とある外星人と禁書目録【シン・ウルトラマン×とある魔術の禁書目録】   作:ジョニー一等陸佐

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第4話 交差、物語の始まり

 第七学区のとある学生寮の一室。

 大して広くない部屋の中で、部屋の主である上条当麻は静かに目を覚まし体を起こした。

 季節は真夏も真夏、部屋には強烈な日光が差し込み、まだ朝だというのに部屋の中はすでに高温で、ジメジメと湿気た空気によってさらに不快さを増している。

 そんな環境とは対照的に、上条の顔は汗をかいてはいるが全く無表情の落ち着いた様子で、室内の環境に不快さを感じている様子は全く見受けられない。

 何事もない様子で冷蔵庫を開け、朝食の準備をしようとする。が、開けた瞬間生ぬるい空気と微かな酸っぱい匂いが漂う。あまりの暑さの影響か冷蔵庫もぶっ壊れ、食材が痛んだらしい。

 傷んだ野菜を見て、しかし加熱すれば食べられないこともないと冷静に考えていた上条はふとそこでベランダの冊に何かが引っ掛かっていることに気付く。

 見ると白い布団のようなものが掛かっている。しかし昨日ベランダに何かを干した覚えはない。

 冷蔵庫を閉じ、ベランダの白い何かに近づく上条。

 ベランダに出ると、上条は白い布団に見えたものが、衣服であることに気付いた。全身を覆うように作られた、白い修道服だ。しかも服だけが引っ掛かっているわけではなかった。

 

 「…お…」

 

 小さい声と共に、修道服の頭の部分がもぞもぞと動く。

 フードの中から現れたのは現れたのは長い銀髪と、エメラルドのような瞳の、非常に整った少女の顔だった。まるでよく精巧に作られた人形のようで、十分に美少女と言って差し支えない顔立ちだ。大抵の男子だったら間違いなくたじろぐだろう。

 

 「…」

 

 上条はなぜかベランダに引っかかっている修道女のような少女を、しかしいささかも動じるような様子を見せずにじっと見つめていた。

 少女の小さい口がゆっくりと動く。何を言おうとしているのだろう。

 

 「…お腹がすいたんだよ…」

 

 少女の口から出てきたのは挨拶でも助けを求める言葉でもなく、食べ物の要求だった。

 

 「そうか」

 

 いきなり出てきた要求にしかし上条は落ち着いた様子で返事をする。そこでつま先に何かが触れるのに気付いた。足元を見やるとそこには未開封の焼きそばパンが落ちていた。

 買っていたのに気づかず、いつの間に放置していたのだろうか。

 まぁ、丁度いい。これを彼女に与えればいいだろう。実際には賞味期限を過ぎて若干酸っぱくなっていたが、「今の」上条には知る由もなかった。

 上条は包装を破り、焼きそばパンをインデックスの口元に近づける。

 瞬間、少女の口が信じられないほどに大きく開かれ、一気に焼きそばパンにかぶりついた。一口で一気に飲み込まんとする勢い、上条がとっさに手を離さなければ右手も嚙まれていただろう。それだけ空腹だったとも考えられるが…

 

 「むぐっ、むぐぐ…ありがとう、ご馳走様!」

 「そうか。ところで君は一体何者だ。なぜそんなところに」

 「あ、自己紹介が遅れたね…私の名前はインデックス。ご飯を食べさせてもらえると嬉しいな」

 「インデックス…」

 

 食べ物の要求はさておいて、上条は少女の名乗った名前について脳裏で探る。インデックス――禁書目録。かつて中世の時代、カトリック教会が危険・害悪とみなした書物の目録の名だ。

 

 「書物の目録が個人名か。変わっている」

 

 そう言いながら、上条はいまだ布団のように引っかかったままのインデックスに歩み寄った。

 今の状態で会話をするのは不便だ。

 

 「今君をそこから降ろす」

 「あ――」

 

 上条が腕を伸ばし左手、そして「右手」、両方の手でインデックスの白い手動服に触れ彼女の両脇をつかみ、一気にベランダから室内の床に降ろした瞬間だった。

 パンッと音がしたかと思うと、それまで彼女の小さい体を覆っていた白い修道服が一気にすとんと落ちた。

 同時に現れたのはインデックスの生まれたままの姿――つまりあられもない全裸姿だった。

 狭い室内に高校生の少年と、いきなりなぜか服が落ち全裸になった少女。

 

 「…」

 「…」

 

 しばしの沈黙が流れる。

 ほどなくして少女の悲鳴が室内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 「すまない。いきなりあのようなことになるとは思ってもいなかった」

 

 騒動ののち、上条は頭を下げて謝罪をしていた。頭には幾重にも噛みつかれた歯形がある。

 頭を下げた先にはインデックスが涙目になりながら脱げた修道服を再び身に包んでその修繕をしていた。

 うまく着付けできなかったのだろうか、修繕といっても実際には安全ピンで布地をつなぎ合わせているだけだ。

 

 「服を貸そう。男物しかないし、サイズは合わないだろうが。それよりはいいだろう」

 「…」

 「…それでいいのか本当に」

 「…」

 「安全ピンで繋げただけだが…」

 「…う」

 「針の筵ともいう」

 「うう~!」

 

 涙目になるインデックス。

 このままでは再度、頭を嚙みつかれかねない。

 上条は再度頭を下げた。

 

 「とにかく、すまなかった」

 「…ふん。もういいもん」

 

 そっぽを向き頬を膨らませるインデックス。不可抗力、事故とはいえいきなり年端もいかない少女を全裸にしてしまったのだ。これだけで済んでるだけありがたいと思うべきか。

 上条はちゃぶ台に座り込みインデックスに話しかける。

 

 「…それで、なぜベランダに引っかかっていたんだ。なぜあんなところに」

 「…私、実は追われているんだよ」

 「追われて…」

 

 追われているとは、どうやら物騒な事情がありそうだ。ベランダに引っかかっている時点で尋常でない事情があることは察せられたが…

 

 「誰に?」

 「魔術結社だよ」

 

 魔術。インデックスの口から出てきたのは、この科学文明が発達した現代社会において非常に非現実的なものだった。

 

 「魔術師に追われているの…」

 「魔術…」

 

 上条は考え込む。

 魔術。その定義は様々なものがあるが、仮定上の神秘的な作用によって何かしらの不可思議な現象や技を為すもの、営み。そしてはるか昔の時代本気で探求され、科学文明が発達するにつれておとぎ話や空想の産物として忘れ去れらていった、非現実的なもの。

 それが上条の魔術に対する認識だった。いや、この世界に住むほとんどすべての人間、特に科学の発達した学園都市の人間は魔術という言葉を聞いただけでその存在を笑い飛ばし否定するだろう。

 そうした事実が彼女に分からないはずがない。

 

 「信じていない顔だね?」

 「仮定上の神秘的な作用によって何かしらの技を行うもの、と聞いている。そして空想の産物だとも」

 「でもちゃんと魔術はあるもん」

 「ここは超能力を開発する街だ。君も、何かしらの超能力やその開発に関係していて、それを魔術と呼称しているのか?」

 

 上条の推測にインデックスは首を振った。

 

 「…そういうのとは別。魔術と超能力、科学は根本的に違うの…とにかく、魔術はあるもん」

 「そうか」

 

 あくまで彼女は魔術の存在にこだわるようだ。

 

 「証拠もちゃんとあるもん。例えばこの修道服。『歩く教会』っていって。特別な魔術的な方法で作られていて、外部からの攻撃やダメージを防いでくれるんだよ…さっきなぜか脱げちゃったけど」

 

 インデックスの言葉に上条は己の右手を見つめながら呟いた。

 

 「イマジンブレイカー…」

 「…へ?」

 「…私の右手はどうやら『幻想殺し』といって、超能力などいわゆる『異能の力』を無条件で無効化する、らしい。さっき君の体に触れたとき服が勝手に脱げたのもそれが原因かもしれない」

 「…それがあなたの『超能力』ってもの?」

 「…分からない。ただ、自分の右手がそういう能力があると知識で知っているだけだ…」

 

 再び両者の間に沈黙が流れる。

 上条は再度インデックスに向き直った。

 

 「それで、魔術結社は何を狙っているんだ」

 「それなんだけど…多分、私の持っている十万三千冊の魔導書だね」

 「魔導書…どこに」

 

 見る限り彼女はほとんど完全に手ぶらだ。書物一冊どころか紙一枚も見当たらない。

 いったいどこに十万三千冊という途方もない書物があるというのか。

 だが彼女の答えは斜め上を行くものだった。 

 

 「あるよ?私の頭の中に」

 

 頭の中。

 その言葉をそのままとらえるとしたら――

 

 「…すべて記憶しているのか。十万三千冊の書物の内容を」

 

 上条の言葉にインデックスは頷いた。

 

 「完全記憶能力って言ってね。一度見たことは忘れないの。それこそ、難解な魔導書から今日見た適当なチラシまで。あなたの顔も、一度見たからもう忘れることはないんだよ」

 

 上条は再び考え込んだ。

 いきなりベランダに引っかかっていたインデックスと名乗る修道服姿の少女。彼女を追う「魔術師」。彼女が脳内に完全に記憶しているという魔導書。

 朝から、信じられないような出来事ばかりだ。

 果たして彼女の言葉をどこまで信じ、どう解釈すればいいだろう。そしてそれに対して自分はどう動くべきか――

 そこで上条はふと時計を目にしてあることに気付いた。

 …今日は補修の時間だ。早く高校に行かねばならない。

 上条は立ち上がる。

 

 「…すまないがそろそろ時間だ。用事がある…君はこれからどうする」

 

 追われている、という彼女の言が事実なら警察などしかるべき機関に保護してもらうべきだろう。

 しかし彼女は首を横に振って言った。

 

 「ううん…出ていくから」

 「何故?」

 「さっきも言ったように私のこの修道服は特別だから。この歩く協会が発する魔力を察知して追手が来るかもしれない。…そうなったら、あなたにも危害が加わるかもしれないから」

 「しかし…」

 「ううん、いいの。迷惑を掛けたくないし…それに行く当てがないわけじゃないの」

 

 二人は一緒に玄関から出る。

 

 「私はイギリス清教のシスターだから、その教会にさえたどり着いたら匿ってもらえるから」

 「それまでに君が追手に追いつかれる可能性もある。下手に動くより、それまで別の治安組織に駆け込むべきだろう。少なくとも、君をこのまま放っておくわけには」

 「なら」

 

 インデックスは振り返って上条の顔を見た。屈託のない、きれいな笑顔で。

 

 「…私と一緒に、地獄の底までついてきてくれる?」

 「…!」

 「…無理、だよね?とにかく、あなたにこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかないから」

 

 過酷な事情を抱えているであろう彼女はしかし笑顔を崩さぬままに続けた。

 

 「ご飯ありがとう!この恩は一生わす…いつか必ず返すから!」

 

 そのまま彼女は駆け足でその場を去っていった。

 

 「…」

 

 上条がはただ静かに立ち尽くし、彼女の背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 午後、夕焼けの時間帯。

 日が西へと沈み、それがオレンジ色のグラデーションを見せる中、上条は公園のベンチで静かに百科事典や哲学書を読み込んでいた。

 担任の先生や同級生が「上条ちゃんいつもと様子が違うのです」「か、上やんが女に全然見向きもしないやと…?」と慌てるなどひと悶着あったが、補修自体は無事に終わった。

 素早く次々と書籍のページをめくる一方で、上条の脳裏にはあのインデックスという少女のことが引っかかっていた。果たして彼女は今頃どうしているのだろうか。無事でいるのか。そもそも彼女の言う魔術や魔導書は結局事実だったのか。

 書籍の内容を頭脳に収める一方で、少女のことを考えている最中、ふいに上条の耳に声が響いた。

 

 「相変わらず精が出るわね、アンタ」

 

 顔を上げる。見覚えのある少女が立っていた。

 短髪に常盤台中学の制服。

 御坂だ。

 

 「…君か」

 

 上条の隣に座りながら御坂は口を開く。

 

 「ここ最近、よく本ばっかり読んでるわよね、アンタ…いつものアンタだったら猫背で歩きながら不幸だー不幸だ―なんて言ってたはずなのに、いったいここ最近どうしたのよ。アンタらしくないわ、ホント」

 

 上条は立ち上がりベンチのすぐ近くにある自販機で「メトロン茶」なる飲料を購入するとそのまま静かにベンチに座り茶をすする。

 その様子に御坂はため息をつきながら言った。

 

 「アンタねえ…ここ最近暑いんだし、『君も何かいらないか』って言って一緒に飲み物買ってきて渡したりするなりなんなり、気遣いをするもんでしょ、ここは」

 

 別に御坂としては本心からねだっているわけではなく、最近様子のおかしい上条を小突くぐらいの感覚で言ったのだが、上条の返答は彼女の予想を斜め上に上回っていた。

 

 「…我々はそれぞれが一個体で完結している。それぞれの個体が己の目的のために行動するべきだろう」

 

 その言葉に御坂はさらに深いため息をついて言う。

 

 「アンタねえ…まさか、私は個人主義者ですとか一人で十分生きていけますとかいうつもり?残念だけど人は社会的な生き物で、一人じゃ生きていけないのよ。アンタの飲んでいるお茶や、アンタや私の着ている服だって誰かが作ったものよ。人は社会を作って、助け合って生きているの。分かる?」

 「そうか…それが群れか」

 「…なんか最近のアンタ本当に変わったわね…宇宙人と話している気分よ」

 

 そうしている間にも上条は再度自販機に立ち寄ると「メトロン茶」をもう一缶購入し御坂に渡す。

 

 「え?あ、ありがとう…ていうかそういうわけであんなこと言ったつもりじゃ」

 「ありがとう。今日も勉強になった」

 

 そう言いながら上条は書籍を鞄に入れる。

 

 「そろそろ時間だ。それじゃあ」

 

 そう言って公園から立ち去る上条の背中を御坂は唖然とした様子で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 夕暮れの中、上条は家である学生寮に向かって静かに家路を歩いていた。

 脳裏にあるのはやはり今朝のインデックスとのやり取り。

 彼女を追う「魔術師」、狙いである彼女が記憶しているという十万三千冊の魔導書、歩く教会…ふと彼はそこで自分の右手を見つめた。

 幻想殺し。異能の力なら無条件で無効化する…という能力を持った右手。その「事実」「知識」自体は「今の」上条は知っていた。だが、それに関連する「経験」を今の上条は持ち合わせていなかった。その右手を使ってどんなことをしてきたのか。どんな経験をしてきたのか。それが欠落していた。

 …いや、これまでの「経験」の記憶自体が、そして自身の人格についての記憶自体が「今の」上条には欠落していた。

 どんな人生を送ってきたのか、どんな思い出があるのか…そもそも上条当麻がどういう人間だったのか?そうした「経験」の記憶があまりにおぼろげなものとなっているのが今の上条当麻という人間の状態だった。

 記憶が欠落し曖昧になる前、この上条当麻という人間はもともとどういう人間だったのだろうか?この右手でどんな経験をしてきたのだろうか。

 「今の」上条は己の右手を見つめながらそんなことを考えていた。

 ふと、上条の鼻腔に何かが突き刺さった。

 …鉄の錆びたような臭い。

 …血の臭いだ。

 上条は臭いのする方を見る。

 自分の住む学生寮。そこから血の臭いが漂っている。

 瞬間、上条は学生寮に向かって駆け出していた。

 学生寮の建物が見えてきたところで、その道路付近に誰かが立っているのが目に入った。

 建物の陰に隠れて様子を伺う。

 三人の人物が対峙していた。

 その中に上条にとって覚えのある人物がいた。インデックスと名乗った、あの白い修道服の少女。その彼女が道路にあおむけに倒れている。…背中に大きな切り傷を負い、大量に出血しながら。臭いの正体はこれだったのだ。

 その彼女の盾になるように黒いスーツ姿の男が拳銃を構えている。

 その先には身長二メートルはあるだろう、高身長の黒い牧師か神父のような服に身を包んだ、赤い長髪に煙草をくわえた若い男が立っていた。

 拳銃を構えた男が何かを言っている。

 

 「お前が…彼女を…したのか?」

 「あーあ、こんなに…しちゃって。面倒なことになる前に回収したいんだけど…」

 

 拳銃を構えるスーツの男、飄々とした様子の長身の男。

 やり取りはよく聞こえないが、回収、などといった言葉やその様子などから考えるに、長身の男がインデックスの言っていた「追手」で、彼女に危害を加えたのかもしれない。ならば拳銃を構えている男は…

 上条はポケットに手を突っ込んだ。

 ポケットから右手を取り出した時、その手には金属製の棒が握られていた。レーザーポインターほどの大きさの金属棒の先端付近には赤いガラス玉のようなものとスイッチのようなものがある。

 この時点ですでに上条は。

 黒い長身の神父のような男がインデックスに危害を加えた人物、追手であり。そしてスーツの男はインデックスを守ろうとしているのだと、そして守るべきはインデックスとこのスーツの男だと判断していた。

 

 

 次の瞬間。

 長身の男が何かを呟いて炎が生まれ、男とインデックスに襲い掛かろうとするその直前。

 上条は金属棒を握った右手を掲げてそのスイッチを押し、その体が光に包まれた。

 

 

 

 

 

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