エヴァンゲリオンANIMA ep. ZERO   作:サルオ

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r,破綻

 

赤木リツコは、愛する男の手にかかって死ぬ事を望んでいた。

 

代わりに、愛する男の最も大切なものを奪って。

 

愛する男の記憶に、心に、魂に、永遠に消えない傷を残したかった。

 

私を殺した後に、殺したことを必ず後悔するように・・・。

 

そうすれば、愛する男は私の事だけを思い出すだろう。

 

男が後悔の念に駆られるたびに、あの時、ああすれば良かった、と私のことを思い浮かべるのだ。

 

最も大切な愛する妻を思い出すたびに、その再会を邪魔した私の姿が上書きされる。

 

それは、なんて素敵な事だろう。

 

リツコは本気でそう考えていた。

 

リツコ自身がこの場で何かをする事はない。

時間は十分にあった。

もう既に、仕込みは終わっているのだから。

 

碇ゲンドウの補完計画は、もう絶対に叶う事はないのだ。

 

それなのに・・・。

 

この胸の虚しさは、一体なんなのだろう。

 

 

 

r,破綻

 

 

 

ターミナルドグマ、磔にされたリリスの足元に赤木リツコが待ち構えていた。

 

「何故ここにいる。赤木リツコ君」

 

ゲンドウの表情は変わらない。

実に端的に、疑問を口にする。

 

「貴方の顔が見たかったから、ではダメでしょうか」

 

リツコは薄く笑みを浮かべてそう言った。

 

晴れやかな笑みではない。

どうすればいいか分からないから、とりあえず笑った。そんな顔だ。

 

「私の邪魔をするつもりか?」

 

ゲンドウの問いに、リツコは一度だけ目を閉じる。

 

ややあって、リツコは目を開き、ゲンドウを見つめ返した。

 

「ええ・・・、その通りです・・・」

 

「そうか」

 

ゲンドウが懐から拳銃を取り出す。

 

「赤木リツコ君」

 

それをリツコに向けて構える。

 

「今まで君は、本当に、良くやってくれた」

 

リツコはゲンドウを見つめたまま、何も答えない。

 

「愛していた」

 

その言葉を、何度も目の前の男に言われてきた。

 

かつてリツコの母、ナオコが他界した日、この男はリツコに縋ってきた。リツコの手を握り、跪き、「私を助けてくれ」と懇願してきた。

 

可哀想な人だ、と思った。助けたいと思った。助けられると思った。

だから全身全霊でこの人を助けた。その証拠として、この人は何度も私を求めてくれた。私は間違っていなかった。この人を救えていた。

 

それが嬉しかった。

 

だけど、本当は最初から気付いていた。

 

この男の目に、私は映っていない。

昔も、今この瞬間も。

彼の中にある絶対的な存在。

それを超えることは、私にはできない。

いや、きっと他の誰であろうと、それはできないのだろう。

 

「碇司令・・・」

 

優しく語りかける。愛していた男に向けて。

目に、別れの涙を溜めながら。

 

「ここから先は、あなたの思い通りにはならないわ・・・」

 

ゲンドウが僅かに眉間に皺を寄せる。

 

「思い通りにならないとは、一体どうするつもりだね?」

 

ゲンドウは銃を下ろさない。ゲンドウの中で、リツコを排除することは既に決定されている。

 

「どうもいたしません。もう既に、終わっていますから・・・」

 

「終わっている?」

 

「ええ・・・」

 

リツコは少しだけ視線を下げ、ゲンドウの後ろ、そこにいる綾波レイに視線を向けた。

 

「レイのATフィールドは、解けません。既に私が調整を施しました。次の調整は1週間後。それまではレイのATフィールドは保たれます」

 

「なに・・・?」

 

ゲンドウが僅かに銃を下げる。

脆弱な、リリスの魂の器たるレイ。その体を保つためには、定期的に調整を施し、外部的なATフィールドによって形を維持するしかない。それはレイの中にあるリリスのATフィールドに更に外付けのATフィールドを重ねる事で、二重の心の壁を形成するようなもの。

 

外付けのATフィールド、そしてレイのATフィールドがある限り、レイの中のリリスの魂とアダムは融合することができない。

 

「なぜ・・・、そんな事を?」

 

「わかりません・・・、きっと安っぽい女の、くだらない嫉妬ですわ・・・」

 

リツコとレイの視線が交わる。

 

(本当に、いつ見ても無表情な子・・・)

 

リツコは母である赤木ナオコの後釜としてネルフに入ってからずっと、ずぅっと、レイの世話をしてきた。

 

碇ゲンドウの妻、碇ユイを模しただけの人形を。

 

ゲンドウがどうしても忘れたくない、失いたくないものの象徴。

いつか失ったものを取り戻すために使われる、生贄人形。

 

無表情、無感動、無趣味、無知。

 

そんな人形を生かすためだけに、ずっと世話を見続けてきた。

その間に、何度空しいと感じたことだろう。何度苛立ちを覚えたことだろう。

ヒトの形をしているのに、ヒトとして当たり前の事ができない。それに何度殺意を覚えたことか。

排泄ができない、食事の仕方を知らない、風呂に入らない、自己主張がわからない。

そして何より、世話し続けなければ死んでしまう。薬を飲ませ、調整を施してやらなければ、ATフィールドが解けて、溶けて、死んでしまう。それが何よりも厄介だった。

 

少しずつ教育し、少しずつできなかった事をできるようにしてきた。リツコ自身の負担を少しでも軽くするために。

 

そういった長い長い時間をやり過ごし、それでもまだ終わりが見えない。

 

(結局最期まで、アナタには苦しめられたわね・・・)

 

だから、だろうか。

 

(・・・・・・?)

 

長い時間を共にしてきたリツコだからこそ分かる、レイの無表情に隠れる、僅かな感情。

 

(この子・・・・・・)

 

スカートの裾を掴む、微かに震えたレイの指。

 

(・・・怯えてる?)

 

「赤木リツコ君」

 

ゲンドウの呼びかけに、リツコがハッと顔を上げる。

 

「そうではない」

 

「・・・?」

 

質問の意味がわからない。

 

「私が聞きたいのは、なぜ、『そんな無駄な事』をしたのか、だ」

 

「・・・!」

 

「見ろ」

 

ゲンドウが銃を一度下ろし、自分の右手につけていた手袋を外す。そして、リツコにもよく見えるように掌を前に突き出した。

 

ゲンドウの右手に、気色の悪い胎児が埋め込まれていた。今にも蠢きそうな巨大な目を持ち、尻尾を生やした四足の胎児。

 

第一の使徒、アダム。

 

「すでにアダムは私とともにある。調整によってしか保てない脆弱なATフィールドなど意味を為さない。レイ自身が心の壁を開くだけで終わる。私の望んだ世界が訪れる」

 

ゲンドウが再び銃を構える。

 

「無駄な時間を過ごした」

 

今度こそ、ゲンドウは引き金を引くだろう。

 

(待って・・・・・・)

 

そのゲンドウを前にリツコは、

 

(ちょっと待って・・・・・・)

 

かつてない違和感に襲われていた。

 

(今、この人は、何と言った・・・?)

 

ゲンドウの計画を無駄にするために、リツコは少ない時間の中でレイの調整を実施した。

 

結果として、その策が無駄になったとしても、リツコ自身は構わない。

リツコの想定をゲンドウが上回った。それだけの事。実験には付き物の、よくある失敗だ。当然、その代償はリツコの命によって支払われるだろう。それぐらいの覚悟はしていたつもりだ。

 

だから、そんなことはどうでもいい。今更、自分の命など惜しくはない。

 

問題はそこではない。リツコの違和感はもっと別のところにあった。

 

アダムと共にある?

当然、知っている。その施術をしたのがリツコ自身なのだ。知らないハズがない。

 

脆弱なATフィールド?

確かにそうかもしれない。ATフィールドはATフィールドで中和し、無力化できる。第一の使徒アダムのATフィールドならば、調整用のATフィールドを突破するなど容易い事だろう。

 

そうじゃない、そうじゃないのだ。

 

ゲンドウは『レイが心の壁を開くだけで終わる』と言った。

 

なぜ、レイがそうすると思うのか。

 

あんなに怯えているレイが、(・・・・・・・・・・・・・)なぜ心を開くと思うのか(・・・・・・・・・・・)

 

ゲンドウは、レイが心を開く事を前提に話をしている。レイが拒絶するなどとは微塵も思っていない。

 

 

 

唐突に、リツコは理解した。

 

 

 

この男は、

 

 

 

碇ゲンドウは、

 

 

 

『自分の望んだ通りに物事が進むと信じて疑わない』。

 

 

 

そして極めて厄介なことに、『悪気がない』。

 

 

 

恐らくゲンドウ自身には、自分は身勝手な人間だという自覚があるだろう。

 

だが、そうじゃない。それどころじゃない。

 

外から見ればゲンドウは、ゲンドウが思うよりも何倍も、何十倍も身勝手なのだ。

 

ゲンドウが行動する事で、どれだけ周囲の人間が迷惑を被るか、どれだけ害を被るか、どれだけ傷付くのかが、わかっていない。わかろうともしない。大人であれば当然できるハズの『相手の立場になって考える』事ができないのだ。

 

恐らく、その事をどれだけ丁寧に説明をしても、ゲンドウは絶対に理解しないだろう。なぜなら彼の行動は彼自身にとって『悪いことではない』のだから。逆に問い返してくるかもしれない。『これのどこが悪いのか』、と。

 

かつて、母ナオコからリツコは聞いた事がある。碇ユイはゲンドウのことを「可愛いヒト」と言っていた、と。当時は、いや、今の今までも「なぜ碇ゲンドウを可愛いなどと言えるのか」と疑問に思っていたが、この瞬間に、少しだけリツコにも理解する事ができた。

 

 

 

要は、子供なのだ、ゲンドウは。

 

 

 

それも、とびきり幼くわがまま盛りな、自分を中心に世界が回っていると信じて疑わない子供。

 

それがそのまま大人になってしまったのが、碇ゲンドウなのだ。

 

だから誰も寄せ付けない。自分の思った通りにならないから。

だから誰も寄り付かない。何を言っても無駄だと呆れられるから。

 

そうとわかってしまえば、ゲンドウの普段の態度、行動は、全て小さな子供が一生懸命に威張っているように見えて。

 

ああ、なるほど。

 

そうやって考えれば確かにこの人は、

 

「本当、可愛いヒトね」

 

リツコの口から思わずこぼれた、何気ない一言。

 

それがゲンドウの逆鱗に触れた。

 

「死ね」

 

ゲンドウが引き金にかけた指に力を込める。

 

その時、ゲンドウの服の裾が引っ張られた。

 

「?」

 

ゲンドウが不思議に思い振り返ると、そこにはゲンドウの裾を弱々しく掴むレイがいた。

 

「ダメ・・・碇司令・・・」

 

レイは、自分でも困惑していた。

 

なぜ、こんな事をするのか。

なぜ、碇司令を止めるのか。

なぜ、体が勝手に動いたのか。

なぜ、この胸はこんなにズキズキと痛むのか。

 

そのレイの行動に、今まさに撃たれようとしていたリツコも驚いていた。

 

「レイ、アナタ・・・」

 

「わからない・・・でも、殺しては、ダメ」

 

レイの言葉に、リツコもゲンドウも目を見開いた。

 

 

 

 

 

今、この場にいるレイは、『3人目』だ。

『1人目』は幼い頃、リツコの母に首を絞められ殺された。

『2人目』はつい最近、シンジを助けるために使徒を取り込んで自爆した。

ユイのクローンとして生み出された綾波レイの体に魂が宿ったのは、これで3人目。

 

綾波レイが生まれてから通算で14年。

その間、レイは人間としてのマトモな生活を送ったことがほとんどない。

 

レイの中に宿る、リリスの魂。それに、人間の生活のなんたるかを教育する事に、なんの意味がある?最後は人類補完計画の生贄として捧げられるのだ。無駄な知識や感情など必要ない。必要最低限生きていければ、それでいいのだ。

 

家畜と同じだ。最後はただ屠殺されるだけ。

 

可愛がる必要は無い。本来であれば名前をつける必要もない。ただ呼び方に困るから、記号としての名前が与えられただけ。

 

途中で死んでも構わない。代わりになるモノはいくらでもいる。次の肉体に、ただ魂が宿るだけ。

 

自由に生きることも、自由に死ぬことも許されない。そもそも自由の意味すらわからない。

 

そんな人生を送ってきたからこそ、綾波レイの魂には『感動』が無かった。

 

だが、碇シンジと出会い、レイに少しずつだが変化が生まれた。

 

今まで感じられなかった事が少しずつ分かるようになっていき、レイの中に何かが生まれていた。

 

それは事あるごとに震え、もがき、血を流し、いつの間にか、息づきはじめた。

 

レイの中に、『心』が生まれていた。

 

そして、その『心』は魂に刻まれ、2人目が死んだ後、3人目のレイにも受け継がれていた。

 

レイ自身も気付けないほど小さく、しかし確実に。

 

狂おしいほどに人と繋がりたい『心』。

 

繋いだ絆を失いたくないと願う『心』。

 

それはまるで人間の赤ん坊のような、純粋な『心』。

 

その『心』が、これから起こるであろうことを全霊で拒絶していた。

 

ズキズキと痛み、レイ自身に訴えかけていた。

 

死にたくない。失いたくない。何も。誰も。

 

レイ自身が表現の仕方を知らなくても、レイの『心』は全力で泣き叫んでいた。

 

イヤだ、イヤだ、と赤ん坊のように。

 

「碇司令、ごめんなさい・・・、でも、ダメ。殺しては、ダメ・・・」

 

 

 

 

 

そんなレイを、ゲンドウはどこか冷めた目で見ていた。

 

(この表情、どこかで見たことがある)

 

記憶の中を探る。

 

ユイのものではない。ユイはいつもゲンドウを包み込むような愛のある眼差しで、傷付いたゲンドウの心を癒やしてくれた。決してこんな縋るような表情などしない。

 

(では、誰だ?誰がこんな表情を私に向けた?)

 

そう、この顔。

恐らくは、初号機起動実験の後。

ユイとゲンドウが引き裂かれた後に見たような・・・。

 

そこまで思い出し、ゲンドウは驚愕に目を開いた。

 

「・・・・・・シンジ?」

 

「え?」

 

聞き返したレイの胸ぐらをゲンドウが乱暴に掴む。突然のことにリツコが悲鳴を上げた。

 

「レイ!?」

 

「し、司令・・・、苦し・・・」

 

必死にもがくレイの額に銃口が押し当てられる。

 

「レイ、お前もか。お前も私に縋るのか」

 

あの日。

シンジを置き去りにユイとの再会を誓ったあの日、シンジも同様にゲンドウに泣いて縋った。それを振り切ったからこそ、今のゲンドウがある。

 

鬱陶しかった。

ユイとの再会を果たすため、全てを犠牲にしてでもと覚悟を決めたゲンドウにとって、シンジの泣き声は本当に鬱陶しかった。

 

何故、鬱陶しいと感じたのかはゲンドウ自身にもわからない。だがとにかく、シンジの泣き声はゲンドウの覚悟を大きく揺さぶった。「本当にこれでいいのか?」と自分自身が問い詰めてくるような気がして。

 

「レイ、ATフィールドを解き放て。ユイと再び逢うにはこれしかない。アダムとリリスの禁じられた融合のみだ」

 

ゲンドウがレイをギリギリと締め上げる。

 

「心の壁を解き放て。不要な体を捨て、欠けた心の補完を」

 

「・・・・・・・っ」

 

「すべての魂を、今ひとつに」

 

ゲンドウが拳銃を投げ捨て、アダムの宿る右手をレイにかざす。

 

「い・・・、碇・・・司令・・・・・・」

 

「なんだ」

 

「司令にとって・・・、わたし、は・・・なんですか・・・・・・?」

 

レイの、最期の問いかけ。

この答え次第で、恐らくゲンドウの補完計画の行く末が決まる。

 

「・・・レイ」

 

「司、令・・・・・・」

 

「お前は、私にとっての光だ。ユイへと導いてくれる、希望の光」

 

「司令・・・」

 

「お前は、私の大切な娘だ」

 

ゲンドウの手が僅かに緩む。レイが苦しくないように。

 

「さあ、私をユイの所へ導いてくれ」

 

ゆっくりとゲンドウの右手がレイに近づく。

 

「ゲンドウさんッッ!!」

 

リツコがゲンドウの銃を拾い、ゲンドウに向けて発砲する。

 

しかし銃弾はゲンドウに届かない。

ゲンドウの右手に宿ったアダムが自身のATフィールドを展開し、身を守ったのだ。

 

「レイを離しなさい!」

 

「赤木、博士・・・?」

 

「レイ、よく考えなさい!」

 

リツコが銃を構えながらレイに呼びかけた。

 

「司令が本当に大切だと思っているのはアナタじゃない、ユイさんよ!本当に大切に思っているなら、こんな事を強要したりしない・・・!思い出して!シンジくんは、アナタにどう接してくれた!?」

 

「黙れ」

 

「いいえ、黙らないわゲンドウさん!レイ、よく思い出して!アナタが嫌だと感じたとき、苦しいと感じたとき!シンジくんはどうしてくれた!?そのときアナタは、何を感じていた!?」

 

「黙れっ!」

 

ゲンドウがレイを放り出し、リツコに迫る。

リツコは拳銃で応戦するが、銃弾はアダムのATフィールドにすべて弾かれた。

目前まで迫ったゲンドウはリツコの首に手をかけ、ギリギリと締め上げる。

 

「あうッ!!」

 

「赤木博士!!」

 

レイが悲鳴を上げる。

 

「レイ・・・、私、には、わかる、わ・・・。アナタをずっと、見てきた私、なら・・・」

 

「もういい」

 

「ぐえッ」

 

ゲンドウの手にさらに力が込められる。

それでもリツコは止まらない。

 

「アナタ、は、怖いのね・・・?嫌、なのよ、ね・・・?」

 

「赤木、博士・・・」

 

「思い出し、て。アナタ、の中に、は・・・心が生まれているわ・・・その声を、よく、聞いてっ!・・・・・・うごっ」

 

「黙れと言っている」

 

リツコの体が持ち上がる。リツコの首を支点にして。

絞められた首がミシミシと嫌な音を立てる。

リツコの顔がみるみるうちに青ざめていく。

 

レイは完全に混乱していた。

 

(自分の心?感じたこと?どういうこと?碇司令は?赤木博士は?碇くんは?・・・わからない、何もわからない)

 

このままではリツコが死んでしまう。

 

(でも、どうすればいいの?命令が無ければ私は動けない。それしか知らない)

 

(・・・でもさっき、わたしは碇司令を止めた。命令もないのに。なぜ?どうやって!?)

 

そこまで考え、レイは思い出した。

 

(体が、勝手に動いていた・・・)

 

レイが自分の胸に手を当てる。

 

(碇司令が零号機から助けてくれたとき、ポカポカした)

 

(碇くんと話していたときも、ポカポカした)

 

(今は、ズキズキする。気持ち悪い、イヤな感じがする・・・・・・イヤ?)

 

レイの足が地を蹴った。

 

何も考えない。心の思ったとおりに。

 

ただ勢いだけを乗せて、レイはリツコの体にしがみついた。

 

「おお!?」

 

ゲンドウがバランスを崩し、リツコから手を離す。

その反動で、リツコとレイは地面に放り出された。

 

「げぇほ、ごほッ!」

 

「赤木博士・・・!」

 

「何をしているんだ、レイ」

 

ゲンドウが再び銃を構える。

銃口はレイに向けられていた。リツコが咄嗟に庇うようにレイを抱きしめる。

 

「よく考えろ、レイ。お前が心を開けば、赤木博士は助かる。人類全てに安寧をもたらし、永遠の幸福に浸ることができる。私自身もユイと再会を果たせる。誰も不幸にならない、幸せな世界が生まれるのだ」

 

「そこにレイはいないわ!!」

 

「黙れ」

 

ダンッと銃声が響く。

ゲンドウが発砲し、銃弾がリツコの左肩を貫いた。

 

「ああッ!!」

 

「赤木博士!!」

 

「さあ、レイ」

 

ゲンドウが右手をかざしながらレイに近づいてくる。

 

「全てを一つにする時が来た。私を受け入れろ」

 

ゲンドウの、アダムのATフィールドが展開される。

レイのATフィールドを、無理やりにでも中和するために。

 

 

 

「イヤ・・・・・・。イヤァァあああーーー!!」

 

 

 

レイが拒絶の悲鳴をあげる。

それに同調するようにレイのATフィールドが展開され、

 

「なにッ!?」

 

アダムのATフィールドをかき消した。

その反動はゲンドウの右手のアダムにまで跳ね返り、

 

「ぐあぁッッ!!!?」

 

衝撃が、アダムをズタズタに引き裂いた。

 

「バカな、何故!?何故だッ!!!?」

 

あまりの激痛に、ゲンドウがその場にうずくまる。

 

「レイぃぃいいいいい!!!!」

 

ゲンドウがレイに銃口を向ける。殺意を込めて。

 

その時、

 

 

 

『父さんッッッッ!!!!』

 

紫の巨人が降り立ち、レイとリツコをATフィールドで守った。

 

 

 

つづく

 

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