とある外星人と禁書目録【シン・ウルトラマン×とある魔術の禁書目録】   作:ジョニー一等陸佐

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第2話 禍特隊

 東京、霞が関。日本を代表する官公庁が集中しこの国の中枢ともいえるこの地域に、禍威獣による災害対策のための防災庁及びその専従組織である禍威獣特設対策室専従班、通称「禍特対」が置かれている。

 その禍特対に新たなメンバーが加わろうとしていた。

 

 「本日付けで、公安調査庁より禍威獣特設対策室専従班に配属されました。浅見弘子です」

 「班長の田村だ。よろしく頼む」

 

 禍特対専従班のリーダーである田村の目の前には新たに配属された女性が立っていた。

 彼女の名前は浅見弘子。

 公安調査庁から出向してきた彼女は禍特対専従班の分析官を務めることになっていたが、もう一つ彼女が配属された目的があった。

 

 「例の銀色の外星人、その対策を本格的に行うことになった。君にはその外星人の分析を行ってもらう」

 

 銀色の外星人。

 浅見が配属される先日、学園都市に出現した禍威獣ネロンガのもとに突如として飛来した謎の巨人。

 その巨人は他の禍威獣とは違い、市街地を破壊して回るのではなくネロンガに光波熱戦を浴びせ爆発四散させた後、再び空中へ飛び去って行った。

 分かっているのはその巨大な容姿のみ、飛行原理、光波熱戦の原理、目的も来訪の方法も不明。

 そんな突如として現れた何もかも不明な存在に政府や関係組織が慌てふためくのは無理もなく。当然のことながらこの巨大な外星人に対する対応が直ちに防災庁及び禍特対に求められた。

 その外星人に対するアナリストに最適であるとして公安調査庁に所属する浅見が抜擢されたのだ。

 

 「他の禍威獣と違って、巨人の行動には知性が感じられた。あくまで印象に過ぎないが」

 「いえ、印象も重要な要素です。分析の参考にさせていただきます」

 

 彼女が椅子に座ると隣に腰掛けていたメンバーの一人、汎用生物学者の船縁が笑顔で話しかけてきた。

 

 「霞ヶ関の独立愚連隊へようこそ~。私は船縁。船縁由美。文科省から出向、汎用生物学専攻の――

 「ついでに加えると配偶者あり。田村班長は防衛省が親元。出向前は防衛政策局に所属。彼は滝明久。城北大学からの嘱託で非粒子物理学専攻。予想通り、職場に自分の部屋を持ち込む所謂オタクね」

 

 笑いながら室内やメンバーを見渡して答える浅見。

 彼女の言う通り、室内には所々にサンダーバードなど昔懐かしの特撮番組のグッズやプラモデルが置かれている。これらはみなメンバーの滝の私物だ。

 

 「さすが公安、個人情報もバッチリね」

 

 称賛の声をもらった後、浅見は目の前の机を見る。そこには寡黙そうな男が座っており、黙々と資料を読み込んでいる。

 この男は作戦立案担当の神永信二。

 警察庁公安部の出身であること以外は、公安調査庁出身の浅見も把握しておらず、彼の秘匿性の高さが伺える。一応、チームの一員として今後浅見と行動を共にすることになる訳なのだが…

 

 「しょっちゅう一人で動くことが多くて、ここにいないことも多いのよ。私にもよく分からないんだけどね」

 「そうなんだ…浅見です、これからもよろしくお願いします」

 

 船縁の言葉にうなずく浅見。単独行動が多い男のようだが、船縁の言葉に非難する様子は感じられず、周りが特に咎めている様子は見受けられない。そういう男だと受け入れられているのだろう。そもそもこの禍特対に配属されている以上、能力はあるといえる。

 それにしても、どうにも無愛想で融通が利かなさそうな男だ。

 浅見のあいさつに気付き神永が顔を向ける。

 

 「神永だ。これからよろしく頼む」

 

 やっぱり無愛想そうだ。

 浅見はため息をついて神永に言う。

 

 「これからチームの一員として一緒に、時にはバディを組んで行動することになる訳だけど。ところであなた、そういうのに一番大事なことって何だと思う?」

 「?」

 

 いきなりの話に首をかしげる神永。

 浅見は続ける。

 

 「仲間やバディとして行動するときに大切なのは連携、そして…信頼が第一。お互い信頼していないとチームとしてうまく連携して一緒に動けないわ。ちゃんと、私があなたのこと信頼して一緒に働けるだけの仕事、してちょうだい?」

 「そうか、分かった。善処する」

 「…本当に?お願いよ?」

 

 資料を見た時から思っていたがやはり融通が利かなさそうだ。少なくともこの男とは難儀するかもしれない。

 そう思い浅見はため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 浅見がそんなことを考えているのとは裏腹に神永は別のことで考えに耽っていた。

 あの銀色の巨人のことだ。

 ネロンガを倒して去ったあの巨人だが、避難済みだったとはいえ、現れたのが市街地だったこともあり目撃者は少なくない。その為ある程度情報の秘匿をしているとはいえ噂は既に広がっている。宇宙から新たなに外星人が現れ禍威獣を倒した、政府か学園都市が秘密裏に対禍威獣の秘密兵器を創り上げた等々。

 正体を解き明かそうと躍起になっている政府や関係省庁と学園都市はもちろん、諸外国もかの巨人に関心を抱いており、特にアメリカ政府からは巨人について情報を提供するよう圧力を掛けられているという話だった。

 その巨人のことでひとつ、神永は引っかかることがあった。

 巨人がネロンガを光波熱戦で吹き飛ばしそのまま空中へ超音速で飛び去った後のことだ。

 校舎に設けられた対策本部が巨人のことや事後処理のことでてんやわんやになっていた頃、避難所に一人の少年が小学生を抱き抱えながらやってきた。

 それは飛翔体――例の巨人が学区内に猛スピードで衝突する直前に、神永が監視カメラの映像内で見かけ保護しようとした、あの避難に遅れたと思しき少年達だった。

 位置や状況からして明らかに衝突の衝撃に巻き込まれていたはずだったが、避難所に現れた二人は小学生はかすり傷程度で、彼を抱き抱えていた高校生の少年に至っては全くの無傷だった。

 避難所に来たのを見かけただけで特にこれといったことはしなかったが、それがどうにも違和感があり、神永は今でもその少年のことを覚えていた。

 ツンツン頭に白い半袖姿の高校生の少年。名前は確か上条といったか。

 しかしその姿と顔は妙に落ち着いた様子で、目は瞬き一つせず無表情で、とても年相応のその姿に似つかわしくない様子で、違和感があった。

 巨人の衝突に巻き込まれ、全くの無傷で、様子も違和感があった。巨人が去った後に現れ…ひょっとして、あの少年とあの巨人は何かかかわりがあるのだろうか?

 そこまで考え神永は己の考えを己自身で否定した。

 いや、まさか。いくら何でも話が飛躍しすぎだ。確かにあの少年に違和感は感じたが、まさかただの少年が禍威獣や外星人とかかわりがあるとは思えない。

 しかし違和感があったのも事実。そしてこういう勘は往々にして馬鹿にできないことも多い。

 …ひと仕事終わったら、昔の同僚に頼んであの少年について調べられないだろうか。

 そんなことを考え、神永は再び書類に目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 御坂美琴という少女は常盤台中学に通う女子中学生である。それも、ただの中学生ではなくこの学園都市では名の通っている少女である。

 というのもまず、この常盤台中学はただの中学校ではなく、学園都市の中でも5本の指に入る名門校であり、世界でも有数の女学校である。

 それだけでもこの御坂美琴という少女がただの中学生ではないことは明らかだが、彼女が名の通っている理由はそこではない。彼女の持つ能力にある。

 超能力の研究・育成機関である学園都市だが、一口に超能力といってもその種類、力量は千差万別である。この学園都市は超能力はその強さなどから5段階のレベルに分けられ、最上位のレベル5こそが「超能力者」と呼称される。そしてこのレベル5は学園都市でも7人しかいない。御坂美琴という少女は7人しかいない超能力者の一人、その第3位であり、故に学園都市において「超電磁砲(レールガン)」の異名で知られているのである。

 そんな彼女だが、目下気に入らぬ(あるいは気になってしょうがない)人間がいた。

 上条当麻という少年である。

 なぜその少年が気に入らぬかといえば、彼女が無視できない力を持っていたからだ。

 彼女の能力は電気を自在に操るというものだが、彼はどういうわけか彼女の電撃攻撃をことごとく打ち消してしまうのだった。何度も攻撃をしても、威力を挙げても、攻撃の仕方を変えても、上条はすべての攻撃をことごとく完全に打ち消してしまう。

 最初に出会ったのはいつだったか、それを知って以来御坂は何度も上条に挑んでは傷一つ付けられないのであった。

 そしてそれが気に入らなかった。自分より強い人間がいるということが。彼女は7人しかいないレベル5の一人であり中学生だ。プライドもあるし、意地になることもある。

 そうして彼に会うたび勝負を挑み結局傷一つ付けられず逃げられる日々が続いていた。そしてそれは今日この日も起こるはずだった――

 

 

 

 

 

 7月末、各学校では終業式や夏休みが始まっている夏のとある日、御坂美琴は学校が終わり、いつもの公園に来ていた。自販機で「メトロン」なる謎の飲み物を買おうとして、なかなか商品が出ず調子の悪い自販機を蹴り上げようとした時、彼女はベンチに腰掛けるツンツン頭の少年――あの上条当麻の姿を見つけた。

 

 「ちょっとアンタ!今度こそ私と勝負してもらうわよ!」

 

 いつものように彼に声をかけ勝負を移動を挑もうとしたところで、彼女は違和感に気付いた。

 上条の様子がいつもと違うことに気が付いたからだ。

 こちらに向けて顔を上げた上条の顔は瞬き一つせず、落ち着いた様子で、もっと言えば妙に無表情だった。

 彼女の知る上条は何かあるごとに不幸だと叫び呟き、何か落ち込んでいる様子を見せ、御坂に会えばビリビリと彼女を呼び面倒くさそうに対応し、かと思えばお節介なところがあり首を突っ込んでくる(そういえば彼女が上条と最初に出会ったのも不良に絡まれていた御坂を上条が助けようと飛び込んできたのがきっかけだったと思う)、そういうどちらかといえば騒がしい人間だった。

 だが今御坂の目の前にいる上条は、御坂の知っている上条ではなかった。

 ベンチにじっと座り、瞬き一つせず顔も無表情で静かな様子だった。

 見れば手には分厚い百科事典を手に持ちを尋常ではないスピードで次々とめくっている。

 上条の隣には分厚い百科事典や哲学書が何冊か積み上げられていた。どう考えても彼には似つかわしくないものだ。

 普段の彼ならこの暑い中汗を流して顔をしかめながら、猫背で歩き不幸だと呟きそうなものだが。

 目の前にいる上条は、自分の知る上条とは全くの別人に見えた。

 

 「…君は」

 

 ここで上条が御坂の顔を見上げながら静かに口を開いた。口調もいつもと違って落ち着いた様子で、その言葉と目は初対面の人間に会った時のような様子だった。

 

 「あ、その…ごめん」

 

 そんな反応は初めてで、思わず謝罪の言葉を口にしてしまう。

 いつもと違う様子、初対面のような反応。別人のような様子に御坂はまるで彼との距離が急に一気に開いてしまったかのような、そんな感覚を覚えた。

 

 「…隣、いい?」

 「構わない」

 

 居たたまれなくなり、かといってそのまま立ち去る気にもなれず、御坂は積まれた本を間にするように、上条の隣に座った。

 

 「…一体、どうしたのよ。いつもと様子が違うけど」

 「図書館に行っていた。資料を借りに」

 「…そう」

 

 淡々とした、ともすれば機械的な受け答えに御坂はどう接すればいいか戸惑う。

 

 「ところで先ほど勝負をしろと言っていたが。君とは敵対関係にあったのか?」

 「え?て、敵対?いや、そういうわけじゃ…」

 「では、なぜそんなことを?」

 「それは…別に…自分より強い奴が気に入らない、というか、なんというか…」

 「?」

 

 いきなり上条の口から敵対関係といういささか物騒なことを言われ御坂は困惑する。

 思い返せば確かに事あるごとに御坂は上条に勝負を吹っ掛けては追いかけまわし、時にはちょっとした騒動になることもあった。そして結局傷一つ付けられず何とか逃げられる、の繰り返し。

 では上条の口から出たように上条と御坂が明確な敵対関係なのか、といえばそうとも言えない。確かに気に食わないといえば気に食わないが、別に御坂は上条のことを殺したいほど憎んでいる訳ではないし、向こうも多分そうだろう。いつも勝負をしているわけでもなくくだらない会話ややり取りをすることもあった。見方によってはある意味じゃれ合いのようなものかもしれない。

 

 「はぁ…もういいわ、なんだかそんな気分じゃなくなっちゃたし。第一アンタ、私のことちゃんと覚えてるの?ほんと、いつもと様子が違うわよ。分厚い哲学書なんか借りて、いつものアンタだったらそこら辺猫背で歩きながら不幸だーなんて呟いてるわよ」

 

 ため息をつきながら御坂は上条に尋ねた。

 瞬き一つしない無表情で落ち着いた様子、初対面のような反応、本当に彼は上条なのか、ひょっとしてそっくりさんの人違いじゃあるまいだろうか。

 そんな風に考える御坂に上条は静かに口を開く。

 

 「…知っている。君が、御坂美琴だということは」

 「へ?」

 「ただ…よくは知らない。君がどういう人間なのか、どういう関係なのか。詳しいことは知らない」

 「…」

 

 御坂がどういう人間なのかは詳しく知らない、という上条の言葉に一瞬、御坂は考え込んでしまう。

 彼は自分のことをよく知らないといったが、そういえば自分は彼のことをどれだけ知っているだろうか。何が好きで、何が嫌いで、家族はどこに住んで何をやっていて…

 知り合いではある。会うたびに勝負を仕掛け時には会話をし…しかし、互いのことをよく知っているかといえばそうではなく、改めてそのことを考える。

 

 「敵対関係でないとすれば、友人か?」

 「へ?友人?いや、まあ確かにアンタとは知り合いの関係っちゃあ関係だけど」

 

 突然の言葉に若干たじろぐ御坂。いつもだったら電撃をスパークさせているところだろうが、先ほどから上条の不自然なほどまでの超然とした様子に御坂は調子を狂わされっぱなしだった。

 それにしても思い返せばいつも勝負を吹っ掛けてくる面倒な相手に対して友人と言ってくれるとは、この男は本当に変わっている。

 もう面倒くさくなった御坂はため息をつきながら言う。

 

 「まぁ、いいわとりあえず友人ってことで…別に嫌いってわけじゃないし。ただ、私より強い奴がいてそれが悔しいっていうか気に食わないっていうか…」

 「友人と言うのは行動や考えを共にする人と理解していいのか」

 「…あんた、本当今日は様子がおかしいわね…なんか宇宙人みたいよ」

 

 一瞬、宇宙人という言葉に上条がピクリと反応した気がした。

 

 「まぁ、意味としては間違ってないけど…友人っていうのはそれだけじゃなくて親しい、互いのことを信頼しているとか、そういうもっと深い関係よ」

 「…そうか」

 

 そこで上条はおもむろに立ち上がり、分厚い本の山を抱き抱える。

 

 「…そろそろ時間だ、一旦家に帰る」

 

 そう言って何事もなかったかのように、呆気にとられる御坂を後にして上条は公園からその場を後にした。

 

 「…ホント、どうしちゃったのかしら…アイツ」

 

 最初から最後まで別人のようだった上条に気がかりを感じながら御坂はぽつりと呟いた。




どう考えても山本メフィラスが幻想殺しや魔術に興味を持つ展開しか考えらえない。

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