お越しいただき、ありがとうございます。
本作品はある程度書き溜めをしているので、しばらくは更新頻度が早くできると思います。
短い話ではありますが、最後までご照覧いただけたら嬉しいです。
それでは、よろしくお願いします。
「さようなら、すべてのエヴァンゲリオン」
その言葉とともに、すべてが還っていく。
もとの世界へ、新しい世界へ・・・。
ありがとう、シンジ君。
君に会えて、本当に良かった。
君のおかげで、僕は自分の本当の生き方を、幸せを見つけられる気がするよ。
きっとこの先、エヴァンゲリオンの存在しない世界になっても、
僕らはきっと、どこかで出会えるだろう。
なんの変哲もないさびれた駅のプラットホームで、気づかぬうちにすれ違ってしまうような
そんな世界で、君と生きていくことを、心から望もう。
さようなら、碇シンジ君。
君の幸せを、心から願っているよ。
ひとつだけ、気になってしまうことがある。
幾度となく繰り返される輪廻のなかで、ただ一つ、自らの意志で生命の書から離れていった世界。
数多の失敗を繰り返し、その中で唯一、『失敗ですらない』と見放された世界。
あまりにも過酷な運命を前に、それでも決して折れることなく戦い続けた『彼』の世界。
彼の行く末を、僕は知らない。
彼の行く末を、僕は見届けられなかったから。
彼は、自分の幸せを見つけることができただろうか。
僕が初めて「さようなら」と告げた、あの彼は。
僕にはわからない。
だからこそ、残されたこの瞬間に、彼の物語に思いを馳せよう。
自らの意志で未来を掴もうとした彼の、『魂』の物語を・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・え?」
天井の抜けたジオフロントの底。そこから覗いた、抜けるような青い空。
夏の日差しが碇シンジの肌を焼く。麦わら帽子に首にはタオル。農作業用のブーツと軍手を付けた格好は、まるで農家の手伝いをしている子供のようだった。
手にはホース。そこから流れ落ちる水がキラキラと光を反射している。
シンジは、かつて加持リョウジが育てていたスイカ畑に水を撒いていた。
「いま、誰かが呼んだような・・・・・・」
シンジはきょろきょろと辺りを見回す。
だがここから見渡す限り、人の姿は確認できない。
「気のせい、だったのかな・・・」
それにしては、どこか、懐かしい声だった気がする。
あのネルフ本部で起こった戦いから、早くも数か月が経っていた。
あの戦いが終わったあと、すぐにシンジを含むエヴァンゲリオンのパイロットたちは、皆、一時的に戦略自衛隊に拘束された。それはある意味、ネルフに所属していた年端もいかぬ少年少女たちを保護するといった名目で行われたものだったが、戦略自衛隊のあまりに丁寧な対応に、シンジ達は拍子抜けしてしまったものだ。
それからしばしの時間を要し、シンジ達は解放された。それは裏で葛城ミサトを中心とした旧ネルフのメンバーたちが秘密裏に手をまわしたからであったが、それをシンジ達が知るのはまだまだ後の話。
今のシンジは、奇跡的に残ったこのスイカ畑の管理を任されている。といっても、加持から半ば無理やり押し付けられたようなものだが。
それでも今までとは全く違う時間の使い方を知ったシンジは、この生活が気に入り始めていた。汗水を流して命を育てる行為。シンジの生活にはなかった新しいルーティンだった。
チリン、チリン!
ふと、シンジの耳に、自転車の鈴の音が聞こえた。
音のしたほうを見遣ると、長い金髪をツインテールにまとめた少女が、自転車でこちらに向かってくるのが見えた。あんな髪色の少女は他にはいないだろう。惣流・アスカ・ラングレーで間違いなかった。
その姿にホッとすると同時に、どこか嫌な予感を覚えるシンジ。
彼女の事だ。きっとまた難癖をつけて自分の邪魔をするつもりだろう。最近のアスカは、何かと自分に絡んでくることが多い。
それが悪い、とは思わない。むしろ微笑ましいとすら感じる。
そう思っていたシンジがアスカのドロップキックを食らい、畑に顔を突っ込んで文句を言うまであと数分。
こういった平和な日常を手に入れたシンジ達の戦いの始まりは、今から数か月前まで遡る。
全ての運命が変わり始めた、あの時まで。