原作キャラの誰かですね。
多分わかると思いますが、一応念のため。
遠い昔の、何でもないような記憶の一つ。
それでも。
今なお色あせることなく、ハッキリと思い出すことができる。
何もわからず、知っている人も誰もいない。
不安で一杯だった私に。
あなたと侑ちゃんが差し伸べてくれた手が、言葉が。
どれだけ私にとって温かかったか。
どれだけ私の不安を、恐怖を、溶かしてくれたことか。
……思えばあの時から、多分、私の大事な想いは育ち始めたんだ。
◇■◇■ ■◇■◇ ◇■◇■ ■◇■◇
文字通りの第2の人生を始めて数年。
高咲兄妹は無事、幼稚園デビューを果たしました。
「お兄ちゃん、遊ぼ―!」
そして自由時間。
同じ組の子供たちなど目もくれず、俺のもとに走り寄ってくる女の子が。
綺麗な黒髪をツインテールにした、可愛らしい少女。
愛しい愛しい我が妹、
「わっふ。……侑。一緒の組のお友達と遊ばないの?」
飛び込んできた侑を受け止めつつ、妹の交友関係に配慮する。
だが侑は全く気にした様子はなく。
「えっ? うん! 私、お兄ちゃん大好き! だからお兄ちゃんと遊ぶの!」
――可愛いぃ!!
くっ。
俺の妹、凄い可愛いな。
「そっか。じゃあ遊ぼうか」
そこまで言われたら仕方ない。
兄として、妹の期待には応えないと。
「やったぁ! お砂遊びしよう! それでね、お兄ちゃんとすっごいのつくるの!」
先を行く侑が転ばないか心配しながらも、一緒に砂場へと移動。
そこでは既に他の女の子が数人遊んでいた。
この男女の価値観があべこべな世界では、主に砂場で遊ぶのは女子らしい。
反対に男子は部屋の中でおままごとしていることが多いように感じる。
「ぎゃはは! うんこー、うんこ―!」
「凄い凄い!」
「あはは!」
これまた立派な砂のウンコだこと……。
前世では、こうした下品なことで盛り上がるのは男だったんだけどなぁ……。
せっかく出来たたった一人の妹だ。
侑には、できればこんなことで騒ぐ女の子になって欲しくないが――
「お兄ちゃん、トンネルつくろう! えへへ。それでね、お兄ちゃんとね、反対からね、お手て繋ぐの!」
ぶわっ。
うぅっ、うぅぅ……。
侑、何て素敵な提案をしてくれるのだろう。
俺の妹が可愛すぎる件について。
そうして前世と合わせると精神年齢20代後半ながら。
妹のおかげで、楽しく幼稚園での時間を過ごすことができたのだった。
……ふっ。
おむつと哺乳瓶を経た今、既に越えるべき山は越えてるぜ。
― ― ― ―
「皆。お迎えが来るまで、もう少し先生たちと一緒に遊んでようね~」
男性保育士の優しい笑顔に、園児たちは未だ元気いっぱいに返事していた。
やはり例に漏れず、保育士先生の比率は前世とは逆で、圧倒的に男性が多い。
つまり侑が大きくなったら、初恋の人はこの保育士先生たちの誰かになるのかもしれない。
うぅぅ……普通に辛い。
空が赤くなり、次々と園児たちの保護者が迎えにやってくる。
「お待たせ、
うちの父親も到着。
やっぱりお迎えに来るのは父親が多い傾向にある。
その父は、俺に申し訳なさそうな顔をしていた。
隣には既に侑がいる。
「ううん。お仕事お疲れ様。侑とお父さんと一緒に帰れて嬉しい」
「私も!」
「翔、侑……。うぅぅ、本当、翔も侑も良い子に育って!」
共働きだからねぇ~。
気苦労も疲れもあるだろうし。
俺くらいは少しでも手間かけないようにしますぜ、おやっさん。
― ― ― ―
そうして家族仲良く暮らし、俺もボケーっと幼稚園児プレイを楽しんでいた。
そんなある日のこと。
「……あれ? あの子、どうしたのかな?」
幼稚園での自由時間。
部屋の扉の前、女の子が一人ポツンと佇んでいた。
ライトなピンクにも見える、少し赤みがかった茶髪。
おとなしそうな雰囲気。
誰かと遊ぶでもなくただ立っている姿は、とても寂しそうに映った。
「あっ。
隣にいた侑が、その少女に気づく。
同じ組の子なのか。
話を聞くと、どうやら今日から幼稚園に通い始めた子らしい。
「あの、お兄ちゃん……」
侑の、何かを求めるような目。
俺と歩夢ちゃんを交互に見る。
ただその先は口に出来ないでいた。
……それでも、言いたいことはすぐに伝わった。
いつも侑から俺の元へ遊びに来ている手前、他の子を誘うことに遠慮を感じているのかもしれない。
「――侑。歩夢ちゃんも誘って、一緒に遊びたいんだけど、いい?」
そう告げた途端、侑の顔全体に喜びが広がっていく。
「わぁ! うん! ありがとう、お兄ちゃん!」
嬉しそうに俺の手を取り、歩夢ちゃんの元へ。
「えっと、わっ、あっ、あの?」
いきなり自分の元に来た俺たち二人に、当の本人はとても戸惑い気味。
あるいは不安そうな表情にも見える。
いじめたりしないよ?
僕、悪い転生者じゃないよ?
「僕、
「私は侑だよ」
「あっ……」
自己紹介だとわかり、歩夢ちゃんの警戒心が少し薄れた。
ここぞとばかりに畳みかける。
「お名前は?」
「あっ、歩夢、です。
おどおどとしながらも、言葉を発するたびに歩夢ちゃんの緊張感は溶けていった。
「そっか。じゃあ歩夢ちゃん。今から侑と遊ぶんだけど、歩夢ちゃんも一緒に遊んでくれないかな?」
奥手そうだったので“一緒に遊ばない?”というよりも俺が遊んでほしいというニュアンスで尋ねてみた。
「私も、歩夢ちゃんと、遊びたい!」
侑もつっかえながらも、真っすぐに歩夢ちゃんへと気持ちを伝える。
すると、先ほどの侑のように、歩夢ちゃんに笑顔が広がっていった。
「一緒に……あっ、うん!」
「やったぁ!」
そうして侑と歩夢ちゃんはすぐに仲良くなった。
同性・同い年ということもあり馬が合うようで、俺を置いてけぼりにする勢いだ。
……まぁ、うん。
この転生によって得たリードで、少しでも周りに良い還元ができたのなら。
俺の第2の人生も意味があるのかもしれないなぁ……。
「ごっこ遊びしよう! お兄ちゃんは旦那さん役ね。私、お兄ちゃんのお嫁さんやる! 歩夢ちゃんも一緒にお嫁さんする?」
嬉しいことを言ってくれる。
ただこのあべこべ世界で“お嫁さん”とは、前世でいう“夫婦における夫”程度のニュアンスだ。
子供が言うことでもあるし、だからあまり侑の振った配役に深い意味を考えない方が無難だろう。
「えっ、ごっこ遊び? うぅ~ん……じゃあ私、“あゆぴょん”役やるね!」
あゆぴょん役!?
えっ、何それ!?
俺が内心驚いているのに気づかず、歩夢ちゃんは両手をパーにして頭に持っていく。
そして左右に揺れながら――
「あゆぴょんだぴょん!」
「わ~! あゆぴょんすっごく可愛い! ねっ、あなた」
そうして目を輝かせて同意を求めてくる。
既に役に入っているのか、呼び方まで変わっている。
ごっこ遊びは兄妹の夫婦に、あゆぴょんという謎の激カワ存在が同居する、正にカオスな状況に。
だが今日のこのことをきっかけに。
歩夢ちゃんと侑、そして俺の関係は近しいものとなり、長く長く続いていくことになるのだった。
幼稚園編はこれで終わりです。
次はもう小学生に突入する予定です。
駆け足になりますが、早く高校生まで行きたいので、ポンポン進みます。