魔法科高校のゼロ   作:マイケルみつお

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「深夜の追憶」というサブタイトルですが、これは単純に既に「深雪の追憶」、「陣部の追憶」を書いてしまっていて余っていた深夜さんを適当に入れてみただけです。実質的には陣部・深雪の追憶です。......思った以上に追憶編長くなってしまった......やはりジンベエザメ......ジンベエザメが長すぎた......ッ!


23話 深夜の追憶

──前回までのあらすじ──

 

「陣部先生は魔法は......」

 

「ん? ああ。個人的な意見に過ぎないが──まあ嫌いだな」

 

何気なく飛び出した魔法の話題! そこでゼロは憧れの人が魔法大嫌いだという事を知ってしまう! ......ゼロは魔法師なのに──何なら十師族の四葉家の人間のくせに! 

 

でも憧れの人の前であまり嘘はつきたくない! どうするゼロ──! 

 

 

 

 

「え! 本当に? 魔法って凄いんだねー!!」

 

「そうなんですよ! 生物学の先生方って結構魔法が好きではない方もいらっしゃいますので、良い試みになるかもしれません」

 

「ふむ......」

 

数十分前までと同じように意気投合していた。──それも魔法の話題で。一体どうしてこうなってしまったのか。

 

 

 

 

「陣部先生。俺は......魔法師なんです」

 

ゼロは憧れの人の前で嘘はつきたく無かったのか、自ら自分が魔法師なのだと打ち明けた。常日頃から自分の正体について嘘をつきまくっているにも関わらず。──無論、陣部だからといって自分が四葉の人間である事は流石に明かさなかったが。

 

「そ、そうか......君は......」

 

それを聞いた陣部の反応は──まあ改めて明言する事もないだろう。元来、現実を改変する魔法と、現実をありのままに観測する自然科学との相性は頗る悪い。考えて見れば当然か。

例えば動いている物は他からの力が働かない限り動き続けるという彼ら自然科学者の世界である慣性に対して、魔法師は慣性中和魔法などという真っ向から喧嘩を売っているような世界を広げている。

 

「............」

 

陣部の声の調子は先ほどまでと明らかに異なる。

 

「陣部先生」

 

しかしそんな中でもゼロは重々しく口を開く。

 

「魔法は、確かに現実を改変する力──人によっては邪法と考える事も分からなくはないですが、逆に魔法でないとできない事もあります。例えば──船と衝突した時の衝撃緩和など」

 

「!」

 

ジンベエザメはその天敵の少なさにも関わらず100年前から絶滅危惧種に指定されている。その理由は、船との衝突など人間によるものが大きい。

 

「既存の科学では解決不可能な問題も、魔法を使えばきっと今よりも多くのジンベエザメを助け──」

「素晴らしい!!」

 

「──え?」

 

「何て魔法は素晴らしいんだ!! 向井君! 僕にもっと魔法の事を教えてくれ!!」

 

「......え? え、ええ......」

 

流石のゼロも未だ陣部の域には到達していなかった。

 

 

 

 

「なるほどなるほど。確かにそれは今までの僕たちに無かった発想だ」

 

「そうですね。やっぱり魔法師というものは数が少ないですから既存の学問にあまり魔法師は進みませんからね」

 

魔法を扱う魔法師は魔法師として生計を立てる者が大半で、中には軍に属する者も少なくない。そして少数ながらも学問の道に進む者もいるがほとんどが魔法学という道を選ぶ。

 

「いや何、僕はこれまで魔法というものに対して食わず嫌い的な立場だったのだがこうして実際に触れてみると......ふム、魔法もあくまで一つの手段でしかないのだな、と」

 

「......一つの手段?」

 

「済まない。気に触る事を言ってしまったかい? 何しろ魔法師の方々が魔法に対してどう思っているかはよく知らなかったから......」

 

「い、いえ......そうではなくて......」

「(考えた事もなかった......魔法が一つの手段だなんて......)」

 

向井零──四葉零は魔法が当たり前の世界で育った。子どもの頃から周りにいた大人達は何も、魔法を目的とする魔法師だった。だからこそ思いもしなかったのだ。

 

「なあ向井君」

 

「は、はい! 何でしょう!」

 

「もし良かったら......論文でも書いてみる気はないか? 魔法学の観点から見たジンベエザメ研究、いや海洋学について」

 

「!」

 

後にゼロのこの論文は、魔法とその他の学問との融合の先駆者(パイオニア)と呼ばれるようになり、魔法が、魔法師が一般大衆に対して一歩足を近づけるきっかけとなる事はまた別の話である。

 

──────

達也とジョセフのあの日の翌日、司波家は別荘にて朝食を囲んでいた。

 

「深雪さん、基地の方で何かいい事でもありましたか?」

 

「ほ、穂波さん!? ど、どうしてそれを?」

 

「顔を見れば分かります。深雪さんはまだ隠し事は苦手ですからね」

 

クスクスと微笑む穂波はまるで深雪の全てを見透かしているようなそんな笑みを浮かべていた。

 

「それで? 一体何があったんですか?」

 

「それは......」

 

ニマニマと笑みを浮かべる穂波に対して次第と深雪は頬を染め始める。

 

「その......」

「(お兄様との関係の事を言ってもいいのかしら......?)」

 

もう深雪の中では達也はただの守護者(ガーディアン)ではない。しかし四葉家は依然として達也をただの守護者(ガーディアン)と見ている。穂波は深夜の守護者(ガーディアン)である事から少なくとも深雪は穂波を四葉家側の人間だと思っていた。

深雪は未だ知らない。自分が知らない事は達也の本心だけだと思っていたが、達也が守護者(ガーディアン)になった経緯は未だ知らない。深雪は達也に対して一度ならず二度も既に解を出してしまっている。だからこそ、新たな情報がない限り更に思考を進める事は難しい。

深雪はこれまで達也に対して何も知らないと思っていたようだが──それも厳密には違う。正確には達也に関するあらゆる事柄について何も知らないのだ。

 

「そ、それより! 穂波さん達の琉球舞踊はどうだったのですか?」

 

露骨に話を逸らした。

 

「(逸らしましたね)」

 

無論、穂波もすぐに看破した。が、敢えてその誘いに乗ってみる事にした。ーー面白そうだったから。

 

「そうですね。琉球舞踊を観覧し、着物を着て体験をしてみる時の事です。その時奥様が──」

「穂波」

 

「いたのですね奥様」

 

「今来たところよ」

 

部屋に入るなり速攻で穂波の会話を遮る深夜。その姿に深雪は強い違和感を覚えた。

 

「(お母様が人の話を遮るなんて......)」

 

深夜は娘の深雪を以てしても何を考えているのか分からない人であり、また周囲への感心もとても薄いような印象を受ける人だった。だからこそ普段その場にいても滅多に他人の会話に加わってくる事もないしこうして誰かの言葉を遮る事もない。

 

「(そんなお母様がわざわざ穂波さんの言葉を遮った......?)」

 

少なくとも深雪は、これまでそんな母を見た事がなかった。

 

「(それだけ......ちょっと恥ずかしい事だったのかしら......?)」

 

琉球舞踊の体験で一体何が起こったのか? 実はああ見えて自分で着物を着れなかったりするのか? 実はああ見えてまともに舞踊(ステップ)を踏む事ができないのか? 実は──

 

深雪の中でとても本人には言えないような失礼な母親像が形成されていく。

 

「(一体お母様の身に何が起こったのでしょうか!!)」

 

「深雪さん」

 

そんな深雪の卑劣な妄想を止めてくれたのは穂波だった。

 

「穂波さん? どうかしたのですか?」

 

「顔に出ています」

 

「あっ......」

 

先ほどの穂波の言葉を信じるならば、深雪はまだ隠し事がそれほど上手くない。穂波ですら看破できたのだ。なら尚更深夜は......

 

「深雪さん」

 

「ひゃい! お母様!!」

 

深雪の失礼な妄想を見抜けないはずがなかった。

 

「根拠もなく人を頭の中だとはいえ貶めてはなりませんよ」

 

「は、はいぃぃ!」

「(これは触れたらダメな時の顔......!)」

 

普段無表情だからこそ、こうして言葉に圧が加えられると余計に感じてしまう。娘の深雪からしても、今の母親の姿はちょっと怖かった。決して黒歴史を知らせないという強い意志を感じた。

 

「深雪さん深雪さん。安心して下さい」

 

「穂波さん?」

 

そんな中でも穂波は動じる事なく、深雪の側に駆け寄ってきて耳元でそう呟く。

 

「後でこっそり教えてあげますから」

 

「穂波さん!?」

 

深雪の耳元で小さく呟いたにも関わらず──反応したのは深夜だった。

 

「......あら? 聞こえましたか奥様?」

 

「当たり前です。あなたの口の動きと併せておおよそ分かりますから」

 

「............」

 

「あ、ちょっと待ちなさい穂波!」

 

深夜の言葉を聞いて何かを察したのか、物音一つ立てずに部屋を後にする穂波とそれを追う深夜。いい年した二人の追いかけっこが今開幕した。

 

確かに一般の家庭とは大きくかけ離れる。しかし司波家は、今日も平和だった。──この時までは。

 

「な、何ですかこれは!?」

 

つけたっきり、誰も見ていなかったテレビに突如として映し出された緊急速報。大亜連合がこの沖縄に向けて侵略を開始した事を放送員(アナウンサー)が顔を青くしながらも努めて冷静に伝えていた。

 

「奥様」

 

追いかけっこの勝者、穂波がぬけぬけと深夜のいるこの部屋へと戻ってきた。が、いくら黒歴史がかかっているとはいえ流石に深夜もそれどころではなかった。

 

「奥様から逃げて隠れている間、国防軍の風間大尉より連絡がありました。敵国のこの侵略に対して恩納基地の避難所(シェルター)に避難してみてはどうか? と言ったご提案です」

 

「そうですか......。深雪さん、達也。恩納基地の彼らの提案、どう考えられますか?」

 

穂波からの提案に深夜は、実際に彼らと会い、実際に恩納基地の中に入った事のある深雪と達也に意見を求めた。

 

「私は......彼らの提案を受けてもいいと思います。彼らとは良い関係を築く事ができていますし、信用できるかと思います」

 

ちょっと変わっているが、という枕詞を省略した深雪だが、言わずもがなジョセフ達の事である。だが結局達也が自身と同じシスコンである事を理解してからか逆にしつこいくらいあれからも達也に話しかけていた。他の兵士達も同様に、あれだけの敵意をぶつけていたにも関わらずその面影もないように彼らは達也達を歓迎し始めた。

 

「自分はやや懐疑的です。確かに避難所(シェルター)の防御力は他よりも高いとはいえ、基地という敵から狙われやすい場所に移動するというのは避難というよりむしろ前線に移動するようなものです」

 

「でも彼らは民間人であろうと躊躇なく殺戮するような連中よ?」

 

「......分かりました。基地は三方向を海上に囲まれた場所です。守りやすい場所にあります。自分はその点も考慮しながら警戒を続けて参ります」

 

「決まりのようね。それでは向かいましょうか」

 

 

 

 

「檜垣上等兵であります!! 本日は皆々様の安全を守らせて頂きます! 何かございましたら気軽に仰って下さい!!」

 

「......随分と丁寧な方ですね」

 

「数日前はこんな方じゃなかったんですが......」

 

基地にまで辿り着いた司波一家は戦争中とは思えないほどの兵士による大歓迎(そのままの意味)を受けた。そんな中でもその兵士が見ていた先は決まっていたようで......

 

「おおう! 昨日ぶりだなぁ! マイフレンド達也ァ!」

 

「えっ、達也君?」

 

「深雪さん、昨日一体何があったのですか?」

 

穂波と深夜の視線は、自然と昨日達也と共にいた深雪へと注がれる。

 

「............」

 

しかし当の本人も上手く説明できないでいた。それもそうだ。昨日まで殺意をバリバリに向けていた相手が、同じシスコンという事で急にあんな事になったなど、言ったところで信じてもらえるとは思えない。生で見ていた深雪とて理解できていないのだ。

 

「......お兄様」

 

が、そんな深雪の視線も、ジョセフに両手を握られて激しく揺さぶられている達也には届かなかった。

 

「まあ経緯はともかく達也君、友達いたんですね」

「達也、友達いたのね」

 

「......穂波さん、奥様。その言い方は少々棘を感じるのですが」

 

「でも事実でしょ?」

 

「......はい」

 

「私もお兄様に友達ができて嬉しいです!」

 

「深雪まで......。あっ......」

 

「どうかしましたか? お兄様?」

 

「いや......」

 

そこで達也は気づいてしまった。確かに自分は母や妹など家族から「友達いたの??」認定される男だ。生まれの影響もあってこれまで友達と呼べる人は確かにいない。つまり......

 

「(あれが俺の初友達になるのか......??)」

 

いくら感情の擦り切れた達也といえど常識は存在する。目の前のこの男が、常識はずれの変人である事に何の疑いもない。別に友達なだけなら何の問題もないのだ。だが......

 

「(これが初友達なのか......? こんなのが......?)」

 

昨日、戦いの後、達也はジョセフの事を聞いた。──というより何も頼んでいないのにジョセフが勝手に喋り始めた。

 

「(聞くに当時の妹分と結婚したものの、その妻の妹にも手を出そうとしたとか)」

 

そんなのは達也の考えるシスコンではない。

 

「(俺のシスコンとジョセフさんのシスコンは──相容れないものだ)」

 

ならば採るべき手段はフレンド登録の解除。しかし状況が悪すぎる。

 

「(今は戦争中だ。ジョセフさんは、俺と友達だからこそここまで友好的に接してくれている)」

 

もしこの関係が崩れてしまえば──戦争中にも関わらず内輪揉めが始まる可能性も低くない。

 

「(昨日までのジョセフさん達を見れば余計にな)」

 

達也の中でのジョセフは、実力はともかく人間性において全くの信用を欠いていた。

 

「(ならばこの戦争が終わった後か......いや!)」

 

そこで達也は思い出してしまった。深雪は何と言っていた? 

 

──同じシスコンとして──

 

つまり深雪は達也とジョセフを同類のシスコンだと認知している。

 

「(これはマズい。早く何とかしなければ)」

 

今が戦争中という事を考えてもその判断。見る人によればやはりジョセフとあまり変わらないだろうと思えるほどに達也は──深雪以外の事についてはどうでもよかった。

 

「ジョセフさん」

 

「おお何だマイフレンド達也!」

 

意を決した達也。激情して襲いかかってくるかもしれないジョセフに注意してカウンターを喰らわせられる準備も整った。

 

「(さよならジョセフさん......初の友達......)」

「俺に友達はいない」

 

「「「............」」」

 

空気が凍った。直接言葉をかけられたジョセフは勿論、ジョセフと達也の戦いを見ていた周りの兵士達も。そして......

 

「達也、友達は大切になさい」

「達也君、お友達にその言い方はどうかと思いますよ」

「お兄様......」

 

司波ファミリーも同様だった。だが3人のうち深雪だけは唯一ジョセフの本性を知っていたからか深夜や穂波ほどではなかったという事が達也にとっては唯一の救いだったが。

ともあれ、達也の爆弾発言によって一気に緊張が走った。模擬戦とはいえ本気の殺意をぶつけた2人だ。一体どうなってしまうのか──その答えを出したのはやはりあの男だった。

 

「あいやマイフレンド達也の母君、姉君、そしてシスター殿」

 

「え、いや私は姉ではなく──」

「確かにマイフレンド達也の言う通りである。我々はフレンドなどというチープな関係ではないのかもしれん」

 

腕を組み、真剣そうな表情を浮かべるジョセフ。彼が次に一体どんな言葉を紡ぐのか、この場にいる全員が固唾を飲んで見守っていた。

 

「俺と達也は──ライヴァルだ」

 

「「「え?」」」

 

「......確かに」

 

「「「(((いや、いいのかよ......)))」」」

 

司波達也にとって大事な点は一つ。ジョセフと自分の「シスコン」が別の物であるという証明。その点、「ライバル」という称号は達也にとっても都合が良かった。

 

「今日から俺達はライヴァルだぁ! マイライヴァル達也ァ!!」

 

「......ああ!」

 

友達ではなくなったが2人は、今までと同じかそれ以上に固い握手を交わした。

 

──────

「それで、貴方が避難所(シェルター)に案内してくれるのかしら?」

 

ジョセフとの付き合い方が分かってきた深夜はひとしきり彼と達也のじゃれつきが終わるとそう切り出した。忘れがちだが今は戦争中だ。特に敵の攻撃対象となりやすい基地はより危険ですらある。

 

「はっ、マイライヴァルのお母上」

 

「それはもういいから」

 

「は、はい......。それが、ちょっと変な事が起こっていまして......」

 

「変な事?」

 

深夜が聞き返すと、ジョセフは眉をハの字にしてから答えた。

 

「はい。自分はあくまで最前線で迎撃の準備が十分に出来上がるまで敵の足止めをする事が任務ですが、マイライヴァル達也が基地に避難すると聞いて居ても立っても居られず勝手に戻ってきた者ですのでシェルターに関してはそこまで詳しくは......」

 

「......追及すると面倒な事になりそうだからひとまず流しておくわ」

 

「それで避難所(シェルター)の担当の者によると──まだ避難所(シェルター)の準備が整っていないようなんです」

 

「それが変な事、ね。......確かに妙ね」

 

「ええ。こういう時に使うからこその避難所(シェルター)です。それに、準備を手伝おうとしたら──なぜか断られてしまいました」

 

「あなたが彼らに酷く嫌われているか、作業の能率がよっぽど悪くない限り──確かに変ね」

 

「そうなんです。......今何て言いました?」

 

「お母様、それではどうしましょうか?」

 

「達也ァ! お前のお母上なんか言葉に棘があるぉぉぉぉ!!」

 

ジョセフからの魂の叫びは見事に黙殺され、達也は深雪の問いについて考えてみる事にした。

 

避難所(シェルター)が使えないとなると、それまでどこにいるか、ですね」

 

「その避難所(シェルター)を準備している兵士達が言うには、代替の部屋を用意したからそこに避難してくれと言っていたな」

 

「その部屋の防御力は?」

 

避難所(シェルター)じゃあないからな。普通の部屋と大して変わらないぞ」

 

「......そうですか。ちなみに基地の屋上は開放されてたりしますか?」

 

「ん? ああ一応ヘリポートはあるが......」

 

「奥様」

 

「ええ、分かっているわ。屋上、でしょ?」

 

「はい」

 

大亜連合は()()()()により現代魔法の技術は大きく後退し、魔法後進国とされている。それによって、未だ機械兵器が盛んに用いられている。機械兵器──つまり建物の崩壊は1番の懸念材料だ。避難所(シェルター)のような防御力の低い部屋の場合、建物の崩壊による脅威を十二分に排除しきれない。

 

「ですがお兄様! 屋上──というのはあまりに危険なのでは?」

 

「そんな事はないよ深雪。この基地は三方を海によって囲まれている。だから敵からの攻撃がくる方向はある程度予想できる。それに機械兵器の対処は俺の得意分野だ。撃ち落とすとするならば屋上の方が都合が良い」

 

達也の持つ「分解」は、まさしく機械兵器に対する圧倒的な利点(アドバンテージ)を誇っていた。

 

「深雪さん、それに私の魔法も屋上という見晴らしのいい場所の方が都合が良いです」

 

桜井穂波──桜シリーズの魔法師は対物耐熱障壁の展開魔法を得意とする。家屋の倒壊を防ぐ事は難しいが、遠距離からの砲弾や銃弾から身を守るとなれば、むしろ彼女の本領発揮と言えるだろう。

 

「そうね。では兵士さん、私達は避難所(シェルター)の準備が整うまで基地の屋上にいてもいいかしら」

 

「でも屋上は......いや、マイライヴァルとそのファミリーであれば心配ないな。分かりました。では付いてきてください」

 

こうして司波家の4人は、避難所(シェルター)の準備が整うまでの少しの間、基地の屋上に身を隠す事となった。

 

 

 

 

当たり前と言うべきか、屋上には司波家以外の人の姿は無かった。微かに聞こえる戦火の音はとても遠く、とてもこの場に砲弾が降ってくるなどといった事は考えられない。先ほどまでの心配は杞憂であった。が......

 

「(何だこれは......?)」

 

突如感じた強い違和感。が、感じたのは達也だけだったみたいで、少なくとも隣に座る深雪が何かを感じ取った気配はない。それもそのはずで、違和感は五感によるものではなく精霊の眼(エレメンタル・サイト)を経由した──情報次元を介在して達也に与えられたものだったから。

 

「達也さん、外を見てきてはもらえませんか?」

 

そしてそれは、達也のようにはっきりとしてはいなかったが彼の母親である深夜にも伝わっていた。

司波深夜は四葉家の中でも精神感情系統の魔法にとても長けた女性であった。その身に宿る直感は、ある種異能に迫る域に達していた。

 

「......分かりました」

 

司波達也にとって最も大切な事は妹、深雪の警護。この場所は守りに長けており、穂波は対人護衛に長けていた。その前提さえ有るのなら、この場を少し離れたとして、脅威を深雪から離れた場所で排除する事は目的に通ずるものであった。

 

──司波達也もまだこの時は子どもだった。彼はこの前提が狂う一つの仮定を見過ごしてしまっていた。

 

ともあれ、達也は深雪を助けるために深夜の言う通りに外敵の偵察と対処に向かった。そう──

 

──今、ここに深雪の絶対的な守護者である達也はいなかったのである──

 

「手を上げてもらおうか」

 

一瞬だった。基地の屋上という、逃げ場がない場所ではどうする事もできず、深雪達は武器を持った兵士達に取り囲まれてしまった。

 

唯一の見落とし。それは、基地の兵士が敵に寝返る事である。外からの侵入が難しい場所、というのはすなわち味方の増援も期待できず敵からの逃亡も難しい事を意味する。

 

「ジョセフはちゃんと離しておいたな」

 

「はい。ここから離れた戦場の迎撃に既に向かっています」

 

「そうか。奴が戻ってきた時は正直何が起こったか理解できなかったが、本来の任務に戻ったのだな?」

 

達也がいない今こそ、彼のライバルであるジョセフが颯爽と現れて助けてくれる事がおそらく王道の胸熱展開なのだろうが......ジョセフは意気揚々と前線に向かっている。達也達を屋上に連れて行った後、「俺があいつらを片付けて、すぐにでもここにいたって君達が安心できる世界を作るSA!」などと親指を立てたっきり走り去っていった。──使えない男である。

 

「すまんな。あんたらには何の用もないが......あのジョセフを打ち倒すほどの奴だ。楔は必要だ」

 

反乱兵が最も恐れる事。それは乱の鎮圧だ。基地の最高戦力である檜垣ジョセフはこの場から離した。この戦争と彼らの内応は早い段階から定まっていた。ジョセフを前線送りにする工作を仕掛ける隙はいくらでもあった。

 

が、直前になって更なる脅威が発生した。──司波達也の存在だ。何せ模擬戦とはいえ、あの檜垣ジョセフを打ち倒すほどなのだから。

 

「......私達を人質とするつもりですか」

 

「そうだ。だから大人しくしていれば命を取るつもりはない」

 

大勢の兵士が取り囲んでライフルを突きつけた上でそう言った。最も、彼らの襲撃と共に深夜と深雪を守るかのようにして発動した穂波の障壁魔法について何ら言及もされていないので、彼らの言い分がまるっきり嘘であるとも限らないようだったが。

 

ともあれ、そんな反乱兵の言葉など信用するに値しない。

 

「(今です)」

 

反乱兵にはある種の油断があった。こちらは10人以上で相手はたかが3人。しかも一見弱々しい女で、銃火器を突きつけた状態で囲んでいる。

だからこそ、まさか反撃してくるなんて思わなかった。

 

精神凍結魔法、コキュートス。深雪が有する最強の魔法の一つだ。一瞬の油断をつき、深雪は取り囲んでいた兵士の半数を瞬時に絶命させた。

 

──が、深雪はまだ若かった。

 

「ッ! こいつ!!」

 

深雪は魔法の発動のために、穂波の障壁魔法の効果範囲の数歩、外にいた。魔法の干渉を防ぐためだ。2つ以上の魔法は互いに干渉し合う。干渉し合えば魔法は不完全な形となってしまい最悪発動すらしなくなってしまう。そんな事は魔法の基礎の知識であり、すなわちこの時点において深雪の魔法発動範囲は限られていた。そしてまだ若く、実践経験も豊富ではなかった深雪はその魔法発動範囲において──多くの兵士に攻撃を当てる事を優先してしまった。二手、三手先の実戦の勘は深雪にまだなかった。将棋のように、目的を達するために敢えて目先において利が少ない選択を敢えてするなどといった思考がまだできていなかった。──穂波の障壁魔法の範囲外にいた深雪を移動せずとも射程に収める事ができる場所に、まだ生き残りの兵士が残っていた。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

人は簡単に死ぬ。それは魔法師とて変わらない。魔法師も人間には変わりなく、魔法という異能を使う事はできるものの人間の域から出る事はない。だからこそ、他の創作の異能者のような、倒すためには惑星を破壊するほどの威力が必要という訳でもなく魔法師は他の人間と同じように──それこそ銃弾で簡単に命を落とす。

 

深雪を即座に狙える位置にいた兵士は即座に発砲した。深雪にはその光景がゆっくりに見えた。魔法の発動は鉛玉の飛ぶ速さには及ばない。ライフルから放たれた鉛の弾丸が肉を貫き、骨を砕き、生命を閉ざす未来が容易に想像する事ができた。

 

が、目を閉じてその痛みは待っても──いつまでも届かなかった。

 

「はぁ......全く。達也は何してんだよ」

 

「あ、あなたは......!」

 

弾丸は防がれた。

 

「ば......莫迦な!?」

 

三方を海で囲まれた基地──その海からの突然の来訪者によって。

 

「そ、空を飛んでいるだと!?」

 

三方を海によって囲まれたこの基地は、外からの攻めに対して守りやすく、しかし一旦内に入られれば守りにくい構造となっていた。──海の上を走り、空を蹴って進む事ができる者さえいなければ。

 

兵士達が打ち出した弾丸は、海上より来訪者が展開した、更なる障壁魔法によって防がれた。そして──

 

「待て落ち着け! 一旦冷静に──ぐぁぁぁぁ!!」

 

次に来訪者が発動させたのは単純な移動魔法。銃を持った兵士達は勢いよく壁に叩きつけられて意識を失った。人を害するのに、それこそ複雑な魔法は必要ない。

 

言うまでもなくその来訪者とはゼロの事である。尤も、その顔は水族館限定グッズの「ジンベエザメ被り物」によって隠されていたが。

 

「(達也は......戻ってきているな)」

 

ゼロは『改竄』によるイデア世界への直接介入によって達也がここに戻ってきている事は分かった。兵士は全て無力化した。更なる敵の増援が来る事も考えられるが、達也さえ戻ってくれば一安心できる。

 

ゼロにはやらなければならない事がある。いつまでもここに留まる訳にはいかなかった。想子を集中させ、また来た道へと帰る。その時だった。

 

「待って下さい!!」

 

自分を助けてくれた男はなぜかジンベエザメの被り物を付けていた。しかし深雪には、この男が数日前に四葉で出会ったあの少年と同一人物だと分かっていた。──勘という不確かな物でしかなかったが。

 

深雪には伝えねばならない事がある。

 

「先日はご無礼な言い方をしてしまい申し訳ありませんでした。私は──何も分かっていなかったんです。兄の事も......自分の事も」

 

この沖縄に来て、基地に来て、深雪と達也の距離感は大きく変わった。全く無表情なのにこちらをずっと見ている兄の視線は、ただ任務から来るものと思っていて怖いものだと思っていたが──それはシスコンの視線だった。敵だと思っていた兄は、自分にとって一番の味方だった。

 

「それは......貴方のおかげで兄──お兄様に私から一歩踏み出す事ができたからです。それも全部......貴方のおかげです」

 

本人にとってはさりげない一言だったかもしれない。深雪もあの時は一使用人の妄言程度にしか思っていなかった。だけど人間というものは些細な事で人生が激変する事もある。

 

「そして......貴方がいなければ今頃私は......」

 

銃を突きつけられた。引き金を引かれた。死を確かに実感した。司波深雪は確かに魔法の名家、十師族の中でも抜きん出た四葉家、その中でも「天才」と称されるほどの魔法力を持った少女ではあるが──魔法の発動前に銃弾で身体を貫かれてしまえばどうしようもない。

 

「私を助けてくれて本当に、ありが──あれっ?」

 

だがお礼を言い終わる前に深雪の口は閉ざされてしまう。

 

既に少年はここに来た時と同じように空を蹴って立ち去っていた。──ゼロにはやらなければならない事があったから。




またも一挙更新と銘打ったにも関わらず更新が前回からちょっと空くなどよもやよもやだ!!

......資格試験に落ちたので泣いていました。誰か慰めて下さい。

生存報告を兼ねたアンケート(文字数の関係から詳細は活動報告を見てね!)

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  • リメイク更新ならいいよ!
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