私達はベリカ遺跡の前に集まっていた。
メンバーは私と卍エクスカイザー卍、シャルロット、vアルマ姫vだ。
前のID同様、事前にスマホを受け取り、ディリスタさんがアドバイスしてくれる形だ。
どうやらvアルマ姫vとシャルロットはこのIDの経験があるらしく、多少安心してプレイ出来そうだ。
「俺、なんか緊張してきた。」
珍しく弱気な卍エクスカイザー卍。
アイテムや装備の確認を忙しなくしている。
「タンカーなのですから、しっかり働いてもらわないと困りますわよ?」
「大丈夫、そんなに難しくないから。」
「お、おう……頑張るぜ。」
三人のやり取りを見ていると、少々微笑ましく思う。
「そこでニヤニヤしてる貴方もですわよ!」
「わ、わかってるよ!」
しかしこのvアルマ姫v……
なんというか、苦手だ。
もしかして同族嫌悪なのかな?
そう考えながら遺跡の中へと足を踏み入れる。
―――
――
―
”ベリカ遺跡1F”
ポップアップが表示される。
辺りを見渡すと、ほぼ瓦礫だ。
壊れたエレベーター、穴の開いた壁、草木の生えた自販機。
遺跡、という表現からある意味遠い風景でもある。
しかし文明が滅びたこの世界では、これこそが遺跡なのだろう。
”XRPPP!”
電子音のような音が聞こえる。
それと共にガシャガシャと重い金属が歩いてるかのような音だ。
「来たわね。」
顔を出したのは4足歩行のロボット3体だ。
事前にディリスタさんから説明が合った通り、広い索敵範囲のアクティブモンスターというわけだ。
”侵入者を排除”
恐らくこの施設のガードロボットだったのだろう。
しかし、今は倒す!
「いくぜ皆!」
勢いよく剣を抜き盾を構える卍エクスカイザー卍。
皆もそれぞれ武器を構える。
「”ガッツ””リジェネガード””ウォークライ”」
スキルに引きつけられ、ガードロボット2体が卍エクスカイザー卍に射撃し始める。
流石に本人の硬さと、リジェネガードによる自動回復でHPが減る様子が無い。
私は弓を構えて狙いを定める。
シャルロットも杖を構えた。
「”エレクトロショット”」
「”サンダーボルト”」
雷を纏った矢と雷の魔法が炸裂する。
1体が爆発し、もう1体は瀕死の状態まで削った。
レベルが私の方が上だが、やはり火力負けしているようだ。
「せいっ!」
ミリ残りの敵に卍エクスカイザー卍が止めを刺した。
仕事が無いとばかりに、vアルマ姫vはわざとらしい欠伸をしている。
「流石に弱点だけあって快適ね。」
「この調子で行こうぜ!」
全員武器をしまい、再び歩き始める。
まるで会社のロビーのような形だ。
次の階層に向かうためには階段を見つけて上るしかない。
「どうする? 敵を殲滅してから上る? それとも直で次の階層に向かう?」
「俺は殲滅していきたいな。」
「僕はどちらでも……」
「私はどっちでもいいわよ? 働くのは貴方達だし?」
卍エクスカイザー卍は殲滅、シャルロットとvアルマ姫vはどちらでも。
このIDは1階層のフロア自体は狭い。
やろうと思えばフロア全部の敵を引っ張る事も可能だ。
装備とレベルを考えても今の卍エクスカイザー卍なら耐えられるはずだ。
「よし、このフロアの敵全てを釣って来てもらっていいかな?」
「まかせとけ! ちょっと待ってな……」
そう言って走り出す。
待っている間に、罠を仕掛けて弓を構える。
広範囲のスキル、”スプレッドシュート”と設置スキルの”ポイズントラップ”だ。
”スプレッドシュート”はその名の通り、広範囲に攻撃するスキルだ。
しかし、その威力は通常攻撃の半分程度だ。
そこで”ポイズントラップ”の出番だ。
このスキルは範囲内に入った敵にDoTダメージを与えるものだ。
これで火力の低さはある程度補えるはずだ。
シャルロットも魔法の準備をしている。
恐らく”サンダーストーム”だろう。
広範囲に雷属性のダメージを与える魔法だ。
「待たせたな!」
大量の敵を引き連れて卍エクスカイザー卍が戻って来た。
やはりあの数を引っ張って来ただけあって、HPは半分まで減っている。
「やっと出番ですわね。」
vアルマ姫vが設置したトラップの中央に進み出る。
「”キュアオール”」
vアルマ姫vが唱えたのは、単体ではなく全体回復魔法だ。
HPの減っている卍エクスカイザー卍は意味があるが、私達には意味はない。
おそらく……
さっきまで卍エクスカイザー卍を追いかけていたモンスター達が、全員vアルマ姫vに向かって走り出す。
引っ張る事に精一杯だった彼が、”ウォークライ”をかけ直しているわけがない。
だから、わざとヘイト上昇値の高い全体回復魔法を使ったのだ。
「”スプレッドシュート”」
「”サンダーストーム”」
モンスター達が”ポイズントラップ”に嵌る瞬間に合わせてスキルを放つ。
矢の雨と雷の嵐が容赦無く敵を破壊していく。
ここまでくると快感に近い。
2射を撃つ必要も無く、敵は完全に消滅した。
何度も鳴るレベルアップ音が気持ちいい。
「なんか、俺の見せ場無くない?」
「私に花を添えた事は褒めてあげますわ!」
vアルマ姫vはさも自分が全部やりましたというようなドヤ顔っぷりだ。
彼が少々哀れだ……
「と、とにかく! この調子で上って行きましょ?」
このIDは全5階層。
まだ先は長い。
更に3階層と5階層のボスの二段構えなのだ。
前回のように上手くいけばいいが。
私達は2階層も同じように越え、3階層にやってきた。
何かの研究室のようで、巨大なカプセルのようなものが陳列している。
そして、目の前にはそれよりも一回り大きなカプセル。
しかも明かりが付いて、中で蠢いている――おそらくこいつがギガオークだ。
”ウーン! ウーン!”
けたましいサイレンの音が部屋に響く。
”対処レベル3に移行、ギガオークで対応せよ”
アナウンスの後、目の前の巨大なカプセルが開かれる。
羊水のような液体が漏れ出し、中からギガオークがゆっくりと這い出る。
「みんな、来るよ。」
「任せとけって! ”ガッツ””リジェネガード””ウォークライ”」
卍エクスカイザー卍はやる気満々だ。
「テキ……ハイジョ!」
ギガオークが巨大な腕を振り下ろす。
いつものように卍エクスカイザー卍が盾で受け止めた。
「”パワーブレイク””アーマーブレイク”」
スキルによる剣戟が決まる。
私はそれに合わせてスキルを放つ。
「”ブレイブショット”」
「”ファイヤボール”」
火の矢と火の玉がギガオークの腹部に直撃する。
もちろん攻撃の手は止めない。
「”シールドバッシュ”」
「”ピアシングシュート”」
「”ファイヤウォール”」
もう一撃それぞれスキルを放つ。
vアルマ姫vは武器を構えて暇そうに待機している。
ヒーラーは転職するまで攻撃、補助の魔法を覚えないなんとも面倒な職らしい。
回復が必要になるまでは暇だろう。
さあ、二撃目!
「”ブレイブショット”」
卍エクスカイザー卍から右横にずれて、CTの終わった”ブレイブショット”を放つ。
火力では負けてもスキルの回転はアーチャーの方がキャスターより上だ。
そのまま攻撃を続ける。
タゲは確実に卍エクスカイザー卍がとっていてくれるため、安定して攻撃していられる。
前回のIDと比べれば大きな成長だ。
ディリスタさんと特訓でもしたのだろうか?
攻撃を続ける事3分、もうすぐボスのHPが半分を切ろうとしている。
そろそろだ……
皆が攻撃の手を止めてボスから離れる。
それを確認してから、私はそのまま相手を見据える。
「”ブレイブショット”」
スキルを放ちボスのHPを削る。
半分を切ったのを確認して、急いでボスから離れる。
”うがぁぁぁぁ!”
ギガオークが激しく吠える。
「さぁ来いよ。」
盾を構えて敵を見据える卍エクスカイザー卍……
ギガオークは大きく腕を振り上げ、思いっきり地面に叩きつけた。
すさまじい音と共に床が崩壊していく。
それは衝撃波だ、強力な腕力から生み出される攻撃。
衝撃波は、先ほどまで私達が闘っていた範囲まで吹き飛ばした。
「くっ……」
先程の衝撃波で彼のHPも半分持っていかれていた。
「みんな、一気に削り切るわよ。」
私はそう皆に伝えながらボスに向かって駆けた。
「”ヒール”」
回復魔法で卍エクスカイザー卍のHPが回復する。
すぐさま立ち上がり、盾を構え直す。
「”ガッツ””リジェネガード””ウォークライ”」
彼は即座にスキルを使い、回復魔法でのヘイトの移動を防ぐ。
ギガオークは、彼を睨みつけ両腕で何度も殴りつけ始めた。
ギガオークはHPが半分になった瞬間に広範囲の攻撃を行ったのちに暴走状態になる。
暴走状態になると防御が低下し、攻撃力が上昇。
更に、タゲ相手に強力な連続攻撃を使い続ける。
「俺が耐えてるうちに宜しく頼むぜ!」
こうしている今も彼のHPは削られる。
盾が倒れるのが先か、削れ切る方が先か……勝負だ。
「皆さん……行きます。 ”ヘイスト”」
シャルロットが補助魔法をかける。
”ヘイスト”はPTメンバー全員のCTを短縮する強力な補助魔法だ。
通常時でDPSが上がり過ぎて、タゲをとってしまう危険性がある。
しかし、今の状況下ではかなり有効的なスキルである。
「”パワーブレイク””アーマーブレイク”」
「”ブレイブショット”」
「”ファイヤボール”」
全員で次々とスキルを放つ。
彼も防御の合間に攻撃する事を忘れていない。
「これで! ”ブレイブショット”」
私の放った攻撃でギガオークのHPが0になる。
そのまま大きな音を立てて床に倒れた。
いつものようにギガオークの姿は溶けていき、宝箱だけが残されている。
皆で集まりアイテムの物色を始める。
「ねぇ卍エクスカイザー卍、いつの間にそんなに動けるようになったの?」
「ん、ディリスタさんに色々と鍛えてもらったんだよ。」
「ほんと見違えるようね、これなら安心して戦えるわ。」
そう言って微笑むと、彼は照れくさそうに顔を背けた。
こういう所は変わらないらしい。
むしろ可愛らしくて……私は何を考えているんだろ。
これではまるで――
まるで、恋する女の子のような。
そんなわけがない。
私はゲームの中であって、現実では僕なんだ。
ちょっと入り浸りすぎてスイッチの切り替えが悪くなっているのだろうか。
「この弓、oリナoさんが使えそうです。」
「あぁ、ありがと。」
変な考えを頭を振って忘れる事にする。
シャルロットから受け取った弓を確認する。
さすがID産、レアリィティユニークの武器だ。
「準備出来たらさっさと行こうぜ、この調子で5階もやっつけてやる!」
さっきの戦闘で自信がついたのか、彼はやる気に満ち溢れている。
他の皆もある程度整理と回復が終わったようだ。
私も青ポーションでMPを回復して、装備の付け替えも終わらせる。
行こう、最上階へ。