「だるい……」
その一言にすべてが凝縮されていた。
ひたすらお使いクエの連続、実にめんどくさい。
○○を集めて来い、○○に話しかける――
「あぁもう……、いつまでこんなクエ続けるのさ。」
うんざりしながら次のNPCの元に辿り着いた。
「いやぁありがとう、君に知りたい情報だが――。」
ん……? 会話が進まない?
「だが……だが……。」
壊れた玩具のようにNPCが口をパクパクさせながら、同じ言葉を繰り返している。
バグかなぁ……
とりあえずしばらく待ってみようか。
「だが……彼方……来訪。」
「ん?」
「東……セイル……マスター。」
何か言っている? 東? セイル?
地図を開いてみる。
そのまま現在地から指を東側に動かしていく……
「セイルの町……?」
「気を付けてゆくのじゃぞ。」
急にNPCが正常に戻りクエストが完了扱いになる。
次のクエストの目的地がセイルの町に行くに変更されている。
「うーん、大丈夫なのかなぁ。」
少し心配だが、セイルの町に向かう事にした。
「ここか……。」
セイルの町の裏路地という雰囲気だ。
プレイヤーもNPCもいない。
本当にここで合っているのだろうか……?
軽く回りを見て回るが、人一人見つからない。
近くにあった木箱の上に腰かける。
「待っていました。」
「え?」
突然目の前から女の人の声がした。
ふと顔を上げると、綺麗な長髪の銀髪女性が立っている。
あぁ、見覚えがある。 間違いなくビーストマスターのクラスマスターだ。
転職のためには、いくつかの前提クエストをクリアしなければならない。
そうするとクラスマスターと出会うイベントを起きるらしい。
「ビーストマスターになりたいのでしょ?」
「はい、そうです。」
「では、町の東側にある煌きの洞窟で待っています。」
そう言うと彼女は突然姿を消した。
どうやら問題なくクエストは進行しているようだ。
ダンジョンに向かうならばそれなりの準備も必要だろう。
所持しているアイテムを確認する――
ポーション系列のストックは問題なし、武具もさっき修理を終わらせた。
「大丈夫ね、行きますか。」
地図で再度場所を確認して町を後にする。
――先程座っていた木箱がノイズのようにグラフィックが歪んでいるのも気づかぬまま。
煌きの洞窟はフィールドダンジョンと呼ばれるカテゴリーだ。
インスタンダンジョンとは違い、他のプレイヤーも入ってくるタイプだ。
メリットとしては入場制限が無いため自由に行き来出来る事。
デメリットは混雑するとまともな狩場として機能しない事だろうか?
洞窟の入口に辿り着くと、ビーストマスターが待っていた。
「よく来ました、私はビーストマスターのアルカ、試験の内容は――。」
まるでビデオの再生を一時停止したかのように突然アルカの動きが止まる。
ラグ……? 今日はなんだか色々ひどいような。
かと言って自分ではどうしようもないのでしばらく待つしかない。
「貴女、本当にビーストマスターになりたいのかしら?」
「ん……?」
直ったのかNPCが再び動き出す。
「ビーストマスターはその名の通り獣を使役します。扱いきれなければ殺される事もあるのですよ?」
いやいや、ゲームでそんな事があるわけがない。
そんな仕様なら誰もビーストマスターになんて転職しない。
「この洞窟にいるアンデットは、皆扱いきれない自らの相棒に殺された者達なのですよ。」
嫌な感じの笑顔でそう語るアルカは、何か不気味な雰囲気を醸し出していた。
「それでも、ビーストマスターになりますか?」
「なるって言ったらなります!」
NPC相手に、少し感情的に答えてしまった。
なんだろう、生理的にイライラするというか……
「よろしい、ならばこの煌きの洞窟の地下3階を目指しなさい。 そこに貴女の相棒となるべき獣がいます。」
あれ、確か卵で貰えるんじゃなかったっけ?
そんな疑問も出てくるが、調べた情報が古かったのかもしれない。
2.0発売に合わせて、エレウシスオンラインもアップデートされたわけだし……
「ではいってらっしゃい、無事に帰れる事を祈ってますわ。」
私はアルカに振り返る事もせず、そのまま洞窟の入口に向かった。
そういえば、ビーストマスターのクラスマスターなのに相棒を連れてなかったわね。
そんな疑問が浮かんできたが、特に深く考える必要もないだろうと考えを掻き消した。
煌きの洞窟と呼ばれる所以は、おそらくこの鉱石の光のせいだろう。
まさに自然の松明というわけだ。
それに反して中はアンデット系の敵ばかりが徘徊している。
”この洞窟にいるアンデットは、皆扱いきれない自らの相棒に殺された者達なのですよ”
嫌でも先程の言葉を意識してしまう。
どうせただの設定だって……
「”スプレッドシュート”」
ある程度敵を集めてから範囲殲滅する作業を繰り返して道を開けていく。
マップも広めで、最短ルートで行こうと思っても地味に時間がかかりそうだ。
”aAAaa!”
不気味な唸り声をあげてこちらに襲い掛かってくるスケルトン達。
何故か自分に集まってきているような気がする。
兎に角この敵を乗り越えて階段に向かわないと。
”オマエ……ナカマナル……”
「うげ、喋った。」
イベント仕様なのか不気味なセリフを言ってくる。
手あたり次第”スプレッドシュート”で処理していく。
”オマエモ、コウナル”
”サカラッテモムダ”
「勘弁してよ! ”クイックショット”」
手を伸ばして向かってくるスケルトンの頭を撃ち抜く。
本当に、これと転職に何が関係するのだろうか。
なんとかスケルトンの山を潜り抜け、地下二階へと辿り着いた。
このフロアにも奴らが湧いていると考えるとゾッとする。
軽く辺りを見回すが、敵の姿は見えない。
ほっと胸を撫で降ろし、次の階段の方向を目指す。
アイテムの残数を確認してみると、思った以上に消費している。
この階ではなるべく消費を抑えたい。
少し開けた場所にでると、上の階とは違ったモンスターが徘徊していた。
ゾンビ犬、怪鳥、キメラ、どうやら今度は動物パラダイスのようだ。
幸いこちらにはまだ気づいていない様子である。
この広間を直進した方が階段へは近い、しかし交戦を避けて迂回するという手もある。
さあどうする――
私はそのまま前に一歩踏み出した。
弓を構えて正面を見据える。
やや左よりに向かって駆ける――
「”ピンポイントシュート”」
目の前にいるゾンビ犬に”ピンポイントシュート”を当てて足を遅くする。
この位置のまま進めば右側に徘徊しているキメラは反応しないはずだ。
広間の出口に近づいていく。
このままいけば……
そう思った矢先に嫌なものが視界に入った。
出口側の前にもう1体キメラがいたのだ。
こんなことなら双眼鏡を買っておくべきだった。
私は一旦足を止めて弓を構える。
「”ピンポイントシュート””クイックショット”」
キメラの状態異常攻撃は厄介だ、近づかれる前に撃破する!
それに遅れれば後ろのゾンビ犬に追いつかれてしまう事にもなる。
「”パワーショット””ブレイブショット”」
更に攻撃してダメージを重ねる。
あと1撃で倒せるのを確認し、再び出口に駆ける。
CTがあと3秒、接触前にキメラを倒せる。
3――2――1――
「”クイックショット”」
敵の範囲に入るギリギリで3連の矢を放つ。
綺麗にキメラに当たるとそのまま唸り声をあげて消滅した。
今の交戦で何匹かこっちに反応して追いかけて来る。
私はそのまま振り返らずに地下3階へと向かった。
地下3階をぐるりと一周してみたが、ボスどころか雑魚モンスターさえ見当たらない。
ここで何をしろというのか。
クエスト状況を確認しても煌きの洞窟の最奥に向かえ、のまま変化はない。
何か見逃しが無いかと、右側の壁伝いに進んでいく。
相変わらず鉱石の淡い光が辺りを照らしている。
そのまま進んでいると、鉱石の光が無い壁に気づいた。
近づいて触れてみると、後から埋めたような形跡がある。
「もしかして――。」
私は試しにその壁に矢を放ってみた。
壁にダメージ数値が表示され、HPバーが減少した。
やはりここで間違いないようだ。
そのまま通常攻撃を続けてHPを0にすると、壁が崩れて奥への道が現れた。
中はやや暗く、かなり狭い道だ。
迷う事のない一本道、ゆっくりと壁伝いに奥へと――
たまに頭をぶつけそうになりながらも進む。
やがて開けた場所へと抜けた。
地図では表示不可のエリア、俗に言う隠しMAPってやつだろうか?
「んっ!」
急に周りの鉱石が強く光り出す。
それは出迎えか、侵入者への警告か。
ただ一つ言えるのは、フロアの真ん中に鎮座している狼は、明らかに敵意を向けているという事だ。