暁の水平線に戦い続ける歓びを 作:相浦鎮守府提督
提督が鎮守府に着任するまで、相浦鎮守府を守れ。具体案も何もない、ただ死ねと言わんばかりの命令だった。
ろくな整備もされず、まともな武器さえもらえず。私は私と同じく初陣の駆逐艦を大勢引き連れて西へ向かう。道中の敵はただひたすらやり過ごし、一心不乱に相浦を目指した。初陣で、練度も生まれたばかりと大差ないこの艦隊が佐世保を落とした戦力と勝てるはずがないのだ。
思えば、私の揺らぎに揺らいでいた長門型戦艦一番艦やら、聯合艦隊旗艦やら、ビッグセヴンやらの自尊心は、この時崩れ去ったのだろう。戦艦の分際でありながらコソコソと海を這い回るのは、艦だった頃の私が見たら許さないのは明白だ。
訓練どころかほとんどの経験を失って生まれてくる新造艦娘が全員相浦にたどり着けたのは奇跡だった。資源満載の動力すらない急造コンクリ輸送船を曵いて、20もの駆逐艦が密集していれば、敵艦載機から丸見えだったはずだ。
矢坪島を南から回り込み砂浜から上陸し、廃止され長らく人の手が入っていない相浦「発電所」の様子に、しかし私は落胆などしていなかった。鎮守府とは名ばかりの廃墟に配備が決まった段階で、私達は軍令部に対し何らの期待もしていなかった。かつて流行った捨て艦戦術のようなものだろう。佐世保が陥落した今、せめて敵の目をここ相浦に向け、時間を稼ごうという魂胆は見え見えだった。
妖精さんに指示されるままコンクリ輸送船を砂浜に引き上げ、資源の偽装が始まる。目立つ5つの巨大な石油タンクではなく、もう動くことはないボイラーの中に燃料のドラム缶が搬入される。弾薬箱が屋内開閉所に運び込まれる。高速修復材はおろか、鉄やボーキサイトは無い。被弾したらそれまでだ。
手伝っている駆逐艦は皆辛そうな顔を……いや、辛いのだろう。艦の魂はあれど、その力を引き出す経験、思い出す記憶があまりにも足りない。もともと艦だった魂を艦娘という型に最適化することで、私達は深海棲艦に対抗するのに充分な力を発揮できる。しかしここにいるのは、ちょっと人より力の強いだけの、歳相応の少女にすぎない。慣れない航海と、敵に見つかるかもしれない恐怖と緊張で心身ともに疲れ切っている。私は戦艦だからこその頑強さでさほどではないが、できる限り早く彼女らを休ませなければならなかった。
ドラム缶を運ぶ駆逐艦の傍らで、まだ満載のコンクリ船の曳航索を何本か束ねて引きずり運んでゆく。少しでも早く終わらせて、少しでも駆逐艦の負担を軽くしなければ。この鎮守府は敵地も同然だなのだ。いつ襲撃が来るかもわからない。
誰もが黙々と動いている。無駄口を咎める気はないが、咎めるまでもなく諦観漂う中で最低限の会話を進めていく。士気は限りなく低い。
一通り作業が終わり、妖精さんの作業だけが残っている。私は事務的に休憩と見張りの順番を決定し、駆逐艦に休息を命令する。8時間ほど私が見張りをしたら、第11駆逐隊に交代する予定だ。その後は4時間ごとに交代だ。
哨戒に出せる燃料も練度もないため、鎮守府から見える範囲だけの見張り。いつ来るかもわからない提督のために、節約しなければならない。艦隊には、敵が襲撃してきても、燃料節約のために地上からの砲撃で対処することを告げた。
ボイラー建屋を上る。錆びついて虎ロープで封じられた階段やカラーコーンで区分けされたグレーチング床を避ける。区分けされたのは廃止当時以前とずいぶん昔であるため、この他にも穴が空いた床や崩れる階段もあるかも知れなかったが、妖精さんが案内してくれた経路でなんとか、この鎮守府で最も高い場所にたどりつく。流石にこの状態で煙突に上るのは憚られた。
日も沈み真っ暗だ。かつては人家の灯りで彩られていただろう風景だが、今は人間はおらず、電気も通っていない。
「ここは発電所なのにな」
状況に皮肉を感じ、独りごちた。
日が昇るより前に第11駆逐隊に交代した。眠れていないのか、あまり元気そうに見えなかった。深雪でさえどんよりとした雰囲気を纏っている。吹雪は元気そうに振る舞ってはいるが、「お姉ちゃんなのでしっかりしないと」と物陰でずっと呟いていたのを知っている。
さすがに疲れた。処女航海とはこのように辛いものだっただろうかと考えるが、艦だった頃の記憶はまだ戻っていないためわからずに終わる。
駆逐艦たちはサービスビルやタービン建屋に駆逐隊ごとに別れて寝床を確保している。私は中央制御室を駆逐艦たちから勧められた。比較的いい部屋なので、旗艦である私が使うべきだと。入ってみると、きれいに掃除がされており、鉄骨でできたベッドが置いてあった。妖精さんがドヤ顔で立っていた。
「ありがとう。駆逐艦たちにも礼を伝えておいてくれないか」
妖精さんは命令や指示がなければ動かない。駆逐艦たちに頼まれたのだろう。ここまでしてもらう程の理由が、私にはあるのだろうか。
せっかくの好意である。使わないのも失礼だと思い、ベッドの上で寝袋に包まった。
爆発音で飛び起きた。既に日が昇るどころか沈みつつある。情けないと思いつつ外に向かう。遂に敵襲が来たのだと覚悟を決めた。今日、私はここで死ぬ。
外に出ると、また爆発音。ボイラー建屋の方から熱風を感じた。燃料がやられたと確信する。もう私達は海に出ることさえできない。
「見張りはどうした!」
「敵艦載機が佐世保方面から低空で飛んできました!」
「なっ……」
朝潮の報告で、私は過ちを理解する。私達は海ばかり見ていた。敵が来るなら海からだろうとタカをくくっていた。ここは佐世保から10kmも離れていないのだ、たとえ陸路で敵が現れたとしても何ひとつおかしくない。航空機ならなおさらだ。見張りに立っていた第八駆逐隊を咎めるのは筋違いだった。
「対空攻撃用意! いや、準備できしだい敵機に攻撃しろ!」
「敵艦隊発見!」
「なんだと!」
大潮が煙突の方から走ってきた。佐世保からの航空攻撃と、海からの攻撃。最悪の挟撃だ。
「敵は、えっと、イ級3、ヲ級1、ル級2! 距離45000!」
「45000? 水平線の先だな。どうやって見つけたんだ?」
「煙突のてっぺんで満潮ちゃんが見つけました!」
まさか、あの危険な煙突を上るとは思わなかった。しかし、なぜ大潮は無線通信を使わないのだ?
「伝令でなくとも無線通信すればいいだろう?」
「無線ですか? ……ああ! 無線ですね! 使ったことがなかったので忘れてました!」
「満潮もか?」
「はい! 私に伝令をお願いしてたので!」
出撃経験がないということは、艦娘としての機能を使ったことがないということだが、まさかここまでひどいとは思わなかった。
「朝潮も、か」
「は、はい!」
申し訳なさそうな顔で、しかしはっきりと肯定する。生真面目すぎるきらいのあるこの娘は、曖昧に返事をすることができなかったのだろう。
「荒潮はどうした?」
「ボイラー建屋から脱出したあと別れて、正門で対空戦闘をすると言っていました!」
単独でか! と叫びそうになった。取り乱すべきではない。何をすればいいか、冷静に考えなければならない。
『総員戦闘用意! 開閉所前に集合!』
とにかく応戦するのが最優先だ。無線通信で呼びかけると、混乱した声が返ってきた。やはりほとんど、あるいは全員が無線通信のことを忘れていたようだ。
艤装を取りにタービン建屋に向かう。広い場所がある一階と二階を仮工廠兼仮船渠としている。艤装もそこに置いてある。数人の駆逐艦が艤装を装備しようと苦戦していた。
『満潮。佐世保からの敵は見えるか?』
『なにこれ⁉ 長門さん? あっ、電波通信ね! 返信はどうやって……』
『大丈夫だ、聞こえている。そのまま話してくれ』
『はい! 佐世保からの敵は見えないわ! 海の方の敵に向かってる! 空母で補給してまた攻撃するつもりかもしれない!』
飛んできた佐世保からではなく、より近い襲撃艦隊に向かい、反復攻撃を仕掛けるのは合理的だ。一度奇襲に成功したら、佐世保から攻撃する意味はあまりない。
『敵機発艦! 爆装してる!』
『朝潮! 大潮! 敵機が来る! 迎撃用意!』
『了解!』
『了解!』
『荒潮、もう佐世保から敵は来ない! 開閉所前に来い!』
『わかりました〜』
『満潮はそこで敵を見張れ! 攻撃せず、目立たないようにしろ! 佐世保からの敵にも注意しろ!』
『了解よ!』
他の駆逐艦が建屋からやっと出てきた。
『敵機が来るぞ! 急げ!』
了解の旨がバラバラに返ってくる。
『長門さん!』
無線の使い方を教えなければならないな。この声は吹雪だろうが、似たような声の多いこの鎮守府では、誰が送っているかわからなくなることもあるだろう。
『どうした』
『深雪ちゃんの艤装が出口に引っかかってはずれないんです!』
頭を抱えた。艤装を装備したまま人用の出入口を使ったのだろう。もし次があれば、対策をとらねばならんな。
『とにかく他の出口を使え! 深雪は艤装を外して脱出できないか試してみろ!』
『はいっ!』
私は既に生き残ることを諦めていた。最後まで足掻くつもりだが、ここで我々が犠牲となろうともならずとも、大した意味はない。この鎮守府に戦力があるだけでいい。十中八九全滅するだろうが、そうなったとしても他の拠点となり得る場所に戦力があるかもしれないと敵に思わせることができる。意味が見いだせない戦闘に士気は保てない。私がなおも足掻こうとするのは、最後の希望、軍令部が約束を違えず提督を派遣し、駆逐艦が生き延びる可能性にまで運命を繋ぎたかったからだ。
「大丈夫だ。私は運がいい」
自らに言い聞かせる。相浦鎮守府までの航海で、接敵も落伍もなかったのだ。
「やれるんだ、私は」
零式水偵を上げる。ここからでは到底見えない。敵艦隊は水平線の向こう、水偵が落とされたら、満潮からの敵位置報告で間接照準射撃するしかない。ボーキサイトは無いため水偵の補充はできないが、ここでケチるつもりはなかった。
艦載機からの視覚が共有され、一瞬で酔ってしまった。訓練や経験を積めばこれにも慣れるのだろう。吐き気を堪え、敵位置と距離を測る。やたらと正確な距離と方位がわかるのが、妙にちぐはぐだった。
『弾薬は使い切るつもりでいい! 弾を惜しむな!
弾薬は大盤振る舞いでいこう。出し惜しみして当たるような練度ではない。
敵が射程に入るまでしばらく時間がある。初めての砲撃、初めての戦闘に不安ばかりが募る。弾はどのように飛ぶのだろう、どのように狙えばいいのだろう。少しでも到達を遅らせるために牽制射をすべきか、それともこのまま直進させたほうが当たるのか。何一つわからない。撃ちながら覚えていくしかないのか。
『長門さん、そろそろ射程よ』
『わかった』
満潮からの報告で我に返る。優柔不断に悩んでいたせいで、随分と時間を無駄にしたようだ。幸い、駆逐艦が敵機を何機か落としていた。
とりあえず撃たないことには始まらない。
「撃ェ!」
私と、敵の発砲炎が見えて32秒後、砲弾は互いの遥か手前に落ちた。
相手は戦艦の速度に合わせて蛇行し始めた。2斉射目は敵の後方に落ち、3斉射目は全く見当違いの場所に落ちた。敵の進路など予想もできない。たった3回の砲撃で、私の砲撃は当たらないと理解してしまった。
幸いなのは敵の砲撃も当たらないことだ。陸上にいて魚雷の使えない駆逐艦は脅威と見られていないのか、敵弾は榴弾ではないようだ。私は動いていないというのに、全く当たらない。
そういえば、敵艦載機も駆逐艦相手にほとんど攻撃できていない。密度だけはある対空砲火でうまく爆撃体勢に入れないようだ。
もしや――敵も練度が高くないのか?
「司令官!?」
「なんだと!?」
耳を疑った。対空機銃の音に紛れて空耳を聞いたのだとさえ思った。こんな状況で、提督が来るはずはないと、そう思っていた。
砲撃を中断してそちらを見る。白い第二種軍装が妙に似合わない男が、呑気そうに手を振っていた。
提督は吹雪を呼び、なにかしらのやり取りをしたあとこちらに来た。
「司令官! 戻ってください! 危険です!」
「連中はヘタクソな上APだ! そうそう当たらん! 吹雪はとにかく弾を撒け!」
吹雪に呼び止められるが、堂々と歩いてきた。状況判断も吹雪への指示も的確だ。いくら確率が低いとはいえ、砲撃下に出てくる胆力もある。呑気そうという評価は撤回せねばならんな。
「長門! ちょっと私の言うとおりしてみてくれ! ものは試しだ!」
提督が戦闘の現場に出るのは、異例中の異例だ。大戦中はともかく、今では鎮守府から出ることもなく、大雑把な命令をして艦娘に任せるだけだ。提督になにかあれば、鎮守府の指揮系統が崩壊するからだ。
「こんな状況だがよく来てくれた! 何か手があるのか!?」
「敵位置はわかるか! できるだけ詳細にだ!」
「水偵をあげた! 煙突に見張りの満潮もいる!」
「上等! 主砲の照準を任せろ! 発射も私の合図通りに撃て!」
提督が砲術をするとは。現代では電算機頼りで、砲術のできる人間など絶滅したかと思っていた。
「面白い! では任せる!」
私がいくら撃ったとしても当たる気はしなかった。たとえこの提督が砲術素人であろうとも、私が狙うのとあまり変わらないのだ。正直なところをいうと、この提督の提案には半信半疑どころではなかった。
しかし、この状況で逃げずにこの場に出てきた男を無下にはできなかった。
もはや敵は蛇行せず一直線にこちらに向かっっている。水偵から見える距離と速度、角度を報告すると、より細かな数字を要求された。
そっと、硝子細工を歪めるような手付きで砲身に触れられた。繊細な力加減で砲身に力が与えられ、私はそれに抗えなかった。
そんな折、不意に上空からの視界が消える。
「くっ、水偵が墜とされた!」
「問題ない! よし、斉射ァ!!」
唐突だった。動揺する隙も与えられない。
「ッ射ェエエエエッ!!」
何かが違った。不思議な感覚だった。水平線の先にいる敵艦隊が明確に見えていた。飛んでゆく砲弾の軌道も。
「あー、すまん、誰か命中確認してくれ」
緊張感のない、無粋な声で白昼夢から覚めた。いや、あれは白昼夢だったのか? もう一度、もう一度やれば……
「長門、撃つな。着弾まで待て」
無意識にもう一回撃とうとしていた。同じ角度で撃っては当たらない。提督の制止はありがたかった。
「弾着観測か。しかしここからでもわかるのか?」
「まぁ見てろ」
言われたとおり、敵がいる方を見る。やはりここからでは見えない。さっきのは錯覚だろうか。
『吹雪、満潮よ。聞こえる?』
「こちら吹雪!」
『信じられないわ。全弾命中、頭に当たってる』
「命中!? 全弾命中です! しかも頭に!」
「は?」
「なんで?」
吹雪の報告で、満潮からの観測が聞き間違いでないことがわかった。
しかし、なぜ提督がそんな不思議そうなのだ。全て頭に命中させるなど、狙ってできることではないが、偶然で当たるものでは決してない。
「駆逐イ級……3隻轟沈! 空母ヲ級1隻速度低下、沈んでいきます! ル級2隻……大破!」
「ル級の腹にはあたっておらんか」
「はい……盾部に弾痕を確認しました!」
なるほど、胴を狙ったのか。戦艦はそう簡単に沈まない。頭だけ狙うより、数箇所に被弾させたほうが確実性が増す。しかし、ル級の持つ盾と主砲の組み合わさったような艤装は、最も装甲の硬い部分であり、零式通常弾では大した被害が出なかったのだろう。九一式徹甲弾であれば抜けたかもしれないが、ないものねだりをしても仕方がない。
「長門、今の感覚、わかるか?」
提督に問われた。今の感覚、あの、白昼夢のような敵と弾道の幻のことだろうか。
「ああ、なんと心地よい砲撃だ……胸が熱くなるな……」
嘘偽りなく答える。敵を沈めることではなく、的に当たる快感。弓道や射撃競技が廃れない理由が理解できたかもしれない。私でも当てられる。当てられるのだ。
「残り2隻、いけるか?」
「やって見せてくれたのだろう? これで動かねば長門の名が泣く」
「言って聞かせずともやってくれるとはな」
水偵は墜とされ、敵の挙動は満潮の報告のみ。しかし、今の私にはそれで充分だった。提督は、私に期待してくれている。
つい先程まで、提督がなぜ必要なのかわからなかった。遥か陸上の鎮守府で大雑把な命令を下すだけの存在ならば、提督が相浦鎮守府に来るはずもないのならば、いっそのこと艦娘だけで鎮守府を構成してしまえばいいとさえ考えていた。艦隊が出撃したら、提督には祈ることしかできない、などと聞いたことがあるくらいだ、ならば鎮守府の弱点となる頂点に人間など置くべきではない、と。
しかし。この提督に期待され、信頼され、任せられる。なんという高揚感、全能感だ。今ならなんだってできる気がする。誰にだって負ける気がしない。
狙うべき場所を思い浮かべることができる。提督の愛撫するかのような射角調整を思い出す。
「射ェ!」
当たった。何十秒も先の事なのにそれがわかる。しかし、これは……
「……違う、こうではない」
あの感覚がなかった。敵が見える、白昼夢のような光景は見えず、防風林が見えるだけだ。
「外したか」
「いや、当たる確信はあるが、違うのだ」
よほど奇妙な顔をしていたのだろう。提督が訊くが、私はなんとも曖昧な答えしか返せなかった。
「命中! 命中です! 敵ル級の主砲に誘爆! 轟沈です!」
ただ、吹雪の戦果報告がとても嬉しかった。
駆逐艦が残った敵艦載機を次々に落としていた。提督が「ちょっと」教えるだけで、ここまで劇的に変わるものなのだろうか。
提督は疲れ切った表情で座り込んでいる。なんでも、松浦から徒歩でここまで来たのだという。私はその傍らで、いざというときに備えている。
「散々な初陣だったな」
「長門もか」
長門『も』。まさか、提督も初陣だというのか。
「私は余り物でな、建造されてからこのかた一度の出撃すらさせてもらえず解体を待つばかりだと思っていた」
「彼女らもか」
「駆逐艦は特に余るのだ。最近では、竣工即解体が通例だな」
「捨て艦に捨て提督か。つくづくここは時間稼ぎの捨て石なんだな」
その言葉からは、鎮守府で提督をしていたとは思えない。艦娘の扱いなど、どの鎮守府でも似たりよったりであるのに、それを知らない。
ではいったい、どこであのような砲術を身につけることができたのか。
「長門、失うものはあるか?」
提督が何者か、物思いに耽っていると、不意に問われた。
失うもの、私が持っているものは何もない。
「この身のほかには……いや」
とんでもないことを口走りそうになった。私には大切なものがあったではないか。
「提督と、彼女たちだけは失いたくないな」
「そうか。じゃあ……」
提督の顔が歪む。どのような人生を過ごせば、こんな表情ができるのだろう。虚ろなような、獣のような、あるいは……機械のような。
「いづれ、大本営を焼き尽くす。付き合わないか?」
恐ろしくも甘い誘いに、私は乗ることにした。