頭の上にぽこべぇを乗せ、海面を身体強化魔法で走るという奇行にも似た絶技でヤマトに辿り着いたいろはがまず初めに行ったことは、聞き込み。
チヒロに渡されたヤマトの地図のどこに、現在いろははいるのか。誰かに訊ねようと、いろはは砂浜の海岸から歩を進めた。
忙しなく鳴く蝉の声に眉を顰めながらも街を目指して歩くこと数分。はたと気付く。
「(これ、身体強化魔法で思いっきり上空に跳んで確認した方が早いのでは?)」
何も考えず全力で身体強化魔法を発動し、地面を蹴る。蹴るどころか爆弾でも爆発させたような異常な爆発音を奏でながら上空に跳んだ。およそ地上から10 kmといったところか。そんじゃそこらの山々より遥かに高く跳び上がったいろはが見たのは――。
「何あれぇ〜、すっごー」
―――巨大な桜。現在地からおよそ130 kmだろうか。
この距離でさえはっきりと確認できるその桜は風真いろはの語彙力を奪った。
たったの一目で、あの桜がただの桜ではないことが分かる。
あれ程まで美しい姿に神秘が宿っていることを悟る。
地面に到達するまでの200秒間、いろはずっと目を桜に奪われていた。
その後、跳び上がった時の衝撃で吹っ飛んだぽこべぇを回収した後、度々上空に跳び上がりながらも走り続けること1時間。
いろはは賛美な桜に囲まれた都市に足を踏み入れた。
キョウノミヤコといったところか。一見して、ウェスタよりも亜人種が多いように見えた。多種多様なヒトビトが忙しなく行き交っている。
そしてヒトビトが多いのと同じくらい―――。
「離れて!! ケガレが出たわ!!!」
―――ケガレによる騒動が多いと感じた。
ひょこひょこ頭を群衆から覗かせながらも、いろはは半分野次馬根性半分手助け気分で騒動の中心に進んでいく。
「(……人たくさんいてあまり見えないでござる)」
爪先立ちしてもぴょんぴょん跳ねても前が見えない。人種が多様であれば身長も多様だ。
「(おっ、あそこに登ればよく見えるのでは?)」
特に何も考えずぴょーんと屋根を目がけてひとっ飛び。
音も無く優しく瓦に着地したいろはは、そのまま腰を下ろした。
目下では、狐耳を生やした巫女装束の女性が熊の形をしたケガレと肉弾戦を繰り広げていた。
「(……あれ? ケガレって確か特殊な武器が無いと斃せないんじゃなかったっけ? 銀鏡さんも『この手袋はね〜、ケガレを祓えるように特殊な紋章刻んでるの〜』って言ってたし)」
巫女は熊に手傷は与えている。しかし効果は今ひとつと言ったところで、致命傷には程遠い。
加勢した方が良いかとチャキ丸(偽)の濃口を切ったところで、誰かが現場に飛び込んだ。
「遅れてごめ〜ん!! 白上フブキただ今参上しましたぁ!!!」
「(おっ助っ人でござるか?)」
浮かした腰を再び下ろし、好奇心で瞳を輝かせながら彼女を見る。
「後は私にまかせて下がってて」
「はい」
「――さて、この地の守護を司る我シラカミの名において、あなたをきっちりかっちり! 祓わせていただきます!!」
場に飛び込んできた闖入者は、格式張った宣言と共に抜刀。
彼女との力の差を感じだったのか、熊のケガレは一瞬怯み、しかし怖気を吹き飛ばすかのように咆哮した。
地を蹴り突進するケガレ熊に対し、シラカミと名乗った巫女は後の先を取るつもりか、その場から動かず待ちの体勢。
体格差はケガレ熊の方が大きい。よって体重もケガレ熊の方が遥かに重い。その体重を生かす為か、ケガレ熊は突進の最中強く地面を蹴り、宙空に浮かぶ。
その視線の先は、だらりと剣先を地面に向け、自然体のまま待ち構える
「グォオオオオ!!!!」
「どわぁああ!!!?」
自動車級の重量が飛んできて、思わず素っ頓狂な声を上げた巫女は俊敏な動きで避けた。しかし後の事を考えずに回避したせいか、ゴロゴロと地面に転がり砂塗れになる。
「(やっぱり手助けした方が良い感じ? そんな気がするでござる)」
巫女が強いことは把握しているが、ふつーに見てて危なっかしい。いろはは再び腰を上げた。
次に危険な目に遭いそうであれば、何時でも飛び出せる気で濃口を切り、眉間にしわを寄せて眼下の戦闘を見下ろす。
「くぅ、白上に砂浴びする習慣なんてないのに……!!! 許せません、許せませんよこの横暴!!!」
巫女はぷくりと頬を膨らませ、詠唱を始める。
「我がシキガミ、シラカミの地に住まうクダギツネたち、この手に集い我が意志のままに姿をあらわせ」
詠唱が始まるにつれてどこからともなく現れた狐が、巫女の手に集って眩い光を放つ。
「
光が消えた先には大きな瓢箪が巫女の手に握られていた。
一見、何に使うか不明な巨大な瓢箪だ。
それをガシリと両腕で掴んだ巫女は、『てぇーい!!』とケガレ熊に投げ付け、それを殴ったケガレ熊は衝撃で割れた水を全身に浴びた。
「効くでしょ〜う? その水。なんせ厄落しのイワレがたっぷり込められた清浄な水ですから!!」
力が抜けたように膝を着くケガレ熊に、巫女は勝機を見出して接近、抜刀、三連撃。
虚空に溶けていくケガレの中から出てきたのは、隈が酷い女性だった。
―――話を盗み聞きすると、どうやら育児に疲れた心にケガレが取り憑いたようだ。
「あの熊のケガレは子供を守る心が発露したものだと思いますよ」
酷く落ち込む女性の心を掬うように、巫女はその言葉をかけた。
執筆を始めて2年と半年。文庫本4冊程度書いてきましたが、飽きました。ホロライブの配信も観てないですし、何より別の話を書きたくなったので、更新やめます。
今まで応援してくださり誠にありがとうございました。