今回上記の通り日記形式になってますが、単に日記のガワを被っているだけです。あと特殊タグを使っております。苦手な方はご注意ください。
次回からは『七人目の構成員編』(仮)です。おそらくその導入部分が入ります。少し沙花叉クロヱについて書くことがあるのですが、もしかしたら長くなりすぎて導入部分が入らないかもしれません。
ちなみに、今話の最後に書かれている話は、いずれ書くつもりであります。書かない可能性もあることも承知しておいてください。エルフに関しては書きます。
最後の場面の『~なんて』の部分が『~なんで』になっていますが、これはあえてこうしてるので誤字では無いです。
私は覚えています。
あなたが私と過ごしてくれたことを。
私は決して忘れないでしょう。
あなたがどれ程悔いてくれたか。
そしてそれと同じくらい、私は願っています。
あなたの幸せな未来を。
私は全てを赦します。
だから
もう
泣いてもいいのよ。
―――………
ディーネの手元には一冊の本があった。
「これは……」
それは机の中にあった。
表面をうっすらと覆う埃を手で軽く払う。
「日記か。宝鐘ディーネの」
茶色の革に赤の栞。
セドナは沸き上がる好奇心を抑えつつ、ゆっくりとページを捲った。
・
・
・
○月×日
天候晴れ。
今日から日記をつけることにする。そうした方が記憶力が上がるらしい。私はあのクソジジイみたいにボケたくないからな。
取り敢えず、今日あった出来事を書いていく。
朝、メイドに起こされて一人で朝食を食べた。ちょっと寂しい。
昼、勉強で疲れた後、デザート付きの昼食を食べた。甘いものは好き。
夜、勉強の隙に隠していたお菓子を一口。バレて怒られた。あのババア取り上げやがって許すまじ。
○月△日
天候晴れ。
ババアに仕返しで、小麦粉を砂糖の代わりに紅茶に入れといた。飲んだ瞬間吹き出した。ざまあみやがれ。
○月▽日
天候曇り。
特に書くことない。いつもと同じ勉強三昧。ほんっと勉強なんて嫌い。なんでやんなきゃならないの? 家庭教師のババアに訊いたら、『お淑やかで品性のあり、知性と美貌に溢れた淑女となるため』って言われた。
なるほど。しっかりやらないとババアみたいに皺がダルダルになるんだな。ディーネ理解した。
○月◎日
天候雨。
今思ったけど勉強に美貌関係なくないか? 知性に美貌は伴うんですか? 比例的に上がるんですか? なんとか言ってみたらどうだあ゛あ゛あんん!!??
×月○日
天候曇り。
何か屋敷が騒がしい。なんでか王族の方が来るらしい。そのために屋敷を綺麗にしてるんだって。お陰で今日は勉強から解放された。王族サマサマだ!
かと思ってたら、私も王族と夕食を共にするらしい。それ初耳なんだが?
×月×日
天候晴れ。
やばい。めっちゃ緊張してもはや覚えてない。何を話したのかも覚えてない。あとテーブルマナーってあれでいいんだっけ? すごい不安なんだけど。
とりあえず私が何かやらかしてないことを祈る。アーメン。
……あ、ラーメン食べたい。
人はこれを現実逃避という。
×月△日
天候曇り。
最近天気悪いなぁ~と呟いてみる。
今日珍しく父親と朝食を食べた。食べ終わった後、大事な話があると言われて書斎に行ったけど、何か急用が入ったらしい。明日に繰り越しだって。気になる。
……どうか私が何かやらかしてませんようにぃぃ!!! お願いします神様ぁぁああ!!!
×月▽日
天候雷雨。
昨日の大事な話ってのは昔話だった。安心した。私特に悪いことしてなかった。
んで、本題だけど耳かっぽじってよく聞けよ未来の私。
私達宝鐘ってニブルヘイムの時代に創られた人間なんだって! 凄くない!!? しかも神器『宝鐘』から名字を取ったんだって!!!
ところでその『宝鐘』って誰が持ってるの?
未来の私はそのこと知ってるのかな?
×月●日
天候晴れ。
時間というのは早いもので、私は来週誕生日を迎える。なんと十六歳だ!
でも憂鬱。来週の誕生日に結婚式も挙げるんだ。知らない男性と。
屋敷中てんやわんやの大騒ぎ。あちこちに飾り付けして浮かれてる。私は対照的に気分が沈む。
……なんだかシリアスな気分になってしまった。まぁ、だからといって何かする訳じゃないんだけどね。
LaLaLaLa~♪
私は自由な恋愛に憧れた~♪
私はどうせ籠の中の鳥。自由に空をとべないの♪
騎士様が囚われの姫を助けるように、私にも誰かやってこないかしら。
LaLaLaLa~♪
うん。私に音楽の才能ないね。歌うのは好きなんだけどね。
×月□日
天候晴れ。
遂にやってきた誕生日兼結婚式。お付きのメイドは清々しい程の晴天ですねとか言ってたけど、私は憎々しげに空を睨んだ。へっ、曇っちまえ。
そして肝心なお相手は……まぁまぁカッコいい。うん。顔は及第点ね。うん。
でも中身が大事だからね一番。
おぅ、優しい。あと笑顔素敵じゃないの。
なんだテメェ『随分とお淑やかな女性ですね』って。私への当て付けかコンチクショウ。悪かったな正体はこんなお転婆娘でよ!! でも嬉しかったぞこんやろー!!
△月◎日
天候晴れ。
随分と久しぶりに日記を書く。
結婚のゴタゴタとか、育児のゴタゴタ、家のゴタゴタと色々あってすっかり忘れていた。
私はもうすぐ二十歳。宝鐘家の当主を継ぐ人を決める会合が近い。きっとこうしてまた日記を書けるのは随分と経ってからだろう。
△月●日
天候晴れ。
昔、神器『宝鐘』が誰が持っているのか疑問に思ったことを日記に書いた。
あれ、どうやらクソジジイこと私の祖父が持っていたらしい。
その神器を継承するに値する人を決めるのが、会合なんだ。二十歳になる宝鐘家の者を集め、こうして会合を開き宝鐘家全体の後継者を決める。つまり『宝鐘』の真の継承者=宝鐘家当主となる。
まぁ、私は当主になりたいとかそんな野心はないから別に選ばれなくても良いんだけどね。
△月×日
天候晴れ。
選ばれちった。どうしよう。
しかも私ともう一人。
どうすんのこれ?
△月♪日
天候晴れ。
一時はどうなることかと思いきや、すんなりと事は収まった。あっちは何かに憑かれている思ってしまうくらい、当主になることに執心だったけど、私は別に当主になりたいとか思ってなかったから、私が辞退したら直ぐに終わった。
私の悩んだ時間を返して欲しい。
△月♫日
天候曇り。
偶然話を聞いてしまった。私はどうしたらいい? まさか『宝鐘』をそんなふうに使うつもりだなんて。
宝鐘の当主になった奴が、『宝鐘』の権能で王族を操ろうとしている。
□月○日
天候雨。
今私は海の上でこれを書いている。
あれからどうなったのかを簡単に記す。
夫に奴の計画を話して今後について話し合った結果、真の継承者である私が奴の『宝鐘』を盗む。そして港に用意した船と信頼できる数人の仲間達と海に出る。←今ココ。『宝鐘』が無いことに気付いた奴が、犯人が私であることに気付いて追手を放つことを想定し、返り討ちできるように夫ではなく私が海に出る。そして夫は子供を連れて山に逃げる。この部分は夫と随分と言い争った。自分が海に出ると私を説得しようとする彼に対し、私は子供のことで言いくるめた。
追われる身では育児ができないと。それに正直言ってしまえば、あなたは私より弱いと。海の上であなたと子供を守りきる自信がないことも伝えた。
夫は武力を優しさに変えたような人間だった。剣や弓もてんで駄目で、魔法も上級がいいとこな、ちょっと抜けてる夫。でも私はそこに惚れたのだ。
それでも退かない夫に私はこう言った。
私はあなたの笑顔が好きだと。だから私の帰りを笑って待っててくれと。
夫は恥ずかしげにちょっぴり笑って、仕方ないと折れた。
そうして海に出て、私は現在この日記を書いている。
やるべき事は沢山ある。特に大事なのは、世間に知られている神器『宝鐘』の権能を歪めること。
魂を把握された生物が操られることを世間から消し去らなくては。
でなくては今みたいに、善からぬことに『宝鐘』を使う輩が必ず出てくる。それは決して許してはいけない。
なにしろ『宝鐘』は魔王に対抗するために創られた、三種の神器なのだから。
―――………
そこまで読んだ時、セドナは微かに息を吐いた。
「そうだったのか……」
納得がいった。同時にディーネへと尊敬の念を抱いた。
ディーネが海に出た理由。そして『宝鐘』の権能が海洋生物への催眠、洗脳ということで知られていたワケ。
おまけに自身が所属する宝鐘海軍設立の背景。海軍はきっと、ディーネを捕らえるために創られたのだ。
「…………」
セドナはふっとディーネを見た。
そして今一度、黙祷を捧げた。
しばらくして顔を上げると、セドナは再び日記を捲り始める。
日記にはそれからのことが書かれていた。
心踊った冒険の数々。新たな仲間の加入。空島。賢者の石。黄金郷エルドラド。クラーケンの子供。海に沈んだアトランティス。天界の秘密及び冥界の秘宝。
書かれていたのはそれだけじゃない。
楽しいことばかりではなかったのだろう。日記にはディーネが心の中で潰していた感情が書き殴られ、時には涙とおぼしき跡まであった。
古参のメンバーの死。訪れた場所での悪辣な環境。追手の海軍との抗争。自分の故郷への愁い。残してきた夫と子供への憂い。
そして一番酷いページは、涙で濡れたようにぐしゃぐしゃになっていた。
それはこう記されていた。
『仲間が全員死んだ』
世界一周を成した後。故郷へと帰る道すがら。
世界一周を成すまでに随分と名を上げた宝鐘海賊団は、その財宝を狙われ同盟を組んだ海賊達の艦隊に襲われた。
ディーネは絶対にしないとまで決めていた『宝鐘』での人間相手の洗脳も行ったが、多勢に無勢。操った海獣も悉く殺され、仲間達もひとりひとり、またひとりと倒れていった。
そして遂にはディーネの首へとサーベルが届きそうになり、ディーネは覚悟するように眼を瞑った。
それと同時に、空気から溶け出すように一人の隻腕の人物が現れた。
その人物はディーネの状態を見るや否や腰に差した抜き身の刀を抜いて、ディーネに迫っていた海賊の首を刎ねた。
彼か彼女か不明だが、そいつは魔法も組み合わせて海賊の群れの中に飛び込み、十分もしない間に海賊共を殲滅した。
圧倒的な戦闘は、それはもはや一種の芸術。飛び交う魔法は花火に似て、宙を舞う血飛沫は噴水だった。
血振りしたそれは、得物を片手に持ったままディーネを見てこう言ったそうだ。
『魔王はどこにいる?』
と。
―――………
♪月×日
天候晴れ。
唯一生き残った私は、スルメの力を借りて廃船同然の船を操り、無人島同然の島に辿り着いた。
死んだ仲間を埋葬したりして色々あったし、心の整理をつけるのに時間がかかってなかなか筆を取れなかった。
書くことはまだある。
失った仲間の代わりに、共に過ごしているのは命の恩人。だが、そいつはあまり信用できない。
急に出てきたこともあるし、第一声が魔王はどこだってなんだ。今言うことかそれ。あとウェスタに封印されてるわ。
♪月○日
天候晴れ。
ふとそいつの名前を訊いてなかったことに気付いて訊ねてみたら、彼女は名前を『桐生ソコロ』と名乗った。これからはそいつではなくソコロと記すことにする。
それで、ソコロは私に『宝鐘』『白銀』『姫森』の神器それぞれに真の継承者がいるかどうかを訊ねてきた。最近……というか、私がちゃんと喋れるようになるまでどこかに姿をくらましていたのと何か理由があるのだろうか。
取り敢えず、私は知らないと答えた。海の上に居たんだから、そこまで詳しいことは知らない。この事を言ったら、ソコロは再びどこかに消えた。一体どこに行ってるのか。
別に寂しいとかではないが、無人島で独りは普通に危険なので早く戻ってきて欲しいものだ。
♪月△日
天候晴れ。
ソコロが割りと早く帰ってきた。
何をしていたのと、どこに行ってたのかを訊ねてみたら、ウェスタに行って確かめてきたらしい。なんだコイツ空飛べるのか。羨ましいな。私はせいぜい超級魔法がひとつしか使えないレベル。空を飛ぶなんて夢のまた夢。
ていうかコイツいつまでいるの?
♪月♩日
ふざけるな。
私がこうして海に出ることになったのも、仲間が死んだのも、全部全部お前のせいじゃないか。
お前が『宝鐘』を創ったせいで、私の人生どころか夫と子供の人生全てを狂わせたんだ。
いいやそれだけじゃない!! これから育つ子供の子孫の未来も歪めたんだ!!!
●月◎日
天候曇り。
許せるものか。ええ、決して赦してやるものか。
精々こき使ってやる。私が死ぬまで奴隷のように働けくそ野郎。それがお前の贖罪だ。無論、赦すつもりは毛頭無いけどな。
●月○日
天候雨。
ひとまず、今後の事を考えよう。
ウェスタには戻れない。というか帰れない。もし奴の追手に捕まってしまったら死すら生ぬるい拷問を受けるだろう。それはごめんだ。夫や子供に会いたいけど、果たしてまだ生きているかどうか……。駄目だ考えるのやめよう。
住む場所を考えよう。いつまでもこの無人島にいるわけにはいかないし、海軍に見つかる可能性だってゼロじゃない。海軍に絶対に見つからない場所か、あるいは海軍が絶対に辿り着けない場所がいいな。
それに食事もそうだ。魚とかココナッツだけじゃそのうち病気になる。果物や肉も必要だ。
あ~めんどくさくなってきた。いっそクソ狐にやらせるか。見付けて来るまで帰ってくんじゃねえ。
●月×日
天候晴れ。
女狐が見付けてきた島に行くことになった。その名も髑髏島。確かにこの島なら『宝鐘』を持つ私以外海軍だろうがなんだろうが辿り着けないでしょう。それにクズが言うには動物も生息しているそうだから、食うものには困らない。『宝鐘』で無力化すればたとえ猛獣だろうが関係ない。
……ん? まてよコイツどうやって髑髏島に着いたんだ? 空飛んだのか? んで空を飛びながら魔獣とかを寄せ付けなかったのか? ……なんだよそれ卑怯だろ。剣術も魔法も何もかも出来て、なんで神様はコイツばかり才能を与えて私には試練といわんばかりのものを強いるんだよ。私が何かやったか? 神様の逆鱗に触れるような真似をしたか? 何もしてないだろ。
●月△日
天候晴れ。
最後の仲間と言ってもいい、自分の船を髑髏島の沖合いに沈めることにした。
今までありがとう。私達を乗せてくれて。
そしてごめんな。お前を見送るのが私とスルメとよく分からん奴しかいなくて。寂しいでしょうけど、そっちには仲間がいるからほんの少しの辛抱だ。
じゃあまたな、我々の永遠なる友、
●月×日
天候晴れ。
女狐が見付けたという安息地域に着いた。ここは恐竜や蜘蛛、ミニョーカオンなどは寄り付かないらしい。近くに元々ある魔法陣を恐れているのか、奴らは決して近付かないそうだ。そのおかげでここ一帯は穏やかな風景となっている。果物も探せばすぐに見つかるでしょう。
●月♯日
天候大雪。
不覚ながら風邪に罹ってしまった。
風邪を引くだなんて何年ぶりか。私も風の子の時代を過ぎていたという訳だ。どちらかと言えば私の子供時代は大嵐な気がするけど。
いかん、なんか変なこと書きそうだからここらで筆を置こう。
●月#日
天候曇り。
風邪を引いていたのが女狐にバレた。
急造したベットに連れ込まれて寝かされたが、私は熱に魘されながらも頑張って起きていた。女狐には寝なさいと言われたが、お前を信用してねぇんだこっちは。
そんな私をどう捉えたのか知らんが、女狐は私の髪を撫でながら子守唄を唄ってくれた。
“私はどこにもいかないよ”
“あなたの側にずっといるよ”
よく覚えているのはここだけ。後は覚えてない。私の知らない唄だったけど、いい曲だと思う。
でもひとつだけ言いたい。
お前さては音痴だな!
●月&日
天候晴れ。
風邪完治! だけど狐は動くのを許してくれなかった。まだベットで寝てろって。
私が寝ている間に色々精のつく料理を作ってくれた。
そのおかげで私は目がギンギラギンだ。絶対何か間違った食材入れてるだろこれ。うまかったけど。
まぁ、感謝してる。ありがと
●月▽日
天候曇り。
家どうしようと思っていたら、女狐が持っていたビルダーという機械で建ててくれた。なんだそれめちゃくちゃハイテク。なんか機械からバーって光線が出て輪郭を形成した所から徐々に実体化してた。正直興奮した。だって未知の科学だぜ? 興奮しない方がおかしい。あとそれあるなら始めから使えよ。
ソコロは神器じゃないって言ってた。もしかしたらカクリヨのものかもしれない。正直欲しい。
私に寄越せと迫ったら物凄く困った顔で謝ってきたが、詫びで寄越せと迫ったら、絶対に誰かに渡すことや紛失しないことと、いつか必ず壊すことを条件にしぶしぶ渡してくれた。ヒャッホイバカめ壊すだなんて勿体無いことするわけないだろ!!
あ、そういえば書いてなかったけど、女狐は仙人だった。念力便利だなぁー。
●月※日
天候雨。
悲報? 朗報?
まさか女狐は男でした。
てめー始めから言えよ! 確かに気付かなかった私も悪いかもしれねぇけどざぁ! あと裸見られた時の悲鳴が『にゃあああああ!!!』っておまえ猫か!!?
おなごらしい悲鳴上げてんじゃねえ!!
●月☆日
天候雨。
最近アホ狐にほだされている気がする。アホ狐もアホ狐で復讐で私に殺されることを微塵も考えてないのか、今も私のベットですぴゃーと寝息を立てている。くそ可愛いじゃないか。
今思えばコイツのことを知ろうとしなかった。なんで隻腕なのかも知らないし、いつまでもここにいるのかも知らない。知っているのはニブルヘイムから生きていることだけ。知らないことばかりだ。
明日聞いてみようかな。ニブルヘイムの時のこと知りたいし、魔王に関しても訊いてみたいし。
それにまぁ、何かソコロと近付ける気がするし。
なんてことを、思ってみたりして。
おやすみソコロ
なにやってんだろ私。もう寝ることにしよう。
●月▲日
天候雷雨。
ニブルヘイム時代のことを訊いてみたら、やんわりと否定された。言いたくないらしい。でも気になって何度も追及したら、見たこともない顔で怒られた。思わず肩が跳ねた。どうやら私はソコロの地雷を踏んでしまったらしい。
ただ、ひとつだけ教えてくれた。ニブルヘイムはまさに地獄だったと。
それっきりソコロは何も教えてくれなかった。詳細が何も分からないぶん恐ろしさが募る。一体どれ程のものだったんだろう。
☆月×日
天候晴れ。
日を改めて、いつまでここにいるのか聴いてみた。するとソコロは当たり前のような顔をして、私が老衰で死ぬまでと言った。
確かに私が死ぬまでソコロをこき使おうと思っていたけど、もう今は何も思ってない。奴隷のように扱うにはソコロの人となりを知りすぎた。
話を戻そう。ソコロが今何歳かは知らないけれど、これからの数十年私と一緒に過ごすのは時間の無駄だと思う。一緒に居てくれるのは凄く嬉しいけど、何か目標とか目的地とかあるならここから離れても構わないと思う。別にまた会えるでしょうし。
そんなことを言ったら、ソコロは何とも言えない表情をして、『目的はあるけれど、そのためにディーネと離れたらもう会えない』と言った。
私自身離れても構わないと言ったけれど、一人は寂しいから正直嬉しかった。だから私は死ぬまで一緒に居ようと言った。
……なんか恋人ぽく言ったけど、別にそんな気はないからね! 浮気じゃないからね!!
・
・
・
○月×日
天候晴れ
読み返して思ったが、☆月×日から二年が経った。
今思えば、この日からソコロは星空を眺めるようになったと思う。いや、星空を眺めることは前からあったんだけど、その頻度が多くなっていると思う。ソコロは何も言わずに、三角座りでずっと星空を見上げている。
それに今日気が付いた私は、ついに腹を括った。
だってソコロのあの顔は、子供が涙を堪えている時と同じだって気付いたから。
そして私はソコロが眠っている間に、『宝鐘』で洗脳をかけた。
これできっと、明日には家を出ていくだろう。
○月☆日
洗脳が効かなかった。魂を把握した感覚がなかったからもしかしたらと思っていたけれど、やっぱり効かなかったらしい。
安堵の笑みを浮かべてしまった私が嫌になる。
今度はもう失敗しない。
ところで手応えがまるで無かったけどどうしてだろう。創造主には効かないっていうセーフティがあるのかな。
○月△日
私の罵詈雑言を浴びたソコロの顔が今も鮮明に思い浮かぶ。
ソコロは碧の両目を波打たせ、でも泣くまいと唇を噛み締めていた。
ああ、心が痛い。
私の罵倒に、ソコロは堪えるようにぎゅっとひとつしかない手を握り締めた。
ああ、心が痛い。
魔法で強化した私の拳を、ソコロは避けることもなくその身で受けた。赤く腫らした頬に手をあてて、それでも逃げようとしないソコロに、私は刃物を取り出して馬乗りになった。殺されかけてようやく、ソコロは私を突飛ばして逃げた。
これでいい。これで良かったんだ。
○月▽日
やめてよ。私とお前はもう違えたんだ。
だから、ドアを開けて欲しいとカリカリ掻くのはやめてよ。
家の前で蹲るのはやめてよ。
○月▲日
やめてよ。食べ物で釣られて出て行かないよ。私の好きなもの作ったからといって外から声をかけないでよ。
返事をしなかったからと言って外に置いとかないでよ。
また、追い出さないといけなくなるから。
○月◎日
食べ物を持ってきたソコロから、私はスープを受け取った。受け取ってくれたと嬉しそうに笑うその顔めがけてぶちまけた。ついでに思ってないことも口に出した。蹴りも出した。
あの時のソコロの顔が忘れられない。
○月♪日
もうソコロは来なくなった。
これでいい。
これで良かったんだ。
私はようやく、声を上げて泣いた。
今までありがとう、ソコロ
・
・
・
△月×日
天候雨。
同居人が増えた。とは言ってもソコロじゃないし人間でもない。ただの狐だ。狩りから帰ってきたところで、軒先で丸まってた。野生とは思えない程警戒心がない。今も私のベットですぴゃーと寝息を立てている。私の晩飯になるとか思ってないらしい。そんな気は微塵もないけれど。
△月&日
天候晴れ。
行く宛の無い手紙ばかりを書いている。
返る筈の無い手紙ばかりを書いている。
夫や子供への手紙よりも、なぜかソコロ宛の手紙が多い。それに気付いて無性に笑ってしまって、そして寂しくなった。
願わくば、ソコロに幸せな未来が待っていますように。
お前もな、ごんべえ。
△月●日
天候晴れ。
今日もまた手紙を書いている。
手紙を書いていると脳が刺激されているのか、よく昔の事を思い出す。郷愁の念に浸り、あの人は元気かどうか気になるけれど、何故かそこまで知ろうとは思わない。まったく不思議なものだ。
―――………
拝啓・桐生ソコロ殿
今あなたはどこで何をしていますか?
風邪は引いていませんか? 健康に過ごせていますか?
こちらは最近雪が多く、鼻先が赤くなる日々が続いています。でも元気です。病でくたばる気はさらさらありません。
同居人である狐のごんべえに家族ができました。喜ばしい限りです。
最後になりましたが、あなたの無事を祈っています。
敬具
拝啓・桐生ソコロ殿
今思えば、私の人生はそこまで辛くはなかったんだと思います。最近そう思えるようになりました。誰かの死も、誰かの産声も、全ては巡りに巡って環を成している。
世界には輪廻転生という考えがあるのをふと思い出しました。もし人が生き死にを繰り返すなら、かつて亡くなった仲間達も今どこかで産声を上げているのかもしれない。そう思えば、なんだか嬉しくなりました。
いつか私も死んで、再び生を受けたなら、また仲間達や家族、生き別れた夫や子供にも会いたいです。もちろん、ソコロあなたにも。
でもそう簡単には死なないからね。ソコロもお元気で。
敬具
拝啓・桐生ソコロ殿
歳を取ると昔の出来事をよく思い出すようになりました。かつての仲間や家族のことも思い出します。もはや何を喋っていたかは覚えてないのに、何故か彼ら彼女らの笑った口元だけが鮮明です。
いつかソコロのことも忘れてしまうのでしょうか。そんな日が来てしまうことが、とても寂しく恐ろしいことだと感じてしまいます。
ですが私は覚えています。
あなたが私と過ごしてくれたことを。
私は決して忘れないでしょう。
あなたがどれ程悔いてくれたか。
そしてそれと同じくらい、私は願っています。
あなたの幸せな未来を。
私は全てを赦します。
だから
もう
泣いてもいいのよ。
敬具
拝啓・桐生ソコロ殿
お元気ですか。お変わり無いですか。
今、何処で何をしていらっしゃいますか。
あれからもう数え切れない程の季節が通り過ぎました。
なのに、起きる時、眠りにつく前、転寝から覚めた後、意識が朧気な時はあなたの姿を探してしまいます。
翻る月光の御髪。
揺れる滑らかな尻尾。
鈴が転がるような声。
もう、あなたは何処にもいないのに。
私はここであなたを探してしまいます。
ただ、夢ならばまた会えるでしょうか。
また、あの時のように二人で過ごせるでしょうか。
私は何時も、夢の中に囚われてしまいます。
それが虚構だとしても、私はそこに居たいのです。
もし、いつか再び会えたなら、私の名前を呼んでくれますか。
たった一言。私の名前を呼んで欲しい。
ディーネと。そう一言。
そうしたらきっと、私は泣きながら笑うでしょう。
でも、泣いたらあなたを困らせてしまいますね。
ソコロ。ソコロ。もう会えない私の友人。
いつか、きっと、世界のどこかで、また。
―――………
ディーネの日記を読み終えたセドナは、ふぅ、と一息吐いた。
「総帥、遺品の整理と遺体の運び出しが完了しましたし、そろそろ帰りましょう。日も暮れてしまいます」
「ん? ああ、そんなに時間が経ったのか」
セドナの側に立つガーディは、興味深そうにセドナが持つ日記を見た。
「ディーネの日記ですか?」
「ああ、そうだ。実に興味深い書物でな、神器に関することも記されていた」
「ほぉ、それは素晴らしいですね」
「内容を一般公開するかどうかは未定だが……どうだ? お前も読んでみるか?」
「是非とも。しかしそれは軍艦に戻ってからにしましょう」
「それもそうだな」
ディーネの家を出た二人は、一度振り返ると深く腰を折った。
死者に敬意を払い、頭を上げた二人は再び歩を進める。
「桐生ソコロ……か」
聞き慣れない名前を、セドナは舌の上で転がした。
「我々の創造主にして三種の神器の作製者……。奴は今一体どこにいるのだろうか……」
「案外すぐ側に居るかもしれませんよ?」
「ふっ、そんなことあるか」
―――………
世界はついに軋み始めた。
二年前の異常は今もなお続き、世界の天秤がついぞ傾く。
その兆候は今夜、空を埋め尽くす流星の形となって現れた。
・
・
・
α's eye opens and it goes silent.
混沌が目覚めるのも時間の問題だ。
議会の集結は神話の一節。
神々の使徒は万感の想いでその時を待たん。
自然の番人は笑みを浮かべ、
時間の典獄は眉をひそめ、
文明の守護者は天を眺め、
空間の代弁者は星を占う。
いつか来たる混沌の時代は、もはやすぐそこまで迫っている。
ヒトビトよ備えよ。
カミガミよ備えよ。
そして畏れるがいい。
カオスは平等に訪れん。
―――………
「こんこんこ~ん♪」
夜の海に星が溶けている。
人々の眠りを抱いた夜空に、一筋の星が流れた。
「あっ流れ星だ! ミオー流れ星ぃー! 一緒に見よー!」
珍しい現象を見たフブキは、『うっはー!』と声を上げて友達のミオを呼ぶ。
ヤマトは今冬を迎えようとしている。まだ秋と呼べる時期ではあれど、夜は既に肌寒い。フブキは好物のきつねうどん(カップ)を片手に、夜空をよく見ようと縁側に出た。
「こ~らフブキ、そんな格好してると風邪引いちゃうでしょ」
「あはは~ありがとミオ」
いつもの肩出しスタイルで夜風にあたるフブキに、ミオは羽織をかけた。
そしてミオはフブキの隣に腰掛け、一緒に空を見上げる。
きらりきらり。
きらりきらりとまたきらり。
星が瞬く様はなんと美麗なものか。
流れ星は死を直前に迎えた星の、命の炎とも呼ばれるが、これに美しさを見い出すのはヤマトに限らず、古今東西その様に息を呑んだ。だが、その星の輝きに詩を紡いだのはヤマトならではの感性というものか。
戦死を名誉と捉え、自切を推奨した昔程ではないが、死に美の意味を見い出すのは今も昔も変わっていない。
「綺麗だね、ミオ」
「うん、そうだね」
きらりきらり、きらりきらり。
きらりきらり、きらりきらり。
「……ねぇ、ウチの勘違いかもしれないけど、なんだか多くない?」
「いや多いと思う」
夜空はもはや夜空に非ず。
煌々と煌めき散る流れ星の輝きにより、月光すら霞んで見える。
「フブキ、なんだか怖くなってきた」
「大丈夫、白上がついてるよ」
あり得ない光景に肌が泡立ち、背筋が凍りつく。
怖いものが苦手なミオは、三角耳をペタリと伏せてフブキの腕に抱き着いた。
夜空を埋め尽くさんばかりの流星は、それから数十分も続いた。
もはやこれは単なる異常現象ではない。何かしらの存在が関わっている可能性がある。
ならばこの地を守るシラカミの名に置いて見逃せる筈がない。
そう判断したフブキは、自身のイナリフォンを取り出した。
「キュウビ様に連絡しよう。何か知っているかもしれない」
「そうだね」
―――………
そのエルフの一日は静けさで満ちている。
朝方は昼近くまで眠り、そして広い庭の木々を窓辺から眺め、昼を過ぎると庭園に咲く凛とした美しい花を見る。斜陽で世界が染まるまで風に吹かれながら読書に励み、夜はグラスを傾けたりネルーシェを奏でる。
それがそのエルフの何気ない普段の日常。
代わり映えの無い普通。
月虹眩しい春も、
緑雨流れる夏も、
金風吹き荒ぶ秋も、
霜夜凍てつく冬も、
ずっとずっとずっと、この二百年と十年の間、そう生きてきた。
春の雪解けのような愛らしさと氷像のような冷たい美しさを備え持つそのエルフは、今日もまた、いつも通りの日常を繰り返す。
ツウィルの花が風に揺れた。
その花の意味を知っている人はいるだろうか。
とても可憐な花だ。ユニーリアに広く生息する雪上の花で、厳しい寒さの中でも力強く咲き、気品のある美しい花弁を広げる。
ツウィルは中央に四つの青い花弁とそれを取り囲むように五つの花弁でできている。
外側の花弁は処女雪のように真白で、花弁が零れ落ちると決して溶けることのない白い雪原を形成し、その世界に点々と添えられるツウィルの青い花弁は、決して凍る事のない青き湖を描く。
この地に訪れるヒトビトは口を揃えて言う。
ヤマトの花筏にも負けない。
他では見たことがない白銀の大地だ。
酒の席で思い出すのは、いつもこの風景だと。
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ツウィル。ユニーリアに広く生息する雪上の花。厳しい寒さの中でも力強く咲き、気品のある美しい花弁を広げます。
お母様が好きだったお花です。
私は雪花ラミィ。このお屋敷で家族と一緒に暮らしています。あとお供のだいふくと。
お兄様達には『たまには屋敷の外に出たら?』なんて言われちゃうけど……私はこの場所が大好きなの!
それにお外はとっても寒いもの! お出かけなんで、お買い物だけで十分!
「今日は天気がいいですね」
屋敷の中に風が入り込み、私の読んでいた本のページを捲る。気持ちのいい風です。
しかしちょっと風が強すぎます。少し窓を閉めましょうか。
そうして私が窓の取っ手を掴んだ時、頭に軽い衝撃が走りました。
「あたっ!?」
何かがぶつかった気がします。おでこを抑えながら下を見てみると、何やら三角形の青い物体が転がっていました。
訝しげに拾い上げ、太陽に透かしてみると、なんとそれは澄んだ光を放ちました。
「わぁ~!」
きっと私の目は輝いていたことでしょう。それ程までにその煌めきは美しかったのです。
しかしこれは一体なんでしょうか?
「綺麗な石ですね……お星さま、でしょうか?」
昨夜とても素晴らしい流れ星が夜空を跨いだのです。もしかしたらそうなのかも!
せっかくなのでお兄様達にも見せてあげましょう。
なぜかはわかりません。
けれども、どうしてでしょう。
なんだかとっても素敵な予感がするのです。
宝鐘ディーネ。
同盟を組んだ海賊達の中には、神器狩りをする海賊が居た。そいつは身体中を神器で覆い、ディーネが持つ『宝鐘』も狙った。この時には既に『宝鐘』の権能は海洋生物への催眠ということが広まっていたからだ。海賊なら喉から手が出る程欲しい代物。狙われない筈が無かった。運命とでも言うべきか。それが原因でディーネは仲間を失うはめになった。
細かい戦闘描写はいずれ書きます。
文中に出てきたスルメはクラーケンの名前。命名はもちろんディーネ。
雪花ラミィ。
髪の毛はウェーブがかっているが、これは天然の癖っ毛である。また、魔法は使えないと思ってる。
お兄様達にお星さまの石を見せたら、『目薬?』と言われた。
『お出かけなん“で”』は雪花ラミィの『これは、私の物語』の字幕でこうなってました。決して私の誤字ではないです。
今までカミガミと神々、ヒトビトと人々と書いていましたが、前者はともかく後者はあまり区別してません。文章に合わせてどっちか良いか決めて書いているだけです。カミガミと神々の方も場合によっては同じ意味で使っている時もあります。今回の混沌の場面に置いても同じ意味で使ってます。