「な、何だこれは!?」
突然の国防軍による緊急声明の後に大地を揺るがすほどの振動が水族館を襲った。大亜連合による侵攻はここ、ゼロ達がいる水族館にもやってきた。
「ちょ、ちょっと何やっているんですか先生! 早く避難して下さい!!」
そんな中でもゼロと陣部は変わらず論文研究の談義を楽しんでいたが流石に古賀が止めにきた。
「何だい古賀君。今私は向井君とジンベエザメの未来について語り合っているのだ」
「そうですよ。俺も沖縄にいれるのは残り僅かなんです。陣部先生と対面で話せる時間は少ないんです。勿論今後も俺としては交流したいとは思っているのですが──陣部先生、連絡先を交換しませんか?」
「勿論いいとも」
「呑気か!? 今後があるかも分からないんですよ!!」
「......それもそうだな」
「......それもそうですね」
古賀の熱心によって二人はようやく現実を直視した。だがこれまで現実を見ようとしなかった事についても一定の理由はある。
ゼロからしてみれば、仮に敵兵に囲まれたとしても持ち前の魔法力によって生き残れる自信はあるし、何なら「
ああ、そうだ。陣部を擁護できる点が一つだけあった。ここの水族館は耐震構造含め、ちょっとやそっとでは崩れないような構造となっている。魚雷や爆弾で直接狙われるでもない限り全く問題ないだろう。
「う、うわぁっ!!」
突如、大亜連合の砲弾が水族館に命中した。
まるで大地震に合ったかのように水槽の中の水は揺れ動き、そのあまりの現実に魚達は恐怖と混乱でいっぱいになって異常な動きをし始めた。
そしてそれはジンベエザメのいる巨大水槽も例外ではない。
「あ、ああああああああ!!」
「ジン子ォォォォォォ──!!」
ジンベエザメは元来臆病な生き物だ。まあ大地震ほどの大振動なら臆病ではないとされる動物ですら怖くはなってしまうものだが。
「頑張れジン子! 心を強く持つんだ!!」
「頑張れ! 頑張るんだ!!」
ともかく、臆病でない動物ですらこれだ。それなら臆病なジンベエザメなら尚更だ。
「頑張れジン子! 頑張れ! 兄ちゃんが付いているぞ!!」
怯えるジンベエザメをおっさんが「兄」を僭称しながら宥める。──控えめに言ってそこは大亜連合の侵攻よりも地獄絵図であった。
だがこれまでと違って陣部の後に続く者はいなかった。びっくりするほど誰も付いてこなかった。
「向井君......君は......」
同じ志を持った彼ならば、きっと一緒にやってくれるだろうと陣部は信じていた。だがゼロが付いてこなかったせいで陣部は一人惨めな思いをする事になってしまう。何でなんだよ! と立腹した陣部だったが振り返ってゼロの顔を見てしまえばその感情も霧散した。
「俺は......魔法師です。ジン子が怯えるこの振動を俺は止めに行きます」
ゼロの顔は──
「............」
陣部は知らない。目の前の向井零が世間一般ではアンタッチャブルと恐れられる四葉の人間である事を。だからこそ、その言葉が真に意味を持つ言葉だと分からなかった。
戦争とは大勢の人間を巻き込んだ軍事行動である。その戦争を1人で終わらせる事など、例え魔法師であってもできはしない。そう──戦略級魔法師でも無ければ。
だが陣部は目の前のゼロがただ中身のない綺麗事を言っているかと言われれば──そうとも思えなかった。
──愛する者のためならば人は実力以上の力を発揮できる──
戦争の事を全く理解していなかった陣部はジンベエザメへの愛で戦況が変わると本気で思っていた。
「......分かった。なら向井君、約束しよう。ジンベエザメの新たな論文には君が必要だ。──必ずまた意見を交換しよう」
「......ええ」
敢えてその言葉の意味を確かめ合う事はしない。それがジンベエザメの流儀というものだ。ジンベエザメは音を使ってコミュニケーションを取らない。でも意思疎通を図る事はできる。
二人はフッと笑ってジンベエザメの
「「ジンベエザメに感謝を」」
「何ですかその変な儀式は。いいから早く逃げますよ先生」
最後まで締まらなかった陣部だった。
──────
「......こんな時に......母上?」
陣部とジン子に別れを告げ、勢いよく水族館を飛び出したところで折悪く電話がかかってくる。気が立っていたゼロは無視しようと考えたが誰からの電話なのかを確かめると即座にその着信を受け入れた。発信者は、沖縄にいけなかったゼロの母だったから。
「どうかしました母う──」
「良かった無事だったのねゼロ!! 沖縄が急に攻められたって聞いて本当に心配で心配で......!!」
連日の徹夜による仕事の影響か、真夜の大亜連合侵攻に対する反応は遅れていた。徹夜は人間の脳の
真夜はそんな眠い目を擦りながらも執事の葉山から事の次第を聞くとすぐに動いた。それは愛する息子や姉、その家族に危険が差し迫っていたから。──四葉真夜は感情豊かな女性であった。
「今どこにいるの? ゼロ」
「......水族館にいます」
「なら丁度良かったわ! いざとなったら
「すみません母上。それはできません」
「......え? で、でもゼロの魔法があればシェルターまですぐよ......?」
真夜はゼロの返答に思わず自らの耳を疑った。
ゼロが今いる水族館から軍の基地までの経路は海をぐるりと回る形であるため素直に道なりに進めば長距離であるが、仮に海の上に道を作る技術があるのなら直線距離で進む事ができ、直線距離で考えれば水族館と基地はそこまで離れていない。
だが真夜が驚いたのはそこではない。ゼロが真夜の言葉に真っ向から歯向かう事はあまりないからだ(沖縄に来るに当たって結構歯向かっていた気もしなくもないけれど)。
物心ついた時から畏まった態度を取られて真夜はちょっと頬を膨らませる生活を送っていたのだが──一体なぜどうして今になってこうなったのか。
「......ゼロ、何かあったの?」
「............」
流石親子と言うべきか。映像通信ではない。特に魔法を使った訳でもない。それでも真夜は受話器から聞こえるゼロの声色の調子だけで違和感を感じ取っていた。
「......俺の大切な宝物が、奴らによって......」
「......え、ちょっと待って」
「母上。広範囲において改竄を使います。許可を願います」
「え? それはいいけど......。え、ちょっと待ってゼロ。何? 今何て言ったの?? 大切な宝物って? も、もしかして──」
「失礼します」
真夜はまだ何か言おうとしていたようだがひとまずの要件は終わったものだと判断し、ゼロは通話を一方的に切った。
「......切られたわね」
「切られましたね」
電話が切られた事を示すツーツーという音がまだ鳴りやんでいない部屋にいるのは四葉の主従。
真夜の目の下にはうっすらどこではない隈がある。だがそんな真夜にとって徹夜明けの鬱々としたテンションを吹き飛ばしてくれるほどの衝撃だった。
「ゼロに女が!」
「落ち着いて下さいご当主様」
ゼロから告げられた言葉──大切な宝物。
普通、人はこの言い方でまさか人外を指しているとは思わないだろう。──まあ人外の事なのだが。
「あれだけゼロが沖縄に行きたかったのってそういう事だったのね......」
そういう事ではない。
「ジンベエザメに会いたいってだけであんなに一生懸命になれる訳もないものね」
なれる訳である。
ゼロは親にも自分のジンベエザメへの愛情を伝えていない。否、正確には──
「母上、俺はジンベエザメが好きなんです」
「何言ってるのゼロ、勉強しなさい」
全く相手にされなかった。
「とにかく。葉山さん、急いで沖縄に行くわよ」
「本当に落ち着いて下さい」
沖縄に息子の想い
「(奴らによって......何があったのかしら)」
一体大亜連合によって何かされたのか?
「(殺された......? それならゼロはもっと怒り狂っているでしょう......)」
とにかく、義娘に会う前に大亜連合に何かされようとしている事は確かだという事だ。
「ご当主様。先ほどから沖縄に行くと仰られておりますが......何をするつもりですか?」
「(今の真夜様は危険だ。......深夜テンションだし)」
その葉山の予想は当たった。
「撃ちに行きます」
「......へ?」
「撃ちましょう!
「ちょっ! 落ち着いて下さ──力強いな......。おい! 誰か! 誰かいないか!! ご当主様がご乱心だ!!」
結局葉山が呼んだ四葉の精鋭複数人に組み伏せられる事となり、真夜は未来の義娘に会える事もなく沖縄旅行リターンズは白紙となった。
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