魔法科高校のゼロ   作:マイケルみつお

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前話から何かを察した方もいらっしゃるかもしれませんが一部、「筆者、お前は何を言っているんだ」的な描写があります。ご注意下さい。


19話 達也の追憶

司波深夜、司波深雪、司波達也といったまともに旅行に出かける事ができた司波家は目的地の那覇空港に到着、沖縄の別荘に無事到着した。

 

「(沖縄の景色は......何度見ても本州のものとは違って魅力的ですね)」

 

沖縄はその地理的条件か、東京がある本州とは異なった歴史を歩んでき、必然的に生えている樹木の種類など景色は明らかに異なる。身近に海もあり、その透明度は本州の海よりも透き通っている。

 

「(このまま別荘にいるのも悪くはありませんが......)」

「お母様、外を散歩してきてもいいでしょうか?」

 

いかに大人びた容姿を持っているといえども深雪は未だ中学生。せっかくの旅行。別荘でゆったりとするよりも外に出かけたい。

以前までであればあまり知らない旅先の地を一人歩くなど、危険で許される事も無かったが......

 

「(もう私も中学生です!)」

 

年齢以上に大人ぶる子供らしい一面を深雪は覗かせた。

 

「それなら達也を連れていきなさい深雪さん」

 

しかしその願いが叶う事は無かった。深夜の発言を受けてか、全く物音も立てず気配も悟らせずに自身の後ろにガーディアン(達也)が控える。

 

「別に一人で──」

 

「深雪さん?」

 

無論その願いを遮られ、尚且つ苦手な兄がその任に就く事に深雪は酷い不快感を覚え、いつものように不満を漏らすかと思ったが......途中で押し黙った事に母親の深夜は眉を上げた。

深雪とて不快感を覚えている事は確かな事実だ。しかし彼女の発言にブレーキをもたらしたのは......

 

『もし、今の会話で何か思われたのでしたら司波達也ときちんと話してみては如何ですか? 魔法力など関係なくとも彼があなたと血の繋がった兄妹である事には変わりないのですから』

 

先日出会った奇妙な少年の言葉だった。

 

 

 

 

一方その頃奇妙な少年(ゼロ)は......

 

「ようやく会えた......!」

 

飛行機を降りた後、彼は荷物を置きに宿に立ち寄る事もなく真っ直ぐに目的の水族館に到着。事前に買っておいたチケットにて並ぶ事なくスムーズに入場を果たし、事前の綿密な館内調査により最短経路を確保。他の魚に視線を向ける事もなく一心不乱に巨大水槽を目指した。

その心は一分でも一秒でも早く推しと出会いたかったから。溢れ出しそうな気持ちはもう抑えられずこれ以上経てばゼロの感情が振り切れてしまうかもしれないほどに熱く激っていた。そんな紆余曲折を経て、数ある試練と冒険の果てにゼロはついに──辿り着いた。

 

ジンベエザメ。それはテンジクザメ目ジンベエザメ科に属する唯一のサメであり、ご存知魚類の中で最も大きな生物である。しかしその体躯とは裏腹に温厚で、小型のプランクトンを主食としている。人間や他の生物を襲う事はない。

その温厚さは彼、彼女達の純粋なる透き通った眼を見れば一目瞭然だろう。

ジンベエザメはその身体の大きさから目立った天敵がいない。そしてジンベエザメ自身も他の種を捕食する肉食動物ではない。他を襲わず、そして他から侵略される事もない。

ジンベエザメとは生物の到達すべき一つの理想形が集約された夢とロマン溢れる存在なのだ。体表の美しい斑点模様と腹側の真っ白としたフォルムは争いから離れてきた平和の象徴という事もできるかもしれない。

 

そんな奇跡の生物とゼロは......邂逅を果たした。ゼロの眼から自然と一筋の涙が溢れ出す。

 

──────

司波達也は生まれたその瞬間から魔法師としては欠陥品だった。生まれつき「分解」と「再生」という反則的な魔法を有しているばかりに魔法演算領域が圧迫されており、他の魔法を扱う事ができなかった。それは魔法師としては致命的で、彼の生家である十師族である四葉家では生きていけないほどに重大な問題だった。

そんな達也の四葉家内での立場を確保するために、母親の司波深夜によってある手術が施された。それは強い衝動を覚える感情と引き換えに人工の魔法演算領域を構築するというもの。その結果、司波達也は「分解」と「再生」以外の魔法を、長い発動時間を必要とするものの扱う事ができるようになった一方で......感情を失った。

司波達也はその事を母、そして叔母の四葉真夜から知らされたが──その時には最早何も感じる事は無かった。

 

感情を失った司波達也だったが唯一、妹の深雪に対する感情だけが残された。しかし妹との仲は──あまりいいものではなかった。

 

「(深雪......)」

 

他の誰から嫌悪の視線を向けられても何ともない達也だったが妹の深雪から向けられるその目だけは達也の心を抉り続けていた。

 

「(だが俺はガーディアンだ)」

 

しかしその気持ちを達也は理性で、秩序で固められた身分というものを持ち出し、自らの気持ちに蓋をし、目を逸らす。

 

「それなら達也を連れていきなさい深雪さん」

 

そう母に告げられた時、達也の中では二つの相反する気持ちが芽生えていた。妹と散歩できる高揚感と何があっても彼女を守らなければならない使命感。そして......向けられる事になるであろう嫌悪の視線に対する諦観。

しかしそもそも達也に断る権限などない。深夜と深雪の決断に全てを委ねるだけ。

 

 

 

 

沖縄の街を、達也は深雪の数歩後ろから歩いていた。それは自分が深雪を守れる距離でありながら深雪の視界に最低限自分が映らないようにできる距離。その距離を達也は保ちながら深雪の後を歩いていた。

深雪に近づく事は達也の喜びであったが、しかしそれによって深雪が不快感を覚えるのならそれは達也にとって望むものではない事。司波達也はそのように作られている。

付かず離れず、深雪に踏み込む事もなく司波達也は数歩下がり大和撫子のようにして今日も過ごすつもりだった。しかしどういう訳か──今日は違った。

 

「あの......少しいいですか?」

 

「は、はい」

 

必要事項以外で深雪が達也に話しかけてくる事はない。今は特に緊急事態という訳でもないだろう。それなのに自分に話しかけてきた事に達也は一瞬動揺しながらも、しかし事務的に返答した。

 

「私は兄さ......あなたの事をよく知りません。血の繋がった兄妹だというのに」

 

やはり緊張するのか、深雪はギュっと身につけていたワンピースの裾を握りながら達也に尋ねる。その心は、先日奇妙な少年にかけられた言葉からくるものだった。

 

「ですので、あなたの事を教えては頂けませんか?」

 

「(深雪が俺に興味を......)」

 

一見鉄仮面に見える達也であったがその実、テンションは物凄い事になっていた。

 

「(俺と深雪はガーディアンとその主の関係。俺としては嬉しいが仲良くなっていいものなのか......?)」

 

理性は地位と秩序を武器に達也の膨れ上がる感情を抑えようと働く。しかし......

 

「(主である深雪が俺の事を知りたいと言っているんだ。これは深雪からの命令に従うという事に他ならない)」

 

司波達也はしばしば理性的な人間と評されるが、それは彼に感情が動かされる要因が少ないため。唯一残された妹が関われば......とことん直情的だった。

 

「俺は──」

「おいおいどこ見て歩いてるんだァ?」

 

ここ沖縄にはレフト・ブラッドと呼ばれる在日米軍がいる。彼らは一般的に素行不良で知られておりガイドブックにも注意書きがされているほどに一種の社会問題と化していた。だが......

 

「俺は今怒っている。かかってくるなら......手加減できるとは思えない」

 

司波達也にとって絡んできた外国人三人組は......素行不良なレフト・ブラッドではなく──自分と深雪の時間を邪魔した駆除すべき害虫。

 

「土下座して許しを乞うなら許してやろうと思ったが......グァッ!」

 

哀れ。達也の忠告を守らなかったレフト・ブラッドの檜垣ジョセフは──私情がモリモリに込められたいつもより威力絶大の達也の一撃によって──骨を何本も粉砕される大怪我を負った。

 

 

 

 

一方その頃奇妙な少年(ゼロ)は......

 

「結婚したい......」

 

ジンベエザメのメス、ジン子と見つめあっていた。既に水族館に到着してから数時間が経っている。その間、ゼロは水族館から離れるどころかこの水槽から一歩たりとも動いていない。

 

「............」

 

ジンベエザメのジン子も最初ゼロを見た時、ただの観覧客の一人だと認識していた。一日の間にジン子は何百人もの客を相手にする。ゼロもその内の一人だとジン子は認識していた。

しかしゼロは他の客とは明らかに違った。彼は数時間の間、ジン子の前から動かずジン子に対して熱い眼差しを向けていた。

他の魚に目移りする浮気性の客と違ってゼロは......一途な想いを自身に向けてくれた。ジン子とゼロは、金で結ばれた見世物と客の関係だったのだが次第にその関係は移ろいを見せる。

 

「ようやく想いが通じ合った......!」

 

ゼロの他にも多くの客がいるが──この時間はゼロだけのもの。これまで水槽の中を自由に泳ぎ回っていたジン子だったが今はゼロの目をずっと見続け、ゼロの前に姿を晒す。

 

種族が違っていようとオスとメスである限り必ず想いは通じ合う。二人の間にどんな壁があろうと、どんなにスタートラインが絶望的だろうと二人は無事に惹かれ合う。

他の観客の視線など全く気にせずゼロとジン子はただひたすら見つめあっていた。




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