバーが集まる活動拠点である。
隠し扉の向こうに設置された望遠鏡は世界各地の監視にも用いられている。本部自体は世界と次元の狭間となった雲の中を不可視の状態で巡り渡っているようだ。

 Out of order
 orderは秩序の意味も持ち、Out of orderは秩序の外=故障している。という意味になりますが、本文ではあえて規格外という和訳を与えました。誤字ではないです。エリザベスが秩序に纏わる存在なので、せっかくなので今回のように訳しています。

 Justice
 憎悪の炎がメラメラと。

 Advent
 オメガに少し怯えている。

 アルファことときのそら
 最近のオメガの暴挙に不満やら憤慨やら心配やらしてる。
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