魔法科高校のゼロ   作:マイケルみつお

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13話 公開討論会(当て馬にされた二科生)

 「公開討論会?」

 

「そう。昨日の放課後ね。剣道部の子たちを中心に頼まれたの。正直テロリスト達に騙されているって話もあったからね。暴力的な手段じゃなくてちょっと驚いちゃった」

 

早朝。駅から第一高校への通学路で司波兄妹と七草真由美は偶然出会い、一緒に登校していた。達也達にはテロの事も生徒会で話していたのでその話題についての話もしていた。当然、テロリストの話題の時は周りに聞こえないように遮音性の魔法を使用したが。

 

「そういえば昨日、ゼロが剣道部の壬生先輩に会いに行きました」

 

「じゃあもしかしたら向井君が何かしてくれたのかもしれないわね」

 

「丁度今日、ゼロさんには話がありましたし...私が聞いておきますね!」

 

ゼロのいないところで勝手に話がまとまっていった。

 

──────

 「ゼロさん! ちょっといいですか? 今日の討論会の事なんですけど」

 

今日は()()が必要だったゼロはいつもと違って時間に余裕がある登校ではなく、始業時間ギリギリの登校であったため、深雪がそれを尋ねるのは昼休みの事であった。ちなみに司波兄妹の登校時間はゼロの登校時間の統計を調べた上で深雪が決めている。今日は通学路で兄妹がゼロと偶然を装って会えなかったのはそういう理由がある。

 

尚、ほのかは雫の車に乗せてもらい登校しているが、彼女達の家とゼロの家は離れており、誘ってもゼロに断られてしまったという経緯がある。

 

「丁度俺も話があった。準科のみんなも聞いてほしいんだけど」

 

これは準科に関する話。魔法科第一高校で正式ではない呼び名、一科に転科となった元二科生、準科生は全員1年A組に配属されている。いつもの司波達也の取り巻き以外にも何人か準科生はいるのでこの話は教室でする他なかった。

 

「みんな知ってるかもしれないけど、今日の放課後に公開討論会がある。で、準科の人間も出席する事になったんだけど、俺が準科代表で出席してもいいかな? 他に出たい人がいるならアレだけど」

 

たびたび勘違いされがちではあるが向井零という人間は自分の魔法がバレる事を恐れている。彼がバレてはいけない事は『改竄』という固有魔法、そして一科生のレベルを遥かに超えた魔法力である。逆に言えば体術など魔法とは関係ない部分は隠す必要がないと考えているし言論の場に出る事も自己矛盾ではない。

 

そして辺りを見渡せばゼロ以外に討論会に参加したいと思う人間はいなかった。レオやエリカはあまり口が回るタイプでなく何かあればすぐ手が出てしまう。討論向きではない事は本人達も理解している。そして他の面々も討論会に立ちたい訳ではない。そして達也は...この一連の出来事に介入する事を()()()()()()()

 

──────

 放課後に開かれた公開討論会。参加者は一科生から真由美。そして二科生から4人。準科生からはゼロが登壇していた。ゼロは自分は一科生でも二科生でもないという事を視覚的に強調するために肩のエンブレムを片方のみ外していた。議論が始まる。

 

「二科生はあらゆる面で一科生より劣る差別的な扱いを受けている! 生徒会長はその事実を誤魔化そうとしているのではないか!」

 

最初に口を開いたのは二科生の男子生徒であった。

 

「ただいま、あらゆるとのご指摘がありましたが具体的にはどのような事を指しているのでしょうか」

 

真由美はその指摘に理路整然と反論をしていく。一科と二科が議論をする中、準科の代表のゼロはただ腕を組んで目を閉じるだけであった。未だ一言も発していない。一科と二科の議論は続く。

 

「一科生の比率が高い魔法競技系のクラブは二科生の比率が高い非魔法競技系のクラブより明らかに手厚く予算が配分されています。これは一科生の優遇が課外活動においてもまかり通っている証ではないですか!」

 

「それは、各部活の実績を反映した結果です。非魔法系のクラブでも全国大会に進むような優秀な実績を残すようなクラブでは魔法系のクラブと同じように予算が配分されています」

 

それは議論の体を成していなかった。二科生の言いがかりのような問いかけは全て真由美によって論破されていった。ゼロは未だ動かず。

 

「...生徒の間に皆さんが指摘したような差別の意識があるのは否定しません。ブルームとウィード。学校も生徒会も風紀委員も否定している言葉ですが残念ながら多くの生徒がこの言葉を使用しています」

 

ブルームとウィード。禁止用語に指定されている言葉がこの公開討論会という場所で生徒会長の真由美の口から飛び出した事で場は騒然となる。会場のボルテージは高まり始めた。

 

「しかし、一科生だけではなく二科生の中にも自らをウィードと蔑み、諦めと共に受容するそんな悲しむべき風潮があるのも事実です。この意識の壁こそが問題なのです! 私は当校の生徒会長としてこの意識の壁を何とか解消しようと考えてきました。ですが...それは新たな差別を作り出す形であってはならないのです」

 

最早二科生の代表者は項垂れる事しかできず反論など起こらなかった。真由美の演説は続く。

 

「一科生も二科生も一人一人が当校の生徒であり、当校の生徒である期間はその生徒にとって唯一無二の三年間なのですから」

 

一科、二科に関わらず会場中が拍手で包まれた。その光景にまるで観衆は歴史的光景を見ているかのようにして盛り上がり、今、会場のボルテージは最高潮に達した。...ゼロのシナリオ通りに。

 

──────

 「発言、よろしいですか?」

 

腕を組み、目を閉じて一言も発しなかったゼロが挙手をする。会場のボルテージは最高潮の中、真由美がどうやってゼロを言い負かすのか、観衆は大いに期待をした。討論の一言一句でさえも聞き逃さないように誰もが前のめりになって告げられる言葉に注目する。

 

「先ほど、二科生が自らをウィードと蔑む事も差別の原因の一つと仰られましたがまずはそこから。会長は差別が存在する事は認められました。では差別は誰がするのか? 強者から弱者に対して差別は起こるのです。弱者が強者を差別する事などあり得ない。そしてこの強者とは実力に限るものではありません。皆さんも魔法師です。魔法に携わるものであれば分かると思います。力の強い者を差別する事もありますが...それはその力の強い者が少数だからです。集団的強者として差別は生じる。やはり強者が弱者を差別するのです」

 

ゼロは明言こそしなかったがそれは人間主義者の魔法師排斥の事を指しているという事は誰もが分かった。

 

「ですが今回は違う。一科生と二科生に人数に差はありません。一科生と二科生は国が定めた魔法力を基準にして区別しています。この学校風に言えば...魔法の実力によって強者と弱者が分けられている。

 

では会長の言う通り、二科生が自らをウィードと蔑み、諦めの精神を持たず一科生達に立ち向かえばどうなるのか? 強者たる一科生達に叩き潰されてしまう。二科生のくせに調子に乗るなと目をつけられ不利益を被ってしまう。

 

入学式翌日にとある二科生達が七草先輩の仰るように一科生に対して、その態度に対して反抗しました。その結果どうなったか。一科生は魔法を発動して力で黙らせようとした。二科生が諦めを見せるのは防衛本能です。理不尽に叩き潰されないようにするためには当然の事です。

 

差別は差別する側に100%の非がある。それさえなければ二科生が卑屈になる事はないからです。断じて! 二科の人間に差別の責がある訳ではない!」

 

観衆が一言一句聞き逃さないようにしたその言論は...筋が通っていた。真由美も即座に反論せずゼロを見守る。ゼロの演説は更に続く。

 

「次に意識の壁を取り払う事が差別解消のための唯一の方法のように仰られていましたが...これにも反対です。勿論差別というものは人間の感情面から生まれています。これには同意です。しかしその感情がそう簡単に変わる事はない。感情で容易に解決するような簡単な問題ならそもそもここまで大きな問題にはなっていません。

 

歴史を振り返ってみれば分かると思います。女性が差別されてきた社会では女性にも参政権が与えられるようになり、身分による差別が行われた社会では身分が統合されました。差別とは制度によって解消されてきたものなのです。

 

勿論だからと言って差別される側が優遇された制度を作れ、なんて事は言いません。それは会長が仰ったように新たな差別を生み出す方法だからです。不公平で非合理的な制度を変える事が差別解消に対して真っ先に取り組まなければならない事です

 

そして! そんな不公平で非合理的な制度がこの学校には残っている!」

 

ゼロはそう言って自らの左肩を。エンブレムがついてない方の左肩を指差した。

 

「どうして私の左肩に第一高校のエンブレムがついてないのでしょうか」

 

いやお前が外してからこの討論会に来たんだからだろうが! などと野暮な事を考える人間は誰一人としていない。最早この議場は最高潮に達したボルテージを超え、誰もがゼロの言葉に耳を傾ける静寂と化していた。

 

「これによって私たちは一科と二科を視覚的に区別できるようになっている。このエンブレムは元々、学校の発注ミスから生まれたものです。二科制度ができた時、学校は追加で制服の注文をしましたが、その際エンブレムを発注し忘れてしまった。それが現在の二種類ある制服に繋がっています。

 

一科にしか講師がついていない事は財政的な部分で仕方のない事でしょう。しかしこれは違う。むしろ二種類の制服の発注をしないだけコストはより安く済むでしょう」

 

「(そんな理由でゼロさんとお兄様が!)」

 

この事を知らなかった深雪は怒りで冷気を撒き散らかそうとしたが即座に達也が宥めた。

 

「また魔法力の違いで一科と二科を分けていますが...今年の入試では一科の最下位と二科の主席では1点の差しかありませんでした」

 

その情報は多くの人間が知らなかったのだろう。観衆は皆、驚嘆している。まあその二科の主席はゼロの事なのだが、そんな事は誰も知らない。

 

「(ゼロさんの事だ)」

 

深雪は知っていた。

 

「一科二科はテストでの成績によって上半分と下半分に分けただけに過ぎません。そのテストが正しく実力を評価できているのか?という議論もありますがこれはひとまず置いておきましょう」

 

「(そんな...)」

 

深雪はその話は置いてもらいたくなかった。

 

「ところで。魔法の成績によって一科二科を分けるのであればどうして毎回の定期テストによって順位が入れ替わった時に学科を入れ替える制度がないのでしょうか。

 

クラスを途中で変えるべきではないと主張される方もいらっしゃるでしょうが、直接講師に指導される機会がある以上、クラス替えのデメリットなど小さなものだ。実力によって分かつのなら、実力によって覆される制度がなければおかしい。何のために高校で魔法を学ぶのか!」

 

この二点はまさに二科が一科よりも差別的な扱いを受けているものだった。弁護の余地もないほどに。

 

「意識の壁もそうですが、不公平で非合理的な制度は依然残っています。もし、差別をなくしたいと思うのならば...もし、開かれた学校を作りたいのであれば...改善できるところから変えていきましょう。その手始めとして私は、エンブレムを二科生もつける事。そして毎回のテストで二科生が一科生になれる機会を作る事の二点を生徒会、及び学校に要求します!」

 

ゼロの演説は終わった。が、辺りは沈黙したままだ。ゼロの言葉が伝わらなかったのか? 否、衝撃が大きすぎて呆然としてしまったのだ。

 

パチパチパチと誰かが拍手を始める。そしてその拍手は周囲に感染し...次々と拍手をする人間が増える。そしてその様子を真由美は嬉しそうに眺めていた。元々彼女は自分を言い負かす事ができるほどの論理なら受け入れてもいいと考えていたのだ。真由美も反論する事なくゼロの意見に賛同するような態度を見せて...拍手は更に大きくなった。

 

──────

 拍手は静まる気配がない。会場は先ほどの真由美の演説よりも大きく盛り上がっていた。

 

「(頃合いだな)」

 

ゼロのシナリオはここまで上手くいっているが...まだ終わっていない。まだクライマックスが残っている。今の演説は単なる布石に過ぎない。

 

「突入」

 

ゼロが誰にも聞こえないような小声で指示を出す。刹那...ものすごい爆音と同時に...テロリストが侵入してきた。




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