【読書感想文】吾輩は猫であるを読んで   作:夏目漱石(仮)

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夏目漱石を読んでいる読者の話
『吾輩は猫である』を読んでいる少女の話


 

 私が『吾輩は猫である』を読んでゐるとき、先生が不意に「君は小説を書かないのかね」と尋ねた。私はその質問の意味がよく判らなかった。だから答えずにいたら、先生は続けて「君のような人は、小説を書くべきだよ。いや、書かなくちゃいけないよ」と云つた。

 それは私には意外の言葉だつたが、同時に又ひどくなつかしい言葉でもあつたので、「私も書きたいのです」と云ふと、先生は「何を書きたいんだね」と尋ねられた。そこで私は何も答へられなかつた。すると先生はまた云ひ出した。

 

「君は人間について、どう思ふのだ」

 

 私は「人間は皆同じだと思ひます」と答えると、先生は「そんなことはない。人間にはいろいろあるものだ。しかし人間は同じだといつてもいいさ」と云つた。

 そして「君は人間が皆同じなら、どんなに楽でいいと思うだろう。けれども世の中には沢山の悪い奴がある。悪い奴の中には、自分だけは別だと思う者もあるし、自分は正しいと思う者もある。お前さんが今朝見た犬だって、乱暴な風になる者もあらうし、ならない者もいるかも知れない。あの猫だって、無愛想な時もあれば、ならない時もあるかも知れん。世の中は実に妙なものだよ。ところでお前さんはその中で一番善い人になりたいのか、それとも一番悪い人になりたくはないのか」

 

「善く分りません」

と云ふと先生は「そうだらう。人間なんてものは、よく分らないものなんだから、無理に善い人になんかなりたくないよ。第一お前さんは、そんなことを考へながら、小説なんぞ書けるかい」と仰せられた。

 それから間もなく私は、小説を書いた。その原稿を見ると、やはり私はどうしても自分のことを書いてしまう。人間のことは書いてない。私はその時つくづくと悟った。私は自分が善良でありたいと思ふから、善良でない自分を想像することが出来ないのだと。だがしかし私はもう、決して善良な人間ではない。なぜならば、私の心の底には、悪の心が潜んでいるからだ。私はこのごろそれを時々感じることがある。

 

 それは例えば、私が夜寝ているとき、誰かがそっと入って来て枕許に坐る。誰だろうと目を開くと、それが母だと分ることがある。母は私の顔を見て、少し笑ひだす。それから必ず「まだ起きてるの?」とか、「早くお休みなさい」などと声をかける。すると私は母の笑顔を見た途端、眠気がどこかへいってしまう。

 

 私は母が好きなのだ。

 

 私は多分、今まで一度も母親に対して反抗したことがないに違いない。そうして恐らく今も、何か相談したいことが起っても、すぐに母に相談しようとするにちがいない。

 これは明らかに私は甘えっ子だ。しかもその上、私はわがままでもある。先日も、ある人の家の庭先に、一匹の子犬がいた。それを見ていたら、つい子犬を買って帰りたくなった。それで私は早速、家に戻ってそのことを話すと、父も母も喜んだ。父は早速役所に行って手続きをしたらしい。しかし私は急に不安になった。もし買えないと云われたらと心配だったのだ。そこで翌日もう一度母に尋ねてみると、母はあっさりと「大丈夫ですよ。すぐ買って来ますからね」と答えた。安心して待つと、夕方になって母は犬を抱いて帰つて来た。

 それは白と黒の二匹の犬だつた。白い方は雑種で黒い方が血統書つきだと云う。私はとても嬉しくなつて、早速二匹を連れて散歩に出かけた。ところがその晩のこと、私はなかなか眠れなかった。なぜかと云えば、犬小屋をどこに置けばよいか、分からなかつたからである。それに食事もどうすればよいのか、困ってしまった。

 翌朝起きると、私は急いで犬小屋を探しに行った。そして結局犬は玄関の下駄箱の上に置かれてしまった。それ以来犬はそこが自分の居場所であるかのように、毎朝そこへ行っては、外の様子を窺っている。

 

 こんな調子だから、私はいつも母に頼るしかないのだ。

 こんな風に私はわがままで、しかも甘えっ子だ。これでは私は立派な大人になれまい。それにしても一体、なぜ私はこうなのか? それはやはり私が世間知らずの子供だからであろうか。いや子供なら、誰でも一度は親に逆らったりするものだろう。しかし私の場合は、逆らうどころか、いつも甘えてばかりいるようだ。

 

 さて私はこれから、どうしたらよいのか。私はこの頃しばしば、自分に問ひかけてみる。





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