「今日はこれくらいにしましょうか。」
「ありがとうございます。」
レベルを確認すると45レベルに到達していた。
この短期間でここまでレベルが上がるとは思っていなかった。
「50レベルになったら遂に転職ね。 ちなみに職はもう決めたの?」
「はい、ビーストマスターになろうかと。」
「ほほぅ……?」
エレウシスオンラインでは、50レベルに到達すると上位職に転職するクエストを受ける事が出来る。
ファイターはグラディエーターかシールダーに。
アーチャーはスナイパーかビーストマスターに。
キャスターはエレメンタラーかサモナーに。
ヒーラーはプリーストかビショップに。
アーチャーの選択肢であるこの2職の特徴は……
スナイパーは、より火力を追及した上位職だ。
今まで使ってきた属性矢の上位版を習得し、更には範囲版まで習得する。
逆に足止めやデバフ系は全く習得しないし、スキル中動けないというデメリットがある。
ビーストマスターは、その名の通りにパートナーの獣と一緒に戦う。
数種類ある中からパートナーを購入し、餌代もかかるため少々金食いだ。
スナイパーと比べても火力は控えめで、今までに比べると物足りない部分もある。
しかし、そこを埋めるのがパートナーの存在とデバフだ。
犬系のパートナーは火力として共に戦い、鳥系のパートナーは相手に状態異常を与えながら攻撃してくれる。
「なかなか面白い選択ね、まぁ少人数で動くなら正解かもね。」
そう、ソロや低人数ならば足の止まるスナイパーは勝手が悪い。
私もその考えに至っての選択だった。
「この勢いなら明日には50になれますよね?」
「そうね、ただ少し長いクエストだから休日にやるのがベストね。」
「了解です。」
やる事も終わり、そのまま町に戻ろうとするが……
「あ、ちょっと待ってね。 明日リクセント城下町に来てもらって大丈夫?」
「ん? 大丈夫ですけど?」
ユキさんが少々困った顔になっているのが気になる。
何か用事でもあるのだろうか?
「ごめんね、じゃあ明日INしたら直でお願いね!」
「はーい。」
こっちの疑問をよそに、そそくさと町にワープしてしまう。
いったい何があるのだろうか?
翌日、言われた通りリクセント城下町へとやってきた。
リクセントは、このエレウシスオンラインの世界での中心とも言える場所だ。
町の奥にはリクセント城がそびえ立っている。
城、という名称にはなっているが実際は違う。
その外見はファンタジーに出てくるような外見ではなく、遺跡という表現が正しい。
恐らくは、元々国会議事堂だったのではないかと思う。
「遅いなぁ。」
ユキさんがINしているのは確認済みだが、なかなか現れない。
いつまで待っていればいいのだろうか……
「お、いたいた。」
「ん?」
そこに現れたのはユキさんではなく、以前に見た大柄の女――ドレイクさんだった。
「うむ、時間通りとは関心だ。」
「えっと、これはどういう?」
状況がつかめない中、見知らぬ男二人に両腕を掴まれる。
「連行するよ。」
「どういう事!」
頭が混乱したまま、連れていかれてしまった……
逃走しないのが分かってもらえたのか、やっと拘束から解放されて彼らについて行く。
もしかしたこうなる事自体、ユキさんが想定した事だったのだろうか?
確か昨日は困った顔をしていたような……
連れてこられたのは町のポータルだ。
ドレイクさんは端末を操作してこちらに振り向く。
「今アンタをゲストとして登録したから、このままウチのギルドルームに来てもらうよ。」
「それって紺碧の猟団のギルドルームですよね……?」
「当たり前さね! 他にどこがあるって言うんだい?」
うわぁ、ですよねぇ~
まさかそんなとは思っていたけど、何故こうなった。
覚悟を決めてギルドルームに入室する。
――紺碧の猟団のギルドルーム
これこそはファンタジーの城がそびえ立っていた。
恐らくギルドマスターの趣味なのだろう。
草原を歩いて城へと向かっていく。
あちこちでメンバーと思われるプレイヤー達が互いに戦っている。
「あぁやって個人戦で毎日鍛えてるのさ。 ウチに弱い奴はいらないからね。」
初心者の自分でも分かる程の気迫が伝わってくる。
手前側の男が大剣を握り直す。 その額には汗が一筋伝う。
奥側の男は逆に表情に変化を感じられない。
先に動いたのは手前側の男だ。
勢いをつけて大剣を横薙ぎのに振るう。
奥側の男はそれを易々と大剣で受け流して弾く。
そのままの勢いで懐に飛び込み、顎に向かって大剣の柄をお見舞いする。
そのまま手前の男はスタン状態になり、奥側の男が正面から袈裟斬りにした。
「おや、やけに真剣に見ているね。」
「いえ、ちょっと気になって。」
「道草も程々にして、ウチらのボスに会ってもらうよ。」
ボス――つまりギルドーマスターの事だろう。
緊張で少し体が強張る。
「なーに、取って食うわけじゃないんだ。 さっさと行くよ。」
「は、はい。」
案内されたのはファンタジー物によくある王の間という雰囲気。
その玉座に一人の男が鎮座している。
やや長めの金髪のエルフ、これまたしっくりくるキャラメイクだ。
「よく来た。」
男は玉座から立ち上がると、こちらに歩いて近寄ってくる。
エルフ族なので、ドレイクさんに比べると線が細い。
しかし、なんとも言えない空気を纏っている。
近づく度に空気が重くなるようだ……
「俺の名はアレン。 このギルド、”紺碧の猟団”のギルドマスターだ。」
「……oリナoです。」
「うむ、その名はドレイクより聞いている。」
「えっと、どうして私をここに?」
呼ばれた理由は全く見当もつかない。
そもそも言い出したユキさんはどこにいるのだろうか?
しかし、自分の問いへの返事は意外なものだった。
”アレンさんより個人戦を申し込まれました”
突然目の前に現れたシステムメッセージ。
申請した本人は、ずっとこちらを見据えている。
断れる雰囲気じゃないよね?
そもそも100レベル相手とか瞬殺じゃ……
「承諾します……」
音声認識で反応し、カウントダウンが始まる
”5……4……”
アレンは盾のみを構えた。
「攻撃はしない、俺に一太刀浴びせてみろ。」
そう言い放った。
”3……2……”
いやいや、そもそも私弓なんですけど!
一太刀っておかしくないですか!
”1……”
しかし、無情にもカウントは――
”試合開始!”
「”パワーショット”」
まず初撃を放つ。
しかし、簡単に盾で防がれる。
攻撃はしてこないが、守りの態勢は完璧のようだ。
さあ、次はどうする?
対人で使えそうなのは……”ダスター”で行動キャンセルを狙うか?
ガードしてもヒット扱いで、行動キャンセルの効果が出るかどうかだ。
「”ダスター”」
10秒間、自らの攻撃に行動キャンセルが付加される。
更にここから――
「”クイックショット”」
昨日覚えたばかりの”クイックショット”。
これは対象に向けて矢の3連撃を行く攻撃スキルだ。
アレンさんは3本の矢を剣で弾いた。
盾で防がずに剣で弾いたのだ。
つまり、防御時のヒットでもデバフは効果がある証拠だ。
「む?」
私は通常攻撃をしながら右側に駆ける。
アレンさんの利き手は右、ならばアレンさん側から左側に攻撃すれば弾きにくく出来るはずだ。
”ダスター”の残りCTが20秒、なんとかかく乱して本命を叩き込む。
とにかく右に回り込むんだ。
そのまま通常攻撃を重ねる。
やはりダスターの効果が切れた後は、盾でも防いでいる。
「”ダスター”」
もう一度スキルをかけなおす。
狙うは死角から……!
「”クイックショット”」
この角度なら間違いなく盾で防ぐしかないはず!
矢の速度を考えて、左に振り向いてから弾く時間はない。
アレンさんは一瞬微笑を浮かべる。
「”セイントウォール”」
アレンさんの周り光の壁が囲う。
3連の矢は光の壁に触れ消滅した。
分かっていた、何かしらの対策はあると。
だからこれは賭けだ。
最初から勝ち目なんてない、しかし少しでもスキが出来たなら……
私は矢を放ってすぐに駆けていた。
恐らくアレンさんは矢の方に意識が行っているはずだ。
ならば、今この一瞬だけがスキになるはず。
矢を放った場所から更に右手側、アレンさんから見て左背中側に向かって駆ける。
予想通り先程の矢は止められた、これがラストチャンス。
「っ――!」
ガキン!
っと乾いた金属音が響いた。
私のラストアタック――背後から弓で殴る攻撃は、しっかりと盾で受け止められていた。
この人、後ろに目でもあるの……
「見事だ。」
「え……?」
”You win!”
目の前に、私の勝利を知らせるシステムメッセージが表示された。
でも私の攻撃は確かに防がれた。
アレンさんの言う一太刀には含まれないのでは?
「そのレベルでここまでやれるなら合格だ。 元より一太刀等無理だと分かっている。」
「はぁ……」
なんだか引っかかりのある言い方だが、どうやら私は合格らしい。
「oリナo、俺のギルドに入る気は無いか?」
「えっ……えぇ!?」
―――
――
―
「なるほど、そんな事になったたわけね。」
ポータルの前で待っていたユキさんに、今までの経緯を話した。
「ユキさん……。」
「今度ケーキ奢るから! ゆるして――ね?」
「……」
分かっててやってる人間の言葉とは思えないが、まぁケーキは食べたいのでひとまず保留しとこう。
「まぁ、そろそろ青空教室も卒業だし丁度いいんじゃない?」
「そうですね……。」
青空教室はあくまでも初心者支援ギルドだ。
ある程度のレベルに達したら卒業しなければならない。
条件1、50レベルになって転職を済ませる事。
条件2、サブマスターをやり通す事。
現状だとユキヤさんがサブマスターの職務をやっているため、私の場合の条件2はパス出来るようだ。
ディリスタさんも私のレベル上げの速さは予想外だったらしい。
この調子だと一緒に卒業となるかもしれない。
「とりあえず明日で50に上げちゃいましょう、いいわね?」
「わかりました。」
一瞬彼の顔が思い浮かんだが、頭を振って掻き消した。
今は迷ってはいられないのだから。