魔法科高校のゼロ   作:マイケルみつお

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ジョーさん原作と比べてすんごい強化されています。


22話 ジョセフの追憶

「では、始め!」

 

風間の合図にて達也とジョーの模擬戦が始まった。

 

「ッ!」

 

先に動いたのはジョーだった。彼は体格差、という絶対的な利点(アドバンテージ)を生かし戦略を練った。それは先ほど達也にしてやられた戸口軍曹と同じく単純な突破力を武器として達也を粉砕する作戦だ。尤も......

 

「グッ......!」

 

戸口のそれとはパワー、スピード、あらゆる点において比べ物にならない威力であったが。

 

「この前と全然違う......」

 

「当たり前だ。ジョーはこの恩納基地で1番の実力者だ」

 

模擬戦を見ていた深雪は、ジョーが先日肋骨を粉砕された時とは明らかに別人である事に思わず声を漏らす。

 

「まだ終わらねぇぞ!」

 

「ッ!」

 

突進によって達也の体勢が崩れた事を好機としてジョーは攻め立てる。筋骨隆々とした両腕による暴力が達也を襲う。

しかし体勢を一旦崩したとはいえ迎え撃つは司波達也。ジョーの繰り出す連続の突きを受け流し捌き続ける。だが達也の表情に、先ほどの戸口戦で見せたような余裕さはない。そして──

 

「しまっ──」

 

ガラ空きとなった胴にジョーの蹴り上げが入り、吹き飛ばされてしまった。

 

「兄さん!」

 

生まれて初めて兄の達也が一撃入れられるところを目の当たりにした深雪は思わず悲鳴をあげる。そこには「四葉」がとか「ガーディアン」がとか「魔法力」がとかは一切介在せず、ただ純粋な兄妹愛のみが込められていた。

 

「やるなぁー」

 

「何呑気に称賛しているんですか! 早く止めて下さい! これでは兄さんが!!」

 

そんな兄の危機に対して監督者である風間はぼんやりと試合を眺めるのみ。必然的に深雪は隣に座る風間に圧力(プレッシャー)をかける事になる。もう無意識に冷気が漏れ始めているのは将来への片鱗か。

 

「や、それは違って──」

「何が違うんですか!」

 

「深雪さん。風間少佐の今の称賛は檜垣上等兵に向けたものではなくお兄さん──達也君に向けたものなんですよ」

 

「......そうなのですか?」

 

「あ、ああ」

「(助かったぞ真田......!)」

 

風間が、自分の部下が中学生の一般人をボコしてその部下を称賛するようなクソ野郎であるという誤解は解け、ひとまず深雪から漏れ出ていた冷気は収まった。

 

「......それで、兄が流石というのは?」

 

「今のは達也君が後ろに跳んだんだよ。後ろに跳ぶ事によって檜垣上等兵の蹴りの衝撃を抑える事ができるし、何より達也君不利のこの流れを一旦リセットして仕切り直しに持ち込む事ができる」

 

「加えて檜垣上等兵はまだ追撃の構えを取っていたからな。とにかく、彼はそれだけの情報をあの瞬時に判断して実行に移したという事だ」

 

「先ほどから見ても彼の動き、実戦を想定した動きですね。後ろに跳ぶ事ができたのも半歩間合いに余裕を持たせていたからこそできた事でしょう。恐らく檜垣上等兵が武器を隠し持っている事も想定して」

 

「ふむ、ますます興味深いな。彼は何か武術の経験でも?」

 

「それは......」

 

風間の何気ない問いに、深雪は答える事ができなかった。それは身内を危険に巻き込んだ風間に対してまだ思うところがあったからではなく......

 

「(やっぱり私は......)」

 

実の兄の事なのに何も知らなかったから。

 

 

 

 

「今のを防ぐとは......やるな」

 

「............」

 

「さっきの言葉は取り消させてもらうぜ。この前は俺の油断で負けた訳じゃねぇ。正真正銘、お前の実力だった訳だ」

 

「............」

 

「だからこそ、今度は全力で行くぜ。──ラウンド2だ」

 

そう言うとジョセフは両手を頭の上でクロスさせる、独特な構えを取った。

 

「行くぜ──ジョセフライオット」

 

「──ッ!」

 

 

 

 

檜垣ジョセフはレフト・ブラッドの2世だ。先に起こった大戦で日本に取り残されてしまった異国人の子ども。大戦で両親を失ったジョセフは、見知らぬ土地に天涯孤独で取り残される事となってしまった。そんなジョセフは幼少期を沖縄の孤児院で過ごす事となる。

 

「ジョセフさん。いつもありがとうございます」

 

そこの孤児院でジョセフは一人の少女と出会った。孤児院を運営する一家の娘であった。大戦の影響からか異国人に対してもあまりいい目は向けられてこなかった。そんな中でもここの孤児院はジョセフに対して分け隔てなく接してくれた。その恩に報いるべきか、ジョセフはその恵まれた体格を生かして孤児院の手伝いを率先して行い──いつしか孤児院のアニキ的存在へと変わっていった。

 

「ジョーさん、これからもずっと......」

 

そして国防陸軍に入隊した頃、ジョセフはその妹分的な存在の少女と結婚した。お淑やかで大和撫子を絵に描いたような女の子だった。そんなところにジョセフは惹かれた。

 

──ジョセフの妻が豹変したのはその後だった──

 

「あんた、お酒は買ってきたの?」

 

「い、いやまだ......ですけど......」

 

「じゃあ早く買ってきて」

 

「そ、その......訓練でだいぶ疲れている......のですが......」

 

「いいから早く行ってきなさい! 投げ飛ばされたいの??」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!! わ、分かりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

お淑やかで大和撫子とは一体どこにいったのか。結婚してから変わってしまったのか、本性を見せるようになってしまったのか、ジョセフの夫婦関係は完全に妻による支配関係となってしまっていた。孤児院を運営する一家は格闘道場も運営しておりジョセフの妻も含めた格闘一家であった。体格では夫が妻を圧倒していても──

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

床に転がされるのはいつも(ジョセフ)の方だった。

 

──ジョセフは泣いていた──

 

一体どこで選択を誤ってしまったのか。ジョセフは悩んでいた。そして採った選択は──

 

「......そこでウチに弟子入りか」

 

妻の一家に弟子入りする事だった。

 

「お願いです! 弟子にして下さい!」

 

「「お願いです! 娘さんを僕に下さい!」みたいなテンションで言われてもな......」

 

「何がダメなんですかお義父さん! ......どうして先ほどからそんな複雑な表情を?」

 

「娘にDVされて辛くなった娘の旦那が娘に対抗するためにウチに弟子入りを申し込んできたと聞いたら多分全員同じ顔をすると思うよ」

 

ジョセフの義父が浮かべていた表情は──複雑以外の何物でもなかった。

 

「お願いします! 弟子にして下さい!!」

 

「............」

 

が、ジョセフはそんな義父に意を気にもしないように頼み込んでくる。そしていつしか義父に胸中にはある考えが浮かぶようになった。

 

「(これほどの肉体を持ったジョセフ君が我々の武術を会得した時に一体どうなるのか......)」

 

ジョセフの義父は、娘婿に対する複雑な感情よりも武人としての興味が次第に強くなっていった。

 

「お願いします! 弟子にして下さい!!」

 

「......娘婿とはいえ修行は厳しいが──いいのだな?」

 

「......! はい! よろしくお願いしますお義父さん! ......いえ、師範!」

 

この義父の判断は間違いではなかった。一家に伝わる武術が鍛え抜かれたジョセフの肉体と融合する事によって信じられないほどの強さを見せる事になった。みるみる強くなっていく事によってそれまで軍の中でも大した実力でもなかった序列は基地内一位となりそして──

 

「強くなりましたねジョセフ。それでこそあなたです」

 

鬼嫁に抵抗できる実力を身につけた事で夫婦関係も改善した。

 

 

 

 

「いくぞ!」

 

「──ッ!」

 

ジョセフはまたも高速で達也に近づくと技を繰り広げ始めた。

 

「ジョセフパーンチ!」

 

「──グッ」

 

ジョセフが嫁の父──師範から最初に習った技。全体重を拳に込める格闘術の基本のパンチ。拳は横ではなく縦に構えるところがミソ。

 

「ジョセフジョイント!」

 

「──グハッ!」

 

これは義父との修行中、道場のお菓子をせびりにきた義母に軽くあしらってやると挑発され挑んだら本当に軽くあしらわれてしまった時の技。

 

「まだまだ! ジョセフインパクト!」

 

これは高齢で物忘れも激しくなった義祖母が散歩に出かけたっきり帰らなくなった事で探しに行ったジョセフが義祖母を見つけ、家に連れ戻そうとした時に不審者と間違われてボコボコにされた時の技! 

 

「まさかこれを俺が使う日が来るとは......ショットガンマリッジ!」

 

これは夫婦関係が円満になった事で調子に乗ったジョセフが嫁の妹に手を出そうとして一家総出でボコされた時の技。そして──

 

「これで最後だ達也。うぉぉぉぉぉ!!」

 

ジョセフの不倫騒動によって接点を持ってしまった嫁と嫁の妹の旦那が間違いを起こしそうになりジョセフが嫁の妹の旦那に物申そうとした時「お前が言うな」と半ば逆ギレされてボコボコにされた時の──

 

「ジョセフデストロイヤー!!」

 

「グァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

ジョセフの攻撃を全てまともに受けてしまった達也は、特に最後の一撃を受けて大きく吹き飛ばされてしまった。達也が立ち上がる気配はない。

 

「勝負あったな」

 

「ええ。ですがあの歳でジョーにジョセフライオットを使わせるまでとは......。やりますね」

 

「ああ。──相変わらず技の名前はクソダサいけどな」

 

「それも全部、かつて自分がボコボコにされた時の技のパクリですからね」

 

「いや......」

 

「ともあれここまでだな。──そこま──」

「いやっ! 立って下さいお兄様!!」

 

 

 

 

「(手強いな......)」

 

これまであまり見てこなかった武術の使い手。おそらく伝統的な沖縄空手に古流の武術をいくつか混ぜ合わせたものなのだろう。あまり見た事のない動きは一瞬の判断を迷わせる。相手の動きに一瞬思考のリソースを奪われれば次の一手に対して半歩遅れる。そして技の巧みさがありながらも威力はバカにならない。

 

「(これで相手の溜飲も下がるだろうか)」

 

そもそも司波達也はジョセフと違ってそこまでこの勝負に勝ちたいという訳ではなかった。あの時は頭に血が上っていたが後になって冷静になって考えてみればやはり達也のジョセフに対する攻撃は過剰防衛で、非は自分の方が大きいと思っていたからだ。達也は本気ではあったが全力ではなかった。また打算を併せて考えてみればジョセフ達基地の兵士達からの敵意を逸らすためにはここは負けておいた方が都合も良い。

横目で風間が判定を下そうとしている様が見えた。

 

「(これで終いか)」

 

「いやっ! 立って下さいお兄様!!」

 

「ッ!?」

 

だがそんな理屈など関係ない。

 

「(深雪が......深雪が......!)」

 

このシスコンの前では。

 

「(そうだ。俺は深雪の目の前で何たる無様を......。深雪の前で戦うのなら──他に考える事は何も必要ないはずだ)」

 

「......まだ立ち上がるか、司波達也。俺はお前を認めるぜ」

 

「......きが......みゆきが......」

 

「次で終いにしようぜ」

 

次で終わりにすると言わんばかりに覇気を高めていくジョセフ。そして極上の構えで地面を蹴り上げ達也に突進していく。

 

「これで終わりだ!!」

「うおおおおおおおお!!」

「(深雪が......深雪が......!!)」

 

「お兄様と呼んでくれたぞおおおおおお!!」

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

全力が込められていた達也の拳はジョセフの治癒魔法を突き破り──残っていたジョセフの肋骨を一本残らずへし折った。

 

 

 

 

戦いの後、一人の戦士が雄叫びをあげていた。

 

「痛い......痛いおおおお!!」

 

──ジョセフは泣いていた──

 

「勝負あり。勝者、司波達也君」

 

「うおおおおおん! 俺の......俺の肋骨があああああ!!」

 

「お見事だったよ司波君。もし良ければさっきの技についても教えてはくれないかい?」

 

「何で俺ばっかりこんなああああ! あんまりだああああ!!」

 

「......檜垣上等兵に治癒魔法をかけるまで少し待っていてはくれないだろうか」

 

「......分かりました」

 

──────

「......完敗だ。言い訳のしようもないほど、完全に負けた」

 

「さっきのアレはなかったように振る舞われますのね」

 

「しっ! ジョセフは繊細で傷つきやすいから......お願いしますよ深雪さん。それに肋骨全部折れたら仕方ありませんよ」

 

「......なあ司波達也。一つだけ聞いてもいいか?」

 

「何ですか?」

 

深雪達の声も聞こえる中、先ほどの醜態を無かった事にしたジョセフは戦いの最後、気になった事を達也に聞いた。

 

「......最後の一撃、今までと勢いが違った。......手を抜いていたのか?」

 

それは武人としての誇り。ジョセフの顔色にさっきまでの泣き面は無かった。

 

「............」

 

「(もし手を抜いていたのなら俺はお前を......)」

 

「妹だ」

 

「は?」

 

「別に手を抜いていた訳ではない。ただ、妹の声を聞いて今まで以上の力を出せただけだ」

 

「そういえばこの前のも......」

 

「ああ。妹との時間を邪魔されてな。......とはいえ流石にやり過ぎた。すまない」

 

「」

 

達也のあまりにあんまりな言い分に流石のジョセフも開いた口が塞がらない。これではせっかく埋まりかけていた達也との確執が決定的になりかねない。

 

「──お前もか?」

 

「「「......ん?」」」

 

「お前も俺と同じ──sister complexだったのか!?」

 

「「「......は?」」」

 

檜垣ジョセフは同じ孤児院の中で妹分的な女の子と結婚した。そして妻の妹と不倫しかけた。つまり──

 

──司波達也と同類のシスコンだ──

 

「司波──いや、達也! 俺達は友達だぁ!!」

 

ついさっきまで本気の殺意を向けていた相手にこの仕打ち。好感度革命。しかしこんなジョセフだからこそ周りに人が集まるのかもしれない。

 

 

 

 

「お兄様......まさかシスコンだなんて......!」

 

深雪は今まで達也の事を知らなかった。無口で無表情で、なのにいつも自分を見ている。感情なくひたすら任務に励む兄の事を──怖いと感じていた。しかし誤解は解けた。身内ですら信用できないようなこの魔法師社会の中で、深雪は血の繋がった実の兄の事をようやく理解できたのだ。

 

「(私がお兄様をこうして理解できたのも全て......)」

 

あの時、謎の少年から兄と向き合う事を勧められたからだ。それがなければ恐らく......今も......。

 

「深雪は貴方に......ちゃんとお礼を言わなければなりません。......また会えるでしょうか......?」

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