これで4度目の階段だ。
なかなか4階の殲滅に時間がかかり、多少の疲れが出てきている。
この場合の疲れという表現は難しい。
キャラクターの疲弊ではなく、長時間のプレイによるプレイヤー自身の疲れだ。
フロア自体はそう広くはないのだが、やはり場慣れしていないせいか。
「ついたわね……」
階段を上り終えると、研究室のようなフロアに出た。
ここではボスの防衛装置との戦いが待っている。
あと数歩前に進めばイベントが……
ザッ―――ザー――
一瞬視界にノイズが入る。
今のは?
「今のなんだよ。」
考えていた疑問と同じ言葉を卍エクスカイザー卍が言う。
「もしかして、みんなも?」
シャルロットは無言で頷き、vアルマ姫vもめんどくさそうに返事をする。
―――ザー――ザザッ――
まただ。
ノイズは更に酷くなっていく。
グラフィックがバグったように形が一部崩れている。
「さすがにこれ、変じゃないか?」
「ぼ、僕、運営に連絡しますね……」
シャルロットがGMコールしようとしたその時だ。
”標的の危険レベル最大、ハイジョハイジョ……”
先程と違い、若干音声の乱れたアナウンスが流れる。
もしかしてボスが?
大きな駆動音を立てながら、奥から戦車の形をした防衛装置が現れた。
しかしその見た目は、wikiで調べたものとは多少違っていたのだ。
本来とは違う赤いカラーリング。
両サイドにはよく分からない大砲が2門。
レーダーみたいなアンテナが上部についていた。
「えっと、前来た時もこんな感じだったの?」
「そんなわけないでしょ!」
そう怒りながら、vアルマ姫vはスマホでディリスタさんにも怒鳴りつけている。
「”ともかく、みんなIDを脱出するんだ、これは何かおかしい”」
スマホからディリスタさんが叫ぶ。
そう、これはおかしいんだ。
IDからの撤退が出来るのは私だけだ。
「IDから撤退!」
音声認識でコマンドが起動する。
しかし――
”システムエラー”
そうポップアップ表記された。
「どうしたoリナo!」
「撤退出来ないのよ!」
私の一言で皆が動揺し始める。
”ハイジョハイジョ”
防衛装置がこちらに向かって動き始める。
シャルロットも運営と繋がらないのか、首を横に振った。
「こうなったら、こいつを倒してクリアするしかないわね。」
「マジで?」
「やるしかないわよ、他に方法が無いわ。」
そう言って弓を構える。
倒せばクリアになって出れるはず、ただ何が起きてもおかしくない。
本当にこの洗濯でいいのか?
「分かったよ、皆行くぞ。」
卍エクスカイザー卍も納得して武器を構えた。
皆もそれに続く。
「なんか、怖い……」
「流石に冗談がすぎますわよ。」
恐らくwikiやディリスタさんの情報通りにはいかないだろう……
――それでも。
「”ガッツ””リジェネガード””ウォークライ”」
いつも通り攻撃前の準備を整える。
”ターゲット攻撃カイシ”
長い砲身から主砲が放たれる。
砲弾は真っすぐ卍エクスカイザー卍に飛んでいく。
「っ!」
あまりの衝撃に本人も驚いていた。
彼は確かにガードをしていた。
なのに――
「ちょっ…… ”ヒール”」
その砲弾は易々とHPを1/3削ってみせたのだ。
「”パワーブレイク””アーマーブレイク”」
慌ててデバフを入れる卍エクスカイザー卍。
「だめ、デバフは無効化されてる! ”エレクトロショット”」
「”サンダーボルト”」
弱点である雷属性で攻撃を始める。
先程彼が放った攻撃は、ダメージを与えるだけでデバフが効いていないようだった。
もちろんデバフ無効などwikiに書いていなかった。
「卍エクスカイザー卍いける?」
「な、なんとかな。」
盾を構えて次の攻撃に備える。
防衛装置はサイドのランチャーからミサイルを撃ち込んでくる。
そのまま卍エクスカイザー卍に飛んでいくと思ったが、空中で分散して降り注ぐ。
当然回避等間に合うはずもなく、全員が受けてしまう。
被害は――1/4程度削られただけだ。
まだ立て直せる。
「”強制ログアウトしてでも脱出するんだ!”」
先程まで音信普通だったスマホからディリスタさんが叫んでいる。
ん、強制ログアウト? そんなものがあるのか?
「それどうやるんですか! ”エレクトロショット”」
スキルを放ちながら通信に答える。
「”身体に悪影響があるから推奨されていないが、今はそんな事を言っている場合じゃない”」
聞こえてくるディリスタさんの声は、明らかに焦っている。
「みんな、脱出する方法があるみたい。」
「ならその方法を早く頼むぜ……」
ヒールしてもらってるとはいえ、彼のHPの減りは激しい。
おそらく、長く戦線を維持する事は出来ないだろう。
「”みんないい? 強制ログアウト起動の音声がコマンドになってるの。 後強制ログアウト時に戦闘不能にならないで。”」
声がディリスタさんではなく、ユキさんのものだ。
どうやら異変を聞いて来てくれたらしい。
戦闘不能にならないという部分が気になるが、今はやるしかない。
「私がタイミングをカウントするわ、皆合わせてね。」
焦る気持ちを落ち着けて、目の前の敵を見据える。
「5!」
防衛装置の主砲が卍エクスカイザー卍に放たれる。
彼はそれを盾で受け止めるが、HPが半分以上削られる。
「”エクスヒール”」
「4!」
vアルマ姫vの回復魔法でHPが8割まで回復。
牽制のために私は通常攻撃を繰り返す。
新しく習得したスキル”ダスター”は、一定時間自分の攻撃全てに確率行動キャンセルを付加するものだ。
上手くいけば動きを止められるはず。
「3!」
「”パワーブレイク”」
そういえば、先ほどからシャルロットが動いていない。
「2!」
横目で確認すると、何やら動きが止まっている。
これはまずいのではないか?
防衛装置が再び、全方位ミサイルを撃ち込んできた。
「1!」
周りに誰も気づく者はなく、今ここでカウントを止めるわけにも……
「0!」
『強制ログアウト起動!』
その瞬間視界が歪んだ。
景色がドロドロに溶け、足場が急に無くなったかのような感覚に襲われる。
意識が遠くなる中、私が最後に見たのは、
――ミサイルが降り注ぐ中に立つシャルロットだった。