やさぐれみぽりん   作:穂美璃蘭

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朽ちた鋼

 機械の騒音が鳴り響くやけに綺羅びやかな広いパーラー。

 西住みほはそこで、スロットのリールを眺めながら煙草を吹かしていた。煙草の重いニコチンとタールが頭を冴え渡らせる。

 台の下には鉄球を詰めたドル箱が積み重なっていた。大勝といえるほどの儲けだが、顔色は優れない。

 

「……潮時か」

 

 今日は打ち続けても当分当たる事は無いだろう。そう悟ったみほは席を立ち、ドル箱の玉を景品と馴染みの煙草に換えて店を後にする。

 換金所に立ち寄り、手に入れた景品を現金に交換してから、大洗女子学園の学園艦へ向かう輸送船へ密航した。

 船が出航し、学園艦と接触するか否かという距離になると、みほは学園艦の側面に張り付いて甲板へよじ登っていく。

 不法侵入だと騒がれても可笑しくない行為だが、人気の無い森林地帯に降り立ったため誰にも見咎められることはなかった。

 そのまま森を抜けて自宅アパートへの帰路につく。道中、コンビニに立ち寄ってビール缶を買い込んだ。

 自宅に戻り、買ってきたばかりのビールを飲み干す。

 アルコール度数9%の強い刺激が喉を通り抜けていく。だが、酔いは一向に回らない。

 みほは空になった空き缶を投げ捨て、ベッドに身を投げ出す。

 天井を見上げているうちに、自然と笑みがこぼれてきた。

 

「アハハハッ! ハハッ!」

 

 乾いた笑い声を上げ続ける。

 酔っ払っているわけではない。むしろ醒め切っていた。

 だが、それでも笑うことを止められなかった。

 虚無感のようで、何かが満たされるような不思議な感覚。頭の中が真っ白になるような快感。

 また一歩死に近づいた気がして、みほは一層強く声を上げる。

 その時、部屋のドアが激しくノックされた。

 

「西住みほ! 居るのは分かっている! 早くしろ!」

 

 自分と同年代であろう少女の声。それとは別にもう2人の少女の気配を感じた。

 みほは気配を消してドアの鍵を開ける。

 

「ようやく観念したな、西住みほ! おい……」

 

 鍵が開くと同時に片眼鏡をかけた少女が押し入ってきた。

 みほはその少女の顔面に拳を叩き込む。

 その一撃で眼鏡のレンズを砕いた。続けて鳩尾、顎先へと打ち込んでいく。

 最後に首を脇に抱え込み、そのまま残り2人の少女へ近づく。2人とも、そして今締め上げている少女も、大洗女子学園の制服に身を包んでいた。

 

「学園の奴が何の用だ」

 

 片方のポニーテールの少女はすくみ上がり怯え切っているが、ツインテールで幼い体つきをした少女は飄々とした態度でみほの前に立つ。

 

「丁寧なご歓迎どうも。……話の前に、うちの河島、返してくれないかな? こんなでも大切な仲間でね」

「……そうか、すまない」

 

 言われて、みほは片眼鏡の少女を解放する。

 首筋を押さえながら咳き込む河島桃の横で、ツインテールの少女は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「てか西住ちゃん酒臭くない? 飲み過ぎじゃない?」

「早く用を言え」

 

 みほが苛立ち気に言い放つと、ツインテールの少女は肩をすくめる。

 

「まぁいいや、私はここで生徒会長やってる角谷杏。それでね……」

 

 杏と名乗った少女の言葉を遮るように、みほは口を開く。

 

「戦車道を履修しろ、そう言いに来たのか」

「話が早いねぇ、さすが黒森峰の元副隊長」

 

 その言葉にみほは顔をしかめ、苦々しげに吐き捨てた。

 

「断る」

 

 その反応に、杏は目を細めて薄く笑う。

 

「へぇ、じゃあ君をこの学園艦から追い出さないといけないんだけど」

「丁度いい。そのつもりだったところだ」

「逆に封じ込めると言ったら?」

「力尽くで出ていく、それだけだ」

 

 そう言ってみほは踵を返す。そのまま部屋に戻ろうとしたところで、杏に引き留められた。

 

「待った、まだ話は終わっていないよ」

 

 みほは足を止めるが、振り返らない。

 

「今日は引き返す。でも、脅しのネタが増えたらまた来るよ。君は私達の希望になるかもしれない存在だからね」

 

 杏の声色は先程と打って変わって低く、静かなものだった。

 みほは振り返り、険しい表情のまま口を開く。

 

「アタシからも忠告があった。もう少しまともな奴を誘った方がいい」

「そうかな? 君ほど優れた人材はいないと思うけどね」

「買い被り過ぎだ」

 

 杏は肩をすくめると踵を返し、手を振って去って行った。

 他の2人もそれに続いて姿を消す。

 再び一人になると、みほは床に倒れ、目を閉じた。

 瞼の裏にはあの日の光景が浮かぶ。

 川に沈んだⅢ号J型戦車。仲間を助けるためにフラッグ車を放棄し飛び込んだ自分の姿。

 待ち受けていたのは敗北という結果のみ。

 独善で動き、他人を巻き込んで、自分はこれで満足なのか。

 なら、自分の感情も意思も全て棄て、死ななければならない。

 自分の存在価値など無いに等しい。存在する意味が無い。

 無駄に頑丈な身体のせいで死ねないのなら、せめて自分を精一杯苦しめなければならない。

 今自分に出来るのは、死ぬために生きること。

 それが自分に出来る唯一の償いだ。

 堂々巡りの考えに囚われたまま、みほは深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

―――

「……西住みほ、資料とは全く違いましたね」

「ま、半年前の資料だしね。三日会わざれば刮目して見よってヤツ?」

「しかし……会長は本当にアレを当てにするつもりですか?」

「そうでもしないとやってらんないよ。でも、彼女がこれからの大洗を作っていくと思うんだ」

「まるで神頼みですね」

「あんな野蛮な神がいるか! 私は殺されかけたんだぞ!」

「そう、だからこれは博打だよ。引き当てたのは勝利の女神か、目に映るもの全てを壊す狂戦士か……どっちだろうね?」

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