エヴァンゲリオンANIMA ep. ZERO   作:サルオ

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※サブタイトルは演出上、■■と表記しております。


e,■■

 

 

 始まりはなんでもよかったのかもしれない

 

 

 

 様々な想いがぶつかり合い、砕け散り、淘汰されていく。

 

 

 

 そうして出来上がったのが、今の世界。

 

 

 

 しかしそれは、傷つけ合うことを宿命付けられた世界だった。

 

 

 

 人は決して分かりあうことのできない生き物だ。

 

 

 

 だからこそ、古来より人は神に祈り、赦しを乞う。

 

 

 

 ああ、神さま。

 

 

 

 どうか私たちをお許しください。

 

 

 

 どうか、どうか、私たちを戻してください。

 

 

 

 あなたが作られた楽園へ、と。

 

 

 

 

 

e,狼煙

 

 

 

 

 

「本部施設の出入りが前面禁止!?」

 

 オペレーターである伊吹マヤの声が響く。伽藍(がらん)とした、広すぎる第二指令所にその声が木霊した。

 

 最後の使徒を打ち倒し、その役目を終えたネルフ。当然、そこに勤めていた職員たちの仕事も終わる。

 

 それでも身についた習慣はすぐには消えない。だからこそ、オペレーターである伊吹マヤはいつも通りの時間に起床し、いつも通り朝食をとり、いつも通り、職場である第二発令所に赴いた。

 

 何をするでもない。仕事があるかもわからない。だけどとりあえず出社はする。悲しい日本人の性質(サガ)である。伊吹マヤもそんな大多数の日本人の1人であったわけで。

 

 だから発令所に着いたとき、そこに見知った顔がある事に、日向マコトと青葉シゲルがいた事に、少しだけホッとしたのだ。

 

 そこから交わされるのはただの雑談。天気の話から近頃のニュース、今後の身の振り方など、他愛もないものだ。

 

 そんな会話の流れは、「ネルフ本部施設の今後」に繋がって、今に至る。

 

「第一種警戒態勢のままか?」

 

 同僚である日向マコトも疑問を口にする。

 

「なぜ?最後の使徒だったんでしょ?あの少年が…」

 

「あぁ、全ての使徒は消えたハズだ…」

 

 マヤに答える青葉シゲルの顔も、明るくはない。釈然としない、まだ何が起こるかもしれないという予感を抱き、それをそのまま言葉に乗せただけだ。

 

「今や平和になったってことじゃないのか?」

 

「じゃあここは!?エヴァはどうなるの?先輩も、今はいないのに…」

 

 日向の相槌に、マヤが被せるように問う。

 

「ネルフはおそらく組織解体されると思う。俺たちがどうなるのかは・・・見当もつかないな」

 

 そう答え、青葉はコーヒーをすする。それにつられるように、他の2人もまた。

 

 カップに口をつけながら、日向は思う。

 

(自分たちでねばるしかないのか。補完計画の発動まで・・・)

 

 日向は青葉の抱く懸念を感じ取っていた。それは彼が葛城ミサトとともに、ネルフ、及びゼーレの意図を読み解くために何度も危ない橋を渡りながら暗躍していたためであり、青葉とマヤよりも一歩進んだ「裏の事情」を知っているからだ。

 

 

 

『人類補完計画』

 

 

 

 まだ謎に包まれたこの言葉。

 

 これが何を意味し、どのように人類に降り掛かってくるのか。日向自身、全くと言っていいほど全容を掴みきれていないが、「このまま終わるはずがない」という確信だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 12枚の黒いモノリスが、暗闇に浮かびあがる。

 

「タブリス」

 

 その一枚、「SEELE 01」と刻まれたプレートからゼーレの長、キール・ローレンツ議長の声が響く。

 

「ヘブンズドアを開いたまでは良かったが、最後の最後で我らを裏切ったか」

 

 彼らゼーレがネルフに送った少年にして最後の使徒であった渚カヲル。しかしカヲルは、人類補完計画の完遂を拒み、シンジの手によってその命を落としていた。

 

「彼が最後の使徒であったことは事実」

 

「だが生命の継承者であることはどこにも記されておらん。我々の死海文書の中にはな」

 

 渚カヲルの死は想定外。しかし決して痛手ではない。国連を、ひいては世界を裏から操るゼーレにとって計画の座礁など日常茶飯事。大いなる目的を見失わなければ、そこに辿り着くまでの方法などいくらでも取れるのだ。

 

「もはやアダムや使徒の力は借りぬ。補完は我々の手で行えということだ」

 

 キール議長がそう結論をつけ、

 

「だがその前に、ひとつ忘れてはならぬことがあるぞ」

 

 そこに、02と刻まれたモノリスが「待った」をかける。

 

「碇ゲンドウ。我らに背き、滅びを拒み、自らの補完を目論む者」

 

「彼には」

 

 キール議長がそのあとを引き継ぐ。

 

「死をもって償ってもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今を生きる人々の思惑は複雑に絡み合う。

 

 ただ、幸せを。

 

 同じ願いを持ち、しかし異なる手段を持ってして。

 

「老人たちは、焦りすぎたな」

 

 ネルフ本部、碇ゲンドウの執務室にて冬月コウゾウはそう語りかけた。

 

「無理もない。エヴァ、アダム、リリス。すべてが我々の手の中に揃っているのだからな」

 

 そう答える部屋の主の表情は変わらない。

 

「初号機パイロットはよくやったと思わんかね?」

 

 不意の問いかけ。冬月からの、この意固地過ぎるほどに幸せを追い求め続ける男への嫌味。

 

 それに対するは沈黙。

 

(この男は・・・・・・)

 

 冬月は小さく、ゲンドウにも聞こえないくらいのため息を吐く。冬月にはわかっていた。

 

 碇ゲンドウにとって、第三の少年、碇シンジなど、自らの願望を叶える為のピースのひとつに過ぎない。むしろ、シンジがゲンドウの計画に不可欠な存在でなかったならば、積極的に除外したい対象だったに違いない。なぜならシンジは、ゲンドウにとっての幸せの絶頂期に、まさにふって湧いたような異物でしかないからだ。

 

 だが同時に、シンジが、ゲンドウが唯一愛した女の忘れ形見である事も理解している。シンジをぞんざいに扱う事が、ゲンドウの愛した彼女の意にそぐわないのではないか。そう気にかけてしまうだけの存在であることを、ゲンドウ自身も頭ではわかっているのだ。

 

(臆病にもほどがある・・・)

 

 結局のところ、子供との付き合い方がわからない父親。ただ、それだけのこと。

 

 だからこそ、冬月の嫌味に対してゲンドウは沈黙した。

 

 困るとただ、黙ってしまう。ゲンドウの人並外れた決定力と行動力の裏には、自分自身で敷いたレールの上しか走れない、融通の効かない子供のような部分が隠されている。それを理解している冬月だからこそ、先程の嫌味を言えたのだ。

 

 埒が開かない。

 

 冬月はゲンドウに助け舟を出してやった。

 

「だが、まあ・・・、ロンギヌスの槍を失ったままでは、あの少年がリリスに接触したとしても、補完は不完全なものに終わっていただろうがね」

 

 少しの沈黙、そして、

 

「ロンギヌスの槍・・・そして1番必要なものが欠けていた」

 

 ゲンドウも、冷静に答えを返す。

 

 その視線の先には、

 

「欠けたリリスの心・・・か・・・」

 

 綾波レイが、立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばしの時間を要し、総理大臣官邸にも動きがあった。

 

(遂にきたか、ゼーレ・・・・・・)

 

 全ての真実を知る総理大臣にとっては、まさに苦渋の決断。

 

「NERVが進行させていた人類補完計画。人間をすべて消し去るサードインパクトの誘発が目的だったとは、とんでもない話だ」

 

 真実を知っていたとしても、国を預かる身として、国民の命を危険に晒すことはできない。だからこそ総理の決断は『戦略的な自衛でもってネルフを殲滅する』こと。たとえ、そこに幾許かの、ネルフに勤め、人類を守り続けてきた国民の命が犠牲になろうとも。

 

(時間は与えた。後は君次第だ、加持くん)

 

 ネルフを救う。

 

 あるいはそれは、総理自身の願いだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、加持は・・・・・・。

 

 

 

「全く、なかなかお目にかかれるもんじゃないな」

 

 ネルフ本部を見渡せる、小高い山のうえから、戦略自衛隊が部隊を展開する様を飄々と眺めていた。

 

 いつものヨレヨレのワイシャツ姿。その手には分厚い資料の束が握られている。

 

「戦自はともかく、ゼーレの投入戦力は未知数。だがリッちゃんのおかげで、少しは目がありそうだ」

 

 資料に記されているのは、エヴァンゲリオン『F型装備』の詳細。それまでの汎用型兵器としてのエヴァンゲリオンのコンセプトとは別に、強力なATフィールドを使用する事を軸とした『火力の向上と重装化』、および『ATフィールドを利用した機動力の上昇』をコンセプトに置く、決戦用追加武装である。

 

 これはエヴァ開発の初期段階から練られていた構想で、碇ゲンドウが来たるゼーレとの決裂に備えて密かに赤木リツコに命じて作らせていたものだ。『F型装備』という名称も、既存の空挺降下戦用装備と名称を重複させることでゼーレの目を欺くために付けられた名だ。

 しかし実際問題として、エヴァパイロット達がATフィールドを十分に使いこなせていない事が原因で、この計画はお蔵入りとなっていた。

 

「まっ、それ以外の理由もありそうだが」

 

 加持の読みは正しい。そもそも、汎用人型兵器として武装の自由性を持たせるためと言っても、エヴァンゲリオンは『防御の為の装備が極端に少ない』。1万2千枚の特殊装甲と、ATフィールド。それだけだ。替えの効きづらい兵器であるならば、その機体の損傷を防ぐための防備は最優先されるハズであるし、さらに言えば、それはもっと替えの効かない希少なパイロットの安全確保にも繋がる。

 

(それを敢えて、しない。いくつか予想はできるが・・・・・・)

 

 パイロットとエヴァの神経接続やシンクロ。エヴァを動かすための必須条件であるが、機体の受けた損傷がそのままパイロット自身に跳ね返ってくるのであれば、それはパイロットが生身で使徒と戦うことに等しい。パイロットの安全を考慮するならば、エヴァはもっと重装備であるべきなのだ。

 

(『痛みをパイロット自身に与える』。これ自体が人類補完計画にとって必須、ということか・・・)

 

 だが、今はそれを深く考えている余裕は無い。重要なことは他にある。

 

 加持が手にしているのは当然、機密文書である。その入手経路はさておいて、最も重要なのはその表紙に手書きされた一言。

 

 

 

『武装のみ使用可能』

 

 

 

「やっぱリッちゃんは最高だな」

 

 懐からタバコを取り出し、咥え、

 

(やれる事はやった。ここからは・・・・・・)

 

 タバコに火を着けた。

 

「神のみぞ知る、ってね」

 

 最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 つづく

 

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