17話 深雪の追憶
「ふふっ、今日もゼロさんとたくさん楽しいお話ができました。明日もたくさんお話したいですね」
司波家寝室。司波深雪は自らの寝室で就寝の準備をしていた。尚、楽しかったお話というのは深雪の感想なだけであってゼロが顔を青くしていた事を彼女は知らない。
期末テストが終わった。ここ数日やや寝不足だったため今日はすぐに眠れそうだと考える深雪。深雪は実技一位、理論二位で総合一位という圧巻の成績を残した。理論二位も一位の達也が異常なだけで例年であれば確実に一位が取れるだけの成績であった。
ちなみにゼロは入学式の時の反省から学び、百位という一科二科のギリギリを狙わずに実技80位、理論61位、総合72位という成績を残した。同じくらいの順位の生徒が皆、肩を落とす中でゼロは......一人だけガッツポーズをしていた。
今回の期末試験から九校戦のメンバーは選出される。このテストの結果から深雪、ほのか、雫などはほぼ内定が決まった事になる。深雪やほのかはゼロと共に九校戦を戦いたいと思ってはいたが......ゼロが九校戦の選手として選ばれる確率は限りなく低いであろう。
深雪とほのかはゼロの順位を見た時、自分の事ではないのに悔しさのあまり両の拳を強く握りしめた。
深雪はゼロがトーラスである事は知っていたが、彼が圧倒的な魔法力を有している事は知らない。したがってゼロが今回のテストで加減した事には気づいていない。......もし手を抜いていた事がバレていれば......ゼロは氷像となっていた事だろう。尚、達也もゼロが実力を隠していると思っているが精々が一科生クラスだと思っている。
そしてほのかはゼロがトーラスである事すら知らないので潜在能力は感じているが深雪と同様、今回のテストでゼロが手を抜いたとは考えもしていない。
「全く。教室ではいつもゼロさんは西城君とお話していて。私から話しかけないとお話できないのは酷いです!」
ゼロは深雪が自分と以前会った事を全く言ってこないためにまだ完全には思い出していないと考えている。現在司波兄妹にバレている自分の素性については「向井零はトーラス」だという認識だけだ。
技術者でもある達也が「向井零はトーラスである」と知れば色々と変わるだろうが、そうでない深雪は自分がトーラスである事を知られたとしても特に何も変わらないだろう。
だが、だからといって無警戒に接触を続けていれば......いずれ深雪が思い出してしまうかもしれない。仮に昔会った事を深雪が思い出しても大きな問題はないが、しかし秘密とは知っている人間が少ない事で初めて意味をもたらす。ゼロは深雪に思い出させないために極力接触を避けてきた。......尤も、深雪は全て覚えているのだが。
だから周りから見れば明らかなゼロに対する深雪の好意も、ゼロからしてみれば何かを思い出しかけているのではないか? と考えてしまうために、深雪の想いは一向にゼロには伝わっていないのである。
「ゼロさんは......昔の事を覚えていらっしゃるのでしょうか......?」
深雪は全て覚えていた。それはゼロと深雪が初めて会った時の事であり、深雪に大きな衝撃を与えた時の事。同じ出来事でもゼロはこのまま忘れていて欲しいと思っていて深雪は思い出して欲しいと思っている。
深雪が一言、「あの時の事について覚えていますか?」と尋ねればいい事なのだろうが、しかし乙女の思考と言うのだろう。好きな人との運命的な出会いの記憶。人から指摘されて思い出すのではなく自ずから思い出して欲しいと思うのはある意味自然な思考回路だ。
こうしてお互いがその出来事について覚えているというのに不毛なすれ違いが生まれている。
「私はこんなにも、何回もあの時を思い出して心が洗われると言いますのに......」
深雪はベッドに寝転んでその時の事を思い出す。
──────
12歳の司波深雪は無敵であった。十師族の四葉の血を引き、その血に恥じぬ魔法の実力を持っていたから。同世代はおろか成人魔法師と比べても遜色ない実力を誇っていた。年相応の優越感をその胸に抱いていた。いつもすぐ側に兄であるにも関わらず深雪よりも劣った司波達也という存在がいた事も大きいかもしれない。
そして12歳の司波深雪は最強であった。容姿は既に整っており他に並ぶものがいないほど優れていた。まだ12歳という幼さを残しながらも絶世の美女と呼ぶべき深雪に魅了されない男などいなかった。深雪は家の関係で社交界の経験もあったが同世代はおろか年上のどの男性も深雪に魅了されない者はいなかった。ある程度の男になれば深雪への好意を理性で押さえつけていたが、それも深雪からしてみれば自身への好意は明らかであった。
そんな中、深雪の通っていた中学は夏休みに入った。そして当主、四葉真夜に対する定例の挨拶をするべく四葉本家に赴いていた。
四葉本家は機密性を保つため、この情報社会の中、どの地図にも所在が記されていない。しかしいくら地図に載っていなくてもそこで働く人達が外で話せば意味がない。そのため四葉本家の使用人は数が少ない。深雪はこれまで何度も四葉本家を訪れており使用人全ての顔を覚えていた。
「あら?」
そんな深雪でも庭が見える渡り廊下に腰掛ける少年の顔は初めて見るものであった。容姿が優れた少年であった。集中しているのか瞼を閉じて何かを考え込むような仕草は......絵になっていた。
一般に魔法師は魔法力の大きさとその美貌は比例する。深雪は好奇心から少年に声をかける事にした。
「あの、初めて見るお顔ですが......本家の方ですか?」
深雪は好意からくる反応が返ってくると思っていた。少年は男だったから。しかし......
「やべっ」
返ってきたのは好意ではなく......深雪の顔を見た瞬間に少年は顔を竦めた。まるで自分が何か間違いを犯してしまったようにバツの悪い表情をした上で深雪から目を逸らした。深雪はなぜ少年がそのような反応をするのか分からなかったが......しかしそれは間違いなく好意とはかけ離れた反応であった。
その反応に深雪は不満を抱いた。
「人の顔を見て何ですか。失礼とは思わないのですか?」
「いや、ごめん......。そ、それじゃあ──」
「待って下さい。何か急ぎの予定でもあるのですか?」
「い、いえ......用事というのは特には......」
「私は特に気まずいなど思っていません。気を遣わなくて大丈夫ですよ」
そう言って深雪は先ほどまでゼロが座っていた場所を指差す。言葉とは裏腹にその笑顔には有無を言わさぬ迫力があり、最早命令であった。普段なら深雪はここまで他人に干渉する事はない。しかしなぜかゼロを見た時、そして彼が帰ろうとした時、「このまま帰らせてはダメだ!」と直感的に思った。深雪の母、司波深夜は直感に関して「異能」と呼ぶべき力を持っていた。だからこそ深雪も常々自分の直感というものを大事にしている。ゼロが先ほどまで座っていた縁側に再び腰掛けたのを確認してから深雪は続ける。
「先ほどの話ですが......あなたは本家の方ですか?」
司波深雪の事をゼロは知っていた。自分の母の妹の娘、つまり従兄妹の関係にあるという事を。だがゼロの存在は魔法師社会はおろか、四葉家内でも知る人は限りなく少ないトップシークレット。存在を知られてはならないのだ。知られてしまえば......父の二の舞になってしまうから。四葉の直系である彼女であれば話しても大きな問題はないかもしれないが、しかし秘密というものは知っている人数が少ない事で意味をもたらす。無闇矢鱈に話すつもりはなかった。
「(さて、どうやって切り抜けようか)」
ここで使用人だと答える事はできない。もし使用人だとすればこんなところで油を売っている理由を答える事ができないから。さてどうしようかとゼロは思考を張り巡らせる。そんなゼロの沈黙を深雪は肯定と受け取ったのか深雪は話を進める。
「まさか......四葉の、それも本家の使用人だというのに私の事を知らないのですかあなたは......? 四葉深夜の
深雪は目の前の
「......一人娘? あの......司波達也は?」
「本当に何も......いえ、中途半端な形で知っているようですね。......って何ですかその目は!」
深雪とも達也ともゼロは初対面であったが自分の従兄妹はこういう風に育ったのかと怪訝な目を向けていた。
「いえ? 何でも」
「何か言いたい事があるのなら言いなさい!」
深雪のその懇願に......丁度いいかな? と思ったのかゼロは口を開く。
「じゃあ......一つだけ」
──────
「じゃあ......一つだけ。物事には必ず理由となるべく事実があります。なぜ司波達也はあなたと同じ血統を持っていながらガーディアンを──」
「ですから。それはあの人が四葉にあるまじき落ちこぼれで魔法力が低く、魔法師としては欠陥品だからです」
「そうじゃなかったとしたら?」
「......え?」
得意気にゼロの言葉を遮った深雪であったが全然違う視点からの返答が返ってきたため一瞬頭が真っ白になってしまい気の抜けた声が出てしまった。
「あなたは確かに同世代の子と比べたらたくさんの事を知っていると思います。それが故、物事の本質に辿り着かずとも全てを理解していると思ってしまうのも仕方のない事かもしれ──」
「だから何を!」
「では......なぜ魔法力......戦闘力が低いとされる司波達也があなたのガーディアンに任命されていると思いますか? 先ほどあなたは司波達也は魔法力が低い欠陥品だと言いました。しかしそもそも戦闘力が低ければガーディアンにすらなれないはずです。護衛対象よりも弱い護衛なんて意味が分かりませんし。四葉深夜様のように力はあるがその行使に何か障害がある......などは例外ですがあなたには当てはまりませんし」
「それは......」
深雪は先ほどまでの威勢で反論をする事ができなかった。なぜならそれは深雪が常々思っていた事で、考える事をいつからか放置したものだったから。
「となれば、司波達也に戦闘力がない事が嘘なのか、それとも真実はより複雑であなたが知っている事以上に続きがあるのか......。若しくはその両方か」
深雪は反論をする事ができず、押し黙る事しかできない。
「知っていると、一度解を出してしまえばその解を疑う事も、それ以上に何か事情があったのか? などと考える事もやめてしまいます。一度解を出してしまえば......誤解を解く事は容易ではないのです。少なくともあなたはなぜ司波達也がその血統にも関わらず魔法力が低いのかという事。そして戦闘力が低い......とされる司波達也がガーディアンに任命されているという事を知りませんでした。知らない事を知っていると誤解する事が一番危険なんですよ」
「............」
「もし、今の会話で何か思われたのでしたら司波達也ときちんと話してみては如何ですか? 魔法力など関係なくとも彼があなたと血の繋がった兄妹である事には変わりないのですから」
「(今しかない!)」
呆然とした深雪をおいて青年は彼女の側から離れていった。
「(とりあえず撤退成功)」
ゼロは母から深雪達が来るのは次の日だと伝達ミスがあったためにあんなところで寛いでいました。
追憶編に関しては達也目線、深雪目線、ほのか目線であと数話やろうと思っています。ゼロ目線は九校戦の後の予定。(え?ほのか?と思うかもしれませんが誤字ではありません)
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