魔法科高校のゼロ   作:マイケルみつお

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15話 ネタばらし

 二科生の大活躍によって学校に侵入したテロリスト達は掃討された。途中、テロリストの一人の通信端末を奪ってブランシュの本拠地が判明。勢いそのままに彼らは本拠地に殴り込みに行こうとした。

 

だが、校内での戦闘でかなり消耗したのか有志軍の面々は既にサイオン切れなど疲労困憊で膝をついてしまう。が、そんな彼ら彼女らを笑う者などいない。いる訳がない。

 

 

 

 

 「じゃあブランシュの本拠地についてのお話をするわね」

 

生徒会室にて話を切り出したのは本校の生徒会長、七草真由美。彼女は自分達の学校が戦場となった事に怒っているが、しかし冷静さは保てていた。

 

「そういえば摩利、達也君はどうしたの?」

 

ここ最近、自分達と行動を共にしていた1年生の後輩の姿がない事に疑問を覚え、真由美は彼の上司に当たる摩利にそう尋ねる。

 

「ああ。あいつは襲撃が起こった時に避難者の誘導に向かった。ここに来ていないという事は...まだ終わってないのだろうな」

 

「多くの生徒がパニックだったからね...」

 

二人から見て司波兄妹は仕事を放り出すような人間ではない。短い時間ではあるが確固とした信頼を二人は既に築いていた。襲撃を受けた際、外敵を排除する事と同じくらい犠牲者を少なくするための避難誘導は大切な仕事だ。あれだけの襲撃の規模でありながら生徒に死亡者が出ていない事は、有志軍の奮闘も勿論大きいが、達也の手柄となる部分も大きいだろう。

 

「あの兄妹はきちんと自分の仕事を果たしてくれた。なら今度は俺たちの番だ。有志軍の皆が掴んでくれたブランシュの本拠地。叩きに行くぞ」

 

会議の三人目の出席者。十師族で既に次期当主に内定しており、師族会議にも代理出席している十文字克人は重々しく口を開いた。この男も守る事に長けているファランクスで生徒を守り零した事に強い遺憾を覚えていた。

 

「だがテロの本拠地を叩きに行くのに一般の生徒を駆り出す事はできん」

 

「かと言ってまだ校内に残党もいるかもしれない。学校を空ける訳にはいかないわ」

 

克人の言い分は当然であり、そして真由美の言い分も当然であった。だがいくらそれぞれが一騎当千の強者であっても三人だけで制圧する事は難しいだろう。逃してはならない殲滅戦なら尚更の事。

 

「十文字家代表代理として七草家に協力を要請する」

 

「...それが妥当ね。いいわ、父に連絡するわね。摩利、あなた達風紀委員会には校内を任せるわ。まだ残党がいるかもしれないから気をつけて」

 

即座に動かせる人員を持つのは...やはり七草家である。十師族は四葉家と七草家が頭ひとつ抜けてはいるが四葉家に人員はあまりいない。五輪家も人員は多いが七草家もやはり多い。その事を克人は分かっていた。

 

「今動かせる人員を掻き集めて数十分で動けるそうよ。...あの狸親父、まさかこうなる事を分かってたんじゃないでしょうね」

 

「七草。愚痴を零すのなら俺達に聞こえないようにしてくれ。...反応に困る」

 

 

 

 

 数十分後。七草の人員と十文字の人員を併せた即席の連合部隊はブランシュの本拠地を包囲していた。魔法科高校の生徒でこの場にいるのは真由美と克人だけである。摩利は先ほどの約束通り、ブランシュの残党に警戒しながら学校の守護に当たっている。

 

即席で作ったとはいえ、十師族から掻き集めた人員。練度も十分な部隊である。他でこれだけの部隊を組織しようとすれば...数日かかる事は間違いないだろう。それを数十分で実行できるところに十師族の力が表れている。

 

「突入!」

 

克人の一声によって連合部隊はブランシュの本拠地に突入した。

 

 

 

 

...が、連合部隊など作る必要などなかった。

 

「遅かったか...」

 

突入したブランシュの本拠地には...人っ子一人いない状態で、克人達がここまで来るまでの間にブランシュのメンバーが逃げ出した事を示していたのだから。

 

──────

 真由美と克人が失意の内に連合部隊を解散させる中...ここ数話全く出番のなかったゼロは一体何をしていたのか? 至極単純である。学校から離れていた。しかし当然何もしてない訳ではない。彼がやった事を時系列順に述べていこうとも思ったがその前に予備知識として説明しなければならない事がある。

 

──彼の『改竄』の事だ──

 

魔法とはイデアと呼ばれる情報体次元に存在する、サイオンで構成されたエイドスを改変する事によって発動される。魔法師は通常、サイオンを使って魔法式を構築し、間接的にエイドスに介入して改変を行なっている。

 

が、ゼロの『改竄』は魔法式を必要とせず直接イデアに入り込み、エイドスを改変する事を可能とする。直接介入する事によって他者には不可能な、エイドスの変更履歴の完全削除までをも行う事ができる。尤も、魔法を発動する事自体は変わらないので魔法演算領域を使い、サイオンを消費するのは同じである。

 

イデアに直接介入してエイドスを改変する事によって、他者は魔法の発動兆候を察知できず、サイオンを現実世界に放出しないで全てイデアで費やす事によって人間も機械も魔法の発動兆候すら掴めない。

 

そしてエイドスの変更履歴を削除する事によって、仮に情報次元体に何らかの手段でアクセスする事ができたとしてもゼロの行動に気づく事はできない。

 

もう一つ、『改竄』でできる事はある。それに加えてなぜ彼がこのような異能を使う事ができるのかという謎に対する回答は...また後日という事にしよう。

 

 

 

 

 では時系列順に説明していく。ゼロには学園生活を送る上である悩みがあった。

 

「(達也と深雪がやたら俺が実力を発揮するよう企んでるんだよなぁ...)」

 

当然風紀委員勧誘の事である。最初は単純に八つ当たりのようなものだったが司波兄妹にゼロがトーラスである事がバレて以降は確実に狙ってやっている。

 

「(事あるたびに勧誘してきて...。しかも実力を発揮しなければならないような状況に追い込もうとしてるし...)」

 

それはゼロからしてみれば非常に困る事である。自分が一科生の下位として入学すれば良かった事なのだが...保険が欲しくなった。

 

「(実力を出す気なんて全くないけど保険はあるに越した事がないしな)」

 

そんな事を思っているとゼロは紗耶香と出会った。そして...

 

「(あ。この人精神操作されてる)」

 

交流していく内に紗耶香のエイドスが乱されている事にゼロは気づく。何によって干渉されているかは分からないが。しかし事前にテロリストについての情報を知っていた事からこれがブランシュによるものだと分かった。

 

「壬生先輩。さっきは断りましたが少し興味が湧いてきました。今度見学に行ってもいいですか?」

 

ゼロはそう答えた。無論、紗耶香に対する印象が変わったなど嘘である。そもそも目の前の紗耶香は精神操作をされてる状態であり印象が変わったも何もない。ただ...使えると思った。紗耶香がではない。

 

「(この精神操作、使える)」

 

ゼロは天命に導かれるが如くこの瞬間、計画の原型を立てた。

 

──────

 ゼロの目的。それは二科生でも戦闘で強いのは別におかしくないんじゃね? という認識を持たせる事。彼に差別解消の意識など微塵もない。むしろ理由なく侮られる絶好の環境であるため差別はそのままでいいとすら考えている。ゼロは使うかも分からない保険のために学校を巻き込もうとしている。

 

今回の計画の肝は二科生が中心となってテロリストを撃退する事だ。それによって初めて目的は達成される。一科生に対処されてしまえばゼロの計画は失敗した事になるだろう。

 

「(一科生と言ってもほとんどは実践経験もない。いざ戦闘になればほとんどの人間が動けない。初手を潰して混乱状態になれば尚更。そんな混乱状態で動ける一科生と言えば...)」

 

ゼロは先輩含めて一科生の顔を思い出していく。

 

「(まず思いつくのは...やっぱり深雪だなぁ。達也に危害が向けられるようなら何を言ったとしても深雪は暴走しそうだ。達也に傷を与える事すら難しいと分かっていても。...達也もあの場から離さないとな)」

 

「母上、達也と深雪にはこの問題に手を出さないように言ってくれませんか? 俺が責任を持って対応しますので」

 

ゼロは自らの母に頼み込んだ。

 

「(次に...やっぱり七草会長と十文字会頭だよな)」

 

次に思いついたのはゼロの天敵、十師族の二人であった。

 

「(二人がいるところはおおよそ予想できる。七草会長は講堂に。十文字会頭は部活連本部かな。そこを襲撃する兵は強化しておこう。もし違う場所にいればその時に修正すればいい)」

 

策の概要を考えた後、ゼロは行動へと移った。先日紗耶香に話した通り、剣道部の見学に向かった。本心では彼女達の本丸に近づくため。

 

 

 

 

 ほのかと深雪による圧力から抜け出し、ゼロは時間通りに紗耶香との待ち合わせ場所に到着する。が、剣道場に到着しても一向に部活動が始まる気配はない。

 

「私たちはカフェテリアでも言ったけどこの魔法科高校での差別をなくすために有志同盟を結成してるの。向井君もここに来てくれたって事は同盟に参加してくれるって事でいいんだよね?」

 

突然出た「同盟」という言葉。

 

「(俺を勧誘しようとしている? あの精神操作とかで?)」

 

ゼロは元々同盟にのみ興味があり、部活動には何の興味もなかった。紗耶香に半ば騙し討ちされた形となったがしかしその申し出を歓迎した。

 

「ありがとう。じゃあちょっと会ってもらいたい人がいるから着いてきてくれない?」

 

当然ゼロは首を縦に振り、奥の部室へと向かう。

 

 

 

 

「待っていたよ向井零君」

 

部室の先、複数の部員に囲まれるようにして立っている痩身な男、司一はゼロを見るなりそう声をかけた。この時代では珍しく彼は眼鏡をかけている。司一はゼロの体術、身体能力に注目して彼を味方にしようと考えた。彼の最大のミスはゼロを他の二科生と同じように考え、体術は素晴らしいが魔法の才は無いと決めつけてしまった事。

 

もっと警戒し、安易に彼の前に立つべきではなかった。

 

「向井零! 我らの同志となれ!」

 

眼鏡を頭上に投げ、魔法を発動する。それを受けたゼロは...

 

「(え...。意識干渉型系統外魔法でもないの? えぇ...)」

 

ゼロの『改竄』はサイオンを用いずに直接イデアに介入してエイドスを書き換えるというもの。もしこれが系統外魔法であればその対象を自分ではなく相手に書き換える事で魔法を乗っ取る事ができた。最初からゼロはそのつもりだった。しかし目の前の司一の発動したものは光の発生こそ光波振動系魔法だが催眠自体は魔法ではなく催眠術によるもの。

 

これではゼロの改竄で乗っ取る事ができない。想定よりも相手がやってる事の程度が低かった事によってゼロの目論みは外れてしまった。

 

「(これじゃあ二科生達主導でテロを鎮圧するなんてできないな...)」

 

硬直して考え込むゼロを見て、司一は自分の魔法が効いたのだと確信した。

 

「さあ! 新たな同志よ! まずはもう一度名前を聞かせてくれたまえ!」

 

「(あ、二科生の人達に魔法使ったらダメだけど、この人に魔法使っても別に問題ないんじゃない?)」

 

思い立ったが吉、ゼロは『改竄』を使って司一に対して正真正銘の意識干渉型系統外魔法を使った。...犯罪である。これによって彼は司一を操りそして司一の催眠術をパワーアップして二科生達有志同盟を間接的に動かした。犯罪と言っても二科生達には何も魔法を行使していないためいくら二科生達を調べたとしてもゼロの関与は分からない。

 

──────

 司一達から計画の詳細を見たゼロは思った。

 

「(計画が雑すぎる...)」

 

これではテロは成功しない。ゼロはテロが成功するよう計画を練り直した。

 

 

 

 

目的を達成するために大切なのは布石。いきなりテロリストが襲来してきて二科生がこれを撃退したとしても一科生に何かを思わせるためにはもう一ついる。

 

「(そう、例えばテロリスト襲来の直前に何か一科生達に考えさせる機会でもあれば...)」

 

そう考えていた時、ゼロは同盟側が考えていた作戦を思い出す。

 

「(対等な交渉...討論、ね。使えるな)」

 

討論で何かしらの影響を持たせて時がかからない内にテロリストの襲撃...。

 

「(何なら討論の直後でもいいくらいだ)」

 

上手い布石になるとゼロは考えた。では次はどうやって討論のテーブルを用意するか。同盟の当初の作戦では放送室を占拠して交渉の場を要求する事であったが...

 

「(それする意味ある?)」

 

即座に却下した。

 

「(あまり十師族とは関わらないようにしてるけど七草会長、どちらかと言えば精神的には差別解消寄りだと思うんだよね)」

 

「普通に頼めばいいんじゃない?」

 

こうして平和的に討論の場が整えられた。

 

 

 

 

討論の場での目標は一科生達に自分達が本当に二科生達よりも実力において優れているかを考えさせる事。ゼロはこの点において七草真由美を言いまかすだけの自信はあった。しかしそれだけでは目的は達成されない。ただゼロが真由美を論破するだけでは彼らの心には響かない。というより論破自体にあまり意味はない。

 

ゼロは真由美を論破するよりも観衆にどういった印象を与えるかについて考えなければならない。仮に真由美を論破したとしても観衆の心に響かなければゼロの負けだし、真由美を言いまかす事ができなかったとしても観衆の心に響けばそれだけでゼロの勝利条件は満たされる。

 

「(そのために必要なのは...会場のボルテージだ)」

 

しかしそれはゼロ単独で高める事はできない。ゼロの容姿が他より優れていたり、新入生勧誘の時に体術で注目されたとはいってもそれだけで場を盛り上げる事など不可能。

 

「(おそらくそれができるのは...)」

 

ステージに立つ者の中で唯一それができるとすれば...

 

「七草会長だけ」

 

七草真由美はその美貌、実力、十師族という血統からしても学校の人気者である。先に言った、仮に真由美を言い負かしたとしても彼女の人気の前でむしろ逆効果にすらなるほどの、それだけの人気を誇っている。

 

「(だからこそ、その人気を逆に利用する)」

 

当て馬作戦。真由美に勝たせる事で場の空気を盛り上げ、それが冷めやらぬ間に目的を達成する。議場に立つのはゼロと一科生(真由美含む)、そして二科生達。

 

「(二科生の先輩達には悪いけど当て馬になってもらおう)」

 

場合によってはわざと負けるよう、何か細工をしなければならない。しかしそんな工作が不要だと後に気づく。それは討論参加メンバーと話をした時...

 

「(あ、これ俺が何もしなくても七草会長にフルボッコにされるわ)」

 

ゼロは彼らをノーメイクノーチェンジで送り込んだ。

 

──────

 舞台は討論会。ゼロはテロの準備のみしか行わず二科生の上級生達には催眠含め、本当に何も手をつけずに送り込んだ。登壇者は六名。一科生からは真由美だけ。そして二科生からは四名の同盟のメンバー。そして準科からはゼロだけ。視覚の情報は観衆に大きな印象を与える。

 

ゼロの計画通りに事が運べばこれから二科生はコテンパンに言い負かされる事になる。その二科生とゼロが同じであると見なされれば観衆もまともには聞かないだろう。ゼロは両肩の内、右肩にのみエンブレムを付けて討論に臨んだ。自分は一科生でも二科生でもないという事を示すために。

 

 

「二科生はあらゆる面で一科生より劣る差別的な扱いを受けている! 生徒会長はその事実を誤魔化そうとしているのではないか!」

 

「ただいま、あらゆるとのご指摘がありましたが具体的にはどのような事を指しているのでしょうか」

 

「一科生の比率が高い魔法競技系のクラブは二科生の比率が高い非魔法競技系のクラブより明らかに手厚く予算が配分されています。これは一科生の優遇が課外活動においてもまかり通っている証ではないですか!」

 

「それは、各部活の実績を反映した結果です。非魔法系のクラブでも全国大会に進むような優秀な実績を残すようなクラブでは魔法系のクラブと同じように予算が配分されています」

 

 

二科生は次々と真由美を口撃しようとするがその全てが跳ね除けられ逆にカウンターを受けてしまう。

 

「(ここまでは上々。なれどまだその時ではない)」

 

観衆の灯火こそあれどまだその火は拡がっていない。まだゼロが動く時ではない。

 

「...生徒の間に皆さんが指摘したような差別の意識があるのは否定しません。ブルームとウィード。学校も生徒会も風紀委員も否定している言葉ですが残念ながら多くの生徒がこの言葉を使用しています」

 

「(...ん?)」

 

まさか真由美の口からブルームとウィードという言葉が出てくるとは思わなかったゼロは一瞬驚いた。

 

「しかし、一科生だけではなく二科生の中にも自らをウィードと蔑み、諦めと共に受容するそんな悲しむべき風潮があるのも事実です。この意識の壁こそが問題なのです! 私は当校の生徒会長としてこの意識の壁を何とか解消しようと考えてきました。ですが...それは新たな差別を作り出す形であってはならないのです」

 

「(いい傾向だ)」

 

最早二科生は誰も反論する事ができず真由美の演説が始まる。そして真由美の熱に浮かされるように場の空気は盛り上がっていく。

 

「一科生も二科生も一人一人が当校の生徒であり、当校の生徒である期間はその生徒にとって唯一無二の三年間なのですから」

 

会場のボルテージは最高潮に達し、誰も彼もが会場の熱気に当てられ、そしてその熱気の源となっている。

 

「(ここだな)」

 

「発言、よろしいですか?」

 

──────

 盛り上がった雰囲気は次第に誰もが話を身を乗り出しながら聞く静寂へと変わった。誰も彼もがゼロと真由美の議論を邪魔する事を許されず、また意識を外に向ける事も許されない。そんな奇妙な雰囲気が場を支配していた。そしてゼロの話を聞く内に「もしかして一科と二科の差って...」と口には出さないが彼らは思い始めていた。

 

 

「この学校風に言えば...魔法の実力によって強者と弱者が分けられている」

 

「魔法力の違いで一科と二科を分けていますが...今年の入試では一科の最下位と二科の主席では1点の差しかありませんでした」

 

「一科二科はテストでの成績によって上半分と下半分に分けただけに過ぎません。そのテストが正しく実力を評価できているのか?」

 

「魔法の成績によって一科二科を分けるのであればどうして毎回の定期テストによって順位が入れ替わった時に学科を入れ替える制度がないのでしょうか」

 

「不公平で非合理的な制度を変える事が差別解消に対して真っ先に取り組まなければならない事です」

 

「もし、差別をなくしたいと思うのならば...もし、開かれた学校を作りたいのであれば...改善できるところから変えていきましょう。その手始めとして私は、エンブレムを二科生もつける事。そして毎回のテストで二科生が一科生になれる機会を作る事の二点を生徒会、及び学校に要求します!」

 

 

ゼロの言葉に誰もが「そうだよな」と首を縦に振る。真由美が否定ではなく肯定に回っている事も大きいだろう。だがしかし忘れてはいけない。確かにゼロは真由美の演説を聞いておかしいなと思った事を言ったし、差別(笑)についておかしな部分を述べた。

 

──しかしそれは彼の本心ではない──

 

ゼロは別に学内の差別はあってもなくてもどうでもいいと考えている。むしろ差別があった方がいいとすら思っている。自分を下に見られ、警戒される事もこちらを観察しようとする人間も減るだろうから。ゼロは理性で演説をしていたがしかしその実、全くと言っていいほどそこに心は込められていなかった。

 

しかしそのような事は関係ない。印象とは場の盛り上がりと多少の筋の通った論理で成立する。ゼロも演技で心のこもったフリをしていた。演技とは自らの心も偽るもの。が、ゼロはその言動とは裏腹に心中は冷めていた、彼に演者の才能はない。

 

「(頃合いだな)」

 

が、ゼロの目論見は達したと言うべきだろう。布石は完了した。あとは仕上げのみ。

 

「突入」

 

ゼロの意識干渉魔法の影響下にある司一によって催眠をかけられた兵卒に指示が出される。そして彼らを二科生で結成された、こちらも司一による催眠を受けた有志軍で叩き潰す計画が始まる。

 

しかし二科生がテロリストを倒す事などできるであろうか? 答えは否である。何もせず送り出しただけでは返り討ちに遭うだけだろう。そもそも二科生の魔法力ではキャストジャミングに対応できない。...いや、それは一科生の大半も同じ事なのだが...。

 

しかしどちらにせよこのまま二科生を戦わせるだけでは一科生が苦戦する相手を倒す事はできない。二科生を戦わせるためには実力と戦争経験が無い事から生じる恐怖の払拭という二つの条件を克服する必要である。恐怖は催眠術によってどうにもなる。では実力はどうやって対処するか? 

 

ここで『改竄』の最後の能力を使う。

 

魔法とはイメージを魔法演算領域によって変換し、サイオンを用いて魔法式を構築し改変を行うもの。魔法演算領域は魔法師の無意識の精神世界に存在しており...つまり性質はイデアと似ている。『改竄』によって直接イデアに介入できるゼロはイデアにその魔法演算をさせる事ができる。

 

ゼロの魔法演算力を超えるほどの大規模な魔法は使用できなかったりイデアに代用させた履歴は削除できないなどの欠点はあるがこれによってゼロは問題を解決した。

 

二科生達の魔法の演算をイデアで肩代わりする事によって魔法発動速度を向上させる。そして真由美や克人のいる場所を襲撃する部隊もこれによって強化した。倒せる訳もないが、しかし特攻しない限り瞬殺される事もないだろう。

 

 

 

 

「達也が避難整理してくれるなら()()だね」

 

司波達也にもイデアにアクセスする事ができる精霊の眼があるが、しかしゼロのように直接イデアに入り込む事はできない。故に存在をそのまま視認する事はできてもその範囲は狭く限られている。ゼロの『改竄』は理論上限りはない。と言っても範囲を広げれば広げるほどサイオン消費や脳の演算処理、またそれらからくる疲労のため現実的に不可能なのだが。

 

ゼロは襲撃の騒動に紛れて講堂を抜け出していた。そして『改竄』にて達也と深雪が避難整理に勤しんでいる事を確認し、二重の意味で安心した。今、第一高校ではゼロによって強化された有志軍が無双乱舞している。

 

その彼らの奮戦を目の当たりにしたのか議論の伏線は回収され、布石によってその思いはより大きなものとして一科生らの心に響いた。討論の場で示されたものが目の前で実演されたのだから。有志軍はまさに破竹の勢いで進んでいく。

 

ではここで彼らの心の内に分け入ってみよう。

 

 

「あはっ! 何だか知らないけどいつもより魔法がよく使えるわ!」

 

ゼロによって今は一科生の平均より早く魔法を使えているからである。

 

「敵将、討ち取ったり〜」

 

いや、殺してないからね? 君、ちょっとテンション上がりすぎじゃない? 

 

「今の俺、超輝いてる〜!! これ、モテ期来たんじゃね?!」

 

来てない。

 

「今なら十師族にも手が届くと言っても過言ではない!」

 

過言である。

 

 

中身は残念な有志軍であるがしかし実力は確かなものだ。彼らの奮闘によってテロリストは学校から駆逐された。残すは司一はじめ、本拠地を叩くのみである。が、流石に疲労困憊であったのだろう。有志軍の面々はサイオン切れを起こしたのか膝をついて倒れてしまう。

 

「(さて、どうしよう)」

 

司一を警察や十師族に明け渡されるのはゼロからしてもできれば避けたい。エイドスの変更履歴を削除したとはいえ深く取り調べをされれば何かしらの違和感を持たれるかもしれないからだ。

 

「(殺すのが一番手っ取り早いが...それはあくまで最後の手段。殺すのはいつでもできるからな。何か使える手は...あ、そうか。使えばいいんだ。()と同じく。まあ抵抗するなら母上に引き渡せば喜ばれるだろう)」

 

決めたらすぐに行動。彼は意識干渉の影響下にある司一に指示し、配下の者全員を集め四葉家に送った。...俗に言う誘拐である。以上が今回のゼロの暗躍の一連である。

 

──────

 ゼロは犯罪をいくつかしたが...しかしそれは全てテロリスト相手のもの。そもそも彼らは出頭できる状態にはないが犯罪者たる彼らが警察に駆け込む事などできるはずがなく、ゼロの犯罪行為が露呈する事はなかった。

 

「ゼロか。避難所にはいなかったが無事だったか」

 

「達也。そっちこそ」

 

銃火器が使用されたからか学校には少々火薬の匂いが漂っている。が、しかし怪我人の搬送も済み、既に学校はテロの残党に警戒しながらも片づけの段階に入っている。

 

「今回の事件、おかしいと思う点がいくつかあった」

 

そんな折、達也はゼロに対して口を開く。

 

「今回の襲撃、七草先輩や十文字会頭がいた場所は他よりも戦力が厚いように布陣されていた。学校内部にテロリスト達が入り込んでいたか...若しくは学校内に手引きした者がいたという事だ」

 

当然、それをしたのはゼロである。

 

「また、壬生先輩達有志軍がブランシュ達を撃退したが...明らかに普段と実力が違いすぎた。本人達も驚いているようだったしな」

 

「何が言いたい?」

 

「単刀直入に言う。ゼロ、今回の事件に一枚噛んでいたな?」

 

一枚どころではない。

 

「証拠は?」

 

「それは犯人が言うセリフだぞ」

 

達也はゼロがやったという証拠がなかったので話を濁すしかなかった。しかし達也はゼロが今回の事件に関わったという事は確信していた。勘、という不確かなものであったが。

 

「いや、別に犯人じゃないが。でもこういう話で反論しないと達也、納得しないだろ? お前、かなりめんどくさいし」

 

「...俺はめんどくさいか?」

 

「少なくとも冤罪の相手をさも確信したかのようにして問い詰める人間の事を、世間ではめんどくさい人と呼ぶ」

 

「......」

 

達也は「怖い」、や「気味が悪い」とは言われ慣れているがしかし、「めんどくさい」と言われた事はなかった。ショックと思ったと同時に新鮮さを感じた。そして自分の中にそのような感情が芽生えた事に驚嘆する。

 

「そうだな、すまない。今のは忘れてくれ」

 

どちらにせよ根拠がない事には変わりない。妹の好きな人でもしかすれば将来的に結ばれる可能性のある人物。同僚(トーラス)の事を自分は余りにも知らない。これからより注意深く観察しようと決心する達也であった。




『改竄』についてのまとめ。全く異なる魔法発動プロセスを用いる事で魔法の隠密性を得る事ができる事。またイデアに魔法演算をさせる事によって長期戦に対応できるという能力。攻撃力が上がったり『改竄』特有の何か魔法が使えるとかではないです。

隠密性の能力を例えるのなら、栄養補給をするためには一般には食べるなどの経口によって胃に食べ物が届くようにしますが『改竄』では食べるなどの動作を使わずに直接胃に食べ物を置いていくみたいな感覚です。(分かりにくかったかな?もし分からなければ質問して頂ければと)

向井零は100%善人ではありません。母があの人ですから。

本拠地攻撃メンバーですが、桐原はブランシュが紗耶香をおかしくした原因だと気づいてないので仲間になりませんでした。司波兄妹はゼロの策略で一連の出来事に介入できないので不参加。レオは親友に怪我して欲しくないと思ったゼロが無理やり避難所に連行したので不参加。エリカはただ一人、まだ校内でいもしない残党を探しています。


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