追憶編の途中という凄くキリの悪いところで更新止まってしまっていてすみません。
「やあ皆、長らく待たせたな。私が陣部だ」
「先生そのカメラじゃありません。こっちです」
「......そうか」
そんな名前を付けられた陣部が幼少期から自らの半身とも呼べる生命に対して自然と興味を抱くようになり、ついに魅了されるに至った事は最早自明の理であった。
初恋の相手が人外であった事には驚いた。
幼馴染の女の子からの告白に「僕にとって君はプランクトンだ」と、陣部にしてはかなりの好感を交えたお断りの返事をした時はビンタされて縁を切られた。
年齢が二桁に届いた頃には自分が
研究者になってみればその生活は一変した。元々研究者とはその分野に対する執着が元でなる人間が多く、つまるところ変人が多かったから。
元々周りから浮きまくってマイノリティの弾圧を受け続けてきた陣部は一挙にしてマジョリティの地位にまで躍り出た──とまでは残念ながらなかったが。本気で人外と結婚しようとする人間は研究者の中でもごく少数で異質な事に変わりはなく、陣部はこれまで自分と同じ同類を見つける事ができないでいた。
それでも
──慣れとは怖いものである。
ともあれ、そうした紆余曲折を経ながらも日課のようにこの水族館を訪れていた陣部はある日──彼と出会った。
視線、立ち振る舞い、その全てが若かりし頃の自分と重なった。夢中で水槽を見つけるその表情は網膜に映る映像からジンベエザメ以外の全ての存在を切り捨てたような、戦う顔をしていた。
「君になら胸を張ってこう言えるよ──
種族の垣根を既に取り払った陣部にとって、年齢の差など無いに等しかった。
「そういえばまだ名前聞いていなかったね」
出会ってから小1時間、オタク話に花を咲かせていた2人だったが、まだ自己紹介もしていない事にようやく気づいた。
「向井です。向井零と言います」
「向井君か。うん、ジンベエザメを追い求める者に相応しい名前だ」
「どこがですか。先生くらいなものでしょそんなの」
「......それで向井君、今日はどこから?」
「東京からです。さっき着いたばかりで」
「となると、1番近いのは横浜か。勿論?」
「当たり前じゃないですか!」
「「年間パスポート!!」」
2人は互いにフッと笑いながら、お互いの年間パスポートを見せ合った。
「横浜のジンベエザメも勿論素晴らしいが、ここのジンベエザメも中々のものだろう?」
「ええ! とても凄いです。日本......いえ、世界で見ても最長のジンベエザメの飼育実績ですからね。歴史を感じます」
「そうだろうそうだろう。ところでだ向井君。──君も沖縄に住まないかい?」
「そんな人を鬼にするみたいにフランクに誘わないで下さい先生。彼も困っているではないですか」
「それは......とても魅力的な提案なのですが......」
「満更でもないみたいですね......」
古賀の予想に反し、ゼロは陣部の提案に頭を悩ませていく。ゼロに対する古賀の視線は──次第に彼女が陣部に向けるものと重なり始めた。
「でも学校があるので......」
「そうか。学生か。それなら厳しいな」
「ええ」
ゼロはまだ中学一年生。自宅の近くの公立中学校に通っている。そして卒業後は魔法師の資格を得るため魔法科高校に進学する事が確定的だ。全国に9つある魔法科高校から選ぶ事になるだろうがおそらく自宅に近い第一高校か第四高校に進学する事になるのだろう。
一応、九州にも魔法科第九高等学校があるが、熊本にあるため沖縄に行くのなら東京と対して変わりはしない。
どちらにせよ沖縄の高校に進学する事はできない。向井零はその生まれから魔法科高校以外の進学などあり得ないのだから。
しかしそんな事、憧れの人の前であっても言える訳がない。
「こっそり沖縄に転校する事とかできない?」
「しつこいですよ先生。彼はやろうと思ったらちょっとやりそうで怖いですけど親御さんがそうとは......向井さんの親御さんはこんなのじゃないですよね?」
「こんなのって酷くない!?」と喚く陣部を他所に首を縦に振ったゼロに古賀は思わず安堵の息を漏らす。
「でもまあ、世の中には自由に転校すらできない人達もいるんでしょ?」
「そうなんですか?」
「あれ? 知らない? 魔法科高校? ってやつだよ。僕も詳しくは知らないんだけど魔法師になるための学校って全国で九つしかないんでしょ? 地方に住んでたら本当に大変だよねー」
心臓がドキリとした。
「(まだ陣部先生に魔法師って言っていなかったよね?)」
そしてこの選択を、ゼロは心の底から正しかったと思うようになる。
「陣部先生は魔法は......」
「ん? ああ。個人的な意見に過ぎないが──まあ嫌いだな」
──────
「やあ、ようこそ恩納基地へ。司波達也君、君達を歓迎するよ」
国防陸軍第101旅団、独立魔装大隊隊長の風間玄信は凄く頭を悩ませてはいたが、結局達也の実力への期待が優り、彼を基地の訓練へと招待する事にした。
彼の母、司波深夜の前でその話を切り出した際、母子共にあまり食いつきがなく、とても来る様には見えなくて複雑な思いだったが、そんな様子を見せる風間ではない。
「「「............」」」
尚、彼の部下はその限りでなかったりする。
「あれは......CADを使わずに?」
達也に同行してきた深雪の指差す先には、CADを使わずに慣性を減少させる魔法を使用する事によってパラシュートなしに高いところからの降下を可能としていた隊員達の姿が。
「戦場では何があるか分かりませんから。CADを敵に奪われたり壊れたりする事もあります。そういった事も考慮して、最低限の魔法はCADを使わずとも発動できるように訓練しているんですよ」
「(随分と実践的なんだな)」
戦場では何が起こるか分からない。
「次は対人格闘ですね。1対1の徒手格闘でどちらかが倒れるまで行います」
風間がそう言うと、2人の筋骨隆々の男が向かい合ってから戦闘態勢を取った。そして程なくして試合が始まる。試合は、筋骨隆々な見た目に反して素早いストレートパンチから始まった。
「......すごい」
司波深雪は十師族の四葉家の生まれで、その中でもトップクラスの実力を有している魔法師ではあるが、実践的な戦闘経験はまだ無いに等しい。すぐ目の前で繰り広げられる技の応酬に思わず汗が滲んでしまう。直接自分に向けられている訳でもないのに感じる圧迫感、プレッシャー。攻撃の一つ一つが相手の生命を刈り取りかねないほどの威力と正確さ。純粋な魔法力だけなら深雪の方が優っているであろうが、いざ目の前の屈強な男と自分が対峙すればそんな差など無かったかのように一瞬で組み付せられるかのような経験値の差がはっきりと感じられた。
そんな中、風間は深雪も思いよらぬ提案を達也に対して持ちかけた。
「司波君。見ているだけではつまらないだろう。参加してみるかい?」
「えっ......」
「いいんですか?」
「え?」
最初の試合と同様に、2回目、3回目も今の深雪には到底及ばない技の応酬が繰り広げられていた。流石、外敵からこの国を守る国防軍だという事をまざまざと見せつけられているような気がして。そんな軍の訓練に、自分と年も変わらない兄が誘われている。その事実に深雪は声を漏らす事しかできなかった。
「戸口軍曹。司波君のお相手をしてあげろ」
「はっ! 分かりました!」
「司波君。遠慮はいらないよ」
「分かりました」
そしてトントン拍子に試合の準備が進められていく。達也の相手は「軍曹」と呼ばれていた。少なくとも、先ほどから深雪が圧倒されていた人達よりも階級が上の人間が相手だという事だ。
「(......魔法も碌に使えないあの人が勝てる訳が無い)」
「四葉」の名前を公にしてはいないものの、四葉の人間が簡単に敗北する事など許されない。なぜそんな簡単に勝負を受けたのか? と深雪は達也に対して怪訝な目を向ける。しかしその視線は達也と目が合った瞬間霧散された。
「(......そういえばあの人は......兄さんは、少しも驚いていなかった?)」
先ほどからの数試合、自分は目の前の技の応酬に圧倒される事しかできなかったが、隣に座る兄にそのような様子は見られなかった。兄の目は彼らの動きを正確に捉えているように見えた。
先日出会った奇妙な少年の言葉が深雪の中に木霊する。
「(私は......この人の事を何も知らない......?)」
自分が圧倒される事しかできなかった軍人相手にこの人はどう立ち向かうのか......深雪は固唾を飲んで兄を見守る事にした。
「(深雪が俺を見ている......!)」
司波達也はこの旅行が始まってから、妹の深雪が自身に向ける視線に変化が生じた事を肌で感じていた。その原因を知らない事が何とももどかしいが──今はその幸福だけで十分だ。
「(深雪の前で無様な姿を晒す訳にはいかん......!)」
司波達也のテンションは内心凄い事になっていた。
「では、はじめ!」
審判役の軍人の合図と共に、軍曹は突っ込んできた。筋骨隆々な下半身から生み出される爆発的な加速力を盾に、突破力にて達也を粉砕する作戦だ。
対戦相手が未だ成長期を終えていない中学生であるから、その作戦もシンプルながら悪くないものだった。見学者の中学生が相手にしてはやや殺意が強すぎないか? という思惑は別にして。
が、その作戦も、対戦相手の中学生が「ただの」中学生であったらの話だ。
「うそ......」
深雪では目で追うのがやっとの軍曹の突進を、達也は余裕を持って身体を半歩捻る事でかわし、その半身の状態で裏拳を軍曹の顔面に、彼の勢いも使って無防備なカウンターとして当てた。
「ぐッ!」
埒外の攻撃を加えられた軍曹は声をあげる事すらできず意識を失った。
「しょ、勝者、司波達也君!」
国防軍屈指の腕利きを、司波達也は瞬殺した。
「ふむ、まさかここまでとは」
達也のその動きに、風間といつの間にか隣に立っていた真田は思わず感嘆の声を漏らす。中学生が相手だからといって軍曹に油断はなかった。否、油断どころか殺気すら放っていた。どうやら達也と深雪はこれが訓練の当たり前だと捉えていたようだがそんな事はない。訓練のたびに毎回これほどの殺気を放っていたのなら──殺気が枯渇してしまう。
なぜこの世界はこんなにも殺気で溢れているのだろうか。その理由は明確。先日、戦友のジョーがこの中学生に、複雑骨折の大怪我を負わされたからだ。ジョーは人種も肌の色も違うレフトブラッドであったが、軍の彼らにとっては紛れもない仲間だ。そんな仲間が、確かに元は仲間が悪いとはいえ肋骨を何本も折られて帰ってきたとなれば──達也に引導を渡そうとするのも不自然ではない。
「ここまで一方的にやられるとなると......軍の威厳も丸潰れですな。司波君、もう一手お相手させてもらっても?」
「そんな!」
内心、まだ達也の戦闘を見てみたいと思っていた風間の一言に思わず深雪は反論した。深雪は先ほどの軍曹が本気で戦っていないと思っていたからこそ、あれだけの演習を繰り広げてきた本気の軍人が相手では次は達也が勝てないと思って。
深雪に変化が訪れていた。その感情は紛れもなく兄の達也を心配してのものだ。奇妙な少年の影響か深雪の、兄達也への感情は大きく変わっていた。未だ自覚のないままに。
「じゃあ次、誰か相手をしてくれ」
風間がそう言って達也の次の相手の志願を募った。先ほどの達也の圧倒的な強さを目にすればその結果は明らかである。
「──まさか全員とはな」
風間の目前には兵士の数だけ挙げられた指先まで天を仰ぐ右手の姿だった。
「隊長! 俺にやらせて下さい!」
「隊長! ヤツの仇はこの俺に!」
「隊長! 俺のジョーを傷つけられて黙っていられませんで!」
口々に語られるのは先日達也に肋骨を何本も折られたジョーの名前。
──ジョーは人気者だった──
「隊長。ここは俺にやらせて下さい」
そんな中、1人の男がおもむろに、しかし他の有象無象とは一線を画すかの面持ちで手を挙げた。
「「「──ジョー!!」」」
ジョーだった。
檜垣ジョセフ。無惨にも肋骨を何本も折られ、仲間達の前でワンワンと泣いてしまった男だ。原作と比べて遥かに重症を負った彼は──しかし負傷した事を思わせないように両の足でどっしりと立っていた。
「......ジョー。確かに皆は君の事があって司波君との手合わせを望んでいる。それなら当事者の君が手合わせをする事は理にかなっている。しかし.....」
「問題ありません。既に治癒魔法をかけてもらっています」
「そうか......。いや、でもだな......」
治癒魔法とは魔法の「改変」によって怪我の現実を書き換えるもの。つまり先日達也に粉砕された彼の肋骨は、治癒魔法にて正常な状態へと戻されていた。
しかし治癒魔法は万能ではない。治癒魔法は「再生」ではない。怪我を正常な状態に戻すといってもそれは「一時的に」という枕詞が必要になる。つまり応急処置でしかなくジョーは依然として重症患者なのであった。
「問題ありません!」
「......そうか、分かった。君の身体についてはもう良い。だが檜垣上等兵、報復のつもりなら認める事はできんが......報復ではないのだな?」
「いいえ、報復です! 報復以外の何物でもありません!!」
「」
「(あのアホォォォォォ!!)」
風間は内心で頭を抱えた。確かに彼は軍の面目を守りたいという気持ちも有りはしたが、本心は別のところにあった。
──司波達也の実力を見極めたい──
しかし達也は戸口軍曹を軽くいなすほどの実力者。ちょっとやそっとの相手ではまた同じ事が繰り返されるだけだ。なればこそ、この恩納基地で一番の実力者であるジョーを達也の手合わせ相手として使いたかった。
だが風間にも立場というものがある。風間はあくまでこれが報復ではないというような建前をジョーに用意したのだが──ジョーによって真正面から粉砕されてしまった。
「(仕方ない......か)」
「分かった。それでは司波君との立ち合いは認められ──」
「自分は構いませんよ風間さん。断る理由がありません」
そんな風間の葛藤を吹き飛ばしてくれたのは──達也だった。
「......しかし司波君、軍の施設を私的な決闘のために使う訳には......ましては君は民間人だ」
軍として守る対象である一般市民かつまだ中学生の達也相手に私怨による報復を軍の基地を使って行わせる事など許されるはずもない。
「問題ありません。むしろこのような因縁は多くの目がある場所で解消する事の方が望ましいのでは?」
「......それもそうだな」
かくしてジョーのリベンジマッチはしめやかに行われる事となった。模擬戦を行うため、達也とジョー以外の面々は演習場の端に散会していった。そんな中、風間は去り際に達也に対して言葉を残していった。
「司波君。余計なお世話かもしれないが油断しないように。──彼は強いよ」
「......? 分かりました。忠告ありがとうございます」
その風間の忠告に対して、達也はまるで上の空のようにして返した。一度戦って勝った相手。相手の力量は分かっている。そして何より、自分が負ける訳が無い。まだ幼き達也にはそれまでの経験と自負によって、一族からは軽んじられる中でもはっきりとした自信を身につける事ができていた。
「余裕って訳か。油断したこの前とは違って今度は最初から本気で行くぜ」
──それが驕りという事に気づく事もなく。
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