白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 次の章こそはソコロの話を書かないとなぁ。


第36話 再会

「ありがとう。風真さん。風真さんの気持ちは嬉しいよ」

 

「私を守ろうとしたこと、とても嬉しく思う。その気持ちだけで十分だから」

 

「……あまり、自分を責めないでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 本戦決勝にて、風神ミコトに敗れた風真いろはは、自身を酷く責めていた。

 チヒロの大切な刀を借りたのに負けて、師匠の顔に泥を塗った。

 

 エックス・オヴァ学会で博衣こよりを守れなかったことも思い出したのか、いろはは自分の部屋の隅っこで膝を抱えていた。

 チヒロは扉越しに二言三言声をかけて、その場から離れる。

 

「(他に何か言ってやれる言葉は無かったかな……)」

 

 昨晩から悩んだ挙句、絞り出せたのは先の言葉だけ。

 誰かの心を掬えるような言葉は考えられなかった。

 

「(くよくよしてもしょうがない。ひとまずはミコトとの決闘。そこに集中しないと。保険もかけておこう)」

 

 本日7月24日は、エキシビションマッチの日。

 チヒロは無意識に拳を握った。

 

 闘技大会エキシビションマッチは、予選や本戦とは異なり荒野で行われる。視界一面に広がる世界には荒れた土地しかなく、思う存分その力を振るうことができる。

 観客はコロシアムの会場でサングラスタイプのMR機器を装着し、映像を見る。最新の魔科学技術で音響効果は抜群、振動体験も可能。その他銀鏡チヒロあるいは風神ミコトの視界同期機能及び体感同期機能により、実際の戦闘感覚を味わえる。基準値を超える衝撃などは観客に同期されないが、一応こちらの機能を使う場合は自己責任となっている。

 

『エキシビションマッチのルール説明をします』

 

 アナウンスの声が観客と、荒野にいるチヒロとミコトの耳に届く。

 

『ルールは単純。互いを殺さないこと。そして最後まで立っていた方が勝者となります』

「分かりやすくて助かるのじゃ」

「そうですねー。あ、改めて伝えておきますが、音声もあちらに届きます。なので、私の素性に繋がる話は避けてくださいね」

「おー、わかっとるわかっとる」

「心配なんだが」

 

『また、解説が追いつかない事が想定されるため、解説は入らないのでご注意ください。それでは、『勇者』風神ミコトと『白銀の仙狐』銀鏡チヒロの戦闘開始の合図を始めます。カウントがゼロになったらスタートです』

 

 空気が、ピリつく。

 

『5』

 

 唾を飲んだ。

 

『4』

 

 息を吐いて。

 

『3』

 

 目を瞑る。

 

『2』

 

 今から始まる歴代類を見ない戦いに、追いつけるように。

 

『1』

 

 目を開く。

 

『0』

 

 視界が爆発した―――のは錯覚で、戦意が、爆発したかのように見えただけ。

 

「初ッ端から全力だぁぁぁああああ!!!!!」

 

 神器開放!! 武甕槌神!!!

 

 バリバリバリバリィィイイイ!!!

 雷神が降臨したような雷の嵐が周囲に襲いかかる。

 

「来いミコト!!! 私の手札を見せてやる!!!」

 

 ―――銀鏡チヒロは風神ミコトの知り合いである。

 しかし、今ミコトが見せた武甕槌神は初見である。だが、風真いろはと風神ミコトが戦った際、風真いろはの皮膚の大部分にリヒテンベルク図形ができている事は知っていた。ゆえに、ミコトが大規模な雷を放つ事は察しがつく。

 

 だからこそ、この手が打てる。

 

 神・鳴(カミ・ナリ)!!

 

 正しく雷速で迫るミコトの技に、チヒロが初めに切った手札は、錬金術。通常の戦闘において、錬金術は発動速度が魔法やワザに劣るため忌避されるものだが、チヒロはその錬金術を使用。射出されたのは鉄の杭。つまり避雷針。

 それを見ていた観客のうちの誰かがその緻密さと素早さに息を呑んだ。

 

 神業と呼ぶに相応しい絶技。

 ()()()()()()()()()()を刹那に描写、発動速度も瞬きにも満たない。これを戦闘時に仕上げたチヒロに誰もが舌を巻いた。

 

「甘いんじゃあああ!!!」

「ぐっ」

 

 しかし。

 しかしてミコトはその上をいく。避雷針に吸い込まれた雷を制御。本来鉄の杭を伝って霧散する筈の雷を纏めあげ、チヒロに直撃。

 

 一瞬の攻防のうち、先手を取ったのは風神ミコトかと思われたが、雷に被弾した筈のチヒロに傷はない。その真白の団服にも焦げ跡などは無かった。

 その過程をミコトは見ていたが解せない顔をする。

 

「何じゃ? その念力は? まるで鎧のように雷が体表に沿って地面に流れ込んじゃぞ」

「最近ね、できるようになったんですよ」

 

 チヒロが行ったのは、【凪】と【雷】の応用。体表付近に二重に展開した【凪】の外側部分を【雷】に変更し、ミコトの雷を受け流した。名を【(がい)】という。

 

「それにこんなこともね」

 

『位相』『収束』『世界の道標』

『位相』『収束』『虚空の玉座』

 

 掛け合わせるは【凪】と【撃】

 導き出した結果は―――

 

「ぶっ飛べ―――【壁】!!!」

 

 【凪】を【撃】の要領で撃ち出した【壁】は見事ミコトに直撃した。

 

 咄嗟に前に突き出した両腕がひしゃげる。肋骨が数本折れる。その衝撃でミコトの体は吹き飛び、宙を舞う。

 

「(なんという威力!! 身体強化魔法を使ってこれか!!)」

 

 驚きに目を丸めながらも空中で体勢を整え―――飛来した魔法を分解、霧散。その間にミコトは地面に着地。途端、治りかけていた両腕と肋骨が一瞬で治る。

 

 これこそが風神ミコトが自然の神に与えられし祝福の効果。

 地上に存在する限り、如何なる不調は解消される。

 これは副次効果でしかなく、メインの効果は以下の通り。

 

 自然現象による被害を被らない。

 

 例えば雷、炎などは直撃しても痛くも痒くもない。加えて深海の水圧もなんのその、マグマの中だって無条件で生息できる。

 

「やっぱり変わっていませんか(体外に排出する系統の魔法はあまり使えなそうだな)」

 

 全快したミコトの姿を、チヒロは目の当たりにし、ミコトの祝福を再認識した。

 

「(はてさて、どうしたものか。何度も頭と心臓吹き飛ばせばいけるか?)」

 

 ――相手も聖仙人であれば、魂を壊せばいい。一番オーソドックスな方法は精神を崩壊させることだ。死という強烈な体験を何度も与えれば精神は摩耗する。精神は魂の防御壁だ。精神が削れれば魂に干渉できる。だがもしミコトの強靭な精神を削れたとして、魂を損傷することができたとしても、それは死に直結する。チヒロにとってそれはマズイ。立場というものがある。

 

「随分楽しませてくれるのぉ」

「おかげさまで、とでも言っておきます。ね!」

 

 瞬間、チヒロの姿が消える。

 同時、ミコトの姿も掻き消えた。

 

 神器と一体化した神雷衣(カムライ)モードになったミコトが指を差すだけで熱線が飛び出し荒野を硝子に変える。

 流石にこれほどまでのエネルギーを単純な【凪】や【雷】では防ぎきれない。

 縦3本の極光を躱し、横4本の熱線を避けたチヒロの背中に冷や汗が走る――。

 

「(まずい、ミコトから目を離した!!!)」

 

 その一瞬をミコトは見逃さない。

 

「――『雷槍(カリ)』」

 

 放たれた極太の熱線がチヒロの右腕を肩から焼き貫いた。

 

「ぐぁっ……!」

 

 鮮血が舞う。

 右腕を丸々焼失し、炭化したチヒロの姿に観客の悲鳴があがる。

 

「勝負あったな、お前」

 

 腕を無くしてはもはや満足には戦えまいと勝ちを確信したミコトであったが、その笑みは直ぐに崩れた。

 チヒロの右腕の骨が突き出て肉が盛り上がって覆い、皮膚が張られ、シミ一つ無い腕が再生したからだ。

 

「そうか、お前も……」

 

 五体満足となったチヒロは、狐の面の下で呻いた。肉体的な苦痛ではなく、精神的なものだ。

 

「(あ〜あ。世間に私が聖仙人であることがバレちゃったよ。でもまぁ、仕方ないもんは仕方ない。ミコト相手に傷一つせずに勝つなんて土台無理な話だったもんね……さて)……仕切り直しですね。ミコト」

「……」

 

 ピリ、とミコトの背中が一瞬痙攣する。果たしてそれは高揚か、武者震いか。

 二人は互いに睨み合い、動かない。そして相手を分析する。

 

「「再生持ちは面倒くさい」」

 

 漏れた言葉が偶然にも一致。

 つまり考えていることも一緒。

 

「(ヤツの魂を摩耗あるいは消滅させるしか無いのぉ)」

「(とか思ってるだろうけど、私の場合ミコトを殺すと後々面倒くさい状況になるんだよなぁ。はてさてどうしたものか。やっぱりアレしかないかなぁ……)」

 

 思考を回しながら、ひとまず詠唱。

 

『位相』『収束』『空の帝王』

 

 バチバチッと虚空が焼ける音がした。

 

「三重展開・【雷】!!!」

 

 青白く弾ける砲弾がミコトを急襲。ミコトはそれを嘲笑うかのように容易く弾いた。

 

「儂に自然現象は効かぬぞ!!! 忘れたか!!?」

「知ってますよ!! 狙いはミコトじゃないんでね!!!」

 

 ミコトが弾いた【雷】は錬金術で生み出した鉄杭に吸い込まれるように直撃。これで【雷】と鉄杭に繋がりができた。それは即ち、術者チヒロと繋がりができたことと同義。

 

「確率反転最大出力!! 【界】!!!」

 

 ビュンッ! と複数の鉄杭がミコトに襲い掛かった。

 

「!」

 

 咄嗟に開いた両手を向けて雷撃。超高出力の雷は鉄杭を溶かす。

 

「(これはさっきの……磁力で操ったのか。たんなる念力だと儂に知覚されると判断して)ククッ、やはり貴様とやり合うのは面白い!!!」

 

 バチッと大気を焦がして、肉薄。

 雷と化した肉体、四肢を武器にチヒロと肉弾戦を繰り広げる。

 

「(磁力操作には気をつけねばなるまいな)」

 

 神経を張りながら繰り出す拳、蹴撃。常人ならば一撃で片がつくミコトの攻撃をチヒロは躱し、流し、防ぐ。

 触れる度に焼ける手足を聖仙人の再生力で補う中、ミコトが叫んだ。

 

「どうした!? 風真一刀流は使わんのか!!?」

「(剣術は向こうが上だから使わなかったけど……)そこまで言うならやってやりますよ!!!」

 

 錬成陣展開。

 構築、錬成。

 

 錬成光と共に引き抜いたのはチヒロの愛刀『桜花爛漫』の模造刀。

 錬成完了と同時、挑発するミコトにチヒロは刀を佩いて――。

 

 風真一刀流 一ノ段 疾風迅雷天津風

 

 迫る刃に返すはミコトの刀――神雷衣モードでありながらも具現化した神器――振るわれる武甕槌神は刀であり、雷である。

 

 横一閃に迫るチヒロの刀をすり抜け、ミコトの刃がチヒロを袈裟斬りにする。更に返す刀でチヒロの胴にバツ印を刻んだ。

 

「(ッ、やはり刃をすり抜けるか!! なら――)」

 

 痛みに怯むのは一瞬。導電性をもつ鉄を無視できるのは想定通り。

 チヒロの刀に霊魔子が纏わりつくのをミコトは知覚。

 

「雷神一刀流 雷華!!」

 

 何かする前に潰すと、雷速で放たれた五連撃は花弁が開くように放たれた。首を切断せんと迫った一撃目と二撃目はかろうじて防げたが、残りは直撃。チヒロは血飛沫を上げながら吹き飛んだ。

 

「(チッ、やっぱ単純に考えて身体強化魔法じゃミコトの雷速には追いつけない!!)」

 

 当たり前の話だ。身体強化魔法で音速は超えても雷速には追いつけない。物体が質量を持つ限り、質量を持たない光には及ばない。速度を上げなければ何度でもミコトの攻撃を受ける事になるだろう。

 とは言え、何度も死んだ体験をしてるチヒロにとって、魂に傷をつけるような攻撃以外さほど脅威ではない。

 だがそれはミコトにも言えることだ。

 

 どちらかが魂を損傷させる術を完成させた瞬間、均衡は崩れる。

 

「(ミコトがもつ魂への攻撃手段は何だ? 雷と風を媒介にした術で何ができる?)」

「(奴は何をしてくる? 先の念力は何のためじゃ?)」

 

 チヒロは体勢を整え、ミコトに向かいながら。

 ミコトは吹き飛んだチヒロを追いながら。

 それぞれ相手の手段を探り合う。

 

 彼我の距離が開いてから僅か3秒。再び二人は相見える。

 斬り結ぶ二つの刀。今度は甲高い金属音を響かせていた。

 

「(ひとまずダイヤモンドに錬成し直したけど、強度が心配だな)」

 

 まずチヒロが解決したのは根本的な問題。

 どうやってミコトの武甕槌神に触れるか。

 それを刀の組成をダイヤモンドに変換することでクリア。たんなる炭素では電気を通すが、ダイヤモンドは通常電気を通さない。

 そしてなによりダイヤモンドで作るメリットがある。

 

 『位相』『収束』『空の帝王』

 

 刀を操りながらも詠唱。

 同時に刀表面のダイヤモンドに不純物(炭素)錬成(ドープ)

 

「三重展開――【雷】!!」

「(撃たない? 何をするつもりじゃ?)」

 

 炭素(グラフェン)を含ませたことにより、電気を通さないダイヤモンドに【雷】を流すことができる。

 【雷】を纏った刀を上空に一振り。

 パリィッと振った刀の軌跡上に【雷】が形成。次の瞬間、突如として上空から雷が落ち、ミコトに直撃。

 

「意味無いと言ったじゃろうが!!!」

「いいや、意味はある!! 自然現象を無効化すると言っても、影響はあるんだろ!!? 今の雷はそれを検証するためにやったんだ!!!」

 

 意味が分からないとミコトは心の中で首を傾げる。

 

「(おそらく、魔法で落雷を誘発し、それを儂に直撃するためだけに【雷】を放った。いわば誘導じゃ。だがそんな事しなくとも雷そのものである儂に落雷は勝手に引き寄せられる)」

 

 分からない。

 解らない。

 

「(それに、何故祝福の弱点を突かない? 知ってる筈じゃろ? 自然現象は無効化するが、純粋な魔法から放たれるエネルギー(火や雷など)は効くぞ。何を考えておる?)」

 

 銀鏡チヒロの意図が読めない。

 

「(この弱点以外を突こうとしてるのか? ………ぐぐぐっ、この、儂は頭良くないんじゃ!!!!!!)」

 

 その苛立ちを解消するが如く、大規模な雷撃を放った。

 

 鳴々雷楽(メイメイカグラ)!!!

 

 天に向かって放たれた雷撃は、数多に分かれて地に下る。それはまるで雷の豪雨。その一つ一つが容易く地面を穿って砂利を巻き上げ、轟く雷鳴は巨大な太鼓を打ち鳴らしたかのように世界に響く。

 

 更に――

 

「雷神一刀流 轟々雷閃(ゴウゴウライセン)!!!」

 

 天から下る雷を軸に、真横に走る雷刀の閃き。

 天変地異にも似た現象を容易く引き起こしたミコトに観客は度肝を抜かれた。それと同時に、チヒロはこれをどう回避、あるいはいなすかに期待がかかる。

 

「(いない?)どこに――」

 

 ミコトの念力の知覚範囲にチヒロの存在がない。となれば知覚範囲外に脱出したのかと考えた瞬間、体を上下に分断された。

 

「なぁっ!!? (一体どこから!!?)」

 

 血飛沫が舞う視界の中、確かに見た。

 遠く離れた場所でこちらに向かって指を向けるチヒロの姿を。そして足元で光る魔法陣を。

 

「(そうか転移魔法――!!)」

 

『位相』『収束』『散り行く燐光』

『巡る次元』『揺蕩う空間』『黎明告げるは滅びの奏』

 

 凝縮した時間の中、聞こえない筈のチヒロの詠唱が聞こえる。

 

「(――その大規模な電撃を待っていた!!!)」

 

 ここに来て、チヒロの作戦が終盤に収束する。

 単なる鉄杭を出すなら夥しいまでの錬金構築式はいらない。

 刻んだ錬金構築式の中身は形状記憶。転移魔法陣の形状を記憶させた鉄杭を初手で出したのだ。

 加えて磁力で鉄杭を操ったのは、ミコトに勘付かれないように鉄杭の一部を遠くに飛ばすため。

 そして今、直撃した雷の電熱により鉄杭は元の記憶を思い出(変化)し、転移魔法陣を自動で作り上げたのだ。

 

『位相』『収束』『無覚の境界』

 

 掛け合わせたのは【零】と【解】。

 ――(ミコト)は光と電子の両方の性質を併せ持つが、電子はともかく光でさえも、重力には影響される。

 無効化はするが、影響はされることはさっきの落雷で確認済み(雷状態だからか、落雷による電場に押されていた)。加えて、応用した念力―――【雷】や【界】などは知覚できないことも確認済み。

 

 だからこそ。

 

 確率収束―――制限解放

 

 放たれるは重力の刃――

 光さえ逃さない不可視の太刀――

 

 遍絶(あまねだち)】!!!

 

 天秤を傾けた一撃は、視界一面を格子状の斬撃で埋め尽くす。

 その全ての斬撃は触れたものを押し潰し、塵一つ残さない。

 

 開幕より僅か4分45秒。

 銀鏡チヒロの一撃が戦場に刻まれた。

 

 1秒、2秒、3秒と待ち、10秒経っても風神ミコトは姿を現さない。観客は凄いものを見たと歓声があがる。それに対して、チヒロの顔は時間経過と共に青褪めて、喜色満面とは懸け離れた表情をしていた。

 

「(まさか、本当に殺しちゃった? 一撃で? 嘘だろ?)」

 

 狼狽えるチヒロの姿は、観客からは風神ミコトの殺害による敗北を恐れているかのように見えた。

 

『これより3分待機しても風神ミコトが戻らなかった場合、死亡したと判断し、銀鏡チヒロの反則負けとなります』

 

 アナウンスが流れるのと同時、チヒロは探知魔法を使用。先程の天秤により、念力の使用を10日間不可という誓いを立てていたため、念力による知覚はできず魔法を使ってミコトの痕跡を探す。

 

 だが、それでも。

 

『3分経過しました。判定により、『白銀の仙狐』銀鏡チヒロの反則負けとなります』

 

 その日の午後に出た夕刊。『銀鏡チヒロ、風神ミコトを殺害!!』という目出しの中、チヒロは『殺す気はなかった』とのみ答えていた。

 魔王を斃した英雄を殺した銀鏡チヒロを詰る者。

 英雄を倒せた銀鏡チヒロを賛称する者。

 世間は真っ二つの意見に分かれていた。

 

 

―――………

 

 

 自室に戻ったチヒロは、ベッドの下に隠した保険をその場で分解、風化させた。

 この保険の中身は、銀鏡チヒロ自身の右腕。肉体を滅ぼされた場合、魂は一番大きな肉塊に宿り、再生する。なお肉塊すら無い場合はその場で魂を核に肉体が再生する。

 

 チヒロは初めから負けるつもりだった。

 

 チヒロが立てていた計画はこうだ。

 雷を操るミコトに対し、磁力操作による鉄杭による攻撃をプラフにし、本命を転移魔法後の【遍絶】と認識させる。殺す気で放つ【遍絶】を避けてもらうために事前に一発軽く撃ってこちらを認識させておく。

 天秤の皿に念力の使用不可を乗せ、【遍絶】の後は念力が使えなくなることにより、自身の弱体化をさり気なく行う。

 その後は身体強化魔法を主に魔法と刀を駆使して鎬を削り、致命的な一撃を貰うことで肉体を消滅させる算段だった。もし肉体が残ってしまっていても、残った矮小な欠片から再生したところを見せれば決着は着いたと審判が判断してくれるだろう。

 

 という算段を立てていたが、ものの見事に崩れ落ちた。

 

 自身が負けることで得られるメリットは3つ。

 

 ①風神ミコトの決闘意欲を減少できる。

 ②来たる白銀イダス/アオガミとの戦いに向けて、相手に自身の分析解像度を下げる事ができる。

 ③風真いろはに声をかけやすくなる。

 

 ①と②はともかく、③は風真いろはに声をかける切っ掛けに、『いやーミコト強かったよー! ミコト相手に善戦した風真さんはもう私と同じくらい強いよー!』とできる。あわよくばそのまま話の流れで、落ち込んでるいろはを笑顔にさせたかった。

 だが現実は逆で。

 そんな事言ってしまったら嫌味と変わらない。勝者が敗者にかける言葉は憐れみと一緒だ。嫌われてしまう。

 

「(……気分転換に出張でも行ってもらおうかな。うん。それが良さそうだ)」

 

 何を言っても落ち込んでいそうで、必要な時以外部屋に引きこもってそうなので、チヒロはいろはに出張に行かせることにした。

 

「(娯楽都市ロスベガスか、ヤマトの二択だな)」

 

 ヤマトはともかく、娯楽都市ロスベガスはウェスタの近隣国の一つであり、都市国家である。金に輝く建築物はまるで夢の中にいるかのように非現実的で、色とりどりに光るネオンは誘蛾灯のように人々を誘い込む。ロスベガスの噴水ショー、巨大複合遊戯施設、著名な建築家が建てた麗しき博物館や美術館、そしてカジノは数ある有名処のうちのトップを争っている。そんなロスベガスでは小国の国家予算並の金が一日であちこちに何度も変動するという。まさに夢を追いかける冒険者が一度は訪れてみたい国の1つである。

 

「(いや待てよ。ロスベガスに出張させたら、逆に何か気を遣わせてしまうか? 明らかに『遊んでこいよ〜』って言ってるようなものでは!? あぶねっ! やっぱりヤマトだ!)」

 

 危ない危ないと頭を振ったチヒロは、ヤマトに出張に行かせる事にした。名目はカミ修行という題目で。

 

「(うむ、我ながら良きなアイデア。どのみち六年後までにはここから居なくなってもらわなければいけなかったんだから、カミ様修行は丁度良かったね。最低でも十年かかるんだから六年後までに帰ってくることは無いっしょ)」

 

 誰にいろはのカミ様修行をつけてもらおうかと考えながら、風真いろはの遠征手続きや諸々の事務的な作業を済ませておく。

 

「うむ! やはりここはイナリ神社のカミ様に連絡しておこう! とは言え、滅多に連絡しないから、私のこと覚えてるかなぁ……」

 

 不安気に尻尾を揺らしながらスマホをポチポチとイナリ神社の宮司に繋がる番号に掛け、三コール目に相手の声が届いてきた。

 

「あ、もしもしー? 私、銀鏡チヒロと申します」

『誰だ? 何故私の番号を知っている?』

「え? やだなぁー。私ですよ! ほら昔やんちゃしてたキュウビさんを『お、思い出しました』お、良かったわぁ」

 

 何故か声が震えてたキュウビに疑問を覚えながらも、チヒロは安堵の息を吐いた。

 

『して、如何なるご要件で?』

「そっちに1人私の部下を送るので、カミ様修行を付けて貰えますか? その子最近仙人になったので、実力は保証しますよ」

『ご要件は分かりましたが、イナリ様に訊ねなければお答えできかねます』

『いや、良い。歓迎しよう』

「あ、イナリさんお久しぶりです!! お元気でしたか?」

『イナリ神社の大切な子たちのお陰でな。今も久方振りにお前の声が聞けて元気になったわ』

「私もイナリさんの声を聞けて元気モリモリてんこ盛りですよー!!」

 

 電話の向こうからクスクス声が聞こえてきて、尚更嬉しくなるチヒロ。

 

『では、また会える日を楽しみにしておる。またな。――キュウビ、電話に割り込んですまなかったな』

「はーい。受け入れありがとうございました!! イナリさんまたねー。バイバ〜イ」

『いえいえ、まったく』

「キュウビさんも、受け入れありがとうございます。あ、あとその子方向音痴の気があるので、お迎えをお願いしても良いですか? 多分明日の昼頃に着くと思います」

『かしこまりました。麓の神社に迎えを送ります』

「ありがとうございます! ではまた、さよならー」

『はい。お疲れ様でした』

「またね〜」

 

 ポチッと通話終了ボタンを押し、一通りの根回しを終えたチヒロは椅子から立ち上がり、執務室の扉を開けて風真いろはの部屋を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カミ様修行、ですか」

「うん! ヤマトのイナリ一門のところで修行しておいで」

「……」

 

 うじうじと落ち込むかざまに嫌気が差したのだろうか。

 銀鏡さんはかざまに別のところで修行をして来いと言った。

 

「分かりました」

「うん! 頑張ってね!! 風真さんなら身体強化魔法で海面走れるからそれでヤマトまで向かってね!!」

 

 それを断れるわけでも無く、かざまは淡々と頷いた。銀鏡さんの続いた『手続きは諸々しといたから、あとはもう必要な荷物纏めて出発するだけだよ!!』という言葉に、尚更要らないもの扱いされているような気がしてならなかった。

 

 かざまは要らない子なのだろうか。

 カミ様修行が年単位で修行を要するのは知っている。それをかざまに課すのは、つまり。

 

 銀鏡さんがそんな事をするような人では無い事は知っているけど、今のかざまの心はそんな事さえ気付けない程に酷く落ち込んでいた。

 当時のかざまは、知らなかったのだ。これがかざまを守る事に繋がっていただなんて。

 

 

 

―――………

 

 

 

 光は別の次元に移動する事ができるのは、虚像世界が証明している。では、重力はどうだろうか?

 重力も別の次元に移動することができると唱えられている。というのも、重力は自然界のほかの三つの力(電磁気力、強い力、弱い力)に比べて桁違いに小さい。指先に着いた水滴が重力に逆らって指先に着いたままなのは、重力が弱いということに他ならない。それはつまり、重力を伝える粒子、重力子が他の次元に逃げていると考えられる。

 

 ―――光(雷)の存在であった風神ミコトは、銀鏡チヒロの重力を纏った一撃を受けて消滅したかと思われた。

 

 だが、それは間違いだ。

 

 奇跡的な確率を経て、風神ミコトは次元を移動し、そこに辿り着いた。

 

「どこじゃ、ここは……」

 

 気付けば牢屋の中。牢屋の外には不自然な程に静まり返り、赤く染まった電灯が仄かに辺りを照らしていた。

 

「よう、久し振り。ざっと一万年振りか?」

「ッ!? お前はッ!!」

 

 独りだと思ってた矢先、背後から飛んだ声に振り返る。

 振り返った先に鎮座しているのは、遥か昔の一万年前、全霊を賭して封印した―――

 

「『魔王』!!!!」

「そんな目で睨むな。別に殺しゃあしないぜ。それにここは殺しは禁じられてる」

 

 一万年という長い年月を経て、ここ大監獄The Cellに魔王と勇者が集った。

 

「運命サマはここにお前を呼び込んだ。何のためだと思う?」

「は? そんなもの知らぬの」

「『勇者』と『魔王』の力が必要な時がくるってことだ」

「…………詳しく話すのじゃ」

「いんや。これ以上は無理だ。これでも結構綱渡りしたんだぜ」

「どうだかの」

「代わりに、妾が直々にThe Cell(ここ)の説明でもしてやる」

 

 魔王がいるということは、自身は現在、かの大監獄にいる事は察しがついていたが、その詳しい情報は知らなかったため不承不承と魔王の話に耳を傾ける。

 

「―――……なるほどのぉ。だから感情の起伏も鈍いのか。貴様への殺意が直ぐに凪いでくる」

「――それに、閻羅人共は有事以外何もしない。時間の流れが乱れてるからな。感情云々に加えて、囚人は空腹は感じないし怪我もしないし睡眠もいらない。だから閻羅人は少ないし詰所でゲームしてる」

「だからAdventとやらに逃げられるじゃろうが。管理方法変えた方が良いじゃろうが」

「Justiceの連中も帰っては来ないだろうな。今やあいつらも檻の中さ」

 

 ジャラジャラと枷の鎖を揺らしながら、マクスウェルは肩を竦めた。

 

「どういうことじゃ? お前の話じゃJusticeという組織は犯罪を犯さないグループでは?」

「ん? ああ。たんに逃げたAdventを追った先で戦闘になり、負けて捕虜になった」

「Adventはそこまで強いのか?」

「いや、Adventを先に捕らえた奴らがいてな、そこにカチコミをかけて負けた。クハハッ、面白いものを観れたぜ」

「名前はなんじゃ?」

「シークレット・アーカイブ・ユニット。組織の頂点は破壊神オメガ。そいつとお前をここに送るきっかけになったやつがJusticeを……というかエリザベスを斃し、Justiceを捕虜にした」

「アイツ何やってんだ? というか、何故儂がアイツと戦ってたことを知っとるのじゃ?」

「テレビ」

「テレビ!!!?」

 

 よくよく見れば、牢屋の中にテレビがあった。中継でも観てたのだろうか。

 衝撃で口をポカンとしていると、マクスウェルが何やら物を渡してきた。

 

「ゲームしようぜ。独りじゃ暇なんだ」

「…………」

 

 何で囚人をこんなに自由にしてるんだとか。

 何でゲームがあるんだとか。

 何で漫画もあるんだとか。

 諸々言いたい事があったが、ミコトは飲み込んで盛大にため息を吐き、ゲームのコントローラを握った。

 

「現実じゃお前をしばけないからのぉ、代わりにこっちでギタンギタンにしてやるわ」

「じゃあ大乱闘にすっか。ルール知ってるか?」

「おお。儂ゃあ強いぞ」

「カカッ、ほざけ。妾が最強じゃ」

 

 そこには魔王と勇者が肩を並べてゲームをする平和な光景があった。




 本文に付け加えて。
 風神ミコトの視界同調機能などは、神器と一体化した際に壊れました。超々高出力の電圧や電熱に耐えきれなかったようです。そのため、機能を使って風神ミコトが生きてるかどうかは不明だったため、本文のように3分の時間制限をかけていました。
 重力云々の話は本当の話です。別次元に逃げていることを確かめる為の実験が実際に行われています。
 強い力の強さを1とすると、四つの力の強さの比率は、
 強い力:電磁気力:弱い力:重力=1:10^-2:10^-10:10^-38
くらいになります。たとえば電磁気力とくらべると、重力は10^36(=1兆 ×1兆×1兆)倍も弱いのです。ほかの力とくらべて、重力が圧倒的に弱いです。
 ブレーンワールド仮説によると、閉じたひもである重力子はブレーンからはなれ、高次元方向に動くことができます。これが、ブレーン内の私たちにとって、重力がほかの力よりも極端に弱い理由であると考えることができます。ただし、この考えは万有引力の法則と矛盾する部分があり、それを解消するために、それぞれの空間次元の大きさや形をうまく調節するモデルが考えられています。(2023年6月号Newtonより引用)

 大監獄The cell
 ネリッサの紹介文より、封印中にジャパニーズオタクカルチャーに触れていた事が記載されていたため、囚人は通常より遥かに待遇の良い扱いを受けていたのだと思います。
 確かに何も無ければ外に、つまり脱獄したくなりますが、内部で完結してるなら脱獄する必要はありませんからね。
 それはそれとして杜撰な警備体制見直した方が良いと思います。

 銀鏡チヒロ
 お見送りはした。涙は出なかったが代わりに鼻水がデロデロに出た。

 風真いろは
 情緒不安定侍、現在海面を爆走中……
 次回白上さんちのお狐さんに会う。

 風神ミコト
 チヒロ相手によく分からん負け方をした人。
 マクスウェル相手にボロ負けをした人。

 マクスウェル・ダークネス
 Adventが居なくなってから暇を持て余していたが、同居人が増えてハッピー。大乱闘で勇者をボコボコにした。
 銀鏡チヒロと風神ミコトの戦いは、「ほーん、強くなってるじゃん」と思って見てた。

 オメガ
 読者の中で、オメガってマクスウェルじゃないの? って思う方がいるかもしれません。第22話で、オメガ=マクスウェルを示唆するような内容を確かに書いてありますからね。しかし、よく読んでいただくと、これはチヒロ視点であるので、真実を記す神の視点(第三者視点)ではありません。アホなチヒロが早とちりしただけです。一人称も違うのにね。
 ちなみにその誤解は既に解けてます。また付け加えると、オメガはある意味、ダークネス一族の血を引いていると言っても過言では無いかもしれません。
 
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