進化するVR世界
真っ暗な部屋。
非常用の明かりが薄っすらと部屋を照らしている。
静かな機械音が響くだけで、人の気配はない。
「……」
しかし、人ならざる者はそこにいた。
その風貌はとある女性に酷似していた。
彼女が腕を振り上げると、辺りに無数のモニターが表示される。
それはエレウシスオンラインの各所の風景だった。
「再現率99.874%、データ更新開始。」
その声はどこか機械的で、淡々と言葉を紡ぐ。
「イレギュラーの監視を継続、必要があれば接触。」
彼女は目を瞑り何かを思案する。
何かを決意したように、彼女は言葉を紡いだ。
「――フェイズ2に移行。」
それに答えるように、周りの機械音が激しくなった。
「本日発売されたVRヘッド2.0! 購入者が長蛇の列を作っております。」
テレビのニュースはVRヘッド2.0の話題で持ち切りだ。
以前に優さんが言っていた仮想現実の再現。
それを実装したのが2.0だ。
そして、目の前のテーブルには、そのVRヘッド2.0が置かれている。
優さんが気を利かせて僕に送り付けてきたのだ。
今日は学校は休もう、どうしてもすぐに試したい。
僕は箱を開けて、VRヘッド2.0を取り出す。
今までの物は、顔全体を覆うヘルメットのような形状だった。
今回の2.0は……チョーカー?
これもうヘッドって言わないんじゃないの?
「えっと、首につけて……、起動時はベッドに横になってスイッチを入れる?」
そこは一緒なんだな……そう思いベッドに横になる。
そのまま2.0の電源を入れる。
ふっと、以前にも経験した感覚に襲われる。
視界が歪み溶けていく。
あの時と同じだ……
そして、そこから世界が再構築されていく。
自分の部屋と全く同じ外見だ。
違うとすれば……
自分の外見がoリナoと全く同じになっている事だ。
恐らくユキさんが設定しておいたのだろう。
ゲームと同じ感覚でメニューウィンドを表示させる。
設定の項目を探していくと、外見設定の項目を発見する。
しかし――
「”この項目はロックされてまーす、残念でした!”」
ユキさんの声のシステム音声が再生された。
「なんでさ!」
悲痛は私の叫びが部屋に木霊した。
大きく深呼吸して心を落ち着ける。
こうなっては仕方ない、嫌な予感が的中してしまっただけだと諦めよう。
再び設定関連のウィンドウを眺める――
なるほど、こうやって部屋の内装を……
試しにタッチしてみると、一瞬で部屋がマンションの一室から昔のような木造建築の部屋に変わった。
他にもデフォルトでインストールしているものを色々試してみる。
タッチする度に部屋はあらゆるものに変化した。
「こうやって模様替えして好みに変えるわけねぇ……」
ちょっとこれは面白いかもしれない。
”PPP”
もう少し色々弄ってみようとすると、通知音と共にメッセージがポップアップされた。
”来客者です、許可しますか? (訪問者:ユキ)”
どうやらユキさんが遊びに来たようだ。
模様替えは終わってないが仕方ない。
「許可。」
その声の後、玄関で物音が聞こえる。
ネットの世界でも律儀に玄関から入ってくるようだ。
「楽しんでる?」
楽しそうに笑いながら、今回の元凶であるユキさんが現れる。
ユキさんのアバターは、私のと同じでエレウシスオンラインと同じグラに現代風衣装を着せたものだった。
「ユキさん……」
「どうしたの? そんなに眉間に皺寄せて、可愛い顔が台無しよ?」
一発殴りたい……
タダで2.0を譲り受けた身分でなければすぐにでも。
「それよりも、まだ部屋の設定してないわけ?」
そう言うとユキさんが空中で何かをタッチし始めた。
「ちょっと、何して――」
ユキさんの操作に合わせて部屋が変わっていく。
だから、なんで貴方にその権限があるのさ!
「こ・れ・で・よし!」
「……」
抵抗も空しく、ユキさんの好きなように部屋を変えられてしまった。
レースが多い白のカーテン、何故かベッドはダブルベッド。
可愛い小物があちこちに置かれ、乙女のような部屋になってしまっている。
「可愛い子の部屋はこれくらいしないとね。」
「ユキさん……」
「あ、反論は禁止ね、もう設定ロックしたから。」
どうやら慈悲はなさそうだ……
「それはそうと、早速エレウシスオンラインにログインするわよ。」
「そ、そうですね。」
今日のユキさんは、なんだかやる気に満ち溢れている。
2.0の発売でテンションが上がっているのだろうか?
「どうやってログインするんです?」
「音声コマンドを登録しておけば、好きな言葉で入れるわよ。」
そんな機能まであるのか、なんて便利な。
「音声コマンドはマジカルoリナoちゃん華麗にログイン♪ でいい?」
「いい加減にしないと怒りますよ……」
「冗談よ、じょーだん。」
とても冗談に聞こえないから困る。
音声コマンドの設定を終え、早速試してみる。
「”反転する世界”」
音声認識でエレウシスオンラインが立ち上がる。
まわりの風景が光で覆われていく。
その光景がまるで流れ星のようで綺麗だ。
衣装もエレウシスオンラインの物に徐々に書き換えられ、風景も見覚えのあるエルシャの町になった。
「さてと――分かってると思うけど、今日からはパワーレベリングするわよ。」
「はい、お願いします。」
そうだ、私は強くならなければならない。
その時のために――