いつかの話でも申しましたが、真夜の性格は原作と少し異なります。
「母上、深雪達が来るのは明日だって聞いていたんですが」
「どうやら手違いがあったみたいね」
四葉家本家、四葉真夜の居室。そこには三つの人影があった。
「おかげで誤魔化すのに凄く苦労したんですよ?」
「まあまあゼロくん。でもお陰で深雪と会えたんだから真夜に感謝するべきよ? 深雪、可愛くなっていたでしょ?」
「姉さん......!」
「叔母上......」
真夜は自らを庇ってくれた姉に対してうっとりとした表情を浮かべ、
ゼロは、深夜のあまりにあんまりな発言に対して頭を抱えた。
四葉家の姉妹は──
「それより姉さん。もう準備はできてるの?」
「勿論よ、真夜」
四葉深夜──姓が変わったため司波家は毎年夏休みになれば沖縄に旅行に出かける。
その旅行に──真夜達も加わろうとしていた。暴虐と恐怖の象徴たる四葉家当主が旅行に同行するなど──一家団欒をぶち壊す暴挙である。
「あなたがそのまま着いてきたら深雪や穂波が怯えてしまうでしょ。安心して。ちゃんと時間は取ってあるから」
しかし四葉真夜は理性を保っていた。「極東の魔王」、「夜の女王」が姉の家族の旅行に着いて行けばどうなるか──結果は目に見えている。緊張のあまり一家団欒とは程遠いものになる事は間違い無いだろう。
「私達も一家で訪れるから大丈夫よ姉さん。向こうで少しだけ合流しましょ!」
真夜と深夜は別々で沖縄を訪れ、向こうで個人的に深夜が真夜達に合流する事で話はまとまっていた。深雪の警護は──ガーディアンの達也がいれば安心だろう。
「楽しみねゼロ、姉さん」
真夜は沖縄旅行を楽しみにしていた。日程が決まった瞬間に自ら航空機とホテルを押さえたと言えば、その張り切りようは伝わるだろう。
「失礼しますご当主様」
「葉山さん。何かあったのですか?」
そんな折、先代四葉家当主から仕えてきた執事、葉山忠教が部屋に入ってくる。
「......何か緊急の事ですか?」
真夜にとって息子と姉、家族との時間は何よりも大切なもの。よっぽどの事がなければ話を後回しにする配慮が葉山にはあった。
なのに葉山は敢えて入室してきた。真夜の額に冷や汗が浮かぶ。
「はい。緊急の用件です」
「......どれくらいかかるのかしら?」
「3日間は缶詰になってもらわなければならないほどの緊急性の高い重大な問題です」
「嫌よ! 3日間って......それじゃあ明日からの旅行に参加できないじゃないっ! は、葉山さんが対処して下さい!」
「私には身に余る案件でございます。ご当主様の権限がなければ対応できません」
「な、なら! 私の権限を一時的に葉山さんに!」
「ご当主様」
葉山は冷静に真夜を嗜めるように名前を呼ぶ。しかし真夜の暴走は止まる気配はない。
「で、でしたら! 家督を誰かに譲──」
「............」
「ゼ、ゼロ!?」
そんな真夜に止めを刺したのは──信じられないようなものを見るような
「ぜ、絶対に今日中にお仕事終わらせてみんなと一緒に旅行に行くんだから!」
翌日、沖縄行きの航空機に──真夜の姿はなかった。
──────
「皆様。当機はおよそ十分で那覇空港に到着致します。シートベルトをしっかりと締めて、身の回りの物をご準備下さい」
機内アナウンス。深夜と深雪は那覇空港行きの飛行機、ファーストクラスに乗車していた。ガーディアンである達也はエコノミークラスかつ彼女達の荷物持ちも兼ねていたためこの場にはいない。
四葉深夜には、ある魔法実験が原因で息子の達也に対する愛情が失われている。実際に目の前で達也を見ても、会話を交わしても、肌に触れても──何も感じない。
しかしだからと言って、深夜は達也を過度に邪険に扱ったりはしていない。自らの感情の理由を理論的に知っているから。
──司波達也は魔法師でなければ四葉家では生きていけない──
息子に対する感情を失った深夜は、自分の選択を合理的に考え、今でも自分の判断が間違っていたとは思っていない。
「(先日のあの人の発言......。おに──あの人と一度話してみなさいって......)」
深夜の隣に座る深雪は、昨日ゼロに言われた言葉が頭の中で木霊していた。
それぞれが、それぞれに胸の内に思うところがありながらも、司波家の沖縄家族旅行は幕を開けた。──尚、四葉家の家族旅行は肝心の真夜が欠席となったために消滅した。
「いやー、本当ジンベエザメ見たかったんだよなー!」
ゼロの個人旅行に変わった。
「(それにしても今日の母上、凄かったな......)」
深雪達司波家が乗っている航空機とは別の便で沖縄、那覇空港に一人向かっていたゼロは、今朝の母の様子を反芻していた。
「では母上、行って参ります」
四葉本邸から司波家一同が出発したのを見計らって、ゼロも出かける準備を完了した。ゼロは出発の挨拶をするべく(昨夜から業務に忙殺されている)母の元を訪れた。
「も、もう行くの!? まだ少し早いんじゃないかしら!?」
「あと2時間で飛行機が出発します」
国内便は出発の1時間前に着いておく事が望ましい。尤も、ゼロ達はファーストクラスなため1時間前の期限を遅れたとしても乗れるとは思うが......(良い子は真似しないで下さい)。
「あ、あと10分......30分で終わらせるから! ちょっと待って頂戴!」
真夜は涙を浮かべながら両手を、鬼気迫る勢いで動かし続けていた。
真夜は本気で旅行に参加するために昨夜から寝ないで作業しているのだ。それは葉山を驚かせるほどの勢いであり、昨夜彼が試算した3日より終了予定時間は幾許も早まっていた。だがしかし──
「ご当主様、それは流石に不可能です。少なくとも明日まではかかります」
「でもぉー!」
数時間で1日短縮したと考えれば、それは凄い事なのだが、流石にあと30分で終わる量ではなかった。
「ゼ、ゼロは私がいないと旅行なんて行きたくないわよね? ね!?」
ともすれば次に真夜が望むのは......旅行の催行中止、延期策だった。
「いえ、ジンベエザメは一人で見たいので」
「どれだけジンベエザメ見たいのよ!?」
だがしかし、ゼロにその策は通じなかった。ジンベエザメを見るために人数制限(カラオケのように二人以上から、など)があれば延期に賛同しただろう。しかし水族館では、ジンベエザメと誠心誠意1対1で向き合い、心を通い合わせながら鑑賞する方が楽しめるのだ。
ゼロはスケッチブックとお魚図鑑フル装備で挑む。この男、ジンベエザメの前で少なくとも数時間は居座るつもりである。
「ひ、一人で旅行なんて危ないわよ! 今度またみんなで行きましょう!」
となれば真夜は別の視点、安全面から攻める事にした。が、しかし......
「大丈夫だよ。それにいざとなれば母上の元に帰れる事、母上ならご存知のはず」
「それは......」
四葉真夜、自らがゼロに施した安全装置が却って仇となる!
ゼロの固有特性「改竄」によるものではないが、彼の特性を活かした安全装置というものを真夜はゼロに用意している。それはどこにいても真夜の元に帰って来られるように。
魔法名「
聞いただけで吐き気を催す方もいるかもしれないが、勿論リスクも大きい。しかしその魔法によってゼロは他人と比べて何が起こったとしても生存率は高かった。おまけに彼個人の戦闘力だけで考えても何かある方が考えにくい。
安全面、という側面からも真夜にゼロの障壁を打ち破るだけの言葉は残っていなかった。
「(それなら!)」
と、真夜は新たな攻撃方法を模索する。が、この時既に真夜の思考回路に異変が生じ始めていた。
「こ、言葉が通じないかもしれないわよ!」
「気を確かに母上。沖縄は日本です。方言がやや難しいかもしれませんが日本語普通に通じます」
「それなら──通貨の計算はどうするのよ! あなた、今1ドル何円か分かるの!?」
「本当に落ち着いて下さい母上。沖縄は日本です。円が使えます。沖縄でドルは出回っていません」
「なら......時差はどうするの!? 時差ボケで旅行が楽しめなかったらどうするの!?」
「だから沖縄は日本です母上! それに、時差は向こうが合わせてくれるので大丈夫です!」
「あのゼロ殿......。それは意味が分かりません......」
真夜に引っ張られてゼロも意味不明な言動を始めてしまった事に葉山は頭を抱えた。「この親子本当に大丈夫かな?」と内心で思っている事だろう。
「やりますね母上......!」
「まだまだ修行が足りませんよゼロ」
葉山が(アホ)親子に目を向けると......全身で「ぐぬぬ」を表現しているゼロと、勝ち誇ってドヤ顔を見せている真夜の姿が。葉山は本気で仕事辞めようかと苦悩した。
「あの、それならご当主様。今回とは別に、今度また家族で沖縄に出かけられたら如何でしょう?」
この(不毛すぎる)争いを止めるためには──妥協策が必要だった。葉山が用意したのは──まさしく両者が納得する上案だった。十師族の四葉ほどの家であればまた別日に航空機とホテルを押さえて旅行をするなど容易である。
司波家とのダブルブッキングもないため深夜を連れて、深雪達に遠慮する事なく楽しむ事さえできるだろう。
「(むしろなぜ今まで思いつかれなかったのだろうか......)」
葉山の提案に──ゼロと真夜は目をキターン! と輝かせた。
「それよ葉山さん! ナイスだわ!」
「ありがとうございます葉山さん! これでもう一度ジンベエザメを見られる!」
「(この家は本当に大丈夫なのでしょうか......)」
葉山は今日何度目か分からないほどに、この家の未来を案じていた。
これ、真夜の性格、原作と少し異なるってどころじゃねぇな......()
この小説じゃ真夜、読者から「真夜ちゃん」って呼ばれても仕方ないレベル......
この親にしてこの子あり。
次回も読んで頂けると嬉しいです!
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