【読書感想文】吾輩は猫であるを読んで   作:夏目漱石(仮)

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今回は対話メインの話です。


『こころ』を読んでいる青年の話 第二話

(一九二五年一月)

 

 僕が夏目漱石の『こころ』を読んでいると、そこに「おや」という声がかかった。見るとそれは先生であった。

 

「君は何を読んでいるのだね?」

「これは『こころ』という本です」

「へえー、『こころ』か! 私も昔読んだことがあるよ。なかなかいい小説じゃないか」

「ありがとうございます」

「ところで君は、あの主人公のKをどう思う?」

 

 と、いきなり先生が尋ねた。

 

 僕は少し考えてから答えた。

 

「そうですね……私は、やっぱり、あの人は嫌いですよ」

「ほう、どうしてかね」

「だって、僕にはどうしてあれほど先生のことを見下していたのか見当もつきません。それに、そのくせ、最後は自殺してしまうなんて、何のために生きていたのかわからないじゃありませんか」

「なるほど」

「でも、あなたは、どうしてそんなことを訊かれるのです」

「うん、実はね、私の知っている人が、君の読んでいた本の中のKと同じ名前なのでね」

「はあ」

「そして、その人はとても変わった性格をしている」

「どんなふうにですか」

「その人を一言で言うと、とても優しい人間だということになるかな」

「はあ? 優しい人間……」

「ああそうだよ。それでいて、その優しさの中には、しっかりと筋が通っているんだ。それで、その優しさの中に芯が通っていれば通っているほど、その人の人柄は際立って見えるのだよ」

 

 僕は先生の話を聞いて驚いた。

 

「先生、それは変じゃないでしょうか。だって、その人は、優しくて、その上、しっかりしているんですよね。それなら、もう立派な大人ではないんですか」

 

「うむ、確かにそうかもしれない。しかし、その人はまだ二十歳にもならない若者なんだ。しかも、今のような話を聞くまでは、まだ一度も社会に出たことがない。つまり、世間知らずの青年なのさ。それで、彼は、今までずっと一人で暮らしてきた。もちろん親はいないし、兄弟もいない。友達もほとんどいなかった。彼はいつも一人ぼっちだった。そして、彼は、この世の中で自分だけが孤独なのだということを知っていた。それは彼にとって耐えられないほどの孤独感であり苦痛でもあった。このような環境の中では、人はどうなるとおもう?」

 

「……」

 

 僕は返事ができなかった。

 

「彼の心はだんだんと荒んでいった。そして、ついには、自分は世界で一番不幸な人間だと思い込むようになった。しかし、彼もやはり普通の人間の子だ。いくら不幸だとはいっても、いつまでもそのような気持ちで生きていけるものではない。そのうちに、ある一つの考えにたどり着いた。それは、死ぬことによって、自分の存在を証明するということだ。つまり、彼は、死んだら、天国に行って神様から誉めてもらえるだろうと考えたわけだ。その証拠に、彼が自殺した後、その遺書を読んだ人々は皆感動して涙を流したというじゃないか」

 

「それはそうかもしれませんけれど、それならば、なぜその人は自殺なんかしたんでしょうか。もっと他に方法はなかったものなんでしょうか」

 

「おそらく、彼には、それ以外の方法が思いつかなかったのだよ。いや、違うな。もし仮に、他の方法を思いついたとしても、それにはどうしても勇気がなかったに違いない。なぜなら、一度死ねば二度と生き返れないからだ。そうなれば、結局は、何もしないで、ただ絶望して死んでいくより仕方がないことになる。ところが、それではあまりにも救いがなさすぎる。そこで、彼は考えた末に、一番楽な方法を選んだのだ。それがすなわち自殺ということだ」

 

「でも、それはおかしいんじゃないでしょうか。自殺をすれば、それだけ自分の価値を低く評価することになると思うんですけど」

 

「いや、そうでもない。むしろ逆だ。人間は誰でも死にたいと思って生きているわけではないからね。人間にとって生きるということは、ただ単に食べるためだけにする行為にすぎない。だから、たとえ食べなくてもいいということがわかっただけでも、ずいぶんと気が軽くなるものなのだよ」

 

「しかし、そんなことで救われるものなのでしょうか」

 

「まあ、普通の場合は無理だろうね。だが、自殺というのは、そのくらい大変なことだということを忘れてはいけない。また、そういうふうにしてしか、人間は自分自身を肯定することができないということもね」

 

 先生はそういうと、自嘲気味に笑った。

 

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