白銀家のきつねじゃい!   作:ポンタ ponta

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 私あんまり(笑)とか草とかWWWとか書きたくないのですが、表現上今回もちょっとだけ入れてます。
 また、タイトルに書いてある通り、風真いろはが怒気を滲ませて刀を握ります。そのため、語尾にござるが付かないところが多々見られますが、気にせず流して下さい。
 そしてアンケートありがとうございました。これからも家族に関する話も入れますが、できるだけホロメン以外の家族が喋るようなことはしないようにします。
 今回またアンケートを設置しました。魔乃アロエに関してです。内容はこの方も出して欲しいかどうかですが、出すとなっても情報が少なすぎるので完全に彼女の言動を模倣することはできかねます。また、出すと決まっても出演はまだまだ先の未来になるかと思います。

 それにしても主人公の影が無いっすね。でも仕方ない。幼少期なんて誰も興味ないからね。
 にしても話が進まねぇなマジで。


第6話 髑髏島に到着。風真激おこぷんぷん丸

「ううぅぁああああ………眠いよぉぉお」

 

 時は遡り、出港当日の早朝。

 太陽はまだ顔を出してはいないが、水平線の向こうは薄っすらと明るくなっている。そんな黎明での出来事である。

 宝鐘海軍が『宝鐘』を回収する軍艦が港に停泊しており、港には早朝とは思えないほど賑やかな喧騒で包まれていた。

 しかし、冒頭で気が抜けるような声を出した少女―――沙花叉クロヱは別だった。

 彼女は低血圧の中でも特に朝が超が付く程に弱く、エンジンがかかるのは昼を過ぎてからが日常であった。

 

 では、何故そんな朝が弱い彼女が日も出ていない早朝に港に居るかと言うと、それは昨日のこと。

 

 ずっっっと部屋に引きこもっていたクロヱを心配した祖母と家族が、妹を筆頭にして無理やり外に引っ張りだした。

 

『やだやだやだやだ!! 沙花叉はずっとポカポカベットの中で怠惰に青春を消費したいのぉおおおお!!』

 

 と、自室の扉にコアラよろしくしがみつくクロヱを、妹が尻を蹴とばす勢いで蹴り転がし、『ぽえぇぇぇええええ!!!』と悲鳴を上げるクロヱに、妹は鼻をつまみながらこう言った。

 

『うわくっせwww 汚姉ちゃんくっせwww とりまファ〇リーズかけとこ』

『うぉおおおい、いきなりの暴言暴力やめろ!! それにファブ〇ーズは人の顔にかけるもんじゃありませんっっ!!!』

『汚姉ちゃんいつから風呂に入ってないの?』

『………一ヶ月くらい?』

『うわ汚ったね。腐臭で飯が腐るわ』

『沙花叉オクサレ様じゃないから!!』

『でも腐ってんじゃん』

『お前もな!!?』

 

 シャチらしく噛み付き合う二人。結局はクロヱを風呂に入れてから本題に入ることとなった。

 さて、その本題とはクロヱを旅に出させること。

 無論、クロヱは抵抗した。

 

『嫌行きたくないよ!』

『なんで行かなきゃならないの!!?』

 

 それが却下されると幼児みたく駄々を捏ねに捏ねまくった。が、通用しなかった。泣き落としも駄目だった。

 リビングの床で『いいいいぃぃやだぁぁぁあああああ!!!!』とじたばた踠くクロヱの一方、妹は勝手に姉の部屋から着替えやらなんやらをバッグに詰め込み、ドスンと姉の隣に置いた。

 

『可愛い子には旅をさせよ、ってことでしょ。良かったじゃんお姉ちゃん。可愛いって言われてるのと一緒だよ』

『今の状況的に捨て子は世に出るでしょ!?』

『ぽえ? 私バカだからわかんなぁぁい』

『ムカつくなぁそのぽえぽえっ!!』

『ぽえぽえぽえ~』

 

 煽り口調で歩み寄ってくる、略して煽り寄ってくる妹に対し、クロヱは殺意を覚えた。

 

『死ねば諸共てめぇも来るんだよぉぉぉ!!!』

『やだ! それに、乗船する船は一人分しか予約してないもん。だから無理なのだ!』

 

 結局あれよこれよと本人が関与しないままに準備は終わり、就寝。クロヱは『えっ、これマジで行かなきゃならない感じ? えっ嘘だよね? 嘘に決まってるよね?』と、中々眠れない夜を過ごした。

 そして次の日の早朝、クロヱは家族総出で叩き起こされ、玄関先で家族に見送られた。

 そこまでは良かったが、港に母親の運転する車で送られた時、母親はそのまま直ぐにUターンして帰ってった。

 

『いやだ置いてかないで!! 沙花叉も連れてって!!!』

『お前を立派なシャチにするためだこれも』

『いやぁああああああ、だって怖いよぉお』

『行って来い!!』

 

 しがみついてくる娘をぽいっと剝がし、母親はそのまま車に乗り込んで帰ってった。

 

『せめて見送ってよぉぉおおお!!!』

 

 そして今。寝不足ゆえに半分以上寝ているクロヱは、周囲の喧騒に意識を割くことなく港を歩いていた。

 

(3番…? 5番…? いや8番…?)

 

 持たされたチケットの文字が勝手にのたくって、向かうべきグローブがどこか分からない。

 ちょっと意識を集中して漸く7番グローブだと分かったクロヱは、ふらふら辺りを見回しながら該当するグローブに向かった。

 そして『9番グローブ』の看板を見て、『よし7番だな』と勘違いしたまま宝鐘海軍の軍艦に乗ってしまった。

 なお、ここには間違って乗船する人を通さないために海兵がいたのだが、クロヱの見た目がシャチをモチーフにしたロック風の服を着ていたのと、至るところに『CAUTION』というデザインが施されていたという点、また堂々と乗り込んで来たために、海兵は冒険者と勘違いしてしまい、クロヱを通してしまった。

 

 さて、自分が乗っている船が間違っていることを知らないクロヱは、半分寝たまま案内係の海兵から部屋の鍵を受け取り、そのまま部屋に着いて荷物を放り、直ぐにベットに潜り込んだ。

 

「もう、限界……お休み……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 順調に寝れたのは出港してから九時間ほど経った時。クロヱにとってそろそろ微睡む時間帯に入った時、とてつもない揺れによってクロヱはベットから落とされた。

 

「痛ったぁああ……なに急に? 地震?」

 

 強く打った頭を擦り、ふと思い出す。自分が今居るのは家ではなく船の上であることを。

 

「えっ、じゃあさっきの揺れは何? 波にしては大きくない?」

 

 瞬間、海の底の方から、本能に刻まれた恐怖を煽るようなくぐもった低い声が聴こえた。生き物の声だ。それも途轍もないほど巨大な。

 

「なになになになに!!?!?」

 

 慌てふためくクロヱの耳に、今度は別の声が鼓膜を揺らす。

 

「『総員、警戒だ』」 

「一体何が起こってるの!!?」

 

 尋常じゃない事態に眠気が吹き飛んだクロヱは、とにかく誰かに会おうと自室のドアを開けた。

 

『―――ギャアアアァアアァァァァアアア!!!!!』

「きゃああああああああああ!!!?!」

 

 だが扉を開けた瞬間、鼓膜を破かんばかりの咆哮が轟き、クロヱは耳を両手で防ぎながら、もう訳が分からず泣きたくなった。

 次いで大きな揺れが襲った時には過呼吸になりかけながら、急いで護身用のナイフを取り出し、避難するようにベットに潜り込んだ。

 

「ハァハァハァハァ沈没……? 沈没するのか? そして今の声の主に喰われるのか……??」

 

 絶対安全領域の毛布にくるまるクロヱの脳裏に、過去の出来事が過る。

 

 遊園地へ向かう途中、トンネルの中で幽霊を見たこと。

 風呂に近づいただけで勝手に湯張りが始まったこと。

 アンテナ線を刺していないTVが鳴ったこと。

 落下する金属音がしたこと。

 調光機能のない筈の照明のひとつが勝手に色が変わったこと。

 風呂場で知らない女の子が写ってたこと。

 

 何故かホラー関係のものばかり脳裏に過り、ますますクロヱの恐怖が煽られる。

 

「やっぱり沙花叉死ぬの!!? 死んじゃうの!!!?」

 

 そして漸く、最近ハマっているゲームが過った。

 たまらずクロヱは叫ぶ。

 

「やだよ沙花叉、だったら帰ってあのゲームクリアしてから死にてぇっっっ!!!」

 

 涙目で必死にやり残したことを叫ぶうちに、恐怖が限界に達してクロヱは気絶するように眠りに落ちた。

 

 

 

―――………

 

 

 

 チヒロがリヴァイアサンを一刀に伏す一連の動作を見ていたセドナは、ポカンと開いていた口を閉じ、呆れたように溜息を吐いた。

 

「………まったく。彼奴め」

 

 チヒロに纏わる都市伝説はセドナも知っている。よって、腰に下げている刀が飾りというのも耳にしていた。だから口では仕留めろと言ったものの、期待はせずに足止めに務めるつもりだった。だが、チヒロが齎した結果は想像以上だった。

 

 セドナを何よりも驚かせたのは、剣を使うと意識しただけで、あそこまでの気迫が洪水のように出ていたことだった。

 歩き出すまではただ飄々としていたのに、そこからはもう別人のようだった。

 ただ“斬る”という意思だけでこちらの身体を震せるなど、それはもはや魔法である。

 セドナ自身は剣を嗜んではいないため、よくわかっていないが、あれ程まで剣術を極めるのは途方もない修練に身を費やしたと感じた。

 

 そしてそれは、セドナにこんな感想を抱かせた。

 

「始めからああしておれば、ここまで手こずることはなかったのではないか?」

 

 ポツリと呟いたその声は、リヴァイアサンの討伐で沸く歓声で掻き消された。

 

「イダスよ、貴殿は知っていたのか? チヒロがあれ程までの剣の使い手であることを」

 

 いつの間にか隣に立っていたイダスに問い掛ければ、イダスは少し逡巡した後に頷いた。

 

「知っていたのは確かだ。入団試験において、チヒロの相手をしたのは私だからな」

「ほう、そうなのか」

「ああ。面接を担当した者から連絡が来てな、『仙人』であり剣術を使える者がいると言われて、通常の者相手では話にならんと判断して私が出た」

「なるほど。ではなぜ『刀が飾り』という噂が出たのだ?」

「簡単な話だ。チヒロは『仙人』としての力が異常に強く、念力も相応に強かった。ゆえに刀を使う必要がなかっただけだ。私自身、チヒロが刀を使ったところを見たのはこれで三回目でしかない」

 

 と、そこでチヒロが中空から二人の側に降りてきた。

 

「あれ? なにかお話し中でしたか?」

「いや、構わん。それよりチヒロ、リヴァイアサンを持って帰れるか?」

「もちろん、持って帰りますよ。これほど状態が良ければ魔法具の材料として使えますし、今回『宝鐘』の回収に参加してくれた冒険者と海兵の皆さんに、お土産として一部渡したいので」

「そうか。それもそうだな。報酬として加えておこう」

 

 ひとまずリヴァイアサンの処理について話しが着いたので、チヒロは借りたチャキ丸を返すべくいろはの元へと歩み寄った。

 

「これ、ありがとうございました」

「いえ、お役に立てたなら結構でござる。……あと、ひとつ伺いたいでござるが、チヒロ殿の流派は何でござるか?」

 

 好奇心と疑いの半々が混ざった目でいろははチヒロを見つめる。一方チヒロはよくぞ聞いてくれたとばかりに、誇らしげに胸を張った。

 

「風真一刀流です!」

 

 しかしいろはは、更に疑い深くなった目で頷いた。

 

「……そうでござるよな。だがおかしいでござるな。風真一刀流の継承者は全員、風真の里の里長に認められなくてはならないんでござるよ。それは祭りと称して里中に広がるでござるから、新たな継承者について知らぬ者などおらぬ筈なんでござるよ」

「………何が言いたいんでしょうか?」

「巷では人の技術を奪えるワザがあるという。チヒロ殿……いや、貴様もしや継承者を殺して力を奪ったのではないか?」

 

 たちまち剣吞な雰囲気が垂れこみ、いろはは返答次第では斬るとばかりに神器に手をかける。

 殺気を飛ばされたチヒロと言えば、目に見えて狼狽えていた。もうめちゃくちゃに焦っていた。尻尾が無意識に膨らむ程焦ってた。

 

「ちちち、違いますよ! 私はちゃんと正式に継承しましたっ!! 信じて下さい!!!」

「ほぅ、では何故その刀の鞘が蝋色塗では無いなのだ? 大切な品なのでござろう?」

 

 『風真一刀流』の継承者は、師匠から免許皆伝の証として鍛刀された一振が渡され、その鞘は蝋色塗という表面を研磨して蜜蝋のような光沢を出す装飾が施されている。

 しかし、チヒロが下げていた刀の鞘は青貝微塵塗という、青みを帯びた虹色の光沢を放つ装飾が施されていた。

 

「それは折れてしまったからです!! もちろん折るつもりなど無かったんですが、相手が相手だったので仕方無かったんですぅ!! それにこの刀は私の友人から頂いた日本刀と呼ばれるものですぅ!!」

「なるほど一理ある。しかし信じがたいでござるな。……そうだ、貴様の師の名前を言ってみよ」

「うえっ!!?」

「どうした、答えられないのか?」

「いや、その、あの……」

 

 口ごもりながらチラチラとあちこちに目をやっては、いろはの目を見るチヒロ。狐耳はしょんぼりと垂れて、もはや副団長の威厳はない。

 唸りながらも必死に頭を捻るチヒロは、しばらくして観念したように口を開いた。

 

「名前は知ってます。でも言えないんです」

「言えない……と?」

「そうです。ただ、風真の人から習いました。本当です!!」

「………………」

 

 命乞いをするが如く必死に弁明するチヒロと未だ鋭い目を向けているいろはの間に、幹部が割って入った。

 

「まぁまぁ、銀鏡さんがここまで必死に弁明しているんだから、いろはも刀を抜こうとするのはやめなさい。それに、銀鏡さんを問い詰めるのは島に着いてからでも良いでしょ?」

「むぅ、そうでござるな。分かったでござる」

「わゎ、助かりました鷹嶺さん」

 

 ほっと一息ついたチヒロは、逃げるようにそそくさと自分の軍艦の方へと飛んでいった。

 それを見送った幹部は、不思議そうに首を傾げた。

 

(あれ? 私自己紹介なんてしたっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

 チヒロの念力によってリヴァイアサンの亡骸を宙に浮かべ、再び髑髏島への舵をきる一行。

 その一行を阻止したのは突如として発生した、轟音鳴り響く海鳴りと共に進行方向から波が消えていく事象。

 

「『全艦停止。及び後進強速』」

 

 セドナの号令により、急遽艦隊は停止した後にスクリューを回し、引き擦り込まれないように後退する。

 そして、荒波が収まった頃、再びセドナの声が響いた。

 

「『皆の者、これは私の目がイかれたのか? ――進行方向から、海が消えた』」

 

 セドナが言うように、一直線の境界から先が鋏で切り取られたように無くなっており、海水が音を立てて向こう側へと落ちていく。

 その光景は、世界が平らにできていると言われても、納得できるようなものだった。

 もちろん、世界は途切れの無い球体だ。そのことは世界一周を果たした宝鐘ディーネが証明している。

 

「『待て………そうか、これは渦潮だ。だが、これではまるで――滝ではないか』」

 

 少し考えてみればタネは簡単なことだった。

 そもそも、髑髏島が渦潮で囲まれていることは当の昔から知られていた。たんにその渦潮があまりにも巨大過ぎて滝のように見えていただけ。

 その渦潮の幅は優に二千メートルを越え、ゴォォォオオオオオオオ――という轟音が空気を振動させていた。

 

「一体どうやってここから先に進めばいいんだ………」

「あの渦潮を越えられるのか?」

 

 そんな声があちこちから上げられているが、その解決策はすぐそばにある。いる、と言った方が正しいか。

 

「『チヒロ、いけるか?』」

 

 その訊いは自信に満ちた声で構成されており、否定されるなどあり得ないと確信していた。

 そしてその答えは、次の光景で返された。

 艦隊に大きな揺れが襲ったかと思えば、海面が下がっていく。いや、それは正しくない。軍艦自体が浮かび上がったことにより、海面が遠さがっているのだ。

 

「『横暴な方ですね、セドナさんは』」

 

 チヒロの念力により浮上した軍艦は、渦潮による影響を受けずに渦潮を横断する。

 また、浮上するということは眼下の光景がよく見えるということで。

 

「なんだあれは!!?」

 

 その渦潮の中心にあったのは、巨大な口。

 棘のような長い歯がびっしりと生え、口に入るものを何でもかんでも嚙み砕き、嚥下している。今も鯨ほどの大きな魚が、潮のように血を噴き出して、断末魔の叫びを上げたままその怪物の餌となった。

 

「まさかあれは―――カリュブディスか……?」

 

 つまり、先程急に現れた轟音と引潮は、カリュブディスが海水を飲み込んだために起こったものである。

 そしてこのゴォォォオオオオオオオ――という轟音は、髑髏島の海域に入る前、幹部が怪物の声みたいだと喩えたものと同じだ。幹部はそのことに気付いたのと同時に、氷柱が背中を滑ったような寒気に襲われ、サァァァ――ッと青ざめた。

 あれは比喩でも何でもなく、正しく怪物の声のだったのだ。

 怖いものが嫌いな幹部は、たたらを踏むように後ずさった。

 

「『念のため、高度を上げます。皆さん落ちないよう、下を覗き込まないようお願いします。落ちたらまぁ……最悪ぱっくんちょですね。もぐもぐされちゃいますから気を付けてください』」

「『恐怖を扇ぐでない』」

「『すみません』」

 

 なんだろう。チヒロの言動がリヴァイアサンを討伐した者とは思えない。こういう所も相まって都市伝説ができたのかもしれない。

 だが、そのお陰で皆の心臓に忍び寄っていた恐怖はいつの間にか消えていた。

 

 幹部はいろはと共に壁に寄りかかっていると、ガチャリと客室に通じる扉が開いた。

 

「ハァハァハァハァ終わったのか……? 沙花叉助かったのか??」

 

 尋常じゃない様子で出てきた一人の少女。顔色は青を通り越して白くなっている。

 思わず心配になっていろはが声をかけると、その少女―――沙花叉クロヱは涙腺が決壊したのか、大粒の涙を流しながらいろはに抱き着いた。

 

「ど、どうしたのでござるか!!?」

「うぇええええぇぇえんんん」

「どこか痛むのでござるか!!?」

「ぇええぇえええぇええええんんんんん」

「大丈夫、大丈夫でござるよ。何もここには居ないでござる。よしよし、いいこでござる。いいこいいこ」

 

 とにかく泣き喚くクロヱを、いろはは頭を撫でて落ち着かせる。

 

「怖がっだっ! 死んじゃうがど思っだっっ!! ぐずっ、怖かったのぉぉおおお!!!」

「大丈夫でござる。かざまが着いているでござるよ。だから泣き止むでござる。可愛い顔が台無しでござるよ」

「んっ、沙花叉可愛い?」

「とびっきりに可愛いでござるよ」

「もぅ一回」

「可愛いでござる」

「んふふへっ」

 

 えへへと笑みを溢し始めたクロヱは、どうやら落ち着いた様である。

 改めて自己紹介を交わし、何故あんなに泣いていたのか訊いてみれば、どうやら間違えた船に乗ってしまい、気付けばここまで来ていたそうだ。幹部はそれを聞いてイダスを呼びに向かった。

 

「それは災難でござるな」

「もう死ぬかと思った。凄く揺れたし凄い声聞こえたし、喰われるかと思った。あっ、思い出したらまた涙が」

「よしよし、大丈夫でござるよ。頑張ったでござる」

「なにこの子天使か?」

「かざまは人間でござるよ?」

 

 いろはが『なに言っとんだー』と返したところで、幹部がイダスを連れてきた。

 

「君が間違えてこの船に乗ってしまった者か?」

「は、はいそうです」

「君を港町に返したいのは山々だが、今更引き返すことはできない」

「うっ、そ、そうですよね」

「だが、君の安全は私達が保証する。市民を巻き込んでしまったのはこちらにも非があるからな。何か必要な物があったら手近な者に伝えてくれ。直ぐに用意しよう」

「いえ、守って下さるだけで十分です」

「そうか。そう言って頂いてありがたい」

 

 ひとつ礼をしたイダスは司令塔に戻り、この場には三人が残された。

 

「そう言えば、沙花叉さんって元々どこに行く予定だったの?」

 

 と、幹部は興味本位でクロヱに問いかける。

 

「えっと極東にあるヤマトっていう国です。そこのキョウノミヤコっていう場所で一ヶ月滞在するつもりでした」

「ああ、桜と大きな御神木で有名な」

「はい、その国です」

「ルイねぇ、そのキョウノミヤコってどんな国なんでござるか?」

「それはね―――」

 

 好奇心でキラキラと目を輝かせるいろはに、幹部は得意げに人差し指を立てて説明を始める。

 

 ―――ヤマト。その国は大陸極東にあるヒトとカミとアヤカシがともに生きる土地。

 この国は大きな島国で、島の中央部に「キョウノミヤコ」とよばれる巨大な街が存在する。

 四季があり、春は桜、夏は草木、秋は紅葉、冬は雪、折々に色づく美しい自然の景観がそこかしこで見られ、村や街もまた、その雅な風景に寄り添うように、自然との調和を大切にした立地、造形が多い。

 

 だからこそ、『美しいところだった』と。ヤマトを訪れた旅人は皆、そう語る。

 

 ―――キョウノミヤコ。この都市は華やかな装いを見せ、沢山のヒトビトで賑わうヤマト一の大都市。

 不思議なことに、この地の桜は決して散ることはなく、四季折々の景色とともに咲き誇る桜を眺めることができる何とも雅な場所である。

 

 そのミヤコの中心を貫く大路の先に待つのは、荘厳にして巨大なオオカミを祀る大神宮。

 

 そしてその最奥にあるのは天を貫く大神木。遠方から見れば、それは塔にしか見えず、あるいはそれは本当に、古の神が建てた塔なのだとも語られている。しかし、その木がいつからそこにあるのか、なぜこうも巨大なのか、そのイワレを知るヒトは誰もいない。

 

「―――っていう場所なんだよ」

「へぇえ、行ってみたいでござるなぁ」

 

 その言葉にときめきいたのはクロヱ。元々一人で旅をする予定だったので、共に旅をする人が増えるのはありがたい。いろはは優しい上に見目麗しく、清楚な雰囲気を纏っており、クロヱの性癖に中々に刺さっているのも良い。

 

「じゃ、じゃあ、今回の航海が終わったら一緒に行きません!!?」

「えっ良いでござるか? なら是非とも行きたいでござる!!」

「それ私も行っていい?」

「もちろんです!」

 

 あっという間に仲良くなった三人。軍艦が空を飛んでいる間に旅行の計画を立てたり、どこそこに行って珍しいものを食べたいという話題に花を咲かせていた。

 

「『カリュブディスの渦潮を越えました。着水するので衝撃に備えてください』」

 

 と、しばらくしてチヒロの声が響いた。

 どうやらあの渦潮を越えたらしい。軍艦の高度が次第に下がっていき、そして着水。三人とも体を硬直させていたが、そこまで想定された衝撃が襲ってこなかった。

 

「『さて、皆の者着いたぞ。これがあの―――髑髏島だ』」

 

 まず一番に目を引いたのは、その名前の由来となった『髑髏』の山。その巨大さは確かに遠い海からでも見える程であり、上顎から上が地上に出ている。そんな髑髏の表面は緑一色で覆われていた。

 次に海。こちらは先程の海とは打って変わって穏やかな海が広がっていた。それはまるで南国の海のように透き通っており、悠々と泳ぐ魚の姿が見えた。

 

 あちこちに広がる珊瑚礁。

 心地良く鼓膜を揺らすさざ波。

 髪の毛を弄ぶ潮風。

 

 それは髑髏島という名前に相応しくない程に穏やかな海だった。

 

 そんな島と海に目を奪われた冒険者と海兵。目を奪われて硬直していたのは彼らだけではなく、クロヱも同じだった。しかし、ここでクロヱは驚くような行動をした。

 なんと『うわっほおおおおいいいい!!!』と奇声を上げながら走り出し、そのまま海に飛び込んだのである。

 これには思わず目が点になる。

 さきほどの大人しさはどこにいったのか。幹部といろはは目を白黒させながら、泳いでいるクロヱを目で追った。

 

「いや髑髏島さいっっっこおおおおおお!!!!!」

「『今泳いでいる馬鹿者に告ぐ。即刻船に戻れ』」

 

 セドナが忠告を飛ばすも、クロヱは無視しているのか聞こえていないのか、元気よく泳いでいる。

 それに慌てふためいたのは当の本人ではなく、一緒にいた幹部といろはだった。

 

「沙花叉戻ってこい!!」

「さかまた戻るでござる!!」

 

 急いで声をかけるも、クロヱの耳に届かない。もはや無理やり戻すしかないと考えたところで、クロヱの背後が大きく波打った。それに気付いたクロヱは振り返る。

 

「ぎょぎょギョ魚!!?」

 

 目に入ったのは水面から覗く灰色の背ビレ。

 鮫のような姿をしたその魚は、クロヱを獲物と見なしたのか、逃げるクロヱを追いかける。

 

「全く、沙花叉って落ち着きが無いな。先が思いやられるぞ」

「ル、ルイ姉ぇぇえ!!」

 

 しかし捕まることはなく、飛んできた幹部に回収された。

 もう襲われることはないと調子に乗ったクロヱが、眼下で円を描くサメモドキに対し得意気に煽る。中指を立てて煽る。

 

「やーいやーい! 飛べないサメはただのサメなんだよぉぉおお!! 悔しかったらここまで来てみろぉぉ!! え? 無理? 知ってたwww」

「シャアアアアア!!!」

「ぽえぽえぽえぽえ~~? ぷいぷいぷいぷい~~?」

「沙花叉キショイ。落としていい?」

「ごめんなさい調子に乗りました」

 

 さて、幹部によって回収されたクロヱは、そのままイダスにより説教され、髑髏島に着くまでの数分、正座されていた。

 

 

 

―――………

 

 

 

 髑髏島に着いた一行は、まず拠点を作るところから始まった。

 時は既に夕方。それもじきに夜の帳が降ろされる。それまでに本部を設置しなくてはならない。

 

「私が結界を張っておく。イダスとチヒロは指揮を取って拠点作りを始めてくれ」

 

 そう言ってセドナは岬の方へと歩いて行き、浜辺を中心として外からの侵入を防ぐ結界を張り巡らせる。

 残されたイダスとチヒロの方もそれぞれの軍艦に搭乗していた者たちに指示を出し、あっという間に拠点を作り上げた。

 中心に大きな焚火を築き、それを囲むようにテントが三つ。一つ目は作戦会議で使うもの、二つ目は怪我人などを手当てする医療所、三つ目は倉庫代わりのもの。

 最後に拠点にも結界を張り、完成とした。

 髑髏島は記録上、というか伝説上ディーネを除いて前人未到であるため、どんな危険な動植物が棲息しているか不明である。よって、測量や探検などは明日にし、睡眠は各自軍艦で取ることとなっている。

 

 場所は変わってセドナの軍艦の司令室。その場にイダスとチヒロの三名が集まっていた。

 

「明日、髑髏島に踏み入れるのは当初の予定通り九時で構わないか?」

「構わん」

「構いません」

「では次に、実際に『宝鐘』を回収する部隊についても、私セドナが率いる部隊で構わないか?」

「ああ」

「もちろん。ただ、私に関しては測量に分けられていたのですが、リヴァイアサンにやられた軍艦のチェックをしなくてはならないので、本部に残っても構いませんか? きっと私の念力が必要となるので」

「そうだな……よし、ではイダスが探検及び測量を担当してくれ」

「了解」

 

 イダスがそう頷いたところで、チヒロから提案があった。

 

「確か私の所に尾丸ポルカという獣人がいます。彼女は聞いたところによるとテイマーらしいので、連れていってください。それに彼女のパーティーも。きっと役に立てますよ」

「なるほど。では彼女らを借りていこう」

「よし。ならば次の議題に入ろう」

 

 夜はまだ始まったばかり。

 淡々と処理していく会議は、月が傾く頃まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 チヒロが司令室を出た頃、廊下の向こうに人影が立っていた。

 

「? おーい、もう寝る時間ですよー」

「………」

「……?」

 

 チヒロが声をかけても返事がない。近付いてみようと一歩踏み出した途端、あちら側が動き出した。

 そして影が月明かりに照らされた途端、チヒロは慌てたように踵を返した。

 

「おっと私やらなくちゃいけないことがあったのを忘れておりました」

「待つでござるよ」

 

 チヒロを引き留めたのは、紛れもない風真いろは。

 その手には神器チャキ丸が握られていた。

 

「逃げたら問答無用で斬るでござる」

「暴力反対!」

 

 チヒロが腕をバッテンにして拒否しても、いろはは有無を言わさずに押し詰める。

 後退し続けたチヒロは、ついに廊下の奥に追い詰められた。

 

「まず、貴様が知っている『風真一刀流』について話せ」

「え? それだけで良いんですか?」

「他にも訊くし、信用はしてない。だがルイねぇが言ってたでござる。貴様は白銀騎士団の副団長という立場にあると。その立場を慮って斬ることを止めにし、こうやって訊ねているのでござる」

「分かりました。しかしここで立ち話をするのはそちらも不味いでしょう。私の部屋に案内します」

「駄目だ。だが場所は移そう。檣楼だ」

「分かりました」

 

 そして場所は移って檣楼の上。

 チヒロは草臥れたように檣楼の壁に凭れ、いろはは鋭い目でそれを見つめる。怪しげな行動をしたら斬ると言わんばかりだ。

 

「では説明しますよ『風真一刀流』について」

 

 ―――風真一刀流。それは風真の里に伝わる古流剣術。

 里の創始者であるカミ、風神ミコトにより伝承される剣術であり、人間相手に限らずどんな生物との斬り合いを想定した実質本位の殺傷剣。その剣において、最も重きが置かれるのが相手の先を読む目。どんなに剣が鈍く遅くても、全てを見通す目があれば神殺しさえ可能な最強の豪剣。

 正式な継承者は、その名の如くその身を風と化し、戦場を走り抜けて敵を殺す。

 知る人ぞ知る秘伝の流派であり、継承者自体も少ない稀少剣術。

 それが、風真いろはと銀鏡チヒロが扱う風真一刀流なのである。

 

「とまあ……私が師から学んだ風真一刀流についてはこんな感じです」

「……確かに。では次だ。貴様の持つその刀は何だ? 貴様は証である剣を折られたのだろう?」

 

 と、いろははチヒロの腰の剣をまじまじと見つめる。大切な品と言っていた刀だ。

 本当は抜きたくもないのだが、見せないと納得はしてくれないようなので、チヒロは仕方無く腰に差した得物を鞘ごと取り出していろはに渡した。

 

「どうぞ抜いて見てください。魔剣とかそういう呪われた武器ではないのでご安心ください」

「では―――」

 

 カチャリと刀身を抜き、いろはは月光の下にその刀身を晒した。刀身が透き通る月の光の影響を受けて、普段より輝かしく写り出す。

 

「――ほぅ」

 

 いろはが思わずそう漏らしてしまう程、その一振の美しさに魅了されていた。

 感嘆の吐息を聞いたチヒロは、仮面の下で嬉しそうに微笑んだ。

 いろはは思考を切り替えると、真剣な目で刀身を見る。見える刃文は重花丁字。一度も使ったことがない程に綺麗すぎる刀身。握る部分である柄にも一切の汚れがない。

 

「……貴様、これを使ったことが無いのか? これではまるで芸術品ではないか」

 

 いろはは一通り見終わったあと、チヒロにそう言った。

 刀は振るうもの。

 ならば使わない刀を腰に佩く意味が無い。

 率直ないろはの感想に、チヒロは優しく答えた。

 

「それは『桜花爛漫』。私の大切な友人が授けてくれた、自慢の愛刀です。その友人のお陰で、勝てた戦いがありました。使ったのはその一回と、二年前に起こった『青影事件(ブルーシャドウ)』の二回だけです」

「……なるほど。その友人は今どこに?」

「既に寿命で死んだかと」

「そうでござるか。悪いことを聞いてしまったでござるな」

 

 と、一通り眺めたいろははその『桜花爛漫』をチヒロに返した。

 

「次の質問だ。先刻貴様は師の名前を答えられないと言ったな。どういう意味でござるか?」

「これは色々複雑なものなんですが、簡単に言ってしまえば“まだその時ではない”或いは“危険過ぎる”から、ですね。特に後者はその名前を知ってしまって何が起こるかわからない。もしかしたら知ってしまった貴女が死んでしまうかもしれない」

 

 そう言ったチヒロは真剣な面持ちだった。お面をしているからわからないが、覗く碧眼は真っ直ぐにいろはの双眸を見る。

 

「……分かった。ひとまず、貴様を信用することにする。だが、もし、貴様が『風真一刀流』を奪ったというのなら、かざまが貴様を殺しに行くから覚悟するでござる。冥界の果てだろうが天界の果てだろうが、どこまでも追いかけて貴様を殺す。良いでござるか」

「うぅっ……」

 

 胸に鋭く人差し指を突き付けられ、チヒロは余命宣告されたように項垂れた。

 

「それが嫌なら―――」

「嫌なら? ッ!?」

 

 チヒロを見透かすように見ていたいろはの目が、すっと細くなってチヒロの狐耳と尻尾に移る。

 すわ切断する気かとチヒロは片手で両耳を押さえ、もう片方の手で尻尾を抱き締めた。

 

「それを触らせてください」

「……はい?」

 

 深々と折られた腰。晒されたつむじ。

 チヒロは急に変わった展開に頭がついていかず、束の間固まった。




 風真いろは。
 知ってそうな振りをして頷いたが、『青影事件』については知らない。狐耳と尻尾を思う存分ナデナデふにふにして帰ってから幹部に訊いた。

 鷹嶺ルイ。
 チヒロに名前を覚えられていることに気付き、イダスに限らず目を付けられたと判断。やはり今回は何もせず普通に過ごすことをもう一度決めた。

 沙花叉クロヱ。
 一時はどうなるかと思いきや、案外なんとかなりそうでほっとしている。髑髏島には入らず、軍艦もしくは本部でお留守番。

 風神ミコト。
 名前はそれっぽいのをチョイス。意味はない。
 かつてholoxと共に魔王と闘ったカミ。現在は風真の里にはおらず、放蕩の旅を続けている。
 どうやら『風真一刀流』にはまだ秘密がありそうである。

 髑髏島。現状で判明していること。
 髑髏の両目にあたる部分は夜になると青白く光る。おそらくそこに生えている苔が原因かと思われる。
 島を取り巻く海が目撃情報だけでリヴァイアサン、クラーケン、シーサーペントなどなど怪物が棲む海域であるため、島自体には独自に進化を遂げた生物が棲息しているかと思われる。

 青影事件。
 二年前、ウェスタで起こった奇妙な事件であり、当初はケガレに冒されたヒトビトによる犯罪と思われていたものの、それを祓った時に青い影のようなモノが出てきたため、そう呼ばれている。また、青い影に冒されたヒトビトのワザやイワレが失われており、この事件が解決するまでワザを使用することができなかった。
 解決に至るまでの経緯は省くが、当時白銀騎士団三番隊隊長であった銀鏡チヒロが黒幕を討伐し、この事件の幕が下りた。
 ちなみに、白銀騎士団の上下関係は団長、副団長、隊長、一般騎士の順。隊長は七人存在し、それぞれに三十人の騎士が所属している。
 なお団長に関しては白銀家の者ではないと就任不可。
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